レポート
乗用車における安全技術の発展
山田 祐輝 (大阪学院大学情報学部情報学科 2回生)
2012年 1月31日
大阪学院大学情報学部 「科学情報方法論」(中川 徹教授) 期末提出レポート
掲載:2012. 3. 6

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編集ノート (中川 徹、2012年 3月 4日)

本稿は、大阪学院大学情報学部での私の授業 「科学情報方法論」(2年次配当、選択) において、期末レポートとして提出されたものです。レポートの課題は、講義に関連して自分で任意に設定することとしています。

本レポートは、乗用車の安全性という身近な問題に関して、その技術を調査した内容をまとめたものです。しっかりした記述になっていますので、私は加筆せず、ここに掲載させていただきます (編集後記も参照下さい)。


乗用車における安全技術の発展

  山田 祐輝  (大阪学院大学 情報学部情報学科 2回生)

2012年 1月31日  (推敲: 2012年 2月26日)

大阪学院大学情報学部  「科学情報方法論」(中川 徹教授) 期末提出レポート

 

1.概要

  現代の車社会において、日々自動車による事故が起こり、多数の死傷者が出ている。そこで、最も一般的である乗用車において、搭乗者の安全を技術的にどのように守ってきたのかをTRIZの「40の発明原理」の考えを交えながら説明し、今後どのように守っていくのかを考察する。また、このレポートでは、日本が高度経済成長期を迎え、急速に乗用車が普及し、車社会となっていった1960年代からの安全技術を対象とする。

2.交通事故・死者・負傷者数の推移 (参考文献 [6] 参照)

   高度経済成長を迎えた昭和35年度あたりから急激に交通事故の発生件数・死亡者数が増加し、最盛期となる40年度あたりから再び急激に増加する事となる。その後、交通安全対策基本法の制定などにより、急激に減少するが、高度経済成長期が終了した48年度からは20年近く徐々に増加する。エアバッグが普及し始める平成4年度以降は、死亡者数が減少し続けるが、一方で発生件数・負傷者数はその後も約10年間増加し続け、5年間の横ばい傾向を経て減少を始める。13年度から21年度にかけて死亡者数は2年度ごとに約千人ずつ減少しており、23年度の死亡者数は4611人である。

   平成5年度前後から死亡者数と発生件数・負傷者数とのかい離が大きくなり始め、死亡者数が当時から約60%近く減少しているのに対し、発生件数・負傷者数は、近年急速な減少傾向にあるものの、当時と比べ差はほとんど無い。

   発生件数と負傷者数が変わらずに死亡者数だけが減少するのは、医療技術の発展や事故が起きても死亡するまでに至らないケースが増えた為と考えられる。それだけでは負傷者数が増加する事となるが、負傷者数も負傷するに至らないケースが増えており、結果的に増減が無くなったと推測する。つまり、数字上では負傷者数に変わりは無いが、実際には非負傷者が増加していると考えられる。

   事故の発生件数が変わらない以上事故に会う人数も基本的に変わらないはずである。しかし、それでも死亡者数が減少し、非負傷者も増加しているとすると、事故が起きた際の搭乗者に掛かる被害が軽減されていると考えられる。これは、様々な理由が考えられるが、最も大きな理由として、エアバッグなどの車の安全技術が向上し、搭乗者の安全がある程度確保される様になった為であると推測する。

図1:交通事故発生件数・死者数・負傷者数の推移[6]

3.現在の安全技術

   自動車の安全技術には大きく分けて2種類あり、事故が発生した場合の被害を出来るだけ抑えようという考えの「パッシブセーフティ」と、事故が極力発生しない様にしようとする「アクティブセーフティ」である。

   ボディやエアバッグ、シートベルトなどがパッシブセーフティと呼ばれ、自動車の構造や装置によるものが多い。また、ブレーキや後述するレーダーセンサー、ナイトビジョンなどがアクティブセーフティに分類され、こちらは情報技術を用いた技術がほとんどである。

   ここでは、概要で述べたように1960年代以降に開発された安全技術について記述する。ライトやシートベルトなどの60年代以前にもあった基本的な安全装置・技術については、それ以降に開発された事だけを述べ、基本的な構造や技術内容については記述しない。また、搭乗者の安全を守る技術のみを記述する。

3.1 ボディ

   実際に事故が発生した時に搭乗者の安全と密接に関係しているのがボディである。

   1960年代以前は、衝突した際に搭乗者をその衝撃から守る為の強く堅いボディが主流であったが、それでは衝撃がそのまま搭乗者に伝わってしまう為、大変危険であった。そこで、衝撃を受け止めるのではなく、衝撃を逃がすという考えに発展した。その後“逆発想原理”の考えで、あえてボディを潰す事により衝撃を吸収し、搭乗者の安全を確保する「衝撃吸収ボディ」が開発された。また、搭乗者がいる居住スペースだけは潰れないように強固な構造になっており、ボディは“局所的性質原理”で潰れる箇所「クラッシャブルゾーン」と潰れない「セーフティーゾーン」に分かれている。

 

図2:衝撃吸収ボディ[7]

3.2 ブレーキ

  事故を起こさない為にも、衝突時の衝撃を抑える為にも最も重要な装置であり、最も多くの安全技術が活用されている。

   基本的な構造にあまり変化は無いが、近年開発された技術ではほぼ全てが、タイヤの回転状態を検知する車輪速度センサーなどのセンサー類を用いて、危険を察知した場合に電子制御による制動や加速を行う安全技術を取り入れている。これは、“フィードバック原理”である。また、この様な電子制御は0.01秒でも早く実行されなければならないことから、“高速実行原理”により、危険を察知すれば直ちに実行される。この二つの原理は、以下に記述する全ての技術に用いられている。

3.2.1 ABS (Anti lock Braking System)

   衝突の危険を察知した場合運転者は、全力でブレーキを掛け、車を減速・停車させ ようとする。しかし、ブレーキを強くしすぎるとタイヤがロック(回転が止まる)され、ハンドル操作が利かなくなる。すると、車は直線運動を続け障害物の回避がほぼ不可 となり大変危険である。

   ABSは、そのような事態を防ぐ為に車輪速度センサーを取り付け、タイヤがロックした場合にブレーキを少し緩める事で制御不能となる事を防ぐ装置である。

   危険回避の為には、強くブレーキを掛ける必要があるが、それでは上記の理由から却って危険である。そこであえて少しブレーキを緩める事で更なる安全性を実現している。これは、“先取り反作用原理”であると言える。

図3:ABSイメージ図 [7]

3.2.2  ブレーキアシスト

   ABSにより運転者は、タイヤのロックを考慮せずに、危険を察知すれば全力でブレーキを掛ける事が出来るようになった。しかし、実際に事故の危険を察知した時に運転者、特に初心者は、パニックを起こし十分にブレーキペダルを踏む事が出来ない、という事例が自動車メーカーなどの調査により多数確認された。そこで、急ブレーキを検知した際にブレーキを強制的に掛けるブレーキアシストが開発された。

  不十分なブレーキとならない様にブレーキアシストが最大限のブレーキ性能を引き出すという事から、“先取り作用原理”による技術であると考えられる。

3.2.3 トラクションコントロール (TRC: Traction Control)

   路面状況が悪い中で余計な駆動力を与えるとタイヤが空転し、自動車がスリップしてコーナリング中に制御不能となる恐れがある。トラクションコントロールシステムは、そのような事が起きない様に、各タイヤの車輪速度センサーを監視し、タイヤの空転の前兆(他のタイヤとの回転速度の変化など)を検知すると、事前にエンジンパワーの抑制やブレーキを掛ける事で、スリップが起きない様にタイヤの回転を調整している。

図4:TRCイメージ図 [11]

3.2.4 スタビリティコントロール

   ABSとTRCが実装された事により、安定した走行の為に自動車が自ら加速と制動の両方を制御出来るようになった。また、ヨーレートセンサーと呼ばれる自動車の旋回方向と速度(ヨーモーメント)を監視するセンサーを組み合わせる事により、コーナリングの安定性を高める事が可能となった。

   ハンドル操作やスピードから計算したヨーモーメントと実際のヨーモーメントを比較し、スピードの出しすぎやスピンによって正常なコーナリングが出来ていない時に、エンジンやブレーキ操作を自動で行い自動車の安定性を確保している。

   米国運輸省道路交通安全局「NHTSA」のレポートによると、スタビリティコントロール装着車は非装着車に比べ、単独事故が35%低減する効果があるとしている。[7]

図5:スタビリティコントロールイメージ図 [11]

3.3 タイヤ

   自動車の性能や安全性がどれだけ高くなっても、タイヤが本来の性能を発揮できなければ、自動車の安全性は確保されない。タイヤは1950年までにほぼ現在の構造になり、その後は耐久性や制動性、環境性能などが少しずつ発展してはいるが、目覚ましい発展は見られない。しかし、この数年で従来からの一番の課題であった空気圧やパンクによる危険を克服した安全技術が実用化された。

3.3.1 空気圧警報システム

   タイヤの空気圧が減少すれば、グリップ力や耐久性が悪化し、スリップやパンクへと繋がり事故が起きる危険性がある。そこで、常に空気圧を測り、減圧を検知したら運転者に警告を行う。単に減圧の警告を行うだけの技術ではあるが、運転者がわざわざ空気圧を検査する事無く、代わりに機械が自動で検査する事から、この技術は、“コピー原理”である。

3.3.2 ランフラットタイヤ

   自動車において最も危険な状態とは、タイヤがパンクしている状態である。正常な走行や停車すらも困難となり、非常に危険である。そこで、パンクが発生してもその後、80~100qの長距離走行が可能な構造のランフラットタイヤが開発された。パンクにより空気が漏出しても、内部のプライと呼ばれる内部骨格やサイド補強ゴムがタイヤの形状を維持し、走行が可能となる。実際にパンクが発生しても運転者が気付かない程の安定性を持つ、その為、空気圧警報システムとセットで利用される。パンク後は次第に安定性が低下し、危険性が増す為、タイヤの交換が必要になるが、従来のタイヤのように、パンクと事故が直結するような危険性が少ない。

   パンクによる危険な状態の対策を予めとり、安定した走行を持続させるという考えから、“先取り作用原理”や“事前保護原理”によるものであると推測する。

図6:ランフラットタイヤのイメージ図  [13]

3.4 ヘッドライト(AFS)

   外見や基本的な構造はタイヤと同様に1960年代以前からほとんど変化は無いが、寿命や光度が大幅に改良され、近年では、長寿命で高光度のLEDライトの利用が増えている。

   通常ヘッドライトは前方のみを照らす為、コーナリング中は進行方向が照らされず、十分な安全性が確保されているとは言えない。この事から、コーナーの先を適確に照らし出せるように、AFS (Adapative Front-lighting System) が開発された。コーナリング中にヨーモーメントから適確な照射角度を算出し、ヘッドライトの角度を変化させ、カーブであっても進行方向を適確に照射する。従来固定されていたヘッドライトを“ダイナミックス原理”により可変なものとし、自動車や歩行者などの安全性を高めている。

図7:AFSイメージ図 [8]

3.5 シートベルト

   搭乗者の安全を守る最も身近で基本的な装置であるが、現在最も実装されている3点式シートベルトが開発された1959年からは、自動車の安全技術の中で最も変化の無い装置と言える。

   シートベルトは、搭乗者の自由をある程度確保する為、装着時でも伸縮が可能となっているが、それでは衝突時の安全性を十分に確保出来ない。そこで、現在のシートベルトの多くはELR(緊急ロック式巻取装置)シートベルトと呼ばれ、衝突を検知した時にシートベルトをロックすることで、搭乗者の安全性をより高めている。

   ELRシートベルトは、通常時にゆとりを、緊急時にはロックを掛け、時間的な“分離原理”により、搭乗者の快適性をそのままに安全性を向上させている。

3.6 エアバッグ

   エアバッグは、自動車が衝突事故を起こした時に搭乗者をその衝撃から守る為に、1990年代ごろから本格的に実用化されるようになった比較的新しい技術である。

   衝撃を検知するとガス発生剤を着火させ、大量の窒素ガスを爆発的に発生させる事により、エアバッグを膨らませている。膨らんだエアバッグは、その後衝撃の吸収や搭乗者の視界と自由を確保する為に収縮するように設計されている。

   エアバッグは、シートベルトと共に使用する事で効果を発揮し、どちらか一方だけで使用すると死傷する可能性がある。実際シートベルトをしておらず、エアバッグによる衝撃で死亡した事例が幾つかあり、正しく使用出来なければ返って危険な場合もある。

   搭乗者の安全確保の為とは言え、それほどの衝撃を持つので、最新のエアバッグでは、シートベルトの使用が前提ではあるが、2段階に膨らませ、エアバッグ自体の衝撃を和らげるタイプも開発されている。

   エアバッグは、その性質から最悪の事態を考慮し事前に準備する“事前保護原理”によるものであり、通常時は“入れ子原理”からハンドル内やダッシュボード内などに格納されている。また、衝突後瞬時に自動で作動しなければならず、展開完了までに約0.03~0.05秒、衝撃を吸収し萎むまでに約0.2秒程度と高速である。これは、“高速実行原理”と“セルフサービス原理”である。さらに、通常時にはその場に存在せず、衝突時にのみ存在する必要があるエアバッグは、“分離原理”も用いられており、自動車の安全技術の中でも最も多くの発明原理が用いられている技術と言える。

   また、エアバッグは徐々にその数を増やしており、実用化されたばかりの頃は、運転席にのみ搭載されていたが、その後、補助席や各席の窓側に搭載される「サイドエアバッグ」や「カーテンエアバッグ」、搭乗者の足を守る「ニーエアバッグ」など多数搭載されている。また、図8には無いが、後部座席の前方エアバッグも実用化され始めている。

図8:各エアバッグの作動イメージ [8]

3.7 プリクラッシュ・セーフティシステム

   ミリ波レーダーや赤外線レーダー、ステレオカメラなどを用いて、周囲の状況を常に監視し、危険を事前に察知する安全技術全般の事である。現在最も各自動車メーカーが力を入れて開発している技術と言え、個々の技術では“フィードバック原理”、“コピー原理”、“先取り作用原理”、“セルフサービス原理”などが用いられている。

   自動車メーカー毎に、様々な技術開発をしており、メーカーによって多少技術内容や名称が異なる。しかし、主な共通技術として、以下のシステムが挙げられる。

   急激な車間距離の狭まりや車線からのはみ出し、後方からの高速車両の接近などをレーダーセンサー (主にミリ波レーダー) やカメラにより探知する。運転者がそれらの危険を回避するような操作 (ブレーキやハンドル操作) を行わなければ、警告や自動ブレーキ、シートベルトの引き締めなどの安全対策を行う。他にも、運転者の居眠りや脇見運転を運転席に取り付けられたドライバーモニターで監視し、その様な状態が検知された場合に警告を発する技術などがある。

図9:ミリ波レーダーによる危険察知と制動 [7]

図10:ドライバーモニターイメージ図 [7]

3.8 ナイトビジョン

   夜間にヘッドライトを点灯して走行していても、照射範囲や周辺状況、対向車のヘッドライト、走行速度など様々な要因から、運転者の周囲に対する視認は不完全なものであり、必然的に事故の危険性も増すことになる。そこで、より周囲の状況を運転者が認識出来るように、と開発されたのがナイトビジョンである。

   暗視装置を自動車に搭載したもので、赤外線センサーにより自動車の前方方向を探知する。その映像をカーナビなどに比べ運転者から比較的見易い速度メーター付近に表示する (カーナビへの表示は逆に視野の問題から運転を妨げる可能性がある)。これにより、人などヘッドライトのみでは認識し辛かったものまで、はっきりと認識する事が出来る。また、高性能なナイトビジョンでは、人を検知し、図11の様に枠線で囲む事で運転者にその存在を警告する。しかし、非常に高価なシステムであり、実装されている自動車は非常に少ない。

   あくまで補助としてだが、ナイトビジョンを通して運転者が周囲の状況を認識する事から“仲介原理”を用いた技術と言える。

図11:ナイトビジョン使用イメージ図 [8]

4.今後の安全技術

  実用化段階にまでは至っていないが、現在開発中の先進安全技術について記述する。

4.1 飲酒運転防止装置

   運転者の正常な運転操作や状況判断を阻害し、大変危険であるにも関わらず、飲酒運転を行う人が後を絶たず、重大な事故も毎年多発している。そこで、エンジンの始動前に運転者の呼気や臭気、汗からアルコールの検出を行い。運転者から一定以上のアルコール濃度が検出されると、“事前保護原理”の考えから、警告を発するかエンジンを始動させないなどの安全対策をとる。

   また、成り済ましを防止する為に、運転中にも一定間隔でアルコール検出を行う。さらに、アルコール検出の際に顔写真を撮り、運転者が同一人物であるかを比較するなどの対策も考案されている。

  まだ日本国内で実装している自動車は無いが、飲酒運転の防止に効果が期待されており、政府が飲酒運転常習者に対してこの装置の実装の義務化について検討を進めるなど、近い将来に実用化される可能性が高い。

4.2 ITS (Intelligent Transport Systems)

   ITSとは、高度道路交通システムと呼ばれ、道路・人・自動車間で情報交換 (通信) を行い、高度な交通管理による渋滞緩和や流通の効率化、道路管理、緊急車両のスムーズな通行支援、安全な自動車社会の実現を目指す国家プロジェクトである。身近な技術としては、カーナビやETCが挙げられる。

   その中の安全技術開発には、周囲の自動車同士が通信により一定以上の車間距離を保ち、全体としての安全性を向上させる技術が研究・開発されている。

   また、スマートウェイと呼ばれる、道路情報を自動車に送信する道路や標識・信号の整備も研究開発されている。これが整備されると、その道路に合わせて自動車がより自立した走行をする事が出来、信号無視や速度超過、一時不停止などの運転者による危険な違反行為の抑止などが期待出来る。

   インフラの整備やITSに対応した自動車の開発・普及など、このシステムの本格的な実現にはまだ数十年の時間が必要ではあるが、安全な車社会の実現には欠かせない重要なシステムである。

5.レポート作成者が考案する新たな安全技術

   2011年3月の東日本大震災では、自動車に搭乗したまま津波の被害に遭い、そのまま流されてしまうなどの被害が多数あったとの報道が見られた。また、少数ではあるが、海や川、湖、豪雨などでの水没・死傷事故も毎年発生している。この様な水没事故の場合、水圧の影響から脱出出来ず、搭乗者が溺死する場合が多い。

   自動車は地上を走行するのが目的である以上、水上・水中での安全性を考慮していないのは、当然ではある。しかし、自動車が水上に浮く事が出来る構造やシステムを用いれば、搭乗者の安全に限らず、以下の事が期待出来る。

1.水害や水中への転落事故の際自動車が水没する事が無い。
2.水上に浮いている為、ドアの開閉が可能で脱出が容易である。
3.生身で水害に遭った場合に一時的避難場所として活用出来る。
4.自動車は耐衝撃性に優れている為、流されても搭乗者の安全をある程度確保出来る。
5.自動車は底部までであれば水没しても故障する可能性が低い為、自動車を守る事も可
能である。
6.転落事故後の自動車のサルベージの必要が無くなる。

   このように、搭乗者の安全のみで無く、搭乗者以外の水害に遭った人や自動車自体も水害から守る事が可能となる。

   自動車の底部を船底の様な構造にし、ゴムバルーンをエアバッグの様に非常時に膨らませば、水上に浮く事が出来、上記の様な安全性を確保出来るのではないかと推測する。

   船底構造の実現やコストの問題などがあるが、津波や豪雨など水害の多い日本においては、非常時の対策として有用ではないかと思われる。

6.まとめ

   今回、各参考文献から自動車の安全技術について調査を行ったが、今後の実用化の為に現在構想、または、開発中のパッシブセーフティに関する安全技術はあまり見受けられなかった。各種パッシブセーフティに関する技術開発は行われているが、すでに成熟段階であり、革新的な技術、素材の開発が無ければ今までのような技術革新は望めない様に思われる。

   しかし、プリクラッシュ・セーフティシステムなどのアクティブセーフティに関する自動車の安全技術は、近年実用化され始めたばかりで、4章で述べた様な技術が現在も研究・開発されている。よって、アクティブセーフティに関する安全技術は、今後も様々な技術躍進が期待出来る。

   このように、現在の自動車の安全技術開発は、パッシブセーフティからアクティブセーフティへと移行しており、その中でも自動車自体が危険な運転や状況を察知し、電子制御を行い、危険を回避する。自動車の自走性を高めるような技術開発が主に行われている。

   自動車事故の多くが運転者の不注意や危険な運転によるものであり、今後さらにこの技術開発の流れが続けば、ITSとコンピュータ制御によるより安全な車社会が少しずつ実現されていくのではないかと思われる。当然コンピュータシステムは完全なものではないので、不具合や誤動作などの機能性や信頼性の問題をいかに解決し、安全性を高めるかと言った大きな課題はある。しかし、今までのように人の力(操作)を大きく借りた走行システムに比べれば、どのような運転者であっても安全な走行を行えるようになり、安全かつアクセシビリティの確保された車社会となるのではないかと思われる。

7.参考文献

[1] 『カーエレクトロニクスのしくみがよくわかる本』,矢吹明紀,技術評論社(2009年), p45-p110

[2] 『クルマのハイテク』,高値英幸,SoftBank Creative(2009年),p73-p115

[3] 『自動車のメカニズム』,古川修,ナツメ社(2007年),p196-p222

[4] 『TRIZ 実践と効用(1) 体系的技術革新』,Darrel Mann,創造開発イニシアチブ(2004年),p185-p203

[5] 『図解TRIZ』,三菱総合研究所知識創造研究部,日本実業出版社(1999),p56-96

[6] 「平成23年度中の交通事故死者数について」,警視庁交通局企画課,
   URL: http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001085295

[7] トヨタ企業サイト「トヨタが考える安全なクルマとは」,トヨタ,
   URL: http://www.toyota.co.jp/jpn/tech/safety/technology/

[8] Honda「安全への取り組み」,ホンダ
   URL: http://www.honda.co.jp/safety/

[9] 【MAZDA】「安全技術|マツダのクルマづくり」,マツダ,
   URL: http://www.mazda.co.jp/philosophy/tech/safety/?link_id=gn

[10] 日産「安全の取り組み」,日産,
   URL: http://www.nissan-global.com/JP/SAFETY/?rstid=20110527rst000000128

[11] MITUBISHI MOTORS「技術ライブラリー」,三菱自動車,
   URL: http://www.mitsubishi-motors.com/jp/spirit/technology/library/index.html

[12] メルセデス・ベンツオフィシャルサイト「セーフティ」,メルセデス・ベンツ
      URL: http://www.mercedes-benz.co.jp/brand/safety/index.html

[13] BRIDGESTONE「ニュースリリース」,ブリヂストン
       URL: http://www.bridgestone.co.jp/corporate/news/2009030301.html

 

レポート PDF 版   (12ページ、737 KB)


編集後記 (中川 徹、2012年 3月 4日)

1月31日に提出された期末レポート (20名余) を読んでいて、この山田君のレポートに出会い、びっくりしました。文章としても、内容としても、非常にしっかり書けていたからです。山田君は無口で目立たない学生で、このレポートを読んで私は初めてその本当の力量を知りました。

(思い返せば) 山田君は2年生前期の「ゼミナールIIA」で私のクラスでした。このクラスで私が設定したテーマは「さまざまな入力方法 -- 技術の発展のしかたを学ぶ」でした。(その前年の2010年度のこのゼミでは、「さまざまな筆記具 -- 技術の発展のしかたを学ぶ」をテーマにして、興味深い授業展開ができ、その成果をTRIZシンポジウム2010で中谷くるみ・中川 徹がポスター発表をし、ETRIA国際会議でも発表しています。) キーボード、タッチバネル、ソフトキーボード、ケータイの入力法、などの仕組みや歴史を皆で調べてきて発表しました。また後半では、Mishraの本の翻訳原稿をベースに、いくつかの章で発明原理を入力方法に適用した事例を読んで、学生たちにその内容を紹介させました。ただし、「入力方法」というのが広範囲にわたるのに、私自身が余り詳しくなかったためもあり、やや散漫になったと反省しています。山田君はこのゼミで1回発表しましたが、いつも無口で、印象は強くありません (他に数名、よくしゃべる学生がいました)。

山田君は、ゼミIIAのレポートの最後に、つぎのように感想を書いています。

「普段あまり内部構造や仕組み、歴史などを気にする事も無く使用している入力装置について学ぶ事が出来た。しかし、全体的に内容が非常に浅く、半年の講義を終えて教養を深めた様には感じなかった。個人的にはもう少し濃い内容を取り扱いたかったので残念です。

ただ、TRIZに関しては、非常に興味を持ったので、中川先生の翻訳作業が終了し、出版された際には一度読んでみたいと思います。」

2年生後期の「科学情報方法論」では、講義が主体で (内容は別ページ参照 )、ときどき小演習をしました (その講義資料の一式は、別ページを参照下さい)。 山田君は皆勤ですが、ここでも特別に発言していません。12月初めに、学生たちにレポートの課題設定とアウトラインの提出を求めたとき、私は「関連テーマで少なくとも1冊本を読みなさい」と言いました。その授業の後で、山田君が、「関連した本など見つからないように思うが、・・・」と聞いてきました。私はテーマを聞いて、「それなら、いろいろなメーカのカタログやホームページを参照してご覧」と返答しました。私が直接指導したのはそれだけだったのです。

期末レポートの採点などが一段落して、2月16日に山田君にメールし、レポートを『TRIZホームページ』に掲載させてほしいと伝えました。彼は「掲載してもらうなら、少しでもましなものにしたいから、推敲したい。特に、発明原理の解釈に自信がない」といいます。そこで、Mann の教科書などを教え、「大学の図書館にあるよ」と伝えました。2月26日夜に、レポートの改訂版が届きました。内容はほとんど変わらず、TRIZの教科書 2冊が参考文献として追加されていました。これらの本の発明原理の章を読んだ上で、いままでどおりでよいと、山田君が判断したものと理解しています。

本件の掲載にあたって、私が彼のレポートを修正したのは次の点だけです。(1) レポート提出先を記入した。(2) 2章のタイトルに参考文献の参照を記入した。(3) 「運転手」→「運転者」に修正 (20箇所)。(4) テニオハの修正 (数ヶ所)。(5) 引用図をやや大きくし、中央配置にした。(6) 章・節の見出しを太字にした。-- 要するに、本質的な加筆をしていないということです。構成も、内容も、文章も、すべて著者 山田祐輝君が独自にしたものです。

私の大学での授業の最終年度にあたって、このような優れた学生レポートができ、ここに掲載できるのは、まことに嬉しいことです。

 

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最終更新日 : 2012. 3. 6     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp