TRIZ/USIT論文 
TRIZのエッセンスをやさしいUSIT法で学び・適用する 
 中川  徹 (大阪学院大学) 2001年 5月16日 (英文で学会投稿), 2001年 8月 9日(和訳)
 英文発表: World Conference, TRIZ Future 2001, 2001年11月7-9日, バース (英国)  [英文掲載: 2001.11.16]
 一部既出: 中川  徹, TRIZホームページ, 2001. 5.22.
  [掲載: 2001. 8.23]
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編集ノート(中川  徹, 2001年8月23日)

  本論文は, 標記のように今年11月に英国で開かれるETRIA主催の国際会議に投稿した英語論文を和訳したものである。原題は以下のようである。
     "Learning and Applying the Essene of TRIZ with Easier USIT Process" by Toru Nakagawa

   原論文は5月16日に学会に正式に投稿した。しかし, 学会発表まで 6ヶ月間公開せずにおくことは, いかにも無意味であり, 誰の益にもならないように思われた。そこで, 本論文の第2節だけを取り出して, 5月22日に下記の題名で本ホームページに英文・和文の両方で公開した。
        「TRIZのエッセンス − 50語による表現」, 中川  徹, 2001年 5月22日
         "Essence of TRIZ with 50 Words"

  今回, 原論文全体を和訳して, 本ホームページに一足先に発表することにした。 (英文のものは学会発表後に掲載の予定である。) 本文中の 緑色の [ ]内は, 現時点で補足したものである。

  本論文は, いままで繰り返し述べていることを, 最も整理した形で論理立てて議論し, 主張している。以下の項目からなる。

1.  はじめに
   1.1  TRIZ学習の個人的体験
   1.2  TRIZの浸透が遅くなる種々の理由
2.  TRIZのエッセンスは何か?
3.  より簡単なTRIZ問題解決手続きの必要性
   3.1  TRIZをいかに学び・適用すべきか?
   3.2  伝統的および現在主流のアプローチ
   3.3  簡易化TRIZ手続きへのアプローチ
4.  簡易化TRIZ手続きとしてのUSIT
   4.1  USITにおける問題定義
   4.2  USITにおける問題分析
   4.3  USITにおける解決策の生成
5.  USITの訓練と適用の実践
6.  われわれはTRIZをどのように教え・学び・適用すべきか?
7.  TRIZ/USITを企業にどのように導入するべきか?
   TRIZのエッセンスをしっかり理解した上で, それを教え・学び, またTRIZのエッセンスをきちんと取り入れて必要最小限の思考プロセスにしたUSITを学んで, それを適用していこうと主張しているのである。このような明確な考え方は, TRIZが企業で実践され, 技術界や学界に本当に浸透していくために, ぜひ必要なことであると考えている。

   読者のみなさんからのご意見を寄せていただけると幸いである。
 

     追記 (中川, 2001.11.16) :  英文の発表論文を英文ページに掲載しました。
 
本ぺージの先頭  1. はじめに  2. TRIZのエッセンス  3. 簡易手続きの必要性  4. USIT  5. USIT
の実践
 6. TRIZの教え方・適用法  7. 企業への導入 参考文献 TRIZのエッセンス English
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 要約

TRIZの西側先進国への普及を遅らせている理由が何であるかを論じる。TRIZの知識と方法論の膨大な体系を提示すると, そのエッセンスが覆われてしまい, 学習者を圧倒してしまうことが大きな理由と考えられる。この困難を解決するために, 著者が理解するTRIZのエッセンスを50語で表現し, 簡単に説明した。そして, TRIZの精神を用いて創造的に問題を解決するための, より簡単で明快な手順が必要であることを述べる。Ed Sickafusが開発したUSIT (統合的構造化発明思考法) が, そのような簡易化TRIZ手順の優れた候補であることを著者は見出した。そして, TRIZのエッセンスと関連させてUSITの手順を説明し, 日本におけるUSITの訓練と適用の実践例を示した。
1.  はじめに

TRIZは旧ソ連において50年以上に渡って開発され確立されてきたけれども, 日本を含む西側先進国への導入はまだなおその「幼児期」にあり, TRIZ専門家たちや信奉者たちの期待に反して遅々としている。このことは, 例えば, この3年間のTRIZCON国際会議の参加者数の推移 [あまり増えていない] にも顕れている (著者のWWWサイト『TRIZホームページ』 [2] の報告 [1] を参照されたい)。このような普及の困難を克服するためには, 普及を困難にしている原因を考察する必要がある。

そこで, まず著者自身のいくつかの経験を記してみよう。
 

1.1  TRIZ学習の個人的体験

1997年5月に東京で, 私は, MIT教授陣が [日本の] 協力企業向けに開いた産業協同プログラムのセミナーに出席し, 偶然,  Mats Nordlund博士によるTRIZ入門の講演を聴いた。「旧ソ連において, 発明の方法が体系的に研究され, すでに新しい方法論として樹立されている」 という情報は, 私にとって極めて新鮮であり, 刺激的であった。この方法論が技術界や産業界にきっと大きなインパクトを与えるだろうと私は考え, 当時勤務していた富士通研究所への導入を始めた。

私は, TRIZの先駆者を外部講師として招き, TRIZの社内講演会を開いた。研究所の部長級幹部社員50名に対して,  2時間半の講演が行われた。しかし, 大部分の聴衆にとって, その講演は理解しづらく, その結果として冷やかな反応が広がった。これは, 自分自身のTRIZ理解がまだ極めて限られていた段階で, TRIZの導入を急いで行おうとした私の過ちであった。

そこで私は, TechOptimizerの使用法を自分で習得し, そのマニュアル [3] を書き, いくつかのセミナーをして数十人の研究者に話した。しかし, 研究者を訓練してTRIZの実践者に育て, 組織的なサポートを作るだけの時間は私にはなかった。半年後に退社して, 大学に移ったからである。私の後で旗振り役をする人がいなかったため, 同社でのTRIZ導入活動は [個人レベルの学習が続いているが, 組織的には] 立ち消えてしまったように見える。

1998年頃の日本におけるTRIZの理解は, 英語から翻訳された少数の教科書とソフトツールTechOptimizerに依存していた。それらは, 1970年代までに得られたTRIZの成果を基本としており, その重点は, データベース, 物質-場分析, 40の発明原理, アルトシュラーの矛盾マトリクスなどにあった。それらはTRIZの重要な基礎であるけれども, 最近のTRIZの理解に比べると, 古くて限られたものであった。1998年に書いた私の解説 [4] も, 当時の私の理解のこのような限界を反映している。

1998年11月と1999年3月に開かれたTRIZ国際会議は, TRIZ方法論を広く見回し, 米国や他の西側諸国におけるTRIZ関連の活動の現状を理解するのに役立った。また, 私は, 1998年11月の会議でEd Sickafusに逢い, 1999年 3月に彼の3日間トレーニングセミナーでUSITを学んだ。実問題にTRIZを適用する易しいやり方を, USITは明確に示してくれ, またトレーニングセミナーを行う方法をも学ぶことができた。これらの国際会議とセミナーで学んだことに基づいて, 私は数件の記事を書き, [1998年11月に創設した] 私のWWWサイト [『TRIZホームページ』] に掲載した [5-7]

1999年8月にロシアとベラルーシを訪問した結果, TRIZの母国の人々とその活動状況を知ることができ, 有益であった (訪問記 [8] を参照)。それらの国々においては, 多くのTRIZ専門家たちが非技術分野や創造性教育の分野に移り, そこでなおTRIZの精神を適用しようとしていた。彼らは, TRIZの原理を, その言葉どおりの表面的なレベルではなく, もっとずっと深い考え方のレベルで使っていた。

TRIZCON2000での私の発表 [9] は, 日本におけるTRIZ導入の種々のアプローチをレビューし, 易しい問題解決手順としてUSIT [10] を取り入れてTRIZを学習し適用するという,  私自身のアプローチを提唱したものであった。これは, 日本でUSITセミナーを行った経験 [11] に基づくものであった。

その後, Yuri SalamatovのTRIZ教科書 [13] を英語から日本語に翻訳 [12] する作業を丸1年かけて行ったのは, 貴重な勉強になった。旧ソ連諸国で最近に至るまで行われたTRIZの研究のさまざまの側面を学んだ。システムの進化, CID (創造的空想力の開発) コース, などである。この教科書でTRIZの思想をずっと深くまで学び, 弁証法的思考というものをはじめて理解した。

TRIZCON2001における私の発表 [14] は, この翻訳作業の一つの副産物であった。高層ビルの階段の設計において, 火災の場合に煙突効果を防いでより安全にするアイデアを得た。その解決の着想を得てから詳細に書き出す過程で, 私はTRIZとUSITを形式的にでなく, 直観的に適用した。そのようにTRIZを自由に非形式的に適用することも, 実際の応用では認められるべきだと, 私は知った。この学会発表において, 私は「TRIZのエッセンス - 50語による表現」という 1枚のスライドを示した。

私はTRIZとUSITについて, いくつもの講演をし, セミナー [11] をした経験があり, また, 企業の技術者たちと協力して, TRIZおよびUSITを実問題やセミ実問題に適用した経験がある。それでもまだ, TRIZ/USITを実問題に適用し, その解決策を製品として実現させる経験を, もっともっと必要としている。

以上に述べたように, 私はこの 4年間, TRIZを理解し普及させることに努力してきた。TRIZを推進できるように自分をトレーニングするのに, この4年間を要した。企業にTRIZが浸透するということは, TRIZの思想を理解し, 自分たちの実問題にTRIZを実際的に適用できるような, 技術者/研究者/管理者を創り出すことであると, 私は思う。各企業内にそのような人を一人 (ないし数人) 育て, TRIZを推進する組織的環境を企業内に用意することは, 数年 (3,4年でなく, 5, 6年程度) 掛かるであろう。このような時期が, それぞれの国におけるTRIZの普及の「幼児期」に対応するのだと, 私は思う。
 

1.2  TRIZの浸透が遅くなる種々の理由

さて, TRIZの浸透を遅くしている種々の主要な理由を考えることに, 議論を戻そう。

TRIZの浸透が遅い理由は, TRIZが内容的に貧弱だからではなく, その反対に, TRIZの内容が方法論としても知識ベースとしても驚くばかりに豊富だからである (TRIZを少しでも学んだことがある人なら誰でも, この点に同意することと私は思う)。初心者にとっては, TRIZの膨大な内容は, 驚くような, 巧妙なテクニックの膨大な数の事例として現れる。創造的な問題解決のためには, 多数のテクニックや原理や事例を事前に学習し, それぞれの問題に応じて適用すべきどれか適切なものを, ハンドブック (またはソフトウェアツール) に頼るか, そうでなければ, 長期の厳しい訓練ではじめて獲得できるような直観的なスキルに頼って, 選択することが要求されているように見える。

TRIZの知識の膨大な体系が, TRIZのエッセンスを理解することを難しくしている。教科書や講義の多くの場合に, TRIZの 「エッセンス」 などというものは明確に述べられさえしない。ロシア語と英語/日本語などとの間の言語の壁が, この困難を増大させている。

TRIZが見出した結果 (すなわち, 原理やその事例など) に比べると, TRIZにおける思考の方法はさらに学ぶことが困難になる。思考の方法を学ぶには, マンツーマンの訓練が不可欠になる。さらに, TRIZの問題解決法 (例えば, ARIZ [15] や Salamatov が推奨する手続き [13] ) は, 通常の技術者が, 3日間のトレーニングセミナーで習得できるものでなく, あるいは, その後の 1, 2年の自習を含めてさえ, 習得するには複雑すぎる。TRIZの精神を引き継ぎ, 創造的に問題を解決するための, より明確で, 単純化された手続きが強く求められる (そのような候補として, 私はUSIT [16] を見つけた)。

TRIZのパイオニアとなる人材には, 従来の品質管理運動の人たちとは異なるバックグランドを持つ人たちを, 必要としている。その理由は, 品質管理運動が, その大部分を統計学 (あるいはデータ解析) および組織論 (あるいは, 組織運営) に基礎を置いていたのに対して, TRIZは技術そのものに基礎を置いているからである。そこで, 科学技術に強いバックグランドを持ち, 技術開発一般を運営・推進できるような人々を必要とする。伝統的な品質管理運動がTRIZを認識することが遅いのは, この理由によると私は思う (この点は日本で特にそうであり, 米国においてはやや異なっている [もう少し積極的である] ように見える)。

 

2.  TRIZのエッセンスは何か?

この質問は, われわれがTRIZを教え/学ぶために最も基本的で重要なものである。TRIZには, 多数の重要な原理や方法がある。例えば:

  しかしながら, これらのどれ一つをとっても, TRIZの真髄のエッセンスとみなすにはあまりにも膨大である。TRIZのエッセンスは, このようなハンドブック的知識のレベルにあるのではなく, もっと深い思想のレベルにある。

  TRIZのエッセンスを抽出するためには, われわれはまずTRIZの全体構造を理解しなければならない。私の理解 [9] によれば,

TRIZ = 方法論 + 知識ベース
であり, TRIZにはつぎの三つの側面がある。    この見方によれば, TRIZのエッセンスを方法論(a) と方法論(b) との中から見つけるべきことが明瞭になる。

  以下に掲げるのが, 私が現在理解しているTRIZのエッセンスを50語で表現したものである。
 

Essence of TRIZ:

Recognition that 
  technical systems evolve 
    towards the increase of ideality 
    by overcoming contradictions 
    mostly with minimal introduction of resources. 

Thus, for creative problem solving, 
  TRIZ provides a dialectic way of thinking, 
    i.e., 
    to understand the problem as a system, 
    to image the ideal solution first, and 
    to solve contradictions.

TRIZのエッセンス:

「技術システムが, 
    理想性の増大に向かって,
    大抵, リソースの最小限の導入により,
    矛盾を克服しつつ
  進化する」 ことの認識。

そこで, 創造的問題解決のために, 
  TRIZは弁証法的な思考, 
     すなわち, 
     問題をシステムとして理解し, 
     理想解を最初にイメージし, 
     矛盾を解決すること
  を薦める。

   私がこのような理解を得たのは, 主としてサラマトフのTRIZ教科書[13] を勉強した結果である。 上記の簡潔な表現を最初に示したのは, TRIZCON2001の国際会議での発表[14] のスライドとしてであり, 本ホームページに私のTRIZCON発表論文を掲載した際に, その編集ノート中に記録した。

   この50語による表現を, 以下に簡単に, トップダウンに説明しておこう

  まず最初に, TRIZは一つの「認識」である, 言い換えると, 技術についての一つの「新しい見方」 (すなわち, 上記の方法論(a)) である, と言明している。 この認識をもつことにより, つまり, 技術をこの観点から見ることによって, われわれは非常に大きな視野を持つ位置に達することができ, その視野は, 技術だけでなく, 科学や社会やわれわれの生活などすべてに及ぶ。

  その最も重要な認識は, 「技術システムが進化する」という認識である。われわれは, 技術を, 主として技術システムとして見る。いかなるシステムも, いくつかの構成要素 (すなわち, 下位システム) とそれらの関係とから構成され, それ自身がその上位システムの一つの下位システムと見なすことができる。すべての技術システムが進化する, すなわち, 歴史の中で変化・発展する。この進化は巨大な潮流を形成し, 個々の発明を包含しつつ飲み込んでしまう。進化はさまざまなフェーズでさまざまな様子で現れ, 例えば, 誕生, 拡張, 統合, 縮約などがある。

  技術システムの進化は 「理想性の増大に向かって」いる。 この認識は進化の主法則と呼ばれる。 理想性は, サラマトフ [13]によれば「主機能/(質量+エネルギー+サイズ)」と定義されるが, ときには, 「有用機能/(コスト+有害機能)」と定義されることもある。これらの定義は本性として定性的なものである。ここの主たる認識は, さまざまな形の進化を, 理想性の増大の方向への動きであるとして普遍的にみることができる, という認識である。この認識が, 将来の技術システムを予測し開発するときの, われわれの基礎を形成する。

  進化が起こるのは, 「矛盾の克服」だけによる。さまざまの矛盾は最初, 需要と供給 (すなわち, 現行の技術性能) との間のギャップとして顕れる。それらの矛盾は, 障害・障壁として認識され, しばらくの間はなんらかの妥協が行われるが, やがて, ブレークスルーの発明によって克服される。これらの諸発明が, 技術システムの進化におけるミクロのステップを形成する。

  矛盾の克服が達成されるのは, 「大抵, リソースの最小限の導入による」。リソース (すなわち, 物質, エネルギー, サイズなど) を安易に追加導入すると, しばしばシステムを複雑化し, 矛盾を解決しない。リソースの導入をなしでするか, 最小限でしたときにだけ, 矛盾が克服できるというのが, TRIZの認識である。これは理想性の増大の法則とよく対応している。

  上記に述べた認識を基礎にして, TRIZは「創造的に問題を解決するための」一つの方法論 (すなわち, 一つの思考方法) を提供しようとする。これが, TRIZを開発し, 学ぶ, 主要な目的である。問題解決は諸矛盾を克服するのに最も必要とされる。そのような矛盾に対しては, 解決策も解決する方法も予め知られていないのだから, われわれはそれらを創造的に解決せざるをえない。

  創造的な問題解決のために, 「TRIZは弁証法的な思考を薦める」。TRIZはわれわれに, 最も一般的な意味で, 考える方法を提供する。さまざまの特定の方法や, ヒューリスティクスや, トリックなどを超えて, TRIZは新しい思考の方法をわれわれに示している。それは, サラマトフ[13] によれば, 哲学的な用語を使って, 「弁証法的思考」と呼んでよい。この思考方法の主要な特徴を, 以下のフレーズで説明している。すなわち,

  第一に, 「問題をシステムとして理解する」。問題の対象を (技術的) システムとみなすべきである。システムに対しては, TRIZは上記の認識に述べたように, 深い洞察を与えている。われわれはまた, 問題自体も階層的な問題システムを形成していることを理解すべきである。この理解をすれば, 問題に対しても, そしてその可能な解決策に対しても, われわれは複眼的でかつ進化する観点をもつことができる。

  第二に, 「理想の解決策を最初にイメージする」。これはもちろん, 技術システムが理想性の増大に向かって進化するというTRIZの認識に基礎を置いている。進化の方向をわれわれは知っているのだから, われわれは解決策のイメージをまず考えるべきである。われわれは理想的解決策をまずイメージし, それから, それを達成するための方法を見つけることを試みる。例えば, 理想解から現在のシステムへと一歩一歩戻ってくる。これは従来の思考の方法, すなわち, 現在のシステムからスタートして試行錯誤により考えるのとは対照的に, その逆方向の思考過程をわれわれに薦める。

  第三に, 「矛盾を解決する」。弁証法論理は, 哲学においてしばしば, 「一つの命題とその反対命題との間の矛盾を, 総合命題を導入して解決する」ものであると言われるが, それを実現するための実際のプロセスについてはよく説明されてこなかった。その中で, TRIZは, 技術的問題における矛盾を解決するための具体的なガイドラインを (特に ARIZの形で) 示すのに成功した。そのプロセスの中心は, (問題を再定式化して) 物理的矛盾 (すなわち, システムの一つの側面に対して正方向と逆方向の要求が同時に存在する状況) を導出し, それを分離原理によって解決するものである。物理的矛盾が一旦導かれると, この解決技法は驚くばかりに強力で, ブレークスルーの解決策を見つけることができる。

  TRIZにおける弁証法的な思考方法の三つの特徴が, 技術システムについてのTRIZの認識と非常によく対応していることに注意すべきである。

 

3.  より簡単なTRIZ問題解決手続きの必要性

TRIZのエッセンスを上記のように理解したので, TRIZの三つの側面をどのように学び, どのように適用すべきかを考えよう。
 

3.1  TRIZをいかに学び・適用すべきか?

TRIZの技術に対する新しい見方 (すなわち, 方法論 (a)) は, TRIZ教科書 (例えば [13]) で学ぶことができる (あるいは, できるべきものである)。TRIZが抽出した理論だけでなく, 多数の事実や事例を学ぶことが大事である。よい教科書は, 技術に対する新しい見方を読者が理解する (あるいは, 読者の頭の中に形成する) のを導いてくれる。

知識ベースは, 旧ソ連においてハンドブックとして記録・蓄積され, 最近ではソフトウェアツールに組み込まれている。この方向は情報通信技術の発展とともに一層強化されるであろう。

それでは, 「方法論 (b) : 問題解決の思考法」 の側面はどうだろうか? アルトシュラーはさまざまのテクニックを開発し, ARIZ [15] を定式化した。ただ, それらを習得することは随分難しい。「ARIZを適用する前には, クラスで少なくとも80時間訓練すべきである」 とアルトシュラー自身が書いている。

このように, TRIZにおける問題解決の思考法を, いかに教え・学び・適用するかが, われわれがTRIZを推進するための主要課題である。そこで, この課題を以下に考えよう。
 

3.2  伝統的および現在主流のアプローチ

Alla Zusman は論文 [17] で次のように書いている。

「... アルトシュラーは, 新しいツールを開発するたびに, 新ツールが従来のものよりも強力で, それらに取って代わることができるようにと, 意図していた。しかしながら, いろいろな理由からそうはならなかった。... ツールのそれぞれが違った有効性を持つことが明らかになった。... 結果として, TRIZ実践者が多数のツールを自信を持って適用できるようなるには, 非常に多くの時間と努力とが必要になった。...」
そこで, 彼女とIdeation International 社は, 「TRIZツールマップ」を作成し, 問題 (あるいはサブ問題) のタイプに応じて, どのツールを適用すべきかを明示するようにした [17]

Salamatov [13] は, 種々の方法を学習と適用の容易さに応じて分類し, さまざまの方法を一歩一歩適用するための[初心者から上級者までがそれぞれの技量に応じて使える] 推奨手順を再構成した。より易しい方法が満足な解決策を与えない場合に, つぎのステップに進むのである。その手順の概要は以下のようである。

(1)  類似問題の解決策を使う。
     アルトシュラーの矛盾マトリクスと40の発明原理を使う。
     機能から, 効果への索引を使う。

(2)  ARIZの第一部を使い, 問題モデルを定式化する。
      76の発明標準解を用いる。

(3) ARIZの第二部を使い, 問題を分析して究極の理想解を見出す。
     上記の通常の方法 (1)-(2) を使う。

(4) ARIZの第三部を使い, 物理的矛盾を解決する。

(5) 問題を再定式化し (すなわち, 観点を替えて), ステップ (1) から再出発する。

この手続きの中の各方法 (サブステップ) が, 多くの訓練とハンドブック型の知識を必要としていることが分かる。

このような状況において, 一つの自明のアプローチが, ソフトウェアツールからサポートを得ることである。この型のアプローチが, Ideation International 社 (そのツールはInnovation Work Bench) [18] やInvention Machine社 (そのツールはTechOptimizer) [19] などによって推進され, 現在の主流をなしている。

しかしながら, TRIZを十分習得していない普通のユーザにとって, これらのソフトウェアツールは, 思考方法のガイドとしては弱く [どうしてよいか分からず], 面倒で, いらいらするものであり, 便利なハンドブックとしてのみ役に立つ。現在主流のアプローチのこの弱点が, TRIZの企業浸透を遅らせている大きな理由であると, 私は思う。
 

3.3  簡易化TRIZ手続きへのアプローチ

もう一つの異なる方向のアプローチが, TRIZの手続きそのものを簡易化しようとするものである。TRIZの思想を維持し, TRIZの方法のいくつかを採用し, 適応させて, その他のあるいは新しい方法をも統合して, 問題解決の一つの手続きを設計し, 教え・学び・適用するのに容易で効果的なものを創ろうとするのである。

そのようなアプローチが, 1980年代の初期にイスラエルで実際に行われた。ロシアのTRIZ専門家たちが, 西側の先進企業に出会った最初の時期にそれが起こったように見える。Filkovsky がイスラエルでTRIZを教え, 手続きを簡易化する必要を見出した。そこで彼が開発したSIT (体系的発明思考法) は, 問題解決技法として, TRIZの40の発明の原理をわずか4種に減らしたものであった。SIT法は, 後に Horowitz & Maimon [20] が簡潔な論文にまとめた。その論文では, 解決策が発明的であるための二つの十分条件という仮説の実験的検証に特に重点が置かれている。

1995年に, Ford Motor Co. でEd Sickafus が, SIT法を採用して改良し, USIT (統合的構造化発明思考法) を開発した。彼がTRIZでなくSITを導入した論拠, およびSITをさらに改良してUSITを作った論拠などが, [21] に報告されている。USITチームの活動は [22] で報告されており, TRIZ関連の技法を企業に導入した最も成功した事例と思われる。

中川は1999年にUSITを学び, 日本に紹介した。USITは学ぶにも適用するにも非常に簡単で有効であると私は思うので, 次節においてさらに詳しく説明しよう。

 

4.  簡易化TRIZ手続きとしてのUSIT

Sickafusは, USITの詳細な教科書 [16] を出版しているが, 方法論自体の簡潔な論文を発表していない[Ford社が論文発表を許可しなかったためである]。中川の記事が, USITの方法論について [10] またUSIT適用事例 [5, 6] についての最も簡便な参考文献であろう。

USITは創造的な問題解決のための明確に定義された手続きである。USITの手続きの全体は, 図1フローチャートに示されている。

 

 図1.  USIT手続きのフローチャート


USITは 3段階からなる。問題定義, 問題分析, そして解決策生成の 3段階である。この手続きを最もうまく実行するには, その課題の専門家の技術者たちとUSIT実践者たちとで作った共同チームで行うのがよい。

Sickafus [16] は, 「オブジェクト, 属性, 機能」 の 3基本概念を導入し, 手続き全体を設計し説明するのに統一的に使っている。彼が特に強調するのは属性の導入であり, それはオブジェクトの性質のカテゴリ (すなわち, 値そのものではない) のことである。
 

4.1  USITにおける問題定義

問題定義の段階において, チームはつぎの項目を明確にするように求められる。

 

図2.  USITにおける問題定義段階の結果の例 [6]
この段階の結果は図2に示すように短くて単純なものである。この例は私がSickafusのUSITトレーニングセミナーで作ったものである。問題をシステムとして見直し, 最も重要な課題に焦点を当てて, 問題を明確に宣言することが求められる。スケッチは問題のシステムの動作/故障メカニズムを図にして明示する。考えられる根本原因は, 実際の状況で, あるいはモデル実験により, 事前に解明・検査しておくべきものである。もし,それが明確に特定できないなら, 関与するオブジェクトの一つ一つについて考え, 根本原因の候補をリストアップする。関与するオブジェクトの最小限のセットを選ぶことは, 後の分析, 特に閉世界法の基礎となる。
 

4.2  USITにおける問題分析

問題分析段階に対しては, USITは, 図1に示すように, 二つの主分析法と一つの副分析法を持っている。閉世界法はまず現在のシステムを分析しようとするアプローチであり, 一方, Particles法は理想的解決策をまずイメージしようとするアプローチである。問題の性格に応じてこれらのどちらか一つを選択しても良いし, また, そのあとで他方を使ってもよい (使わなくてもよい)。空間・時間特性分析 (Sickafusは"Uniqueness"と呼んでいる) は, 分析段階の最後に使う。

閉世界法では, 関連する最小限のオブジェクト群の間の機能的関係を明らかにするために, 閉世界ダイアグラムを描くことを求められる。ここで厳格な指針が使われる。すなわち, (機能面から見て) 最重要のオブジェクトを最上位に置き, 上位のものと機能的に望ましい関係にあるオブジェクトを順次下位に描いて, その機能の名前を書く。

例として, 電球に対する閉世界ダイアグラムをSickafus [16] が描いたものを図3に示す。これによれば, 月面探検用の電球に関するTRIZの教科書問題は, 間違いなく (すなわち, 月面ではガラスの球は不要であると) 解決できると, Sickafusは言う。

 

 図3.   閉世界ダイアグラムの例(電球, Sickafus [16])
そのつぎにチームが要求されるのは, オブジェクトたちの種々の属性をリストアップして, それらをシステムの問題となる効果 (または反対に, システムの主機能) について, 増大関係にあるか減少関係にあるかで分類する (増大も減少もしないものは無視する) ことである。イスラエルのSIT法においては, これらの関係を積極的に用いて, これらの関係を定性的に変更する可能性がある解決策のみを考える [20]。しかし, USIT法では, 定性変化を起こすことの要求を軽減し, 問題に関係するさまざまの属性をリストアップすることを重視する。

Particles法は, アルトシュラーの「小さな賢人たちのモデリング」を改良したものである。図4 図5 に示す例は, 前の図2 に示した問題についてこの方法で分析した例である [6]

 

 図4.  Particles法におけるスケッチの例 [6]
この方法では, まず, 現在の状況をその問題のメカニズムが分かるようにスケッチする (図4a)。ついで, 理想の状況そのものをスケッチするように要求されるが, その中にはその状況を実現するための手段やメカニズムを描きこもうとしてはならない (図4b)。そして, 二つのスケッチを比較して, 違いがある所に ×印をつける (図4c)。これらの×印は "Particles" (パーティクルズ) と呼ばれる。Particlesは, 任意の望ましい性質をもち, 任意の望ましい行動ができる魔法の物質 and/or 「場」 であると見なされる。
 

 図5.  Particles法における行動-性質ダイアグラムの例 [6]
ついで, これらの魔法のParticlesにどんな行動をしてほしいかを考え, それをブレークダウンして行動の各要素を図5 の上部に示すように書き出す。このとき, 平易な非技術的な言葉で記述し, [技術用語による] 心理的惰性にとらわれないようにする。つぎに, それらの行動の各要素を実現するのに関係する可能性があると思われる諸性質を, 図5 の下部の例のように, 書き並べる。これらのダイアグラムを描いている際に, 解決策のさまざまなアイデアの断片が想い浮かんでくるであろう。

空間・時間特性分析では, その問題に特徴的な座標軸 (必ずしも線形である必要がない) を選び, 問題となる効果 (または逆に, システムの性能) がそれにどう依存するかを明らかにする。このプロセスは, われわれにシステム特有の特徴を考えさせ, 物理的矛盾を導出するTRIZのプロセスを経ないでも, TRIZの分離原理を適用するなんらかの手がかりを見付けることを可能にする。
 

4.3  USITにおける解決策の生成

解決策生成の段階に対して, USITはつぎの4種の技法を提供する。

いままでの分析段階でリストアップしたすべてのオブジェクト, 属性, および機能を対象にして, これらの解決策生成技法を繰り返し適用する。一つ一つの適用が解決策のアイデアのヒントを与えるであろう。その結果, 多くの数の解決策のコンセプトを得ることができるであろう。

一般化法は単純だが非常に強力な方法である。一つの解決策コンセプトの中の言葉をより一般的な言葉で言い換えることにより, より広いコンセプトを得ることができ, 当初の具体性のレベルでの異なるさまざまのコンセプトを思いつくことができるようになる。このようにして, 自分のアイデアを拡張することができ, そして同時に, 自分の解決策コンセプトたちに何らかの階層的な体系を見出すことができるであろう。この方法は, マインドマッピングと呼ばれることもある [23]

以上に述べたように, USITは, 問題解決のためのさまざまな方法 (多くがTRIZ起源のもの) を修正し, それらを統合して, 創造的な解決策コンセプトの生成のための一つの簡潔な手続きにした。ハンドブック型の知識に頼るようなヒューリスティックなTRIZ技法のほとんどすべてが省略されている (あるいは, 思想レベルに還元されている) のが分かる。かくして, USITはハンドブックやソフトウェアツールを一切使わないのである。それにもかかわらず, USITが, 本稿の2節で述べた意味でのTRIZのエッセンスを実現した, 創造的な問題解決の手続きであることに, 読者は気がつかれることであろう。

 

5.  USITの訓練と適用の実践

Sickafusが指導したUSITトレーニングセミナーでの適用演習は, 私にとって非常に興味深く生産的であり, 文献 [5] [6] に報告した二つの適用事例を作ることができた (なお, このセミナーの受講前に, 私はUSIT教科書のほとんどの部分を読んだ)。それで, その後ほんの少し準備しただけで, 私は日本において同様の3日間USITトレーニングセミナーをやり始めた [11]。その時間割は図6に示すようである。

 

図6.  3日間USITトレーニングセミナーのプログラム [11]
第一日の午前に, 参加者にTRIZやUSITの予備知識がないものと仮定して, TRIZとUSITについての入門の講義を行う。そして, 残りの 2日半を, 参加者たちが持ち込んだ実問題について, USIT手続きのステップに従って, グループで共同演習を行う。私の当初の意図は, 座学の時間を最小限に減らして, 演習にできるだけの時間を割き, USITを適用する適切で実際的な方法を参加者たちと一緒に見つけることであった。実際, 2日半という長さは, 実問題を十分なレベルで理解して結果を出すのに, 適切であり必要であることが分かった。

参加人数は 9人〜20人が適当である。参加者は自分自身の実問題 (ただし, 公募のセミナーの場合には非機密の問題) を持ち込むことを要請された。参加者たちの自己紹介と持ち込んだ問題をそれぞれ簡単に紹介した後, 演習に使う問題を 4件 (または 3件) (公募のセミナーでは通常挙手投票により) 全体で選び, さらに 3人〜5人ずつのグループを作る。各グループを, 異なる見方やバックグランドを持ったメンバで構成するとよい。

グループ演習は, USITのステップに対応して 5セッションかけて行う。各セッションはつぎの 3要素からなる。

この方式はSickafusのセミナーから採用したものであり, 参加者を動機づけるのに非常に有効であった。各参加者は一つのグループに属して一つの問題を解き, 同時に, 全問題のプレゼンテーションと討論に参加する。

全ての問題に対して, 閉世界法とParticles法を順次適用して分析した。解決策生成段階には, 2セッションを使った。まず, Particles法と空間・時間特性分析の結果を用いて, どちらかというと自由に解決策を生成し, ついで, 閉世界法の結果を用いて 4種の解決策生成技法をより詳しく適用するように, 薦めた。さらに, 一般化法を適用し, そして最後に, 最も有望そうな複数の解決策コンセプトを選択して, それらに伴う副次的な問題に対する可能な解決策を考えて強化した。

3日間セミナーの成果として, 全ての問題に対してそれぞれ数件から20件程度の解決策コンセプトをうまく生成することができた。

日本において, 私の講義やトレーニングセミナーの参加者により, USITはつぎのように高く評価されている。

USITの適用例は, Sickafusの教科書 [16] や私のいくつかの記事 [5, 6, 14] で説明されている。実問題に対するUSIT適用事例が将来もっと発表される必要がある。

 

6.  われわれはTRIZをどのように教え・学び・適用すべきか?

本論文において私は, TRIZのエッセンスは驚くばかりに簡単であり, USITがそのTRIZのエッセンスを実装したずっと簡易化した手続きである, ということを述べてきた。この理解のもとで, われわれはTRIZについて何をどのように教え・学ぶべきであろうか?

まず最初に, TRIZの最上位の理論 (すなわち, エッセンス) だけを教え・学び, さまざまの事例や抽出した原理たちについて教え・学ばないことは, 効果的でも, 適当でも, 生産的でもないと, 私は思う。TRIZはボトムアップに, 実証的に開発されてきた。この点にこそTRIZの強みがある。最上位の理論を与えられた宣言として受け容れようとするのは, 科学としての最も重要な基礎を失うことになる。そこで, われわれは, 多くの事実や知識ベース (および, それらがいかにして抽出・帰納されたか) を, 教科書やハンドブックやソフトウェアツールを用いて学び, それによって, それらのエッセンスをわれわれ自身で徐々に理解し, それを適用するとともにさらに理解を深めるための自分自身の基礎を形成していくべきである。

「方法論(b): 問題解決の思考法」の側面に関しては, われわれはさらに検討する必要がある。思考法というのは,  (ツールを使っても使わなくても) 頭の中で実際に使ってはじめて, 有用だといえる。この点で, 伝統的なTRIZのトレーニングが, ハンドブック型のヒューリスティクスと形式的な手続きを教え・学ぶことに, あまりにも大きな力点を置いているのは, 生産的でないと私は思う。われわれは, それらのヒューリスティクスや手続きの考え方 (すなわち, 一般化した原理) を理解するほうがよい。

議論をより明確にするために, 矛盾を解決する方法を例に取ろう。矛盾の解決はTRIZの核心である。

TRIZは 3種の矛盾を認識している。管理的矛盾, 技術的矛盾, そして物理的矛盾である。1970年代にアルトシュラーは, 彼の矛盾マトリクスと40の発明原理を用いて技術的矛盾を解決する [方法を開発する] のに, 非常な努力をした。その後これらの方法はあまり強調されなくなった。なぜなら, 76の発明標準解がよりスムーズに適用できることが分かったからである (個々の発明標準解の中に矛盾が明瞭に顕れていないのは, 矛盾がすでに克服されているからであると, Salamatovは説明している)。そして, 問題を一歩一歩再定式化して, 技術的矛盾から物理的矛盾を導き, それを分離原理を用いて解く手続きとして, ARIZ-85が作られた。これが伝統的なTRIZの最終的な方法であるのは, 単に歴史的な理由による [すなわち, 進歩の一段階にすぎない]

物理的矛盾と分離原理の重要さを私は理解している。しかしながら, ARIZ-85の形式的な手続きを記憶し辿ることは, 私には非常に困難で面倒である。われわれが物理的矛盾をもっと直接的に見つけることができるか, あるいは, 物理的矛盾に予め明確に気付かないでも分離原理を適用することができれば, それでもよいはずである。

TRIZCON2001の私の発表 [14] において, TRIZとUSITを, それらの形式的な手続きに従わずに, 非形式的に, 直観的に適用した私自身の実践事例を報告した。その種の使い方は, TRIZの専門家たちが (あるいは他のどんな分野の専門家たちでも), その頭の中でしばしば行うことであると私は思う。

そこで, TRIZやUSIT法を, できるだけ簡単な形で, 教え・学び・適用するべきであると, 私は思う。それらは初心者に有用である。そして, 熟練した実践者たちは, そのような単純な手続きの中で, 彼らのスキル (あるいは方法論的知識) を十分にまた追加的に使うことができるであろう。

 

7.  TRIZ/USITを企業にどのように導入するべきか?

TRIZCON2001の基調講演において, Don Clausing[24] は, TRIZを活用するとよい場面は, 製品トラブルの問題解決ではなく, 技術開発における技術戦略の決定と創造的なコンセプト生成の段階にすべきであると, 薦めている。そしてまた, 彼が提唱するトータル技術開発の一般的な枠組みの中で, TRIZをその他の品質開発ツールと一緒に統合したやり方で使うように推奨している。

私は彼の枠組みに大部分同意するけれども, トータル技術開発のそのような枠組みの中でTRIZをどのように使うとよいのかは, もっと綿密に考える必要があると思う。そのような [TRIZの使い方に関する] 一般的な理解が作られていない現在の段階では, 特に彼がもっとトップ-ダウン型組織でTRIZを企業に導入することを推奨している点に, 私は賛成しない。

現在の段階では, われわれTRIZの専門家たち/推進者たちが, TRIZを教え・学び・適用する効果的な方法をまだ見出していない。そのため, TRIZの実施については慎重である [ゆっくりやる] のがよい。もうあと数年間, TRIZの普及の「幼児期」においては, われわれは, (ゆっくりだが着実な) 「漸進的導入戦略 [9] を採用するべきである。TRIZを教え・学び・適用するわれわれのやり方が実世界で効果的になったときには, われわれは自然に「成長期」に達するであろう。そうすれば, TRIZを (あるいは改良したTRIZを) 企業にもっと組織的なやり方で実施しても安全になるであろう。

 

参考文献

[1] 中川  徹, 「学会参加報告: TRIZCON2001: Altshuller Institute 第3回TRIZ国際会議(2001. 3.25-27, ロサンゼルス近郊)」, TRIZホームページ, 2001年 4月 (和・英)。

[2] 中川  徹編, 『TRIZホームページ』 (英文名: "TRIZ Home Page in Japan"), WWW サイト,  URL: http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/ (日本語),  http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/eTRIZ/ (英語)。

[3] 中川  徹, 「TRIZ法ソフトウェアツールの仕組みと使い方・学び方 (TechOptimizer Pro V2.5)」, TRIZホームページ, 1998年11月 (和文), 1999年2月 (英文)。(初出: 1998年 2月, 富士通研究所)。

[4]  中川  徹, 「TRIZ(発明問題解決の理論)の 意義と導入法」, 大阪学院大学 『人文自然論叢』第37号, 1998年9月, 1-12頁; TRIZホームページ, 1998年11月 (和・英)。

[5]  中川  徹,  「USIT法の適用事例報告(1) ゲートバルブからの少量の漏水の検査法」, TRIZホームページ, 1999年7月 (和・英)。

[6]  中川  徹,  「USIT法の適用事例報告(2) 高圧ガス入り溶融ポリマーから多孔性樹脂を成形する場合の発泡倍率の増大」,  TRIZホームページ, 1999年 7月 (和・英)。

[7]  中川  徹, 「創造的な問題解決の方法論「TRIZ」を知ろう!」,  プラントエンジニア, 31巻 (1999年 8月号), pp. 30-39; TRIZホームページ, 1999年9月 (和文), 1999年10月 (英文)。

[8] 中川  徹,  「TRIZの母国を訪ねて (1999年8月, ロシア&白ロシア訪問記)」, TRIZホームページ, 1999年 9月 (英・和)。

[9] Toru Nakagawa , "Approaches to Application of TRIZ in Japan", TRIZCON2000: The Second Annual AI TRIZ Conference, Apr. 30 - May 2, 2000, Nashua, NH, USA, pp. 21-35. ; TRIZホームページ, 2000年 5月; 和訳, 日本におけるTRIZ適用のアプローチ」, TRIZホームページ, 2001年 2月

[10] 中川  徹,  「USIT -- 簡易化TRIZによる創造的問題解決プロセス」, 設計工学 (日本設計工学会誌),  35巻 4月号 (2000年), 111-118頁; TRIZホームページ, 2000年4月 (和・英)。

[11] 中川  徹,  「USIT法トレーニングセミナー(3日間)の試行報告(2)」, TRIZホームページ, 2000年2月 (和), 2000年3月 (英)。

[12] Toru Nakagawa and Valeri Souchkov, "Salamatov's TRIZ Textbook: Japanese Edition and Q&A's on the English Edition", TRIZ HP Japan, Nov. 2000; 中川  徹, 「 案内&資料: "超"発明術TRIZシリーズ5: 思想編「創造的問題解決の極意」」 , TRIZホームページ, 2000年11月

[13] Yuri Salamatov, "TRIZ: The Right Solution at the Right Time", Insytec, 1999;  和訳: "超"発明術TRIZシリーズ5: 思想編「創造的問題解決の極意」 , 中川  徹監訳, 三菱総研訳, 日経BP社刊, 2000年11月。

[14] Toru Nakagawa: "Staircase Design of High-rise Buildings Preparing against Fire -TRIZ/USIT Case Study -", TRIZCON2001: The 3rd Annual AI TRIZ Conference, Mar. 25-27, 2001, Woodland Hills, CA; 「中高層建築物における火災対策を考えた階段の構造−TRIZ/USIT適用事例」, TRIZホームページ, 2001年 4月 (英・和)。

[15] Genrich S. Altshuller: "The History of ARIZ Development", Journal of TRIZ 3, No. 1, 1992; English translation by Bolis Zlotin and Alla Zusman, Technical Papers, Ideation International, URL: http://www.ideationtriz.com/.

[16] Ed. N. Sickafus: "Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent", NTELLECK, Grosse Ile, MI, 1997, 488p.

[17] Alla Zusman: "TRIZ in Progress, Part I: Roots, Structures and Theoretical Base", TRIZCON99: First Symposium on TRIZ Methodology and Application, Mar. 7-9, 1999, Novi, Michigan.

[18] Ideation International Inc., WWW site: http://www.ideationtriz.com/

[19] Invention Machine Corp., WWW site: http://www.invention-machine.com/

[20] Roni Horowitz and Oded Maimon: "Creative Design Methodology and the SIT Method", DETC'97: 1997 ASME Design Engineering Technical Conference, Sept. 14-17, 1997, Sacramento, California;  中川  徹訳, 「創造的設計方法論とSIT法」, TRIZホームページ, 2000年3月

[21] Ed Sickafus: "A Rationale for Adopting SIT into a Corporate Training Program", TRIZCON99: First Symp. on TRIZ Methodology & Application,  March 1999, Novi, Michigan; 中川  徹訳, 「SITを企業研修プログラムに採用した論拠」, TRIZホームページ, 1999年5月

[22] Ed Sickafus: "Injecting Creative Thinking into Product Flow", First TRIZ International Conference, Nov. 1998, Industry Hills, California; 中川  徹訳: 「製品フローに創造的思考を注入する」 ,  TRIZホームページ, 1999年1月。)

[23] James Kowalick: "Problem-Solving Systems:  What's Next after TRIZ?  (With an Introduction to Psychological Inertia and Other Barriers to Creativity)", 4th Ann. Intern'l. TPD Symp. - TRIZ Conf., Industry Hills, California, Nov. 17-19, 1998, pp. 67-86; 中川  徹訳, 「問題解決システム:TRIZのつぎは何だろうか? (心理的慣性および創造性に対するその他の障害についての序論を兼ねて) 」,  TRIZホームページ, 1999年 1月。

[24]  Don Clausing: "The Role of TRIZ in Technology Development", TRIZCON2001: The 3rd Annual AI TRIZ Conference, Mar. 25-27, 2001, Woodland Hills, CA;  中川  徹訳, 「技術開発におけるTRIZの役割」,TRIZホームページ,  2001年 6月。
 
 

著者略歴
 

中川  徹:  現職: 大阪学院大学情報学部教授。1997年5月に初めてTRIZに接して以来, 当時在職中の富士通研究所においてTRIZの導入に努めた。1998年4月に現職の大学に移り, TRIZを日本の産業界と学界に導入することに努力している。1998年11月に公共的なWWWサイト『TRIZホームページ』を創設し, 編集者を勤めている。

1963年に東京大学理学部化学科を卒業後, 同大学院博士課程で学び (1969年理学博士), 1967年に東京大学理学部化学教室助手。物理化学の研究, 特に, 高分解能分子分光学の分野で実験と解析を行った。1980年に富士通株式会社に入社し, 国際情報社会科学研究所にて, 情報科学の研究者として, ソフトウェア開発の品質向上の研究などに従事した。その後, 同研究所, さらに富士通研究所企画調査室において研究管理スタッフとして仕事をした。

E-mail:  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp


 
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最終更新日 : 2001.11.16    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp