TRIZフォーラム: 
教育実践報告: 1年次ゼミナールでショーン・コヴィー著『7つの習慣 ティーンズ』を学ぶ
中川 徹 (大阪学院大学 情報学部)、2010年 1月 2日
掲載: 2010年 1月 3日; 追記: 2010. 3.11
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編集ノート (中川 徹、2010年 1月 2日) (追記 2010. 3.11)

新年にあたり、私は別ページに「「中川 徹 のミッション・ステートメント」 とその心」という文章を掲載しました。その文章はもともとは、大阪学院大学情報学部の1年次生のためのゼミナールで、学生たちのレポートを文集にしたときに、中川自身の文が必要と思い、書いたものです。いわば、「先生がやってきた宿題」です。

本ページには、このゼミナールでの教育実践を紹介し、上記の文章を書いた背景を説明しておきたいと思います。つぎの4項目です。

[A] 大阪学院大学情報学部における 1年次ゼミナールIB について (趣旨、中川の従来のやり方)
[B] ショーン・コヴィー著『7つの習慣 ティーンズ』について (知った経過、本の内容、特徴など)
[C] ゼミナールIB での「7つの習慣」の指導の実際について (ゼミナールの状況、レポート、レポートの指導のしかた)
[D] 学生たちのレポートに対する指導 (コメント) の例

[E] 別ページ:  学生15人の レポート集(抜粋)  (「ゼミで、学んだこと、考えたこと」) (掲載: 2010. 3.11)


[A] 大阪学院大学情報学部における 1年次ゼミナールIB について

私はいま、大阪学院大学の情報学部で、教育と研究をしています。私の教育実践の考え方や内容につきましては、大学の紀要に「「創造的な問題解決の思考法」の教育実践」という報告を書き、この『TRIZホームページ』にも掲載しました (2007年1月)。(この報告はその後、英文にもして ETRIA TFC 2007で発表 しています。)

いろいろな授業の中の一つに、1年次生後期の「ゼミナールIB」 という科目があります。2007年の報告にも詳しく説明していますように、当時は情報学部の全体テーマで、「読み、書き、発表する」基礎訓練として位置づけておりました。このテーマの中で具体的な教材や指導のしかたは各教員に任されていました。私のゼミでは、NHK テレビの名番組「プロジェクトX」の鑑賞と話し合い (4〜5回)、そして、倉島保美「日本語ライティング」を教材にした実務の文章の簡潔な要約、同教材での発表練習でした。

このゼミでの難点は、番組鑑賞後にレポートを書かせましたけれども、「感想」を添削することはできない/すべきでないので、当方のコメントもまた「感想」になってしまうことでした。また、「日本語ライティング」の教材は、それ自身が分かりやすく書かれているので、それを要約することが比較的やさしいこと、そして、「書き方」の教材であって、やはり内容的な深みがないことでした。

2008年度から、全学部の初年次教育の見直しがあり、「読み、書き、考え、発表する訓練」が 1年次ゼミナールの全学統一テーマになりました。情報学部では、1年次前期のゼミナールIAを「基礎数学演習」、後期のゼミナールIBを「読み、書き、考え、発表する訓練」に当てていますので、基本的な枠組みは変わりません。

2008年5月に、私はスティーブン・コヴィー著『7つの習慣』を読み、感激しました。また、次節に説明しますように、その一連の本を読みました。そして、2008年10月からのゼミナールIB で、急遽教材を変更して、ショーン・コヴィー著『7つの習慣 ティーンズ』を学ぶことにしました。


[B] ショーン・コヴィー著『7つの習慣 ティーンズ』について

私が『7つの習慣』(スティーブン・コヴィー著) という本のことを知ったのは2008年5月初旬のことです。

Paul Filmore (英国 Plymouth 大学) が、(私が欠席した) TRIZCON2008  での発表論文をメールで送ってきてくれました。それは、前年の日本でのTRIZシンポジウム2007での彼の発表「Developing Highly Effective Engineers」 [中川の紹介] を拡張して論文化したものでした。彼の論文のタイトルは、『7つの習慣』の原著『7 Habits of Highly Effective People』(Stephen R. Covey) から採ったものでした。Paul Filmore は、S.R. Covey の「高度に効果的な人々がもつ 7つの習慣」という概念に刺激されて、「高度に効果的な技術者とは、どんな態度や考え方をする人であるか?」という問題意識で、多くの本・文献を調査して報告しています。その中の簡単な紹介から、私はS.R. Covey の考え方を学びたいと思いました。

そこで、Amazon で検索して買って読んだものにはつぎのものがあります。

(a) 『7つの習慣 - 成功には原則があった!』 、スティーブン・R. コヴィー著、キングベアー出版 (原著初版 1990年)
(b) 『7つの習慣 小学校実践記 - ミッションが書けた!自分が変わった!!』、 渡辺 尚久著、キングベアー出版
(c) 『7つの習慣 ティーンズ』 、ショーン・コヴィー著、キングベアー出版 (原著初版 1998年)

このうち、(a) 『7つの習慣 - 成功には原則があった!』 が大元の著作です。ビジネス書として世界のベストセラーで世界中で1500万部 (和訳は 100万部) 以上読まれたといいますが、私は知りませんでした。著者は、成功した人々 (Highly effective people) に関する多数の文献を調査した上で、7つの習慣 (habits) を持つことが成功への鍵であると説きます。その7つの習慣とは以下のものです。

第1の習慣: 主体的に行動する
第2の習慣: 目的を持って始める
第3の習慣: 一番大切なことを優先する
第4の習慣: Win-Winの考え方
第5の習慣: まず相手を理解してから、次に自分が理解される
第6の習慣: 協力から生れる相乗効果
第7の習慣: 自分を磨こう

これらの「習慣」で問題にしているのはすべて、自分が考え行動するときの「いつものやり方」のことであり、自分が考え行動するときの (意識的/無意識的な)指針のことです。これらの点に関して、上記に書いた7つの「原則 (Principles)」を自分の考えと行動の「習慣」にするとよいのだというのが、この本の主張です。自分の内面の葛藤、自分が人や社会と接するときの種々の問題を取り上げて、説き起こしていく力強い、また随分と奥の深い議論です。

(b) の『7つの習慣 小学校実践記』というのは、千葉県の小学校5年生のクラスで、担任の渡辺尚久先生が一年間かけて、この『7つの習慣』を教えた報告です。丁寧にかつ分かりやすく、小学生たちに教えています。その小学生たちの反応や感想文が随所に書かれていて、びっくりします。この実践記で渡辺先生は(c)『7つの習慣 ティーンズ』 をベースにして教えたと書いてありましたので、後からそれを買って読みました。

(c)『7つの習慣 ティーンズ』の著者ショーン・コヴィーは、(a)の著者スティーブン・R. コヴィーの長男です。ショーンは中学〜大学まで、「何でも自分の責任でやりなさい」というお父さんの厳しいしつけ方に反発があり、お父さんの著作を読まなかった、『7つの習慣』を読んだのは大人になってからだといいます。1998年 34才のときに、10代の若者向けに『7つの習慣 ティーンズ』を書いています。分かりやすく構成され、軽快な語り口と、沢山のティーンズの体験談を交えていて、非常に読みやすい本です (これ自身も世界なベストセラーだそうです)。

「7つの習慣を理解するには、われわれが陥りやすい、「不幸せになる7つの悪習慣」を思い起こせばよい」と、ショーンはいいます。つぎの7つです。

第1の「悪」習慣: 人のせいにする
第2の「悪」習慣: 目的を持たないで始める
第3の「悪」習慣: 一番大切なことは後まわし
第4の「悪」習慣: 勝ち負けという考え方
第5の「悪」習慣: まず自分が話し、それから聞くふりをする
第6の「悪」習慣: 頼れるのは自分だけ
第7の「悪」習慣: 自分をすり減らす

 

また、「7つの習慣の成り立ち」を、図のように一本の木で表現しています。7つの習慣は、第一の習慣が一番の基礎になり、順番にその上に形成されていくのだといいます。

特に、第1〜第3の習慣は、自分の内面と自分の生活に関わることで、自分自身を確立するための (考え方と行動の) 習慣です。第1の習慣「主体的に行動する」とは、自分で判断して、自分で責任を持って行動することで、自分がしたことを人のせいにしないことです。その上に、第2の習慣として、自分の目的、自分のありたい姿、実行の目標を明確にする、進みたい方向を明確にすることを薦めています (このために、ミッション・ステートメントを書きなさいと薦めています)。さらに、第3の習慣が、生活時間の管理とするべきことの優先順位づけをすることです。これら第1〜第3は、自分自身の考えや行動を律することであり、自立した個人となることの薦めです。この部分は、私的な成功を導くものであって、「地面の下にある根っこ」であり、土台であることを表現しています。

その上に、第4〜第6の習慣で、人との関わり、社会との関わりについての考え方と行動のしかたが出てきます。第4の習慣では、「勝ち負けにこだわらずに、Win-Winを考えよ」といいます。(米国の) 厳しい競争社会にあって、なかなか実行が難しいことです。第5の習慣では、まず相手を理解せよ、相手の話を聞けといいます。そうすれば自分も理解されるのだというのです。第6の習慣は、違いを乗り越えた協力関係で相乗効果を挙げよというのです。これら第4〜第6を、周りの人々、社会との接し方の習慣 (原則) にせよと、薦めています。この習慣を得て、人間関係の成功、社会的な、公的な場での成功が得られるというのです。

第7の習慣「自己を磨く」は、第1〜第6の習慣 (原則) を常に心がけて、向上することを目指せ。ただし、自分をすり減らすのではなく、ゆとりを持って自分を磨けといいます。

ショーン・コヴィーの文の圧巻は、同書34ページの「原則」についての説明であると思います。以下に引用します。

重力の影響はみんながよく知っています。ボールを上に投げると、落ちてきます。これは原則、または自然の法則です。物理界を支配する原則があるように、人間界を支配する原則があるのです。原則は宗教的なものではありません。アメリカ的でも中国的でもありません。私のものでも、あなたのものでもないのです。議論すべきものでもなく、だれにでも等しく当てはまります。金持ちにも貧乏人にも、王様にも農民にも、男にも女にも。売り買いされるものでもありません。原則に従って生きると、優れた人間になれます。原則を破ると、失敗します。そのくらいシンプルなことなのです。

いくつか例を挙げましょう。「正直」は原則です。「奉仕」もそう。愛も。勤勉も。尊敬、感謝、節度、公平、誠実、忠誠、責任も原則です。他にも、もっともっとたくさんあります。原則を見つけるのは簡単です。コンパスがいつも真北を指すように、人は心で真の原則を見分けることができるのです。

たとえば、勤勉という原則を考えてみてください。そう努力しなくてもしばらくの間はやっていけるでしょう。でも最後にはツケが回ってきます。

あるいは、この文を、理想主義的楽観主義者の、幼稚で子供っぽい、土俗的で直感的な、無神論的非キリスト教的な、文であるなどと批判することも可能でしょう。しかし、この文は、そういった批判を乗り越えてなお、最終的に宣言されうる文であると、私は思います。日本の庶民の素朴な心情には、ここに語られていることが、脈々として流れてきたと思います。「(すべての)人が心で真の原則を見分けることができる」というのは、非常にシンプルな宣言であり、人間にとってのすべての希望の拠り所であると思います。上記の文は、現代世界の (あるいはすべての歴史の) 大規模な争いを止揚する力を秘めていると思います。


[C] ゼミナールIB での「7つの習慣」の指導の実際

ゼミナールIB では、(通常は1クラスずつの分担ですが) 私は11名のクラスと12名のクラスの二つを担当しています。教科書を学生に半ページ〜1ページずつ読ませては、「ここの話、どう思う?」と質問し、中身を議論します。各回20ページ弱で14回あるとちょうど終わりまでいきます。内容的にはつぎのようです。

(1) 導入: 全員の自己紹介。『7つの習慣』について、「習慣」の意義
(2) パラダイム と原則 -- (思いこみと自分の考えの中心) 
(3) ボクのワタシの「自己信頼残高」  -- (自分自身への約束を守り、自信をつけていく)
(4) 第一の習慣: 主体的に行動する -- (自分で判断して行動する)
(5) 第一の習慣(続) -- (自分自身をコントロールする) -- [第1回レポート提出]
(6) 第二の習慣: 目的を持って始める -- (自分の未来、ありたい姿、自分の才能を考える)
(7) 第二の習慣(続) -- (自分のミッション・ステートメントを書こう)
(8) 第三の習慣: 一番大切なことを優先する -- (生活時間の管理の考え方、緊急性よりも重要性) 
(9) 第三の習慣(続) -- (快適ゾーンから勇気ゾーンに飛び出す、意思の力で選択する) -- [第2回レポート提出]
(10) 人間関係信頼残高 -- (人からの信頼をこつこつ築く)
(11) 第四の習慣: Win-Winの考え方 -- (勝ち負けにとらわれない。自分も勝ち、相手も勝つ。)
(12) 第五の習慣: まず相手を理解してから、次に自分が理解される -- (心から耳を傾ける。真のコミュニケーション)
(13) 第六の習慣: 協力から生まれる相乗効果 -- (違いを認めて、益にする)
(14) 第七の習慣: 自分を磨こう -- (身体、知性、感情、精神を定期的にリニューアルする) -- [第3回レポート提出]

本当は、学生に予め読んで来るように指示しているのですが、読んできている学生はほとんどいません。授業中に本の論理を辿ることができ、印象深い挿話を読んで議論できるように、中川が指示をして本の2/3程度を皆で読みます。読み方そのものを注意することがあります。「もっとゆっくり、分かるように読みなさい」、「「。」の所ではきちんと止まって読みなさい」など。また、学生にその箇所の感想を聞くだけでなく、議論を吹っ掛けることも多くあります。しょっちゅう脱線気味、雑談気味に話す学生がいる一方で、ほとんど自分の意見を話さない学生がいますので、そのような学生に話をさせるように仕向けることに一番注意を払います。

レポートを3回提出させます。11月半ば (第1の習慣まで)、12月半ば (第3の習慣まで)、学期末 (1月末) (終わりまで) です。「このゼミで学んだこと、考えたこと」というのが共通課題です。「抜き書きはだめ」(その文をどう理解したのかが分からないから、「学んだこと」にはならない)。「感じた、思っただけではだめ」(人の感想を第三者(先生)が直すことは意味がないから)。理解し、考えた内容を書きなさい、それなら添削する意味もあり、議論する意味もあるから。と指示しています。「ワープロ打ちで、40字×40行で2枚を越えなさい (段落ごとに空行を入れてもよい)」と指示しています。それだけ書くには、考えて書かなければ、書くことがないからです。「また、電子メール添付で提出」と指示しています。これは、中川が自宅で読んだり、添削したりするために必要なことです。

提出されたレポートは、文章の書き方の点でも、中身の点でも、良いのもあればひどいのもあります。昨年度は手書きでコメントをして個別に返却しました。今年度は、やはり書き方の添削例を示し、きちんと返した方がよいと考えました。そこで、各人のレポートの主要部 (1/2〜2/3頁)の添削例を作り、同時にその添削の趣旨を大掴みにコメントしました。コメントの最初の方は「文としての書き方」についてですが、段々「文章の構成のしかた」、「論理の立て方」、「論理そのもの」へのコメントになり、さらに学生が「考えたこと」「悩んでいること」への応答と指導といった面が含まれます。(具体的には次節[D]を参照下さい。)

これらの提出レポートおよび添削例とコメントを、各人に個別に返却することも考えましたが、敢えて、各クラスのみんなのものを集めて「レポート文集」と「レポートコメント集」の形にして配付しました。授業の中で各人が話し合っていることを、きちんと書き出したものがレポートなのだから、みんなに書いて渡すのでよいと考えたからです。書き方の指導も、個別の点があると同時に共通する点が多いですから、みんなのものを見るのが効率的と考えられます。[当初、返却のしかたを学生たちに言っていなかったので]全員配付の文集を見て、学生たちは最初はぎょっとしたようです。それでもやはり、他の人たちのものを読んで互いに共感することがあり、学ぶことがあったようで、自分のものを見せることに対する拒否感をなんとか克服できたように思います。[来年度は、今年のものの例を見せれば、学生たちにもっとスムーズに受け入れられるでしょう。]

以上のように、学生たちの第2回レポートにコメントを書いているときに、私の学生に対するコメントが段々学生たちの内面への応答に進んでいっていることを感じました。学生たちの内面をもう一歩踏み出させるために、結構厳しい指摘も書きました。それをしている最中に、やはり「私自身がこのゼミで 学んだこと、考えたこと」を書いておきたいと思いました。それを書くことによって、「学生たちと同じように、自分の内面を語り、それを表にだして、相手に理解してもらうことができるだろう」と、思った次第です。

そこで、12月14日に私が書いたのが、「「中川 徹のミッション・ステートメント」とその心」という文です。「ミッション・ステートメント」というのは、直訳すれば「使命の宣言」です。「こうでありたいと思うモットー」をきちんと書き出したものです。それは努力の目標であり、いまそれを実行できているということではありません。「7つの習慣」の中の第2の習慣「目的を持って始める」を実行していくために、「ぜひ自分自身のミッション・ステートメントを書いてみなさい」というのが、『7つの習慣 ティーンズ』が薦めていることです。ですから、学生たちの第2回レポートの大きな焦点でもあります。

12月15日(火) と17日(木) のゼミのクラスで、学生諸君のレポート文集第2集 (およびコメント集第2集) と一緒に、私の文を渡しました。学生たちはびっくりして、喜んで読んでくれました。

以上が、長くなりましたが、「「中川 徹のミッション・ステートメント」 とその心」という文章を書いたいきさつです。別ページに掲載しましたその文をお読みいただけましたら幸いです。


[D] 学生たちのレポートに対する指導 (コメント) の例

ここに、レポートに関するコメントの典型的なものを (学生の名前を伏せて) そのままで引用しておきます。いろいろな学生に書いたものですから、段落ごとに相手の学生が違います。かなり削ったのですが、やはり沢山の思い入れがあって削りきれません。随分長くなりましたので、節を分けて、分類した上で引用いたします。

(a) 文章表現について

レポートは、(先生など) 他の人に読んでもらう文章だから、くだけた言葉 (口語、話し言葉、俗語、方言など) をできるだけ使わず、きちんとした標準の日本語で書くこと。

文章がいろいろと舌足らずで、明確な論理の記述になっていません。もっと、文章の論理をきちんと書くことに努力して下さい。論理を明確にするには、文章をだらだらと続けないことが大事です。一つ一つの文をはっきり区切り、それらを、「だから」「しかし」「そのために」などの論理を表す接続詞で繋いでいくことが、大事なことです。

「身につく」という語は良いことについて使い、悪いことの場合には「身にしみつく」といいます。これらの言葉を適切に使い分けないと、自分ではきちんと書いたつもりの文章が、日本語としては奇妙な文章になってしまいます。

なお、「確実な意見を述べること」を「はっきり意見を述べること」に直しました。「確実な」は意見の内容に関するものですが、「はっきり」は述べ方に関するものです。意見が正しい/正しくないは状況によって、人によって判断が違いますが、どんな意見でも「はっきり」言うことが大事だという意味です。

実は、この「添削例」は、文章には何も手を入れていません。中川がしたことは、見出しの項目に番号 をつけ、この見出しを太字にしたことだけです。貴君の文章は、比較的短い文で綴られ、適切に句読点がつけられ、適切なテンポがあります。これらのことから、文章としてはこれでよいと思いました。

(b) 表現の深化と思考の深化

やはりまだ、「抜き書き」が多く、何を本当に「学んだ」かがはっきりしません。「自分は、・・・が大切だと思う」と書いてあっても、その「・・・」の部分が本の文章そのままである場合には、その人の言葉だとはだれも思わない。自分の言葉に言いなおす、書きなおすことが必要です。自分の言葉にすると、初めて何を学んだかが分かるのです。

貴君のレポートに複数箇所出てくる特徴的な文は、「〜したくらいで、〜できるものではないと思う」という言い方である。この文自身に間違いはない。しかし、その元になっている本の著者が、「〜しただけで、〜できる」とは決して言っていない。その意味で、貴君の論理には、安易な「すり替え」がある (著者があたかもそう言っているかのように書いている)。

上記のことを考えると、このレポートは、(優れたレポートであるが) 「感想文」の面が色濃く残っており、「学んだこと、考えたこと」の記述に十分なっていない面がある。-- 今後、もっと論理性が要求される文書を書く機会が多くなっていくから、注意するとよいと思う。

文章の書き方について、貴君の文には、「はっきりと述べることを恐れて、意図してあいまいな感じを残している」ところが多くあると思います。そのような書き方は、少し前までの日本の文学に多くありましたし、新聞の社説や評論などにもいまも多く残っており、小学校から高校までの国語教育・書き方教育でもそれを助長していました。しかし、それは望ましいことではありません。あいまいさを残した文章ばかり書いていると、何も明確には認めない、何も明確には決断しない、何もしっかりと行動しないという方向に行きます。それは、第一の習慣「主体的に行動する」に反することです。文章を書くからには、「もっと明確に書く」ことを心がけるべきです。

もちろん、自分の考えがまだ十分には、確定できていない、決断できていない場合があります。それは、一つの考え/案に対して、肯定面(長所、賛成点)と否定面(短所、欠陥、反対点)がある場合です。そのときの書き方で、「肯定A−否定A'、肯定B−否定B'、・・・」と繰り返して書くと、結局なにを言いたいのかが分からず、論理は空転してしまいます。一方、「肯定(A、B、・・) −否定(A'、B'、・・)」の形で書くと、両者の考えが明確になります。そして、自分はどちらの考えに近いのか、どちらの考え方がより重要だと思うかが、ずっと明確になります。それが明確になれば、重要な方を優先させた上で、それを修正して調整するという方針を立てて先に進むことができるのです。

このレポートで典型的なことは、「自分も非を認めるが、認めたくない」などのように、本人の論理的な認識と、感情的な気持ちとが、ぶつかり合っていることである。もちろん、そのようなことは、だれにでもある。ただ、このレポートでは、論理よりも自分の感情が最終的に優先されているように思う。人間の成長の過程として、その点ではもっと成熟していくことが、やはり望まれることだと思う。もちろん、長時間かかる過程である。

自分を振り返って見直そうとしているのですから、最近のことで、「だめだなぁ」と思った例をもう少し具体的に書くと、説得力がある、良い文章になります。そのようなことをいま書いてみると、(何年か) 後で読み返したときに自分のためにもなる、自分の大事な思い出になる文章ができます。

(c) 文書の構成

この本の2章〜3章は、「目的を持って始める。最も大事なことを優先する」です。あなたのレポートは、高校3年生のときには「目的が見つからないで悩み・迷った」、そしていまは「自分はいま目的が持てたからこの大学にいる」と書いています。もう一歩踏み出して、「自分はいま、・・・を目的としてこの大学で学んでいる」と書くとよいと思います。そうすれば、その目的のためには何が重要なのか、どんな目標設定にするとよいのか、などを考え、書き進むことになります。

全体として、論理構成が明確でない。持って回ったところが多い。きっと、「書き綴ったまま」の論理構成になっているからであろう。一旦書いた上で、きちんと読み直して、ぐだぐだ書いているところに大鉈を入れて、論理的に整理し直すことが必要である。[上記の添削例は、このような意味の大鉈をいれることはできていない。] -- 今後、大学の授業でも、卒業してからの仕事でも、「レポート」を「感想文」にしてはいけない。論理的なものが求められている。

「文章を書くことによって、自分の考えを一層明確にしていく。書くことによって考える」というやり方を身につけるとよい。これは、ほかの学生諸君にもあてはまることである。

全体がきちんと構成されていて、非常に良い文章だと思います。最初に 3つの項目を挙げ、それぞれについて考えたことを焦点を絞って述べ、最後に全体をまとめています。それぞれあまり無駄がないので、(「添削例」として) ここで取り上げる部分を選ぶのに (削れなくて) 困ったほどです。

(d) ミッション・ステートメントについて

ミッション・ステートメントは、未完成でも敢えて書き出してみるとよいのです。この添削例では、貴君の言葉をそのままにして、二重枠に入れて形を整えました。短くてもよいのです。これで立派な『私のミッション・ステートメント』です。

貴君の「ミッション・ステートメント」は、君自身にとって「励みになる」ものであり、だから大変適切なものと思います。この「ミッション・ステートメント」を心がけて、成長していって下さい。

ミッション・ステートメントの項目の順番などは考え直してみるとよいのかもしれません。ともかく、自分で最もしっくりするように、さらに考えるとよいですね。貴君に合った、良い、「ミッション・ステートメント」だと思います。

自分のミッション・ステートメントを書いた当初の感想と、いま、読み直した時点での感想とを書いているのが興味深い。当初「綺麗ごとばかり書いている。違和感がある」というのは、敏感な感想だと思います。きれいごとでない、もっと真剣な、自分の悩みをも反映して、それを克服する方向に導くようなもの、が書けるとよいですね。また、当初のものと、いまのものとを書き出してみるとよいのです。そして、いまの「心」(趣旨) を文章として書き添えるとよいと思います。

貴君の「ミッション・ステートメント」は随分抽象的に言っていますが、それをブレークダウンして「一口サイズの目標」を設定し、時間管理と結びつけることをするとよいでしょう。きっと貴君の頭の中では関連づけられているのでしょうが、それを書き出してみると自分でもずっとはっきり分かるようになると思います。

(e) 学生との対話

このレポートを読み、ゼミでの様子 (ほとんど発言しないで、じっとこちらを見つめていることが多い) を見ていて、優れた、繊細な感受性を持っていると思います。それはすごく大きなプラスです。自分の「悪い所を直す」というよりも、「良い所を伸ばす」という気持ちになるとよいと思います。感じたこと、考えていることを、おもてに出していくとよいでしょう。それによって新しいコミュニケーションができるでしょう。

貴君のレポートは、自分の内面と自分の生活を振り返って、自分にとっての問題意識を非常に明確にした点で、優れたものだと思います。その問題意識は、「私は目標、目的がない。正確には目標、目的の作り方がわからない」ということです。
この本では「自分の毎日をどの方向に向けたいのか、それを決めるだけ」と書いています。到達点という意味での目標 (ゴール)ではない、いまからの「方向」だといっているわけです。その「方向」のずっと先には、抽象的な言葉での「目的」があるのでしょうが、そのような「言葉としての目的」でなくてもよいということでしょう。もっと直感的なものでよい、十分言葉になっていなくてもよいということです。
こういった意味での「方向」を、もっと分かりやすい言葉でいうと、「動機」というのがよいだろうと思います。
だから、貴君の質問に答えると、「目標、目的の作りかた」を知るには「動機」をもつことだ。もっと端的にいうと、「目標、目的」というのは「動機」があれば自然にできてくる (素直に作れる) と思います。
では、「動機」はどのようにして見つかる/できるのでしょうか?それは、自分の外の世界との接触を通して見つかる/自分で見つけることができる、と私は思います。いままだ見つかっていないのは、貴君が「自分を大切」にして、ぬくぬくとした「快適ゾーン」にばかり居るからで、「勇気ゾーン」に飛び出していないからだろうと思います。もっと思いきって、いろいろなことに触れてみる、体験してみることがよいでしょう。
「動機」というのは、論理とか知識とかが主導するのではありません。もっと、「心」の問題であり、喜怒哀楽の「感動」が主導する世界です。自分の外の世界に飛び込んで、そこで自分の心が動き (涙して)、その中から、自分がなにかをしようという「動機」が生まれるのだと思います。自分の「快適ゾーン」の中だけにいては、涙するほどの感動は生まれてこないのだと思います。

レポートとしては、「あまりにも要領がよい」と思います。ゼミで読んだ範囲は、この最初の部分と、自己信頼残高の話、第一の習慣「主体的に行動する」の範囲です。だから、「最初が重要だと思う」と述べて、「最初だけを書いているので何が悪い」ということになります。-- しかし、このレポートには、最初の部分以外の学習が反映されていない。要するに、そのあとの第一の習慣などの章の本文をほとんど読んでいないで、レポートを書いていることが見え見えです。
このレポートは要領よく書いてある。しかし、貴君は授業に10回中5回欠席している。本当に主体的には、学んでいないのでないか。そうだとすれば、もったいないことだ、と私は思います。

文章表現を別にすると、貴君が考えていることについては、大変しっかりしていると思います。自分で「ライン」(「原則」) を見出して、それに則って行動できるようになってきている、というのは立派なことです。
ただ、貴君が最後に書いているように、授業の中ではそれがいままでほとんどおもてに出ていないのが残念です。私はこのレポートを読むまで、そのような気持ちをほとんど理解できていませんでした。貴君はバンドに入って活動しているようだから、バンドで自分の気持ちを表現するように、普通の生活の中でももっと自分の気持ちをすなおにポジティブに表現できるとよいですね。
授業の中でも話しましたが、「主体的に行動する」ためには、(この本でいっている怒りなどの衝動的な行動を自制するという面よりも) 「(自分で考えて) より積極的に行動する」ことが大事なのだと思います。日本人がもっと持つべきは、積極性という意味での主体性だと、いつも思います。貴君にもそれを期待しています。

あるいはあなたは、「そのようなことはプライベートなことで、レポートに書く必要はない」と思うかもしれません。もちろん、内面のデリケートなことまですべてを書く必要はありません。ただ、「自分の目的は〜を学ぶことだ。将来〜になるんだ」ということを、秘密にしておかなければいけないということではないでしょう。それを話す、明確にすることによって、共感してくれる人ができ、友達ができるのです。何を書くか、だれに何を話すか、何は伏せておくか、そのときそのときで判断していくべきことです。

貴君のレポートの 「仲間のプレッシャを克服する」の所を読んで、貴君はきっと、自分の中では随分と自己を確立できてきているのだろうと思います。その自分を自信を持って前に (おもてに) 出していけばよいと思います。 「我を強く出す」というのとは違います。 謙虚でいて、そして悪びれないで、自分が考えていることを自然な感じで発言していく、振る舞いの中に示していくことだと思います。
たとえば、森の木の譬えの詩は、授業のときに読みませんでした。もし貴君が先に読んでいて (あるいは授業の時に気がついて) それがよい詩だなと思ったら、授業の中で、「先生、この詩、読みましょうよ。すごく良いですよ」というとよいのです。
それで皆で読んで、(あるいは誰か別の人が読んだ場合でも) 貴君が自分の感想を話すとよいのです。
そのようにしていると、自然と良い友達ができます。良い人が、(貴君の良さを分かってくれる人が) 近づいてきてくれて、話しかけてくれるようになります。それは、男の友達もそうですし、女性の友達だってそうです。そのような中で出会いが作れるのだと思います。
このようにいうと、なんとなく「仲間から浮く」、「仲間から煙たがられる」といったことを気にするかもしれません。それが、この本のいう「仲間からのプレッシャ」の一種です。日本流の「空気を読む」ことのプレッシャです。それらのプレッシャには「知らん顔」をして、自分を出していけばよいのです。森の木の譬えでいえば、風を受けて立てばよいのです。それは、「よい友達」を得る最善の方法です。「よい友達」しか、自分に近づいてこないのですから。近づいて来てくれる人はきっと互いに「よい友達」になれる人です。ゼミの中にも何人もいるでしょうし、学部の中ならもっと多くいるでしょう。

 (f) 全体の感想について

このレポートは、「この本を読んで、いろいろな所で感動した。いままであまり考えなかったことを考えるようになった。自分が変わったと感じる。この本はすごい本だ。」と書いています。そのような感動を持ち、自分が変わったというのは非常に大きなことだと思います。ぜひこの本を自分でじっくりと読み、さらに考えていって欲しいと思っています。

 

[E] 別ページ:  学生15人の レポート集(抜粋)  (「ゼミで、学んだこと、考えたこと」) (掲載: 2010. 3.11)

 

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最終更新日 : 2010. 3.11.     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp