高原論文

世界観、生き方、人類の未来のための根源的網羅思考と一体型矛盾

高原利生、
FIT 2016 (情報科学技術フォーラム)、2016年 9月 7-9日、富山大学

英文(論文、スライド) 2016. 9. 7、
和文(論文、スライド、解題) 2016. 9.21

掲載:2016.10.19

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編集ノート (中川 徹、2016年10月 6日)

大きな構想で独自の理論を樹立してきておられる高原利生さんの最新の論文を、和文と英文で掲載いたします。情報科学技術フォーラム(FIT)は、情報処理学会と電子情報通信学会の情報処理に関係するソサイエティが共催する年に一度の大規模な発表・討論の学会です。発表は和文または英文とのことで、高原さんは英文で発表されました。論文は4頁の長さ制限だそうです。発表の翌日に英文論文とスライド、および和文での論文解題をいただきました。論文の和訳をお願いして、和文の論文とスライドを9月21日に受け取りました。これらの和文・英文の一式を本ホームページに掲載いたします。

最近の高原さんの理論で、私が最も注目しているのは、「矛盾」の概念、特に高原さんがいう「一体型矛盾」というものです。高原さんは次のような例を挙げています。

目的と手段。     認識と行動。     感情と論理。     内容と形式。      単一性と多様性。     集中と展開。

展開と深化。     分析と合成。     思考と学習。    謙虚さと批判。     愛と自由。

それぞれ非常に興味ぶかい項目の対であり、エッセイのテーマとしてもよいですが、深く考えると一つ一つが博士論文になるでしょう。私はいまこれらに関する二つの大きなテーマを持っています。

(a) 「集中」vs「分散」: 組織・運用・制御などに関することです。さまざまな適用領域がありますが、私はコンピュータとIT/ソフトウエアに関連して、その進化発展の歴史を、 「集中」vs「分散」という観点で、技術的にきちんと検証するとよいと考えています。最初は一つの集中システムいろいろな機能が現れ、次第に分離独立していく。ある段階になると、元の親から自由な分散連携のやり方の方が有利になる。そしてされに進むと、分散の非能率の点が現れて、新たな形での統合(「集中」)があらわれる。このような発展・進化が繰り返され、階層的に発展する。-- ITの専門家である Umakant Mishra氏と共同研究をこの春から始めました。

(b) 「自由」vs「愛」: 高齢者福祉に関する、「勝ち/負け」と「助け合い」の意識対立から、その根本に「自由」vs「愛」の社会思想の対立があることにきがつきました。そして、「自由」vs「愛」が「人類文化を貫く主要矛盾」であること、それが、人類文化の歴史を通じて解決の努力がなされたけれども、まだ解決できていない、一層困難になっている面がある、と理解しました。-- このテーマは、何よりも、何よりも重要なものです。

このような考察の基礎を与えてくれる「一体型矛盾」の概念とその理論の整理がこの高原論文にあります。

高原論文はすでにずいぶんの理論構築の蓄積がありますので、とっつきにくいことと思います。本ホームページに『高原利生論文集』 第一部(2003-2007)、 第二部(2008-2012)、 第三部(2013-2015) を掲載していますので、その論文解題などから読み解いてみてください。

 

本ページの目次:

(A) 論文  (和文: 2016. 9.21):      論文PDF

1.前書きと概要

2.  根源的網羅思考; RET

3. 矛盾

4.人類の生きるモデル

5.生きる 

6.技術、制度  と世界観

7.今日と未来

8.二つの結論的考察

参考文献

(B) 発表スライド  (和文: 2016. 9.21):   PDF

(C)   論文解題   (和文: 2016. 9. 8):

 

本ページの先頭 論文先頭 3. 矛盾 論文PDF スライド先頭 スライドPDF 論文解題

『高原利生論文集』第三部(2012‐2015)

    英文ページ

 

                                  

 論文  (和文: 2016. 9.21)        論文PDF  

 

世界観、生き方、人類の未来のための根源的網羅思考と一体型矛盾

高原 利生

FIT 2016 (情報科学技術フォーラム)

発表(英文) 2016年 9月 7-9日、富山大学

 和訳論文: 2016年 9月21日

 

1.前書きと概要 [FIT2013] [FIT 2015]

1.    一、二世紀程度の長い時間で見れば、人類は、進歩,進化を続けている。

しかし、我々の目の前には、経済的、政治的制度や個人が引き起こす複雑な問題がある。人類は、新しい生き方を必要としている。

我々には、生き方を実現する二つの方法がある。一つは、既存の思考を修正し行動する方法である。もう一つは、ゼロベースで思考し行動を起こすことである。今は、ゼロベース思考を態度の原理とするべき時である。

ゼロベース思考による網羅の結果として、次のような第一の人類の生活の仮説が得られる。

1) 事実を認識し、
2) 事実、価値、価値実現の手段の仮説を作り、
3) その手段を実現し、
4) その仮説を検証する、

というサイクルを続けること。

 

まず、事実がある。本稿では、事実とは、現実生活のものだけでなく、思考世界や歴史を含んでいる。そして事実は存在と関係からなっている。存在はものと観念からなる。運動に、位置的、機械的、化学的、有機的、生物的、社会的運動、思考、感情の動きを含む。

(存在間の) 関係 、 (存在間の) 作用、 (一つの) 運動、(時間軸上の) 過程、 ( 結果としての) 変化は、同じものを違う粒度で見たものである。

関係は、エネルギーによって運動に変換される。運動には、物理的運動だけでなく、化学反応、生物学的運動、社会的運動、思考、議論なども全て含める。

 

2.    本稿では、第一の人類の生活の抽象的形式的仮説を、具体的な形に変換した第二の人類の生きるモデルの仮説を示す。第二の仮説は、適切な原理と基準により人類の新しい生き方の可能性をもたらすことができる。これを4章から8章に示す。

今までの検討結果のまとめを2章3章に示す。

過去に述べた内容と引用は青字で示す。緑字は例を示す。

 

2.  根源的網羅思考; RET [FIT2012, 13, 14, 15] [TS2012] [THPJ201501, 02, 03]

1.    2013年以来、最小概念によるゼロベースでの、全ての物事についての思考再構築を試みてきた。[FIT2013] [FIT 2015] [THPJ201501, 02, 03]

最小の基本概念は、オブジェクト、粒度、網羅である。これを表2.1に示す。

表 2.1 最小の基本概念

基本概念

オブジェクト

粒度

網羅

 

オブジェクトは、事実から知覚によってある粒度で切り取られ表現される情報である。オブジェクトに存在、関係の二種がある。[FIT2004, 05/1, 2] [TS2005, 07, 08, 12] [THPJ2012]

こうとらえると、オブジェクトは、

1) 物 :存在
2) (固定化してとらえた)  「観念」:存在
     21) 実体に担われ認識できる観念内容
     22) 私の精神)
3) (存在間の) 関係 = (存在間の) 作用= (一つの) 運動= (時間軸上の) 過程= ( 結果として) 変化

となる。

粒度は、扱うものの大きさである。やや正確には、扱うものの無数の可能性の中の、1. 空間的範囲、2. 時間的範囲と3. 扱うものの持つ無数の属性の中から着目し選んだ(広義の)属性である。粒度の定まった粒も、単に粒度ということがある。[FIT2005/2] [TS2008] [TS2012].

属性とは、オブジェクトの外部に対する具体的規定内容である。

網羅とは、「抜け」の無いように全体を個々の要素で数え上げることである。網羅に物理的網羅と論理的網羅 例:種類 がある。[TS2012] [FIT2012, 14]   適正な粒度は網羅された中から選ばれるべきもので、網羅はある粒度に拠って行われる。 例:日本における虹の七色

 

2.   オブジェクトには、豊富な内容とそこから派生してくる概念がある。

論理は、ある粒度の前提で、その粒度間の関係である。粒度が先なので粒度設定を間違うと論理は必ず間違う。オブジェクトは、適正な粒度によって決まる。

機能は、オブジェクトが外部に対して持つ属性の意味である。機能は、「価値−目的−機能−属性」という系列の中にある。[THPJ2012]  これは、単に「種類の網羅」でない論理的網羅の一例である

構造とは、要素とそれらの関係の全体である。オブジェクトの構造とは、そのオブジェクトを含む全体、オブジェクト自体と内部構造からなる。

 

