TRIZ/USIT 論文: TRIZ シンポジウム 2010/ETRIA TFC 2010発表
さまざまな筆記具: 身のまわりのものから技術の発展のしかたを学ぶ
中谷くるみ、 中川徹 (大阪学院大学)
日本TRIZ協会主催 第6回日本TRIZシンポジウム、2010年9月 9-11日、神奈川工科大学、埼玉県厚木市
中川 徹、中谷くるみ (大阪学院大学)
ETRIA主催 TRIZ Future 2010 国際会議、2010年11月3-5日、ベルガモ大学、ベルガモ市 (イタリア)
掲載:2010.11.12

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編集ノート (中川 徹、2010年11月 9日)

本稿は、大阪学院大学情報学部の2年生のゼミ (10名) の活動/成果報告です。今年9月の第6回TRIZシンポジウムで、中谷くるみ (2年生) と中川がポスター発表しました。また、先週(11月3-5日) の 第10回 ETRIA TRIZ Future 2010 国際会議で、中川・中谷がShort Paper として発表してきました。

このゼミは、講義は一切なしで、中川がファシリテータとしてどんどん質問と課題を出しながら、学生たちが回答・演習し、その結果を全員でまとめるというやり方をしました。学生たちは、技術開発の方法も、システム工学の考え方も、TRIZもまったく知らないでこのゼミをしています。このゼミは、「TRIZの用語もTRIZのツールも使わずに、TRIZの考え方を学ぶ」ことを目標にし、それを実施した事例です。

特にETRIA の発表では、聴衆の皆さんから高い評価を受けました。身近なものの中から、技術発展のしかたを学びとることができ、TRIZの基本的な考え方へのしっかりとした導入ができているからです。またこれは大学2年生でのゼミですが、同様なことは高校生〜小学校高学年の生徒たちでもできるだろうと、考えられているからです。

二つの発表は基本的に同一論文ですが、9月のTRIZシンポジウムでは学生の目からの発表 (中谷が発表) を主としていたのに対して、11月のETRIA 国際会議では中川自身の意図をより鮮明に表現し、論文の意図が明確になるように推敲しました。そこで、今回ここに掲載するに際して、ETRIAでの発表の和訳をも作りました。日本の読者の皆さんに発表の意図をより明確にお伝えしたいと考えたからです。

本ページは二つの発表を合わせて、つぎのように構成します。

学会 和文ページ 英文ページ
TRIZシンポジウム2010 (9月) 拡張概要 HTML、 PDF ;
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ETRIA TFC 2010 (11月) Short Paper HTML PDF;
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本ページの先頭 シンポジウム発表拡張概要 シンポジウム発表スライド ETRIA発表論文 ETRIA発表スライド TRIZシンポジウム2010 ETRIA TFC2010 英文ページ

[1] TRIZシンポジウム  拡張概要

さまざまな筆記具:
身のまわりのものから技術の発展のしかたを学ぶ

中谷 くるみ (大阪学院大学 情報学部2回生) 、中川 徹 (大阪学院大学)

概要

情報学部の2年次前期 (4月〜7月) のゼミ(10名) の取り組みの報告である。学生たちは、上記タイトルのシラバスを読んだだけで半年間のゼミの配属選択をした。技術開発の知識も、システム工学の知識も、創造性技法の知識も持たず、TRIZについてもちろん何も知らないで、このゼミが始まった。最初は、「さまざまな筆記具」として、各自の持ち物を紹介し、その特長を述べた。ついで、文具店やホームセンターで、ありとあらゆる筆記具を調べて来るのが宿題。さまざまな筆記具を観察し、そのしくみ (原理) と特長を考え、体系的な分類を試みた。さらに、いろいろな用途を、「何を、何に、どのように (仕上がりとプロセス)」書く/描くのかと分類していった。いろいろな用途に応じて、違うしくみ(原理)の筆記具が開発され、形状も、(インクなどの)素材の性質も、どんどんと改良されていることを理解していく。身近なものから技術の発展のしかたを段々と理解していくことが、TRIZの概念を (TRIZの言葉を使わずに) 理解していくステップだと捉えている。このゼミでしたこと、考えたことを、2回生の中谷がポスター発表で話す。

内容説明

この2年次のゼミは、昨年初めてカリキュラムに入った。1年次は、前期に基礎数学演習のゼミ、後期に「読み、書き、発表する訓練」のゼミがある。2年次のゼミは選択必修で、半年ずつ前期・後期に別の先生が担当して、自由なテーマで行なう。3年次ゼミが4年次の卒業研究と連結しているのとは、異なる扱いである。

今年のゼミのタイトルは「やさしい発明: 身のまわりのものから技術の発展のしかた学ぶ」、そして副題として「さまざまな筆記具から、入力装置まで」という題材を選んだ。学生たちにとっては、「なぜこの授業で筆記具を扱うのだろう?」「パソコン(情報) となんの関係があるのかしら?」というのが最初からの疑問であった。

ゼミの演習は上記の概要に書いたような順序で進めてきた。そこには、テーマとして直接扱うことと、それよりももっと基盤となることとがいつも並行している。

最初の授業は、自己紹介の後に、「常時持っている筆記具を全部取り出して見せよ」、「それらを (ケータイで)写真に撮って、メールで先生に送れ」、「そのうち、各自の愛用のもの一つについて、自慢、説明せよ」。

第2回で、思いつく限りの「筆記具」をいって、それを一件一葉でポストイットカードに書き出した。そのとき、商品名でなく、できるだけ一般名でいう。簡単な絵、特に筆記具の先端部分のスケッチを書き、そのしくみ (原理) を考える。鉛筆が書けるしくみ、ボールペンのしくみ、ペン先のしくみなど。

ついで、文具店、ホームセンターなどで、できるだけ多様な筆記具の実物を調べてくることを宿題とした。ともかく、「書く/描く道具」のすべて、さらに「書く/描くための方法」のすべてを、調べること、記録すること。実際に出かけてみた学生たちはその膨大さにびっくりした。また、調査の方法として、インターネットでのメーカーのホームページが有用であった。

これらの「さまざまな筆記具」を分類するにあたって、単純なグループ分けでなく、しくみ(原理)に基づく階層的な分類を考えた。

さらに、筆記具のさまざまな用途を考える。用途自身を思いつくままにポストイットカードに書き出す。そして用途そのものの分類を考える。「何を」書く/描くのか、「何に」書く/描くのかが、まず大きな分類であり、さらに「どのように」が問題になる。どのような仕上がり、また、書いている/描いている最中がどのようであるのか大事なことである。

授業が半分を越したときに、個人でのレポートでなく、共同でレポートを作ることにした。そして、すべてを網羅した大きな二つの表を作った。
      表1.さまざまな筆記具(しくみによる分類)
      表2.さまざまな筆記具(用途による分類)

これらの過程で、いろいろな用途(必要)のために、いろいろな新しいしくみをもった「筆記具」が作られていく、それが技術の発展なのだと、学生たちは徐々に理解してきた。-- これらの学習と理解の過程を、2回生を代表して、中谷くるみが話す。

 

TRIZシンポジウムでの発表の拡張概要  PDF ==>   (1頁 129KB)

 


[2] TRIZシンポジウム   発表スライド:

 

TRIZシンポジウム 発表スライド 和文 (16 スライド、PDF 272 KB)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)

TRIZシンポジウム 発表スライド 英文 (16 スライド、PDF 211 KB)    (公開、変更禁止、コピー許可、印刷許可)


[3] ETRIA TFC 2010   Short Paper (和訳)

さまざまな筆記具:
身のまわりのものから技術の発展のしかたを学ぶ

中川 徹 (大阪学院大学)、中谷 くるみ (大阪学院大学 情報学部2回生)

ETRIA (欧州TRIZ協会) 主催 第10回 TRIZ Future 国際会議 2010発表 Short Paper
2010年11月3-5日、ベルガモ大学 (ベルガモ市、イタリア)

和訳: 中川 徹 (2010年11月 9日)

概要

情報学部の2年次前期 (4月〜7月) のゼミ(10名) の取り組みの報告である。学生たちは、上記タイトルのシラバスを読んだだけで半年間のゼミの配属選択をした。技術開発の知識も、システム工学の知識も、創造性技法の知識も持たず、TRIZについてもちろん何も知らないで、このゼミが始まった。

最初は、「さまざまな筆記具」として、学生たちに各自が大学で持ち歩いているもの紹介させ、その特長を述べさせた。ついで、文具店やホームセンターで、ありとあらゆる筆記具を調べて来ることを宿題とした。さまざまな筆記具を観察し、そのしくみ (原理) と特長を考え、そしてそれらを階層的に分類するように指示した。さらに、いろいろな用途を、「何を、何に、どのように (仕上がりとプロセス)」書く/描くのかと考えて、階層的な分類をしていった。学生たちが徐々に理解していったのは、いろいろ違う用途に応じて、違うしくみ(原理)の筆記具が開発され、形状も、(インクなどの)素材の性質も、どんどんと改良されていったことである。身近なものから技術の発展のしかたを段々と理解していき、TRIZの用語を使わずにTRIZの概念を理解していくことが、このゼミで意図し、実施したことである。

キーワード: 教育実践、TRIZの用語を使わずにTRIZの概念を教える、技術の進化、身近なもの

この2年次のゼミは、昨年初めて情報学部のカリキュラムに入った。1年次は、前期に基礎数学演習のゼミ、後期に「読み、書き、発表する訓練」のゼミがある。2年次のゼミは選択必修で、半年ずつ前期・後期に別の先生が担当して、自由なテーマで行なう。3年次ゼミが4年次の卒業研究と連結しているのとは、異なる扱いである。そのような卒業研究に続くゼミのクラスとしては、中川は「創造的な問題解決のための思考法」というテーマで行っており、それに関連した講義を2年次の後期に実施している (文献[1]参照)。

今年の(2年次)ゼミのテーマとして、「身のまわりのものから技術の発展のしかたを学ぶ:さまざまな筆記具から、入力装置まで」を選んだ。このゼミを選んだ (あるいは配属された) 学生たちはみんな、「なぜこの授業で筆記具なんてものを扱うのだろう?」「パソコン(情報) となんの関係があるのかしら?」というのが最初からの疑問であった。

ゼミの演習は上記の概要に書いたような順序で進めた。教師がさまざまな質問を出して、課題を与え、学生たちはそれに回答し、演習をし、宿題をし、またアイデアを出した。

最初の授業で、自己紹介の後に、教師が学生たちに指示したのは、「常時持っている筆記具を全部取り出して見せよ」、「それらを (ケータイのカメラで) 写真に撮って、メール添付で先生に送れ」、そして、「そのうち、各自の愛用のもの一つについて、それをどうして好きなのかを説明せよ」であった。

第2回で、思いつく限り多くのさまざまな「筆記具」を言わせ、それを一件一葉でポストイットカードに書き出させた。そのとき、商品名でなく、できるだけ一般名でいう。簡単な絵、特に筆記具の先端部分のスケッチを描き、それが書けるしくみ (原理) を説明する(例えば、鉛筆で書けるしくみ、ボールペンで書けるしくみ、ペン先で書けるしくみなどを説明する)、などを指示した。

ついで、文具店、ホームセンターなどに行き、できるだけ多様な筆記具の実物を調べてくることを宿題とした。ともかく、「書く/描く道具」のすべて、さらに「書く/描くための方法」のすべてを、調べること、記録することを課題とした。実際に出かけてみた学生たちはその膨大さにびっくりした。また、調査の方法として、インターネットでのメーカーのホームページが有用であった。

これらの「さまざまな筆記具」をリストアップした後に、学生たちにそれらを分類することを課した。その際、単純なグループ分けでなく、書く/描くしくみ(原理)に基づいた階層的な体系にするようにさせた。

それからさらに進んで、それらの筆記具のさまざまなニーズ/用途を考えた。学生たちに、さまざまな用途を一件一葉でポストイットカードに書き出させ、ついで、そのさまざまな用途そのものを分類するように指示した。「何を」書く/描くのか、「何に」書く/描くのかが、まず主要な分類であることが分かった。また、「どのように」書く/描くのかがそのつぎに重要だと分かった。どのような仕上がりか、また、書いている/描いている最中がどのようであるのかが、使用においてそのつぎに大事なことと分かった。

授業の半ばになって、個人ごとにレポートを書くのでなく、10人の学生が共同して大きな一つのレポートを作ることに決定した。そして、すべてを網羅した大きな二つの表を作った。
      表1.さまざまな筆記具(しくみによる分類)
      表2.さまざまな筆記具(用途による分類)

この学習のまとめとして、書く/描く方法とさまざまな用途とを結びつけた表3 を作った。

表3. さまざまな用途に対する書く/描くための諸方法の評価

方法      --                              何に 地面に 壁に 板に 布に 紙に 石に セラミックに ガラスに 金属に プラスチックに
傷をつける    ▲
-
-
自分自身の一部を跡として残す
-
-
固形物や粉体を付け加える
-
流体物を付け加える
-
液体(インクなど)を付け加える
-
-
材料(粉体、流体、液体、気体)を射出する
-
対象物の内部に材料を入れる
-
-
-
-
-

注: 評価レベル: 高い ■ ● ▲ - 低い

ゼミにおいては、TRIZの用語もTRIZのツールも、一切 (明示的には) 使わず、説明しなかった。それにもかかわらず学生たちは、TRIZの基礎とシステムの発展についての重要な考え方や概念を学んでいった。ゼミの過程で学生たちが徐々に理解したのは、いろいろ異なる用途(必要)のために、いろいろな新しいしくみが考案されて、多様な「筆記具」が作られてきたこと、そしてそれが技術の発展(進化)のプロセスなのだ、ということであった。

本論文は、先に第6回日本TRIZシンポジウム2010において、中谷・中川でポスター発表した [2]。

参考文献:

[1] 中川 徹: 「TRIZ/USITによる創造的な問題解決の思考法の教育と訓練」、ETRIA 主催 TRIZ Future 国際会議発表、2007年11月 6-8日、フランクフルト、ドイツ。同論文集 (Kassel 大学出版、 ISBN 978-3-89958-340-3)、 pp. 95-102。

[2] 中谷くるみ、中川 徹:「さまざまな筆記具 −身のまわりのものから技術の発展のしかたを学ぶ −」、日本TRIZ協会主催 第6回日本TRIZシンポジウム 2010、2010年9月9-11日、神奈川工科大学(厚木市)。

著者連絡先:

中川 徹: 大阪学院大学情報学部。郵便番号: 564-8511 大阪府吹田市岸部南2-36-1
電話: 06-6381-8434、Email: nakagawa@ogu.ac.jp

 

ETRIA 発表  Short Paper (和訳)   PDF ==>   (3頁、162 KB)

ETRIA 発表  Short Paper (英文)   PDF ==>   (2頁、65 KB)

 


[4] ETRIA TFC 2010 発表スライド:

 

ETRIA 発表スライド (和文)  PDF ==>   (17スライド、 210 KB)

ETRIA 発表スライド (英文)  PDF ==>   (17スライド、 141 KB)

 

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最終更新日 : 2010.11.12    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp