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研究活動

国際学会「クルディスタン地域の考古学研究」(於アテネ)
                           実施:2013年10月31日〜11月5日



2013年11月1〜3日、アテネ大学(ギリシャ共和国アテネ)で開催された「イラクとその隣接する領域のクルディスタン地域における研究会議Archaeological Research in the Kurdistan Region of Iraq and the adjacent areas」へ出席し、本研究「スレイマニヤ博物館収蔵の楔形文書の産地同定とティグリス河流域の地質学的研究」の分析調査成果について、研究代表者(渡辺千香子)の代理として報告した。題目は「Philological and Scientific analyses of cuneiform tablets housed in Sulaymaniyah Museum」であった。発表中、会場からの目立った反応は、外務省海外安全ホームページに公開されている「危険・スポット・広域情報」のほぼ真っ赤に塗られたイラクの地図を見せたときであった。ドホーク、エルビル、スレイマニヤ地域はいずれもオレンジ色(渡航延期勧告の対象)となっているが、本会議に参加していた他国の大勢の研究者が調査しているのはこれらの地域である。失笑に近い反応が印象に残り、実際にわれわれ研究者が身をもって現地調査を行なって、その安全性を日本政府に訴えていく必要を改めて痛感した。
同時に、自身の発掘調査の成果についても「Excavations of the Chalcolithic Levels at Salat Tepe on the Upper Tigris, Southeastern Anatolia」という題目で発表した。2010年よりトルコのサラット・テペ遺跡で現地研究者とともに共同発掘を継続しており、本遺跡はウルス・ダムの水没予定地域に位置している。これまでの発掘調査により、メソポタミアの銅石器時代、すなわち都市文明形成期の物質文化を層位的に確かめることができた。当該地域は、これまで考古学的に良く分かっていなかったので、さまざまな議論の出発点となる編年構築を目指している。
さらに、アテネで会議に参加した後、11月4〜5日、ドイツのヘルネに寄り、LWL考古学博物館で開催されている「ウルク遺跡発掘展Uruk-5000 Jahre Megacity」を見学した。もともとベルリンのペルガモン博物館で開催されていた特別展が地方に巡回したものである。当初、マンハイムで行なわれる予定であったが、急きょヘルネに決まったとドイツ在住の友人から聞き出して、フランクフルトからドイツ新幹線で日帰りした。強行したかいがあって、メソポタミア都市文明の基層となったウルク遺跡の発掘調査に関する貴重な情報を収集することができた。とくに近年の建築技術に関する再検証では、ウルク遺跡の主要建物の一部には焼成レンガが使われていたらしいことが公表されていたのがとても興味深かった。
今回の出張により、さまざまな地域・分野の研究者と貴重な情報交換することができた。アテネの国際会議に参加していた多くの研究者から得た手応えとして、スレイマニヤ地域は安全であり、考古学的調査をするには恰好のフィールドであるということだ。一刻も早く、日本から発掘調査隊が派遣されることを強く願う。                 (小泉龍人)



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