USIT事例&解説 
「額縁掛けの問題」への解説
 中川  徹 (大阪学院大学) 2001年 7月25日
 原典:Ed Sickafus (Ford Research Lab. & Ntelleck):
  "Unified Structured Inventive Thinking: How to Invent", Ntelleck, 1997, pp. 403-432.
 一部初出: 中川  徹,三菱総研主催USIT 3日間トレーニングセミナー, 2001年7月11-13日.   [掲載: 2001. 7.31]
   追記・討論: Ed Sickafus (Ntelleck, 米国) 2001年 8月13日 [掲載: 2001. 8.23]
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まえがき (中川  徹, 2001年 7月25日)

USITの開発者Dr. Ed Sickafusによる教科書問題 「額縁掛けの問題」について, 本年 3月23日に本ホームページに和訳を掲載しました。その意図は, USITの解決策の生成技法の適切な事例を紹介することでした。この事例はかなり大部であり, 解決策生成の筋道は原典ではいろいろと輻輳しています。

7月11-13日に開催しましたUSIT3日間トレーニングセミナーに当たって, 本事例を40枚弱のスライドにして, 分かりやすく説明することを試みました。この過程において, また, セミナーでの討論において, この事例を一層消化吸収することができ, さらにUSITの方法自体にもいくつかの新しい観点を得ることができて,大変有益でした。

そこで, 本稿では, 中川が作成しましたスライドを用いて, Sickafusの「額縁掛けの問題」を分かりやすく説明し, 同時に中川の意見/注釈を示します。前に掲載しましたSickfusによるもともとの記述を参照しつつ全体を理解していただけるとよいでしょう。いままでにUSITの概要を学んで来られた読者の皆さんには, USITのプロセスの心を伝える分かりやすい解説になっていることと思っています。
 

追記 (中川  徹, 2001年 8月23日)
本件を英訳して英文ページに掲載しました (日本語版にスライド(40)を追加しました)。また, 英訳原稿をSickafus博士に送りましたところ, つぎのような返事を8月13日にいただきました。
徹, 研究の成果を送ってきてくれてありがとう。何かを学ぶための最善の方法は, それを教えることだと思います。USITの場合には, USITのデモの一式をスライドに作ってみるのが, いつも収穫があり, 自分でも驚くことがあるよい演習です。あなたのスライドとその解説に対する私のコメントを添付のWordファイルで送ります。ではまた, 元気で。   エド
博士のコメントを, 博士の許可を得て, 本稿の関連する箇所に挿入しました。**印と青文字のテキストで示しています。二人の見方は, ときには異なる点を強調していますが, 読者の皆さんがUSITをより深く理解されるのに役立つものと思っています。
本ページの先頭  1. 問題の定義  2. 問題の分析  3. 解決策生成  Sickafusの教科書問題の和訳  English page




 
 
(1) 本稿は, Sickafusの教科書の例題「額縁掛けの問題」について, 中川がスライドを作って解説したものです。基本的にUSITの問題解決プロセスに従って記述されています。

原著の和訳は本『TRIZホームページ』に別に掲載してありますので参照・対比下さい。 

原典は大部のUSIT教科書の付録E9に紹介されている事例です。この事例は, Sickafusが高校生向けに話したセミナーを拡張して記述したものです。


 
(2) 「問題の状況」というのは, 問題の発端を示すもので, 問題を解決しようとする直前の段階を説明しているものです。

企業の場合には, このスライドに示すような「大まかな方針」が経営者, マネジャ, あるいは企画部門などによって作られ, 技術の現場におりて来る場合があります。

あるいは, このような問題意識が, 技術部門の中から起こり, その解決に取りかかる前に, 問題状況の説明として記述する (あるいは口頭で説明する) 場合もあります。

問題解決を任されたチームは, まずこのような「問題の状況」を正しく把握 (聴取) しなければなりません。この理解が適切でないと, 問題解決の努力はすべて無駄骨折になります。


 
(3) ここからがUSITの問題解決のプロセスです。 USITではどんなことをどんな順番で考えていけば良いかを, 明確なガイドラインにしています。

最初の問題定義の段階では, チームは, 上記の「問題の状況」をベースにして, 具体的にどのような (解決すべき) 問題が起こっているのかを明らかにします。いままでの経験と討論で明らかになる場合もありますし, 現場の担当者からデータや説明をしてもらわなければならないことも多いでしょう。

左のスライドは, そのような解明のプロセスを経て, 要点をまとめた結果の例です。このスライドのような簡潔なまとめを作るのです。

USITでは, 「問題宣言文」は1〜2行の簡潔なものにします。簡潔さは明確さを保証するためです。

スケッチは, 問題のメカニズムを考えるために重要なものです。**

**  [Sickafus博士のコメント:]  オブジェクトのスケッチを描くのは,オブジェクトとその相互作用についてより明確な理解をするように仕向けるものです。
(4) つぎに, 問題の根本原因を考察します。それは, 問題が起こるメカニズムを理解することと同等です。

Dr. Sickafusは実験物理学の研究者として, 大学と企業 (Ford社) とで多くの仕事をした人で, 物理学の素養に基づき, メカニズムに対する深い理解・洞察を推奨しています。

このようなメカニズムの理解は, 理論や数値的なものよりも, 現象そのものの因果関係の理解が多くの場合に大事です。「現象論的理解」というのはそのような意味です。** 

左のスライドは, 「問題のメカニズム」を考察していくためのSickafusのプロセスです。

**  現象論的分析と言っているのは, 式を使わない理論的分析 および 数値を使わない実験的分析のことです。
(5) メカニズムを考えるときに, まず, 現在のシステムが本来どのような意図で設計されているのかを考えています。

それはまず, 理想的な場合 (意図どおりになっている場合) を明らかにします。

物をぶら下げるときには, その物の重心がどこにあるのかが最も大事なことです。「現象論的」といっても, ただ「きちんと懸かっている」というのではなく, 基本的な物理的な言葉で記述しているのが大事なことです。

額縁の下辺と壁との関係にも触れていて, 額縁の空間配置の6個の自由度(重心の位置の 3自由度と回転の3自由度) について一通りの考察をしています。


 
(6) 前のスライドで, 「額縁の重心を釘の真下に持ってくることが大事である」と確認したのですが, 振り返って, 「それだけの目的なら, 丸目ネジ1本でぶらさげることだってできた」と気がついて, 一層簡単なシステムの分析をしています。

ただ, この場合には, 丸目ネジ (フック)の位置がずれていると, 額縁が傾いてしまって, 調整することができません。これを調整可能にするために, 丸目ネジ (フック) 2本のいまのやり方になっているのだと, 現行システムの狙いを確認しています。
 

Dr. Sickafusはここでは特に言及していませんが, この図をみると, 傾きを調整するためには別の機構 (すなわち, ネジ(フック) の位置を調整する機構) を導入してもよいことにすぐ気がつきます (後述)。このように, 簡単なことでも図に描いてみると, いろいろな発想のきっかけになるものです。**

**  これは非常に的を射た説明です。
(7) そこで, 現行システムに戻って, 額縁のとりつけ方が理想的ではない場合にどのようになるのかを, 検討したのがこの図です。

丸目ネジの位置にずれがあり, 額縁が傾いてしまったときの図を右上に描きました。このとき, 最終的には, 「ひもが垂直線に対して左右等角度になる」というのが, 中川が考えた結論です(この結論はSickafusの力の成分を考えた図よりも明快になっています)。ひもにはすべての所で同じ張力が働き, 額縁に対する力とトルクとが均衡するのはこの条件を満たす時です。

このようにネジの位置にずれがあっても, 実際上は姑息に額縁を正しい向きに掛けることができます。それは下図のようにセットして壁の摩擦に頼ることです。この摩擦が大きければ, しばらくはこのままで掛かっています。壁に振動があったり, 額縁になにかが軽く当たったりすると, この額縁は安定な位置 (右上の図の位置) に傾いてしまうわけです。


 
(8) つぎに, 現行システムで, 関連するオブジェクトを列挙します。上段に書いたのは, ともかく関係しそうなものを具体的に書き並べたものです。

その上で, 現在の問題, 「額縁掛けのシステムで額縁が傾くことを無くす問題」に直接関係するものだけに絞ります。**

額縁内部のものは一切を含めて「額縁」で代表しています。材質だとか, 色や形状などで, 本質でない修飾語はすべて落とします。具体物を表す言葉 (例えば, 丸目ネジ) をやめて, その主要な機能を表す一般的な言葉 (例えば, フック) を使うようにしています。

**  考えられるオブジェクトたち, あるいは, 関連するオブジェクトたちをすべて書き出すように求める代わりに, 私は受講者たちに, 「問題を理解するのに必要だと思うオブジェクトたちをすべて」書き出すように求めます。それから, 「問題に含める必要がある最小限のオブジェクトのセットに縮小する」ように求めます。いつもではありませんが, 多くの場合に, 一見複雑そうな問題でも, 2個, 3個, あるいは 4個のオブジェクトたちに縮小しています。
(9) USITでの第1段階 (すなわち, (I) 問題定義の段階) の終わりにあたり, Sickafusはいままでの検討結果の要点として, 「問題の焦点」 (すなわち, 問題定義の本当の核心) について確認しています。

われわれの問題は, 額縁掛けのキットを改良することですが, 重さを支えることがわれわれの関心事ではなく, 額縁を正しい向き・場所に配置することが主要関心事 (すなわち, 問題の焦点) なのです。

この認識は, 次の段階, 特に「閉世界法」での問題の分析に直接に関わってきます。 (これを認識していないと, 次の分析がピントはずれに終わります。) 


 
 
(10) USITによる問題解決の第2段階は, (II) 問題の分析です。

この段階には, 現行システムから出発して改良を考えるための「閉世界法」と, まず理想の解をイメージして分析していく「Particles法」とを, USITは持っています。この例題では, 「閉世界法」を用いて分析します (「Particles法」はこの例題では説明していません)。 

閉世界法の最初の過程が「閉世界ダイアグラム」を作ることです。

これは, 前に(スライド(8)で) 書き出した最小限のオブジェクト群の間の,主要機能を明確にするものです。

USITでは通常の機能分析よりも厳格なルールを使い,エッセンスに絞り込んだ表現形式を用います。このスライドがそのねらいとルールを説明しています。


 
(11) これが,Sickafusが描いた,USIT流のシステム機能分析の図,すなわち「閉世界ダイアグラム」です。

この額縁掛けシステムで,正しく配置するために最も大事なもの(オブジェクト)は,「きちんとした配置という情報」であり,それを最上位に置きます。「情報」もオブジェクトの一種であると,USITではみなします (この扱いは, 検知・測定・制御などのシステムを表現するのに有効です)。

その情報を直接に生成するのは額縁です。左のスライドのようにオブジェクトを縦に並べて,機能で繋ぎます。

額縁の荷重を直接に支えるのが二つのフックであり,そのフックにひもが掛けられて重さを支え,さらに釘で重さを支えます。ただし,きちんと配置することに機能的な焦点をおいて考えると,「フックと釘とを複合したオブジェクトと考え,ひもがそれらの配置を決める機能をしている」とSickafusは表現しています。

壁は額縁掛けのキットの設計者が制御できないオブジェクトであり, 「近傍オブジェクト」として扱います。


 
(12) 上記のSickafusによる閉世界ダイアグラムに対して, 今回中川が新たに提案するのが左のスライドです。

Sickafusのダイアグラムは, 簡潔さを追求し, 無駄を一切省略しています。しかし, 実際の利用においては, もう少し付加的情報を記入する方が, 後の過程で有用であると, 中川は考えるようになりました。

具体的には, 副次的機能を [ ]内に入れて記入することを提案します。副次的機能を (区別しつつ) 書くことによって, 主機能を"安心して"書けるという効果があります。(例えば, 額縁掛けでは, 重さを支えることが通常の第一義の機能であり, それをここでは副次的として扱っており, 忘れてはいませんと書いているのです。)

主機能は実線矢印, 副次的機能は点線矢印を使いましょう。矢の方向は, 主語と目的語を意識して機能を表す動詞を選ぶのに役立ちます。

副次的機能を記入しておくと, 解決策生成の段階で, 「機能配置法」を使うときに非常に考えやすくなります。対象として考えるべき機能を明示しているからです。**

**  私はまだ, これが本当にそうだとは思えません。私の考えでは, 意図した設計の最も重要な機能を考えるだけで十分であると思います。

[USITセミナーでは] どのクラスの人たちに対しても, 「あなたたちはもうすでに, 問題解決に有能な技術者であり, 研究者です」と私は言っています。だから, 通常の工学的な分析をUSITが行う必要はないのです。そうではなくて, 問題に対する月並みでない見方を生み出すことを助け, かつ, それを迅速にすることがUSITに必要なのです。オブジェクト, 属性, 機能の少数のセットだけでも, 考えるべきことが沢山出てきます。

(13) 閉世界法による分析でつぎにするのは, 「定性変化グラフ」を作ることです。このスライドの二つのグラフは実は作りつけのもので, 分析者がするのは, これらのグラフの縦座標と横座標を明確にすることです。

縦には, 問題となる悪い効果を一つ選びます。この例題では, 「額縁の傾き」を選びました。 (逆に, システムが目的とする良い機能を選ぶ方が考えやすいときもあります。そのときには解釈のしかたを逆にすればよいのです。) **

横座標には, この効果と増大関係 (または減少関係)にある量を考えて列挙し,  オブジェクトとその属性の形式で記述します。額縁の重心のずれが増大すれば, 額縁の傾きは大きくなるから, 左の増大関係の所に書くのです。

定性変化グラフの記述の形式は, つぎのスライドでも述べていますように, Sickafus自身も少しずつ改良しています。ここのスライドでの書き方は, (原典の教科書の書き方ではなく,) Sickafusの現在の書き方の思想を受け継いで, より一層素直に表現したものです。

**  私は, 定性変化グラフに, 望ましい効果を使ったことは一度もありません (少なくとも近年では)。
(14) 私は, Sickafusの記述を参考にしつつ前記のスライドを作って, 「ああ, これは問題のメカニズム (根本原因と対策の可能性) を書いているのだ」と気がつきました。

属性をむやみに列挙しようとするのでなく, 問題の本質に関わる属性を確実に記述するように, 最近Sickafusが薦めていることも, 同じ流れとして理解できます。 また, 最近のSickafusのWWWサイトで, このグラフを「根本原因グラフ」と呼んでいる所があるのを見つけて, 確かにそのとおりだと思いました。

左のスライドの下部に書いた「定性変化グラフの使い方」は大事です。「悪い効果が減少する方向に解決策を考える」というのは, 最も素直なケースです。正統的な工学的な解決策がこの方向から得られます。問題解決ではまず最初に確実に考えるべきことです。

しかし, それだけでは解決しないことがあり, その時に考えるべきやり方が, あとの三つです。これらは, 月並みでない, 「発明的な」解決策を見出すために考えるべき方向を示します。

[なお, TRIZを学んだ人たちの中には, この定性変化グラフから, TRIZでいう「技術的矛盾」を導出して考えようとすることがあるが, それは回り道をするだけだと, Sickafusは注意しています。たしかに, このスライドに示す使い方の指針の方がずっと明快です。]


 
(15) USIT教科書 (1997年) では, 閉世界法の中のつぎの分析過程として, 「OAFダイアグラム」を作っています。

しかし, 中川はこのダイアグラムが不必要に複雑であると感じます。(Sickafus自身も,  1999年3月のSikcafusの 3日間セミナーでは, 時間的制約からこれを教えませんでした。)中川は, 自分でも使わないし, 教えないのがよいと判断しています。そこで, この解説では, OAFダイアグラムの説明を載せません。

Sickafusが主張しているポイントは, 「オブジェクト間に一つの機能が働くとき, より厳密に考えると, それぞれのオブジェクトの何らかの属性が関与している。どの属性が関与しているのかを明確に意識しておくことが大事である。」とういうことです。その上で, 「このような属性に関する意識が訓練されてくれば, OAFダイアグラムなしでもよいだろう」と, Sickafusは言っています。**

**  受講生たちが, 根本原因分析のダイアグラムや定性変化グラフの扱いに困難を感じているように見えるときに, 私はOAFダイアグラムを使って, 彼らが属性に注目するのを助けます。彼らは, オブジェクトや機能を扱うのは難しくないけれども, 属性を効果的に使うことに多大の困難を感じています。問題を見る観点として, 「属性」というのがいままであまりなじみがなかったためです。そこで, 属性という見方の有用性を見いだすのに, 講師の指導が要るのです。
(16) USITでは, 閉世界法 (and/or Particle法) による分析の後で, 必ずこの「空間・時間特性分析」を行います。

Sickafusはこの方法を「Uniqueness」と呼んでいて, 空間的あるいは時間的に, どんな特徴・特異性 (uniqueness) があるかを調べ, それを解決策に繋げることをねらいにしています。

典型的な記述例は, 左のスライドの時間特性の例です。縦に問題となる悪い効果をとり, 横に特徴的な時間軸を選んで, システムの振る舞いを示しています。額縁を掛けてすぐに傾く場合と, 後になってから少しずつ傾き, なにかのときにがたんと傾く場合とを記述しています。

空間特性のここの記述例は, (上記のような座標系での表示でなく, 例外的ですが) 空間的な図そのものを示して, 根本原因と関係づけています。

[空間的および時間的な特性を分析して, 端的に示すことが大事であり, 図の形式は臨機応変に考えるのがよいでしょう。時間特性として, 処理工程のプロセス分析をするのが最適の場合もあります。] **

**   徹, 君のテキストを読み, 自分の本を調べてみて, 私は初めて, 特性分析の良い図を自分の教科書に載せていないことに気がつきました。示唆するグラフが図10.1に一つ載っているだけで, その図も私は気に入りません。教科書を書いて以後, 問題解決の方法として私はUniqueness (空間・時間特性分析)に一層重点を置いており, 適切で簡単な図を作るのにいささか時間を割きました。

特性分析のダイアグラムでは, 望ましくない効果に第一の力点を置くことはしません。むしろ, 望ましい機能が, いつ, どこで, アクティブになるべきかを最初に強調します。そのため, 空間的な特性分析の図は, もともとのオブジェクト間の相互作用のスケッチの図と同じになることが多いのです。そこでは, 各オブジェクトが空間のどこにあるか, 相互作用のどの場所で具体的な機能をサポートしているかを示します[例えば, スライド (3)] 。それでも, 講師として私は, このグラフに戻って, 受講者たちにこの見方を注意させる必要があるのです。そのつぎに, 時間に関する図を描きますが, 縦軸には特にラベルをつけません。横軸は時間です。ついで, 望ましい機能のラベルをつけたいくつかの長方形を書き込みます。この図で, 各機能がいつ働き, いつ止まるか, それらがいつ重なり合い, いつ重ならないか, また, それらが複合するのはいつで, 複合しないのはいつか, などが明瞭にわかります。これらの点のそれぞれが, 新しい解決策を作り出す連想思考プロセスの始点になるのです。この図を描くと, 空間・時間特性の観点から望ましくない効果を指摘することにも役立ちます。

空間的および時間的効果を考えないでも, 問題の特性を受講者たちが見いだすことがよくあり, それはそれで良いのです。私が空間・時間特性ダイアグラムを導入したのは, 「uniqueness (特性, 特殊性)」という概念に困難を感じる多くの学生たちのためのツールとして考えたのです。そのダイアグラムは非常に成功したけれども, それだけが唯一のアプローチではありません。


 
 
(17) 以上で分析段階が終わり, ここから, USITの第3段階の解決策生成の段階になります。

解決策生成の過程を分かりやすく説明することは, 必ずしも簡単ではありません。一部の解決策は技法の適用によって理詰めでも出てくるでしょうが, 大抵の解決策はいろいろ考えている過程でふっと浮かんで来る (来た) ものでしょう。だから, 浮かんで来た順番に書くとあっちに跳びこっちに跳びになるでしょう。それをある程度論理的に整理して書くと, 本当にそんなにきちんとアイデアが出てくるのだろうかと疑う読者もあるでしょう。ともかく, いろいろな技法を使いつつ, 繰り返し考えた結果をまとめ直したものとして, 理解されるとよいでしょう。

Sickafusの説明の左記の順序のうち, (a)(b)はいままでの分析結果を使って素直に出てくる発想を発展させていったものです。(c)(d)(e)は, USITの解決策生成技法の中の主要な 3種を前面に出して考えています。

(注: (c)(d)(e)の 3種の問題解決技法を, Sickafusは単に "Dimensionality" (次元性), "Distribution" (配置), "Pluralization" (複数化)と読んでいますが, 中川はその訳語として, 「属性次元法」, 「機能配置法」, 「オブジェクト複数化法」を使っています。英訳に際しても, 後者の詳しい名称を使いました。)  **

以下には, もっとも素直だと私が考える順番に並べ直して, 解決策を順次説明しています。スライドは, 各解決策を同じ表現形式で示しました。考える流れは, 右欄の解説の方に補足しておきます。

**  問題解決技法のこれらの詳しい名称は, なかなか良いと思います。
(18) まず, 問題のメカニズムや根本原因の分析において, 「額縁の重心のずれ」が非常に重要だと分かりました。そこで, 最初にそれをなくす方法を考えます。

「額縁の重心のずれを, 製作時になくしておこう」というのは, 非常に健全で当たり前の解決策です。

その解決策をもう少し具体的に考えると, 工場などで製作者が制御できることの他に, 額縁を買って絵や写真を入れるお客さんの操作の問題があることに気がつきます。そこで, お客さんの操作を正しく誘導するための細部の配慮も, (製作者がすべき) 解決策の中に記述しています。

[解決手法の点から見直したのが最下段の説明です。額縁の重心のずれという属性をゼロに固定しようとしており, 属性次元法の適用と言えます。また, 調節機能を工場での製作時に移動させているのは, 機能配置法の適用と言えます。一つの解決策がこのように複数の観点から説明できることはしばしばあります。]


 
(19) 前項で, 「重心のずれのない額縁」が作れたのですから, もう現場での配置の調節など必要がない。調節機能を入れた3点懸垂などやめて, 釘にちょんと掛ければよいと気がつきます。その発想を書き出したのがこの案です。

ひもによる懸垂のことばかり考えていますと, このような簡単な発想が盲点になります。各システムや各部分の機能・目的をいつも意識しておくことが, このような発想を得るのに有益でしょう。

ちょんと掛ける際に, 掛けるべき正しい位置に明確なマークをつけ, 自動的にそこに掛かるような仕組みを考えます。そして得られた案がこのスライドのV字の切れ込みです。釘は単純な円柱状でよいでしょう。

(釘の頭の部分がV字の切れ込みのさらに奥に入り込むようにすると, 掛けた額縁が手前にはずれるのを防げて便利でしょう。)


 
(20) 前項のような額縁をちょんと掛けるための機構は, もっと別にも考えられます。

額縁の上部の裏側に, 凹みではなく, 逆に突起をつけて, それを小さな棚状の釘で受けてもよいでしょう。前の案とは, 部分的な機構部の配置を逆転させたものです。

このような突起は図のように下に尖ったものがイメージしやすいでしょう。しかし, 尖っている必要はなく, 円柱状や半球状などいろいろであってもかまいません。


 
(21) いままでは, 「重心のずれがない (完全な) 額縁」を考えていましたが, 実際の額縁で重心位置が外形の対称中心からずれていても, 同じように簡単に掛ける方法がないだろうかと考えました。(理想から実際に戻って考えるのです。)

それは, ひもとフックを無くした, 上記の二つのスライドと同様の簡単なシステムをイメージしたものです (大げさに言えば, 「ひもとフックをトリミングした」ということになります)。

具体的には, 壁に釘を一本打っておき, 額縁の上枠の裏側を乗せて, 額縁を左右に少しずつ動かし, 重さがバランスする位置で手を離せば,それでよいでしょう。

(「完全な額縁」ではありませんから, バランスする位置は中央とは限りませんが, その周辺を探ればよいのです。中央にマークをしておけば助けになるでしょう。)

[トリミングは, オブジェクト複数化の技法に属します。ゼロは (英語では) 複数の仲間なのです。それは, 「単純化」の典型です。]


 
(22) 前のスライドの解決策では, 額縁を釘で支える位置を横に滑らせながら調節するのですから, 額縁が滑らかに滑るとよいでしょう。そう考えると車輪のアイデアが出てきます。釘を軸にした小さな車輪を仕込めばよいのです。 

このスライドの案は, 通常の円盤状の車輪の代わりに, ボールを軸に刺して回るようにしたものです。

(「一点で支える」と考えると, つい先端を尖らせたものを考えて, このような円形のものは考えにくいことがあります。常に気をつけて, 考え方を広くするとよいでしょう。)

[解決手法としては, 前のスライド(21)からの変化として考えると, 釘の表面の (摩擦の) 属性に対して, それを滑りやすくしたと考えることができます。あるいは, 調節のための機能を考え, それを釘と額縁の間の滑りの機能で実現しようとしたものと考えることもできます。]


 
(23) スライド(19) の案では理想的な額縁に対して, 上枠の中央に一つの凹みを付けただけで良かったのですが, 実際の額縁では重心位置に多少のずれがあるでしょうから, その調節のために, 隣接位置に複数の凹みを作る案が思いつきます。

凹みを複数並べてみますと, 鋸の刃のような形になります。 (実際に既製の鋸の刃 (替え刃) を使うかどうかは, 別に判断するべきことでしょう。) 
 

[これは, 受けの凹みの部分を複数化した案ですから, 解決策生成技法でいえば, オブジェクト複数化法を使っていると言えます(注: 厳密には, 凹みはオブジェクトではなく, 額縁の属性の一つとして扱うべきですが, ここでは直感により素直に, オブジェクトのように考えています)。あるいは, 前記の一つの凹みの案に, 機能配置法を適用して, 調節機能を組み込んだと考えてもよいでしょう。]


 
(24) 上記の鋸刃の案では, 凹みの位置が限られていますから, ちょうど正しく掛けたい位置に凹みがきていないという問題が起こります。そこで, 凹み位置を連続的に調整する機能が必要になります。

凹み位置を横に滑らせて, バランスする位置にネジなどで固定することも考えられるでしょう。

さらに巧妙なのが, ボルトを横に固定しておいて, それを回して調節するという, このスライドのSickafusの案です。(額縁の荷重の方向と, 調節ボルトの回転とが全く独立である点が好都合と思われます。)
 

[額縁の凹みに対して, その位置の属性を可変にしたとういう意味で, 属性次元法を適用したと言えます。調節機能を付加した (重ね合わせた) という意味で, 機能配置法を使ってもいます。]


 
(25) 前のスライドの案では, 横の調整機構を作り, それを釘の上に直接掛けました。これを釘にかけるのではなく, 一本のひもでぶら下げるようしてもよいでしょう。

このようにして生まれた新しい案 (中川が挿入した案) がこのスライドです。

これは, システムのメカニズムを考え, 簡単化した2点懸垂システム (スライド(6)) を考察していたときに得た着想 (すなわち, 「2点懸垂システムの懸垂点に位置調整機構を組み込む」) を具体化したものです。

この案には, いままであまり論じられなかった長所があります。ひもの長さの調節が (傾きの調節とは) 独立に行えるので, 上下位置 (あるいは前倒しの角度) の調節が容易になったことです。 (3点懸垂でひもの長さを調節してこれらを調節することは結構面倒です。)

[解決策生成技法は, 2点懸垂からどう変化させるかという観点から記述しました。]


 
(26) さて, もう一度問題分析の結果を見直しますと, 壁と額縁の関係がいくつか言及されていたことを思い出します。

そこで, まず壁からの振動の問題を考えてみましょう。この問題を端的に示していたのは, スライド(16)の時間特性の図です。

壁からの振動・衝撃を減らすには, クッションを当てればよいとすぐに思いつきます。

ここで, 単純にスポンジやゴムというだけでなく, 可能性がありそうな, さまざまのタイプのものを連想してみるとよいのです。「弾力性」から, 「粘着」とか「接着」とかのキーワードが出てくれば, また後で役に立ちます。 (このように抽象的な言葉で連想してアイデアをひろげていくことが, USITでいう「一般化」の技法の使い方です。)

[壁 (あるいは額縁の下辺部) に弾力性という属性を加えたと考えてもよいし, 壁の (摩擦による) 傾き抑制機能を改良して, 振動を減衰させる機能を加えたと考えてもよいでしょう。] 


 
(27) 壁と額縁の下辺との摩擦は, 目立たないけれども, 掛けた額縁の安定性のためには大事な要素です。スライド(12)のように, 閉世界ダイアグラムの中にこのような副次的機能を追加して明記しているのが生きてきます。

一層の安定化のためには, この摩擦を大きくすればよいでしょう。その具体的なイメージをどんどん作りだし, 広げていけばよいのです。それらが, 「摩擦」の概念を越えて, 「粘着」, 「接着」, 「引力」, 「結合」といった概念に発展していくことを奨励すればよいのです。

(このように, 具体的に考えると同時に, 抽象的にも考えるというのは, TRIZの基本的な特徴ですし, USITが強く奨めていることでもあります。これは, 特許申請書を書くときにも必要な思考法です。)


 
(28) 問題のメカニズムの考察で (スライド(6)参照), 姑息に調整していた額縁ががたんと傾くとき, 釘の位置でひもが滑ることが分かっています。

それなら, この部分の摩擦を大きくしようというのが, このスライドの発想です。

釘の表面を粗くする, あるいは, ひもの材質を変えるなどの案が直ぐに出てきます。

ひもを扱う他の作業 (荷物を縛ったり, ロープで係留したり) を考えると, ひもを二重に巻くという発想が生まれてきます。これは釘の所での摩擦を増大させる効果的な案です。

(釘の機能として「重さを支える」というのはすぐに分かっていましたが, 「ひもを摩擦で保持する」というのは副次的な機能であり, ほとんど注目していませんでした。そのような副次的機能に気がつくと, それが新しい解決策を与えることが分かります。)


 
(29) 二重巻きにして, 困ることが一つあります。それは緩い状態で二重巻きにし, 調節したつもりで確かめてみると, 額縁が少し傾いている。この傾きを直すためにはひも全体をまた緩めなければならないことです。

この問題は, 「調節」の機能と「摩擦による保持」機能とを両立させることの難しさです。

この両立の困難は摩擦の属性に集約されます。調節のためには摩擦は小さい必要があり, 安定保持のためには摩擦が大きい必要があるのです。このような矛盾の顕れかたは, TRIZでいう「物理的矛盾」の典型例です。

この種の矛盾の解決には, 二つの要求を時間あるいは空間で分離すればよいと, TRIZは教えています。

このスライドはSickafusによる解決策です。釘の部分で空間的に分離し, 実際に調整するときと調整後とで時間的にも分離しています。

[解決技法としては, 滑らかな釘と粗い釘とを合わせたものとして, オブジェクト複数化法を適用したと見なすこともできます。]


 
(30) スライド(26)(27)で, 額縁の一部と壁とを粘着材などでくっつけるという案が出ていましたが, それならいっそ額縁全体と壁とがくっつくようにすればよいではないかという発想が出てきます。

Sickafusは, このような発想を大事にして, 「くっつく壁」といった「メタファ」にすることを薦めています。「メタファ」とはふつう「比喩」と訳されますが, ここでは, 日常の言葉 (またはイメージ)で語られている, 一般化した広い・緩い概念と考えるとよいでしょう。個別の具体案から,このような「メタファ」にすることが, USITでいう一般化の技法の要点です。

ここの「くっつく壁」のメタファでは, 完全な固定ではなく, 必要に応じて外せるような固定のしかたをイメージすることが大事でしょう。

[機能的には, 荷重支持/姿勢保持機能の分担を根本的に考え直すことに繋がっています。]


 
(31) くっつけるための方法の一つが, 磁石を使うことです。

このスライドでは, 釘に掛けるという発想がまだ生きていて, その釘と額縁との部分に磁石を使おうというアイデアです。

額縁に組み込んだ磁石と強磁性の釘の頭の面との間では,額の上下左右のわずかの位置調節や向きの調節は自由に行うことができ, そのまま固定できるから便利です。

(固定の強度, 特に荷重を支えることができるかは心配があります。いままでの支え方との併用などの配慮をすることが実際的かもしれません。)

[解決手法の点から言えば, いままで釘にも額縁にも引力のようなものは全くなかった所に, 磁性という新しい性質を導入したのですから, これが「属性次元法」において, Sickafusがいう 「属性の次元を拡大する」あるいは「属性を活性化させる」ということです。]


 
(32) 上記の案の改良として, 磁石をもっと大きくして, より安定にしようという発想です。

壁に取りつけるのは, 単なる強磁性の釘というよりも, 大きな面積の板状の部分をもったものです。

大きな面積で磁石を働かせて, それだけで安定に固定できるようにしようとしています。
 

[釘の属性として, 強磁性という属性を入れただけでなく, さらに釘の頭の面積という属性を有効利用して (面積の属性を活性化して) います。属性次元法の一つの典型的な発想法です。]


 
(33) さて, また問題のメカニズムの考察にもどると, 二つのフックの位置と額縁の重心位置との関係が問題であり, 特に, 二つのフックが対称の位置にあるかどうかが大事であることを思い出します。

すると, フックの位置を調節できればよいと気がつきます。

このスライドの案は, フックの軸をL字状に曲げて, その回転によってフックの有効位置を調節できるようにしたものです。

(この案は, フックを固定するためのネジ部分が, 固定のための締め付けと, 位置調整のための角度調整の二つの機能をもたされていますので, いままでの単純なネジではすぐに緩んでしまう危険があります。ボルト-ナットなどを用いて, 調節と締め付けの機能を分離しておくとよいでしょう。)

スライド(25)の案などもフック位置の調整に使うことができます。


 
(34) これは, オブジェクト複数化の方法を意識的に適用した例です。

釘1本でちょんと掛けようとしていた段階 (スライド (19)-(21)) で, 釘を 2本使えばよいと発想したものです。 

2本の釘を互いに水平な位置に打ちつけることは, 比較的容易であると思われます。これらの釘で水平の基準線ができていますから, これに額縁を直接的に掛ければよいわけです。(その具体的方法はスライド内の例のようにいろいろあります。)

最初のシステム (釘1本, フック2個, およびひも) から, ここにぽんと跳ぶことは難しいかもしれません。実際には何段階かで跳んでくればよいのです。その道筋は多様であり, 考える人によって違ってもかまいません。


 
(35) これは巧妙な案です。直前の案(スライド(34))があって初めてこの案が出てきます。

前記の釘2本の案は良い案ですが, 釘を2本打つのが難点です。(大した難点でなくても, それにケチを付ける人がいるものです。) 

そこで, 壁に打つ釘は1本に戻し, それでいて前記の案の 2本の支え (フック) のメリットを生かそうとして思いついた案です。

2本のフックがついた板を 1本の釘で壁に打ちつけると, 荷重を支えることはできても, 回転を抑えきれないだろうと思われます。そこで, フックの背後に小さな突起をつけ, これを壁に食い込ませて回転を抑えたのが, このスライドのSickafus案の巧妙なところです。

[各部分にどんな機能を分担させるかを考えて作りだした案であり, 機能配置法の考え方と言えるでしょう。]


 
(36) 前案の装置を壁に取りつける手順を考えますと, 二つのフックが水平になるように板の角度を確かめながら, 釘を最後に強く打ちつけるでしょう。

こう考えると, 水平を確認できるしくみをこの2本のフックのついた板にとりつけておこうと考えるのは自然です。そこで, 簡単な水準器を取りつけるというこの案が出てきます。
 

[これは, 水平確認の機能を付加したものであり, 機能配置法の典型的な考え方です。]


 
(37) 前記のスライド(36)の案で得た水準器の発想を, もっと積極的に使ってみようとして考えた案です。

2点が同じ水平位置になるようにする方法として, 連通管を思いだします。そこで, その両端にピストン状のものを作り, それで額縁の2点を支える構造を作り出しました。

(このような複雑な機構が実際にうまく働くかどうか, また, 作るだけの価値があるかどうかは, USITで多数の解決策を生成した後で検討すればよいことです。USITのこの段階では, 思いつく案をできるだけ積極的にイメージし, 書き記すことが望まれます。)
 

[水平を作る機能と重さを支持する機能とを統合したものであり, 機能配置法の考え方といえます。]


 


(38)

以上の解決策生成段階のまとめとして, 解決策の関連図をつくってみました。

分析段階での「定性変化グラフ」に記述された, 問題要因 (悪い効果と増大関係にある要因) および抑制要因 (悪い効果と減少関係にある要因)を, 左に四角で示しています。いろいろな解決策が, これらの要因の考察から出発していることが明瞭に分かります。

多数の解決策を右側に丸四角で示しています。( )内の番号はスライド番号です。簡素な単純な案が多数の案を生み出す土台 (Sickafusのいう「メタファ」)になっていることが分かります。技巧的な凝った案ほど右側に記されています。

解決策の間の矢印は中川が感じる論理的な関係性と順序を示していますが, こういった順番が実際に着想された順番と違っていることは大いにあることです。


 
(39) このスライドは, USITの解決策生成技法をまとめたもので, USIT教科書のおさらいです。

解決策の生成のためには, この(a)〜(d)の4種の技法を繰り返し使い, それぞれの案で(e)の一般化を考えるように, Sickafusは指導しています。

今回, 7月11-13日のUSITセミナーをし, また, 本件の原稿を執筆・推敲して, これらの解決策生成法の意味が自分でも随分分かってきました。上記のスライドのように, ある解決策を得るための解決技法は一つではなく, 複数の考えがあるのだというのは, Sickafusも示唆していることですが, これだけのスライドを作ってはじめて実感として理解したことです。

さらに, 私がいま, 改めて考えていることがあります。それは, この(d)の位置付けを変えるとずっとすっきりするだろうと考え始めたことです。

すなわち, USITでの, 主要な解決策生成技法は, (a), (b), (c)の3種だけだと考えます。USITの基本概念である,「オブジェクト, 属性, 機能」のそれぞれ対して解決策を考えるための指針を提供しているわけです。


 

 [注 (中川, 2001. 8.23) : 英語版に合わせて, このスライドを追加し, 説明を一部拡張しました。]

(40) このスライドに,USITの解決策生成プロセスの新しいスキームの案を示します。

従来との違いは, 従来の(d) 「機能連結法」がなくなり, 拡張されて名称を「組み合わせ法」 と改められて, この図のように「一般化法」と並列する位置に移動したことです。(より論理的にいうと, 最後の二つの方法は, 図のように, 「コンセプト一般化法」と「コンセプト組み合わせ法」と呼ぶのがよいでしょう。)

ここで, 「組み合わせ法」は, いろいろな解決策 (の要素) を, 組み合わせて用いるさまざまな方法を表しています。機能を継続的に (順次に) 使うこと [すなわち, 従来の機能連結法] はその一つです。 他にも, 二つ (または複数) の解決策の要素を, 併用・切り換え・折衷・ハイブリッド・組み込み・入れ子・ 順序逆転などにより, いろいろ組み合わせる方法を含めればよいでしょう。

このようにして, この新しいスキームでは, 3種の方法がオブジェク ト, 属性, 機能にそれぞれ作用して, 新しい解決策のコンセプト (あるいはその要素) を作り出し, ついで, それらの解決策 (の要素) たちに対して, 二つの方法が一般化と組み合わせとを行うのです。これらの5種の方法を繰り返し適用することによって, 複数の (多くの) 解決策コンセプトを確実に生成できるでしょう。**

**  私もまた, 解決策生成技法に関してフローチャートの構成をいろいろ考えました。しかし, まだ, どれが良いという段階にありません。その理由は, そのフローチャートを用いたことが有用であったと確信させるような, 新しい解決策の事例を十分得ていないからです。フローチャートでの重要な点は, その [フローチャートに描かれているプロセスの] 構造が [分析者の] 心をどのように促すのかです。

 

以上のように, Dr. Sickafusのこの問題をもう一度きちんと学習して自分の言葉で説明してみまして, 学んだ事が沢山ありました。USITの問題解決の考え方の本質が自分にも段々はっきりしてきたように思います。私自身もいままであまり多くの適用例をもっていませんでしたので, それらの例に依存しすぎた説明のしかたになっていたところがあったことを反省しています。USITの教科書の例も, その後の実地適用の例も一つ一つを深く学び, 本質を抑えつつ臨機応変に適用することの大事さを改めて実感したしだいです。**
 

**  額縁掛けの問題で講義のためのスライド一式を作る努力が, あなたのUSITの理解に大きな利益を与えたことが, 私にはよく分かりました。私が思っていますのは, USITのトレーナーを要請するコースで最も大事な二つの演習は, 問題解決の一つのデモのスライド一式を作ることと, リバース・エンジニアリング [すなわち, 跡づけ] の演習をすること (例えば, 私のWWWサイトに載せた「シシリアの台車」の事例を参照) です。

 
本ページの先頭  1. 問題の定義  2. 問題の分析  3. 解決策生成  Sickafusの教科書問題の和訳  English page

 
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最終更新日 : 2001. 8.23    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp