TRIZフォーラム: 学会参加報告 (30)    
第10回 日本TRIZシンポジウム 2014 参加報告 (Personal Report)
   早稲田大学西早稲田キャンパス(東京都新宿区)、2014年 9月11 - 12日)

中川 徹 (大阪学院大学)、2014年11月20日

掲載: 2014.11.27; 更新:2015. 3.27

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  編集ノート (中川 徹、2014年11月20日)

日本TRIZ協会主催の第10回日本TRIZシンポジウム2014が9月に開催されました。遅くなってしまいましたが、参加報告を書き、全発表について簡単に紹介いたします。私は一昨年の第8回までずっとプログラム委員長として運営に携わってきましたが、2013年以降は運営に携わっていませんので、この報告も以前よりは簡単なものにいたします。特に、本報告を「Personal Report」として英文でも掲載し、海外の人たち、世界のTRIZコミュニティに日本でのTRIZの内容的な進展と活動の様子を発信することが、重要なことと思っております。

追記(中川 徹、2015年3月26日): その後、本ホームページにいくつかの発表を著者の希望・承認のもとに(独立ページとして)紹介・掲載しました。また、日本TRIZ協会が、招待講演、受賞発表、そして一般発表の全件を順次そのホームページで公表しました。そこで、このたび、本ホームページ内の掲載ページ、および日本TR協会サイト内の掲載PDFページへの個別リンクをつけます。英文ページも同様にしましたので、海外からのアクセスもあるでしょう。(2015. 3.27)

 

本ページの先頭 学会概要 運営 内容の要点(1)招待講演 TRIZの方法論 諸方法との統合 技術分野の適用事例 TRIZの推進
大学、教育における利用 知財関連

ソフト、非技術、社会への適用

おわりに TRIZシンポジウムのニュースのページ

日本TRIZ協会サイト

  英文のページ

 


(1) 学会の概要

名称:       第10回 日本TRIZシンポジウム 2014
主催:       NPO法人 日本TRIZ協会
後援:   品質工学会、(一般社団法人)日本知財学会 
協賛:       (公益社団法人) 日本設計工学会、(一般財団法人)日本科学技術連盟、(公益社団法人)日本バリュー・エンジニアリング協会、大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 統計数理研究所 リスク解析戦略研究センター、 日刊工業新聞社、 応用統計学会、 日本創造学会

期日:       2014年 9月11日(木)〜 12日(金) (2日間)
会場:       早稲田大学 西早稲田キャンパス 52号館(東京都新宿区大久保3-4-1)
主題:   TRIZで拓く未来!
Webサイト:  日本TRIZ協会ホームページ http://www.triz-japan.org/

(2) プログラム概要:

9/11(木):       チュートリアル (桑原正浩 (アイデア))、開会式、特別講演(田口伸 (米))、研究発表(ダブルトラック 10件)、パネル討論、夕食&交流会

9/12(金):    日本TRIZ協会総会、基調講演(Anatoly Gin (露)))、研究発表(ダブルトラック 2件)、ポスター発表(5件)、研究発表(ダブルトラック 10件)、閉会式

(3) 招待者、参加者など

桑原正浩 ((株)アイデア) チュートリアル 「TRIZの基礎、およびその他の手法との効果的な連携方法を学ぼう!」

田口 伸  (ASI Consulting Group、米) 特別講演 「海外における科学的手法の現状と展望」

Anatoly Guin (国際TRIZ協会、露)、基調講演 「競争力向上の手段としてのTRIZの経済・教育における可能性」、

 

参加者:   TRIZ協会だより (11月 8日) によると、参加者は合計135名。このうち、初参加者が36%、一方全10回参加者が18%とのこと。ユーザ企業からの参加者が多くを占めている(大学・教育関係はあまり多くない)ようだ。国内参加者数は昨年とほぼ同様で、盛会であるといえるが、海外からは、招待の2人のほかは、一般発表(1件)の関係者2名、その他2-3名(?) だけで、やはり(昨年同様、2012年までに比べて)国際性が顕著に減少している。

(4) 運営

基本的に、昨年度と同様に運営された。全体を2日間(基本チュートリアル 午前半日 + 講演・発表1日半)の短い編成にしている。(国内)参加者には、2日間の期日はおおむね好評であったという。[なお、前日午後に(基調講演者)ギン氏によるセミナーが行われたようだ。]

計画の公表と発表募集(2月)、発表のアブストラクト締切(5月)、第1次プログラムとアブストラクトの公表(6月)、最終原稿締切(7月下)、参加締切(8月) など、日本語と英語の並行公表による諸準備が従来同様に整然と行われた。また当日の会場運営なども (ごく一部を除き)スムーズであった。これらの点は世界各国のTRIZ関連学会と比べて特筆すべき優れた点である。

国内の関連学協会による後援・協賛が10団体に拡大し、協力が得られたこともよかった点である。海外から2名の招待講演者を招き、それぞれ貴重な話であった。一般の研究発表は、オーラル22件とポスター5件(うち海外1件)であり、昨年度とほぼ同様である。

シンポジウムの国際性に関しては、昨年大幅に縮小した結果になったが、今年それを回復できなかった。日本語スライドの英訳をプログラム委員が(機械翻訳を使って)全件サポートし、和文と英文で同時投影して、両言語のProceedingsができているのは貴重である (機会翻訳の英訳スライドはさらに推敲の必要がある)。ただそれでも、海外からの一般発表がほとんどなく、一般参加者がほとんどない状況であり、日本のTRIZが国際的な刺激を十分受け取ることができていない。アジア諸国(韓国、マレーシア、イラン、中国、など)の活発化に比較したときの、日本のTRIZの国際性の縮小が顕著である。日本TRIZ協会の執行部がやはりこの点の改善に努力する必要があると、私は思う。

 

(5) 内容の要点(その1) 開会・閉会挨拶、基調講演・特別講演、チュートリアル、パネル討論

できるだけ内容を伝えることが大事と思うので、Proceedings のスライドを読んで、(ほぼ)全発表の要点を紹介しておく。なお、 「--」以後は私の感想。(*)印は私が実際に聴講したもの (ダブルトラックのために私が聞けなかったものがあり、このマークをつけていない)。 末尾の ●印は、一般発表に対する参加者投票で「あなたにとって最も良かった発表」の賞を得たもの(5件)。印は、その他で私が推奨するもの (7件)。

まず招待の講演をこの節にまとめる。

JI01  開会挨拶 三原 祐治 (日本TRIZ協会) 「開会にあたって」 *   

JI   閉会挨拶 澤口 学 (日本TRIZ協会) *  

EI01  基調講演 アナトーリー・ギン (国際TRIZ協会 学校教育担当副会長、ロシア)、「競争力向上の手段としてのTRIZの経済・教育における可能性」 *  

大きな変化が絶え間なく起こっている世界において、「新しい時代のための教育」は、矛盾に対処する方法、未整理の(氾濫するそして不十分な)情報を扱う力、さまざまな問題を解決する力を育てなければならない。TRIZによる教育の革新を考えよう、という。

JI02  特別講演  田口 伸 (ASI Consulting Group /American Supplier Institute (ASI) (米))、「海外における科学的手法の現状と展望:タグチメソッドによる機能のロバストネスの最適化〜エポックメーキング事例を通して」 *    

タグチメソッド(品質工学)の発展の歴史を(1950年代から最近まで)、その開発者田口玄一博士の日本と米国での画期的な適用事例を綴って解説している。一つ一つの事例でどのように新しい理論的観点が導入されていったのか、それまでの常識を覆していった田口哲学を話している。-- 事例を十分に理解することは私にはできていないが、貴重な解説であった。

JI00  チュートリアル 桑原 正浩  (アイデア) 「TRIZの基礎、およびその他の手法との 効果的な連携方法を学ぼう!」 *  

初心者の人たちを対象にした2時間のTRIZ紹介。企業で「ヒット商品を生み出す」ための方法が必要とされていること。TRIZの基本的な方法の概説。QFD-TRIZ-タグチメソッドの連携によるヒット商品の開発のやり方。など。

パネル討論 司会: 澤口学(早稲田大学) 「未来に向けてのTRIZの目指すべき方向とイノベーションへの寄与」 *  

JP01  パネル討論  長谷川浩志(芝浦工科大学)「TRIZ研究の方向性とイノベーション創出支援について」 *  

設計工学の研究者の立場から論じている。まず、今まで世界にはさまざまなデザインプロセスが、理論づけられ、実践されてきている(ポール&バイツの工学設計論、Vモデル、Design for X、IEEE1220-2005のシステムズアプローチ、などなど)。そのキーワードは「質の保証」であり、デザインプロセスはことづくり、シミュレーションまでに及ぶ。ただし、プロセス重視でアイデア創出支援は弱い。これに対して、TRIZはアイデア創出に極めて有効である。よって、TRIZの研究の方向として、「デザインプロセスとの融合、質の保証、アイデア創出支援の強化」を挙げる。

JP02  パネル討論  永瀬徳美(ソニー) *  

企業内のTRIZ推進者として、PCC社で6年余、ソニーで7年余の活動をしてきた実践者の立場から述べている。TRIZがどう評価されているかを考えると、(各社での)活動初期には「TRIZを使うと様々な切り口からアイデアを出せる!」、活動が洗練されてくると、TRIZそのものよりも「TRIZ(思考)を使いこなす者は確かに評価に値する!」に移る。これからのTRIZについては、新たな実践者・理解者の拡大に向けて「分かりやすいTRIZ」を追求したい(ただし、「簡単にできる」のとは区別していきたい)。TRIZを「アイデア多発化のツール」としてよりも、「価値を創造するTRIZ」としてその深耕と実践強化をしたい。

JP03  パネル討論  有田節男(日立製作所) *

日立で1997年より「開発設計プロセスの革新」プロジェクトの推進に関わり、またTRIZの推進を行ってきた実績から述べている。TRIZは、製品・技術の全開発ステップで利用可能な強力な武器である。それと同時に、製品開発の各業務ステップでは、TRIZだけでなく、KT(ケプナー・トリゴー)法、QFD、タグチメソッドなどが活用できる。これらを組み合わせた方法、特に、TRIZとKT法を組み合わせた製品開発プロセスを推奨している。TRIZのイノベーションへの寄与については、TRIZが体系的な思考を提供することを重視し、イノベーションを起こす人の育成に用いるべきである。

JP04  パネル討論  緒方隆司(オリンパス) *  [Proceedings にスライドなし]  

JP05  パネル討論 吉田尚之(JNC) *   [Proceedings にスライドなし]

 

(6) 内容の要点(その2) 一般発表(オーラル発表、ポスター発表)

一般発表の全件を(昨年の報告とほぼ同様に)カテゴリ分けして示す。発表共著者の名前や所属は一部省略している。

A.  TRIZの方法論

J01 ○緒方隆司、藤川一広、土屋浩幸 (オリンパス)、「SNマトリックスとTRIZの連携による顧客ニーズの取り込み〜7つのソリューションを繋げる機能ベースの展開〜」、オーラル1  ●  (2015. 1.18)  

本発表が追及しているのは、自社の技術シーズ(S)をベースに、顧客のニーズ(N)に繋げること、特に顧客にとっての新しい魅力的品質を(技術開発により)提示し、潜在ニーズを引き出すような方法を作り上げることである。その方法として、自社技術からの目的展開(どんな目的に使いたいのか(という願望))と、それを実現するための手段の展開を、「機能」の表現で一貫して記述する。その(階層的に表した)機能ごとに、機能達成レベル(目標と現状)、他社技術(レベルと内容)、顧客要求、優先度などを一覧表示し、それをSNマトリックスと呼んでいる。これらの表現法を使うと、やりたいことを膨らませて(戦略に沿った)シーズを発想し、そのシーズからニーズを引き出し、さらにそのニーズに合った機能の実現手段を発想することが容易になる(これらの前段・後段の発想で、TRIZとその知識ベースツール(具体的にはGoldfire) が有効に使えるという)。またこの機能による表現とSNマトリックスは、7つのカテゴリの問題解決プロセス(「ソリューション」)に共通して利用できる、という。-- 足が地に着いた、そして同時に理論的な骨組を持った、素晴らしい発表であると思う。

J02 ○土屋浩幸、澁谷哲功、緒方隆司 (オリンパス)、「SNマトリックスとTRIZの連携による設計時のリスク回避〜7つのソリューションを繋げる機能ベースの展開〜」、オーラル3  

設計時のリスク分析では、ベテランメンバーが行っても(考察に漏れがあり)予期せぬ不具合が出、その防止には多大の時間を要していた。そこで本発表では、目的に応じて特性要因図や機能系統図(SNマトリックス)を使ってリスク分析の対象を絞り込み、空間と時間の観点で機能を見て、またTRIZ(科学効果Effects)を活用して危険を多面的に抽出した。また、リスクの大きさを評価するのに、SNマトリックスを活用した(目的別の評価項目と水準、他社の対策、顧客要求など考慮)。このようにして抽出した問題となる機能から、解決部位を明確にして、TRIZやタグチメソッドを用いてリスク回避の解決策を作る。-- しっかりした方法であると思う。

J05 ○澤口 学、石川真太郎 (早稲田大学、富士通)、「理想性設計を目指した構想設計プロセスに関する研究」、オーラル9  

各要求をシステムが満たしている度合を、情報量の概念に基づいて定義することを試み、それでシステムの理想性を定義しようとしている。ホットコーヒーのための紙コップの各種デザインについて、理想性の評価をし、さらに紙コップの改良案を作り、評価している。

J08 ○新井信昭、桑原正浩 (新井国際特許事務所、アイデア)、「S字カーブ分析による技術予測〜イノベーション誘引方法論としての一考察〜」、オーラル6  

3Dプリンターを例に取り上げ、特許の各年出願数の変化から、S字カーブでの段階を見ようとした。時期的な変化(出願の波、主要プレイヤーの交替)は分かるが、S字カーブの段階という意味では明瞭でない。TRIZの技術進化のトレンドや同一機能の新しい原理での実現などを調べることが、今後のイノベーションを予測するのによいだろう、という。

J09  吉澤郁雄 (産業能率大学,[日本TRIZ協会 新しい時代の教育研究分科会])、「物質―場分析と標準解を用いたオープンタスクに対する解答案の創出」、オーラル8   

昨年11月に発足した研究分科会では、「一般教育の有効性を高めるためのTRIZの活用」を目的として、A. Guin他著の「オープンタスク集」を題材に、解を自ら探す事例集を作る活動をしている。解を探す方法として、TRIZの「物質-場分析」と「発明標準解」の適用事例を作っている。-- いくつもの身近な問題で、各問題に複数の解決案を作り出す過程を示しているのがよい。

J10  井坂 義治 (アイデア)、「TRIZ適用拡大のための一法〜TRIZが使いにくい商品への適用のために〜」、オーラル10 *  (2015. 1.18)  

農林業用などの多くの作業機械の動力源として用いられている「汎用エンジン」などでは、基本的な要求が変わらないので、同じ商品がずっと何十年も提供されている。そこにはTRIZを適用する余地がないのか?この例では、ターゲットユーザである作業機メーカのエンジン選定責任者を納得させられる「売り文句」を見出す必要がある。そのために、いろいろな発想法を使って、「売り文句」になる機能・特徴を考える。そしてその後で、それを実現する方法をTRIZを使って創り出す。これをTRIZの問題解決の「テーマ決定」段階と位置付けている。-- 地味だが重要な問題提起であり、具体例での考察を関係者間の問答形式で書いていて分かりやすい。優れた発表であると思う。

J13  黒澤愼輔 (TRIZ塾)「生産的思考の技術としてのTRIZの8つの原理」、ポスター1 *  

著者は「ニーズを満足させる方法を発見する行為としての思考」を「生産的思考」と呼んでいる。それには、既存の知識を深堀りする「分析プロセス」と、既存の知識を使って新しい知識(すなわちニーズを満足させる方法)を生み出す「創造プロセス」がある。前者に沿ったTRIZの原理が、モデル化、システムアプローチ、RTV(=CID)/心理的技術、発明のレベル/比較の基準であり、後者に沿ったTRIZ原理が、矛盾、進化の法則、資源、理想性である、という。-- 著者の経年の論考の一つとして興味深い。

J16  ○長井哲也、三原祐治、留目 剛、古謝秀明、志方敬 ([MPUF])、「原因探索展開 (DeSC)〜問題の原因を網羅する〜」、ポスター   

問題を深掘りする際、「なぜなぜ分析」は一つの原因(犯人)を探そうとするが、そうではなくて、「なぜなぜ展開」をして手の打ち所を多数見つけることが、創造的問題解決に向いている。この展開(=発散思考)のために、さまざまな観点を網羅してチェックリストを作った。これを利用した「なぜなぜ展開」を「原因探索展開(DeSC)」と名付けた。-- 分かりやすく、有効と思われる。

J22  高木芳徳 (個人) 「発明原理すごろく〜TRIZ発明原理シンボル40 on 9画面〜(発明原理の番号順グループ化)」、オーラル14  (2015. 1.18) 

著者は一昨年に発明原理40を、手描き絵文字風にシンボル化して発表し、好評を得た。今回それらをより教えやすくするために、グループ化することを考え、基本的に初めから4個ずつ、最後を調整して9グループにした。グループ名をつけ、9画面に配置し、すごろくのようにたどる経路を作った。「無害化」グループ(原理21〜24)を例にして、その研修のしかた、活用のしかたを示している。-- 非常に分かりやすく有用である。活用のしかたも生き生きしている。

 

B.  TRIZと他の諸方法との統合

J24  ○小林久朗、古稲 計、鈴木信幸、松岡久美子 (リスクマネジメント協会)、「TRIZによる業績向上のためのリスクマネジメント〜リスクマネジメントで分かる成長のタイミングと市場規模〜」、オーラル18   

「リスクマネジメント」は本来、事業目標に影響を与える「不確実性要素」をマネジメントするものであるから、災害・事故などのマイナス面だけでなく、プラス面をも含む。TRIZによる(自社または他社の)イノベーションなどは、大きな不確実性要素となる。

J26  中川 徹 (大阪学院大学 & クレプス研究所)、「創造的な問題解決・課題達成のための一般的な方法論(CrePS):いろいろな適用事例と技法を「6箱方式」で整理する」、オーラル22 *  (2015. 1.18)  

CrePSとは「創造的な問題解決・課題達成のための一般的な(一般化した、一般的に使える)方法論(方法の体系)」として構想されているもの。「TRIZ/USITをベースにして、6箱方式の枠組みを使うと、多様な諸技法を再編して、この一般的な方法論を実現できる」と、私が提唱している。その開発のために次の項目を実践中。(1) CrePS の適用事例集を作る(既発表の諸事例を利用できる)。 (2) TRIZ その他のさまざまな技法を理解して、CrePS の枠組みで記述する。 (3)「現実の世界」の種々の活動に CrePS を位置付ける。(4) CrePS の種々の適用目的を分類し、 各目的に沿った簡潔な CrePS プロセスを提案する。(5) CrePS のビジョンの普及を図る。--本ホームページに論文とスライドを掲載しています。

 

C.  技術分野の適用事例

J04 ○谷口友規、津波古和司 (HGSTジャパン) 「ハードディスク業界におけるイノベーションによる技術進化のトレンド」、オーラル7 *  

HGSTジャパン社(旧社名:日立グローバルストーレッジテクノロジ) でハードディスクの開発に永年関わってきた著者らが、同分野での技術進化の歴史を考察している。考察の土台は、C. Christensenの「イノベーションのジレンマ」と、D. Mannの「技術進化のトレンド」である。システムの小型化に伴うローエンド型の破壊的イノベーションが数度に渡って繰り返され、マクロからナノスケールへの進化が追及されてきたが、それが限界にきている。将来に向けての同社の取り組み体制を最後に紹介している。

J11  岡田 聡 (日立製作所)「過酷環境で使用するロボット開発へのTRIZ活用」、オーラル11 (第2日11:20) *  ●   [著者の要請により、TRIZ協会のホームページで非公開。当日のProceedingsには掲載。]

福島原発の廃炉処理のためには、格納容器の内部(それでもまだ反応容器の外)に入り、移動しつつ映像を送信してくるロボットの開発が必要である。この際、2つの大きな困難があったが、 TRIZを用いて解決し、試作した。(1) 格納容器に入るには、直径100mmの既設配管を通過し、内部では格子状の鋼材上を動き回る必要がある。==> 細長い本体の両端に向きを変えられるクローラを配置し、器壁通過時には全体を一直線にし、器内ではコの字型にして安定走行させる(時間による分離)。(2) 過酷な放射線環境であり、モータの制御装置やカメラのCCD制御装置の電子基板が耐えられない。==> 器内に入るロボットには、モータとCCDだけを搭載し、放射線に弱い制御装置(電子基板)は器外に置き、シールドしたケーブルでつなぐ(空間による分離)。テストを完了し、2015年春に格納容器内部の観察を実施予定である。-- TRIZらしい明快で新規な解決策と思う。原発事故に重要な役割を果たしてくれるように期待する。

J15 ○留目 剛、三原祐治、青木和茂、熱田達彦、志方 敬、中山憲卓、長井哲也、牧野泰丈 ([MPUF]) 「10日間不在時プランターに水を供給する方法」、ポスター3 *  

有志によるMPUFの新しい研究会で、USITの習熟・演習を目的として実施した事例の報告。10日間不在時にプランターに水やりをすることを目的とし、その課題を「毎日、土に水を一定量均一に供給する」と文章化した。現行のシステムの分析、理想の振る舞いの考察、時間と空間での分析の後に70余のアイデアを出し、それから4つに絞って案を示している。-- 解決案そのものよりも、プロセスの途中でのいろいろな気づきに意味があるといえよう。ただ、USITの適用法としても (分析の図をきちんと仕上げるなど)もっとよく練った形で発表してほしいと思う。

J18  土屋 翔 (ユニバンス)、「自動車用ユニット開発におけるTRIZ適用事例」、オーラル15   

自動車用のパワートレインシステム&ユニットを主力製品としている企業で、コンサルタントの指導の下に TRIZの導入を始めた。2013年度には、トランスファユニットの摩擦低減をテーマに、 TRIZ適用の全過程を実施した。2014年度は、より短期間で成果を出すことを目指し、「ギアボックスの小型化」をテーマに、TRIZの問題解決の短縮版を適用した。問題の本質化段階で原因結果分析を行い(5日間)、アイデア出し段階では TRIZの発明原理を使い(4日間)、アイデアの有効化(選択と連結)段階ではサブシステムごとのアイデア結合とコンセプト選択を行った(3日間)。この結果、現行166φ×108.5のサイズから、目標(125φ×108.5)を上回る小型化(118φ×108.0)を達成できた。アイデア選択段階で、案を根本原因別に「開発期間―効果」のグラフに貼り、短納期・高効果なアイデアを選択する方法が有効であった。--  TRIZの適用法を習得・調整していった事例として、興味深い。

J19 大岡秀充、平岡克通、○松田幸士、山本拓司 (伸和コントロールズ)、「TRIZによる高耐久性電動弁の開発」、オーラル17 *  

2012年のTRIZシンポジウムで、(製造業のための)空調装置を小型化 (フットプリントで1/2) した事例を報告したが、今回は機器事業でのバルブの開発事例を報告する。電動弁に対し3つの要求がある。動作耐久性(10年間連続動作)、高分解能の制御性(分解能数千以上)、純水対応。TRIZの適用プロセスは、前回同様であるが、特に機能属性分析をし、各構成要素ごとに潜在的リスクと改善策を検討したのが有効であった、という。流量 vs 開度の線形性の良い(だから、分解能の制御性の良い)試作品が得られた、という。

J20  吉田尚之(JNC(株))、「JNC株式会社におけるTRIZ活用事例紹介」、オーラル19 *  

JNCは「先端化学企業」の目標を掲げ、新規事業・製品の開発と、生産技術の革新が、経営計画の(第3と第5の)テーマである。2010年からTRIZの導入を始めて、2011年以降各事業所で外部コンサルタントによる実践研修を行ってきた。事例として「多孔平膜試作装置の開発」の例を発表する。テーマは、「大面積(長尺)の多孔平膜を作れて、さまざまな条件と膜厚で、多様な処理(硬化処理など)ができる、多孔平膜試作装置を設計すること」であった。短期目標のシステムを試作し、表面が微細に制御された3次元網目構造を持つ高通液性のMF膜で、平均孔径0.1, 0.2, 0.3 μm のものを製作できた。社内コンサルタントを育成して、実践を進めている。普及(周知)活動と「社内御用聞き」に注力している、という。-- 上記事例で問題解決のプロセスが説明され、その具体的内容は当日のスライドでは投影された(と思う)が、Proceedings ではマスクされている。社内での定着が進みつつあるようだ。

J21  片桐朝彦 (アイデア、SWCN)、「TRIZ&TM&シミュレーションによるコマの開発〜全日本製造業コマ大戦への挑戦〜」、オーラル21  ●  (2015. 1.18)  

SWCNは、Solid Works Club of Naganoの略称で、(そのWebサイトによれば)2007年に発足した非営利・個人参加の異業種交流のクラブだという。「全日本製造業コマ大戦」は、2012年2月に第1回、2013年2月に第2回が開催されている。20φ以下の手回しコマというだけで、重さ、長さ、形、材質など一切制限なし。1対1の勝負で、より長く回っている方が勝ち、2連勝で試合終了。本発表のProceedingsでは、設計のいろいろな矛盾を考察し、タグチメソッドとシミュレーションで、多様な設計を試作検討している。-- ただ、第2回全国大会で準優勝したSWCNのコマは、回すとパカッと3つに開いて回転する「ネコパンチ」と名付けたもの。シンポ会場で、発表は聞けなかったが、実物をちらっと見た。コマ大戦のサイトに試合の動画が掲載されている。面白い。第3回は2015年2月ごろの予定という。

E01  ○Sérgio Baltar Fandino, Luiz Rodrigues Junior, Rodrigo Ribeiro Maciel (UEZO/SENAI CETIQT). 「The improvement of the fabrics used in the professional market through research on consumer need and engineering parameters」,ポスター5   

本シンポジウムにおける海外からの唯一の一般発表(ポスター発表)であった。ブラジルのSENAI CETIQT (Technology Center of Chemical and Textile Industry) からの発表である。-- 残念なことに、スライドを読み返しても要点が掴めない (ポルトガル語から英語への機械翻訳と思われる)。このセナイというのは、ブラジルでの工業分野の職業訓練・人材育成の制度で、労働者と雇用者が折半で労働者賃金の1.5%を職業訓練税として納め、人材育成を行う、国の制度、という。中卒者や高卒者に対して2〜3年の職業訓練を実施する。

 

D.  企業におけるTRIZの推進

J17  久永 滋 (デンソー)、「実践の場でどのように初心者をTRIZへ導くか」、オーラル13 * ●  

デンソーでは(昨年のTRIZシンポで発表したように)、10年前からTRIZを導入し、「実践主義」で、幅広いテーマで、短時間(20時間以内)での適用を推進してきた。希望者のみで初心者が多い活動チームを、TRIZ推進者がリードする。この際、初心者のニーズと指向にマッチしたアプローチとツールを採用しないと、うまくいかないことが多い。従来事例を整理して、初心者の3つのニーズ(多くのアイデアがほしい、決定打を出したい、根本から見直したい) と、2つの指向(制約の外へ、制約の中で)を分類した。各カテゴリで、しばしば使う TRIZの方法でうまくいったものと、うまくいかなかったものを、初心者の指向から考察した。まとめとして、これらの3×2の場合での推奨する方法をまとめている。-- 深い考察を持った発表である。「TRIZ実践の成功は、技術的成果だけでなく技術者の満足度も深く関係する。それには、コンサルティングよりコーチングが効果的」というのがこの発表の結び。

J23  ○津曲公二、酒井昌昭 ((株)ロゴ)、「TRIZをビジネスに普及させるには」、オーラル16 *  

TRIZがビジネス界でほとんど知られていない。「TRIZは優れたアイデア発想法として相応の認知はされているものの、経営者からの認知は全くない。別の大きな価値が埋没しているのではないか。発表者の結論は、TRIZは技術者が世界観(技術観)を持つための基本素養としてぴったりである。技術観の醸成に役立てることで、技術者の人材育成に新たな局面が開ける。遠回りに見えてもここを経営者に訴求するべきである」と述べる。-- 学生に技術者の倫理を講義する過程で、この点を強く認識したという。

J25  粕谷 茂 (ぷろえんじにあ)、「ユビキタスのためのTRIZ マーケティング〜いつでも、どこでも、誰でもTRIZを利用できるように〜」、オーラル20  (2015. 1.18) 

研修やコンサルティングにおけるユーザの顕在的/潜在的なニーズに応えるための、さまざまな試行・技法・ツールなど10事例を発表している。40の発明原理のスマホ版(1画面/原理)、IT/ソフト分野のための40の発明原理(スマホ版)、他の諸技法をTRIZの技法と関連づけ/意味づけて捉える(オズボーンのチェックリスト、NM法、ホンダのワイガヤ、目的展開、QCストーリなど)。TRIZは高価なものではない、いつでも、どこでも、だれでも使えるようにと、発表者が努力している。-- 詳しくは、「ぷろえんじにあ」のWebサイトを参照するとよい。

 

E.  大学・学界・教育におけるTRIZの利用

J06  大津孝佳 (鈴鹿工業高等専門学校)、「ロボット教育におけるTRIZ〜ブロックロボットのTRIZ教育への適用〜」、オーラル2 *    

鈴鹿工専において、知的財産教育活動、実践的な創造的技術教育、地域連携の科学技術好き人材教育などを、(地域の小中校・大学・県などと協力して)精力的に行っており、その実施例を発表している。(1) 課題研究科目。(2) 3Dブロック(アーテック社製)を用いて、ロボットや乗り物を作る。(小学生でも興味をもっていろいろ作る。)この際にTRIZの発明原理(のうちのよく使われる10原理)を利用して、構造・機能・制御などを検討させる。(3) 中学生エネワングランプリに挑戦。課題:「充電式電池40本で、7.8%勾配のある鈴鹿サーキット(5.807 km)を3周する」。最先端技術を教える&自ら学ぶ: 金属の代わりに発泡アクリルの両側に炭素繊維を貼り付けた複合材料とし、炭素繊維に樹脂を含浸させて炭素繊維強化プラスチックを自作し、シャーシ部の平らな板の上に前輪軸と後輪軸を取り付けたBox構造とする、などで、中学生が自動車を作れた。電気自動車部門で総合18位/85 (中学生部門優勝)、電気自転車部門で総合3位/15 (中学生部門優勝)の実績。-- 多数の写真で生き生きした活動の様子が分かる。この簡単な紹介では伝えきれないのが残念。

 

F.  知財に関連する研究

J07  永瀬徳美 (ソニー)、「未活知財を覚醒させ、新たな顧客価値を創造する実践的アプローチ− Four Twist マトリックスによる社内知財発掘〜新たな顧客価値創造 ―」、オーラル4 * ●   

「自社の技術・発明成果を生かして、新たな商品・顧客価値に繋げよ」という大号令が出ても、いままでのアプローチを踏襲していては新たなものは出ない。新しい実践的なアプローチをここに提案している。本発表では、概要を述べた後で、「電動歯ブラシ」という身近な商品への参入の検討事例で、丁寧に論理を説明している。骨子は、(0) 参入領域を仮設定する。(1) 他社の先行特許を調査して価値創出の仕組みを学習する。この際、発明の効能・効果 vs (原理的)しくみ・作用力のマトリックス(対応表)を作る。(2) 先行特許の実施例から具現化の工夫や転用・応用の知見を獲得・学習する。(しくみ・作用力 vs 解決技術手段・工夫 のマトリックス)。(3) 自社知財をこの解決手段・工夫の観点から棚卸し、自社発明を発掘する。(解決技術手段・工夫 vs 自社知財から発掘した発明 のマトリックス)。(4) 発掘した発明の結合・融合により新たな価値創出を考える。(自社知財からの発掘発明 vs 新たな顧客価値 のマトリックス)。これらの4つのマトリックスを(ロの字形に配置して)「Four Twist マトリックス」と呼んでいる。-- 考える方法をきちんと体系的に説明した、優れた発表である。この方法での特許や自社知財のデータ処理に、Goldfireが有用であるという。 

 

G.  非技術分野でのTRIZの適用

J03 ○伊沢久隆、吉澤郁雄、池田 理、何 暁磊、菊池史子、森谷康雄 ([日本TRIZ協会 B&M TRIZ研究分科会] ソニー(株)他) 「Darrell Mann提唱のビジネス・マネジメント系進化トレンドの適用方法と適用例〜進化トレンドをTRIZの世界から翻案してビジネスやマネジメントの日常に持ち込む〜」、オーラル5 *   (2015. 1.18)  

TRIZ協会のビジネス&マネジメント研究分科会では、昨年報告した「ヒット商品・サービス」システムの創出に、「進化トレンド」が有効であったことから、今回、「進化トレンド」をさらに便利にすることを目指した。(1)Darrell Mannの本の進化トレンドの、日本語での分かりやすい解説集を作った。(2) ビジネス・マネジメントでよく用いられている他の技法(野中のSECIモデル、バランススコアカードの4つの視点(財務、顧客、業務プロセス、学習と成長)、SWOT(強み/弱み/機会/脅威)分析)との関連を明らかにした。(3) 進化トレンドの適用実例を作った(事業再編により使われなくなった技術を使って、新しい技術サービスのビジネスモデルを提案する)。32の進化トレンドで、3C (顧客、自社、競合他社)を検討するのが、大いに有効であった、という。

J12  ○加藤結衣、澤口学 (早稲田大学) 「デザイン業務のプロセス改善に関する研究」、オーラル12   

現状のデザイン業務は、専門性・細分性・属人性が高く、非定型である。デザイン業務を可視化することによって、暗黙知を組織知化し、デザインの改善と専門スキルの向上を図ることを目的とした。まず、デザインの制作意図と評価項目を協議し、(AHP法を用いて評価の重みを定量化した)デザインコンセプトを作る。そのコンセプトに沿って複数のデザインを制作し、ついで総合評価を行う。ここで評価の低いデザイン項目について、TRIZでの矛盾解決の方法により、デザインを改良する。(このためには、TRIZの矛盾マトリックス(Matrix 2003)で、デザイン分野に適するように、パラメータの集約・調整を行い、発明原理の選択・調整をした。)-- デザイン業務の可視化・非属人化はまだまだ困難なテーマで、大きな課題であるようだ。

J14  ○長谷川公彦、片岡敏光、鈴木 茂、竹内 望、永瀬徳美、正木敏明、石原弘嗣、西井貞男、([日本TRIZ協会 知財創造研究分科会])、「簡単なTRIZ的価値評価方法の提案〜高齢者の新しいライフスタイルの提案を例として(その1)〜」、ポスター2    (2015. 1.18) 

この発表は(Abstractによれば)、数年にわたり継続的に活動してきたTRIZ協会の知財創造研究分科会が、今後の活動について「いつも気になっていること」というテーマで自由討論した結果生まれた、新しい活動テーマであるという。それは、テーマの目的を議論した結果、上位目的(ビジョン)として、「高齢者とその関係者が幸せな生活を送る」と設定し、目標(ゴール)として、「高齢者が自分の問題と他人の問題を解決する」とした。もっと具体的には、「定年を迎えた研究者・技術者が生きがいを持った生活を送りたい」という問題意識に、「自分のビジョンを実現する目的のために、自分の問題と他人の問題を解決する」という解決策を作り出していこうとしている。そのような「高齢者の新しいライフスタイル」を提案し、そのためのいろいろな考え方を整理し、実現のための環境を整える活動を提案していこうと考えている。-- 日本社会にとって、また高齢になりつつある多くの技術者、特にTRIZ実践者の多くにとって、大事なテーマであり、アプローチであると思う。今後の活動が期待される。なお、このテーマでの活動を主に考えると、本発表の題名は、主題と副題を逆にした方が分かりやすいと思う。

(7) おわりに

以上のように、全発表を読み直して、紹介してみたうえで、いくつかの感想をまとめておきたい。

(a) 全体として、日本のTRIZは、さまざまな企業の技術者たち(特に中堅〜中間管理職のレベルの技術者の人たち)が担っている。このことは、90年代の導入期から変わっていない。ただ、団塊の世代の引退が進みつつあるから、人としては交替しつつある。

(b) 上記に対応して、企業内で、ボトムアップの方式でTRIZ推進が行われていることが多い。十数年の活動、あるいは最近数年の活動が社内で評価されて、ある程度の組織活動が定着してきている企業もある。日立グループが全社的な活動を1997年来継続していることが特記される。それでも、経営陣が積極的にTRIZを推進をしている企業は皆無である。日本のTRIZの大きな課題である。

(c) TRIZの適用法に関する理解とその実践は、日本において随分進んできた。古典的TRIZ、あるいは、海外・国内のコンサルタントが提示するままのTRIZから、自社の状況・ニーズに合わせて調整しなおしたTRIZの適用が進んできていると思う。QFDやタグチメソッドに対する対応も同様であり、TRIZと関連の方法を、簡潔にかつスムーズに繋げて使うことも、随分と行われてきた。また、企業がそのようにTRIZを「導入して消化する」のに必要な期間が随分と短くできてきている。TRIZに対する国内の全体的な理解が進んできたことによるといえよう。

(d) 日本のTRIZの大きな課題の一つは、しっかりしたTRIZ研究センター、TRIZ研究開発グループを持っていないことである。世界的に見たときに、欧州での大学の拠点、米国でのコンサルタント/ベンダー企業、韓国での企業内拠点、マレーシアや中国での政府支援の組織などが、TRIZの研究開発を担っているといえるが、それらに比肩できるような日本での組織・グループができていない。このために、本格的なTRIZの方法の改良・発展ができていない。例えば、日本独自での、TRIZ関連のソフトウエアツールの開発が行われていない。

(e) 大学教育の中へのTRIZの浸透は遅々としている。今回のTRIZシンポジウムでは、大学からの発表は1件だけである。高専では、いま、知財教育の強化と関連して、TRIZ導入の機運があるようだ。鈴鹿工専の活発な教育活動が報告されたが、その他にも少し聞いている。小中高のレベルでも、また大学院のレベルでも、TRIZの考え方を普及させるためにもっと活動しなければならない。

(f) TRIZと関連技法との協調・融合が強く望まれる。今回のシンポジウムで多数の関連学協会から後援や協賛を得たことは、好ましいことである。それらの組織との人的な交流、方法の内容的な交流を強めていく必要がある。

(g) ただ、ちょっと見回してみると、これらの学協会とは違うところでいま、「イノベーション」は重要なキーワードであり、政府も、企業も、経営陣も、マスコミや出版も、大学でさえも、動き回っている。われわれは、「イノベーションのための方法・技法・思想」といえばTRIZが重要な位置を占めるべきだと確信しているのだけれども、それを説得できていない。われわれがイノベーションをリードする立場に入ることが困難である一方で、イノベーションをリードしている人たちがTRIZを理解することが(おそらく時間的な理由で)困難になっている。人的な協力関係を作ることが、最も確実で、最も有効なやり方なのであろう。

(h) 上記に関連して、ビジネスの観点、社会の観点をTRIZがもっと強く持つことは、大事なことである。今回のシンポジウムで、この方向での発表がいろいろあったことはいいことである。今後も一層発展させるべきことと思う。

(i) 最後にもう一度、国際性の必要について言及しておきたい。日本のTRIZコミュニティが、国内にばかり目を向けて、海外のTRIZの成果や動向を知らずにいると、それだけ遅れて行ってしまう。海外の情報を得るには、海外のものを直接読む、国際会議に出かける、日本に来てもらって話を聞く、のどれか(本当は全部)をしなければならない。「(招待でないのに)海外から日本での発表に来てくれる」のが、日本のTRIZコミュニティ全体が潤う最も良い方法である。第8回までのTRIZシンポジウムはこのために随分の努力をし(日本の成果や活動の情報を発信するのも努力の一つ)、その実績を作った。是非、その状況を復活させるようにするとよいと思う。TRIZ協会の委員の人たちにぜひ考えていただきたい。

 

なお、TRIZ協会は11月19日に、招待発表と受賞発表5件のスライドを公式サイトに公開し、他の一般発表を会員専用ページに掲載した。本『TRIZホームページ』でも、著者の同意が得られたものをいくつか公開で掲載したいと考えている。

追記: 一般発表を含む全発表のPDFファアイルが、TRIZ協会のサイトに(1月14日に)公開で掲載された。ただ、その後3月20日頃に、協会サイト内でのフォルダ構造の変更が行われ、全発表の個別のURLが変わった。今回は、新しいURLでリンクを作りなおしている。(2015. 3.26)

 

 

本ページの先頭 学会概要 運営 内容の要点(1)招待講演 TRIZの方法論 諸方法との統合 技術分野の適用事例 TRIZの推進
大学、教育における利用 知財関連

ソフト、非技術、社会への適用

おわりに TRIZシンポジウムのニュースのページ

日本TRIZ協会サイト

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最終更新日 : 2015. 3.27    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp