TRIZ論文
TRIZの現代化: 1985-2002年米国特許分析からの知見
 Darrell Mann and Simon DeWulf (CREAX,  ベルギー),
 TRIZCON2003: Altshuller Institute 第5回TRIZ国際会議, フィラデルフィア, 米国, 2003年3月16-18日
 和訳: 中川 徹 (大阪学院大学), 2003年 3月 28日  
  [掲載:  2003. 4.16 ]     許可を得て掲載。 無断転載禁止。
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編集ノート (中川  徹, 2003年 4月 15日)

ここに掲載するのは, Darrell Mann と Simon DeWulf が 1ヶ月前のTRIZCON2003国際会議で発表した, 2編の卓越した論文を和訳したものものであり, 著者らの許可を得て翻訳・掲載できるのは非常にうれしいことである。このページに彼らの第一論文 (原題: "Updating TRIZ: 1985-2002 Patent Research Findings") を, そして別ページに第二論文 ( 「TRIZ矛盾マトリックスの現代化」, 原題: "Updating the Cotradiction Matrix") を掲載する。

小生は「TRIZCON2003学会参加報告」の和文概要において, これら2編の論文を以下のように紹介した。

(2) Darrell Mann & Simon DeWulf (CREAX社, ベルギー):  1985年〜2002年の米国特許を新たに完全に分析しなおした。インドで25人の研究者を雇い, すでに 3年間掛けた。アルトシュラーの研究をより組織化・現代化して, 新しい成果を多く体系化できた。教科書 (2002年5月) 刊行済み。矛盾マトリックスを全く新しく改訂した (今年4月に本として出版予定)。ソフト開発分野, ビジネス分野を対象に特化した矛盾マトリックスもつくった。ソフトウェアツールもすでに開発している。これらの成果の要点を今回の2編の論文に例示している。-- この論文2編を近日中に和訳掲載する予定。
この学会報告の英文詳細で記述したものを, 和訳してこのページの最後の編集ノート追記に引用するので参照されたい (論文をまず読んでいただきたいと思い, 追記に回した)。本件の掲載に関して, 著者および Altshuller Institute に厚く感謝する。
著者:    Darrell Mann  (Director, CREAX nv, ベルギー)  Email: darrell.mann@creax.com
           Simon DeWulf (CEO, CREAX nv, ベルギー)    Email:  simon.dewulf@creax.com
会社:    CREAX nv (Ieper市, ベルギー)   Web サイト:  http://www.creax.com/
学会主催:   The Altshuller Institute for TRIZ Studies.    Web サイト:  http://www.aitriz.org/

 
本ページの先頭 論文の先頭 1. はじめに 2. 特許研究 3. 発明のレベル 4. 進化のトレンド 5. 発明標準解 6. 結論と今後の課題 参考文献 編集ノート追記

 
「TRIZ矛盾マトリックスの現代化」(Mann & DeWulf) CREAX社Webサイト TRIZCON2003学会参加報告 (中川) (和文概要) TRIZCON2003学会参加報告(中川)(英文詳細)  英文のページ

 



TRIZの現代化:  1985-2002年米国特許分析からの知見

Darrell Mann       (CREAX社, ベルギー, Director)
Simon DeWulf      (CREAX社, ベルギー, CEO)
要約
TRIZの力量と強みの大部分が存在するに至ったのは, 非常に多数の特許を分析した結果を基礎にしてこの方法論が構築されたからである。しかしながら, 1985年頃にこの分析はほぼ停止して, 研究の焦点が他の重要な領域に移行した。TRIZのツール群のいくつかを今日の問題に使うと, それらが本来ユーザに提供できるはずの十分な役割を果たさない。今日の世界が大局的に, 電気やソフトウェアにずっと大きな基礎を置くようになったことからも, これは明らかである。この点を考慮して, 特許分析の大規模な研究プログラムを2000年に開始し, 1985年以後にビジネスや技術において起こった進歩がもたらせた変化を取り入れて, TRIZを拡張することを目指した。現時点で, 約150,000件のこの期間の特許を解析し, TRIZの知識ベースに加えた。本論文は, この研究の形式, 焦点, およびいくつかの知見について述べる。

1.  はじめに

「TRIZにおける高レベルの哲学的要素はその価値が変わらないが, TRIZの細部のレベルのツール群の多くが疲労の兆候を示し始めており, 過去15年かそこらの間に世界で起こった変化に対応できていない」ということを示す証拠が増大しつつある。例を3つ挙げてみよう。

あまりにも多くの場合に, 古典的TRIZの諸ツールがユーザに指し示す方向が, いろいろな領域で仕事をしている現代の発明家たちの「最先端」に比べると, かなりの程度劣ったものであることが見うけられる。このことは, TRIZ分野の研究が古典的ツールの興隆以降に停滞したと言っているのではない。停滞していないのは明らかである。だが, 近年の研究の大部分が, つぎのような仮定をしてきたことは明らかである。「十分なデータが集まった。このデータを再配置・再構築することが研究として必要である」と。本論文の著者たちが信じ, またここで論ずるのは, 「このようなタイプの研究は, 研究として価値はあるけれども, やはり, 正しくない仮定の上に構築されている」ことである。

本稿が報告するのは, 一つの大規模な研究プログラムで得られつつある知見の一部であり, その研究は新しいデータを大量に獲得してTRIZデータベースに取り込むことをねらいにしている。研究の視野の全体は, 特許データベース, 経営諸科学, 自然科学, および学芸一般からデータを獲得することを含む。焦点を明確にするために, 本稿ではこれら4領域の中の最初のもの [すなわち, 特許データベース] に注意を集中しよう。本稿は次の節から構成される。

(a)  発明のレベル:  本研究プログラムの分析で扱ったすべての特許について, 最初のTRIZ研究で [アルトシュラーが] 規定した「発明の5つのレベル」に関して調査した。本論文では, 過去15年間に渡って生じた「発明レベルのシフト」のダイナミックスを報告し, また, レベル4およびレベル5の発明の記録に関連して, それらがより低いレベルの発明を誘発させていくダイナミックスに新たに照明を当てる。

(b)  進化のトレンド:  技術およびビジネスのトレンドで, 従来観察されていなかった新しいものをいくつか明らかにした。それに加えて, 本稿では, 「進化の極限」と「進化のポテンシャル」という概念を開発したので報告する。「進化の極限」は一つのシステムが進化していく最も先の極限点を意味し, 「進化のポテンシャル」は現在のそのシステムが極限点からまだどれだけ手前にあるかを意味する。さらに, 分析したすべての特許に対して, 「進化のポテンシャルのレーダ図」を作り上げたやり方について報告する。このレーダ図は, 類似の特許を比較する手段を提供するだけでなく, [その分野の] 技術 [レベル] を大局的な基準点 (グローバル座標点) に対して位置づける手段をも提供する。ここで「グローバル座標での位置づけ」が可能になったことが, 企業がその知的財産や長期のビジネス目標を考えるに際して, 非常に深い影響を与えるであろうことを, 本稿で例示する。

(c)  発明標準解:  従来の76の発明標準解では知られていなかったものをいくつか明らかにし, 元のリストに加えた。これらの新しい知見が, 一般的に言って, 進化の初期段階にある諸システムに関連した発明から来ていることを, 本稿で述べる。

本稿の最後の節では, 特許分析のプログラムを活発に維持することの重要性, さまざまな企業や産業分野向けにカスタマイズする必要性, および将来の研究計画について簡単に述べている。

2.  特許研究

いま実施中の特許研究では, つぎのような基本戦略を採用した。1985年以降今日までに許諾されたすべての特許に対して, 少なくとも簡単に評価をして, それがTRIZのデータベースに何らかの寄与をする可能性があるかを確認した。特許群の評価を少しでもやったことがある人ならよく知っていることだが, 特許の中のかなりの割合が, 人類の福祉にも発明プロセスの理解にもほとんど寄与するに値しない。例えば, 図1に示すものである。

図1.  詳細分析から除外した発明の例

それでもなお, すべての特許について, われわれは「発明のレベル」を評価した。その評価には, Altshuller [1] が定式化した分類構造を用いた。ついで, さらに分析する価値があると判断した特許についてだけ, 特許広報の詳細な検討を実行した。われわれは以下の4つの領域を焦点に検討して, データを獲得した。

1) 矛盾:  その発明家が矛盾を特定し, 解決しているかどうか, また解決している場合にはどんな発明原理を用いたかを, われわれは調査した。この作業の結果は新しい矛盾マトリックスとして結実しつつある。これはわれわれの別論文 [2] の主題であり, ここにはこれ以上述べない。

2) 進化のトレンド:  各特許について, われわれは一つの複合した「進化のポテンシャルのレーダ図」を作成し, その発明が既知の進化のトレンドのどの位置にあるか, また, その発明によって進化トレンドでどんな飛躍がなされたか (あるいは飛躍がなかったか) を図示した。われわれはまた, 各特許について, 新しく興ってきているトレンドを見つけるように検討を加えた。

3) 知識/ [物理] 効果: 各特許を検査して, 「全く新しいあるいは最近使われ始めている, 物理的・化学的・生物学的効果を使っているかどうか」を判断した。このデータをわれわれの知識と [物理的] 効果のオンライン・データベース [3] に収録した。

4)  発明標準解:  各特許を調べて, 「現在知られている (あるいは全く新しい) 発明標準解を発明に使っているかどうか」という観点から検討した。このとき, [発明] 標準解と [発明] 原理と [進化の] トレンドには, 大きな重複部分があることをわれわれはもちろん知っているが, それでも, これらの異なるツールを区別する能力を維持するように努力した。その理由は ,TRIZのユーザの誰もが, TRIZのすべての部分に精通しているわけでないし, 精通しようとしているわけではないからである。

これまでのところ, 米国特許データベースに焦点を当てて分析を実施してきた。今後この他の特許情報源を見て, 分析を拡張しようとしているわれわれの計画の概要を, 本稿の最後の節に述べる。さて以下の節に, 現時点でのわれわれの知見を記述する。

3.  発明のレベル

Altshuller [1] が定義した, 「特許の5段階分類」およびその5段階区分の間の特許の分布については, TRIZコミュニティの中でよく知られている。「この分布が, 1985年から今日までの間に, なんらかの変化を起こしたかどうか」をはっきりさせたいとわれわれは考えた。現在での研究成果を図2に示す。

図2.  発明のレベルに関するデータの, 古典的結果と最新の結果との比較

「古典的」TRIZの知見と比較して, われわれが観察した主要な変化は, 「レベル1が少なくなり, レベル2とレベル3の発明の割合が増大する」というシフトである。まだ明確ではないけれども, 特許広報中の引用文献の分析結果が示唆しているのは, 発明家たちが彼ら自身の組織の外側の地平を, ますますより多く見渡すようになってきていることである。このことは, 特許データが近年大幅に入手しやすくアクセスしやすくなったことに多く起因しているであろう。また, 「潜在的投資家の目から見ると, 知的財産が競争相手から差別化する重要な要素である」との認識が広まってきていることにも起因するであろう。レベル3の発明の数 [訳注: 正しくは割合] が増大している。すなわち, 「ますます多くのアイデアが一つの産業から別の産業に移転されている」ことが分かる。これもまた, データが入手しやすくなったことに起因していると考えてよいであろう。また別に, いろいろな組織が, 「自分の知的資本を他の [産業] セクターで活用する可能性」をますますはっきりと認識し始めているという事実にも起因するであろう。いわゆる「屋根裏のレンブラント」現象 [4] である。

レベル4の発明の数 [訳注: 正しくは割合] が, 古典的TRIZでの知見に比べてやや減少していることは, 説明しにくい。そこで, ここには, それを理由づける試みをなんらせずに, 見い出したままのデータとして提示する。

特許に関する一つの側面で, TRIZの文献中にいままで発表されていない (少なくとも英語で発表されていない) のは, 発明の各レベル間での関係と影響の程度についてである。われわれが研究計画を真剣に開始する前に持っていた当初の仮説は, 「レベル 4/5の発明と, その後に創り出されるレベル 3, 2, 1の多数の発明との間に明確なリンクがあるだろう」ことであった。その後の研究の結果, ある種のリンクを確かに確認した。図3参照。当初のTRIZ研究からは, 「高レベルの発明がどれだけ速く低レベルの発明を生み出していくか」というダイナミックスに関して, 長期のパターンを確立するにはデータが不足していた。しかしながら, 過去15年間のデータは, 「低レベルの発明をつくりだすことがより加速される方向にある」というトレンドを非常に明確に示している。企業が, 自分たちの高レベル発明の周りに, (競争相手たちがやるよりも前に) 強固な知的財産保護の「フェンス」を張りめぐらせることに, ままます力を入れているからである。

図3.  種々の発明レベル間の特許のクラスタリング

図3に示すような図を作るのに必要なデータは, すべてオンライン特許データベースから入手できる。この場合で言えば, われわれのいまの特許の「発明のレベル」のデータを, 各特許に記録されている被引用および参照のデータとマッチさせることができさえすればよかった。

このデータが実際に示唆しているのは, 「レベル4または5の発明が一つあれば, その技術の進化の全寿命の期間を総合すると, 平均して1500件を越える関連特許を生み出す」ことである。(このようなレベルの発明の例は, 例えば, 「rheopexic gel」, あるいは, 最近のCREAX Newsletter の「今月の注目特許」から例を取ると, 「レーザ推進システム」などである。)

4. 進化のトレンド

われわれの研究においては, 進化の「パターン」あるいは「ライン」という [階層的な] 区別をしなかった。その代わりに, 特許データベースから個々の進化のトレンドを抽出し, 各特定のシステムの進化の状態を決定するのに使えるようにすることに, 焦点を絞ることにした。諸トレンド間には多くの相互作用が可能であり, 実際に相互作用が起こっていること (例えば, 文献 [5] 参照), そしてこれらの「ライン」が非常に複雑になりうるという事実を, 認識した。しかし, 進化のトレンドを問題解決や [新製品・サービスなどの] 戦略的決定に最大限に有効に利用していくためには, [特許の] 個々のケースをベースにして [トレンド間の] 相互作用を記述できるようにすることが, 最も望ましいと判断した。そこで, われわれの「トレンド群」は, 主要な進化の現象を最もよく表すとわれわれれが考えるやり方で分割した。

いままでに, 技術システムに関連した進化のトレンドとして, 合計35トレンドを見つけ出した。これらのトレンドは文献 [6] に詳細に記述した。文献 [6] はまた「進化のポテンシャル」の概念をも記述している。各システムまたは発明の進化の状態を, 諸トレンドに沿ってプロットするのである。われわれの特許研究に関する限り, 分析したすべての特許に対して進化ポテンシャルの複合レーダ図を作成してきている。(もっと詳細な進化の図を欲しいという顧客からの要求がある場合には, この複合レーダ図に加えて, システムの構成要素ごとのレーダ図をさらに作成している。) 特許研究において, 一つの発明ごとに進化ポテンシャルの複合レーダ図をプロットするのに加えて, その発明によってもたらされた [進化トレンド上の] 飛躍をもプロットした。図4に, 典型的な一つの発明について, 発明前と発明後との進化の状態を示した図を例示した。

図4.  進化ポテンシャルのレーダ図で, 飛躍を示した例

分析対象のすべての特許について, レーダ図を構築する過程は, 35のトレンドのそれぞれを検討して, それがこの発明に関連するかどうかを明確にすることから始める。関連があると見なされたトレンド群に対して, 研究者はこの発明が各トレンドに沿ったどの位置にあるかを明確にする。(離散的段階をもつトレンドでは, 単純に段階番号を記録すればよい。連続的に変化するトレンド (例えば, 「密度の減少」のトレンド) の場合には, トレンドのスケールに沿ってその位置を定性的に調べる。) また, 発明前における位置についても明確にする。

[これらの結果を] 集めてみると, [進化の] トレンドは, 特許群をただお互いに対比するだけでなく, 「最先端 (best practice)」のグローバルな基準に照らして評価する手段を与える。このことは, 一つの [産業・技術] 分野において, 現在の技術を十分に保護しかつ発展させるための観点として重要である。なぜなら, [進化の] トレンドたちは, 「ある産業・技術分野で見出され, その他の分野ではまだ他にはlゥ出されていない, 望ましい進化の方向」にアクセスする有効な方法を与えているからである。

図5は進化ポテンシャルのレーダ図の典型的なグループを示す。本研究で実施中の仕事の規模について, ある程度の感触を伝えようと試みたものである。

図5.  進化ポテンシャルのレーダ図の典型例 [集めたもの]。透明性のトレンドの飛躍を含む特許群。

この図に表したすべての特許は, つぎの事実で結ばれている。すなわち, これらの発明は, 本研究において発見した「透明性の増大」のトレンドに沿って飛躍があったものたちである。このトレンドの基本的な離散的段階を図6に示した。

図6.  「透明性の増大」という進化のトレンド

文献 [6] にはトレンドをもっと詳細に記している。特に, トレンド [に沿った飛躍の] 実際の例を示し, また, 「システムがトレンドに沿って左から右へなぜ飛躍をしたのか」という理由のいくつかを記述している。

実施中の特許研究の広がりと深さをさらに例示するために, 図7を示す。この図は, 「透明性の増大」を利用して解決された技術的矛盾の諸タイプを示している。

図7.  「透明性の増大」による発明群。解決された [技術的] 矛盾の一覧図。

「透明性の増大」が, いままでに想像されたよりもずっと広い範囲の, 効用と適用性を持つことをこの図が示唆している。

今後のいくつかの論文と著書 [7] とに, 他のトレンドについての同様のデータを, われわれが考案した枠組みで記録するであろう。それまでの間, ここに [簡単に] 記述したのは, われわれが断固として実施しつつある特許研究の規模を示唆することが主たる目的である。

5.  発明標準解

発明標準解とTRIZの他の部分との重複は, 進化のトレンドとの重複がもっとも顕著である。[発明標準解] のクラス 2, 3, および 5は, 進化のトレンドの諸段階 (上記および文献 [6] 参照) について記述した特徴や方向と, 非常に大きな相関がある。そのため, われわれの研究は, [発明標準解の] ラス1 (「["物質-場"モデルの] 合成と分解」) およびクラス4 (「測定」) に主たる焦点を当てる。

発明標準解のクラス1に関して, われわれは以前から, 「TRIZツール群の中の"物質-場"モデル [の合成と分解] の部分 [すなわちクラス1の部分] は, システムの進化の初期段階において最も役に立つ」という仮説を持っていた。そこで, 本研究で, これらに有意な相関があるかどうかをはっきりさせることを試みた。図8に示すデータが示しているように, クラス1の発明標準解の使用と, システムのS-カーブ上での位置とは, 実際に非常に明確な相関を持つことが分かった。図 [実際には表] が明確に示しているのは, クラス1の発明標準解が一般に, S-カーブの初期成長期に見られる低レベルの特許を生成するのに使われていることである。
 

進化の段階
解決策の割合 %
発明レベルの平均値
概念化/誕生
2
1.7
幼児期
65
1.5
成長期
29
1.5
成熟期
4
1.3
引退期
0
--

図8.  発明標準解クラス1の利用と進化の段階との相関

[訳注:  発明標準解のクラス1を用いた解決策だけを取り出して, それを進化の段階に対応して分類し, 各段階でこれらのクラス1の発明がもつ平均的な発明のレベルを評価したもの。]


この結果はあまり驚くにあたらない。システムの部品数は進化の初期段階中に一般に増大し, また, 発明標準解は主としてシステムに物質や"場"を追加することに関連しているという事実があるからである。

この領域でもう一つ興味がある点は, 発明標準解のクラス1と, システムに物質や"場"を加えることに関連している発明原理 (例えば, 24. 仲介原理, 5. 併合原理 (Merging), 1. 分割原理 など) との重複である。これらの [発明] 原理を特色とする特許を記録するときには, 発明標準解のデータベースに一つの [適用] 事例を追加できることが普通である。これらの [発明] 原理だけ (そのため [発明標準解の] クラス1 だけ) を使った解決策は, その発明のレベルが一般的に非常に低い。ところが, 「これらの [発明] 原理や発明標準解を, その他の [発明] 原理と組み合わせて使っている解決策においては, 発明のレベルの平均値が有意により高くなっている」ことを, われわれの研究が明らかにした (文献 [8] 参照)。言い換えると, [発明] 原理や [発明] 標準解を組み合わせて使うことにより, より高いレベルの発明が引き起こされる。

発明標準解のクラス4に関しては, クラス4の [発明] 標準解の利用と, それを適用したシステムの進化の段階との間には, ほとんど全く相関がないことをわれわれは見つけた。簡単に言えば, 測定の問題は一つのシステムの [進化の] ライフサイクルのどの段階でも起こりえると言える。

いままでのところ, クラス4の発明標準解のもともとの記述 (古典的定義に見られるもの) をわれわれは維持しており, 特許データベース中の新しい解決策たちもすべてこの [古典的] 枠組みの中に随分うまく当てはまっていることをわれわれは見出した。それでもなお, まだ特許化されていない大量の測定解決策を, われわれは詳細に検討したわけではない。「発明標準解のクラス4 がTRIZのツールキットの中で, 測定の問題を解決するのを助ける最良のツールである」ということを言うために, われわれは今後何ヶ月かを掛けて, 特許化されていない測定解決策たちをより詳細に検討するつもりである。

もっと一般的に, 新しい発明標準解の勃興に関して, 「われわれが見出した新しい [進化の] トレンドの多くが, 新しい発明標準解をつけ加えることに影響するだろう」とわれわれは予想している。[進化の] トレンドであまりうまくカバーできていない追加の一つの領域は, システムの改良を助けるのに, 特殊な性質を持つ添加物がより普通に使われるようになってきたことである。文献 [6] ではこの知見を反映させるために, これらの傾向をカバーするための二つの新しい [発明] 標準解を追加した。さらに, [文献 [6] に] リソースリストを特に掲載し, 問題解決者たちにそれらの添加物の利用を考えることを促すための備忘リストを意図した。長期的には, 「発明標準解を大幅に再構成する必要がある」とわれわれは予想している。しかしながら, そのような仕事に必要な [人的] 資源にコミットする前に, まず最初にわれわれは, 「TRIZの"物質-場"モデルが, 有用な個別ツールとして生き続ける。[TRIZ] ツールキットの他の部分に飲み込まれることはない」 と, もっと確信できねばならない。この決断の時期が来たら, 本研究での知見を (ここのスペースが許すより以上に) もっと詳しく発表するであろう。

6.  結論および今後の課題

TRIZを現代化する (更新する) ための本研究プログラムは, いくつかの新しい [進化の] トレンドと新しい発明標準解とを生み出し, 諸システムの進化の状態をグローバルな基準に対して位置づける大量の新しいデータをもたらせた。それはまた, 初めてのことであるが, TRIZの問題解決ツールキットのさまざまの部分が, どんな頻度と目的で用いられているかについて, 詳細な情報を提供した。これらだけでも, われわれの研究 [成果] が, われわれが行った大規模な投資を正当化していると, 考えている。

本研究の知見全体から局所的に関連するデータだけを抽出することに, 企業からかなりの関心があるように見える。あるレベルではもちろん, この種の活動は最先端の実践 (best proctice) を異なる産業 (企業) 間で移転させる [のに必要な] パワーを減少させる。しかし [それよりも前のレベルで] , 多くの産業 (企業) 環境の実情と制約とのために, 同一 [産業] セクター内での解決策の間で, より綿密にモニターした (ベンチマーク) 評価をすることの需要がある。現在われわれはいくつかの顧客と共同して, このプロセスで顧客を支援している。全特許データの中の, 特定の企業 (あるいはさらに, 顧客の要求に応じて, その企業の一部の製品) に直接関連した部分だけに基づいて, 戦略レポートを構築することである。

われわれはまた, TRIZの諸方法の現状を改良することを目的として, 研究を継続している。古典的TRIZの諸ツールを構築するのに使われた原資料が, (理想的な世界なら) パブリックドメインに入手可能になるであろう。これがなんらかの理由でできないと分かった場合には, 1985-2000年の期間に許諾された特許の分析からわれわれが得たものの価値を考えると, 「1985年以前に許諾された特許のいくらかを分析する (あるいは, 再分析する) ように [本研究を] 拡張する」ことも, 十分に正当化されるであろう。

当分の間, われわれが得た知見のより多くを, 他の出版物を通じて世界全体に利用可能にしていく計画である。

参考文献

[1]  G. Altshuller, ‘Creativity As An Exact Science’, Gordon and Breach, 1984.  [『厳密科学としての創造性』, 邦訳なし。]
[2]  D.L. Mann, S. Dewulf, ‘Updating the Contradiction Matrix’, paper to be presented at TRIZCON 2003, Philadelphia, March 2003.
         [「TRIZの矛盾マトリックスの現代化」, 中川  徹訳, 本ホームページ掲載]
[3]  www.creax.com
[4]  K. Rivette, D. Kline, ‘Rembrandts in the Attic: Unlocking the Hidden Value of Patents’, Harvard Business School Press, 1998.
[5]  D.L. Mann, S. Dewulf, ‘Evolutionary Potential: The Next Stage’, paper presented at TRIZ Future Conference, Strasbourg, November 2002.
[6]  D.L. Mann, ‘Hands-On Systematic Innovation’, CREAX Press, April 2002.
[7]  D. L. Mann, S. Dewulf, ‘Trends’, CREAX Press, to be published summer 2003.
[8]  CREAX newsletter, ‘Combining Inventive Principles’, www.creax.com, February 2003.


編集ノート追記 (中川  徹, 2003年 4月15日)
 

小生のTRIZCON2003学会参加報告の英文詳細において, Mann と DeWulf によるこの2編の論文を小生は以下のように紹介した。[和訳: 中川, 2003. 4.15]
Darrell Mann と Simon DeWulf  (ベルギー, CREAX社) による 2編の論文 [27][28] が, 今回の国際会議における最も重要な成果である。論文 [27] は「TRIZの現代化: 1985-2002年米国特許分析からの知見」という表題。良く知られているように, アルトシュラーがTRIZの基礎を創り, 発展させたときには, 特許の集中的な研究を基礎にした。しかし, それらの特許分析が行われたのは大部分が1970年代から1985年までであった。そのため, TRIZを近年学び始めた人たちが, 「TRIZのさまざまな事例がなんだか古くさすぎる」 と不満を言うことが多かった。これを克服するために, CREAX社は大規模な研究プログラムを開始し, 1985年以来現在までに登録された米国特許の全部を分析して, TRIZの原理や知識ベースの全体を再確立することを目指した。同社はインドに研究所を作り, 25人の専任の特許アナリストを雇い, 2000年開始以来いままでに約15万件の特許の分析を行った。

さまざまな専門分野の特許分析の専門家たちを集め, TRIZの概念と今回の分析の枠組みを訓練した。そして, 彼ら/彼女らは, 米国特許を一つ一つレビューして, まず (アルトシュラーの基準に従って) 特許のレベルを評価し, ついで (最も低いレベルの特許を除外してから) 下記の項目を並行して明確にしていった。

(1) 発明者が特定した/解決した矛盾, およびその問題を解決するのに使った発明原理。
(2) 問題の状況と解決策の状況を, 多次元の進化ポテンシャルを示す単一のレーダ図の形式にプロットした。
(3) 問題の解決に用いた物理的・化学的・生物学的効果。
(4) 解決策の生成に用いた発明標準解, あるいは発明標準解の新しい候補。

これらのすべての知見は, 特許の識別情報および人手で抽出したアブストラクトと一緒にして, パソコン上で一定形式のファイルに記録した。この研究プログラムの品質は, TRIZの概念, プログラムの枠組み, および個々の特許の内容を, 分析者たちがどれだけ終始一貫して理解しているかに懸かっている。一人の分析者が1日に約10件の特許を処理することができた, と著者たちは報告している。

この研究プログラムで蓄積した知見は, その一部がすでにDarrell Mann著の新しい教科書『Hands-On Systematic Innovation』 (仮訳: 『実践 体系的技術革新』) (CREAX社, 2002年) に反映されており, また近い将来にさまさまな形で公表される予定である。

論文[28] は, 「TRIZ矛盾マトリックスの現代化」という表題で, 上記の研究プログラムで得た第一の側面を報告したものである。アルトシュラーの矛盾マトリックスを, 改良した枠組みと最新のデータで完全に再構築したものである! マトリックスのパラメータを定義し直し, 50個に拡張している (ユーザ・コミュニティとの密接な連携・議論の結果を反映したという)。上記[27]の論文で報告した特許分析の結果を, 良く知られたアルトシュラーの矛盾マトリックスの形式で (新しいデータを) 表示するとともに, Matrix Explorer と呼ぶ新しい形式でも表示している。新しい本『Matrix 2003: Updating the TRIZ Contradiction Matrix』 (仮訳: TRIZ矛盾マトリックス 2003年改訂版) (共著者: D. Mann, S. DeWulf, B. Zlotin, and A. Zusman) を 2003年 4月に出版予定であるという。

矛盾マトリックスの内容の変化を, 論文中にいくつかの例で示している。さらに, 矛盾マトリックスを適用分野に合わせて容易にカストマイズできることを例示している。そこで, 例えば, ソフトウェア開発の問題分野に適するように編集した矛盾マトリックスは, 22×22のマトリックスで構成され, 近く小冊子として出版する予定であるという。

これらの2編の論文 [27][28]は, 膨大な研究を基礎にしており, TRIZを現代化し, 普及させるために非常に重要である。これらの論文は, CREAX社のWebサイト およびTRIZ Journal  に掲載される予定であるが, 本サイト『TRIZホームページ』においても著者の許可を得て英文および和訳の両方で近く掲載する予定である。

なお, Darrell Mannの教科書『Hands-On Systematic Innovation』 (仮題: 『実践 体系的技術革新』) の和訳が現在進行中である。三菱総研の創造開発イニシアティブ (ITI) を中心とした20名近くの有志技術者の共同作業 (監訳者: 中川) により, すでに全章の第1稿が完成しており, 2003年10月の出版を目指している。乞うご期待。
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最終更新日 : 2003. 4.16.   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp