TRIZ研究ノート: 日本における初期のTRIZ紹介
発明課題の解決アルゴリズム -- ARIZ法
川嶋 浩暉 (日立建機株式会社)
「新商品開発技法ハンドブック」 (高橋誠監修・編著, 日本ビジネスレポート社刊, 1986年)
    [掲載: 2000. 2. 9]
     [英文ページ掲載: 2000. 3.23]
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編集ノート  (中川, 2000年 2月 8日)

   12月10日の三菱総合研究所の知識創造研究会創造手法分科会において, 小生は川嶋 浩暉氏 (日立建機ビジネスフロンティア(株))に初めて会い, 同氏が1970年代からTRIZに注目しておられたことを知りました。そこで, 同氏に日本における初期のTRIZの導入状況について, 何か書いていただけないだろうかとお願いしました。以下は小生からの依頼の電子メールです。

川嶋  浩暉 様
                                    99.12.12  大阪学院   中川  徹
三菱総研の研究会では,いろいろお話を聞かせていただき,ありがとうございました。
TRIZ が1972年頃に日本にどのように紹介され, どのような反応・影響をもたらせたのかは, 大変興味があります。東芝の北口秀美さんが, 井形さんのホームページに簡単に紹介されていたのを読んだだけで, 私はほとんど知りません。
つきましては, 川嶋さんの個人の立場で結構ですので, その頃の受け止めかたやその後のご自身の展開など, なにか簡単な文にしていただけないでしょうか。『TRIZホームページ』に掲載させていただければ非常にありがたいのですが。
そのような文からまた別の方が,別の観点から書いてくださるというように発展していけば,日本の今後のTRIZの発展にとって有益なことであろうと思っております。
どうぞよろしくお願いいたします。
1月17日に, 川嶋氏から (いく度かのやりとりの後) つぎのようなメモをいただきました。
 
「発明発想入門」に関して
                      2000.1.17  日立建機ビジネスフロンティア(株)  川嶋 浩暉

・  この本は、アグネ社より1972.5発刊されましたが、私の知る限りこれに関する情報としては、次のようなものです。なお、この本においては手法は「TRIZ」ではなく、「ARIZ」(発明アルゴリズム)と言われておりました。
日経BP社の「超発明術TRIZ 入門編 原理と概念に見る全体像」(1997.11)は、この本を基本的には使用したものです。

・  1974.5川嶋が、大阪での「等価変換展開理論セミナー」で、ARIZ68を「ETフローチャート」の「課題設定」、および「観点設定」のチェックリストとして利用できるのではないかと、紹介したことがあります。

・  「日立VA技法ハンドブック」1984年度版に、「ARIZ法」が数多くのVA技法の1つとして1頁もので掲載されましたが、どの程度利用されたかは不明です。

・  1986.7高橋誠監修、編著「新商品開発技法ハンドブック」日本ビジネスレポート社に「ARIZ法」として、川嶋が6頁もので紹介しました。特に反応はなく、高橋氏の方にもなかったとのことです。

・  その後、新しいバージョンが入手できないか、ソ連への出張者に調査依頼し、「発明発想入門」の翻訳者の一人である遠藤先生に電話でお聞きしたりしましが、情報は得られませんでした。

・  なお、パソコン画面で32の技術矛盾パラメータを表示し、向上するもの、悪化するもので各々選択すると、35の解決原理が表示されるソ フトを試作しました。その事例集を追加したかったのですが、力不足や仕事が変わったりで完成するまでには至りませんでした。
                                                                                       以上

このメモにありました1986年の「ARIZ法」の紹介記事について, 本ホームページへの転載を願い出た結果, 許可を頂いて掲載するのがこのページの主要部である表題の記事です。 HTML形式に変換し, レイアウトをしなおしましたが, 文面は原文どおりです。本ホームページの役割にご理解を頂き, 転載を許可下さいましたつぎの方々に感謝いたします。

        著者:            川嶋浩暉 (かわしま  ひろあき) 氏,  日立建機ビジネスフロンティア(株) kawa91@tw.hitachi-kenki.co.jp
        監修, 編者:   高橋  誠 氏,   (株)創造開発研究所 info@so-ken-ri.co.jp
        出版社:        日本ビジネスレポート社

読者の皆さまの中で, 日本におけるTRIZの初期の導入の歴史や影響などについて, ご存じの方がありましたら, どうぞお知らせ下さい。本ホームページに寄稿いただけましたらなお幸いです。日本におけるいろいろな創造技法/創造性技法の流れなどについても寄稿いただけますと幸いです。



発明課題の解決アルゴリズム

ARIZ法

日立建機 (株) 開発本部主任技師 川島浩暉
高橋誠監修・編著「新商品開発技法ハンドブック」 (日本ビジネスレポート社, 1986年)より
 

(1) 技法の概要

   ARIZとは、ロシア語の「発明アルゴリズム」АЛГОРИЗМ  ИЗОБРЕТЕНИЯ
のАРИЗ をそのままローマナイズしたものである。本アルゴリズムは、Gアリ
トシュルレルにより提唱されたもので、1968年、全ソ発明・合理化協会中央会議
における專門家の集まりで討議の中心となり認められたものである。

   ARIZは、詳細なチェックリストを用い、与えられた課題の妥当性から始まり、
課題条件の正確化、理想状態の設定、それに到達するのに障害となる要因の発見
と除去などにより、課題の解決に導こうとするものである。

(2) 技法の特徴

2.1 課題の種々の角度からの検討

   思いついた、あるいは与えられた課題が一応解決されたとしても、課題の本質
が必ずしも解決されたことにはならない場合が多い。ARIZ法では、チェックリ
ストにより課題をさまざまな角度から見直し、課題の本質に迫ろうとする。

2.2  理想機械の設定

   一般に,試行錯誤的に問題解決しようとする場合、努力の慣性ベクトルは、解
決とは逆方向になることが多い。一方、理想機械は解決と同方向にある場合が多
い。それゆえ、まず理想機械を定め、それを達成するのに障害となっている要因
を調べ、その要因をつぶしてゆけば、効率よく問題解決にたどりつけるとしている。

2.3  技術的矛盾の除去

   技術においては、ひとつの要素を向上させようとすると別の要素に障害が発生
することが多い。例えば、ある製品の一部分を軽くすると、その強度が低下する
などは典型的なその例である。 ARIZ法では、「発明とは、技術的矛盾の除去で
ある」との考え方に立ちしばしば繰り返し現われる典型的な矛盾除去法則35種
を定めた。また、縦方向には改変(改良、増大、減少など)の望ましい要素、横方
向には既知の方向で改変すると許容以上に悪化する要素をとり、技術的矛盾除去
の法則と対応づけている。なお、この法則は、内外の特許2万5、000件以上を分
析して作成したとのことである。

2.4  その他

   チェックリストに現われる事柄のほか、随所に興味深い考え方がみられる。
えば、機械の発達には一定の発達法則があること、自然界のアナロジーのうち、
とくに検査測定機器は自然界の機能の優越性が高いこと、大きな発明には系変換
が必要なことなどである。ARIZの発展方向としては2つの方向があり、1つ
は專門化したアルゴリズムの開発、他はコンピュータの利用であり、現在推進中
である。

(3) 技法の進め方

3.1  課題の選択

●第1ステップ   開発の最終目的は何か(主要な技術的、経済的要素のうち、
                      どれを改良しなければならないか)。

☆課題解決の技術的目的は何か。
☆課題の解決に際して絶対に改変できない対象の特性は何か。
☆課題解決の経済的目的は何か。
☆許容される出費は大体どれくらいか。
●第2ステップ   課題は原理的に解決不能と仮定したとき、別の課題解決法
                       (「迂回法」)で同じ目的に到達できないか。
☆「迂回法」の課題を解決する際、改良すべき技術的、経済的課題は何か。
●第3ステップ   もとの課題と「迂回法」の課題とのいずれを選ぶべきか。
☆もとの課題と所定の工学部門の発達傾向との比較。
☆もとの課題と主導的工学部門の発達傾向との比較。
☆「迂回法」の課題と所定の工学部門の発達傾向との比較。
☆「迂回法」の課題と主導的工学部門の発達傾向との比較。


●第4ステップ   課題の解決に要求される量的指標(速度、生産性、精度、寸
                      法など)にはどのようなものがあるか。

●第5ステップ   時間の経過とともに、量的指標に対する要求はどう変化するか。

●第6ステップ   発明を実現するのに必要な条件は何か。

☆課題の特徴は何か。
☆実現のためにはどのような条件が必要か。
3.2  課題の条件の精密化

●第1ステップ   所定の課題に近い特許資料による課題の解決法は何か。

☆所定の工学部門において所定の課題に近い課題の解決法は何か。
☆所定の課題と逆の問題の解決法は何か。
●第2ステップ   経費を考慮に入れない場合、所定の課題は解決できるか。

●第3ステップ   必要な指標の値をほとんどゼロにする場合、課題はどのよう
                      に変化するか。

●第4ステップ   必要な指標の値を10倍にする場合、課題はどのように変化するか。

●第5ステップ   専門用語を使わないで記述する場合、課題はどのように変化
                      するか。

3.3  分析段階(必要に応じて分析段階を反復する)

●第1ステップ   最も理想的な場合、何を得ることが望ましいか(理想的な最
                      終成果の設定)。

●第2ステップ   これを達成する際の障害は何か。

●第3ステップ   この障害の直接原因は何か。

●第4ステップ   どのような条件で障害はなくなるか。

3.4  操作段階

●第1ステップ  「典型的手法表」(縦、横32項目のマトリックス、および35種
                    の技術的矛盾解決原理。省略)を用いて技術的矛盾が除去できるか。

☆課題の条件から何を向上させることが必要か。
☆従来の方法で課題を解決すれば何が悪化するか。
●第2ステップ   対象を取り囲む環境を改変して課題を解決できないか。

●第3ステップ   所定の対象と一緒に作動する対象を改変して課題を解決でき
                      ないか。

●第4ステップ   課題の条件から、次のように条件を変えて技術的矛盾を除去
                      できないか。

☆経時的に生じる作用を「引き延ばして」、あるいは「縮めて」。
☆必要な作用を対象の「作動開始前に遂行して」、あるいは「作動を終わったあとで遂行して」。
☆作用が連続的ならば、衝動作用へ移行して。
☆作用が周期的ならば、連続作用へ移行して。
●第5ステップ  多少とも類似の課題が、自然界ではどのように解決されてい
                      るか。
☆絶滅した、または古代の有機体では、同様の課題がどのように解決されていたか。
☆現代の有機体では、同様の課題がどのように解決されているか。
☆無生物界では、類似の課題がどのように解決されているか。
☆以上の場合の発達傾向はどうか。
☆利用される工業材料の特性を考慮に入れれば、どのような修正が必要か。
3.5  合成段階

●第1ステップ  対象の一部分の改変後、その他の部分はどのように改変しな
                      ければならないか。

●第2ステップ  所定の対象と連動する別の対象は、どのように改変しなけれ
                      ばならないか。

●第3ステップ  改変した対象が新しく利用し得るか否か。

●第4ステップ  新発見の技術的アイデア(または新発見のものとは逆のアイ
                      デア)を,別の技術課題の解決に利用できないか。
 

(4)技法の実際例

4.1  課題「職場の明かりとり窓ガラス清浄機の考案」
            (以下は,前項のチェックリストに対する答えのみを記す)

4.2  課題の選択

S1. 作業場に必要な明るさを最少の電力で保証する。

S2. できる。迂回法には人工照明があるが,これは清浄機の開発・使用よりも
       低いコストですむ。

S3. 迂回法の方が,廉価なだけでなく夜間にも役立つため合理的。したがって,
       迂回法による効果の方がはるかに大きい。

S4 .☆一定の基準に従い,作業場を照らさなければならない。
       ☆作業条件の悪化を伴う節約をしてはならない。
       ☆人工照明は,窓ふきチームより低コストでなければならない。

S5. 手作業による窓の洗浄より経済的であるだけでなく,まだ存在していない
       自動洗浄機より経済的であること。

S6. ☆大規模な利用を考慮に入れること。
       ☆同一の職場でも必要な照明条件は一定でないので、どんな条件にも
              容易に適用できる柔軟性を有すること。

4.3  課題の条件の精密化

S1. ☆自動車のヘッドライト数の増加,および1個のランプを光ファイバーで分散させる。
       ☆工作機械のエネルギー供給は、小型のモーター数台に分割する方向。

S2. できる。しかし,課題は経済性を保証することにあるので、経費は考えな
        ければならない。

S3. 照明度を減らせば電力消費量を削減できるが、労働生産性がマイナスとなる。

S4. それに応じて経費も増大する。

S5. 1本の光束も無駄にしないことが必要。

4.4  分析段階

S1. 経費のかからない(あるいは,ほとんどかからない)照明。光は多く、その
       コストは低く。

S2. 光が多くなれば、多くの費用が必要となること。

S3. 眼に入るのは(有効に作用するのは),光源から放射される光東のうちわず
       かな部分。眼はわずかな光エネルギーしか消費しないのに,多くの光が必要で
       ある。

S4. 一定のルート(光源-被照明物-眼)を通る光東のロスが激減する場合。大
       型ランプを小型に変え、照明コストを低減させればよい。

4.5  反復分析段階

S1. 光源-被照明物-眼の道程における光のロスを少なくすること。

S2. 光源に反射鏡を付けるとランプから被照明物までのロスは少なくなるが、
         代わりに被照明物が光を四方に分散させ、人間の眼に入る光量は少なくなる。

S3. 被照明物が光線を有効な方向に反射しないだけでなく,それを四方に分散
       させるため。

S4. 被照明物が入射光線を四方に分散させないようにするか、中間段階を経ず
       眼に入るようにする。

4.6  操作段階

S1. ◇向上させるべき要素……* 照明度   * エネルギー
       ◇従来の方法で悪化する要素…… * エネルギー  * 照明度
       ◇技術的矛盾解決原理

   NO.1    「分割の原理」-1個の大型ランプを数個の小型ランプに。
   NO.15  「動的対応の原理」‐分割した系を柔軟可動なものに。
   NO.32  「色彩の改変」一対象を透明に。
   NO.2    「分離の原理」-照明すべき区域のみを照らす。
   NO.19  「衝撃作用の原理」-照明法を変えられないが。


S2. 空気ではなく,光導管で光を伝達できる。

S3. 発光塗料はよいが、十分な明るさの塗料はまだない。

S4. M19が対象となる。分割システムによる場合、十分実現可能である。

S5. 自然界では、深海魚のように発光塗料と光を携行する方法がとられている。
       以上から、解決案としては「1個のランプではなく、被照明部分の近くに配
       置した数個の小型ランプで照明する」が提案される。

4.7  合成段階

S1. 分割照明により、どの区域も必要に応じて光を受けるので、眼の疲労が減
       り労働生産性が高まる。

S2. 照明される物体は、反射光線ではなく、透過光線で照明される。

S3. 今度は作業中に照明度を変えることができる。

S4. 塔や柱を使わない街灯を考えることができる。

       以上で洗浄機の課題は解決された。

(5) 参考文献

本技法の紹介、とくに(3)、(4)項は、『発明発想入門」(G.アリトシュルレル著、
遠藤敬一・高田孝夫共訳、アグネ社刊)によった。
 
 
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最終更新日 : 2000. 3.23    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp