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研究活動

平成23年度第3回研究会                 実施:2012年3月21日



 

平成23年度の3月21日に早稲田大学で行われた第3回研究会において、共同研究者のハイダル・オライビ氏(イラク考古総局職員・国士舘大学大学院グローバル・アジア研究科博士課程)による講演と質疑応答が行われました。この講演を通して、オライビ氏により、イラク考古総局が手がけたウム・アル・アカリブでの発掘について、パワーポイントによる遺跡の映像をはじめとして、さまざまな情報が私たちに提供されました。ウム・アル・アカリブは、シュメール時代の都市ウンマ(イラク南部)の中心から南南東の方角約7kmのところに位置した古代遺跡です。オライビ氏の講演は、日本ではまだ知られていない多くの情報を含んでおり、とても貴重なものでした。以下で、その講演について振り返ってみたいと思います。


故ドニー・ジョージ教授の指揮により、ウム・アル・アカリブの発掘が始まったのは、1991年のことでした。その頃既にイラクの古代遺跡の多くは盗掘が相次いでいたので、この最初の発掘自体さらなる盗掘を食い止める意図で始められたようです。講演においては、まずこの90年代に行われた8度にわたる発掘の概要が以下のように述べられました。
最初の発掘によって、遺跡北部に西から東へと古代の運河が走っていたことが確認されました。運河はこの町の水利施設に大きな影響を与えていたようです。煉瓦で造られた大規模な井戸も発見されました。この井戸は地表から6mの深さまで発掘されていますが、更に深く続いていたことが確認されています。用水路も町に張り巡らされていたようで、代表的なものとして、20cmの直径のある排水用のパイプが発掘されています。この町を取り囲んでいた市壁の一部も、63mの長さに渡って第一次の発掘で出土しました。壁は日乾レンガでできていました。また、極めて良く計画された街路の跡も出土しています。大型建造物としては、初期王朝III期に属する宮殿が発見されています。少なくとも16本の柱を持っていた壮大な神殿の痕跡も見つかっていますが、初期王朝III期に属するものとしてはシュメールで最大の規模を誇ります。この神殿からは、ラガシュのエンシ、エンメテナと刻まれた碑文が見つかっています。この時代、何故に、ラガシュの影響がウム・アル・アカリブに及んでいたかは解明が待たれるところです。祭壇もいくつか出土しました。第七次の発掘では、レンガの上にアスファルトが塗られた入浴施設も見つかっていますし、初期王朝期の墓地もこの時期の発掘によって見つかったものの一つです。


加工された石と加工道具が発見された部屋は、第四次の発掘の際に見つかったのですが、出土品から考えて、この工房は神殿への奉献品が制作されていたであろうと考えられています。円筒印章が何点か出土したのも、この第四次の発掘に際してでした。文字資料については、上述の碑文以外にも、約30点の粘土板が出土しました。そのほとんどが行政経済文書ですが、3点の語彙リストもそのなかに含まれることは特筆に値するでしょう。

 © Abdulamir Hamdani & Italian Carabineer

講演の後半でオライビ氏は、2003年以降に再開され、氏もその中心を担った第九次と第十次の発掘について情報を提供してくださいました。2003年まで、発掘が一時中断を余儀なくされていた間にも、盗掘が進んでいた跡が認められたということです。その中には4mの深さに渡って盗掘用の穴が掘られていた事例もありました。そのようななかで、二回にわたる発掘は、以下のような成果をもたらしました。


重要な建造物としては、瀝青の保管庫と穀物貯蔵庫が見つかり、後者においては円筒印章も出土しました。全部で350ほどが見つかった墓に関しては、代表的な二基についての紹介がありました。一基からは、青銅器製の副葬品が出土しましたし、75もの副葬品が出土している墓もあります。大量の副葬品が見つかったこの墓には、二体の遺体が埋葬されていましたが、この二体は母子であったらしく、母親はラマッスの円筒印章を持っていました。また別の墓からは、甕の中に収められた子供の遺体も発見されています。二回に渡る発掘によって出土した遺物は豊富でしたが、特筆すべきものとしては、土製の戦車風の玩具が見つかっています。また青銅製の斧も出土したとのことでした。


以上の発掘報告は、私たちの調査の対象であるイラクの古代遺跡の生の姿を伝えるものです。ウム・アル・アカリブの運河や水路の状況がさらにわかってくると、塩害との関係で私たちの研究にも示唆を与えてくれるかもしれませんし、文字資料の解読が進めば、まだ知られていない農業関係の情報が得られるようになるかもしれません。そのような期待を抱かせてくれるような講演でした。正式な発掘調査の報告が切に待たれます。

                                               (井 啓介)

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