問題解決事例: VE関西大会論文
JR大阪駅改良工事における移動式券売機室の開発
片山 孝治(JR西日本)
第38回VE関西大会、
2007年 2月16日、大阪国際交流センター(大阪市天王寺区)
掲載:2007. 4. 5.    著者の許可を得て掲載。無断転載禁止。

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編集ノート (中川徹、2007年 4月 1日)

ここに掲載させていただきますのは、標記のように、日本VE協会関西支部主催の第38回VE関西大会において、去る2月16日にJR西日本の片山孝治さんが発表された、すばらしい問題解決の事例です。私は同大会に招かれて、USITに関する招待講演をし、この発表を聞かせていただきました。「VE事例」として発表されたものですが、TRIZやUSITで創造的な問題解決を学習・実践していこうとしている私たちに非常に参考になるものです。すばらしい発表 (午前中) でしたので、その日の昼食時にVE協会の方々やJR西日本の上司の方々に『TRIZホームページ』への掲載許可をお願いし、快諾をいただいたものです。掲載を許可下さいました、著者、JR西日本、および日本VE協会に厚く感謝いたします。

このような機会が生れました背景について少し説明いたします。VE (バリューエンジニアリング) は、技術開発、特にコスト削減のための重要な技法として、日本でも多数の企業が大規模に取り組んできており、組織活動としても実践適用においても、長年の実績を作ってきています。その中で技術課題のブレイクスルーのための具体的技法の必要性が認識され、1990年代後半からのTRIZの普及に対応して、TRIZに関心を持ち関与してきたVE関係者・出身者もありました (例えば、産業能率大学のグループはVE出身でTRIZを主導しています)。VE協会に軸足を置いてTRIZの技法を導入しようという動きが、この数年特に関西支部で継続的に行われてきています。それは、日本VE協会関西支部内の「TRIZ研究会」として組織され、十数名の定常メンバが毎月1回の研究会を会場持ち回りで開いてきたということです。私は、この研究会に2004年 6月に招かれて 3時間の講演をし、その後VE協会会誌2005年5月号に「創造的問題解決の技法TRIZ/USIT の紹介」という解説記事を掲載いただきました。

今回のVE関西大会のプログラムは下記のようで、中川のUSIT解説に続けて、松下電工の辻公志さんのUSIT活動事例の講演がありました。大変盛会で、300名を越える参加者にTRIZ/USITの話を聞いていただけたのは、ありがたいことでした。

基調講演: デンソーのコストマネジメント --
VE事例: JR大阪駅改良工事における移動式券売機室の開発 -- 片山孝治 (JR西日本)
技術講演: USIT: 創造的問題解決の新しいパラダイム〜やさしいTRIZによる着実な技術革新〜--中川 徹 (大阪学院大)
TRIZ事例: 松下電工におけるUSITの推進活動 -- 辻公志 (松下電工)
VE事例: 空間清浄システム ウィルスウォッシャー開発におけるVE事例〜顧客満足度アップのための改善〜 -- 増田信之 (三洋電機)
コスト・マネジメント特別講演: キヤノンのコストエンジニアリング〜CE活動に連動したVE〜 -- 梅沢一美 (キヤノン)

片山さんの発表は、現在進行中のJR大阪駅の大規模改良工事において、券売機室を数次にわたって移設を繰り返す必要があるとういう問題に対応しようとしたものです。従来の移設法は、仮囲いをして新券売機室を作り、機器を移動させて、仮囲いをして旧券売機室を撤去する、というものです。全体で40日間かかり、その間コンコースは狭くなってお客さんに多大の不便を掛け、かつ全体の工期に間に合わないという問題に直面しました。この問題に対して、「4分割してユニット化した券売機室を作り、台車でユニットごと移動して、一晩で移設完了する」という解決策を設計、実施しました。非常に実際的で、目を見張るような解決です。

問題解決の方法を、まとめると以下のようです。

(a) 問題点の抽出と分析(分類、体系化)、
(b) 「問題反転機能系統図」による問題解決の目標の体系づけ、
(c) 個別問題の解決案検討 (アイデア発想と評価)、
(d) 解決策の設計と細部の検討、
(e) 解決策の実施

これらの問題解決のそれぞれの段階は、分かりやすく、実施しやすいものです。発表者は「VE手法を使った」と記述していますが、そのポイントは(b) の段階にあるよう思います。論文の図3を、以下に引用させていただきます。

この図の左半分が問題の体系を表し、中央の点線のところで、問題点表現 →課題 (目標) 表現に反転し、右半分が目標の体系を表現しています。このようにして全体を捉えた上で、個別の問題を解決するアイデアを考え (ここはTRIZ/USITが得意とする段階である) 、それを総合して実施可能な解決策を創り出しています。分かりやすい、よい方法だと思います。

TRIZ (特にUSIT) では問題を絞り込んで解決することに重点がありましたが、実際の問題はこの例のように多様な課題を含んでおり、それらの問題解決を総合して扱う方法も必要ですから、本発表が大変参考になります (このような扱い方は、パナソニックコミュニケーションズ社の電子ボードの梱包サイズの小型化の事例でも指摘されていたことを思い出す)。

本『TRIZホームページ』は、TRIZだとか、USITだとかにとらわれずに、問題解決に役立つ方法をできるだけ広く扱っていきたいと考えています。そのような一つのきっかけとして、本件を掲載できますことはまことに幸いなことです。


 

発表論文 PDF 形式 (5頁、204 KB)

 

 

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最終更新日 : 2007. 4. 5.     連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp