GII/NII、B−ISDN 鬼木 甫   大阪学院大学  GII(地球情報基盤)/NII(国民情報基盤、全米情報基盤)とは、近い将来の双方向・広帯域通信技術を使う国家・地球規模の「情報(スーパー)ハイウェイ」である。光ファイバ・電波などの通信媒体だけでなく、家庭・オフィスの端末(パーソナル・コンピュータ(PC)、多機能テレビなど)、事業者機器(交換機・アンテナなど)、それらを制御するソフトウェア、ネットワーク上の多様なコンテンツも含む。そのための技術がB−ISDN(広帯域総合サービス用ディジタルネットワーク)である。  GII/NIIは、米国クリントン政権のアル・ゴア副大統領によって提唱・推進されてきた。ゴアは、大統領選挙直前の1991年に、NIIを提案して情報通信産業の支持を取りつけた。副大統領に就任後、93年2月に、NII「情報ハイウェイ」政策を提案し、同9月に「NII行動アジェンダ」、12月に「NII5原則」を発表した。  当初ゴア副大統領は、その父ゴア元上院議員が建設に盡力した「米国インターステイト・ハイウェイ(州間高速道路網)」と同様に、政府事業による「情報ハイウェイ」の建設を考えていた。しかし、政権発足後、アレンAT&T会長(当時)など産業界の意見にしたがい、建設主体は(電話会社などの)民間企業とし、政府の役割を制度・ガイドラインの整備や学校・病院などのネットワーク・アクセスの援助に変更し、これを「民間投資の奨励」として5原則の第1に掲げた。  1993年当時の米国では、光ファイバ幹線と既設のケーブルテレビ用同軸ケーブルを結合して、一般ユーザ用の双方向映像通信が早期に実現すると期待されていたが、高額の建設コスト・技術的不整合などの解決に長期間を要することが明らかになり、米国のNII施策は主として「教育・図書館・医療」分野の情報化に向けられることになった。  GII/NII政策の根底には、通信技術を活用して地球上のすべての人が情報を交換し、相互理解を深めることによって、国家・民族間の対立から抜け出し、貧困・失業・迫害・人種偏見などの問題を解決し、資源・環境問題にも対処できるとする考え方がある。米国型の民主主義・競争市場のシステムと米国の経済力は「情報パワー」で支えられており、この理念の地球社会への拡大は、(「ベルリンの壁が旧東ドイツへの情報流入によって崩された」のと同じように)人類の存続と繁栄に役立つと考えるのである。  1994年に入って、ゴアはITU(国際テレコム連合)会合でGIIを提案した。日本では93年に「日本版NII」の建設が話題になった。しかし日本では、当時「NTT経営形態の見直し(NTT分割)」問題が注目されていたこともあり、NIIは米国ほどの関心を呼ばなかった。96年時点では、郵政省・NTTが、それぞれ21世紀初頭までに日本の通信網を「光ファイバ化」する目標を掲げている。他方、EU諸国でも「情報ハイウェイ」建設のプロジェクトが作られたが、米国型GII/NIIに対する反発もあり、ゴア提案のGIIに対しては消極的賛成の態度をとっている。  1993年ごろから、米国、日本、EU諸国で「インターネット」の爆発的拡大が始まった。ゴア副大統領はインターネットを「GII/NIIのプロトタイプ」として積極的に活用し、正副大統領・ホワイトハウスのインターネットアドレスの公開、インターネットによる政府施策の配付や米国民の意見受入れを早期に実現した。  民主党政権は94年の中間選挙で敗退したが、それにもかかわらず同政権は共和党支配下の議会と協力して96年2月に「通信法」の大幅改正法案を成立させた。同改正法には、競争と相互参入の推進、ユニバーサル・サービスの実現、規制緩和などNII5原則の第2〜5項の内容が盛り込まれており、NII実現に必要な法律環境がおおむね整備された。96年秋にクリントン・ゴア政権は再選を果たした。97年1月の大統領就任演説にNIIの語句自体は含まれていないが、NII政策の内容、とりわけ米国社会の情報化や情報通信技術の活用による教育・医療の高度化などの目標が掲げられている。  なお、GII/NIIの技術的基盤であるB−ISDNは、音声・映像・データを含むすべての情報を53バイト長の「セル」単位で表現し、光ファイバとATM(非同期)交換機による効率的な即時双方向の情報伝送を目指しており、その仕様の標準化作業がITUの下部機構によって進められている。また仕様の一部が民間企業を中心とする「ATMフォーラム」によって拡張され、インターネットなどコンピュータ通信用の幹線(バックボーン)部分に採用されている。 ┌────────────────────────────────────────┐ │参考文献 │ │ │ │1.アルバート・ゴア他著、浜野保樹監修、門馬淳子訳『情報スーパーハイウェイ』 │ │  電通、1994年。 │ │2.アルバート・ゴア他著、浜野保樹監修・訳『GII世界情報基盤』ビー・エヌ・ │ │  エヌ、1995年。 │ │3.鬼木甫『情報ハイウェイ建設のエコノミクス』日本評論社、1996年。 │ │4.郵政省電気通信局電気通信技術システム課監修、財団法人日本データ通信協会編 │ │  『ATMネットワーク――その技術と課題――』リックテレコム、1995年。 │ └────────────────────────────────────────┘ ┌──────────────────────────────────┐ │NII/GII年表       │ │ │ │1991 ゴア上院議員がNII、「グローバル・ビレッジ」を提案  │ │1992 大統領選挙、アレンAT&T会長対ゴアの議論 │ │1993 ゴア副大統領「情報スーパーハイウェイ」NII5原則を提案 │      │1993 「NII行動アジェンダ」発表   │ │1994 ゴア副大統領GIIを提案(ITUブエノスアイレス会合)  │   │1995 GII協力アジェンダ(G7閣僚会議、ブラッセル) │ │1996 通信法改正、大統領再選 │ │1997 クリントン大統領就任演説 │ └──────────────────────────────────┘ ┌──────────────────────────┐ │NII(GII)5原則   │ │ │ │1.民間投資の奨励 │ │2.競争原理の確立と維持 │ │3.開かれたアクセス(市場相互参入) │ │4.情報格差の防止(ユニバーサル・サービス) │ │5.政府対応の柔軟性と即応性(規制緩和・同差控え等)│ └──────────────────────────┘ ┌─────────────────┐ │B−ISDNの構成要素     │ │ │ │1.映像・音声用双方向端末 │ │2.光ファイバ等による大容量伝送 │ │3.ATM交換機による高速交換 │ └─────────────────┘ 「GII/NII、B-ISDN」、『世界を読むキーワード4』(『世界』臨時増刊1997年4月、岩波書店)、pp.98-99。