USIT/CrePS 関連論文

夢想ヒューリスティックスを用いた潜在意識問題解決

Ed Sickafus (Ntelleck、米国)、
第5回体系的革新国際会議(ICSI2015)、基調講演、2014年 7月16-18日、San Jose、 CA、米国。

International Journal of Systematic Innovation, Vol. 3(1) (2014)

高原利生・古謝秀明・中川 徹 共訳、2015年7月 1日

掲載:2015. 7.29; 英文ページ掲載: 2015. 8.25; 更新:2015. 9.17

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編集ノート (中川 徹、2015年 7月21日)

本ページは、USIT(統合的構造化発明思考)法の開発者Ed Sickafus 博士が昨年発表した論文を和訳したものです。著者とICSI2014学会からの許可を得て、和訳と英語版の両方を本サイトに掲載します。 (英文ページ 掲載: 2015. 8.25)

私は、Sickafus博士のUSITを1999年に日本に導入して以来、同博士の研究をできるだけきちんと本サイトで紹介するようにしてきました。主要記事の一覧とリンクを本ページの末尾に示します。

2004年ころまでの博士の論文や記事は、「USIT教科書(1997年)」の内容とその発展に関わるもので、USITのプロセスを分かりやすく説明することに主眼がありました。日本でのUSITも、TRIZの考え方や解決策生成法をUSIT中に取り込んで再編成し、USITのプロセスをできるだけ分かりやすく、実践しやすく提示することを目標にしてきました。本年5月に私が本サイトに掲載しました「USITマニュアル」「USIT適用事例集」「USITオペレータ」などの資料一式が現在の到達点を示しています。

一方、Sickafus博士は、創造的なアイデアを得るための私たちの頭脳の働きを理解し活用することに焦点を移していったようです。2006年の日本TRIZシンポジウムでの基調講演では、左脳的・論理的なやり方と右脳的・イメージ的なやり方との関係/協調について論じていました。昨年(2014年)のこの論文では、考察がさらに進んで、意識的な考察と、潜在意識による(われわれには明確には意識できない)脳内処理との関係を考察しています。「あ、そうだ!」というアイデアは、すべて潜在意識からもたらされる。発明をするのは意識ではなく、潜在意識の方だ、といいます。

そこで、「潜在意識を活用する問題解決の方法」を考察しているのがこの論文です。意識から、潜在意識に適切に情報を渡すことが大事であるとし、そのためには個別的な言語や情報よりも、概念や漠然としたイメージの方が有効であると考えています。そこで、わざと曖昧にした(概念を広くした)意識的考察により、潜在意識による発想(潜在意識に記録されている情報の無意識下における探索と結合)を豊かにしようと提案します。著者はそれを「Hazy Heuristics」と呼びました。Hazyとは、曖昧な、ぼんやりしたという意味です。和訳では、「曖昧」には否定的なニュアンスがあるので避け、「直感」ではあまりにも短時間での処理のイメージがあるので避けて、「夢想」という語を選びました。

われわれは問題解決の方法を学び・使えるようにするために、意識的に「構造化、論理化」することをしてきたが、それは人間同士のコミュニケーションのためであり、文化の形成と教育のためだ。各個人がそのような方法を一旦十分に習得すれば、自分の中では、もっと潜在意識を活用したこのようなショートカットを使ってよい(使うのがよい)、と薦めています。(古来から言われている、「形に入って、形から離れよ」という達人の境地です。)

Sickafus 博士の論文は、いつも簡潔で明晰な文体ですが、やや難しい語彙があり、その内容が「Unusual」(ありきたりでない、常套的でない、予想外)ですので、一文一文を正しく訳すのに、ずいぶんの時間が掛かりました。訳文が少々堅い感じがしますが、正しく訳すことを優先した結果として、ご容赦下さい。

なお、Sickafus 博士の「OAF図式」という記述法を、いままで私はあまり積極的に紹介して来ませんでした。同博士は近年特にこの図式での考察を重視してきています。「USIT eBook」内の説明を参照下さい。

-- なお、OAF図式、ブレーンストーミングチーム、FordにおけるUSIT導入の歴史、などについて、Sickafus博士との間に数往復の質疑応答がありますが、その訳出・掲載には少し時間をください。

*** この応答の過程で、Sickafus博士が最初にイスラエルのSIT(Systematic Inventive Thinking)に接したのは1985年で、その年にFordで SIT (Structured Inventive Thinking) の研修を開始した。1997年のUSIT教科書、および1999年の論文で、「USITの開始を1995年」と書いたのは、単純なミスプリである、というのです。USITの歴史が10年も一挙に遡ることになり、びっくりです。しかし、USIT教科書の内容の充実ぶりからすると、1995年ではなく1985年の開始だというのは、自然なことと思いました。(2015. 7.22 中川 ) ***

==> 「質疑応答: USIT と OAF図式について (Q: 中川 徹、A: Ed Sickafus)」 として英文のまま掲載しました。  (2015. 8.25) 。質疑応答のページに8月半ば以降のもの15編を追加掲載しました。(2015. 9.17)

-- また、Sickafus博士は本年4月ごろから、そのWeb サイトとPCがハッキング攻撃を受けたとのことで、ウイルスは削除済みなのだけれども、外からWebサイトに入ろうとするとまだ危険サイトの表示が出るとのことです。www.u-sit.net サイトへのアクセスは、もうしばらくお控えください。

*** また、Sickafus 博士のWebサイトへリンクを張っていました原文献のいくつかを、本サイト内英文ページにも収録させていただくことになりました。今後順次収録掲載いたします。(2015. 7.22 中川) ***

==> Sickafus 博士は、新しくブログサイトを作り、移行させました。edsickafus.wordpress.com

本和文ページには、和訳論文のHTML版を掲載し、英文ページには論文をPDF版で示します。[注: 英文ページの掲載は、8月半ばに遅れる予定です。(2015. 7.28 中川) ==>掲載 2015. 8.25]

 

 編集ノート追記(中川 徹、2015. 8.25):  この論文を理解する一助に、「札寄せ法」(片平彰裕)を使って図解・可視化する試みをしました。本ページの下部に論文概要の図解(中川 徹)を掲載します。なお、図解の詳細ページには、片平彰裕さんが論文概要と本文の全章を図解したもの、および中川が論文概要を図解した途中経緯も明示しています。是非参考にしてください。

 

 

目次      

論文の先頭 

1.はじめに

2.拡張解析方法

2.1 潜在意識と意識による思考の動力学
2.2 問題解決のモデル

3.夢想的な思考

4. あいまいな問題の例−釣り用ルアーメーカーの問題

5. 工学以前の構造化問題解決コンセプト

6. 問題の展望

7. まとめ

参照文献

 

論文概要の図解(中川 徹、札寄せ法、2015. 8.25)          ==> 論文図解の詳細ページ(片平彰裕、中川 徹) (2015. 8.25)

 

注: 『TRIZホームページ』内 Sickafus論文 リスト・リンク

 

新ページ:  「質疑応答: USIT と OAF図式について (Q: 中川 徹、A: Ed Sickafus)」   (2015. 8.25)

 

本ページの先頭 論文の先頭

はじめに

拡張解析方法 夢想的な思考 ルアーの問題 工学以前の解決コンセプト 展望 まとめ 参考文献 論文概要の図解(中川) Sickafus 主要文献リスト

Q&A: USITとOAF図式  

英文ページ

 


 発表論文

Subconscious Problem Solving Using Hazy Heuristics

夢想ヒューリスティックスを用いた潜在意識問題解決

Ed Sickafus
高原利生・古謝秀明・中川 徹 共訳

Keynote Lecture
presented at the 5th International Conference of Systematic Innovation (2014);
International Journal of Systematic Innovation, 3(1) (2014)

和訳掲載:  『TRIZホームページ』、2015年7月20日

 

概要

構造的問題解決の方法論を学んでいる間、人は大抵、その煩わしさが発明的思考を邪魔することに悩む。その後、方法論が潜在意識の中でなじむにつれて、ショートカットが形を現す。本稿は、構造的問題解決のショートカットに焦点を当てる。

われわれが十分な証拠を持っているのは、われわれの意識が問題を解くのではなく、潜在意識が解いている、ということである。この認識がもたらす問題は、問題解決の手がかりをわれわれの意識からわれわれの無意識へどのようにして交信し、そこから返されてくるアイデアをどのようにして受信するのか、ということである。ここに提起するのは、現行の構造化問題解決方法論の主要部分にある、制約的なロジックを取り除こうという議論である。USIT(統合的構造化発明思考法)を例として用いる。

これは、論理的に訓練された技術者にとって、のむべき苦い薬というものであってはならない。人が前に学習した問題解決方法論のいかなるものをも置き換えるものではない。

そうではなくて、ある方法論を [十分に] マスターしてしまえば、人の論理的思考において第二の天性になっているヒューリスティックス構築物を除去あるいは減少させて、ショートカットを通ればよいのだと、それは薦める。論理は、情緒的であいまいな手がかり (-- ときには直観の詩的横暴のように思われるもの―) の前に道を譲る。

迅速な問題解決の事例で、USITを簡略化した形で用いたものを二つ示す。解決策コンセプトの一つは、米国特許「シーソー要素を持った歩行者衝撃エネルギー管理デバイス」として実を結んだ。

問題とその解決策コンセプトは、問題解決において工学以前のフェイズに関係する。このフェイズにおいては、すべてのコンセプトがふるいに掛けられることなく受け入れられる。コンセプトの検証とモデル計算は、その後に行なわれる。ふるいに掛けられていないコンセプトは、驚くべきアイデアの潜在的な源である。

キーワード:

夢想ヒューリスティックス、発明、潜在意識問題解決、潜在意識への種まき、構造化問題解決、潜在意識リンク、USIT、解決策コンセプト

 

[訳注: 原文は Hazy Heuristics。 和訳を、夢想ヒューリスティクス。

Hazyとは、ぼんやりした、あいまいなという意味である。ここでは、「潜在意識を活用したヒューリスティックス」を意味している。しかし、潜在意識の活動は、意識にとっては明確でないので、「ぼんやりした、おぼろげな、あいまいな、漠然とした」などと、否定的なニュアンスを持った言葉で表現されるのが常である。一方、「直感的な、ひらめきの」などは、潜在意識の活動が最終的な成果を出した時に、その時点で瞬間的に行われたかのような表現である。「夢想」というのは、夢を見ているかのように、潜在意識の活動が続いており、それが半ば意識されているようなニュアンスがあり、否定的表現ではなく、強い肯定的でもない。そのような意味で「夢想ヒューリスティックス」という語を選んだ。あるいは「潜在意識を活用したヒューリスティックス」、「潜在意識ヒューリスティックス」という訳語が良いのかもしれない。]

 

1.はじめに

われわれは、自分の仕事の随分大きな割合を、問題を「意識して」解くことに費やしてきた。記号を取り込んだ言葉や図の形で構成されたヒューリスティックス(定式化された手がかり)を用いて解いてきたのである。 見かけ上は、それらのすべてが、潜在意識への意識的なリンク(種)として働き、潜在意識において記憶の諸断片からアイデアがまとめられる。われわれが十分な証拠を持っているのは、意識が問題を解いてはいないことである。意識は問題を表明(交信)するのだ。われわれは、ヒューリスティックスを学び、発明し、実践して、問題を潜在意識に表明(交信)できるようにする。「意識下にある脳は無能である」という考え方は一世紀半の歴史を持っているが、今なお脳科学者の研究課題であり続けている。ここでは、論理は内向きの交信と外向きの交信とに格下げされ、一方、潜在意識が発明するのに使われる。

「意識下にある脳は問題解決において無能だ」という考え方は、新しいものでない。その歴史を俯瞰するため、意識と脳についての最近のChris Frithによる書評の冒頭の一節を引用しよう。

「1874年に、トマス・ヘンリー・ハクスレイは、心と脳について先見の明のある講義を行った。この生物学者は、主観的な経験が脳の「前頭葉」に依存していることを論じ、意識が行動にわずかの影響しか持たないのは、あたかも汽笛が蒸気機関車の進行に影響するのと同程度であると論じている。人間を「意識のある自動機械」以上にするものではないという。

彼は二つの疑問を提起したが、それらは意識の神経科学的基礎の現代の研究においてもキーであり続けている:意識を支えるニューロン過程で何が特別のものか?そして、意識は一体何のために存在するのか?」 C. Frith (2014年1月)。

「意識のある自動機械」がこの議論のキーワードである。ときには、われわれもそのような意識のある自動機械になっているかもしれない。それは構造化問題解決(SPS)を学び実行している間にも起こり得る。学んでいる間、われわれは潜在意識へのリンクを刺激する手がかりとして、表やグラフや単語やシンボルの形で論理的ヒューリスティックスを構築することに時間を使う。これらの方法で成功を収めるにつれて、それらが次第に信頼できる松葉杖(支え)になって行く。松葉杖を手にして、われわれは意識のある自動機械になる。

本稿は、このような松葉杖から自立して、より効果的な潜在意識のリンクを作ることに進むべきことを論じる。その変化が起こるのは、SPS (構造化問題解決)がわれわれの思考に染み込み、そしてヒューリスティックスを書いたり描いたりする煩わしさを最小限にすることができるようになったと認識するときである。結果として、具体的なヒューリスティックスは、もはや意識的に呼ばれたりグラフにされたりする必要がなく、自動的に必要に応じて現れる。これが、われわれの意識内に組織される、問題の論理的定式化にインパクトを与える。

 

2.拡張解析方法

問題解決のためにヒューリスティックスを使った普通の例を考えよう。ここでは、ある人の名前を思い出すのにどうすればよいかという問題を考える。

これをするには、アルファベットを順番に考えることがよく使われる。アルファベットを一文字づつ順番に辿って行く。それは自動的に行われるかもしれない。瞬時に、最初の一字かあるいは音節が、ぼんやりと視野に入ってくるだろう(潜在意識の情報のしるし)が、それは認識できるものとはいえないことがよくある。この最初のあいまいな手がかりに意識を集中すると、アルファベット検索の範囲を絞り込めたり、その人の特徴をぼんやり思い起こさせることさえあるかもしれない。それからすぐに意識の中にもう一つの音節が浮かび、やがて探していた名前が思い出される。名前が思い出されると、さらに集中が進んで、もっとはっきりした情報がよみがえる。例えば、その人と最後に一緒に食べた夕食とか、難しかったチェスのゲームとかである。

これが脳内の飛び石の経路であり、個々の手がかりに関係した(また、ときには関係しない)個人的歴史の潜在意識のかけらから復元される。そのようなリンクは、将来の使用のために意図的に記憶されてきたのかもしれないし、そうではなかったのかもしれない。リンクの連鎖は、意識的な理解への思考経路である。この演習で、無意識状態と意識状態の間を行ったり来たりしていることに気づくには、あるいはさらにそれに疑いを抱いたりするには、相当な内省が必要である。

上記の例で明白なように見えるのは、アルファベットを辿るヒューリスティックスを使って問題解決プロセスを開始すると決定するのに、意識が関わっていることである。それとも、「彼の名前を思い出せない」という考えが意識の中で作られつつあったときに、潜在意識がそのプロセスの開始を持ち上げてきたのだろうか?私は後者ではないかと思う。そして、それが起こったのは、意識がそれを認識して焦点を当てるよりも早かった。

また明白なのは、潜在意識から返された個々の考えは、意識に注意深く保持された前のものと最新のアイデアとを比較して、審査されたことである。審査されて、受け入れられ、あるいは拒絶された。その審査をしたのは誰だろうか? 意識ではないかと私は最初に思ったが、おそらく潜在意識の助けを受けてのことだろう。

さらに、これらの意識と潜在意識間のリンクを形成する速さは注目に値する。物理学者ハーマン・フォン・ヘルムホルツ (1821-1894) が、知覚を例として用い、潜在意識の推論中の速度を、ずっと遅い意識の認知と対比したことは、よく知られている。

私は、また、口頭あるいは文書の語句に入れられている各単語は、潜在意識によって示唆され審査されたものだと思っている。

 

2.1 潜在意識と意識による思考の動力学

それで、審査とは何だろうか? それは、次のようにコンピューターに似た用語で理解できる。一時的だがダイナミックな項目リストが、個々の新しい項目が既にリストにある各項目と比較されるにつれて、成長する。関連していると見なされた項目はリストに追加される。そうでなければ、捨てられる。

このモデルでは、成長のダイナミックスは、潜在意識の無作為選択の短い時定数を支持しているようにみえる。一方、意識のより長い時定数は、情報をファイルし保管して、焦点を実現するための保持のプロセスにおいては、それで十分である。

ゆっくり進む意識が、思考を呼び起こす種の有効なものを選択することが、どのようにしてできるのだろうか?意識だけが秩序化されていて、潜在意識は秩序化されていないのだろうか?

この質問に関して、夢を見ることが思い起こされる。夢は無意識の連想群から構成されて生じ、論理的思考である意識なら許容しないだろうものをしばしば含む。このことは、意識しているとはどういうことか?という疑問を提起する。

認知神経科学者Dehaeneが定義を与えている。

「意識とはこうである。われわれは、われわれが注意を集中するように選択しているものすべてを、意識しているのだ」 (S. Dehaene, 2014)

この定義が示唆するのは、われわれの潜在意識では、あらゆるスタイルの連想が起こっていることである。意識は、われわれがその関連性を判断して焦点を当てているものの集合でできている。それでおそらく、意識の遅さは、焦点中の連想を連続して維持することに見合っている。このダイナミックスは、シナプスインタフェースにおけるニューロン間の情報転送の物理学に注意を向けさせる。

 

2.2 問題解決のモデル

睡眠は脳がリラックスした状態である。睡眠中は、脳はまだなおアクティブであるが、認知を構成する関連する連想に焦点を維持することができない。このために、われわれが夢の中で得たアイデアを、それらがわれわれの準意識から失われる前に、目を覚まして書き留める必要性がある。

これらの観察は、五感からの信号は潜在意識で処理されているというモデルに適合している。それらの関連する連想は、(脳が休息している時にもなお存在し)長期記憶に転送される。そして、認知のための連想をいまや記憶中に記録されているもの(例えば、オブジェクト、属性、機能など)との間で作ることが、USITの分析のキーとなる。

われわれが目覚めているとき、意識して取り組まれるか否かに関係なく、われわれの潜在意識は絶えず問題を解決しようとしている。われわれの感覚は、(五種の電気情報に変換された)信号をわれわれの脳に送り、そこで信号は神経ネットワーク内を駆け巡る。関連するシナプスで、それらの信号は長期記憶、短期記憶と比較される。比較が成功すれば、瞬時の審査がサポートされ、全ての必要な反対行動や無視してもいい安全な出来事についての審査が行われる。

わたしは、すべての答えられていない疑問(すなわち、瞬時の審査に失敗したもの)が問題である、という比喩を使う。問題とは、答えられていない疑問である、と定義される。うまくいった潜在意識の連想が、意識によってアクセスされ、課題が解消されると、問題は消滅する。

一つの有用なモデルがここで姿を現し、それはすべての問題解決が潜在意識によって行われるやり方を理解する助けになるものである。ニューロン電流の最初の波が、関連する一つのシナプスを見つけると、一時的な焦点がそのシナプスにマークを付け、電流はさらにネットワークを辿って行く。もし2番目の関連シナプスが見つかったら、そのとき、二つのシナプスは長く続く焦点を持つようになる。他の関連シナプスの応答が起こるにつれて、それらはさらに焦点の持続を長引かせ、意識展開の事象(すなわち、思い出し)を形成する。私のこれについての心像は、片方の手で選択された複数のニューロンを持ち、たったいま選択されたニューロンを他方の手に持って、比較しようとしている、というものである。

 

3.夢想的な思考

われわれは、単語と文を知っている。そして、文法の使い方、曖昧でない文書または口頭でのコミュニケーションにするための方法を知っている。しかし典型的には、われわれのコミュニケーションが厳密で他の人たちに明瞭になるまでに、われわれは随分と教育を受け実践してきた。けれども、極めて初期のころから、われわれは、自分の潜在意識と意識的にコミュニケーションし、そのコミュニケーションで何を言いたいのかをわれわれは知っている。もしこれが真実であるなら(私は真実だと信じているが)、文法的なコミュニケーションは、内的思考のために進化したのではなく、われわれの思考を他者に表現するために進化したのである。それは、内的コミュニケーションのためには、あまりにも遅過ぎる。

内的思考は文法の厳格さを必要としない。文法的に話したり書いたりするのには、ある程度の意識的なフィルタリング(ふるい分け)を必要とする。まず考え、それから話す。思考はもっと自発的で、そのようなフィルタリングを受けない。この明らかな証拠は、文法的に書くために時間(そして、繰り返し多くの時間)を要することである。話すのも同じ理由で苦しみがある。話すときには、練習の効用で、話をある程度自動的に事前修正できる。それは教育の力である。

ブレーンストーミングを行っている間の内面化された創造思考は、非常に内発的であり、往々にして非文法的で非論理的な名詞、形容詞、動詞の連想が行われる。夢想的なアイデアで、内的にさえ許容できるようにするには何らかの修正が必要なものが、心に浮かぶことがある。SPS (構造化問題解決) において単語を一般化することの効用は、いままでの思考経路の関連性についての潜在意識のコントロールを保ちながら、新しい視点を見つけるための思考を奨励することである。思考経路は、発明的思考の根源である。しかし、それらに厳格さが必要だろうか?

私たちは、特定の単語の手がかりが、異なる単語と比べて、どれだけ効果的であるかを知らない。われわれが知っているのは、同じ考えを異なる方法で表現することができ、同様の考えを表現するのに、異なる人々が異なる言葉を好むことである。したがって潜在意識とコミュニケーションするのに、特定の単語選択が重要であるということは、ありそうにない。これで、論理の厳格さを減少させる一般化のための内面的余地が得られ、より広い解決策空間へのアクセスを開く。名前を思い出す例のはじめに使われたAは、あいまいな (広い)手がかりにするという目標からほど遠い可能性がある。それでも、それは高い成功確率を持つ作業手順を開始する。これらの認識は、潜在意識に種をまく際の多様性を求める。

上述した議論は、問題解決における解決策コンセプトのフェイズで、厳格さを必要としないことを示している。その理由は、潜在意識があいまいな思考の繰り返しの段階で働いているからである。SPS (構造化問題解決) の種々の方法論は、論理的ヒューリスティックスを多用している。解決策探索を始めるもっと直観的なやり方で、関連性があり、それでいて漠然とした (解決策)コンセプトが生まれる方法を、模索してみよう。次節に述べる、内省の活用に注意を向けてほしい。

 

4. あいまいな問題の例−釣り用ルアーメーカーの問題

ここに、迅速に定式化され、解決された一つの問題がある。釣り用ルアー(疑似餌)の返し (鈎針) が水中の木の根に引っかかった。その結果、ルアーの機能が駄目になった。-- 望ましくない効果である。ここに、私が本稿を書いたときに思い浮かんだ、分析簡素化のシナリオ (表1) がある。

表1. 単純なステートメントの展開

「釣り針の返しが木の根に引っかかる」

        3個の手がかり単語のオブジェクト、事前スケッチはない。

「返しがモノに引っかかる」

       2個の手がかり単語のオブジェクト、事前スケッチはない。

ぼんやりした解決策コンセプトのいくつか:

(1) 返しを保護する。

(2) 返しを取り除く。

(3) 木の根を取り除く。

(4) ルアーに腹ビレを付ければ、あるときにだけ返しを保護できる。

(5) 返しをルアーの上面に維持して、下にある木の根から離しておける。

(6) 魚の口に入っていないときには、返しを取り除く。

(7) ルアーの中に返しを隠しておいて、

(8) 魚の口に入ったときに返しを飛び出させる。
これは、魚以外の接触でルアーが引っかかる問題を解決する。しかし、これによって新しい問題が起きる。(しかしながら、ここではフィルタリング(解決策のふるいわけ)は許されていない。)

上記8つの (そして後に出てくる2つの) 番号を付けた項目は、少数の手がかり単語を使って、すぐに出てきた解決策コンセプトの連想である。

メンタルイメージは頭の中にできていたが、それを紙に描いたのは数分後のことであった (下図参照)。

図1. 解決後に描いたスケッチ
左図、動いているルアーで、釣り針は収納され、ヒレが曲がっている。
右図、ルアーが魚の口内におさまり、流れが止まり、釣り針が飛び出し、魚を捕まえる。

その特定の言葉遣い「魚の口が閉まる」が、新しいアイデアを閃かせた。

口の閉鎖は、(9)包囲網を示唆する。

ルアーが魚の口に入ると、周りの水流は遅くなる。(10) 流速の減少は、釣り針の解放に使える。
図1の左側には(ルアーに)隠れた返しを示し、右側には魚の閉じた口の中で解放される返しを示す。

このデモンストレーションで、特別に深い意味のあるものは現れず、そのようなことを意図していない。ここの目的は、一つの問題を特定し、解決策コンセプトを見つけることを即座に試み、(ヒューリスティックスを思い出したりフィルタリングを適用したりするために) 意識的に立ち止まることがない状況を、デモンストレーションすることにある。

ほとんどの人が理解できるだろう一つの例題を思いつくのに、ほんの少し時間がかかった。それから、潜在意識からいくつかの例題が飛び出して来た。引っかかった釣り用ルアーを選んだのには特別の意図はない。最小限の情報が複数のアイデアを、いかに迅速に生み出したかに注意されたい。

 

私がスケッチを描き始めたとき、一つの考えが思い浮かんできた。すなわち、二つのオブジェクト(釣り針と一般化した一つのオブジェクト)の「接触」を見ることである。このアイデアに伴ってもう一つの単純化を思いついた。露出した返しと露出していない返しとに焦点を当てる。-- すなわち、問題とその解決策コンセプトである。

この演習で最も時間がかかったのは、何をタイプ(入力)するか、その文法、パラグラフと表のレイアウト、そしてタイピングと描画の作業とに集中することだった。考えること、書くこと、描くことは複合したプロセスであった。意識の焦点は、これら3つの努力の間で頻繁に切り替えられた。私には、これらの3つのうちのどの2つも、同時に行うことはできない。

何が起こったかを吟味してみると、いくつかの基本的なヒューリスティックスが潜在意識下で使用されたことは明らかだ。

(a) 問題ステートメントを単純化して、1つの望ましくない効果、2つのオブジェクト、そして一つの接触点 (魚と釣り針)にした。

(b)それから、できれば、もっと単純化して、1つのオブジェクトの2つの状態にする。隠れた返し(解決策)と露出した返し(問題)である。

 (c) アイデアをフィルタリングすることを許さない。これも一つのヒューリスティックスである。

(d)不要なオブジェクト(木の根、水、そして魚)を取り除く。-- これもひとつのヒューリスティックス。

これらは4つの基本的なUSITヒューリスティックスである。それらはどの方法論に特有というものではない(もっと普遍的である)。

(e) 返しを無くすことが、返しを隠すことを想起させた。-- 1つの解決策コンセプトである。

(f) オブジェクト(モノ)−属性(性質)−機能のつながり (OAF) の一つが、分析プロセスの間に見える化された。-- 一つの意識的な努力である。

この例では、解決コンセプトはすぐに見つけられた。USITの簡略版を使用したのである。その解決策は、工学以前のコンセプトである。解決プロセスのすべてが、問題ステートメントに焦点を合わせている。形式的なグラフィクスやUSITの手順はまったく意識して使われてはいない。一つのOAFのつながりだけが例外的に使われた。それは、接触点に焦点を当てることを思い出させるものである。これらのアイデアを現実に具体化しようとすれば必ず、問題解決の工学段階におけるコンセプトの検証が続く。

最後のパラグラフとこの章の結論が、次の質問を投げかける。もし、すべてのことが潜在意識下で行われるなら、もっと他のヒューリスティックスが使われなかったと、どうしたら主張できるだろう?その答えは、私はそうは主張できない!だ。

私が正当だとする理由は、この例は私が思い出すことができる中で最も簡単なSPS(構造化問題解決)のケースの1つであるということだ。問題が心に浮び、分析され、そして解決策コンセプトが素早く見つかった。表とスケッチは、問題解決の事実の後に作られた。他のヒューリスティックスも確かに潜在意識下で関与し、それらはいまではよく発展して記憶されている。

注意すべきことは、これらの即座に心に浮かんだあいまいな解決策コンセプトがSPS(構造化問題解決)の目標(ゴール)であることだ。(この後)あなたがする必要があることは、ブレーンストーミングチームに、「返しを保護する」、「返しを取り除く」、「木の根を取り除く」というフレーズを手渡すことだけである。そうすれば彼らは走りだし、これらのコンセプトを膨らませて、つぎの問題解決フェーズ、すなわち工学のためのフェーズに入らせるであろう。

[訳注(中川、2015. 6.30): この段落で著者が言っていることと、従来の著者のUSITの説明(=中川のUSIT理解)との間には、少し齟齬があると思う。ここの「ブレーンストーミング(BS)チーム」が何を指すのか、SPS(USITを含む)を実施している人・チーム(自分とそのチーム)とはどう関係しているのか、「BSチーム」はSPS(USIT)を実施しないのか?といった点が不明確である。

中川の「6箱方式」で説明すると、ここで著者が言っている内容は次のように理解される。

「心に浮かんだあいまいな解決策コンセプト」(「返しを保護する」「返しを取り除く」など)は、第4箱の「新システムのためのアイデア」の段階のものである。
これらのアイデアを膨らませたもの、そして工学の段階に入る直前の形にしたものとは、第5箱の「解決策コンセプト」のことである。
ついで、工学の段階の問題解決とは、解決策を工学的に設計し、実際に製作し、それが本当に使えるように(商品として売れたり、社内設備に組み込まれたり)することである。その出来上がった形のものを「6箱方式」では「第6箱」と言っている。

中川のUSIT理解(=従来のUSIT/SPS理解)では、USITチームは、第4箱の「アイデア」だけでなく、第5箱の「解決策コンセプト」まで出すことが求められている。USIT (SPS) の目標(ゴール)は、(心に浮かんだ)「アイデア」の段階ではなく、もっと良く練った「解決策コンセプト」である。これに対応して、USITチームは、(ここでいう「BSチーム」の役割をも含めて)「アイデア」を膨らませ「解決策コンセプト」にまで発展させる役割を担っている。 ]

[訳注〈中川、2015. 9.15):  Sickafus博士との質疑に基づき、中川の用語をつぎのように修正することにしました。

[第4箱]   「アイデア」 (Ideas)
[第5箱]   「概念的解決策」 (Conceptual solutions)   (「解決策コンセプト」(Solution concepts)  と言わない)

なお、「解決策コンセプト」(Solution concepts)は、解決のための核になる考え(概念)であり、 [第4箱]   「アイデア」、[第5箱]   「概念的解決策」、[第6箱] 「実装解決策(Implemented solutions)」のすべての中に存在する(べき)ものです。

 

5. 工学以前の構造化問題解決コンセプト

より複雑な問題の例がUSITチームに割り当てられた。自動車バンパーを、歩行者にとって、より害が少なくなるようにするための、考えられるコンセプトを見つけよというのである。この問題に2チームが取り組んだ。最初のものはUSITチームで、さまざまなコンセプトと一つの公開発明を生み出した。その後第2のチームが取り組み(彼らのUSITトレーニングは未詳である)、前述の公開発明を改良して、一つの特許を取得した。私は両方のチームで仕事をした。

「バンパーと歩行者」という技術的名称を一般化すると、異なったサイズの2つのモノ(オブジェクト)「O1とO2」と言い換えることができる。この言い換えは、検索すべき解決策空間を、何通りかの方法で広くした。それはまた、あまりにも特定のオブジェクトを思い出させるような属性を使わないで始めることを助けた (そのような属性を使うと、解決策空間を狭めてしまうだろうから)。これがSPSの論理的なコントロールをいくらか緩和し、直感にいくらかの自由な動きを許すことを助けるものと、想定される。

チームは、まず問題/解決策図解として、標準のOAF3つ組を選んだ(図2)。図2中のOは、1個、2個、または3個のオブジェクトを表すことができることに注意すること (参考文献を参照のこと)。

[訳注 (中川): 図2中に現れる3個のOが、すべて同じものを表してもよいし、どれか、あるいはすべてが違うものを表してもよいという意味。]

図2. 問題/解決策ステートメントの一般化したOAF図解
図が問題を表すとき、Fは望ましくない効果であり、解決策を表すとき、Fは望ましい効果である。
A'とO'は解決策空間にあり、そこではO1'とO2'が接触している。

図3. 解決策空間のOAF図解。
図2にA'とF'の例の値を適合させた。

[注意(中川): これらの図は2015年5月にSickafusから提供された修正図であるが、図3右部はまだ内容的におかしい]

図 2と図3を構築している最中に、時間的に分離した2つの問題があるというアイデアが浮かんだ。問題を2個のオブジェクトにまで減少させて、問題を単純化する。O2を取り除いて、A1'を一方の状況では柔らかく、他方の状況では固くする。したがって、望ましい効果は適合すべき2つの条件を持っている。あるときには屈曲し、別なときには硬直する。屈曲するとき、O1'の属性(性質)はやわらか、柔軟、などであるべきだ。硬直するとき、O1'は硬く、柔軟でない、などであるべきだ。

特定されたこれらの2つの問題を使って、われわれの問題/解決策ヒューリスティックスを、一つの文に組み入れることができる。その結果、O-A-F-A’-O’(シンボルで表した文/図解)が、単純化した問題/解決策ヒューリスティックスとなる。ここで、OとO'は異なる時間での同じオブジェクトを表す。

[訳注: ここのオブジェクトは、具体的に言えば、自動車のバンパー部のことである。]

屈曲するという単語を見ると、それを他の属性(性質)の用語で表現できることが示唆される。例えば、柔らかい、動くことができる、弾力性のある、柔軟な、可塑性の、などである。O1'の属性 (A') は、空間と時間の関数になり得る。 A'(x,t)と表す。人間の潜在意識は、これらの状態を扱うのに、追加のスケッチがなくてもよいことに注目されたい。

問題解決において工学以前段階では、数値や詳細な数式を必要とする工学的パラメータは必要でない(そして、避けるべきである)。それらは時期尚早なフィルター(ふるい)として作用することがあるからである。工学的パラメータは、コンセプト検証のための数理的モデリングのときに使用するのが適切である。

そして、分かった!というヒラメキがやってきた。時間依存性の弾力性、可塑性、および移動性が、粘性流体を思い出させた。それは、非ニュートン性流体という一般化を示唆した。この気付きから2つの有用なコンセプトが生じた--チキソトロピとレオペクシーであり、これらは時間依存性粘性の相互補完する二つのタイプである。

チキソトロピック流体は、時間依存性の歪力によって粘度が減少する。剪断減性と呼ばれるときもある(例えば、ケチャップとヨーグルト)。

他方、レオペクシーは、時間依存性の剪断において粘度が増加する(例えば、石こう泥とプリンタインク)。

この時点で、特定の材料を選択する必要はない。そのような詳細は少し時期尚早である。それらを考えることは、コンセプト検証の段階まで待つことができる。その時までに、これら二つの属性の一方または両方を利用する他の方法がひらめくかも知れない。粒子状固体の流れが思い浮かぶ。

数個の解決策コンセプトがこれらの観察から出て来た。

(1) 大きなオブジェクトをセルに分割して、それらのセルにこれらの流体のどちらか一方、あるいは混合物を入れ、時間依存性粘性をセルに与えることができるだろう。

(2) セルを使うと、特性を空間的に不均一に分布させることができる。

(3) 使用される流体は、そのセルボリュームの中で、球形その他の形状の固体を分散させ、その結果、より広い範囲の剛性を持てるようにできるだろう。(分散と混合)

(4) 弾性粒子を流体中に分散させ、O2'がO1'に侵入する形状に適合する性質をもたらすこともできるだろう。

(5) 個々のセルを独立に保持させ、小さなオブジェクトと接触したときは分離可能にし、大きなオブジェクトに接触したときには分離を防ぐようにする。

最後のアイデア(5)が飛び出したのは、ノーベルの発明を思い浮かべたときであった。彼はニトログリセリンをドロマイトの孤立させたセルに保持してダイナマイトを作った。アイデアは同様のアイデアをひらめかせる。

もう一つの解決策コンセプトが現れた。

(6) それは、バンパーを複数の可動部分に分割したものである。セルの動きは、O-Oの接触に従って自動的に起きる。接触域が大きいなら、セルは空間的により均等な領域になるように動き、(O2'の)形状に非適合な剛性を示す(図4と図5)。接触域が小さいなら、セグメントたちが接触領域の周りに移動し、局所的な形状順応性を示し、効果的に柔らかい領域を形成することになる (図6)

この仕事は、米国特許 6,554,332,B1に繋がった。

図4. 可動バンパーセグメントの配向を例示しており、 接触部がほとんど平坦になって効果的に硬さを増す。

特許出願書から引用して、このコンセプトの図面を図 5図6に示す。 接触板を単純化して、より少ない部品で構成し、形状適合層を加えたもの(図5図6)。

 

図5. 大きなオブジェクトに対する形状適合順応デザイン。
特許中での改良案。(ノンスケール)

図6. 小さいオブジェクトに対する形状適合設計。
接触板は小さなオブジェクトに接触している形状適合材料をサポートしている。 (ノンスケール)

ここに例示した問題解決の例は、その各部をヒューリスティックスダイアグラムにマッピングして、後付け論理分析をしようと意図したものではない。むしろ、2つのポイントを意図したものだ。

第一に、いかに少ない事前情報を使っただけで、最初のアイデアが現れてきたか、を示すこと。

第二に、それらのアイデアの情報が、最終的な解決策アイデアと比較すると、いかにあいまいだったかを示すことである。

問題解決をした後で、解決策の結果を問題解決方法論上にマッピングして、その方法論とその適用に信用を与えようと試みるのは、いささか疑問がある。オリジナルの問題とその結果は、そのようなマッピングなしで、比喩的に理解されている。このことが特に真実であるのは、問題を記述するのに一般化した用語を使用したときである。不幸なことに、ブレインストーミングチームが随分の時間を無駄にすることがあるのは、参加者全員の論理に対する要求を満足させざるをえないときだ。そのような論理を、潜在意識は必要としない。

ブレーンストーミングチームでは、解決結果は即時の検討で得られる。一つの解決策コンセプトが出されると、各チームメンバーはすぐにそれを改良しようと試みる。--おそらくその業績に加わりたいのであろう。それを改良できないと、彼らはそれを批判しようとするだろう。本稿で述べてきた議論を考えると、これは奇妙である。問題ステートメントのどの構成要素が実際に創造的な考えをひらめかせてくれるかは、誰にも分からないのだから。これは、一般化した単語を選択して、より多くのコンセプトを発見可能にすることを支持する。また、明らかに有効とは言えない新しいアイデアを批判するのもおかしい。そのようなアイデアが、不合理な、潜在意識の、ニューラル・ネットワークの集合から得られたことを覚えておき、むしろ、その関連性を探そうと試みる方が、もっと意味があるだろう。言い換えれば、潜在意識がなぜこの特定のコンセプトを持って来たのか?を熟考せよ。

 

6. 問題の展望

発明思考の中核は、ひらめきのために、問題状況の斬新な見通し(洞察)を見付けることにある。上の例では、見通しは、三つの単純で記号的な語、つまり O、Aと Fから得られた。それらはすでに潜在意識の中に登録され、潜在意識への多様な論理的なリンクを持っている。われわれの五感から提示された多くの経験のように。それらはまた、われわれが想像したかもしれない比喩によって登録されているかもしれない。USITでは、それらは問題定義とその解決にとって基本的である。

さまざまに異なった視点が同じ脳で起こり得る。構造化発明思考は、自然発生的な考えを批判せずに認識することを奨励して、そのような対立を回避する。

一旦経験して使えるようになると、O-A-Fの記号がわれわれの潜在意識に語りかけ、解空間を駆け巡る飛び石が自動的にできる。それから、問題定義のための簡単な図解(図2)の内面での可視化が続いて起こる。しかし、この(三つ組みのリンクの)図解によるヒューリスティックスは、さらに一般化したシンボル(単一のの比喩)に還元することができる。この単一O-A-Fから、より複雑な統合を形作ることができる。(E. Sickafus、1999)

問題の見通し(問題への洞察)は、意識的発明の最重要な部分である。少なくともわれわれはそう思っている。われわれは、潜在意識がどのような解の見通し(洞察)を持っているのか(もし持っていればだが)を、知らない。われわれが知っているのは、潜在意識が意識よりもずっと速く、過去と現在の観察の連想を見つけることである。潜在意識は、多分、手当たりしだいにそれらを見つけ、それらを意識へ提供し、さらに探索を続けているのだ。一方、ゆっくりした歩みの意識は、それらをファイルして参照できるようにするのだ。われわれの意識のスピードがこのように相対的に遅いことが、書いたり描いたりするヒューリスティックスの煩わしさを悪化させ、同時にわれわれの発明とうまく付き合いたいというわれわれの熱意をそぐのである。

構造化問題解決においてわれわれがするべき最善の努力は、実世界の状況を、曖昧な(夢想的な)比喩を使って曖昧な(夢想的な)問題空間世界に持ち込むことである。それから、(無意識が)意識に提供してくれる、豊かな比喩的解決策コンセプトを楽しもう。

ここで告白しておくのがいいだろう。バンパー問題で思い浮かんだ最初のアイデアは、非ニュートン性流体ではなかった。物理的衝撃のアイデアであり、おそらくバンパー衝突の初期イメージから連想したものであろう。それから思い出したのは、パナマでイエスキリストトカゲ(エリマキトカゲ)が流れを登って行くのを見たことであった―水面への足の衝撃。それが、チキソトロピーに導き、さらに非ニュートン性流体に導いた。「潜在意識よ、ありがとう!」。問題を解決した経験を再び語ることには、恩恵がある。

 

7. まとめ

「夢想ヒューリスティックス」を一つの問題解決戦略として提案する。それは、自然に起こってくる批判を抑え、それによって比喩思考の直観の力から恩恵を受ける。こうして、それは、問題解決者の解決策探索空間を広げる。

問題解決の過程が、もし、いくつかのセクションに分割され、情報収集、ブレーンストーミング、構造化問題解決、工学以前のフィルタリング(ふるい分け)、モデリング、解決策コンセプトの検証などがあるとするなら、「夢想ヒューリスティックス」の適用は、USITとそれを構成するすべてと同様に、ブレーンストーミングの後の、工学前のフィルタリング(ふるい分け)以前のセクションである。このシナリオで、ブレーンストーミングを行うと、得やすい成果を得られる。USITは、否定されたアイデアや以前には気付かれなかったアイデアを掬い取る。

「夢想ヒューリスティックス」が働く方法は、本稿で三つの要素中で扱った。

(A) 脳が直観的であり、論理的でないという証拠。これは、われわれが論理的な種を使うと、潜在意識にまちがった指示を与えていることを意味する。

(B) 直観の速度が、意識の速度に勝り、革新思考に不可欠である。論理的思考が、直観的思考を拒否してしまうおそれがある。

(C) 比喩(「夢想ヒューリスティックス」)は、論理よりも、直観的思考を受け入れやすい。

機械的な思考がいったん習得されると、われわれは戦略的思考に移る。ここでわれわれは、意識のある自動機械という松葉杖(第一章参照)を手放し、紙と鉛筆を手に取り、訓練と経験に満ちているわれわれの記憶からアイデアを産み出すように迅速に進む。

 

参照文献

 

Frith, C. (2014, 30 January 2014, 505, 615). Joined-up thinking: Nature.

Dehaene, Stanislas, Consciousness and the Brain: Deciphering How the Brain Codes Our Thoughts, Viking Books, 2014.

Helmholtz, Hermann von, Unconscious Thought Theory, Wikipedia, the free encyclopedia

Sickafus, E. N. (1997). Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent (textbook).

Sickafus, E. N. (1999) Heuristic Innovation, www.u-sit.net.

US Patent 6,554,332,B1, Pedestrian Impact Energy Management Device With Seesaw Elements, Inventors Peter John Schuster, Liz Tait, Bradely Staines, Christopher William Lucas, and Edward Nathan Sickafus.

USIT textbook O-A-F definitions.

O = object; a noun; e.g.‘plate’;
A = attribute; an adjective; e.g.‘shinny’;
F = function; an infinitive; e.g. ‘to support’

 


  論文概要の図解 (中川 徹、作成:2015. 8.24; 9.12)

この論文を理解する一助に、「札寄せ法」(片平彰裕)を使って図解・可視化する試みたものです。

図解の詳細ページには、片平彰裕さんが論文概要と本文の全章を図解したもの、および中川が論文概要を図解した途中経緯も明示しています。

一旦仕上げた図を、詳細を抑えて簡略化した方が分かりやすいと考え、推敲しました。簡略版をいかに示します。(2015. 9.17)

 

 


 

  Ed Sickafus 博士の主要論文リスト (本サイトに和文または英文で掲載しているもの)

Sickafus博士の論文/記事で、本サイトに掲載しています主要なものは以下のようです。(太字は特に重要なもの)

*** Sickafus 博士のWebサイトへリンクを張っていました原文献のいくつかを、本サイト内英文ページにも収録させていただき、読者の便とサイトのバックアップを図ることに、同博士の許可を得ました。今後順次収録掲載いたします。(2015. 7.22 中川) ***

[1] 製品フローに創造的思考を注入する (Ed Sickafus, 訳: 中川 徹) (1999. 1.22)
        -- この原論文(1998年11月の国際会議発表)を英文ページに近日中に掲載する予定です。(2015. 7.22)

[2] SITを企業研修プログラムに採用した論拠 (E. Sickafus, TRIZCON99発表、訳: 中川 徹) (1999. 5. 8)
       -- この原論文(1999年 3月の第1回TRIZCON発表)を英文ページに近日中に掲載する予定です。(2015. 7.22)

[3] USITの成立と進化 (Ed Sickafus、USIT教科書, pp. 439-442 (1997); 訳と解説: 中川 徹、解説への補足: Ed Sickafus)、掲載: 2001. 3.23   

[4] 「総称化 (一般化法) - USITの一つのプロセス」 (Ed Sickafus、USIT教科書11章、 訳: 中川 徹) 掲載: 2002.10 1  

[5] 「USIT の概要 (統合的構造化発明思考法)」 (USIT eBook)(Ed Sickafus、USIT Web Site、2003年2月、 訳: 川面恵司 ・ 越水重臣・ 中川 徹) 掲載: 2004.10.18。

[6] USIT ニュースレターとミニ講義(No. 1〜10) (Ed Sickafus; 訳: 古謝秀明・中川 徹) (HP掲載: 2004. 1. 8 〜 2004. 7.13) 

[7] USIT ニュースレターとミニ講義 (No. 11〜28) (Ed Sickafus、2004. 4〜2004.10.; 訳: 中川 徹) (掲載: 2013. 1.30 〜 4. 6)  

[8] 「構造化問題解決の諸方法論 (TRIZ、USIT他) を基礎づけるやさしい理論」 (E. Sickafus; 日本TRIZシンポジウム2006、基調講演、訳(スライド) 三原祐治、訳(論文) 川面恵司、中川 徹、掲載(スライド) 2006.10. 2、(論文) 2007. 6.24。  

[9]  「「ヒューリスティック・イノベーション」(HI法)とその開発」 (Ed Sickafus、 USIT News Letter No. 69、2007. 3.19、 訳: 古謝秀明、川面恵司、中川 徹)、 掲載:2008. 3.30  

[10] 「夢想ヒューリスティックスを用いた潜在意識問題解決」 (Ed Sickafus、 第5回体系的革新国際会議(ICSI2015)、基調講演、2014年 7月16-18日、San Jose、 CA、米国。 International Journal of Systematic Innovation, Vol. 3(1) (2014); 高原利生・古謝秀明・中川 徹 共訳)、和文掲載:2015. 7.29 ; 英文掲載: 2015. 8.25

 

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はじめに

拡張解析方法 夢想的な思考 ルアーの問題 工学以前の解決コンセプト 展望 まとめ 参考文献 論文概要の図解(中川) Sickafus 主要文献リスト

Q&A: USITとOAF図式  

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最終更新日 : 2015. 9.17    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp