TRIZ フォーラム: TRIZで特許を学ぶ

「TRIZで特許を学び、特許でTRIZを学ぶ」:

知識創造研究会・創造手法分科会での
共同研究の趣旨と紹介

中川 徹 (大阪学院大学)
2005年 9月11日 

 発表追加: IMユーザシンポジウム(2005琵琶湖) 2005年12月 2日

[掲載:2005.10.26]  [スライド掲載: 2005.12.21]

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編集ノート (中川  徹、2005年 9月11日)

ここに掲載するのは、本年5月に、<三菱総研グループ> エム・アール・アイ システムズ主宰の「知識創造研究会・創造手法分科会」において、小生が提案しました研究/学習プロジェクトの趣旨を紹介するものです。同研究会はMRIシステムズのユーザグループの研究会で、2分科会が隔月で会合を開き、ユーザの提案に基づき任意参加の共同研究をしてきています。本提案を基礎にして、創造手法分科会では、その後、3つのサブグループに分かれて活動をしているところです。ただし、本ページは分科会の公的な報告ではありません。小生の考え方を読者の皆さんに紹介して、同分科会の外でも同様な研究/学習を行なわれる人たちが増えるとよいと考えるものです。

以下の6編の文書から構成しています。

(1) 提案: 「TRIZで学ぶ100件の精選米国特許」の共同研究の提案 (骨子), 2005年 5月 6日 中川 徹。

(2) 提案メモ: 『TRIZで学ぶ100件の精選米国特許』の進め方について, 2005年 6月18日 中川 徹。

(3) Mannによる特許分析と紹介記事の例 (「オーセチック繊維」) , Darrell Mann: e-zine, Issue 38, May 2005;
中川 徹訳, 2005年 6月18日

(4) 考察: 『TRIZで学ぶ100件の精選米国特許』のためのスタイルについて, 2005年 6月18日 中川徹。

(5) 『TRIZで学ぶ100件の精選米国特許』のための特許分析の記述例 (1) について, 2005年 7月 6日 中川 徹。

(6) 現在の状況: 「知識創造研究会・創造手法分科会」の活動の状況, 2005年 9月11日 中川 徹。

なお、下記の別ページに特許分析の具体事例を掲載しますので、ご参照下さい。

(A) 特許分析: 『オーセチック繊維の製法: 縦に引っ張ると横にも膨らむ人工繊維』, 米国特許 4,878,320, Aldersonら, 分析: 2005年 7月 6日, 中川 徹。

 

編集ノート追記 (2005.12.21 中川 徹):

本ページの内容と上記 (A) の特許分析例とをまとめて、下記のように発表しましたので、そのスライドをPDFファイルで掲載いたします。

TRIZで特許を学び、特許でTRIZを学ぶ 〜知識創造研究会創造手法分科会での共同研究の提案の趣旨とその記述例」,
中川 徹, エム・アール・アイ システムズ主催, IMユーザシンポジウム (2005琵琶湖), 2005年12月2日, ラフォーレ琵琶湖 (滋賀県守山市)。スライド (PDF) [スライド20枚, 4スライド/頁。44KB]

 

 

ページの先頭 提案の骨子 提案メモ Mannの分析記述 分析のスタイル 特許分析の記述例 現在の状況 特許分析(中川)オーセチック繊維 IMユーザシンポ発表 (PDF)

 


(1) 提案: 「TRIZで学ぶ100件の精選米国特許」の共同研究の提案 (骨子)

2005年 5月 6日 大阪学院大学 中川 徹

知識創造研究会・創造手法分科会への提案骨子

発端と背景:

Darrell Mann が 『Matrix 2003』の有効性を検証するために、2004年に 最新米国特許 100件を選び、古典的矛盾マトリックスと新版矛盾マトリックスで、どのような発明原理が推奨されてくるかを調べて、その結果をTRIZ Journal 2004年7月号で発表している。(『TRIZホームページ』に翻訳を掲載した。2005. 4. 5)

これを、ただの統計的な数字として見るのでなく、その内容に立ち入って学ぶと、いろいろと深い考察が得られるだろうと考える。

状況: 4月のTRIZCON2005 において、上記の考えをDarrell Mann に直接提案した。Mann はこの案に非常に興味を持ち、協力して実施することを約束している。
計画:

各特許について、その内容の紹介、TRIZを使った考察 (矛盾マトリックス、進化のトレンド、その他考察のプロセスなど)、その特許から学ぶべきこと、などを 2〜4頁程度にまとめる。

Mann の分析例の記述 (彼のニュースレター「e-zine」など) を参考にして、分析のやり方・書式などをできるだけ早く作る。

分析のテンプレートを作る予定であるが、必ずしもそれにこだわらなくてもよい。一つ一つの事例に則して、本当に適切な分析法・考察法をつくりだしていく方が、おそらく有意義であろう。一つの事例を何人もの人が分析することも意義があるに違いない。

この事例研究は、関心を持つ有志の人々で (国際的な) 共同研究の形にする。最終的には、分析事例のテキストとして公表できるとよい。

特徴:

最新特許を広い分野から100件選んでいることは、Mannの非常に優れた見識とセンスと努力から得られたものである。この代わりをしようとすると、選択するだけで10人が1年かかっても恐らく追いつかない。

ひとつひとつの特許をじっくり学ぶことがポイント。そこで、TRIZの何が使えるのかを深く考察する。また、TRIZに何を補うとよいのかも考えることができる。

公表済みの特許であるから、それを事例研究として分析することには、著作権や守秘義務の制約がない。本当の最先端での技術開発に対して、TRIZ (およびその他の創造技法) を適用する方法を議論できる。

この事例研究集は、非常に面白い読み物になる可能性がある。


(2) 提案メモ: 『TRIZで学ぶ100件の精選米国特許』の進め方について

2005年 6月18日 大阪学院大学 中川 徹

(三菱総研 知識創造研究会 創造手法分科会メンバ への提案メモ)

 

(1) 目標設定:

基本的な目標は、つぎの二つであり、これらを同時に求める。

目標A: 「優れた特許をTRIZを用いて学ぶ」 (Study of Excellent Patents with TRIZ)
目標B: 「優れた特許を通してTRIZを学ぶ」 (Study of TRIZ with Excellent Patents)

これらのどちらか一方だけのアプローチよりも、両方を並立させるアプローチの方が実りが多いと考える。また、並立させることは十分可能である。

このような研究の意義はつぎのようである。

「TRIZ」を学ぶのに事例研究が有用であるが、発表論文は必ずしも多くない。(優れた事例は企業機密として発表されないことが多いから。)

一方、特許は具体的な問題解決のしっかりしたドキュメントである。問題の状況、従来の技術、解決すべき課題、課題を解決する方法、効果、実施例、応用などをきちんと記述しており、問題解決の筋道がかなり明瞭に記述されている。

また、その成果は、とくにここで精選したような特許の場合、最先端の技術的な成果を示している。技術としても、発想としても学ぶべきことは多い。

それでもなお、特許における思考法は必ずしも確立された方法論によってはいない。それぞれの発明者が独自に思考したものである。そこで、明確な方法論であるTRIZの観点を入れて、この具体的な特許を学び、特にその問題解決のプロセスを明確にすることには意義がある。TRIZをベースにすると、発明者の思考プロセスをより明確に跡づけることができるだろうと考えられる。

あるいは、TRIZを使うと、発明者が実際に行ったプロセスよりも明確・迅速・確実なプロセスを示すことができると思われる。また場合によっては、発明者よりもさらに先を考えることができるだろう。

さらに、技術者にとって優れた特許を創り出すことは大きな目標であり、TRIZの考え方を用いて特許の創り方を学ぶことができれば、有益である。

具体的な成果物としての目標は、(理想をいえば) 「100件の特許の事例研究」を掲載した一冊の本である。そのタイトルは例えば、『TRIZで学ぶ100件の精選米国特許』とする。なお、これはずっと先の目標であり、実際に1年間でできるものが例えば、「45件の特許の事例研究をした資料集」といったものであってもよい。

上記のタイトルが、一見、二つの基本目標の片一方しか示していないのは、煩雑さを避けるためにやむを得ないことである。一般の技術者にとっては、『精選米国特許で学ぶTRIZ』よりも魅力的であろう。

(2) 素材に使う特許事例について

本プロジェクトではDarrell Mann が 2004年に選定・発表した米国特許100件を使う。 これは、「Matrix 2003の有効性の検証」を目的として選定したものであった。2003年7月以降の約 1年間に許諾された米国特許である。選定は、Darrell Mann が「すばらしい!」と感じたものである。Mann はこれらの特許を非常に広い分野から抽出している。

素材にどの特許を使うかは、プロジェクトの質を高めるのに大事な要素である。最新の非常に多数の特許から適切な特許を選択するのは、随分大変な仕事である。多数の特許を実際に読み、その特許の内容を適切に評価できなければならない。また、広い分野範囲をカバーしなければならない。これらの点に関して、分科会メンバーで、Darrell Mannがやったこと以上の質のものができる見込みはない。Mannの結果をベースにすることが得策である。

Mannの上記の100件はすでに論文に公表されており、それを用いることは、採用した特許事例について一般の人たちに説明する場合にも、好都合である。(なお、Darrell Mannは2004年7月以降の米国特許100件をさらに選定中である。しかし、その選定と発表は2005年末の計画であり、将来のことである。この選定結果を待って利用することは、考えない。すでに発表済みの 100件を用いることが今の段階で実際的な判断である。2004年段階の特許と2005年段階の特許とで、本質的な差があるとは思えない。)

Mann は上記の特許を非常に広い分野から満遍なく選択している。これは、TRIZが広い分野で使えることを示す目的には非常に大事である。もちろん、個々の分野や個々の事例で使えるTRIZの方法は違うだろうから、その違いが浮かび上がることもまた意味がある。このように広い分野の問題を扱うことは、このプロジェクトの成果物を読む人たちの興味をひく、読者層を拡げるために大事なことである。

Mannは、自分自身で「わぁ、すばらしい」と感じた特許を選択している。特許の発明者の思考結果 (あるいは思考過程) のすばらしさをわれわれは学びたい。Mann はそのような特許をわれわれに推薦してくれているのである。

Mannの発表済みのものを使うことは、Mannの仕事を検証する意味もある。MannはTRIZ分野の世界のリーダであり、その仕事を検証するのは意味がある。

(3) 各特許事例をどのように学ぶとよいか?

まず、第一にその特許自身を、発明者の記述に従って、問題解決の事例として学ぶ。そして、つぎに、TRIZの観点を加えて、問題解決のやり方を吟味・考察する、とよい。

最初に必要で、また大事なことは、その特許自身をよく理解することである。問題の状況、従来の技術、解決すべき課題、課題を解決する方法、効果、実施例、応用-- これらは問題解決のプロセスそのものである。

われわれの事例研究としては、これらの要点をできるだけ分かりやすく記述したい。もとの特許を読まなくても言っていることが分かるようにする。

新しい (あるいはよく知られていない) 効果/技術/材料などについては、できるだけ補足説明を記述するようにしたい。(このためにはその特許とは異なる資料を学ぶ必要があるかもしれない。それには、他の専門家などの協力を得て後で補充していけばよい。)

発明者の問題の捉え方、それを解決するための考え方、解決策の基本アイデアなどを 特許の記述から読み取ることが大事である [要するにその特許に学ぶ]。それをまず発明者の立場で正確に捉える。

つぎに、TRIZの観点を導入して、その特許の問題解決を吟味・考察する。

発明者の問題解決の過程は、TRIZで言っていることとどのように関係づけられるか?発明者の問題解決の過程をTRIZの言葉でどのように説明できるか?

さらに、この問題をTRIZで扱うなら、どのような方法が使えるか? を考えるとよい。問題把握のしかた、根本原因の分析、矛盾の捉え方、技術の進化の捉え方、機能の分析、属性の分析、リソースの捉え方、物質-場分析、理想のイメージ、究極の理想、ひとりでにの理想、SLPやParticles法 (USIT)、機能による事例の検索、知識ベースの有効利用、など、いろいろある。

これらの観点をいつも全部取り入れることは必要ないであろう。各特許ごとに、ポイントになる点を上記のTRIZの観点で考え直すとよい。また、TRIZの考え方と発明者の考え方を比較・関連づけするとよい。

さらに、発明者の解決策の基本的アイデアがどのような観点ででてきたといえるか、またTRIZのどのような考え方で導出できる可能性があるかを、考察するとよい。TRIZの進化のトレンド、進化のトレンドのポテンシャル、標準解の考え方、物理的矛盾とその解決、ヒントとなった技術や効果、発明原理での説明、USITの解決策生成法での説明、など。

ここで、発明者が実際に考えたことを実証できるわけでないし、また発明者が考えた考え方に縛られる (限定する) 必要もない。「この事例の場合に、このようにTRIZを活用するとよい」と提案できればよい。

なお、Darrell Mann は彼の特許分析の結果を、「新旧矛盾マトリックスの適用」という面について、論文発表している。このMannの分析結果を検証しておくことも意味があるであろう。そのためには、「技術的矛盾」の形式でパラメータを特定し、発明原理の推奨を新旧のマトリックスから得て記述することが必要である。また、新矛盾マトリックスの使い方としては、改良したいパラメータの指定から直接に、発明原理の推奨を得ることも有効である。これも記述するとよい。

ただ、中川は、「矛盾マトリックスを重視しすぎることは望ましくない」と考える。上記のように問題分析のいろいろな方法で、各事例に最も適切と思うものを、しっかりと考察し、表現してみることの方が、学ぶのに有益であると思う。

さて、実際に特許を学ぼうとするときに、どこまで深く調べるべきか、また関係することをどこまで広く調べるべきかということが問題になる。先行特許を調べるか、関連技術、対抗技術などを調べるかということである。

この点に関しては、所詮は実行できる範囲は限られていると思う。「基本は、その特許の発明者の主張をきちんと理解することである」と思う。発明者はその技術分野の専門家であり、その分野の先端的なことを知っていると前提してよい。その彼でももちろん、知らないことがあるだろう。発明者が知らないことを、非専門家であるわれわれ分析者が調べ上げられるとは考えない方がよい。われわれが知れることは所詮限られている。

そこで、発明者が特許で述べていることを、きちんと理解することが肝要であり、発明者を「論駁しようとする」、「批判する」ことを試みるのは本来ではない。-- それは発明者の競争相手がきっと必死になってすることであろう。それに任せればよい。後日分かることである。

その発明の本当の意義を理解するのに、関連技術を調べるとよいことはある。ただそれは、必要に応じて、できる範囲でやればよいことである。「やってはいけない」という必要はない。また、「やらなければいけない」といってもはじまらない (限度を越えたことはできない)。結局、発明者の主張していることを、きちんと理解し、それを (報告書の) 読者にきちんと伝えられればよしとするのがよい。

(4) 具体的にどのように進めるか?

上記の考え方で、ともかく分科会メンバーで分担して取りかかることを考える。

分析の記述のしかたの参考として、Mannのメールマガジン 「e-zine」の中の「今月の特許」という記事の事例を翻訳し、検討した [次項(3)参照]。この記述例は、かなりあっさりしており、もっと丁寧に記述した方がよいだろう。記述のしかたに関しては、別紙参照。Mannの記述は2ページだが、実質は1.5頁程度。われわれの趣旨からは、いまは 6〜10頁程度がよいと思われる。

基本的には、分科会メンバーが分担して特許の分析をし、それを持ち寄って議論する。議論は少人数の方が有効と考えられるので、グループに分かれて行うとよいだろう。

具体的な目標設定をしようとすると、負担ばかりが目立って、先に進まないようだ。要点は、分析した事例の「数」が主要な目標ではないということ。分析のしかたを習得すること、一つ一つの分析から分かることが大事だと思う。


(3) Mannによる特許分析と紹介記事の例 (「オーセチック繊維」)

出典: Darrell Mann: e-zine, Issue 38, May 2005
訳: 中川 徹 2005. 6.18

今月の特許

今月の「今月の特許」は、われわれが好きな主題の一つに関係している。すなわち、「オーセチック材料 (Auxetic materials)」である。はじめての人のために説明すると、オーセチック材料とは「負のポアッソン比 (negative Poisson's ratio)」を持つ材料のことをいう。これが意味するのは、通常の材料とは違った振る舞いをすることである。例えば、消しゴムのようなものを例に取ろう。消しゴムを机の上に置いて、それを上から押さえつければ、それによって消しゴムの高さが低くなるが、それと同時に横幅が少し大きくなることを見るだろう。これが「普通の」材料の当たり前の振る舞いである。一方向に圧縮すれば、他の方向には膨張する。ところが、「オーセチック材料」はそれと反対の振る舞いをする。オーセチック材料を一方向に圧縮すると、他の方向にも実際に縮むのである。そのような材料を応用する可能性はいろいろあるだろう。

最も簡単につくれる「オーセチック材料」(あるいはむしろ「オーセチック構造」) は、「泡」である。そのようなオーセチック泡の初期の応用例は、マットレスとかエネルギ吸収構造 (すなわち衝撃減衰材) のようなものであった。

今回の「今月の特許」は、話をもう一歩進めて、「オーセチック繊維」の可能性を導入したものである。

米国特許 第6,878,320号
Alderson他 2005年 4月12日

概要
オーセチック高分子材料をフィラメントあるいは繊維形状に製造する。当該オーセチック高分子材料は負のポアソン比を持っており、それを伸張あるいは圧縮した方向に垂直な方向に対して伸張あるいは収縮するという性質を持っている。当該材料の形成過程には、加熱した高分子粉末を融着し押出成形することを含み、その融着と押出成形がオーセチック・フィラメントをつくり出すように紡糸する効果を持つ。典型的には、当該粉末を、表面はある程度融けるだけ高く、粉末内部が融けるにはまだ十分高くないような温度に、加熱する。


---------
発明者: Alderson; Kim Lesley (英国, リバプール); Simkins; Virginia Ruth (英国, ランカシャ)
帰属者: Bolton大学 (高等教育機関であり、英国の機関である) (ボルトン, 英国)

この発明は恐らくTRIZでいう「レベル4の発明」に分類できるであろう。(オーセチック) 材料を繊維形状に形成する手段を、全くはじめてうまく見つけ出したのだから。このことは、多数の新しい応用 (および多数の特許、TRIZでいうより低いレベルの特許) がつぎつぎと出てくる可能性が高いことを示している。

本特許は、連続的な単繊維 (あるいは、短いフィラメントや繊維) を作ることができる製造プロセスを記述しており、その単繊維を縒り合わせたり組み合わせたりして、複繊維 (複フィラメント) の糸をつくり出すことができる。そのようなフィラメント状あるいは繊維状の材料は、単独で、あるいは適当な他の材料と組み合わせて、織物・編み物・不織布などの、さまざまな繊維構造につくっていくことができる。本発明に従ってつくられたフィラメントや繊維は、複合材料中の強化材料として使い、より高いエネルギ吸収特性や繊維引き抜き抵抗力を与えたりするのに使えるであろう。(さらに) 音・超音波・衝撃などのエネルギを吸収することができ、それには、より高次の複合物で、建物の壁面の防音材、潜水艦や他の乗り物などの車体部品、自動車などのバンパなどをつくるとよい。オーセチック材料はまた、衝撃に対して局所的な高密度化という応答をするから、凹んでも復元する能力を強化することができる。

本発明に従ってつくったフィラメントや繊維を組み込んだ (あるいはそれでつくった) 繊維構造は、防御服に使うことができ、そこでは凹みに対する特性の強化や、低速衝撃に対する抵抗力の強化が有利に働く。そのような繊維構造はまた保健 (医療) の分野でも使えるだろう。さらに本発明の材料を使うと有利であるような応用はほかにもいろいろあるだろう。

潜在的な応用の広さ (そして、レベル4の発明の希少さ) が、本発明をここに取り上げた理由である。しかし、それ以上に、発明者が辿った主要な発明のステップを、矛盾の解決という文脈で見ることもまた有用であろう。

疑いもなく長くて険しいその研究プログラムを (もちろん、非常に不躾なことだが) 一つの文にしてしまうと、この発明のステップは、「通常は静的な押し出し成形の製造プロセスにスピン運動を導入した」ことに関わっている。

「そこで、本発明のさらにもう一つの側面によれば、オーセチック材料の形成方法を提供しており、その方法は熱可塑性の粒状高分子材料を融着・押出成形し、その融着・押出成形が、スピンの効果によって、オーセチック特性を持つ繊維状材料をつくり出すという方法からなる。」 [注記: 下記参照 (2005. 9.11)]

解決しなければならなかった矛盾の核心は、既存の製造プロセスでは長い繊維をつくることができなかったことである。この問題を矛盾マトリックスに写像するよい方法は、以下のようであろう。

われわれは繊維状のオーセチック材料を製造できることを望んでいるが、現状の製造プロセスはそれを妨げている。

改良したいパラメータ: 静止物体の長さ/角度 (パラメータ 4)
悪化するパラメータ: 製造性 (パラメータ 41)
[新矛盾マトリックスの] 推奨発明原理: 17, 3, 15, 13, 4, 31, 10

発明者が本発明をするにあたって適用した二つの発明原理、すなわち、発明原理15 (「ダイナミック化」- これが主たる発明のステップである) および発明原理17 (「もう一つの次元」)、の両方が [上記の推奨中に] 見出されることは、[新矛盾マトリックスの利用に関して] 大いに励まされることである。

[注記 (2005. 9.11 中川): 中川のこの訳は、Mannの論理に引っ張られて訳したものであるが、語句の解釈を間違っている。いまは、つぎの訳が正しいと考える。(詳しくは、別ページの分析例を参照)。

「当該材料の形成過程には、加熱した高分子粉末を融着し押出成形することを含み、その融着と押出成形がオーセチック・フィラメントをつくり出すように紡糸する効果を持つ。」 ]


(4) 考察: 『TRIZで学ぶ100件の精選米国特許』のためのスタイルについて

2005. 6.18大阪学院大学中川徹

 

(a) Darrell Mannのスタイルの要点

上記の例でみると、つぎのような構成になっている。全体で 2頁。分かりやすくするために、項目番号をつけた。

(1) はじめに-- テーマの導入。あまり知られていない効果や材料の簡単な解説。テーマの位置付け、発明の位置付け

(2) 特許の概要-- 特許番号、発明者、登録年月日、発明の概要 (特許明細の「概要」の項目のまま (?))、発明者・帰属者

(3) この発明の意義-- 評価と位置付け、成果の簡単な紹介、図面 (概念図) 一つだけ。その用途 (発明の発展の可能性)

(4) 発明のプロセスの考察-- 発明の要点を挙げる(一文で。またテキストを引用)。解決すべき矛盾の核心の解釈。矛盾マトリックスによる問題の表現と推奨原理 (定型的)。矛盾マトリックスによる結果の総括

(b) Mannのスタイルの考察: 改良すべき点、継承すべき点

導入部を設けているのは分かりやすくてよい。

特許の出典を明示する。またその概要を書く。

特許の発明の説明をもっとページ数を割いて記述したほうがよい。

特許の説明は、特許明細書の記述の順を追って、基本的に発明者の観点で記述する。

この段階での記述は、発明者の観点から「出すぎない」こと。発明者の論理による。

つぎに、われわれの観点をいれて、この発明について補足し、評価する。

さらに、TRIZの観点から、この問題、解決のしかた、この解決策について吟味する。この段階は、発明者ではなく、明確に分析者としての独自の観点で書く。

上記の中で、TRIZの一部の方法を定型的に適用した結果も整理しておく。

さらに、この発明の意義と応用・展開などを、TRIZの観点から考察する。

なお、上記のすべての記述において、特許の細部まで復元しようとする必要はない。この発明のアイデアの主要な部分を明確にすることの方が大事である。


(5) 『TRIZで学ぶ100件の精選米国特許』のための特許分析の記述例 (1) について

2005年 7月 6日 大阪学院大学 中川 徹

(三菱総研 創造手法分科会への提出資料)

別紙の「オーセチック繊維の製法」に関する特許を分析した文書は、創造手法分科会のプロジェクト『TRIZで学ぶ100件の精選米国特許』のために、そのプロジェクトの目的や趣旨を明確にすることを目的として、一つの米国特許を例にして、その特許分析のやり方を例示し、記述してみようとしたものである。

取り上げた特許例は、Darrell Mannの e-zine 2005年5月号の「今月の特許」に記載している例である[上記 (3)項記載] 。Darrell Mannの分析と記述のスタイルを学び、そのよい点を取り入れることを目的として、(上記プロジェクトでの対象の100件からは離れているが) 取り上げたものである。

なお、本事例に対しては、Mannの記述を学習・翻訳した (6月18日) 後に米国特許の原典を読んだところ、特許の技術的な解決策の要点に関するMannの解釈に基本的な誤りがあったことが判明した。このような誤りを避けるために、本件ではまず米国特許を全文和訳した (7月2日)。本事例に関してはこの和訳を適宜やさしく書き直して使いつつ、本事例をTRIZを用いて考察する。

記述の基本的な書式 (記述項目) については、6月18日に検討しており、本件は基本的にその検討に従って、具体的に記述しようとしたものである。

ただ、この文は「意を尽くそうとして」書いているうちに随分長くなった。長さの問題は後日の検討課題だと思う。いろいろな原稿ができてから、最終的に編集するときに考えればよい。まずは一つ一つの特許を学ぶことが大事である。私自身、この特許を学んで、この分析の文書を書いてみて、大いに自分のためになったと思う。

以下には、この例で使った項目立てを示し、書式の一つの参考例にする。

タイトル

分析記述 年月日 分析者氏名

米国特許番号、発明者、特許登録日

はじめに (テーマの簡単な紹介)

A. 特許明細書に基づいて本発明を学ぶ

A1. 特許の書誌情報など

A2. 特許の概要 (特許明細書の訳)

A3. 特許の請求項 (主要部のみ)

A4. 発明の背景 (技術分野と従来の技術) (分かりやすく説明)

A5. 本発明の要点 (発明者の記述に従って記述する)

A6. 図の簡単な説明

A7. 望ましい実施例の詳細な記述

A8. 望ましい実施例 (その2) 効用および用途

B. TRIZの観点を入れてこの特許を学ぶ [注: 以下の項目立ては事例によって大きくちがうであろう。]

B1. オーセチック特性とオーセチックな微細構造 (テーマの主要概念についての説明、補足)

B2. オーセチック微細構造を作るための考え方 (従来技術と本発明との違いの本質を考える)

B3. TRIZの「物質-場モデル」と「リソース」の考え方からの考察

B4. 温度設定の考え方 (本発明の鍵になった概念の吟味)

B5. 非定形な高分子の粒とTRIZの非対称性の原理

B6. 押出成形に際して引っ張らない (従来技術からの発想の転換点の吟味)

B7. 回転の問題 (スクリュとSpinning) (発明の本質に関するMannの解釈の再検討)

B8. オーセチック繊維の性質・特性 (応用のための基礎の検討)

B9. 今後の課題 (本発明のさらに先について考察する)

 


(6) 現在の状況: 「知識創造研究会・創造手法分科会」の活動の状況

2005年 9月11日 中川 徹

ここで、本提案に関連した、同分科会の活動の状況を簡単にまとめておこう。

(1) 5月13日の分科会で、中川の提案に、賛同が得られ、全員が協力して、Mannの精選特許の検討をすることにし、分野別のサブグループを作った。

(2) その後、米国特許を英文で訳しつつ分析することの困難が認識され、基本的に同じ考え方で、分析対象に幅を持たせることになった。7月 8日の分科会で、サブグループを再編成し、(A) Mannの精選米国特許を対象、(B) 日本の最近の重要特許を対象、(C) 近年の大事な技術革新事例を対象、とするものに分かれた。

(3) 各サブグループで分析結果を持ち寄り検討を始めた。Mannの精選米国特許に関しても、まず日本の公開特許に現れているものを先行させて検討を始めたところである。分析のやり方が少し見えてきた段階である。

(4) 今後、11月、1月に分科会の会合を持つ。メンバがそれぞれに宿題として分担し、会合ではそれらを持ち寄って議論する形で進めることにしている。

(5) この共同研究は「創造手法分科会」に閉じて行なう必要はないと考えている。分科会のメンバ以外で、もし協力いただける方があれば、分析の結果を小生 (あるいは、分科会の世話をしていただいているエムアールアイ システムズの進藤裕二さん) までお寄せいただけると幸いです。

 


発表スライド

「TRIZで特許を学び、特許でTRIZを学ぶ
〜知識創造研究会創造手法分科会での共同研究の提案の趣旨とその記述例」

中川 徹, 2005年12月2日,

IMユーザシンポジウム (2005琵琶湖),
エム・アール・アイ システムズ主催, ラフォーレ琵琶湖 (滋賀県守山市)。

本ページの内容 (1)〜(6) と上記 (A) の特許分析例とをまとめて、下記のように発表しました。そのスライドをPDFファイルで掲載いたします。

スライド (PDF) [スライド20枚, 4スライド/頁。44KB]

 

ページの先頭 提案の骨子 提案メモ Mannの分析記述 分析のスタイル 特許分析の記述例 現在の状況 特許分析(中川)オーセチック繊維 IMユーザシンポ発表 (PDF)

 

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最終更新日 : 2005.10.26    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp