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研究活動

平成24年度 第1回研究会                 実施:2012年6月30日



平成24年度第1回合同研究会が「イラク古環境・スレイマニヤ共同研究」のテーマで、6月30日土曜日の午後、14時から17時まで行われました。場所は全回と同様、早稲田大学理工学術院(西早稲田キャンパス)の環境資源工学科会議室でした。出席者は、研究代表者の大阪学院大学の渡辺千香子氏、早稲田大学の内田悦夫氏、慶応義塾大学の高井啓介氏、国立科学博物館の辻彰洋氏、国士舘大学で研究をしておられるイラク出身のハイダル氏に加え、今回はアッシリア王碑文がご専門の筑波大学、山田重郎氏が出席してくださり、活発な討議が行われました。

 

最初に渡辺先生より1)研究メンバーの紹介があり、これまでの研究の経緯の説明が行われ、続いて、2)平成23年度の大英博物館調査の報告の概要を渡辺氏より、また同調査における粘土板に含まれる珪藻の分析の技術的課題について、辻氏より報告が行われました。また後半は3)本年度の研究計画について話し合われました。
 
大英博物館での粘土板調査については、辻氏、渡辺氏が2012年3月12日から16日に博物館を訪れ、Anke Marsh、Jon Taylor、Mark Altaweelの各氏の協力を得て行われました。博物館に所蔵されている粘土板を資料として使うことがいかに困難なことであったか、御苦労がしのばれます。すでに2008年から申請していて、2011年に書類を書き換えて、さまざまな条件を付けられてようやく可能となりました。5000年以上の時を経た粘土板をわずかに削り取り、その中から珪藻を探し出すということで、博物館側もその調査のプロセスを厳重にチェックしながらの許可でした。辻先生が顕微鏡の入ったスーツケースを博物館内に持ち込み、博物館員が見つめるなか、ようやく調査許可が出ました。


また調査期間中、3月15日にはBritish Museum Middle East Lunchtime Lecturesで報告の機会を得て、大英博物館関係者を対象に、「A project ‘Ecohistory of salinisation and aridification in Iraq’: The challenge to reconstruct palaeoenvironment through clay tablets」とのテーマで、このプロジェクトの紹介 と3日間の成果報告が渡辺氏より行われました。


続いて、辻氏による粘土板に含まれる珪藻分析の技術的課題についての報告では、いかに粘土板から珪藻を見つけ出すか、その方法の説明が行われました。珪藻には表面に襞がついていて、その数から淡水性のものか、海水性のものかが同定でき、当時の古環境の塩類集積の様子を推定する手掛かりとなります。淡水に生息する珪藻は大半が2ミクロン程度の大きさで、粘土板から削りとったわずかな資料を水で処理し、ろ紙で受け止めて、それに付着した珪藻を顕微鏡で見出す作業を行います。ミクロのレベルの分析だけに、空気中の珪藻が紛れ込む可能性があったり、資料中の密度が低く見出しにくかったり、あるいは顕微鏡観察以前の前処理で失われてしまったりなど、さまざまな困難が伴い、分析技術の精度を高めることが求められます。サンプル数を増やし、統計処理できるところまで持ち込むことが今後の課題となります。


以上の報告2題のあと、最後に本年度の研究計画について、@イラク南部「河の泥プロジェクト」、Aエール大学における調査、Bウイーン大学における文献調査、C大英博物館における調査(珪藻)、D大英博物館における調査(化学組成)、Eスレイマニヤ調査について、時期ならびに参加者の確認などが行われました。


14時から17時までの息つく暇のない、タイトなスケジュールで行われた合同研究会ですが、熱のこもった活発な討議、意見交換が行われ充実した午後となりました。その後、暑さが幾分和らいだ夕刻、西早稲田キャンパスから近くの韓国料理店に場を移し、ビールを飲みながらの楽しい懇親会をもって今回の合同研究会は幕を閉じました。            (三輪信哉)



   
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