高原論文: 研究ノート2018/4 第四部

人類の統一理論とポスト資本主義の準備

高原利生、
『TRIZホームページ』寄稿、2018年 4月12日、
改訂稿 2018年 6月13日

『TRIZホームページ』掲載、2018年 8月30日

掲載:2018. 8.30

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編集ノート (中川 徹、2016年 8月28日)

本ページは、高原利生論文集第4集 の中心をなす「研究ノート2018」四部作の展開部である第四部です。
研究ノートの全体ページには、全体構成、概要、掲載資料へのリンク、「おわりに」、参考文献を書いていますので参照ください。

この第四部は、その一部をHTMLページにし、全体をPDFで掲載しています。(残りの部分も後日HTMLにしたいと思っています。)第四部の目次は以下のようです。

未完成の哲学ノート(2018 年):
「 矛盾モデルと根源的網羅思考による人類の生き方の基本原理についてのノート 」 
  高原利生 2018.4.12 寄稿、2018.8.30掲載

第一部  根源的網羅思考(2018年3月) 

第二部  矛盾(2018年3月) 

第三部  対象化(自由)と一体化(謙虚さ、愛)を生んだ歴史 

 

第四部   人工知能、宇宙論理学、人類の統一理論、ポスト資本主義の準備 

8.前書き

9.人工知能

9.1 人工知能の現状と欠点
9.2 今後の人工知能の可能性

10.宇宙論理学

10.1 地球の具体的前提:地球人の論理を成り立たせる外界と主体の前提
10.2 宇宙人の論理の前提
10.3 地球人の弁証法論理
10.4 将来のあり得る宇宙人の論理の具体的前提、将来のあり得る宇宙人の論理の具体的例

11.人類の統一理論 

11.1 エネルギー
11.2 客観世界の統一理論
11.3 人類の統一理論

12.ポスト資本主義 

おわりに

参考文献  

 

 

本ページの先頭 論文先頭 (8. 前書き) (9.人工知能) (10. 宇宙論理学)

11. 統一理論

12.ポスト資本主義 おわりに 参考文献 英文ページ

高原利生論文集第4集

研究ノート 全体ページ

研究ノート第一部:根源的網羅思考

研究ノート第二部:矛盾

研究ノート第三部 HTML

研究ノート第四部 

論文集第1集

論文集第2集

論文集第3集

 

 


 

                                  

 論文  (和文: 2018. 4.12)        論文PDF  

 

人類の統一理論、ポスト資本主義の準備:

Preparation for Unified Theory of Humankind and Post-Capitalism:

研究ノート 2018/4  第四部 第11章、12章

高原 利生

『TRIZホームページ』寄稿 (改訂稿)2018年 6月13日、 掲載 2018年 8月30日

 

注: 表記について: 
     過去に述べた内容と他文献からの引用は青字で示す。
    
緑字は例または注を示す。
           濃赤字は強調  を示す。
     下線は、文章上の単語の強調か、課題を示す

 

  

11. 人類の統一理論

客観世界の場合も人類の生きることにも共通なことがある。

・  何事も、始まりとその後の運動の歴史がある。ある事が終わったように見える時もある。
・  二項(のモデルで)の(外部または内部の力が作る)差異とエネルギーが、始まりを含んだ全ての運動を作る。

客観世界は、エネルギーを最少にする原理を内蔵している。物質・エネルギー保存則である。
長い人類の歴史も今までは最少エネルギー原理が働いていた。エネルギーを最少にするような制度を作り行動が行われてきた。経験則の仮説である [FIT2016]。

今、科学の進歩により微細な差異は次第に認識でき制御できるようになっている。また、制御・操作の力、範囲は大きくなってきたので、人類の発展の歴史と論理を正しく知る必要も大きくなっている。

客観世界の近似モデルは、客観世界自体にはなく、変化が起こった歴史的経過の認識モデルがあるだけである。客観世界は、エネルギーを別にすると、そのモデルは、
       「(ある粒度での(その粒度は後から分かる))差異が生じ運動が行われる」
だけである。
今、語られている宇宙や太陽系や地球の生成の歴史は、差異により運動が起動されて起こった「結果」か複数の物事の両立の「結果」の記述だけである。「結果」の粒度は後から分かる。

人類の文化登場後の近似モデルを、エネルギーを別にして考えると次のようになった。
この立場から、始まりを扱わない、今、生きることのモデルは、次のようになる。

今、生きることを、
      1
. 歴史と現実を総括して得た世界観、価値()
      2
. 態度、粒度設定、論理,方法、
      3
以前と差異のある認識像と行動像の生成、技術、制度など文化の支援、
      4
. 認識と行動の、意識的な系列
ととらえる。
「良い」生き方は努力する生き方である。「良く」努力することができるためには、「正しい」世界観によって現実と価値を「良く」理解することと、努力の方法、論理を知ることの二つが必要だと思う。
粒度とは、認識、変更像、行動の単位で、空間時間、属性の範囲である。

 

これも仮説だが、(時間粒度の大きな)人類の歴史は、論理によって変化していく。但し、偶然のような微細な差異がその後の歴史に決定的な影響を与える。Fractal構造が、微細な差異を与えることによって全く違った形に成長するように。この微細な差異が論理に与える影響は人の認識の粒度より小さなものなのでノイズと扱われてしまう。
客観世界にこれと同様な論理があるのか不明である。

以上のとらえ方も、下記の内容も、[FIT2016]の内容も「人類の統一理論」の一部である。

11.1 エネルギー

運動を可能にするのはエネルギーである。

客観世界、人類に共通の原理がある。エネルギー最少で運動を実現することが、自然、人類の歴史に共通である。

自然にエネルギーを最小にする原理はある。エネルギー保存則というのはエネルギー最少則でもある。外力の働かない自然において、個々のある運動が、最少エネルギーで常にどこでも行われるというのがエネルギー保存則である。より一般的に E = mc2 という形の基で物質・エネルギーの総量は保存される。

人類は、ほぼエネルギー最少で、種の存続と個の生を進化で実現してきた。それが済めば次いで、なるべくエネルギー最少で、個の属性の向上を文化と生き方で実現する。これが価値実現過程である。
この事実と価値の過程が人類の歴史である。エネルギー最少で、歴史と論理の一致が実現する。

11.2 客観世界の統一理論

1)  歴史の論理

何事も、始まりとその後の運動の歴史がある。

客観世界の近似モデルは、客観世界自体にはなく、変化が起こった歴史的経過の認識モデルがあるだけである。
客観世界は、エネルギーを別にすると、そのモデルは、
       「(ある粒度での(その粒度は後から分かる))差異が生じ運動が行われる」(これだけである)

宇宙や太陽系や地球の生成の歴史は、差異により運動が起動されて起こった「結果」か複数の物事の両立の「結果」の記述だけである。どういう粒度で見た「結果」かは後から分かる

複雑な宇宙、地球が、一見、さほど複雑ではないモデルで説明できる理由を作りたい欲求がある。人類が生きてきた歴史を見ていて、人が無意識に入れ子構造を作って事態を単純化していることに気づき、自然界にも同様のフラクタルFractal構造などがあることから考えてみようと思うようになった。人類の歴史については入れ子構造があることをすでに述べている。自然にも同様な論理が見つかるかもしれない。

新しい近似モデルが満たさないといけない要件には次の二つがある。これ以上進んでいない
・ 歴史の発展を説明できること
例えば、主観の発生説明できること。知覚から概念が生まれる検討などはできていると思う。

・ 現実を統合する理論であること

安定した状態になると、その時点の空間的関係についての構造の体系、小さな運動の理論ができる。いまある各分野の科学である。これをさらに統合することが課題である。

客観世界の統一理論を作るのは簡単ではない。あらゆる空間・時間・属性粒度における統合的論理を必要とするからである。

例えば、神道、あるいはアニミズムのの「万物に神が宿る」を説明できること。仏教宗派の「一枚の葉は宇宙である」を説明できること。 もしこれらが成り立つとすればどのようにして形になるか?という工学的発想で考える。「一枚の葉は宇宙」は、少なくとも世界の統一性がありその中に個々のオブジェクトがあるという客観的認識である

なお、「ウパニシャドという、世界最古の文献の中に素敵なフレーズがある。「葉っぱ1枚が枝から落ちる時、この宇宙は震える。宇宙が振動する。一枚の葉っぱは、全宇宙を震わせているのだ。」[https://seikou.me/769/]というのは、全ては関係し合って変化しているという弁証法的世界観を述べているだけで、一枚の葉に全宇宙があるという認識とは全く異なる。

「万物に神が宿る」が成り立つ条件は、「一枚の葉は宇宙」の客観的認識に加えて、少なくとも、人の全てのオブジェクトに対する態度と認識,行動の二面における対象化,一体化のそれぞれ二つの努力が必要であること、完全な対象化,一体化の対象が「神」であるという入れ子の把握がある。これは永遠に満足されることを求め続けなければならない一体型矛盾という難しい条件である。難しい条件ではあるが、解を求め得る制約条件があり得る解釈だけが「正しい」解釈だという仮説に立つことにする。もっと良い仮説があるかもしれない。もっと良い仮説では「神」が別のものに変わるかもしれない。

自然科学では断片的に次のような試みがある。

・ ある条件があると、時間平均と空間平均が一致するというエルゴード定理が古くから知られている。

・ ヘーゲル、レーニンの「歴史と論理の一致」は、時間上の関係と空間内の関係の一致である。これも一種の統合論理である。

・ マクロとミクロの物理学の差を統合する試み; 相対性理論と量子論、粒であり同時に波であることの両立を模索する試みがある。

・ 数学の各領域、さらに数学と物理学を統合しようとする試み、数学、物理学におけるLanglands Programという試みなどがある。

・ 入れ子やFractal構造は各分野の共通構造である。

・ 構造主義の立場から人文科学各分野を統合しようとする試みは多い。

・ 構造主義の立場から物理学各分野を統合しようとする試みもある。

 

11.3 人類の統一理論

1) エネルギーの原理

人類の法則もエネルギー最少が原理になる。これは歴史と論理の一致が成り立つ長い時間粒度でそうなる。人の個々の試行錯誤による行動はこれに反しエネルギーの無駄を生じてきた。今までは、歴史、事実と方法の知識のなさが人の努力を妨げてきた。
人類の生存の基礎はエネルギーである。エネルギーをテーマにいくつか書いたのでご覧いただきたい[CGK2016]。生きることもポスト資本主義も、物理的にエネルギーを大前提としている。そしてエネルギーのありかたが生き方と制度を規定していた。

今は、人が人類史の法則性から得られた対象化と一体化の統一を求める意識がエネルギー最小を実現する。多様性を求める試行錯誤は、短期的一時的にそれに反する運動である。多様性の管理は、エネルギー最小を実現する努力である。長い目で見て、多様化は、より大きな粒度の対象化と一体化の統一を求め、その広がった範囲のエネルギー最小を実現する。
歴史と論理の一致は、エルゴード定理より広い、客観と主観の双方にまたがる法則である。
エネルギー最小を実現する形式、手段は、自然界の超格子構造、Fractal構造や客観・主観領域の一体型矛盾を実現する入れ子である。Fractal構造以外に、自然界のエネルギー最少をもたらす原理がありそうだが分からない。

人の生命を支えてきたのは太陽エネルギーである。人の食物は、植物はもちろん、それを食べて育った動物という食物も、その全てのエネルギーは太陽エネルギーが姿を変えたものである。火力発電エネルギーは、石炭石油などは太陽エネルギーによって育った樹木が化石化した燃料による。水力エネルギー、風力エネルギー、潮流エネルギーなど再生エネルギーも太陽エネルギーがもたらす循環を利用している。
地熱エネルギー、将来のマントル運動利用エネルギー発電は、少しこれと異なり、太陽光利用によるものではないが、おおもとは、太陽を生み地球を生んだ同じエネルギーである。

今は、あとわずかで化石エネルギーが枯渇すること、再生エネルギーにも全面的に頼れないことが分かっている。多様性も望ましいので、二次的に風力発電もよいし、太陽光発電システムも家の屋根に設置するには良いが、頼らないほうが良い。理由は三つある。

1.これから長期の宇宙空間、他の星や海底での生活も必要になること。
2.風や太陽光が日常的に停止する大容量バッテリなどの対策を必要とすること。
3.風や太陽光が、長期に複数の「国」の範囲で停止する確率が、大雑把な推測で、一年に1%、百年で99%あること。(日本で大規模カルデラ噴火が起きる確率だけで100年で1%)

2は大きな問題ではない。1も中長期的に大きな問題である。3は解決できないと致命的である。3を起こす現象は、巨大隕石衝突、太陽嵐、巨大カルデラ噴火などで、やっとその実態、発生確率が分かり始めた。人類の存続或いは国単位の消滅が小さくない確率で起こり得る。マントル運動利用発電ができれば、地球内では対応できる[CGK2016]。実現には時間がかかるのだろう。
解決は、分散され、一部は電磁遮蔽された安全な原子力(おそらく核融合)発電だろう。

 このエネルギーの課題を実現する時期と、新しい「対象化と一体化、自由と愛の一体型矛盾」を解決しながら生きる生き方とポスト資本主義を作る時期が、なぜか、重なっている。[CGK2016] [FIT2017]
既に溜まり溜まり続ける核ごみの処理方法はいずれ見つかる。数十年先かもしれないが。
今までの数千年の人類の歴史は、エネルギーの制約が強いため、エネルギー最少が人類の最大の課題だった。そのため「対象化と一体化、自由と愛の一体型矛盾」を解決するという定式化ができたともいえる。この解決の道筋ができる時期と、安全で小型の核融合発電が実用化される時期の、どちらが早いかが重要になる。安価で安全なエネルギーが得られるようになると、エネルギー最少制約がなくなってしまうかもしれないからである。それまでには「対象化と一体化、自由と愛の一体型矛盾」の解決の道筋を作っておきたい。[CGK2016] [FIT2017] 
ただ、今は、原子力発電については「国民」、一部政治家、「マスコミ」の拒否反応が大きい。吉本隆明は原子力について(またマルクスや、キリスト教、仏教にも)優れた知見を持っていた思想家であった。[YSMT1] [YSMT2] [YSMT3]

2) 人類の統一理論

人類の歴史を統一した仮説が必要であり可能である。

1.全ての運動は、何かと何かの差異とエネルギーが起動する。その後の全ての歴史は、論理によって変化していく。これは、ヘーゲルの論理学のようにあたかも神の論理どおりに、物事が進んで行くという仮説である。

この論理を、二項間の関係である矛盾による世界の単位近似と、粒度管理のための根源的網羅思考からなる弁証法論理とするのが第一の近似仮説である。これにより、次の事態が起こる。始まりには差異があり、差異解消のため運動が論理的に起動される。運動に、差異解消矛盾による運動と両立矛盾による運動がある。

差異解消矛盾という普通の意味の運動が、質的変化を起こすことがある。これが次の事態である。

2.外部または人が起こす偶然のように見える微細な差異がその後の歴史に決定的な影響を与える。
地球の物理的条件下で、個と種の維持ができる生命が生じ、知覚と反応という特性が加わる。
人のような知的生命には、さらに特性が加わる。人に言語が誕生し精神、主観が生まれ、外界である宇宙、世界についての像を自分の中に持つことができるようになる。他生命と異なり、道具の製作・利用をするようになり外界に多様で量的にも大きな働きかけができるようになる。
地球の物理的条件に依存した人の宇宙を認識、操作できる「範囲」が問題である。人は、宇宙を認識、操作できるようになった。これらは大きな人の特性である。
どれを人類の特性としてもよい。しかし、本稿では、文化誕生後の文化の歴史が、ここでの人類を特徴づけるとした。人の歴史が対象化を生み、さらに文化において一体化を生んだ対象化が、人を画期的な存在にすると考えたからである。

偶然のように起きる微細な差異がその後の歴史に決定的な影響を与える。この実現の手段は、一体型矛盾を実現する入れ子構造のような構造である。文化誕生後の文化は入れ子があった[FIT2016]。また、この微細な差異は、必要性と可能性の差異により人が必然的に発見したものだったと後で分かる

本稿の第三部はこの人類の生き方の統合論理を示した。
それは、対象化,自由と一体化,愛を二項とする一体型矛盾であった。それに至る矛盾の発展の仮説も明らかにした。その前に、客観的矛盾と人に係る世界の矛盾の違いの仮説も述べた。第一部、第二部は、これらの基礎であり、他の思考、議論全般のための基礎である。矛盾モデル自体と、次の根源的網羅思考それ自体が統合理論を形成している。

根源的網羅思考は、内容的には、事実と価値のより大きな全体と本質、価値を求め続ける思考である。目的は、意志のある誰もが(可能なら全てのものが)、いつでもどこでも全てのものの「価値」をお互いに高めて行く客観と、その主観的な実感である「幸福」の二つの両立であるような全体、本質、方法を求めることである。この主観と客観の統一の実現方法が、矛盾モデルと根源的網羅思考からなる弁証法である。
この客観と主観だけでは、世界の単なる一般的抽象的静的関係である。態度、行動である生き方の指針を作るためには、客観と主観の関係を具体化し活性化する矛盾が必要である。それは、人の態度、行動を最も根本的に変える矛盾で、かつ永続する一体型矛盾でなければならない。
根源的網羅思考は、方法的には、仮説を立てそれを検証する過程を続ける、演繹や帰納を包含する思考である。

仮説がある。最も根本的な矛盾は、今の人の態度、行動の根本を現に決めている概念とその反対概念の矛盾であり、その解はこの二者の弁証法的止揚であるという仮説である。この矛盾の粒度が求まればよい。論理だけでも歴史を総括しただけでも、きちんとした粒度は見つからない。粒度は、論理的に正しくかつ歴史的に確認されたものでなければならない。そして弁証法によると歴史と論理は大きな粒度で一致する。

人類の統一理論を語り始めた少なくとも一人はマルクスである。マルクスは、1844年経済学・哲学草稿で「宗教,家族,国家,法,道徳,科学,芸術,等々は生産の特殊な諸様式にすぎないのであって,生産の一般的法則のもとに従うと述べた。[EPM p.147]  「宗教,家族,国家,法,道徳,科学,芸術,等々」とは、文化である。ここで彼は、人類の文化の統一理論があること、それが「生産の一般的法則」のもとに従うことを述べている。
マルクス、エンゲルスの「唯物史観」の扱う時間範囲は、本稿と一致する。つまり、主として文化、文明の発生以降の時間粒度を扱っている。しかし「唯物史観」は、文化、文明の発生以降に生じる人の支配−被支配関係にしか着目しておらず、その限りでは意味のある仮説かもしれないが、人類の統合理論としては不足が多い。

中川徹の「自由と愛の矛盾は人類文化の主要矛盾である」という表現も、人類の統一理論の要約的表現である。[NKGW2016, “社会の貧困の問題にTRIZ/CrePSでアプローチする:人々の議論の根底に、人類文化の主要矛盾「自由vs. 愛」を見出した”, 第12回日本TRIZシンポジウム. 2016.]  本稿第三部は、中川のこの稿およびその後の稿 [NKGW2017. 中川 徹, “人類文化の主要矛盾「自由 vs 愛」を考察する(2) 個人における「自由 vs 愛」の矛盾・葛藤と「倫理」”, 第12回日本TRIZシンポジウム. Sept. 2017.] へのコメントである。

もう一つ、[TRIZ2015/01] で、中川徹「TRIZのエッセンス」[NKGW2001]は、技術に限定されて述べられているが、全領域に拡張して適用すべきものであると述べた。そうすれば中川徹「TRIZのエッセンス」も人生の統合理論の要約である。

ユバル・ノア・ハラリの「サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福」(河出書房新社2016, 原著2014) [YNH]と、ジャレット・ダイヤモンドは、一種の人類の統一理論の試みをしていると理解できる。ユバル・ノア・ハラリの書は、主観の誕生を重視し、本稿より時間粒度が大きいが、文化、文明の発生と運動の今後の展望を十分明らかにしない。[IEICE2018]

 

  

12.ポスト資本主義

おそらく、ポスト資本主義は、物々交換から生まれた「所有」を基にせず、お金が経済の原動力でない制度である。新しい生き方は、対象化と一体化、自由と愛、謙虚さと批判の統一を、根源的網羅的に行う生き方である。この二つは同時に生まれるという仮説を持つ。しかし、対象化と一体化、自由と愛、謙虚さと批判の統一が生む主観と客観の一致,「一体化」が経済の原動力になるかどうか?何か別の原動力が要るのかもしれない。これがよく分からない。

そこで、ポスト資本主義、新しい生き方を作る以前に、あるいはこれと同時に解決されるべき、次のような重要な課題がある事だけ述べることにする。

根源的網羅思考は、前提を少し変えれば異なった解が出る。本来のゼロベースで検討すると、誰が行っても一見突拍子な案が出てくる。本稿はゼロベースには遠い検討ではあるが、常識とは大きく異なり、反発を受けるかもしれない。ただ、今の政治等に、科学・技術の長期的視野がないので、内容の根拠を述べることができ全体として整合的と考えれられる内容について、敢えて書き残すことにした。

1)  環境、エネルギー、食糧 [CGK2016][FIT2017]

地球環境を守るためのパリ協定の順守,実施は必須であろうが完全な実現は難しい。

・ 情報と違い、ものとエネルギーはなるべくローカルに生産、消費できるのが良い。安全な原子力エネルギー(多分、核融合エネルギー)のできるだけロ−カルな実現を図る。船、自動車、家には、持ち運び可能なカセット核融合発電炉を内蔵する。核融合発電完成までは既存原発の安全性、操作性改良、新型原発や核燃料リサイクル(もんじゅタイプの原発の開発にロシアが成功したというニュースが二三年前にあった。後、十年くらいで実用化するだろう)、核ごみ処理の研究を続ける。

・ この自律したローカルなエネルギーの前提で、世界ネットワーク化はバックアップとして望ましい。

・ 新規火力発電は新型石炭火力を含めて行わない。

・ 化石燃料利用の火力発電は耐用年数(マイナス数年)の来たものから順次廃止する。「直ちに中止」と「捨てるのはもったいない、あるものはできるだけ有効活用」という矛盾の解である。同様に、新設に一基五千億と言われる既存原発についても耐用年数(プラス数年)の来るまで使う。この二つは、累積赤字1000兆という今の日本の経済情勢にも拠っている。原発廃棄と利用で100兆円違う。 財政活動の収支と国の国際収支というどちらの基準によるにせよ、数十年で原発廃棄と利用で100兆から200兆円違う。既存原発の再稼働を行うかどうかは、家庭の負担がどうなるかは基準ではない。全体としての無駄の少ない経済が良い。

・太陽光発電は、屋上、外壁に限り行う。耕作できる,できないを問わず、更地への設置を止める。水上への設置を止める。更地、水上に設置すると、緑地が減り、池,海が死んでしまう。今も四国に相当する緑地が毎年減り続けている。今、耕作できない土地は土壌改良を行うのがよい。

・ 新たな金属の採掘を最小限にする。中長期の将来、どの金属も新規採掘ができなくなる時が来る。その時に備えないといけないのは明らかである。

・使い捨てプラスチック利用を中止する。

・ 海底、宇宙だけでなく地表でも、排泄物を含めた廃棄物の完全分別と完全リサイクルを、できる限り家や船単位で、家でできないものに限り市町村単位で行う。

おそらく、今後1年間に1%ほどの確率で、自然エネルギーが広範囲長期間、遮断される事態が起こり得る。カルデラ噴火、太陽嵐、巨大隕石落下などによる事態である。日本でのカルデラ噴火の確率は今後100年で1%の確率であるとされる。これが再生エネルギーに頼れない理由である。これが異なれば、原子力発電重視は違ってくる。また、原発への対処の如何に関わらず。この非常時に対処するため、次のような準備が要ると思う。

・全エネルギーの2,3割分の発電設備を、カルデラ噴火、太陽嵐、巨大隕石落下などによる影響を防ぐことのできるようにしておく。

・マントル運動を利用した発電を、地球上の適切な何か所かで進める。地球の自転速度が徐々に遅くなりつつあることも気になる。

・電気に拠らないエネルギーを拠点に確保する。水力、原子力による発電の一定割合を、標準化されたインタフェースの機械的回転運動で取り出せるようにしておく。回転軸と回転制御のインタフェースが必要である。
回転運動を利用する機械は多い。直線運動も回転運動で実現される。車輪を回転させる自動車、プロペラ推進の船、飛行機などが代表である。冷蔵庫、掃除機、扇風機など電気を回転運動に変えるモーター使用の機械も多い。前に述べたカセット原発が実用化すれば、灯りなどを別にして、場合によっては必要になるかもしれない脱電気・脱磁気が可能になる。

・将来、地球の磁気反転や、火星のように大気が将来なくなる異常時に対する対策を考えておく。

・自然の土地と太陽光エネルギーを使った食料生産と、緊急時の人工食糧生産を、なるべく市や町単位で行う。

・緊急時の人工食糧生産ができない場合、緊急時用食料備蓄が必要となる。食料備蓄は、水と火があれば炊ける米と、何も加工しないで食べられる緊急食糧に分けて考える。今は備蓄を誰が行うか都道府県によってバラバラなので明確化する。年々、備蓄量を少しずつ増やし、家族単位または市町村単位で一か月分程度を確保しておきたい。

 

2) 政治、経済政策等

個の確立に遠い。中国、北朝鮮という「独裁」国がある。「民主」国も、確立した個の判断によって政権が選ばれ政治が行われるという状態ではない。
政権を選ぶ最大の要因はマスメディア(によって作られる世論)で、二番目の要因が「国民」の判断力である。何がマスメディアに大きな影響を与えるかについては田中宇(さかい)の意見が参考になる。田中宇(さかい)の仮説設定の内容は常識と大きく異なる。[TS 田中宇の国際ニュース解説 http://tanakanews.com/]  今は、行政官僚の産業界、労働界、教育界、学会への影響力と、実務を全て知っている官僚からの、マスメディア(や議員)への情報リークの果たす作用が大きい。それが今のマスメディアの影響の内容を生んでいる。2017、2018年のマスメディアの内容で「民主主義」国の日米欧では、政府がマスメディアの内容を決めるのではないことが分かった。

国防には国間の秘密がつきものだが、「国」をなくすことにより秘密の必要はなくなり戦争もなくなる。「国」をなくすとは、今の国を県と同等の位置にすることである。

ポスト資本主義の政治や経済の姿に限って要点だけ述べる。
ポスト資本主義を作るということは、価値が利益でなくそれに代わる新しい価値を原動力とする経済を作るということである。

・ 今の「価格」やお金は、ある基準としては残す。

 今の賃金労働以外の「労働」である子育て、介護なども労働と扱うことはポスト資本主義の最大の要件である。

・お金以外の、対象化と一体化、自由と愛、謙虚さと批判の統一が生む主観と客観の一致,「一体化」になる基準と、これが経済の原動力になる何かを作る。

この三つを両立する形式を作ることから始める。しかし経済には全く無知なので案は浮かばない。

・ 地球からの資源採取と廃棄物を次第に少なくしていき限りなくゼロに近づける。生産物の「量」は増大せず、人の「価値」は増大し続けるようにする。

・国の財政活動の収支、国の国際収支、GDP(Gross Domestic Product、国内総生産)、GNI(Gross National Income、国民総所得)を統合的に見て、経済上の「価値」を正しく測る基準の必要性があるが、よく分からない。
日本は、国の財政活動の収支は大幅な赤字が続いているが、国際収支は大幅な黒字が続いている。(なおアメリカは国際収支の大幅な赤字が続いている)国の財政活動の収支より国際収支の方が重要な気はする。
人口、人の能力、賃労働でない労働、土地の広さも入れた国の総力も測る基準も欲しい。

・ 今の立法、行政、司法は、三権分立の建前には遠いので見直す。

(立法,行政)(司法)の二つの分立はあるかもしれないが、立法、行政は不可分である、第一に、行政こそその運用の中で問題が明確になりどう立法すべきかが分かるはずである。第二に、今の日本に限定された話かもしれないが、憲法の言う「立法府の選んだ内閣総理大臣が行政を統括する」ことは実現できるはずがない。それが実現するのは硬直した一方向独裁組織だけだろう。今の本省の課長は担当分野の日本の総責任者で、一々、上司の決裁を取らず、都道府県知事や会社トップに命令する権限がある。立法府は年間百兆円の予算を決めるが、行政府の官僚は年間五百兆円のGDPに影響する責任を持つ。大雑把な暴論だが、一対五くらい、マスコミ、産業、教育各界他社会への影響力が違う。この影響の構造は目に見えにくい。
今の「内閣総理大臣が行政を統括する」ことは、内閣総理大臣が大臣を任命し大臣が行政各省庁の長になることしかできない。これは当然、階層組織の運用に大きな影響はあるがそれだけである。この事情はアメリカなどでも同様である。[TNK]
まず、立法、行政を一元化して統合し、その上で次のようにする。とりあえず今の議員は今までどおりの選挙により選ぶ。

・政治や経済の立法は、プロジェクト制のメンバーによることを基本にする。個々の立法は、行政各部門と各議員、関連する分野の「国民」各層の三者からなるプロジェクトで、根源的網羅思考によって思考、議論を行う。固定した取り組みの必要なインフラストラクチャーの構築方針についても、メンバーの時間交代を長く(10年など)する。

要するに、今の政権を選挙で選び、その政権の政策だけが実現するという現状を変える。こうすると問題になるのは本来不整合な政策が複数実現する恐れがある事だろう。それを統括するための制度は何か必要だろう。2017年、2018年のような支持政党なしが4割を超える政治不信解消にも役立つのではないか。

例: 今の日本の国会本会議、各委員会での、各党と内閣の議論は、議論になっていない典型例である。内閣も各党もそれぞれの内部で決められ変えられない内容を、相手(と中継のある場合は「国民」)に対して「宣伝」しているだけで、民主的議論になっていない。

個性が花開くまでは、独裁政治は必要「悪」だった。今の「民主主義」は間接民主主義であるが、理想的に個が確立すれば、直接民主主義に近づけていくのが良いのではないか?

 

3) 国

「国」の対象化相対化 (田中宇[TNK]の意見では、今は一国覇権主義と多極主義の対立の時代だとされるが、国は相対化されていない) と多様化が必要である。今の「国」が県や市のような位置になるようにする。その運動の結果或いは過渡期に次の努力をする。

・ 技術開発の国際協力分野が必要な新しい安全な原子力発電方式の開発を行う。

・ 国際協力分野が必要な宇宙、惑星への宇宙旅行、移住は、単独または数か国ごとに行う。

・ 核兵器は廃絶する。しかし核爆弾の使用は小惑星に対しては(様々な検討で第二案として入っている)あり得るので、国際管理を行う。

・ 例えば、日本、韓国、北朝鮮や、中国、香港、台湾などの緩やかな文化連邦制の検討をする。

・ 五輪は、憲章を厳格に守る。国単位の参加を少なくし、国を超えた単位の参加を増やす。

 

4) 教育

根本の二点だけ述べる。残念ながら、今の問題は大きい。感性、感情は本稿では論じなかったが、論理と対等以上に重要である。人は感情と論理で生きている。また、感性、感情をとおしてでないと、如何なる論理も物事も身に付かない。

自然と人の文化の個々の物ごとの始まり、その感動、その後の運動、それらを貫く論理を教える。特に、初期に、感動とその表現の方法を教え、それがコミュニケーションの始まりであることを教える。
自然と人の文化の個々の物ごとの始まりとは、宇宙、時間、空間、生命、植物、動物、言葉、道具,火の利用、物々交換、お金、論理、国、戦争、政治、宗教などの始まりである。

・人類世界の文化・文明の歴史の記述の基本は、本来、道具、言葉、火の利用、物々交換開始の叙述に続き、最も初歩的な「生産のための技術体系と運用、経済制度、そのための政治,宗教制度、行政機構の複合体」の形がどのようなものかを述べ、その形と運用が、どう「論理的に」進んでいくべきであり、それが実際にどう進んで行ったかの本質を簡単に述べればいいのではないか?歴史学とその叙述は、論理歴史学であるのが良い。今の小中学の教科書の実際は、人物が起こした事件の羅列があるだけである。

・小学校低学年から、宮本算数教室、天才脳ドリルなどの「仮説設定」仮説思考や複数の項の両立の考え方を身に付けることは有益である。子供はどんどん伸びる。

 

5) 社会保障、医療

・生活保護などを、三親等以内が単位という制約を変え二親等以内、または個人単位とする。

・ 過剰な医療を止める。死ぬ権利を厳密な条件付きで認める。

 

高原(たかはら) 利生(としお)

昭43 早稲田大・理工・電気通信卒. 同年 富士通(株)入社.以来河川管理システム等の設計に従事.関連会社に移った後退職.http://www.geocities.jp/takahara_t_ieice/

 

 

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最終更新日:  2018. 9.1    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp