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研究活動

高野山における窯元訪問と二国間共同研究



陶芸家の森岡成好さん・由利子さんとの出会いは2014年に遡る。大学の 同僚からもらった展覧会のパンフレット「森岡成好と仲間達展」に、ご夫 妻とお弟子さんたちの作品が紹介されていた。陶芸にはまったく無知なが ら、11人の方々の作品とプロフィール・窯の写真を見た時、一人ひとりの 焼き物へのこだわり、土を慈しむ心、そして土の特性を最大限に引き出そ うとする強い思いが伝わってきた。古代メソポタミアの書記がいかにして 粘土板を作っていたのかという課題と取り組む中で、森岡ご夫妻のご経験 と叡智から、いつしか粘土板製作のヒントを学ばせてもらいたいと願うよ うになった。翌年春、厚かましくも高野山ふもとの森岡邸をお訪ねし、同 年秋に計画していた二国間共同研究の一環として、窯元の訪問ならびにメ ンバーと森岡さんご夫妻との交流の機会を持ちたいことをお願いした。ご 夫妻は、初対面だった私を暖かく迎え入れ、こちらの勝手な願い出を快諾 してくださった。古代の土器に興味をお持ちとのことで、所蔵しておられる南米の土器片などを見せてくださった。

2015年11月、英国側メンバー5名(M.アルタウィール、J.テイラー、J.メルケル、J.ジョゼリ、A.マーシュ)ならび にオーストリアからシュメール学の研究者1名(G.ゼルツ)が来日した。1週間にわたり、研究会や国際公開シンポジ ウム(別記)などの予定を組み、週 の前半は京都、後半は東京を拠点と して、東京に移る前に高野山を訪問 する計画を立てた。アルタウィール さん(ロンドン大学UCL)、テイラー さん(大英博物館)、そしてゼルツ さん(ウィーン大学)は、2008年に 地球研でシンポジウムを開催した際 にも来日してもらった。彼らはそれ 以来、大の京都ファンである。今回 は、高野山ふもとの森岡邸で見学さ せてもらった作陶の窯と周囲に広が る里山の風景、弘法大師ゆかりの高 野山で過ごした時間が特に印象に残 ったようだった。高野山宿坊では、 森岡さんのお弟子さんたちにも研究 会にご参加いただき、忘れられない 想い出となった。

2016年春には、私は再び一人で森岡邸を訪れ、念願の窯焚きを見学させてもらった。火入れから既に8日目を迎えて おり、窯の内部の温度は1100度を超えるまでになっていた。24時間つきっきりで火力の調整が行われ、大入れの時に は特に大量の薪をくべるため、登り窯の開口部から炎が激しく噴き上が る。火入れに先立つ数日間は、奥まで8段に区分けした窯に毎日1段くら いずつ器や壺を隙間なく積み上げる作業が行われる。奥の8段目から手 前の1段目まですべて詰め終わったら、最後に窯の開口部をすべて閉じ て土で塗り固め、「捨て焚き」と呼ばれる最初の火入れを行う。徐々に 火力を強め、全行程10日間の焼成期間を経て、森岡さんの器は焼き締め られる。炎が生き物のように立ち昇る夜の窯の景色はどこか現実離れし て、太古の昔から、人々はこんな風に身を寄せ合って火をみつめていた ような遠い記憶が甦る気持ちになった。森岡さんはほぼ毎日のようにブ ログを更新され、作陶の記録を公開しておられる(https://shigeyuri.net/)。この時以来、私もご夫妻の動向をブログでフォローし、 離れていてもご夫妻の深い人間性と愛情をいつも心のうちに感じつつ、 感謝の思いでお二人の焼き物を手にしている。  (渡辺千香子)