TRIZ/USIT 論文: TRIZ シンポジウム 2009発表
USITオペレータ活用事例集の検討
[MPUF-USIT/TRIZ研究会] 古謝 秀明 (富士フイルム) 、三原 祐治、中山 憲卓、中村 公一、牧野 泰丈

日本TRIZ協会主催 第5回日本TRIZシンポジウム、2009年9月10-12日、国立女性教育会館、埼玉県比企郡嵐山町

紹介: 中川 徹 (大阪学院大学) 英文: 2009年12月20日、和訳: 2010年2月16日
掲載:2010. 7.25

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編集ノート (中川 徹、2010年 7月23日)

本稿は、昨年のTRIZシンポジウム2009 で、ポスターセッションで発表されたものです。MPUF のUSIT/TRIZ 研究会については、「TRIZ関連のニュースと活動 (国内、TRIZ協会関連以外)」のページ を参照下さい。TRIZ関連のいくつかのボランティアの研究会の中で、USITにウェイトを置いて研究活動をしていることが特徴です。

この発表は、多数の身近な新しい技術を一つ一つUSITの目できちんと分析して、事例集として蓄積していこうとしています。その分析では、時間や空間での特徴を捉えて従来の技術の問題点を考察し、その問題点を克服する新しい技術のしくみをきちんと理解しようとします。また、事例集の作成にあたっては、すべての技術的問題を大きく分類することを考えています。その分類は、A. 機能の過剰、B. 機能の不足、C. 機能の不安定、D. 害という、大きな4分類を考えた上で、それぞれに対して問題を起こす原因によって細分化しています (全部で16分類)。一方、新しい技術をもたらせたアイデアを、「USITオペレータ」を使って書き出そうとしています。(「USITオペレータ」は、TRIZのすべての解決策生成法 (発明原理、発明標準解など) を一旦バラバラにして統合し直したもので、32のサブオペレータがあります。) 事例集の目標は、このような大掴みな問題の分類から、それぞれに適したUSITオペレータを知ることができる索引を作っていくことです。

本ページには、和文のポスター発表スライド (15枚) のPDFを掲載しました。また、中川が書きましたTRIZシンポジウムの「Personal Report」 (英文、2009.12.24掲載) から、本発表の紹介文を抜粋して、和訳して掲載します(この和訳は、2010年2月19日のUSIT/TRIZ研究会で報告しましたが、公表が今日まで伸びました)。英文ページには、ポスター紹介スライド (英文、4枚) と、中川の紹介文を掲載しました。

中川の紹介文を読んでいただくと、このUSITのアプローチが、いままでしばしば行われてきた「一つの技術を分析して、TRIZの矛盾マトリックスで位置づける」というアプローチと、見かけが似ているけれども、ずっと違うことを理解いただけるかと思います。


[1] 論文概要

USITオペレータ活用事例集の検討

[MPUF-USIT/TRIZ研究会]
古謝 秀明 (富士フイルム) 、三原 祐治、中山 憲卓、中村 公一、牧野 泰丈

概要 

本研究会の目的は「構成要素」「特性・構造」「機能」という3つの視点で発想するためのヒントとして整備されているUSITオペレータをより有効に活用するためのガイドを提供することである。
身近な事例を取り上げて「これをUSITで取り組んだらどんな風にUSITオペレータを活用したと考えられるか」という簡易的なリバースエンジニアリングを行い、技術問題と解決策との対応から活用指針を出すことを試みている。
本報告では、これまで集まった事例から見えてくるものを紹介する。


[2] 発表スライド全文:

和文ポスター発表スライド (15 スライド、PDF 316 KB)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)

英文ポスター紹介スライド (4 スライド、PDF 155 KB)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)


[3] 発表の紹介 (中川 徹)

「Personal Report of The Fifth TRIZ Symposium in Japan, 2009, Part G. Patent Studies and Tools」、
中川 徹 (2009年12月20日) (英文ページ) から抜粋。和訳: 2010年2月16日。

古謝 秀明 (富士フイルム) と三原 祐治、中山 憲卓、中村 公一、牧野 泰丈 (MPUF-USIT/TRIZ研究会) [J26 P-B5] が、「 USITオペレータ活用事例集の検討」という題でポスター発表をした。これらの著者は多数の異なる企業の参加者からなる、もう一つのボランティアベースの研究グループに属している (MPUF のUSIT/TRIZ研究会については、Part D の前田卓雄らの項を参照されたい)。まずここに、著者らの概要を引用する。

本研究会の目的は「構成要素」「特性・構造」「機能」という3つの視点で発想するためのヒントとして整備されているUSITオペレータをより有効に活用するためのガイドを提供することである。
身近な事例を取り上げて「これをUSITで取り組んだらどんな風にUSITオペレータを活用したと考えられるか」という簡易的なリバースエンジニアリングを行い、技術問題と解決策との対応から活用指針を出すことを試みている。
本報告では、これまで集まった事例から見えてくるものを紹介する。

この研究の構造はスライド (右) に示すようである。その主たる意図は、USITオペレータを理解しやすく、適用しやすくすることである。本発表の著者の中の古謝秀明と三原祐治は、中川と共に、USITオペレータの体系を導いた原論文(2002) の共著者である。USIT/TRIZ研究会では、USITオペレータを適用した身近な事例集の知識ベースを作ろうと計画している。その事例を記述するために (後述のような) 1ページの書式を作った。そしてさらに、新しい索引マトリックスを作って、ユーザはまず問題の (抽象化した) タイプを特定し、このマトリックスをみると、そのようなタイプの問題にいままでしばしば使われたUSITオペレータが分かるようにしようとしている。

[*** このように書くと、読者の皆さんは、本発表が通常のTRIZのアプローチ (例えば、前項の長谷川公彦らのTRIZ協会知財創造研究分科会のアプローチ) と非常に似ていると思われるだろう。しかし実際には、USITオペレータがより抽象的な性格を持っているために、基本的な概念において違っているのである。]

この基本的な理解は、3年前の第2回TRIZシンポジウム2006での古謝秀明の発表 からもたらされている。右のスライドは、その理解を示すものであり、オブジェクト-属性-機能、および望ましくない効果と技術的問題との相互関係を示している。

著者らはまた、関連する現象や作用における詳細なプロセスを理解することが重要であると考えている。

さて、著者らの文書化のスタイルについて見ていこう。右のスライドは、事例を記録するために採用した定型書式である。これは糸通し器の事例であり、針を糸通しループに対して容易に位置決めできるように背面板を備えている例である。事例は、身近によく知られた/新規の製品、特許、技術などから集めてくればよい。この書式で記述すべき項目は、大抵はまったく自然なものである。すなわち、(1)問題、(2)根本原因、(4)説明とスケッチ、(5)面白い/印象的な点、である。その一方、「(3) 一般化した根本原因」の記述は、さらに抽象化 (あるいは分類) した結果であり、これについては後述する。「(6) 適用されたと考えられるUSITオペレータ」という記述は、発明者がこの新製品/プロセスを開発したときの思考方法について、分析者が解釈した結果である。

USITでは、問題のメカニズムを観察し、その状況のスケッチを描くことを強調し、それを根本原因の分析に用いる。右のスライドの右欄の3つのスケッチが問題の困難点を示している。針の穴が小さく、糸が毛羽立っている。糸の先端が針の穴に入ったときでさえ、糸の毛羽立った部分が穴の外にあり、ブロックされてしまう。毛羽立った糸の有効サイズは、もともとの糸の径よりもずっと大きく、針穴のサイズよりも大きい。糸を押しても、それはくにゃっと曲がり、針穴を通らない。これが根本原因の中の一つである。この種の根本原因分析は、具体的なものの観察と、物理や化学などの素養を基礎にして行われる。

本発表の研究においては、著者らは根本原因を一般化 (あるいは分類、範疇分け) すること試みており (右のスライド参照)、さまざまな(技術的)問題をUSIT/TRIZの観点から分類することを目指している。著者らは技術的問題を4つの主カテゴリに分類している。すなわち、A. 機能達成レベルの過剰、B. 機能達成レベルの不足、C. 機能達成レベルの不安定、およびD. 望ましくない効果(弊害作用)の発現、である。Bのサブカテゴリの一つに、「B3 エネルギ/力/ものの伝達効率が低い」がある。そのさらに下位のサブカテゴリには、「B3(2) 空間的ずれ (位置、あるいは方向) 」がある。これらの分類を知った上で、著者らはこの事例での根本原因をつぎのように帰属している。すなわち、「糸を針穴の位置に合わせる困難 --> B3(2) 位置に関する空間的ずれ」、「糸の毛羽立ちによる困難 --> B3(2) 位置に関する空間的ずれ」、「糸が曲がることによる困難 --> B3(2) 方向に関する空間的ずれ」。

著者らはまた、糸通し器 (あるいはその本質部品 、すなわち、糸通しのループ) の機能を、それが働いているプロセスに沿って注意深く観察している。糸通し器を使う全体プロセスは、右のスライドに模式的に示すようである。糸通しのループは、時間に応じて、異なる役割/機能を果たしている。ループはまず、その見かけの幅を変えて (小さくして) 針穴を通過し (柔らかく弾力性があるからできる)、ついで、その大きな菱形のループに糸を通過させ、針穴を通って戻り、その針穴を通るように糸を引っ張り、そして最後に、糸が針穴を通った状態にして糸から離れる。これらの機能を詳細に観察することにより、われわれは、これらの機能を達成するのに必要な、さまざまな鍵になる性質を理解することができる。これらすべての観察が、事例を記述する書式の「(6) 適用されたと考えられるUSITオペレータ」を記述するのに反映される。

[*** 注意すべきは、著者らが糸通し器の基本的なアイデアに多くの注意を払っていることである。この(新)製品の背面板の役割は、もうひとつの補助的な機能である。]

著者らは、技術的問題をつぎのような階層的な体系に分類している。

A. 機能達成レベルの過剰

A1. もともとのエネルギー(or 力 or モノ) に対する作用が過剰
A2. エネルギー(or 力 or モノ) の集中 (分布)
A3. 他のエネルギー(or 力 or モノ) によるかさ上げ 空間的集中
時間的集中
B. 機能達成レベルの不十分 B1. もともとのエネルギー(or 力 or モノ) に対する作用が不足
B2. エネルギー(or 力 or モノ) の拡散・抵抗 (分布) 空間的拡散
時間的拡散
B3. エネルギー(or 力 or モノ) の伝達効率が低い 空間的ずれ (位置に関して/方向に関して)
時間的ずれ
B4. エネルギー(or 力 or モノ) の他の作用への消費 (熱振動含む)
C. 機能達成レベルの不安定 C1. 周期的乱れ 空間的周期性 (形状等)
時間的周期性
C2. 非周期的乱れ 空間的非周期性 (形状等)
時間的非周期性
C3. 非定常作用の重畳
D. 望ましくない効果 (弊害項目)の発現

 

これらの問題分類およびUSITオペレータの階層的体系を利用して、上記のような事例の分析を蓄積していくことを著者らは目指していて、最終的には右のスライドに示すような索引マトリックスを構築することを計画している。このマトリックスの列は、上記に説明した技術的問題の16分類であり、マトリックスの行はUSITオペレータである。このスライドでは、32個のUSITサプオペレータのうちの24個が示されていて、属性次元法、機能配置法、オブジェクト複数化法の順に並べてある。

右のスライドは、この索引マトリックスを使うプロセスを説明していて、血漿フィルタを開発した事例についての例を示している。[この事例は本レビューでは説明しない。]

*** ここにレビューしたように、USITに基づいて事例分析を収集しようという著者らの研究は、TRIZに基づくもの(特に技術的矛盾に基づくもの) とは、その見かけの類似性に反して、中核となる概念がずっと異なるものである。機能 (作用) および問題についての一般化した概念がしっかりしており、問題および機能のメカニズムを詳細に観察しようというアプローチが、それらの本質を解明するのに強力である。著者らのグループがこの仕事をさらに発展させ、USITオペレータをより使いやすくするのに有用な結果を得ることを、私は期待している。

 

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最終更新日 : 2010. 7.25     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp