USIT講義ノート:
USIT ニュースレター と ミニ講義  (第4集) 
Ed Sickafus (Ntelleck, USA),
第19号 2004年 6月19日 〜  第28号 2004年10月 4日
  訳: 中川 徹 (大阪学院大学 名誉教授), 2013年 3月〜4月
    

和訳掲載号: (19)〜(28); 同 英文原文PDF   [掲載: 2013. 4. 6]

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  編集ノート (中川 徹、2013. 4. 4)

再開したUSITニュースレターの和訳掲載で、ここには第4集として10編を訳出しました。第3集までの、「汚いインクの問題」は欠陥を改善するタイプの問題でしたが、NL-20からは「発明」を探すタイプの問題を扱っています。プラスチックのコップを題材にして、その改良から新しい発明を考えようとしています。(ただ、USITでのやり方はこの二つのタイプでほとんど同じなのだ、というのが Sickafus博士が言いたいことです (NL-28参照)。

訳出しながら、私は改めてSickafus の深い洞察を学んでいます。USITでは体系的で論理的な思考プロセスを簡潔に示しており、それがいままでの「ノウハウ」を主とした方法とは異なる、USITの特長です。この第4集では、NL-19の「原因」と「効果」 (そして「機能」) についての概念の整理は、デリケートなことを非常に明快に述べています。また、NL-23で導入した、CAFテーブルの表現 (まず、属性 (性質) を並べ上げ、それらの機能 (良い面) と 望ましくない効果 (悪い面) を記述していく) も、明快で有用です。

しかし、博士はその上で、これらの論理を理解・習得して、そしてそれらにとらわれずに、自由闊達に頭 (右脳) を働かせ、分析と解決策の生成とを縦横に進めるのがよいと言います。フォード社での研究のマネジメント、USIT教育・実践の経験、および自分自身での実践経験から、導きだしてきた哲学だといいます。

NL-26、27、28には、第一の例題(「汚いインクの問題」)を読んで、中川が送った質問にSickafus 博士が応答して下さっています。私にとっては非常にありがたい、明快な返答でした。[もし、皆さんがこの和訳を読んで質問がありましたら、中川またはSickafus 博士に寄せてくださるとよいと思います。]

USITニュースレターについて、また Sickafus博士の著述については、親ページを参照下さい。(第1次 、第2次 ) 。なお、本サイトの英文ページに、USITニュースレターの原文 PDF 版を掲載しています (下表参照)。

USIT Website: http://www.u-sit.net/

Dr. Ed Sickafus:   Email: NTELLECK@u-sit.net

 
 (号) 原著発行年月日   ミニ講義 の 内容 掲載日(和訳) 英文原文 (PDF)
(19) 2004. 6.21 ミニ講義(19) 原因 = 効果 ? 2013. 4. 6 2013. 4. 6
(20) 2004. 8. 9 ミニ講義(20) USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法:  (序論) バーをはしごする問題 2013. 4. 6 2013. 4. 6
(21)  2004. 8.17 ミニ講義 (21) USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法:  「発明の方法」 2013. 4. 6 2013. 4. 6
(22) 2004. 8.20 ミニ講義 (22) 同上: 「発明の方法」(続き) 「飲むための容器の問題」 2013. 4. 6 2013. 4. 6
(23) 2004. 8.30 ミニ講義 (23) 同上: 「発明の方法」(続き) 「飲むための容器の問題」  CAFテーブルの作成 2013. 4. 6 2013. 4. 6
(24) 2004. 9. 9 ミニ講義 (24) 同上: 「発明の方法」(続き) 「飲むための容器の問題」  CAFテーブルを使った解決策の生成 2013. 4. 6 2013. 4. 6
(25) 2004. 9.15 ミニ講義 (25) 同上: 「発明の方法」(続き) 「飲むための容器の問題」  CAFテーブルの再考 (Matt Smith のコメントと応答) 2013. 4. 6 2013. 4. 6
(26) 2004. 9.20 ミニ講義 (26) 同上: 「発明の方法」(続き) 「飲むための容器の問題」  CAFテーブルを使った解決策の生成 ;  中川 徹とのQ&A: 解決策の体系的提示法 2013. 4. 6 2013. 4. 6
(27) 2004. 9.27 ミニ講義 (27) 同上: 「発明の方法」(続き) 「飲むための容器の問題」  CAFテーブルを使った解決策の生成 ;  中川 徹とのQ&A: 解決策コンセプトの評価と処置 2013. 4. 6 2013. 4. 6
(28) 2004. 10. 4 ミニ講義 (28) 同上: 「発明の方法」(続き) ;  中川 徹とのQ&A: USITプロセスのエッセンスは何か? 2013. 4. 6 2013. 4. 6
本ページの先頭 NL-19: 原因と効果 NL-20: バーをはしごする問題 NL-21: 発明の方法 NL-22: 飲むための容器の問題 NL-23: CAFテーブルの作成 NL-24: CAFテーブルを 使った解決策生成
NL-25: CAFテーブル再考 NL-26: 解決策の体系的提示法 NL-27: 解決策の評価と処置 NL-28: USITのエッセンス 前のページ (第3集) 次のページ ニュースレターの親ページ

 


    USITニュースレター  No. 19  (2004年 6月19日)   Ed Sickafus

USIT (統合的構造化発明思考法) は, 構造化されていないブレインストーミングが行き詰まってしまったときに, 革新的な解決策のコンセプトを発見するために問題に対する常套的ではない見方を作り出すのに使う問題解決の方法論である。」

読者の皆さん:

ミニ講義18は、新聞用紙の汚れたインクの問題についてUSITを適用するデモを完結した。
本講では、原因と効果の使い方について生じる混乱について考察しよう。

ミニ講義-19

原因 = 効果 ?

USITを企業技術者たちに教えた初期の頃に、彼らがクラスに持ち込んだ問題の根本原因を見出すことがしばしば困難な課題であることが、明瞭になった。受講者たちがすでに、根本原因を知ることの重要性についての理解と、根本原因を同定する方法について、訓練を受けた後であったにも関わらず、このようなことが起こった。この教育経験から私は、「考えられる根本原因の方法」を開発した。( 『統合的構造化発明思考法(USIT)--概論』 (USIT eBook) を参照のこと。)

現在でもなお、学生たちがやはりこの演習に困難を感じていることが分かっている。この問題の一部は、学生たちが構造化された問題解決に未経験であること、そして、原因・根本原因・効果の定義を注意深く適用すること (あるいは気をつけること) に欠けていること、に関係しているように見える。

アルゼンチンのJuan Carlos Nishiyama と Carlos Eduardo Requena が、最近、「学生たちが原因、根本原因、および効果についてよく混乱する」と私に指摘してきた。二人のこの観察に感謝し、ニュースレターの本号でこの話題を取り上げる。

原因、根本的原因、および効果を区別する

考えられる根本原因のダイアグラム」が、これら三つの概念 (原因、根本原因、および効果) を扱っている。 ここに示すダイアグラムは、以前に発表したものを少し修正したもので、一つのオブジェクト (ここには明示していない) の場合に対応して単純化したものである。特定の枝で一つの根本原因に到達したときには、その枝はそこで止まり、終端の箱には関連する効果は記述されない。その箱には、代わりに、属性のリスト (この図には明示していない) が記述される。

望ましくない効果が「考えられる根本原因のダイアグラム」の一番上に置かれる。そのすぐ下の行には、その効果の原因が列挙され、それぞれ別の箱に記述される。 これらの原因の一つ一つは、一つの効果として扱われ、それに対する諸原因をその次の下の行に記述する。 (縦に並んだ) 箱の列の各々は、一つの「考えられる根本原因」で止まる。

しかしながら、この作業、すなわち、各列の終端を見つけること、は難しいことかもしれない。それは 2ステップのプロセスである。
第1ステップでは、各効果を分析して「考えられる原因」を求める。効果に対する原因の分析がもはや明瞭でなくなったとき、ダイアグラムの各枝の最下段にある原因のそれぞれを、「考えられる根本原因」の一つとみなす。そして第2ステップで、「考えられる根本原因」のそれぞれを、原因属性に関して分析する。実にここが混乱が発生するところである。三つの用語がほとんど同じ概念に対して導入されているのである。すなわち、「原因」、「考えられる根本原因」、および「原因属性」である。

いくつかの重要な定義を復習することで、この混乱を収めることができる。 まず、「効果」は二つの変化形でやってくる。「望ましい効果」と「望ましくない効果」である。 「望ましい効果」には「機能」という特別な名前が与えられている。機能も、効果も、一つの属性を変化させる (あるいは維持する) ことを、思い出すとよい。だから、両方の語 (機能と効果) は、一つの作用 (すなわち、変化させるか維持するか) を含意している。

原因属性の役割は、オブジェクトとオブジェクトの接触に関する図的定義 (下図参照) を吟味すると、明瞭になるだろう。

このダイアグラムはUSITの主要概念の一つ、すなわち、一つの機能を支持するオブジェクトとオブジェクトの接触の概念、を定義している。二つのオブジェクトが、両オブジェクトのそれぞれ一つの属性を介して、「接触」を形成し、それによって、接触している両オブジェクトのうちのどちらか (あるいは第三のオブジェクト) のもう一つの属性を変更する (あるいは維持する) という機能を支持する。このダイアグラムにおいて、「機能」という語を、効果、望ましくない効果、原因、あるいは根本原因のどの語と置き換えてもよい。 どの場合にも「オブジェクト-属性-機能」の関係は全く同じに存在する。

望ましくない効果を分析するときには、「原因」という語が用いられる。望ましくない効果を分析するということは、それをさらにブレイクダウンして下位にある他の効果 (それを「原因」と呼んでいる) を求めることである。 [問題解決における] 初期の関心は、[いま扱っている] 望ましくない効果が単一の望ましくない効果かどうかを判断することである。--それがUSITを適用する際の問題定義における主要課題の一つである。 したがって、ある特定の望ましくない効果をその原因に関して分析することによって、その他の折り重なった諸効果が明らかになってくることがあろう。 もし、初期の望ましくない効果が単一の効果であるなら、「考えられる根本原因のダイアグラム」で、第1レベルの原因が直ちに属性のリストになるだろう。

これらの類似の用語を念頭において、定義のダイアグラムをつぎのように書き直そう。

このダイアグラムの意図は、複数の用語、すなわち、機能、効果、望ましくない効果、原因、および根本原因が、同一の関係性を持ち、すべてが関連属性を持っていることを、強調するためである。関連属性は、望ましくない効果の原因に関していう場合には原因属性と呼ばれ、機能に関していう場合には支持属性と呼ばれる。各根本原因に関連する原因属性を列挙することによって「考えられる根本原因ダイアグラム」の記述が完成する。

例えば、鉛筆の先が鈍くなるのが望ましくない効果だと考えよう。鉛筆の先が鈍くなることの元になる原因があるだろうか? この質問に答えることは、問題の基本をより詳しく考えるようにわれわれを引き込む。鉛筆の先が鈍くなるのは鉛筆で書いているときに起こるのだから、われわれが考えるべき接触している二つのオブジェクトは、紙と鉛筆の芯である。 それぞれが基本的な効果の源である。紙が鉛筆の芯を磨り減らしていると見なすことができる。鉛筆の芯が、紙との接触の間に砕けていると見ることもできる。これらの両方が鉛筆の芯の先が鈍くなることの原因である。

このレベルで停止し、これらを根本原因であると定義することもできる。つぎのステップは、それぞれのオブジェクトの原因属性、すなわち、紙で磨滅することと鉛筆の芯が砕けることを支持している属性を探すことであろう。他の分析者は、磨滅と破砕をさらに下のレベルでの原因と効果の検討にもっていこうと試みるかもしれない。そのような努力は、微視的なそして分子的な効果とその関連する原因へと導くことであろう。

まとめると、原因、根本原因、および効果という単語を区別するのは、つぎのようである。 一つの効果は、一つの属性を変更するか、または維持する。 効果のUSITでのモデルは、相互作用している一対の属性で (接触している二つのオブジェクトからの一つずつの属性 )で構成される。 したがって、一つの効果の原因は、三つの異なる方法で記述できる。すなわち、もう一つの効果 (あるいは機能) によって、相互作用する二つの属性によって、および、接触している二つのオブジェクトによって、の3法である。

USITの「考えられる根本原因のツール」は、この混乱を解決するために開発されたものである。一つの効果の根本原因を探すときに、「考えられる根本原因のツリー図」を作るとよい。効果をツリー図の最上位に置く。 その効果の原因をその下のレベルに列挙するが、それには3種の可能な表現のどの形式を使ってもよい。 ついで、各原因を一つの効果であるとして扱い、その効果の原因をつぎの下のレベルに記述する。 このプロセスを繰り返すことによって、問題解決者は、もうそれ以上の分析が自明でなくなるような、種々の原因属性を発見するように努力する。 これらの最下位レベルの諸原因を根本原因と呼ぶ。

このプロセスにおいて、われわれはまず作用 (動作) について考え、それから徐々に物理的性質を考えることに移行していく。「効果 → 原因 → 属性」といった移行は、われわれが「現象 → 基本的原因 → 物理的性質」 というメンタルモデルを形成するのを助ける。解決策の概念はどんなレベルででも生じるが、特に効果的なのは、物理的性質の用語で表現された場合である。

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 3月27日   (掲載: 2013. 4. 6)


    USITニュースレター  No. 20   (2004年 8月 9日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

今回と次回からのミニ講義では、簡略化したUSITトレーニングモジュールのために用意した資料を紹介しよう。これがあなたの興味と共鳴するものと期待している。
ここで議論するヒューリスティックスがUSIT特有のものではない [もっと一般的なものである] ことに注意されたい。

ミニ講義-20

USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法

この7月に私は、シチリアで開かれたNATO主催の「固体における放射効果」に関する夏の学校で、一つのUSITモジュールを教えるという機会に恵まれた。 参加者は、NATO諸国およびNATO関連諸国から招待された、講師、科学者、教授、大学院生、博士研究員などから構成されていた。本稿は、このような専門的な技術者たちの聴衆に対して準備した資料を含んでいる。 このモジュールの話題は、「USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法」であった。

はじめに

工学設計 (Engineering design) とは、人工物 (人間が作るもの) を正式に概念化する [すなわち、概念をきちんとした形式に記述する] ことをいう。 USITは、工学設計のプレ工学段階における、問題の定義、分析、および解決策生成に向けた、構造化した方法論である。 この段階では、工学的な仕様は必要でない。 したがって焦点は、速くかつイノベーティブに、概念的な問題を定義し、複数の解決策コンセプトを見つけ出すことにある。 [USITの後で、USITの成果に対して] フィルターを適用して、開発するための特定のコンセプトを選択し、その後に工学 (エンジニアリング) が続く。-- それはUSITの後にすべき課題である。

プレ工学 (Pre-engineering)

プレ工学はプレ-フィルタリングを含意することに注意されたい。したがって、USITを実施している間には、フィタリングは一切許されない。 このことは、問題解決をチームで実施しようとするときに特に重要である。それは概念的解決策の効率的な探索のために、永年にわたって認識されている制約である。

プレフィルタリングを行なうことの一つの帰結として、USITは最適化のプロセスではない。 USITは理想の解決策コンセプトを求めることを強調する。 他方、最適化は、理想の解決策コンセプトと (フィルタによって定義される) われわれの能力との間の賢明なトレードオフを要求する。

現行のフィルタ (すなわち、タイミング、コスト、資源、製造可能性、ビジネス戦略、その他) がこのようなトレードオフを導く。そのようなフィルタは、経済状況、ビジネスプラン、競争、その他の多くのことがらに応じて、しばしば変化する。理想的な解決コンセプトは、会社の知的財産の一部になって、将来にも参照できる。それが意味を持つのは、フィルタが実施可能なコンセプトを再考しつつ変化してしまったときである。

固体における放射効果へのUSITの関連性

USITは問題解決の方法論である。固体における放射効果というトピックは、無数の技術問題の解決から集めてきた知識の現状をカバーしている。前者 (放射効果) が後者 (知識の現状) に関係するしかたは、USITが実世界の問題を再定義するしかたに依存している。

問題を定義することは、実世界のオブジェクトを、その主要な機能を表現する一般名に翻訳することを要求する。それらの一般名のオブジェクト間の相互作用は、それらを支持する属性によって特徴づけられる。 したがって、USIT方法論は、実世界の問題がUSITの原理によって特徴づけられるならどこででも適用できる、一般的な方法論である。

いくつかの結果

問題解決の入門クラスの学生たちは通常、方法論の理論に深く入り込むよりも、問題が解決されるのをしきりに見たがる。そこで私は、簡単な一つの問題から始めて、方法論についてはゆっくりと話を進めていこう。

 

「バーをはしごする」問題

私の祖父が出してくれた文章題は、私が解決したことを覚えている一番早い時期のものである。

「一人の男が二つの通りの交差点の4つの角にある4軒のバーの所にやってきた。男は第1のバーに入るときに1ドルを払い、ポケットの中のお金の半分をそのバーで使い、そして出るときに1ドルを払った。 彼は通りを渡ってつぎのバーに行き、入るのに1ドル払い、ポケットに残っているお金の半分を使い、そして、出るのに1ドルを払った。男は残りの2軒のバーでも同じようにして、そして最後にもう全くお金が残っていないことに気がついた。
では、この男は最初にいくらのお金を持っていたか?」

(あなたは、私のコメントを読む前に、一時中断してこの問題を解きたいと思っていることだろう。)

ヒューリスティックス

この入門の助けになるのは、「問題解決の方法論というのは、そのすべてが、選択されたヒューリスティックスから構成されている」ことを指摘しておくことだろう。ヒューリスティックス (発見的方法) はわれわれが問題を解決するときに使うツールやトリックである。ここで議論すべき最初のヒューリスティックスは単純化である。(いくつかのヒューリスティックスを斜体 [訳では 太い濃青字] で印刷して、注意を引くようにしてある。)

問題解決のヒューリスティックスとしての単純化

問題を定義し、分析し、解決するための最初のヒューリスティックスは単純化である。それは、問題定義のための最も重要なヒューリスティックスの一つである。 それは (いろいろある中でも) 特に、無用の詰め物 (情報を持たない詳細) や反復に関わっている。 単純化はその下位にいくつかのヒューリスティックスを含んでいる。その一つが「詰め物を消去する」ことである。 また、もう一つは「冗長さを無くす」ことである。

はしご酒の問題での「詰め物」は、例えば、「二つの通りの交差点の4つの角に」とか、「彼は通りを渡ってつぎのバーに行き」とかの記述である。バーの所在、それらの位置関係、およびそれらに行くための経路は、すべて無用な情報である。それらは単なる「詰め物」だから、消去してしまおう。

実際、バーの存在さえ関係ないのである。この問題は4つの同様なオブジェクトから成っており、それらのオブジェクトの属性は、問題プロセスの進行の間に変化する一つの数だけである。4つのオブジェクトを、4回繰り返す一つのパターンに還元することができる。だから、4つのオブジェクトさえ関係ない。

冗長性の消去は、繰り返しがあるオブジェクトやパターンなどに注意を払う。 このヒューリスティックスのポイントは、冗長な (繰り返しがある) ものを一つの例だけにし、その例について問題を解決する。それから、その結果を、その例の繰り返しに拡張する。

われわれの問題では、冗長性の消去は、一つのバーに対する問題を解き、それから複数のバーを考慮するように導くだろう。このヒューリスティックスの効用は、はしご酒の問題の結果をN軒のバー (Nは 0より大きい整数ならなんでもよい) に拡張できることである。

 

--- USITニュースレターの次号に続く ---

今月号のTRIZ Journal (www.triz-journal.com) に、「原因=効果?」の記事が掲載された。ご覧になったことと思う。それは、USIT ミニ講義-19をわずかに修正した版である。

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 3月28日   (掲載: 2013. 4. 6)


    USITニュースレター  No. 21  (2004年 8月17日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

前号のミニ講義20で、シチリアでのNATO主催の夏の学校のために用意した資料を紹介したが、本号にはその続きを扱う。「はしご酒の問題」を本号で完結する。そして、発明のための戦略を導入する。

ミニ講義-21

USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法  (続き)

単純化による解決

「はしご酒の問題」をミニ講義-20では単純化を使って分析した。私たちに分かったのは、その問題が (数についての) 繰り返しパターンに還元でき、一つのケースについて解決すると、Nケースについて外挿できることである

本号の講義では、「反対家 (contrarian)」 [というヒューリスティックス] を紹介し、それを「はしご酒の問題」に適用しよう。

「反対家 (contrarian)」であれ

「反対家」は世界を逆さまに見る。すなわち、常套的な見方、普通に期待される見方とは反対の見方である。 いつものことだが、このヒューリスティックスについても複数の名前 (表現のしかた) がある。 その一つは、「問題を逆さまに解く」ことである。

「はしご酒の問題」では、われわれは最終状態を与えられており、そこでは、バーをはしごした男のポケットには金が全く残っていなかった。 そしてわれわれは初期状態を見出すこと、すなわち、「その男は最初に金をいくら持っていたか?」を尋ねられているのである。

これは、問題を最終状態から初期状態に逆上って解決していくという、「反対家」のヒューリスティックスを適用する理想的な状況である。 あなたがもしまだこの問題を解いていなかったら、試してみるとよい。

「はしご酒の問題」に対する解答:

いまはもうきっとあなたは、何ドル必要かを見出したことであろう。最初のバーに入ってから N軒のバーをはしごするには、3(2**N -1) ドル必要である。N = 1, 2, 3, 4, 5, ・・・ に対して、3, 9, 21, 45, 93, ・・・ となるパターンから導かれたものである。[** は巾乗記号]

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発明の方法

さてここで、話題を変えて、「発明の方法」 ("How to Invent") について議論したい。この話題については沢山のことが書かれてきている (私の最初の本 『USIT - How to Invent』も含めて)。 その結果、多くの「ハウツウ」の見方とアイデアが発表されてきている。 私はこのトピックを、簡略化したUSITトレーニングモジュールとして選んだ。その理由は、USITの全貌を提示し、すぐに実習ができるからである。最初に、USITを使って発明するための戦略の概要を説明し、その後でいくらかの時間を使ってそのデモをしよう。

発明のための戦略

「適切に定義された問題」がその問題を解決するのに使う方法論に従ったものでなければならないのと同様に、発明のための戦略も [使用する発明の方法論に] 従ったものでなければならない。いまの場合には、USITの定義とツールに従ったものでなければならない。この要件は、適切に定義された問題をUSITで解決する演習の定式化に翻訳できるのと同様に、発明の演習を定式化することにも容易に翻訳できる。そしてこの状態は単一の望ましくない効果から始まる。 しかしながら、発明の場合には、望ましくない効果は、解決すべき問題が提示された場合のようには、明白でないかもしれない。 この状況についてまず取り組もう。

発明定義

私は以前のミニ講義で、問題定義が単一の望ましくない効果を基礎にしていることがいかに重要かを議論した。そして、それが、プロトタイプの解決策を持ってはいるがさらに改良が必要な問題を解決するのに使われるのを、あなたは見てきた。問題定義に対するこの要件は、発明するための便利で効果的な戦略を提供する。

意図して発明するときの当初の課題は、どこからどのようにして始めるべきかである。 発明しようという意図は一つの必要の認識を含意しており、それは問題状況が認識されていることを含意する。 しかし、問題状況を認識することと、それを解決するのにどこからどのように始めれば良いかを知ることとは、別のことである。

なんらかの製品のメーカーで、その次世代製品を発明したいと望んでいる場合には、自然な出発点を持っている。それは製品そのものであり、単一の望ましくない効果を持っているとして可視化 (言語化) される。

われわれはいま、製品を改良して、競合他者を飛び越えるような発明をしたいと求めているメーカーであると、仮定しよう。われわれのチームにこの問題が割り当てられ、われわれはまず望ましくない効果を明確にする必要があると認識している、としよう。われわれはこの後すぐにある特定の製品を選択するだろう。 まず最初に、われわれには戦略が必要である。

アイデアがアイデアを閃かせる

問題解決の3つのフェーズ (すなわち、問題定義、分析、および解決策生成) においても、また発明においても、最も強力なツールは恐らく、「アイデアがアイデアを閃かせる」であろう。

私は、技術者のチームに関する、問題解決の3つの公理で、上記の言明を支えたい。

公理1:  一つの問題をテーブルにおけば、そこにいるすべての人がそれを解こうと試みるだろう。

公理2: 一つの解決策コンセプトを提出すると、そこにいるすべての人がそれを撃ち落とそうと試みるだろう。

公理3:  それを撃ち落とすことができなければ、そこにいるすべての人がそれをベースに改良しようと試みるだろう。

これらの公理から私は、「アイデアがアイデアを閃かせる」と推量する。

この言明は示唆に富むが、いささかぶっきらぼうであり、結末を欠いている。もっと有用な形は、「アイデアがアイデアを閃かせる、だからアイデアを生成せよ」である。

アイデアを生成するための非常に直截な方法は、分析することである。合成は組み上げるが、分析はばらばらにする。分析が示唆するのは、

- 構成要素部分に分離する。
- 不可欠な機能を持つ要素を決定する。
- 批判的に吟味する。
- 本質を明らかにする。そして、
- 原因、主要因、および可能な結果を特定する。

体系的な分析の単純なプロセスがいろいろなアイデアを創成し、新しいアイデアを閃かせる。このことはすぐ後で例証されるだろう。

発明のための戦略

- 一つの人工物を選択する (人間の努力の成果物ならなんでもよい)

-  それを分析する:

・ 目に見える特性を決定する。
・ その他の物理的な特性を決定する。
・ すべての特性に対してその機能を推量する。(私は、「あらゆる人工物は機能を持っている」と主張している。)
・ その機能を支持している属性を決定する。
・ それらの機能を、その人工物の認識されている価値への関連度に応じて、ランク付けする。
・ われわれの競合者たちが作っている同様な人工物の機能を列挙する。

われわれの発明の目的は、買い手が認識する [その製品の] 価値を向上させることである。

・ われわれの製品に対して新しく認識された機能で、製品の認識される価値を向上させるだろうものを列挙する。新規な機能は受け入れられる。
・  この分析で生成されたいろいろなアイデアから、この人工物に組み込むべき単一の機能を選択する。

 

      ----    USITニュースレターの次号に続く  -----------

講義室の中に見えるオブジェクトから一つの人工物を選択しよう。あなたは何を選択したいか?

議論して欲しいことについての質問を歓迎する。

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 3月28日   (掲載: 2013.  4. 6)

 


    USITニュースレター  No. 22  (2004年 8月20日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

ミニ講義-21では「はしご酒の問題」を完結し、ついで「USITを使った発明の方法」についての議論を始めた。このトピックをこれから続けていくが、本号では短くだけ扱い、読者からのQ&Aをここに入れよう。

ミニ講義-22

USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法  (続き)

「発明の方法」の続き

ニュースレターの前号で私は、発明する方法についての議論を始めて、例として、自社の既存の一つの製品のマーケットシェアを向上させる必要がある場合を取り上げた。 われわれの戦略は、新しい一つの機能を特定して、それを選択した製品に組み入れることである。 われわれに必要なのは、まず一つのモデル製品であり、ついで [それを改良する] アイデアである。

アイデアがアイデアを閃かせる、そして分析もアイデアを閃かせる、だから分析してアイデアを生成せよ

私はこれから、「既存の人工物の分析が、どのようにしてアイデアを生成し、そのアイデアがすぐにまた新しいアイデアを閃かせていくか」を例証したい。いろいろなアイデアが明らかにされていくにつれて、あなた自身も新しいアイデアを創り出していること (公理 3) に、あなたは気がつくだろう。

シチリアで私は、ありふれた人工物を求めて教室内を見回し、ボトル入りの水と、プラスチック製の飲む容器のスタックが用意されているのを見つけた。 (私はそれを「プラスチックグラス」と呼ぶ誘惑にかられる。そのように呼んだ email を見つけた!)  私は、「プラスチックの飲む容器をみんなで分析しよう」と提案し、出席者たちにそれを一つずつ配った (*注)。 これを分析する私のアプローチを以下に述べる。

(*注)
あなたがたのうちで問題解決について教えている人は、人工物のこの選択が賢明な選択だろうかと、疑問に思うかもしれない (私もときどきそう思う)。 発明するべきものを何か選択するときの私の戦略は、教室での経験に基づいており、演習を効率的にかつ面白くする必要に基づいている。ありふれたものを選ぶことによって、参加者すべてがそのオブジェクトをきちんと理解するための無駄な時間を使わなくて済む。スケッチは非常に簡単でもよい。

学生たちは、ありふれたオブジェクトに対して、それがあまりにもありふれていて改良する余地が少ししかないと思いがちである。そこで彼らは、迅速に解決策を思い付こうと直感を使って考えることに無駄な時間を使うことが少なくなる、傾向にある。これによって、発明のプロセスを理解することに焦点を当てて維持することが、より容易になる。それはまた、いくらかのサスペンス (緊張感) を加える。

もちろん、ありふれたものを選択することは、有意義な結果をもたらさないのでないかという疑問は残りうる。ここで私は、発明のプロセスを教えることの方が、結果を心配するよりももっと大事だと、言いたい。

また、私が経験から知っているのは、このプロセスの自然発生さ がみんなの想像力を捉え、いつも新しいアイデアを生み出すことである。私はこの自然発生さとそれが作り出す興奮とが楽しい。だから私は、クラスと一緒に発見をすることに参加したいと思い、クラスの前にプロセスをきちんと準備することをしない。

しかしこれがすべての人のためになるというわけではない。 学生たちの中には、クラスのプレゼンテーションが、いわば「きちんと切って乾かしてある」こと、すなわち、すべてが詳細まで準備されていて、配布の講義資料に収めてあることをより好む人たちがいる。

この手順をとるもう一つの理由は、ある一つの製品を改良する責任を負わされたチームの雰囲気を、これが非常にうまく模擬するからである。大抵の学生たちが、演習が終わるまでに、このことを認識すると、私は思う。

目に見える特性を決定する

学生たちが特性の記述を出し始めている間に、私はOHPシートにスケッチを描いた。清書したものを下図に示す。
[訳注: 最初に描かれたものは、下図の左部分だけと思われる。]

自明のことを指摘するのに随分と労力を懸けていることに注意されたい。問題の分析において非常に大事な手続きは、言葉と図で記述することである。詳しいほど、良い (**注)。 しかしながら、大きなシステムで、オブジェクトを最小限にすることをまだ適用していないものを分析するときには、このコメントは手に負えなくなるだろう。 今回のデモンストレーションでは、私は単純なオブジェクトを選択して、この問題を避けた。

(**注)
書かれたり描かれたりした観察結果は、思考の現段階を表明したものである。それらは直ちに、脳に対して、その表明に挑戦し、明確化し改良するようにさせ始める。 表明されない考えは、霧の中での思考となり、遅い進展になってしまう。

この時点でわれわれには4つの目標がある。目に見える諸特性、その他の諸特性、これらの諸特性に対する機能 (望ましくない効果も含む)、および支持属性を明確にすることである。これら [4種のもの] を明確にするのを、順次やってもよいし、並行してやってもよく、あるいはランダムにやってもよい。 私は、ランダムにやるのを繰り返すのが最も自然だと分かった。 それはまた恐らく最も能率的でもあるだろう。

例えば、一つの目に見える特性を認識するとすぐに、それは機能あるいは望ましくない効果についてのアイデアを閃かせるだろう。そこでそれらを記録してつぎに続ければよい。私は上記では [まず諸特性をリストアップするというやり方で] 逐次的に始めて見せたが、次号のミニ講義ではもっとランダムなやり方に移行するだろう。

次号までにあなた自身のアイデアを書き出すと、きっと有用だろう。

      ----    USITニュースレターの次号に続く  -----------

 

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Q&A

トランスダクションを探す

スイスより .....

「親愛なる エド、
あなたの注意深い読者の一人として、あなたが発明の方法論に対して惜しみない貢献をして下さっていることに、改めて深く感謝いたします。

私の質問はあなたのよく考察されたUSITのパスとは異なるのですが、私がぜひ知りたいと思うのは、トランスダクションの機会を探索するのに、どのようなツール (データベースやソフトウェアなど) (もしあれば) をあなたは好まれますか?

敬具。 Claude Meylan 」

Sickafus の回答

親愛なるクロード、よいコメントと質問をありがとうございます。他の賢明な読者の人たちも同じことを疑問に思っていたことと思います。

これは読者にとって自然な疑問だと私は思う。なぜなら、われわれの技術的な仕事の中で、コンピュータ支援を沢山知っており、使ってきているのだから。 また、商業的な問題解決方法論のいくつかがソフトウェア支援ツールを売っている事実も、この疑問を促しているのだろう。

さらにもっと直接的な連想は、「トランスダクション」という技術的な用語を使っていることであろう。それはわれわれに、習ったことがある事例 (例えば、圧電気、弾性、その他の名前の固体のテンソル物性) を思い起こさせる。後者は、トランスダクションの現象を整理した資料が存在するのだろうかという疑問を起こさせるかもしれない。

まず最初に、私が体系的発明思考法 (SIT法) をRoni Horowitz とその共同者たちから学んだとき (1995年 [訳注: 原文の1955年は誤り])、私はそのねらいに感銘を受けた。 SIT は他の問題解決方法論よりも単純であり、コンピュータ支援を必要としないことを知った。 コンピュータ支援をなしにするというアイデアが、私の想像力を捉えた。他からの支援を必要としない思考方法論というアイデアを私は好んだ。それは私の思考の基本的なやり方の一部とも言える。 そこで私は、ソフトウェアを作るという要請を意図的に避けてきた。 (私はまた学生たちに、フローチャートからできるだけ早く乳離れする (自立する) ように薦めてきた。) これはソフトウェア支援をけなすものではない。それは単に私の好みである。

第二に、[物理的な意味での] 「トランスダクション」を私はテンソルのセンスで定性的にイメージしている。すなわち、同じオブジェクト中の二つの属性の相関としてである。 問題解決のプレ工学段階においては、関連する属性を同定することだけが必要なのだと、私は主張している。 そこで、それらを (妥当な範囲で) 考え出し、それから、問題を解決するのにそれらがどのように使えるかを考えればよい。

もっと後で、工学の段階で、それらが存在しているかどうか尋ねればよい。 たとえ、認識された現象としてそれらが存在していなかったとしても、それらが不可能だということを意味しない。 まだ特定されるべき多くのトランスダクション現象が存在するに違いないからである。 私のバックグランドは物性物理学の研究だから、新しいトランスダクション現象があるかいつも見回していた。 そして、(文献中にしばしば起こることだが) 新しい現象を読むと、感銘を受けた。

また、属性の特定の対がトランスダクションで結合されている例が知られていない場合には、他の仲介の属性の対で、必要な属性-機能-属性の連鎖を完成させるものを探索することを継続すべきことを示している。

ドランスダクションに関して最後に書いておくべきことは、トランスダクション現象の探求は、一対の属性の相関に焦点を絞るべきことをわれわれに要請する、ことである。工学-設計問題の解決の過程で、この演習が常套的でないアイデアを閃かせることができることを、私は見出した。 これらのアイデアは、ときにはトランスダクションでさえなく、単にいままで認識されていなかったものの相関にすぎないことがある。 トランスダクションは一つの比喩として使われたのである。

私の返事があなたをあまり失望させていないことを願っている。 これがUSITニュースレターで発表されれば、恐らく他の読者が他のもっと有用なアイデアで応答するだろう。

思慮深い質問をありがとう。 敬具、エド

(このQ&Aを発表することの許可を得たことを Claude に感謝する。)

ところで、トランスダクション現象をまとめた資料で推薦できるものを持っている人はあるだろうか?

 

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 3月29日   (掲載: 2013. 4. 6)


    USITニュースレター  No. 23  (2004年 8月30日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

ミニ講義-22では、既存の製品で、発明によって改良すべきもののプロトタイプとして、飲むための容器を選択した。 USITでの発明のプロセスを前回に開始し、ここにその続きを書く。

ミニ講義-23

USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法  (続き)

「発明の方法」の続き

USITミニ講義-22の復習

われわれは、自分たちの設計ではない既存のプロトタイプをベースにして、新しい人工物を発明するプロセスを開始した。

われわれの目標は、発明 (すなわち一つの新しい製品) に導くような、複数の新しい機能を発見することである。

われわれの戦略は、古いアイデア (ただし、人工物の既存の特性から推定したもの) を分析して、新しいアイデアを導き出すことである。

われわれのプロセスは、選択した人工物の明白な特徴に対するもっともらしい (推定した) 機能を提案することである。 もっともらしい機能というのは、もとの設計の機能の代用である。なぜなら、後者の情報は (仮定として) 入手できないものだから。 もっともらしい機能は、もとの機能よりも、よりイノベーティブである、すなわち、イノベーションに向かう思考を啓発する、と私は信じている。その理由は明白である。創造したもっともらしさはそれ自身が革新的な思考なのだから。

われわれの基本的な仮定は、「すべての人工物は一つあるいは複数の目的のために創られた。その人工物の特性が機能を含意している [すなわち、特性を見れば機能が分かる]」ということである。

上記の箇条書きの最後の項の後半は、つぎのように言い換えるともっと正確になるだろう。すなわち、「その人工物の特性は、望ましい属性の中に機能を含意し、不注意な属性の中に望ましくない効果を含意している。」

[前号のプロセスの] つづき ...

前号のミニ講義で私は、選択した人工物 (すなわち、飲むための容器) の明白な諸特性のリストを作り始めた。そのアプローチはシーケンシャルで、はじめにオブジェクト (そのスケッチ)、ついで 属性、そして最後に機能 (および望ましくない効果) を扱った。私が気づいたのは、[上記のようにシーケンシャルに進めるよりも] 並列に考える方法の方がもっと自然で、諸属性と諸機能の間を (どちらが先に思い浮かんでもよくて) 跳び回ることが許される、ことである。このことの演習の試みを以下に記そう。

  [訳注: 図の右上は、 D1 > D2の誤り]

属性と機能/望ましくない効果 の 洗い出し (CAF テーブルの作成)

#
特性
属性
(+) 機能 および (-) 関連する望ましくない効果  [訳注]
1 形状 (平面図で見たとき) 円形の断面

+  飲むときに、口の両側での液体の深さを最小にして、垂れるのを防ぐ。
+   ブロー成形のツールを単純にして、コストを最小化する

2   (立面図で見たとき) 台形の断面 +  鋳型ツールからの取り出しを容易にして、欠陥品を減らす。
+ 重ねて収納可能にし、収納スペースを最小にする。
+  持ったときに滑り落ちるのを減らす (逆さの台形 (D1 < D2) の容器を持ったときを想像してみよ)
3   薄い器壁

+  材料のコストを最小にする。
-  もし薄すぎる場合には、(ツールの設計と品質管理の課題として) ブロー成形の際にポリマーの厚さが不均一になり、その結果、後に欠陥として弱い部分が生じる。

4   中間部における等間隔の並行な帯 +  表面を粗くすることによって、持ったときに滑りにくくする。
+  持ったときに、変形しないように、形状的に強くする。
+  魅力的なパターン (情報) を作り、無味乾燥な見かけを改善する。
-  帯が狭すぎると、重ね合わせた容器が噛み合って、一つの容器だけを取り出すときに干渉するかもしれない。
5   下に垂れた縁 +  壁面と唇の接触面積を増大させ、液が垂れるのを減らす。
+  唇が鋭い縁に接触することを防ぎ、接触時の不快感を無くす。
6   半分よりも上の高さに位置する重心 -  台形のデザインの特性であり、持ったときや置いたときに、倒れてこぼれる危険性を増大させている。
7   「オイル缶」の形の底 +  底面が膨れる (凸になる) ことをなくす。凸になると平らな面に置いたときに、倒れてこぼれる危険性が増える。
8   帯の縁は尾根のように盛り上げてある + 上記の #4 参照。
+  反射を増やし、薄く透明な空の容器を視認しやすくして、誤って倒すことを防ぐ。
+  デザインの魅力を高める (情報を創る)。
9   底部に文字を浮き立たせている +  情報を創る。
10 材料 ポリマー +  強度/コストの比を改善する。
+  押し出し成形により、製造のコストを減少させる。
11  

透明

+  中身が見えて、特定できるようにし、不確かさを無くす。
+  中身の量が見えるようにし、不確かさを無くす。
12   柔軟 -  薄い器壁 (#3) の結果として、空の容器を荒く扱うと、ペコポコという邪魔な雑音がする。
13   弾性の範囲が広い +  鋳型から外すときに、製造の損傷を減らす。
14   もろい (可塑性がない) -  室温でのポリマーの性質。あきらかなメリットはない。荒く扱ったときに邪魔な雑音を生じる原因で、急に割れることが起こる。
-  破片は端が鋭く、誤って触ったとき (掃除・片づけのときなど) にけがをするリスクがある。
15   軽量 (同等容量の他の容器に比較して)

+  上記 #3 参照。
-  当たって倒されたり、テーブルから落されたりする可能性が増える。

16   滑らかな表面 +  鋳型のツールからの取り外しが容易になり、欠陥品を減らす。
-  冷たい中身で器壁に露がつくと、摩擦が減って、持ったときに滑りやすくなる。
17   不透過性 染みだしによるロスがなく、液体を保持する。
18   熱伝導性 -  熱い液が入っている容器を持ったときに、すぐに熱くなって不快である。
19 技術 鋳型成形で作る +  製造コストを減らす。

[訳注: この表の第4欄で、望ましくない効果を太い濃青色フォントで (原文では下線で) 示している。

上記に列挙した19の特性からなにか有用な情報が得られるべきである。

あなたがこの演習を自分でやってみれば、イノベーティブなコンセプトを自分で思いついたに違いない。私はいくつかのアイデアを得た。

しかしながら、私が思いついたアイデアのいくつかは、私がすでに知っていたコンセプトを単に思い出したり、修正したりしただけのものであったことが分かった。それらは既知の解決策の初期リストとして、また私が飲むための容器のもともとのスケッチを描いていた間に思いついたものであった。既知のコンセプトの私のリストはつぎに示すものを含んでいる。

既に知られている飲むための容器のコンセプト (私にとって既知のもの):

・ 垂れるのを防ぐための、吸い口の穴をもったふた

・ (紙コップで) 折って出てくる持ち手で、熱いコップに触れるのを防いで持てるようにしたもの

・ (プラスチックのコップで) 成形した持ち手があり、熱いのを防ぐもの

・ 望遠鏡のようなしくみで縮めて収納スペースを小さくしたもの (プロトタイプの飲むための容器にある並行な帯からこのアイデアを思いついた)

・ 薄い縁が外側に垂れ下がり、ほとんど容器の底にまで達するもの。 容器を指で挟んで持つと、垂れ下がった部分が中側に凹み容器の壁に接触し、その結果、指と熱い液体との間でポリマーが倍の厚さになって、熱からの保護をよくする。 私は、米国とヨーロッパとの間の飛行機内でこれを見たことがある (下のスケッチを参照)。

・ プラスチックコップで、底部が放射状に大きくなり、下皿をつけたようになっていて、倒れるのを防いでいるもの。

・ 底部の方が大きい (D1<D2) 台形のコップで、持ち手がとりつけてあり、移動車両内に置いたときに倒れるのを防いでいるもの。

シチリアの教室でわれわれが経験したのは、これらの薄いプラスチックの容器で熱いコーヒーを飲むのは、少々の難儀で、容器を二重にして使うか、飲むたびに一旦容器をテーブルに置くかが必要であった。

したがって、もっとも望ましくない効果は、熱い [コーヒーが入った] 容器を持ったときに指の [熱的な] 保護が不足していることであり、その効果の原因は熱伝導性である。

それで、既知の解決策のリストを作っていたときに、この望ましくない効果が私の頭にあった。垂れ下がった縁のコンセプトについて考えていたとき、私が思いついたのは、垂れ下がった縁と容器の外壁との間になにか追加の材料を置き、熱のパスを長くし、指への熱伝導の量を減らすことであった。

その垂れ下がった縁と容器壁との間の空間にポリマーの球を挿入することを考えたが、その球をどのようにして成形したらよいのだろうと迷った。この結果、
[解決策コンセプト SC01] 両方の面にこぶ状の突起を成形し、容器を持ったときに突起がぶつかるようにする。突起の直径は指よりも小さくして、熱伝導の経路をさらに長くするとよい。そして、持ったときに突起と突起の位置関係が問題になり、もっと精密な[プラスチックの] 成形装置が必要かもしれない、と考えた。(下図参照)

もう一つの考えが思い浮かんだ。[解決策コンセプト SC02] 円形の突起の代わりに、らせん状の突起を使う、そうすると、持ったときにそれらはいつも接触する。 スケッチ参照。

さて、ここからどこへ行くのか?

----    USITニュースレターの次号に続く  -----------

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 3月31日   (掲載: 2013. 4. 6)


    USITニュースレター  No. 24  (2004年 9月 9日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

ミニ講義24では、ニュースレター21で開始した、「発明の方法」に関する議論を続ける。
われわれの話題は、既存の製品で顧客が認知する価値を改善するのに必要な発明についてである。

ミニ講義-24

USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法  (続き)

「発明の方法」の続き

 

USITミニ講義-23の復習

われわれのプロトタイプの飲むための容器に対して推定した特性と属性と機能の表を完成し、(私が) すでに知っている飲むための容器のアイデアのリストを示し、そして二つの新しい解決策コンセプトの例を示した。そこで私は立ち止まってつぎの質問をした: 「さて、ここからどこへ行くのか?」 それで、われわれは次にどこに行くのか?

発明のための諸方法

私は企業人としていろいろなコンサルタントに接触した経験があり、彼らがさまざまな方法を使って、発明演習でチームをリードするのを見た。一つのよく使われる方法はストーリ・テリング (物語を創る) である。 その実例を見た後で、私も試みて、うまくいった。

[この方法では、発明のために改良すべきプロトタイプ製品を特定した後で、] チーム全体を小さなグループに分割し、「地点A から、B と C を経て、地点D に行くのに必要なオブジェクトに関連した、一つの物語を作る」という課題を課す。各グループには、これらの地点についての現実的な状況が与えられるが、それはグループごとに異なったものである。例えば、A=生産工場、B=歯科医院、C=食料品店、D=自宅、とする。各グループには、そのルートに沿って (グループごとに違った) 一つの解決すべき問題が与えられる。例えば、タイヤのパンク、踏切での長い待ち時間、などである。 チームにはこれらの演習が何のためのものかは知らされない。

全チームが集まった前で各々の物語が説明され、その後再びチームに分割されてそれぞれ物語の一つが与えられる (それぞれもとのチームが自分の物語を担当するやり方もある)。 第二の演習は、発明を必要としているプロトタイプ製品を取り上げて、それを割り当てられた物語の中にできるだけ多く適用することが課題である。 それがうまくいくと、(実際、普通はうまくいくので) そのプロトタイプ製品に対して新しい解決策コンセプトが発見される。

この方法の興味深い点は、プロトタイプ製品に考察を集中していたのを、突然に中断して、まったく無関係なテーマ、すなわち、一連の状況を想像して一つの物語を創ることに移ることである。そして(物語中に) 新しく発見された問題を解決するために、プロトタイプ製品を使うという (閃きを促す) 演習がつぎに続く。 この演習がそのプロトタイプ製品に、有用な属性をもたらす。 これらの属性が発見され、そしてそれが問題に適合すると、チームはそのプロトタイプ製品に関するさらに新しい発明に向かっていく。

もちろん、発明のための方法論は、他にもいろいろある。 私の意見では、ストーリ・テリングの方法がうまくいくのは、しゃべるべき全く新しい思考の筋書きを最初に見つけることであり、それが創造的な思考を必要とするからである。成功する第二の理由は、問題解決者たちに、その製品の属性でいままで検討されていなかったものを認識させるからである。

ストーリ・テリング法の一つの欠点は、物語を創り、それらを読み、それらを批評し、そして最後にプロトタイプ製品を物語の中に挿入して、それで新しいアイデアを考えだすという全プロセスに時間がかかることである。

特性-属性-機能の一覧表 (CAFテーブル)

私は、特性 (Characteristics)、属性 (Attributes) と機能 (functions) の一覧表 (CAFテーブル) を、イノベーティブな思考を開始するのに直截的に使うことを、強く薦める。考慮しているプロトタイプ製品だけからこの表を作りだしたのと同様に、発見した新しい特性、属性、機能のそれぞれが、新しい発明のコンセプトを思い出し、示唆するように閃かせる直接的な種となる。それは挑発的で、能率的なプロセスである。

[訳注 (中川 2013. 4. 4):  ここの「特性」という用語は、Matt Smith の指摘 (NL-25) を受けて再考され、NL-26で「クラス (Class)」と変更された。諸属性をまとめるための、上位レベルの属性という意味である。]

恐らくあなたは、ストーリー・テリング法とCAFテーブルの作成との間の基本的な違いに気づかれたことであろう。前者が新製品の機能を直接に探そうとして直感を使うのに対して、CAFテーブルは認識した属性が含意している機能を探している。属性こそ、イノベーションに直結する本質的なつながりを持つものである。

CAFテーブルを完成させることは、まず属性を認識することに創造的な洞察をチャレンジさせ、そのつぎにそれらが潜在的に含意する 機能に、イノベーティブに変換することにチャレンジさせる。完成したCAFテーブルは、われわれに3種の異なるプロンプトを提示し、(それらはどんな順番で取り上げてもよくて) 新しいアイデアが閃くように促す。それらは表を構成している3つの欄 (特性、属性、機能) に書かれた推量である。CAFテーブルのツールは、ストーリ・テリングよりも時間の無駄がなく、イノベーティブな思考の種になる有用な情報をすぐに集めてくることができる。

では、今私が言ったことを、あなたに納得してもらうように、以下に説明しよう。

飲むための容器の新しいコンセプトの発明 (続き)

CAFテーブルを手に持って、その一つ一つの項目がわれわれの心に新しいアイデアを閃かせる力があるかをテストしていこう。表の各項目を跳び回ることは、各項目をきちんと扱う限り、許容されることである。ときには、(最初) 非生産的であった項目が、他の項目で作業した後に再び考察すると成果を作り出すことがある。(もちろん、そうならないものもある。)

われわれの目標は、「われわれの製品に対して、買い手が認識する製品価値を向上させることができるような機能を新たに認識して列挙する」ことである (ニュースレター 21)。

以下では、CAFテーブルの各項目に対して、参照の略号を使おう。例えば、CAF1F1 は、CAFテーブルの特性 1 (すなわち #1) の機能(F) 1を指すものとする。すなわち、「飲むときに、口の両側での液体の深さを最小にして、垂れるのを防ぐ」という機能である。

解決策コンセプト SCO3 [CAF1F1]: 「飲むときに垂れるのを防ぐ」
ふたに短い呑口を突き出させ、それで吸って飲む。空気の漏れがあると垂れる可能性が生ずるので、人は無意識のうちに、吸い口のところでその唇を強く閉じて、これを防ぐだろう。これは、幼児の飲み物を入れる器について知られている解決策と同様である。 この場合、コンセプトを差別化するために、飲み口をふたの上で折り畳む機能を追加して、使用と使用の間に吸い口の流路を閉じて、誤ってこぼれることを防ぐ。

解決策コンセプト SCO4 [CAF1F2]: 「ブロー成形のツールを単純化する」
(ブロー成形はすでに、われわれのプロトタイプ製品よりももっと複雑な形状のものを製造できる。)

[訳注: このSC04は、項目を立てたが解決策を見出さなかった。よって、著者はNL-26で、これを番号だけの項目として扱っている。]

[CAF1A1]: 「(平面図で見たとき) 円形の断面 (D1からD2へ)」
私はいま、見落としていた一つの属性に気づいた。それは円形の断面がすべて、円の中心を垂直な対称軸上に持っていることである。事実、われわれの飲むための容器のプロトタイプは、垂直な対称軸の周りに回転させた形になっている。 この観察は二つの「反対家」の見方を閃かせる。一つは、D1 < D2 にしたらどうかという案。もう一つは、断面は円形であるが、その中心をつないだものが傾いている、あるいは曲線になっていたらどうだろうかという案である。 前者は CAF2F3において議論した。

この円形断面の中心軸の観察は、私にまず、円形断面の中心軸が傾いている場合を想起させた (スケッチ参照)。それから、円の中心がらせんの上にあって、全体がコルクスクリューのような新規な形をしているものを想起させた。そしてさらに、極めてさまざまな芸術的な形で、動物の形をしていたりその他の新規な形で、円の中心が幾何学的な線上にある場合とさらにそのような線がない場合をも連想させた。 これらは以前に知られている解決策である。

円の中心をつないだ軸が傾いているケースが示唆するのは、
[解決策コンセプト SC05] 飲むための容器で給仕用のスクープとしても使えるもの、および
[解決策コンセプト SC06]目盛りをつけた飲むための容器で、望んでいる体積を測るためのスクープにもなるもの。すべての場合にハンドルをつけ加えることができる。

軸が傾いていると、容器の重心 [の水平位置] が底面の縁に近づくから、よりひっくりかえりやすくなる。これが示唆するのは、ひっくりかえりやすさを減らすために、アスペクト比 (高さ/幅)を小さくすることである。そのような形は、内容物について、露出表面積/体積の比が、(アスペクト比が大きいものに比べて)大きくなる。 したがって、内容物から熱をより速く逃がすことができる−> 熱い液体を冷ますための容器。

この軸が傾いている容器から飲む場合には、唇を、器壁の垂直側でなく、斜めになっている側につける方が便利そうに見える。 垂直側では、容器の [反対側の縁が] より早く 鼻にあたって不愉快になるだろう。 この観測から導かれたアイデアは、
[解決策コンセプト SC07] 病院の患者で、[横たわっていて] 頭を垂直位置にまで起こせない人に対して、少量の液体を給仕するときに、アスペクト比の小さい容器を使う。

CAFテーブルの増補・修正  (青字部分を増補)

#
特性
属性
(+) 機能 および (-) 関連する望ましくない効果
1 形状

・ (平面図で見たとき) 円形の断面 (D1からD2へ)

・ 円は同心円である

+  飲むときに、口の両側での液体の深さを最小にして、垂れるのを防ぐ。
+   鋳型成形のツールを単純にして、コストを最小化する

2  

・ (立面図で見たとき) 台形の断面

・ 垂直の直線が対称軸になっている
・ 台形を対称軸の周りで回転させた面になっている

+  鋳型ツールからの取り出しを容易にして、欠陥品を減らす。
+ 重ねて収納可能にし、収納スペースを最小にする。
+  持ったときに滑り落ちるのを減らす (逆さの台形 (D1 < D2) の容器を持ったときを想像してみよ)

[CAF2F2]: 「積み重ねを助ける」(台形の形を入れ子にする)。
われわれの教室にあったプロトタイプの容器は、コーヒーと水の配膳台の上に重ねられていた。しかしながら、容器は軽量だったので、高く積み重ねるとすぐにひっくりかえり、実際には複数に分けて低い積み重ねを用いる必要があった。

これから思いついたのは、
[解決策コンセプト SC08]
容器をブロー成形する際に、一群の容器を細いブリッジで連結して、密にパックしたものにする。 これらのグループは、個々の容器を入れ子にしたものよりも、より高く積み重ねることができるだろう。 必要に応じて、最上層を外し、個々の容器を取り出すことができるだろう。グループ化した容器は、個別の容器よりも、製造時の扱いが容易であろう。

[CAF2F3]: 「持ったときに滑るのを減らす」
[解決策コンセプト SC09] 閉じた穴で表面を粗くし、持ったときに滑るのを減らすというアイデアが思い浮かんだ。薄い器壁内に微小な穴を生成するには、ブロー成形の温度で、ポリマー中に入れた添加物の蒸発または反応によって、微小な気泡を生成させるとよいであろう。 これには熱伝導性を低くするという追加の利点があり、容器に熱いあるいは冷たいものが入っているときにも、その容器を持ちやすくする。

あなたはおそらく、CAFテーブルの内容からあなた自身のアイデアを創り出し、私のアイデアをさらに改良し、さらにこれらを読んでいる間に新しいアイデアを創り出していることであろう。

---------

われわれはこの演習を続けよう。他にどんな属性を発見できるだろうかと、私は思っている。たぶんあなたは私が見落としているものをいくつか発見したことだろう。

注: CAFテーブルは、私がここに初めて公表している比較的新しいアイデアである。あなたがそれをどのように思うか、私は関心を持っている。

----    USITニュースレターの次号に続く  -----------

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 4月 1日   (掲載: 2013. 4. 6)


    USITニュースレター  No. 25  (2004年 9月15日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

前号のニュースレターで、私はCAFテーブルについてのフィードバックを要請した。私はそれを得た!
私の親しい友人、Matt B. Smith (Curtiss-Wright Electro-Mecahnical Corp.) が、USITを複雑化していると、私を批判した。 彼への私の応答を [今号のミニ講義の後ろの] フィードバックのセクションに記す。この応答は私に属性に関して再考するように促した。 ここで考えたことは、ミニ講義のセクションに記した。Matt がチャレンジングなフィードバックをしてくれたことに感謝する。

[訳注 (中川): この号は、後半のフィードバックの節を先に読むほうが、分かりやすいでしょう。]

ミニ講義-25

USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法  (続き)

「発明の方法」の続き

 

USITミニ講義-21〜24の復習

私は、発明というのは、少なくとも二つのルートで達成できると思っている。

一つは、なんらかの問題を解こうとしている途上で、発明が偶然に起きる場合である (すなわち、セレンディピティ)。その一つの例は認知心理学者たちが使ってきた方法であり、そこでは少数の簡単で未完成な要素 (単純な線画) と目標の製品のカテゴリとが与えられる。目標は、与えられた要素を使って、指定されたカテゴリのデザインコンセプトを作ることである。 得られたものは、その後判断され、相対的な発明性でランクづけされる。すなわち、セレンディピティを求めているのてある。

私の意見では、問題に対する有効な解決策を見出すための、また発明のための鍵は、[上記のような偶然に頼るのではなく、] 問題を深く探求して、問題状況に関わっている基本的な原理を発見することである。考えられる根本原因の賢明な探索がこの発見をガイドする。 根本原因を探して、[表層の] 原因/効果の(いくつかの)層を剥がしていくことが、この深い発見を生み出す。 問題解決のこのプロセスにおいて、発明というのは、発見したさまざまな解決策コンセプトの中の一つに過ぎないが、特別に認識するに値するもののことである。

[第二種のルートとして] 発明はまた、直接的なルートでアプローチすることもできる。実際、直接的なルートにも複数の異なるルートがある。ストーリ・テリングのルートを前号のニュースレターで言及した。

USITに基づく、直接的なルートの戦略が、このニュースレターの最近数号のトピックである。例として、既存の製品に対する新しいコンセプトを発明するという状況を取り上げている。その製品の設計の歴史が失われている (分からない) と仮定するという新しい複雑さが、ここには加わっている。したがって、この問題に取り組んでいるチームは、プロトタイプのオブジェクトを手に持っているだけで、それの存在の歴史を知らず、発明をする責任を負っている。

(Matt からのフィードバックを受けて考えたこと)   [MattのフィードバックはこのNLの後半にある]

このアプローチにおける私の基本的な仮定は、「顧客にとって「価値」がある唯一のものは、その製品の機能だ」ということである。属性は、大抵の場合、顧客には見えず、したがって、顧客にとって関心がない。もちろん、外観は目に見える。 概観は、(概観という) 情報を創り出そうとして設計された機能から生じている。

その次の仮定は、「すべての機能が属性に基礎を置いている」ことである。 属性がすべての効果の根本原因である。 発明への直接的なルートは、属性から出発し、ついでそれが支えている機能を通り、そして新規性の認識 (すなわち、発明の定義) に至る、ことができよう。

私の第三の仮定は、すべての問題解決の基礎で、「創造的な思考は、われわれの無意識下の経験の倉庫にしまいこまれていたコンセプトを、思い起こすことによって閃く」ということである。 それらが一旦意識の表面に昇ると、ただちに、テストされ、修正され、適用性を求めて再度テストされる。

かくて、一つのプロトタイプを「手にする」と、発明者はよりよい製品を発明する目的で、それを分析し始める。論理的手順は、そのプロトタイプを、もとの設計者の観点 (を推測して、その観点) から、十分に理解することを目的とする。 これは、プロトタイプから推量できる、明瞭な諸属性と、それが支持する諸機能のリストを作り上げることによって、達成される。 その途上で、これらの同じ属性に対する新しい機能が発見されるかもしれない。 また、使われていない諸属性に対する諸機能を思いつくかもしれない。 そして、認識されていない属性を必要とするような機能を思い浮かぶかもしれない。

飲むための容器についての現在進行中の議論で分かるように、さまざまな属性が、多数の機能とともに、思い付かれている。 これらを記録し、役に立つように組織化する目的で、CAFテーブルが創り出されたのである。

属性がこの組織化のための有用な鍵であることが分かった。諸属性の徹底した探索を確立する目的に、上位レベルの総称的な属性が有用であることが分かった。それは、属性を探すべき領域を示唆すると同時に、属性の [階層的な] 組織化を与えている。この結果、CAFテーブル中に「特性 (characteristics) 」の語が生まれた。

[訳注: 次号 (NL-26) で、「特性」の語の代わりに、(上位レベルの総称的な属性を表す意図で) 「クラス」の語が用いられるようになった。]

これが、修飾語、特性、属性、メトリック (特性値) などの用語の類似性の話題を持ち込んだ。それらはすべて、オブジェクトを区別する [特徴づける]。 メトリック (特性値) だけはユニークで、それだけが定量化のために数値を導入する。 私の見方では、それらは「特徴を区別する」ための4層を構成しており、CAFはそのうちの最後の3つを使っている。

[訳注 (中川 2013. 4.2):  この最後の文の意味がよく分からない。「それら」とは何か? 「4層」とは何か? そして「最後の3つ」とは何か?-- 「最初の3つ」と言いたかったのかもしれない。]

----    USITニュースレターの次号に続く  -----------

フィードバック:  

CAFテーブルに関するフィードバック

MBS (Matt B. Smith) がつぎのように書いてきた。

「私にとって、CAFテーブルは、[USITの] 基本に十分繋がりがなく、統合されていない、もう一つ別の層の複雑さを加えたように見える。 もし OAFテーブルだったら受け入れるだろう。なぜなら、オブジェクト、属性、機能はUSITの基本概念であり、それらを関係づけるのは自然なことだと思うから。

しかし、「特性 (characteristics)」という用語はどこから来たのか? あなたのCAFテーブルの例では、「形状」などを [特性の項目に] 書いている。私は、「形状」 は属性の一つであると思っていた。「円形の」とか「同心の」とかの、(「どんな形か?」について説明する) 修飾語は、形という属性を記述するメトリック (特性値) なのであろう。 だから、あなたの例の表を、AMFテーブル (属性-メトリック-機能) というなら、より適切だろうと思う。」

(ここに引用したのは、Matt の啓発的なメールの中の単なる一節であり、Mattの許可を得てここに公表した。Matt に感謝する。)

ENS (Ed N. Sickafus) の 応答:

C-A-Fテーブルを定義して、それからあなたが提起した特定の問題に答えよう。

USITの実行は、(その名前 (統合的構造化発明思考)に示しているように) 「構造化されている」。だから、問題を解決しようとするときにわれわれは、OAF宣言文、閉世界ダイアグラム、定性変化グラフ、そしてCAFテーブル、などのものを造るのである。これらは単にワークシートであり、われわれはそれを前に広げて、思い出しを閃かせるように学ぶのである。それらを使うときには、その中身がより深く、より視野広くなるように繰り返し使う。記述した内容を記憶するのに時間を浪費しても益がないから、USITのプロセスを続けている間、それらを見えるところに貼り出しておく。

USITの一般的なレイアウト [すなわち、プロセス構成] は、単一の望ましくない効果に焦点を絞るもので、プロトタイプの解決策を持っている問題に対して理想的である。それをルーチン的な「欠陥改善」型の問題に数度適用すると、学生たちはそれを「発明する」のにも使おうとする慣性を示す。 CAFテーブルがこれを助ける。 そのワークシートは、発明に直結した手がかりを記載している。

CAFテーブル-ワークシートを使う鍵は、プロトタイプのオブジェクトを深く分析するのに使う目的でそれが創られたことである。 それはできるだけ沢山の属性を推量し、それらからもっともらしい機能を推量するために、創られている。属性、それから機能という順序は、新鮮な思考を刺激するために意図して選択されている。もっともらしい (推量した) 機能が、オリジナルなアイデアに変わる可能性があることに留意されたい。

CAFテーブルで使っている 「特性 (Characteristics)」は、単に包括的なレベルでの属性である。それは推量した諸属性にいくらかの秩序を与える。 用語で思いだしてほしいのは、機能、効果、望ましくない効果、原因、そして根本原因が、USITではすべて同じ役割を持っていたことである (USIT ニュースレター 19を参照)。 他方、属性、原因属性、および、メトリックス (特性値) を持った属性 という用語はすべて、属性のことであり、その中での区別である。 (「さまざまな属性を持った属性」という言い方は、私はしたくない。)

たしかに [Matt が言うように]、形 (形状) は一つの属性である。 そして、形の属性は、正方形、長方形、円形、楕円形、などである。 そして、円の属性は、直径、同軸の、同心の、同一平面上の、などである。正方形の一つのメトリック (特性値) は、辺の長さが 1.1 mm に等しい、などである。 円の一つのメトリック (特性値) は、半径が2インチに等しい、などである。

USITにおける属性の定義は、それがオブジェクトを特徴づける、あるいは区別するものだ、ということである。 類似のオブジェクトだが、等しくないオブジェクトは、それらを区別するのに、複数の属性 and/or 特化した属性を必要とするかもしれない。 似ていないオブジェクトなら、より少ない、あるいはより特化していない属性で区別できるであろう。

私は、プロトタイプの容器の観察を表に記述する便宜のために、上位レベルの属性として、特性 (characteristics) という語を導入しただけである。しかし私は、建設的な目的のためにメトリックス (特性値) を導入したいとは思わない。[USITで扱っているのは] まだ プレ-工学の段階であり、メトリックス (特性値) はここには属さない。

USITの単純さに関しては、CAFテーブルがオブジェクトを使っていないことに注意されたい。

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 4月 2日   (掲載: 2013. 4. 6)

 


    USITニュースレター  No. 26  (2004年 9月20日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

ミニ講義-25は、「発明のためのUSIT戦略」という進行中の話題から少し脱線した。
いまわれわれはこの議論を続け、また、[中川徹教授からの] 講義へのコメントに関して、要請があったいくつかのセッションを [本号および次号以下に] 始めよう。

ミニ講義-26

USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法 (続き)

「発明の方法」の続き

ミニ講義24の復習

ミニ講義-24では、われわれは、CAFテーブルを使って、飲むための容器に対する新しいコンセプトを生成するしごとを体系的に進めてきていた。われわれは[解決策コンセプト SC09] に達した。そこからこの講義が続く。

CAFテーブルの更新

スイスの Claude Meylan が、属性のもう一つの特徴的なタイプのものについて、素晴らしい示唆を寄越してきた。それは環境である。

「われわれはこの飲むための容器のライフサイクル全体、特にその使用後のことを、考えることもできよう。その意味では、属性は耐久性であろう。そして、関連する望ましくない効果は明白であり、それは公害である。われわれはそのエネルギ入力を一つの属性 あるいは他の環境パラメータと考えることができるだろう。」

CAFテーブルを、Claudeの助言を取り入れて、適切になるように増補した。

#
特性
属性
(+) 機能 および (-) 関連する望ましくない効果
20 環境

・ 耐久性
・ (リサイクル可能性)   (注*)

-  公害

21  

・ エネルギ入力

-  自然資源の減少

私は、シチリアの教室で、その飲むための容器の底を調べて、広告情報を探したことを覚えている。 しかし、リサイクルのアイコンを見た記憶がない。 リサイクルのことを私は思いつかなかったように思う。 環境を加えることは、機能と望ましくない効果に対するわれわれの探索を広くする。

(注*)  CAFテーブルに上記を追加し、それから飲むための容器のリサイクルの可能性について少し考えてみて、「耐久性」を詳しくして何か有用なようにできないだろうかと思案した。 例えば、耐久性が必要とされるのは、ブロー成形による製造時から、飲むための容器としてユーザの必要が終わる時点までである。 それから後では、リサイクルのために、耐久性がないことが求められる。 私はよりよいものを思いつかなかったので、CAFテーブルには括弧内の注として挿入するだけにして、先に進むことにしよう。

発明のための方法
... 飲むための容器の新しいコンセプトの発明 (続き)

[CAF3F1]: 「薄い器壁 -- 材料のコストを下げる」:

より少ない材料を使うことによって材料費を下げることは、「何が (サプライアから課金される) 材料費を決めているのか?」という質問を前提とする。 供給者の観点からの明白な答えは、原材料のコスト、材料の形成、処理、梱包、配送、保険の費用、そしてまた量販の安売りのコスト、そして望む利益、であろう。 それぞれが発明のための好機を拡張する。 しかし、われわれは、自社のサプライアのコンサルティングをしているわけではない。当面われわれはまだ、自社の環境の閉じた世界にいる。

薄い器壁は、厚みに関係するいくつかの材料属性および製造属性と関連していることが含意されている。すなわち、

1.  ブロー成形中の材料の連続性 (器壁が薄すぎると製造時に穴があいたり分離したりする)
2.  持ったときにかかる力に反応するための硬さ (薄すぎると、器が変形して、内容物があふれる恐れがある)
3.  (薄い器壁を横切って) 熱が流れることへの抵抗が減る。
4.  (薄い器壁に沿っての) 縦方向の熱流に対する抵抗が増大する。
5.  横向きの電気抵抗が減少する
6.  縦向きの電気抵抗が増大する
7.  つぶれることに対する強度が減少する。
8.  より軽い器が床に落ちたとき、(破壊の) 衝撃はより小さくなる。

これらの含意事項は、最初の二つ (すなわち、[CAF3F2] の連続性と [CAF4F2 が含意する] 硬さ) を例外として、CAFテーブルには導入されていない属性を含んでいる。 どうしてこんなことが起こったのか?

これが起こった理由は、われわれがCAFテーブルを作り始めたとき、飲むための容器の自明な属性を列挙し、それらの属性が支持する機能や望ましくない効果を推定して列挙したからであろう。

表に列挙したそれぞれの属性を吟味して新しいアイデアを探すという今後のプロセスにおいて、われわれはまだ使われていない属性を発見するようになるだろう。それらが「使われていない」というのは、CAFテーブルを作ったときに、その属性の使用の可能性や関係する望ましくない効果について、われわれが認識していなかったという意味である。
このようにして、CAFテーブルは発見のためのツールになるのである。

[解決策コンセプト SC10] [CAF3F1]:  「薄い器壁 - 材料のコストを下げる」

器壁の薄さを最適化し、また、器壁の輪郭に垂直方向および周囲方向のおりたたみの想像的なパターンを導入することにより、芸術的な価値を増大することができる。

[解決策コンセプト SC11] [CAF3F2]:

薄さが穴をもたらすということから、ブロー成形を2ステップで行なうことが思い浮かんだ。第1ステップでは、意図的に薄い壁で [所々に] 穴が開いているものを作る。第2ステップでは、第二の内層を異なる色で作り、2色の芸術的な製品で、十分な連続性と硬さを持つものを作る。

[解決策コンセプト SC12 ] [CAF4F4]: 「中間部の等間隔の並行な帯 - 帯が狭すぎると、重ね合わせた容器が噛み合って、一つの容器だけを取り出すときに干渉するかもしれない。」

まず、容器のスロープと狭い帯の半径方向の厚みを設計して、積み重ねたときに隣の容器とわずかにポジティブに干渉するように作る。 したがって、積み重ねるときに、軸方向に小さな圧力をかけると、帯が噛み合い、容器同士での硬さができる。
つぎに、それぞれの円周方向の帯を設計して、飛び出したバンド構造を持たないギャップを周期的に配置するようにする。 同一の容器の連続した帯は [ギャップの] 角度位置がずれていくようにする。
(バッキングのために機械で) 容器を積み重ねるときには、積み重ねた帯がそのギャップ位置の位相に関して互いにずれているようにする。
そして [使用のときに] 端の容器を小さな角度ねじると、つぎの容器の帯のギャップと位相が合うので、スタックを倒すことなく容易にスタックから外すことができる。

[解決策コンセプト SC13] [CAF5F1]: 「下に垂れた縁 - 壁面と唇の接触面積を増大させ、液が垂れるのを減らす」

縁を、狭い円周のセクションで、非常に薄い材料で分離されているかあるいは互いに離したものに分割し、垂れるのを少なくし、また唇の形に快適に一致するような非常に柔軟な縁を作る。

----    USITニュースレターの次号に続く  -----------

クラスへのコメント

中川徹教授が、USITの実践に関連していくつかの質問をし、議論することを要請してきた。それらはこのニュースレターの読者にとって一般的な関心があるものだと、私は感じた。それら [三つ] の質問を取り上げようと思うが、その一つずつをUSITニュースレターの別々の号で取り上げたい。

第一の質問はつぎのようである。

中川の質問1  (USITニュースレター 1号〜18号で議論した 「新聞紙の汚いインク」の問題に関連して)

「いままでにあなたは多数の解決策コンセプトを開発してきた。そのような諸解決策を何らかの形で体系化する方法を示してもらえないだろうか? それらをなんらかの体系的な方法ですばやくレビューできないだろうか? 」

Sickafus の考察 (回答)

いまやわれわれは「飲むための容器の問題」に随分深く入り込んでいるので、それを例として使おう。こうすると、この議論が現在のトピックによく適合する。

要求されているツールの有用性を私は認識している。それが特に役に立つのは、個人あるいは問題解決チームが、自分たちの進行を跡づけたり、マネジメントに報告したりするときである。

そのようなサマリは、CAFテーブルの直截的な拡張である。以下に [その構造を] 示す。

CAFS--解決策コンセプトのサマリ
#
クラス
属性
(+) 機能 および (-) 関連する望ましくない効果
解決策コンセプト
         
         

私は第二欄の名前を、「特性」から単に「クラス」に変更した。Matt Smith の示唆に従ったもので、クラスとは上位のレベルの属性のことである。 クラスは、扱っている特定の問題に応じて、組織化の便宜のために選択される。

飲むための容器についてのわれわれの進行の現状は、以下に示すようである。
欄を関連づけながら読むのに便利なように、箇条書きの ・ を文字に変更した。したがって、CAFS1F2は CAFS1Fbになる。 しかし、この記法が厄介になってきているので、CAFSの部分を落とすことにした。それで、1F2 は 1Fbになる。
解決策コンセプトの欄には簡潔なノートを書き (下記の例のように)、詳細についてはバックアップの説明資料を用意するのが、便利かもしれない。

CAFS--飲み物を入れる器のための解概念の概要

CAFS--解決策コンセプトのサマリ  「飲むための容器」の問題
#
クラス
属性
(+) 機能 および (-) 関連する望ましくない効果
解決策コンセプト
1 形状

・a) (平面図で見たとき) 円形の断面 (D1からD2へ)

・ b) 円は同心円である

+ a) 飲むときに、口の両側での液体の深さを最小にして、垂れるのを防ぐ。

+ b) ブロー成形のツールを単純にして、コストを最小化する

a) SC03: 飲み口を突き出させる; 使わないときには折り畳める

b) SC04: ブロー成形の能力はまだ越えられていない (これは4番目の解決策としては数えない) [注*1]

2  

・a) (立面図で見たとき) 円錐台の断面形状 (上記で D1>D2) [注*2]

・b) 垂直の直線が対称軸になっている

・c) 円錐台の形状は対称軸の周りで回転させた面になっている  [注*2]

+ a) 鋳型ツールからの取り出しを容易にして、欠陥品を減らす。

+ b) 重ねて収納可能にし、収納スペースを最小にする。

+ c) 持ったときに滑り落ちるのを減らす (逆さの台形 (D1 < D2) の容器を持ったときを想像してみよ)

b) SC05 「反対家」の解決策 - 斜めの軸: サービススクープの形状

b) SC06 「反対家」の解決策 - 斜めの軸: 望む体積を測るためのスクープ

b) SC07 「反対家」の解決策 - 斜めの軸:  病院の患者に給仕するための低アスペクト比

b) SC08: 複数一緒にブロー成形してより安定なスタックのために上部を連結している

c) SC09: 器壁に穴 (泡) を持ち、表面を粗くして持ちやすくする; 添加物の反応で泡を生成できる。

3   薄い器壁

+ a) 材料のコストを最小にする。

- b) もし薄すぎる場合には、(ツールの設計と品質管理の課題として) ブロー成形の際にポリマーの厚さが不均一になり、その結果、後に欠陥として弱い部分が生じる。

- c) 薄すぎると、[熱い液の] 容器をもったとき熱過ぎる

a) SC10: 凸凹のパターンで薄い器壁を強化し、芸術的な価値を付加する。

b) SC11: 2層の薄い器壁で、第2層が第1層の穴を閉じ、芸術的価値を付加する。

c) SC01: 表面に突起をつけて粗くし、熱伝導のパスを減らす。

c) SC02: らせん状の突起をつけ、突起の対応を保証する

4   中間部における等間隔の並行な帯

+ a) 表面を粗くすることによって、持ったときに滑りにくくする。

+ b) 持ったときに、変形しないように、形状的に強くする。

+ c) 魅力的なパターン (情報) を作り、無味乾燥な見かけを改善する。

- d) 帯が狭すぎると、重ね合わせた容器が噛み合って、一つの容器だけを取り出すときに干渉するかもしれない。

 

 

 

d) SC12: 切れ切れの円周方向の帯で、積み重ねているときには互いに干渉し、取り外すためにはねじって緩める

[注*1: Sickafus NL-27: SC04 は、新しい解決策に至らなかったので、採番はしたが解決策としてと考えない。灰色で表示している。[和訳では、濃青色にした]。]

[注*2: Sickafus NL-27:  (断面での)「台形」という表現をやめて、三次元の形を表現するために「円錐台」という表現を使うことにした。]

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 4月 2日   (掲載: 2013. 4. 6)

 


    USITニュースレター  No. 27   (2004年 9月27日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

このミニ講義-27では、飲むための容器に関して、CAFテーブルを使って解決策コンセプトを生成することを続けよう。また、中川教授からの第2の質問について取り組もう。

ミニ講義-27

USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法 (続き)

「発明の方法」の続き

ミニ講義26の復習

ミニ講義-26では、われわれは、飲むための容器に対して新しいコンセプトを生成する作業を、CAFテーブルを使って体系的に進めていた。われわれは[解決策コンセプト SC13] まで得た。本講義はそこから続ける。

... 飲むための容器の新しいコンセプトの発明 (続き)

[CAF6]:  重心が高さの半分よりも上にあることは、 [下の方が細い] 円錐台の形状のデザインの特徴であり、倒れる危険性を増大させる。

重心を下げるために、円錐台を逆さに向けた形状が、車のダッシュボードに置く飲むための容器として使われている。 それらは細くなった上端に広げた縁を持っている (右図)。この種のくびれた部分をもった形は、倒れにくくするけれども、入れ子にして積み重ねることをできなくする。

 

この形は容易に回転できるタンブラーのアイデアを思いつかせた。

[解決策コンセプト SC14]:

二つの円錐台を合わせた形 (鼓形) の容器において、その首の部分を上下の中心に移す。 これにより、手に持ってその内容を混ぜたり温めたりするときに、容器が手から滑ることがない。この形は入れ子にして積み重ねることは犠牲にしている。

[解決策コンセプト SC15]:

円錐台の形のものを二つセットにして、片方を飲むのに使い、他方を飲むための容器の飲んでいないときの支えとして使うと、ひっくりかえる可能性が少なくなる。 これらの二つの部分は、それぞれ別にして積み重ねることができる。

[解決策コンセプト SC16]:

上記の二つの部分をくみあわせた形で入れ子に積み重ねることができるように設計する。使うときには、二つを離して、片方を支えとして使う。

 

----    USITニュースレターの次号に続く  -----------

注意と修正

前号 (NL-26)で、私はいくつかの注をうっかり略してしまった。それらは、クラスの討論のセクションに属するものである。
[訳注 (中川): このSickafusの注は、NL-26に挿入しました。細部ですので、ここには記述を省略します。]

 

クラスへのコメント

中川の質問2         (「新聞紙上の汚いインク」の問題に関連して)

いま、この問題解決に携わっていた技術者たちのチームが、その成果を彼らの上司、恐らく技術的なことの責任を持っている中間管理職、に報告しようとしていると考えよう。このチームは、少数のよい解決策、試行するに値する解決策を選択するべきだと私は思う。 解決策を評価する手順として、どのようなものをあなたは推奨されるか?

多くの場合に、問題解決チームは、実験/試行/プロトタイピングを実施することの責任を負っている。したがって、彼らは自分たち自身の諸提案を評価し、最も有望な解決策コンセプトを選択しなければならない。この選択は、しばしば予備的で、マネジメントによる最終決定までにいくつかのステップがあるかもしれない。この場合、この問題を解決するように指示したマネジャは、提案や中間的な試行結果を聴きたいとは思っていないだろう。彼は新聞紙上の鮮明できれいな印刷結果だけが欲しいのである。

Sickafus の考察 (回答)

評価の手順

USITの作業が完了したとき、問題解決者 (個人あるいはチーム) は解決策コンセプトのリストでまだフィルタリングをしていないものを持っている。つぎのステップは、これらを「問題のオーナー」に提示し、各コンセプトを詳細に説明することである。これを始めるとすぐに、両当事者は、解決策コンセプトについて、その技術的な妥当性、含意するトレードオフ、コスト、時期、製造可能性、およびその他多くの受容可能かどうかの課題を質問する (問題にする) だろう。それはフィルタリングであり、必須のステップである。

問題のオーナー」というのは、この問題を解決する、あるいは問題を [担当者に] 解決させることの、責任を持っているあるいは責任を負わされた人で、相応の知識をもった人である。 この人は意思決定のマネジメントの適切なレベルに結合されていなければならない。 この結合は、真剣な問題解決努力を確立し、資源にコミットし、時期を設定し、レビュープロセスを確立するために、不可欠である。
(小さな企業では、解決者、オーナー、意志決定者をすべて結合したものが、一人の個人であるかもしれない。 しかし、提起されている質問は、解決者とマネジメントとの関係に関するものである。)

解決者とオーナーの両方がフィルタリングに参加しなければならない。オーナーがこれを単独で行なうことはできない。なぜなら、それぞれのコンセプトを創出するに至った考え方について知らないからである。名案が誤って捨てられることがある。 問題解決者がこれを単独ですることもできない。なぜなら、システム、製品、製造、ビジネス、その他の課題についての知識が不足しているからである。 よくないアイデアを推進して、解決者が恥をかくことがある。

フォード自動車での私の経験から、私が好むのは、オーナーまたは知識のある代表者に、USITの演習の最初から問題解決チームのメンバの一人として、関与してもらうことである (そのオーナーはUSITについて何も知っていなくてもよい)。
そして、USITの作業の最後には、全チームが、問題のオーナーと参加したいと思う専門家にも加わってもらって、フィルタリングの作業を共有する。その結果を記録し、その記録を問題のオーナーおよびそのマネジメントに提示する。解決策コンセプトの最終的な順位付けおよびつぎのステップの決定に関するチームへのフィードバックを、マネジメントからチームに2-3週間のうちにするように要請される。 この最終的な順位づけは記録に追加される。

典型的なオーナーおよびオーナーの代表者たちは、関係のある技術者たちであって、問題の技術分野のエキスパートである。彼らはUSITを知らないかもしれないけれども、USITのプロセスを観察し、USITのすべての段階でのアイデア生成に参加するように招かれる。この関与は彼らに、問題だけでなく、問題解決のプロセスとその成果についてのオーナーシップをコミットさせる。関与したオーナーが、彼らが生成した新しいアイデアの適応を成功させる鍵である。 それはまた、リターン顧客を創造する。

マネジメントは結果を必要とする

決してマネジメントを驚かせてはならない。問題を所有するマネジャがどんなに忙しくても、彼は問題解決チーム (または個人) に予め時間を割いて、初期目標、資源、レビュー、および打ち切り時期を設定するのにコミットしなければならない。 もしこれをしないと、チームは会社の時間と資源を浪費することになるかしれない。マネジメントも同様で [会社の時間と資源を浪費することになる]。 その上、それはマネジャの失敗である。(Sickafus がそう言ったと、マネジャに言え!)

そのようなコミットメントがなければ、問題解決者はすぐに忘れられてしまう。 そのようなコミットメントがなければ、マネジメントはあまりにも容易に決めこむ: 「私は忙しいのだから、最終結果になってないものなどに構っておれない!--うまくいったものもだ!」 この状況はマネジメントにとって歓迎しない驚きを招く。

よい手順は、マネジメントに簡潔な週間進捗ノートをemailで出す慣行を作ることである。毎月、15分間のミーティングを、問題解決者 (あるいはチームリーダ) と問題のオーナーとオーナーのマネジャとの間で、持つことを推奨する。決してマネジメントを驚かせるな。

実験/試行/プロトタイピングにチームが参加することは、一般的に必要なことである。 チームのアイデアが評価されるときには、それ [評価へのチームの参加] を期待するのは合理的である。 チームは企業のリソースなのだから。 マネジメントはこのリソースを効率的に使わなければならない。 関与していないマネジメントはそれをできない。

(もし私の言っていることが否定的すぎると聞こえるなら、中川教授のつぎの質問にはもっとよくしてみよう。)

 和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 4月 3日   (掲載: 2013. 4. 6)

 


    USITニュースレター  No. 28  (2004年10月 4日)   Ed Sickafus

読者の皆さん:

ミニ講義-28は、進行中の議論 (CAFテーブルを用いて、「飲むための容器」の発明を考える) から少し離れて、中川教授からの質問3に取り組もう。

ミニ講義-28

USIT--工学-設計問題を解決するための一つの方法 (続き)

「発明の方法」の続き

クラスへのコメント

中川教授の質問3

「また、この事例研究の全体像を明らかにして、USITにおいてどんな考慮がエッセンシャルなのかを示していただけないでしょうか?   ある意味で、あなたの講義には毎回そのようなエッセンシャルな考察が示されています。 しかし、もうすでに20回近くの講義になっていますので、あなたのUSIT手順の [全体的な] エッセンスを私たちに確認させていただきたいのです。」

Sickafus の考察 (回答)

これはタイムリーな質問である。これを読んで私は突然、「私が、問題解決の旅行を、私の乗客たちにどこに向かって行こうとしているのかも知らせずに、無邪気に始めてしまった」という感じを持った。申し訳ないことです。私はここで立ち止まって、状況を正しておこうと思う。

二つの似た問題

いままでに私は二つの例題を取り上げてきた。第一は汚いインク [の問題] を扱い、第二は飲むための容器の発明を取り上げている。第一を私は「欠陥改善 (fix-it)」 問題の一つとみなす。第二を私は「発明 (invention)」の問題の一つとみなす。 私が「発明」を引用符 (" ")で括って示したことに注意されたい。

いま扱っている問題 (すなわち、飲むための容器の発明を見出す問題) では、チームは新しい「発明」を創り出す任務を負わされている。他方、初めの「欠陥改善」の問題では、わずかの改良だけが必要であり、期待されていた。

私が「発明」を引用符に括って注意を喚起した理由は、発明というものが、われわれが解決するすべての問題に対して、解決策コンセプトをフィルタリングして得られる結果であると考えるべきだからである。マネジメントが「発明」を欲し、問題解決者たちが「発明」を欲し、株主たちが「発明」を欲し、すべての人が「発明」を欲している。しかし、「発明」とは何か? あなたは発明とは何かを知っているか?

発明は恐らく普通の解決策コンセプトとして出発し、ついに、尋常でない、自明でない、興味深い、賢い、単純で、廉価で、利益になって、「最先端で」、などなどと認識されるまでは、そう [解決策コンセプトの一つ] である。 解決策コンセプトが「発明」になるのは、ある種のアドホックなフィルタを通過してからである。 アドホックなフィルタは、時間によって変化するフィルタである。今日発明的であるものが、来月には発明的でないかもしれない。

私が即座に発明的だと認識した解決策コンセプトが私にはいままで多数あった。しかしながら、その大部分は、1ダースくらいの特許を別にして、発明としては短命であった。

「発明」をUSIT の終盤として (低く) 扱うと、われわれはすべての問題を、どんな問題でも、解決策コンセプトの形で解決する自由がある。しかしながら、「欠陥改善」型問題および「発明」型問題は、問題解決の割り当てにおいて普通に使われる呼称である。この区別はUSITの学生たちを行動停止させることがあり、彼らはどのように開始してよいか知らないように見える。

そこでこれを明示するために、私はまず欠陥改善型問題の解決に注意を喚起し、その次に発明型問題の解決を示して、両者の類似性を示すことに決めた。 これらの類似性の結果、われわれはUSITのプロセスを変える必要がない。われわれは単に「発明」を「望ましくない効果」に変換し、それを解決する。 「欠陥改善」は望ましくない効果を含意している。

戦略

一つの問題を (それがどんな種類の問題でも) 解決しようと始めるときには大抵、われわれは自分の頭の中で、問題から解決へと進むなんらかの戦略を作る。しかし、例外がある。

私はときどき、数学や物理学の問題で、どのように始めたらよいのかまったくわからない問題に出会った。どう攻略すればよいのかまったく分からない。これが起こるとき、私は通常、紙と鉛筆をもって、関係する数とか、もののスケッチとか、文章の一部とか、その他明らかに問題の要素であるものを何でも、走り書きして遊ぶ。最初は単に、合理的な目的を何ももたない心理的な遊びにすぎない。なにかの時点で、ついにアイデアが思い浮かび、問題中の鍵となる必要なもの、他の要素を集めるための可能性のあるルート、そしてゴールを認識するアイデアが得られる。
最初の手がかりが得られるのは、しばしば、無用な情報を削ぎ落とし始めたときである。これは通常、五里霧中の思考を断ち、仕事が始まるようにさせるのに必要なものである。この「仕事が始まるようにさせる」のは問題解決ではない。それは問題定義である。

私の問題解決の経験が教えてくれたのは、「仕事が始まるようにさせる」最も重要な部分は問題定義である。

USITでは、フローチャートが問題解決のための標準の (記憶すべき) 戦略である。それは簡潔で、単純で、強力なメタファ (比喩) から作られていて、それらのメタファは幅広く啓発的であるように意図的に曖昧にしてある。フローチャートの形で「標準の」戦略を持っていることは、潜在的に迷いやすい開始時点からわれわれの進展を加速してくれる。 われわれが問題をはっきり定義し、それをUSITの言葉 (オブジェクト、属性、機能) で表現してしまえば、フローチャートが機能し、われわれの脳内の手順も機能する。

USIT フローチャートは、(最上位の説明では) 3段階の戦略でわれわれを導く。すなわち、 [問題を] 定義する -> 分析する -> 解決する。 これらのそれぞれはヒューリスティックなツールから成っている。USITの戦略は、(フローチャートに従って進行すると) 単一の望ましくない効果を取り出す、深く考察して根本原因を見出す、新しい観点を開く、そして、常套でない想起を閃かせる、である。 この戦略を実行するにはヒューリスティックな諸ツールを使う。

私が自分の問題解決の経験から学んだのは、フローチャートは論理的でリニアな [一つの線に沿って進む] 思考を導くが、非論理的で飛び飛びの思考こそが解決策コンセプトを閃かせる、ことである。前者はすべて意識レベルで操作される。 後者は、無意識下で、論理的な操作の効用 (この「効用」は疑わしいが) を受けずに、起きる。 この考えが、(例えば) オブジェクトの名前に曖昧さを加えることを強調し、無意識がオブジェクトとオブジェクトの常套的でない (非論理的な) 連想を作ることを許そうとすることを、正当化している。

この観察から私が引き出した最も重要な結論は、無意識を働かせるように奨励することが、フローチャートを長々と説明するよりももっと重要だということである。 そしてこの宣言の結果として、私はしばしば新鮮で思いがけないアイデアを追って解決段階に進み、それが私をフローチャートからはずれさせるが、やがて後になってフローチャートに戻る。この種の柔軟性は、問題解決の3段階の間の価値ある反復を必要とする (あるいは作り出す)。 繰り返しに応じて各段階が向上する。

しかしながら、上記のことをすべて話したいま、私は中川教授の質問に答えたのだろうか? - 「あなたの手順のエッセンスは何か?」   私はここで立ち止まって、いままでの講義をレビューしよう。

それで、「汚いインク」の問題での私の戦略は何だったろう? --> これがその筋書きである。

NL-01

- 最初に、適切に定義された問題を構築する。

・ 問題状況を単一の望ましくない効果に縮約する。

NL-02

・ オブジェクトを最小限にする。

NL-03, -04

・ 考えられる根本原因を同定する
・ オブジェクト間の接触点を調べる
・ フィルタを特定して、排除する。

NL-05, -06

・ 思いつくままに [既知の] 解決策コンセプトを記録する

NL-07

- 問題分析を開始する。

・ 閉世界ダイアグラムを構築して、不良の設計が [もともと] 意図した働くしくみを示す。 (望ましくない効果はここには現れない)

NL-08, -09, -10

・ 定性変化グラフを構築し、望ましくない効果を特定のオブジェクトの原因属性と関連づける

NL-11 〜 -18 - 解決策生成の諸技法を適用する。
NL-19

- 原因と効果について、概念を明確化した (TRIZ Journalでも公表された)
        [訳注 (中川): これは NL-01〜-04に関連した概念の説明であり、USITプロセスの一部ではない。]

この時点で、「飲むための容器のための発明」についてのミニ講義のいままでの筋書きを構築することを、あなたに依頼するのが建設的であろうと私は思う。

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ヒューリスティックスに関する私の新しい本がいま最終レビューの段階にある。出版の時期については決まり次第掲載します。

和訳:  中川 徹 (大阪学院大学)  2013年 4月 4日   (掲載: 2013. 4. 6)

 

本ページの先頭 NL-19: 原因と効果 NL-20: バーをはしごする問題 NL-21: 発明の方法 NL-22: 飲むための容器の問題 NL-23: CAFテーブルの作成 NL-24: CAFテーブルを 使った解決策生成
NL-25: CAFテーブル再考 NL-26: 解決策の体系的提示法 NL-27: 解決策の評価と処置 NL-28: USITのエッセンス 前のページ (第3集) 次のページ ニュースレターの親ページ

 

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最終更新日 : 2013. 4. 6   連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp