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研究活動

ウィーン大学文献調査            期間:2014年8月29日〜9月2日



昨年の文献調査は2013年8月上旬に行われた共同研究に際しては、ウィーンは記録的な熱波に襲われ、観測史上最高の39.9度という気温を記録していました。ワークショップは、ウィーン大学のゼルツ教授との共催により、ウィーン最古の修道院ショッテン教会のベネディクトゥス・ハウスにおいて開催しました。8月15日は「聖母マリア被昇天」の祝日で、カトリックの伝統が強いオーストリアでは休日です。そのため、ミサのたびに窓の外で鳴りひびく大音響の鐘の音で、発表がたびたび中断されましたが、ワークショップ自体は時間制限なしに行なうことができたため、非常に充実した意見交換の場となりました。

さて今年ですが、ゲッパート・ゼルツ教授(ウィーン大学オリエント学研究所)とのウィーンでの共同研究はもう四回目となります。ウィーンの森の小さな町アイヒグラーベンにあるゼルツ教授のご自宅の仕事部屋が今回もその舞台となりました。昨年の共同研究は最初に述べたように、歴史的な猛暑にウィーンが見舞われたことや、ゼルツ教授の健康状態が優れなかったことなどもあり、ワークショップ開催にもかかわらず、文献研究が少々滞ったところがありましたが、今年は一転して非常に充実した四日間の研究日程を消化することができました。

シュメール人たちは耕地の塩化に対して、本当になすすべもなくその状況を放置し、その結果耕地を捨て去り、新たに別の土地を開拓せざるを得なくなったのか。また、小麦から大麦へと作付が変化したのは、本当に塩化に対応したものだったのか。そのような素朴な疑問から出発した文献研究でした。わたしたちは、シュメール初期王朝期(紀元前25世紀)に時代を限定し、都市国家ラガシュにおいて塩害がどのように認識されていたか、そして灌漑技術が塩害という状況にどのように対処したかについて、テキストから証拠を集めてきました。とくに今年の耕地の状態を表現したシュメール語の語彙を丹念に拾い上げ、それぞれに注釈を加えることを行っています。また塩化が進行する状況へ対応したいくつかの可能性についても議論を進めています。さらにはこれを機会に、いまだ正式な形では出版されていない、塩害と塩害への対応を論じる際に重要ないくつかのテキストの校訂をも進めています。最終的には、渡辺千香子氏を加えて三人で分担する共著論文のかたちで2015年の秋頃の完成を予定しています。引き続き次回のニュースレターにおいてその詳細をご報告できればと思っています。

ロンドンでのワークショップを終えて移動してのウィーン共同研究でしたが、とても充実した時間となりました。帰国時にロスト・バッゲージに遭遇するというエピソードに見舞われたこともまた思い出に残る夏のひとときとなりました。            (高井啓介)