3.    粒度の網羅がないと、適正な粒度が得られない恐れがあり、したがって、適正な論理が得られない恐れがある。我々は、根源的網羅思考により、事実とオブジェクトの網羅された粒度を得なければならない。根源的網羅思考は、次のタイミングで行う。

31. それぞれの個々の問題の今ある事実の粒度を選び、必要ならそれを変更する。[THPJ201501]

32. 31に加え、今の事実の粒度を網羅して事実の中の今の粒度の「位置」を知る。粒度選択の基準が必要である。

33. 過去から未来までの全世界の全ての事実の粒度を網羅し、必要なら事前にそれを変更する。これが本稿の場合である。我々は、個々の粒度に対応した数えきれない未来の可能世界を持つことになる。粒度を選ぶための基準と原理が必要とされている。Chap.4章から8章が例である。

根源的網羅思考RET第一の方法原理である。

 

3. 矛盾 [FIT2006 to 15] [TS2006 to 12] [THPJ 2012]  [THPJ201501,02, 03]

1.    世界では、単一で独立した物事は自身で進んでいかない。物事はすべて相互に関連しているからである。そこで、「相互関係を有した何か」を表す概念を必要とする。この「相互関係を有した何か」が矛盾である。これは単に運動の構造であり「項1−関係−項2」として表現される。

項1である目的と項2である現実の差異とエネルギーが、矛盾という運動を始める。矛盾は、生活と世界のモデルの最小単位として用いることができる。

二種の属性がある。変化しにくい狭い意味の「属性」と、変化しやすい「状態」である。「状態」に値がある。

 

2.   矛盾は、通常の変化、変更である狭義の差異解消矛盾と、従来の通常の矛盾である両立矛盾に分かれる。両立矛盾も広義の差異解消と呼べる。その理由は、両立していない状態から両立の状態への差異解消という粒度があるからである。[TSJP2012]

 

表 3.1 矛盾の二つの型

矛盾の項

名前

一項がなるべき項、他項が現状

狭い意味の差異解消矛盾

自然、人工システム、生活における通常の変化、変更。
変数が一。

二項が両立、または両立している二項が質的変化を起こす。

両立矛盾; CC

通常の意味の矛盾。
変数が二。

 

表 3.2 矛盾

矛盾

矛盾結果の型

運動の型

変化の型

差異解消矛盾 11. 量的変化を起こす 永続的

量的

自然、人工システム、生活における通常の変化、変更。

例: マントル運動

12. 両立二項が質的変化を起こす

一時的

値から属性へ

質的

自然、人工システム、生活における通常の変化が質的変化を起こす。

例: マントル運動が起こす地震。化学反応

両立矛盾; CC

 

根源的網羅思考;RET 31, 32の場合

21. 二項の両立を実現する

 

 

 

一時的

 

 

値と属性

 

量的と質的

二項が二値または二属性。

例:暖かさは属性、暖かさの度合いである温度は値。TRIZにおいては、二値の場合の矛盾は“物理的矛盾”、二属性の場合の矛盾は “技術的矛盾”と呼ばれる。

例: エンジンの大出力と軽量。

通常の機能と構造。 通常のCU, RET と基準。
通常のオブジェクトと粒度と網羅

22. 質的変化を起こす

一時的

値と属性

質的

統合された二項が弁証法的否定を起こす。

例: 全ての製品。それぞれの「部品」が構成されて、車のような新しい質を持った製品になる。

一体型矛盾; CU

 

根源的網羅思考;RET 33の場合

23. 特別な両立矛盾の一種で両項を高め続ける

永続的

オブジェクトまたは属性

 

量的と質的

各項が、他項を、自らの発展の条件とするか、自項のサブ要素とする。そのため各項がお互いに発展させる。

例: 男と女。

労働、交換、消費。

目的と手段。認識と行動。生命の機能と行動。技術と制度。歴史と論理。感情と論理。内容と形式。システムと運用。

単一性と多様性。単純性と豊饒性。集中と展開。展開と深化。分析と合成。思考と学習。受容と思考と表現 。リアリズムとロマンティシズム。

CU, RET と基準。 “対象化と一方向でない一体化。

謙虚さと批判。愛と自由。

 

3.     表3.2のタイプ11は、タイプ12に変化する場合がある。またタイプ21は、タイプ22に変化する場合がある。いくつかのタイプ22は、タイプ23に変化する場合がある。

タイプ23、CUの二項は、タイプ21の二項と異なる。タイプ21の二項は、値か属性、タイプ23の二項は、オブジェクトか属性である。

 

4.    生命と人類の長い歴史の中で、もともと一つだったものが、次のように分かれていく。

二つのオブジェクトに;  例:男と女。労働と交換と消費。

オブジェクトと思考に;  例: 認識と行動。生命の機能と行動。技術と制度。歴史と論理。感情と論理。内容と形式。システムと運用。

二つの思考に;  例:  単一性と多様性。単純性と豊饒性。集中と展開。展開と深化。分析と合成。思考と学習。受容と思考と表現 。リアリズムとロマンティシズム。

または二つの態度に;  例:  対象化と一方向でない一体化。謙虚さと批判。愛と自由。 [TS2011]

そして、分かれたそれぞれは独自の発展を始める。

 

ある時から、その二つは再統合の運動を始める。統合の条件は、

1) 各項が、他項を、自らの発展の条件とするか、例: システムと運用
または 2) 自項と他項がお互いに、他項の情報を自項の情報のサブ要素として取り込むことである。  例:男と女。 [TS2011] [FIT2011]

それで、CUの各項がお互いに発展させることができるようになった。

CUのいくつかの例を、表3.2に示す。[FIT2011] [TS2011] [FIT2013] [THPJ201501].

 

5.    粒度が矛盾を決め、矛盾の解は、粒度によって得られる。根源的網羅思考と矛盾は、それ自体、矛盾で、特にその中の一体型矛盾CUである。[FIT2012, 13] [TS2012]  これが、自身と世界を発展させる。[FIT2013, 14]

CU“RET とCU”という矛盾は、 第二の方法原理である。

 

4.人類の生きるモデル

我々の目の前に、経済的,政治的制度や個人が引き起こす複雑な問題があり、化石燃料の蓄積には限りがある。宇宙時代を迎え、新しいエネルギーの可能性が現れてきているが、生きるための謙虚さと、自分と対象を高める愛が不十分な状況である。

これらの多くの制約を満たしながら、異なった領域での行動を統一する単純な原理と仮説が不可欠なのではなかろうかと思う。思考と行動におけるこの単純性、最小エネルギーへの要請が最も重要な基準となる。

もし、単純な生きるモデルが得られるとしたら、この単純性は、層への分割とその層内では同じ原理に従うという二つの両立矛盾CCの解として得られるはずである。

そこで、網羅された中から得られる適切な粒度で、人類が関わる、過去、現在、未来の全世界の事実と価値実現手段を俯瞰した上で、生きることの第一の仮説を具体化したあるモデルを第二の仮説として提案する。それを図4.1に示す。これは、4層に分かれ、それぞれの層では統一された根源的網羅思考と一体型矛盾の原理に従っている。

こうして 無数の可能世界の中から、世界の一つの単純モデルが得られる。これを5章から 8章で説明する。

 

図 4.1 人類の生きる構造

4層とは次のもので、その番号は図の番号に対応している。

1) 個人による世界の知覚

知覚は入り組んでいる。世界、自分と自分の価値観、感情、潜在意識が、知覚に影響する。また、知覚は、自分の認識と潜在意識に影響する。

2) 世界観:

世界観は、過去、現在、未来についての事実観と価値観の共同観念である。[THPJ201503]  

世界観は、個人の価値観、潜在意識、感情に影響する。

3) 「生きる」

「生きる」とは、個人個人が、態度で粒度を特定し、弁証法論理で認識し行動することである。

4) 共同手段

技術、制度 [TJ200306]、科学、芸術。

これらを介して人間の認識と行動は、実現に至る。

テーブルは、ある粒度でいくつかのものの構成物をテーブルと「思う」共同観念によって、テーブルと「認識」される。この共同観念、常識は「制度」の一種である。

 

5.生きる   図4.1の3)   [FIT2013] [FIT2015]

それぞれの個人にとってゼロベース原理は、目の前の一時的な問題処理には有効でない。この通常の変更、矛盾で表される問題は、[THPJ201501, 02]で示される方法で解かれる。

同時に、我々の態度と行動は、ゼロベースで価値を得るよう試みる方向を持つのが良い。この価値は、人類の存続−個の生−多様な個の属性という系列をなしている。[FIT201501]  個の属性と行動は、私と外部の関係、つまり「私−関係−オブジェクト」の「関係」である。生きるとは「私−関係−オブジェクト」を決めることである。

第一に、この関係は、次のように網羅される。

「既存の思考をゼロベースで変更し行動する、
  既存の思考を修正し行動する、
  変更しない」

ここで、「既存の思考をゼロベースで変更し行動する」ことを選ぶ。

第二に、「ゼロベースの変更」を根源的に網羅すると、

態度の粒度から「謙虚さと批判」、
態度と行動の粒度から「愛と自由」になる。[TS2011] [FIT2013] [FIT201501, 03]  

根源的理想的要素は、「一体化と対象化」に統合される。これらは重要な一体型矛盾CUの二項になる。[FIT2013].

「一体化」とは、私と他の生命を含むオブジェクトを再統合する意思である。この意味の価値が、行動の態度として私と他の生命を含むオブジェクトを高める「愛」である。

「対象化」とは、オブジェクトをオブジェクトをとして操作する意思である。この意味の価値が、オブジェクトを変更する能力である「自由」である。 [FIT2013]

この態度と行動は、粒度特定と一体型矛盾CUの解に拡張されるとよい。

以上は、ゼロベース原理と、根源的網羅思考、一体型矛盾CUにより得られた。

 

6.技術、制度 [TS2011] 図4.1の4)  と世界観 図4.1の2)

今の認識と行動は、世界観に規定される価値観、感情と態度に拠っており、共同手段によって実現される。共同手段は、網羅すると、技術、制度 [TJ200306]、科学、芸術となる。[OUYOU1990]

技術、制度はもちろん、科学、芸術さえも、エネルギーが最も効率的に働くようにする手段である。一般的に、技術と制度は、対象化の手段である。科学と芸術は、一体化の手段である。[OUYOU1990] 長い歴史の中でみると、制度は、技術が作った条件のもとで動いている。さらに、エネルギー技術は人類の歴史のカギとなる重要な役割を果たしてきた。

8000年前に農業革命が起こり250年前には産業革命が起こった。どちらもエネルギー革命に基礎を置いている。エネルギー革命自体だったという方がいいかもしれないほどである。[IEICE2016]

第一次の農業革命では、太陽エネルギーに気付きそれを利用した。第二次の産業革命では、化石エネルギーに気付きそれを利用した。[IEICE2016].

農業革命は対象化世界観を持ってはいた。農業革命とともに始まった時代は、自然と神への一体化世界観の誕生とともに進んでいく。しかし、一体化世界観は十分には実現できなかった。これは一体化が一方向で「個」が確立しなかったせいである。

産業革命、資本主義とともに始まった時代は、オブジェクトを効率的に変更する対象化世界観とともに進んでいく。それは、一体化における謙虚さと愛が不十分という条件の下で進行していく。[IEICE2016] 資本主義はエネルギーと制度という二面で一時的な制度である。

以上は、ゼロベース原理と、根源的網羅思考、一体型矛盾CU、エネルギー基準によって得られた。

 

7.今日と未来

我々が直面しているのは、新しいエネルギー開発とそのエネルギーに適合したポスト資本主義という制度革命を同時に行う第三次革命である。

安全で潜在的な環境危機や宇宙を目指しいかなる空間にも対応できるローカルなエネルギーのための努力をおこなわないといけない。

ポスト資本主義は、一方向でない一体化と対象化、謙虚さと批判、愛と自由を統合した世界観とともに実現される。各々のこれらの片項は、それぞれ、第一次と第二次の革命の世界観の不十分な要素だった

農業革命の進展の中で生まれた等価交換原理 [IEICE2016] と、特に他国を排除する国への帰属概念と今日の非所有物を大事にしない所有概念は、理想的で対等なオブジェクトとの一体化に向けて再考察すべきである。理想的で対等なオブジェクトとの一体化は、1844年にK.マルクスが「経済学・哲学草稿」で表現した。彼がこの草稿の思想をその後展開しなかったことは残念である。

これらの未来像は、ゼロベース原理と、根源的網羅思考、一体型矛盾CU、エネルギー基準に準じている。

 

8.二つの結論的考察

1.  第一の結論は、思考の形式に関するものである。描いた像は「もしあるとすれば、こういう形になる」というものである。これは、「工学的思考」だと思う。

実際に、殆ど全ての人が粒度に無意識である。全ての人の思考と議論における殆ど全ての論理は無効である。[FIT2013]  だから根源的網羅思考RETが必要である。

我々は、価値を高め続けなければならない。だからお互いを高め続ける一体型矛盾CUの把握が必要である。

本稿で、単純性基準によって、多くの可能世界からある候補を選べることを示した。

この単純性は、層への分割とその各層では同一の原理とエネルギー基準によるという両立矛盾CCの解によって得られた。根源的網羅思考RETと矛盾は弁証法論理を成している。

また、根源的網羅思考RETと一体型矛盾CUは、新しい価値が実現される未来世界のシミュレーションを可能にする。ゼロベースで最小の概念から全てについての思考を再構築することは、コンピュータでのシミュレーションを容易にする。しかし、一体型矛盾CUは、通常の 演繹を表さないし、根源的網羅思考RETと一体型矛盾CUは、通常の帰納と仮説設定abductionを表していない。[THPJ201503]

2.  第二の結論は、内容に関するものである。

本稿の内容は、未来への道筋を述べている。状況が差し迫っているので、農業革命、産業革命に次ぐ、人による人のための第三次革命の極めて大雑把な未来像を仮説として書かなければならなかった。数十年以内にこの革命を始めないといけない。

本稿の方向だけが、一体化と対象化、謙虚さと批判、愛と自由を豊かにする。これが、一体化と対象化を体現した「個」、「個」の思考、議論と民主主義を確立する。これが、また、新しい真理、新しい価値を発見し続け、価値を高め続けるだろうが、必ずしも通常の「成長」はしない。この理想的関係が、利益に代わって労働の原動力になる。利益は資本主義の始まり以来、その原動力だった。これが新しい経済を作るだろう。また、これが戦争を止めさせるだろう。これが全ての問題を根源的に解決するだろう。

これが具体化するのにかかる時間は、どの位多くの人が努力するかに拠っていると思う。

3.  課題: 人以外の生命をどう扱うか、一体化と対象化の実現方法、演繹、帰納、仮説設定の統合、仮説の検証方法、論理的に結論に至る方法が課題である。

 

謝辞

大阪学院大学名誉教授中川徹博士から10年以上に渡り、多くの励ましと有益なご支援をいただいている。Ellen Domb博士、Shahid Saleem A. Arshad博士にも有益なコメントを何度もいただいた。深く感謝を申し上げる。

 

参考文献

[THPJ] 中川徹, TRIZ ホームページ, http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/

[NAKAGAWA2016] 中川, “「自由」vs.「愛」:人類文化を貫く主要矛盾― 『下流老人』に対する人々の議論を踏まえ、その根底を考える ―”, http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/2016Papers/Naka-Liberty-Love-2016/Naka-Liberty-Love-160419.html

 

2003 – 2015年の高原の論文へのリンクは、下記の中川徹, TRIZ ホームページにある。 http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/2015Papers/Takahara-2015-NotesABC/Takahara-NoteA-151012.html

記号の略称はつぎのとおり。

[TJ yyyy]:  The TRIZ Journal, year in AD.
[FIT yyyy]:  情報科学技術フォーラム, year in AD.
[TS yyyy]:  TRIZ シンポジウム, year in AD.
[THPJ yyyy]:  TRIZ ホームページ (中川徹編集), year in AD.
[IEICE yyyy]:  電子情報通信学会全国大会, year in AD.

[TS2011] 高原, “一体型矛盾解消のための準備的考察―生き方の論理を求めて―”,  第七回TRIZシンポジウム, 2011.

[TS2012] 高原, “根源的網羅思考と矛盾”,  第八回TRIZシンポジウム, 2012.

[FIT2013] 高原, “世界構造の中の方法と粒度についてのノート”,  FIT2013,2013.

[FIT2015] 高原, “弁証法論理の構造と中川の「6箱方式」”, FIT2015, 2015.

 

[IEICE2016] 高原, “地球の弁証法論理”, 電子情報通信学会全国大会, 2016.

 

[OUYOU1990] 高原, 龍, “理想技術論と情報ネットワークシステム”, 応用科学学会誌, Vol.4 No.1, pp.19 〜25, 1990.

[TKHR] 高原利生ホームページ, http://www.geocities.jp/takahara_t_ieice/

 


                                  

 発表スライド(和文)     スライドPDF

 

    

 

    

 

  

 

    

 

  

 

    

 

    

 

  


                                  

 論文解題 (高原利生、2016年 9月 8日)

 [概要、解説、解題]

以下は、本稿の概要、解説、解題を兼ね、これだけ読んでも意図と概要が分かるように心がけた。

1.はじめに

今回のFITでは、初めて「人文科学」の中の「文化情報処理」セッションで論文発表を行った。(「社会科学」のセッションはない)発表言語は日本語か英語のどちらかである。今回は英語にした。うまくない英語である。(下線で示した内容は、明示的には論文には含まれない。)

今までに分かったことに拠っている。つまり、全体の論理展開は、粒度、オブジェクト、網羅という最小の基本概念を使い、題に示すとおり、矛盾と根源的網羅思考で進めている。根源的網羅思考によるということは、何かを語る時には、その何かは、網羅された中から選ばれたものであることを意識し、なるべく網羅の内容を明記するようにしている。原文の1章である。

 

2.矛盾と根源的網羅思考についての進展

原文の2,3章である。

矛盾、特に一体型矛盾と、根源的網羅思考について、内容に新しい発見があったのでそれを述べた。

 

まず、矛盾は、世界の近似モデルの単位であり、差異解消矛盾(通常の変化や変更)、並立矛盾(従来の矛盾で、これが、普通の並立矛盾と、特別な一体型矛盾に分かれる)の二つ(ないし三つ)に分かれる。

発見とは、これらについて、それぞれの矛盾が、1.矛盾の解の結果の型、2.矛盾の運動が,永続的か一時的か、3.矛盾の変化が、値の変化か属性の変化か、変化が量的か質的か、によって、きれいに分類できたことである。

一体型矛盾とは、目的と手段、愛と自由、一体化と対象化などの例のように、お互いが相手を条件にし合う形で、双方の内容がともに向上し続ける特別な並立矛盾である。

普通の並立矛盾が特別な一体型矛盾に移る条件も少し分かったのでそれも書いている。

 

また、根源的網羅思考につての発見とは、適用の時間と具体性によって、適用の仕方が三つあることが分かったことで、それを述べている。(今、思えば、三つのうちの最初のケースは、根源的網羅思考ではない)今回の検討対象は、人類の一万年の歴史の総括と今後の姿だったので、個々の具体的適用と異なり、最も全体的総括的な適用を考えねばならなかった。

 

3. 8000年間の人類の生き方

原文の4章から6章までにある。

扱う対象は、8000年前の農業革命から250年前の産業革命を経て、今後の数百年に至る人類の生き方である。この時代以降、今まで、意識的に、世界を変えて生きて行こうとするリーダーが生まれた。この歴史を総括し、人類の一瞬の「生き方」をモデル化した。これは、人と世界を繋ぐ次の四つの層からなる近似モデルである。おそらくこのモデルの有効期間は、数千年前から今後100年後くらいまでであろう

このモデルは、
    1. 知覚、
    2.  (価値、事実についての過去の総括と、価値、事実についての未来像の)世界観、世界観が作用する、潜在意識、感情、(価値,事実に対する)態度
の二つが、
   3. 認識と変更像の粒度と論理により決まった認識と変更像(これを決めることが生きることである)、
が、
   4.  媒介する技術、制度、科学、芸術
をとおして実現される。

これは大雑把な言い方で、実際には各項間に相互作用がある。1を除き、以下に順次説明する。

 

2. 価値、事実についての過去の総括をした世界観の内容は次のようになっている。過去と言っても、8千年前からに限る。世界観には、宇宙の歴史、生命の歴史の総括も重要であるが、今回は扱っていない

8千年前以降に限れば人類の歴史を主導したのは、農業革命、産業革命という技術革命だった。農業革命、産業革命は、いずれもエネルギー革命という技術革命である。制度は、新しい技術に対応するように変わっていった。産業革命に対応する制度は資本主義である。おそらく今後も、人類を主導するのは技術革命だろう

この歴史の進展には、基本的に明確な対象化が必要であった。農業革命では、太陽エネルギーと植物の生育についての対象化が必要であった。一方で、農業革命の進展は、その精神を全員へ行き渡らせるには、人類史上初めて、法や宗教、しきたりなどによる一体化を必要とした。最初の法や宗教の誕生は、農業革命が始まってから4,5千年後のことである

農業革命の進展の中で、法や宗教の誕生に先立って、物々交換が産まれ、やがて等価原理ができる。等価原理は多くのプラスをもたらしたが、マイナスも、もたらした。等価概念は、「罪と罰」という概念を作り、さらに1.罰が怖いので罪を起こさない、2.罰を個人的に作ってしまう「仕返し」という二種類の解決すべき意識も作ってしまった。今も「憎しみ」の処理の仕方が大きな課題である

化石エネルギーを利用する産業革命において、ものを操作するための対象化が特に発展した。今、様々な弊害が起こっているが、対象化の行き過ぎではなく一体化が足らないのである。

 

3. 粒度と論理を決めることが生きることである。粒度と論理を決めること、つまり「生きること」は、「私−関係−対象」の「関係」を決めることである。この「関係」は、一体化と対象化の二つで網羅的に区分される。

 

4.  媒介する技術、制度、科学、芸術は、一体化の実現手段である制度、芸術と、対象化の実現手段である技術、科学からなる。制度、技術は世界に働きかける、それぞれ、一体化と対象化の手段であり、芸術、科学は世界を認識する、それぞれ、一体化と対象化の手段であると本質的にとらえられる。実際には、この本質だけの純粋の技術、制度、科学、芸術はなく、お互いを取り込んだ複合的な形で実現されている

 

8000年前の農業革命から250年前の産業革命を経て、今後に至る時代は、この間に限れば、一体化対象化は、3項で論理的に網羅されていると同時に、2項の過去と現在の分析結果からの総括としても、4項の実現手段の総括からも得られている

論文では、全体が一体化と対象化という概念で統一できた手段が、人類が、人類の生活をできるだけシンプルになるように、つまり使用エネルギーが最小になるようにする目的のためだったということを、しつこく、矛盾と根源的網羅思考を使って説明している。

本稿で扱わなかった遺伝子の進化も、おそらくエネルギー最小原理に拠っている。エネルギー最小を実現できた種が環境に適応でき、生き残った

 

4.今後の人類の生き方と結論

原文の7章から終わりまでである。

今求められている今後の革命は、新しいエネルギー革命という技術革命と、今まで不十分で欠点の多かった対象化と一体化を一体型矛盾としてお互いがお互いを高めていく全員のための全員の制度革命の二つからなるであろう。対象化の価値が「自由」(対象を操作する力)であり、一体化の価値が「愛」(自分と相手、対象の全てを一体として同時に高める態度と行動の大きさ)である。

中川徹教授に、『「自由」vs.「愛」:人類文化を貫く主要矛盾―『下流老人』に対する人々の議論を踏まえ、その根底を考える―』http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/jpapers/2016Papers/Naka-Liberty-Love-2016/Naka-Liberty-Love-160419.html   という豊かな内容の論考がある。

高原のFIT2015の発表とその後のTHPJ2015の三稿が、中川徹教授の2005年の6箱方式の一面からの根拠とその展開を述べたコメントであったと同様に、本稿も、中川徹のこの「自由と愛」を形式面から述べたコメントにもなった。中川教授のような内容に踏み込んだ考察でなく、形式的抽象的コメントであることはお断りしておかねばならない

FIT2013以来、ゼロベースの根源的網羅思考RETによって、半ば、自動的に論理が進んでいく。解、あるいはツールが、もしあるとすればこういう形であるはずだと考えていくのは、工学的思考である。テーラー展開やマクローリン展開、時間幅ゼロで振幅無限大のインパルス応答やデルタ関数などが好例である。

ゼロベースの根源的網羅思考RETによる思考は、自動的に論理が進んでいくことと、工学的思考が特徴かもしれない

 

 

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『高原利生論文集』第三部(2012‐2015)

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最終更新日:  2016.10.18     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp