提言:IT革命を実現させる電波政策を

「電波資源の配分にオークションによる競争を導入して効率性を実現し、創意工夫と新機軸を喚び起こそう」

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2001年1月●日

 

提言

1.(競争導入のためにオークション採用の検討開始を)

2.(付加提言:電波資源に関する情報公開の検討開始を)

 

背景

電波は来たるべきIT社会の最重要資源の1つである。従来の傾向を延長して考えると、二十一世紀の生活とビジネスは、電波に囲まれ、電波に支えられて営まれることになるだろう。最近数年間における携帯電話の急速普及は、そのはしりにすぎない。電波資源を有効に活用できるか否かは、IT革命成否の鍵である。

これまで電波資源は、江戸時代以前の日本や、開拓時代の米国における土地資源と同じく、供給が需要を上回っていた。電波管理の任にあたる政府当局は、有り余る電波を、混信や妨害が起きないように「周波数帯域」に区分し、これをユーザに割り当てる(無線局免許を発行する)だけで済んでいた。

しかしながら、IT技術の進歩によって電波の利用が増大した。現在すでに、制度的には余分の電波がほとんど無い状態である。電波資源に対する需要は将来さらに増加するから、現状のまま推移すれば、「電波が利用できないため、新しい技術やサービスが現実のものにならない。」状態に立ち至ってしまう。われわれは、希少な電波資源の配分について、従来の方策を根本的に検討する必要に迫られている。

これまで日本では、電波の割当は政府当局の裁量に拠っていた。最近になってごく部分的に「比較審査」が導入されたが、潜在的にはともかく、表面的に無線局免許申請に競合が生じることはほとんどなかった。また電波利用料が徴収されていたが、多くは電波資源の実質価値をはるかに下回っており、それが電波資源の配分に影響することはなかった。電波が有り余る時代においては、この方式が電波資源の利用効率を阻害することは生じなかった。

しかしながら、電波が希少化するにともない、非効率な使用が増大しつつある。現在でも、土地資源にたとえれば、「高層ビルの建ち並ぶビジネスセンターの谷間に田畑が残っている。」「山間僻地にデパート、スーパー、ショッピングモールが建設されている。」状態が、電波資源について生じつつある。これらの弊害は、旧来の電波割当方式が電波の使用者側に既得権を生じ、効率的な利用に必要な電波資源の転用・再割当がほとんど行われなかったからである。

政府当局による旧来の割当方式は、ビジネス創造や新技術・新製品の開発の面でも、マイナスの効果をもたらしている。電波の割当が政府当局の裁量に拠っているため、新しいビジネス方式や新しい技術を開発しても、必要な電波の割当を受けることができないリスクが伴う。その結果、開発に着手する動機自体が失われてしまう。また、電波資源の割当の詳細に関する情報(どの電波資源を、誰が、何の目的に、どの程度使っているか)が非公開であるため、中小メーカー・ベンチャー型のメーカーは、どの電波資源について新製品の開発機会があるかについての判断がつかず、結局開発意欲自体が生じないことになってしまう。なおこれらの点は、電波という社会共有の資源を必須要件とするビジネスや製品の特殊事情である。この制約が存在しない一般の製造業と比較して、新機軸・新技術の創出環境が異なるのである。

また、旧来の割当方式には以下のような批判がある。第1に、国民共有の電波という資産を、適正な対価を徴収することなく私企業に使用させていること、つまり富の一方的移転を伴う不公正・不公平な配分であると批判されている。また第2に、旧来の方式は既得権益を発生させ、腐敗・癒着など不祥事の温床になりやすい欠点を持っている。

IT技術の急速な進歩と電波資源の希少化の事実を、上記のような現制度の欠点と併せ考えれば、電波資源配分制度の改革の必要は明らかであろう。

諸外国の現状を見れば、米国をはじめとする先進諸国の過半では、競争導入を軸とする電波制度の改革が進行中である。米国では1993年の通信法改正以来、パーソナル移動電話(PCS)、直接衛星放送(DBS)、次世代移動電話(3G)等に必要な電波の割当がオークションによって実施され、あるいは進行中である。またヨーロッパ諸国では、2000年中に次世代移動電話(3G)のオークションが実施された。これらの諸国では、電波価格の高騰をはじめとするいくつかの問題はあるものの、オークションが競争促進と新ビジネス・新技術の創出のためにプラスに働いたと判断している[1]。

日本は、これら諸外国の経験を参考にしつつ、「後発の利益」を生かしながら改革を進めるべき位置にある。

 

電波資源のオークションによる配分について

政府による直接割当がもたらす上記の欠点を是正し、電波資源の効率的使用と電波を使用するビジネスの成長を達成するためには、電波資源をオークション下の競争によって配分する必要がある。基本的視点は、電波資源を、「それに対して最高の価格を支払うことができる企業」、つまり「消費者・ユーザによって最も高く評価され、最大利益を実現できる企業」に配分すること、つまり「資源の競争的配分」である。オークションは競争的配分のための1つの手段である。電波のように供給量が固定され、かつ(政府によって)独占的に供給されている場合には、オークションは競争的配分を実現する唯一の手段である[2]。

電波オークションは、旧来の政府割当方式と比較して、下記のような利点をもたらす。

1. 電波資源の効率的な配分を実現する(国民全体が電波から得る便益を最大化する)。

2. 電波を使用する産業への新規参入の可能性を広げ、競争を促進して消費者の利益を高める。

3. 電波を使用する企業間で公平・公正競争を実現する。

4. 富(電波資源)の一方的・不公正な移転を防ぎ、既得権の形成に伴う腐敗等の可能性を低める。

5. オークションの実施は、実施対象である電波資源の使用に関する情報公開を伴うので、事業者側の不確実性・リスクを減らし、ビジネス創意・技術開発の動機を高める。

なお電波資源をオークションによって配分する場合には、同資源の二次的な譲渡・売買(リセール)を認めるのが通例である。リセールを認めない場合と比較して、上記と同様の議論が成立するからである。さらに、電波資源に関する先物取引、オプション取引についても同様である。

もとより、電波資源のオークションによる配分については、政府の直接割当による配分と比較して短所も存在する。そのうち広く知られているのは、「オークションによって電波を使用する企業の費用が増大するので、これが消費者・ユーザに転嫁されるのではないか(価格転嫁の問題)」と、「オークション時の勝敗の差(Winner’s curse)、オークション時の不確実性や予測の誤り等から落札価格が高騰するのではないか(高落札額の問題)」であろう。

価格転嫁の問題については、専門家の間でも所説が分かれている。電波が直接割当によって無料(あるいは低使用料)で配分される場合と、オークション配分される場合を比較する。落札額はすべて固定費用として電波を使用する企業側の負担となり、消費者・ユーザには影響しないとする説がある。他方、落札額の少なくともかなりの部分が消費者・ユーザの支払う価格に転嫁されるとする説もある。実際には、電波を使用して供給される生産物・サービス(たとえば携帯電話サービス)の市場で企業がどのように競争しているか(あるいは競争していないか)により、また同生産物・サービス価格(携帯電話端末料金、毎月の使用料単価)の変動に対して消費者・ユーザがどの程度反応するか(需要の弾力性)によって、転嫁の有無と程度が決まる[詳細については付属資料1(UC)を参照されたい]。

第2世代携帯電話のケースのように、シェア拡大のために事業者が利潤を犠牲にして価格引き下げ競争をおこない、かつ携帯電話ユーザ側の需要が根強く、高低いずれの価格においても相当数の消費者が購入に走った(もちろんサービス内容を考えた上で安い事業者のサービスを選択して)場合(つまり需要がかなり非弾力的の場合)において、もし電波がオークションによって配分されていたならば、落札金額の全部ではないにしても相当部分が、消費者・ユーザの負担になっていたであろう。

ただしもちろん、オークション落札金額は政府収入の一部となり、政府の財政収入総額を一定とするならば、同金額の分だけ減税できることに注意されたい。つまり、オークションによる消費者・ユーザの負担は、金額的には減税分として相殺されるのであるから、(消費者・ユーザ相互間の負担の変動はあっても)全体としての純負担増は無いと結論できる。

次に高落札額の問題については、昨年の英国・ドイツでの電波オークションの経験が話題になった。ただし英国・ドイツ以外のヨーロッパ諸国では、落札額ははるかに低かったとのことである。ヨーロッパのオークションは、2000年春に英国から始まって各国を一巡したが、オークションに参加する事業者の多くは同一資本系統に属しているので、当初の英国・ドイツのオークションで資金を使い果たしたものと説明されている。その結果、事業者については国ごとの高・低落札額が平均されるが、それぞれの国においては、消費者・ユーザと政府間の「相対的負担」に差が生じたことになる。

いずれにしても、米国・ヨーロッパ諸国で実施された種類の電波オークションについては、さまざまな理由で落札価格が「異常に」高騰する可能性があること、そしてその結果消費者・ユーザの負担が大きくなる場合があることは否定できない。(本提言においては、この欠点を避けるために「リース・オークション」(後述)を提案する。)

次に電波オークションの短所、あるいはそのために支払うべき費用として、オークションの実施費用を挙げなければならない。オークションを公正・円滑にかつ事故なく実施するためには、法制面・行政面で周到な準備が必要であり、そのために費用負担が発生する。しかしながら、この費用は、「オークションがもたらすのと同一程度に効率的な電波配分を政府の直接割当によって実現するための費用(社会主義的計画費用)」よりもはるかに低いので、オークションによる電波資源配分の効率化と比較すれば、充分以上にお釣りが来る。

最後に、米国・ヨーロッパ型の電波オークションの重大な問題点を指摘しておきたい。それは、「電波の半ば無期限の使用を有償で認めることから生ずる硬直性」である。米国においても、ヨーロッパ諸国においても、オークションによって入手した電波使用権(免許)の期限終了後の更新については、更新時に再度オークションを実施することが明示されなかった。そのため、当初のオークション時に、「オークションによって入手した免許は、オークションを経由しない更新が可能であり、これを繰り返すことによって半永久的な使用権が入手できる。」とする期待を生じさせ、このことが落札金額が高騰する原因の1つにもなった。

しかしながら、「電波の半永久的使用権が実質上成立すること」は、将来における電波資源の効率的利用について重大な障害をもたらす。電波資源は隣接する帯域間でプラスの外部性を持っている。そのため、土地資源について繰り返し経験したように、将来新しい利用技術の出現に応じて一部の電波を「収用」することが、国民全体にとって大きな便益となる可能性が充分考えられるのである[3]。そのとき、電波の「半永久的使用権」が実質上成立していれば、収用時の「ゴネ得」等のトラブルを防ぐことができない。米国・ヨーロッパ諸国においては、電波オークション制度の発足を急いだためもあって、この点に配慮する余裕が無かったものと推測される。(本提言においては、この欠点を避けるために「リース・オークション」(後述)を提案する。)

 

「電波資源の配分にオークションを採用し競争を導入するべきである(提言)」

上記のように、オークションには欠点もあるが、それはオークションがもたらす長期的な利点と比べればはるかに小さい。とりわけ、「修正リースオークション(Modified lease auction: MLA)」[詳細については付属資料2(UC)を参照されたい]の採用により、米国・ヨーロッパ諸国の(ストック)オークションの欠点を避けながら、競争の利益を実現することができる。具体的には、リースオークションによって、落札金額の高騰や、実質的永久使用権の成立を避けることができる。他方旧来の電波割当方式では、非効率状態を是正できず、また競争と新規参入のもたらす利益をほとんど活用できない。IT革命を早期に実現するため、政府は下記の方策を採用するべきことを提言する。

1. 電波資源のオークション(「修正リース・オークション」を含む)による配分(新規免許と期限終了時の既存免許の双方を含む)を実施するための検討を開始すること。

2. 同検討に衆知を集めるため、組織的な「パブリックコメント」用プラットフォームを設立すること。

3. 電波オークションのための法規定の改定・整備の原案を作成すること。

4. 電波オークション代金(周波数リース料)収入の取扱いと、オークション実施機構・実施予算について検討を開始すること。

5. 電波オークションを適用するべき周波数帯を指定し、適用順序と適用時点を特定するための検討を開始すること。なお、本項については下記の原則に従うことが望ましい。

a.      同一事業にかかる新規免許のオークションは、既存免許の更新分のオークションに先立って実施する。

b.      同一事業・類似する事業のための周波数は、なるべく近接した時点でオークションを実施する。

c.      営利性の高い事業のための電波オークションは、それが弱い(公益性が強い)事業のオークションに先立って実施する。

d.      落札金額が低いと予測される周波数帯のオークションは、それが高いと予測される周波数帯のオークションに先立って実施する。とくに落札金額が低いものを実験的に早い時期に実施する。

 

「電波資源を競争的に活用するために、『無線局免許内容を保有するデータベース』を一般に公開するべきであり、政府当局はそのための検討を開始するべきである(付加提言)」

 

 電波資源の効率的な利用は、IT革命の成否を長期的に決定する要因であるが、それを短期的に決定する要因ではない。今すぐにオークション導入に踏み切らなくとも、急激な問題は生じない。したがって、「オークションの導入はまだその時期ではない。」として先延ばしにする動機は強い。しかしながら、90年代後半の金融問題について経験したように、長期的・構造的な問題への取り組みの先延ばしは、国力を弱め、将来世代の経済基盤を弱体化する。本提言は「オークション採用の検討」を主張している。検討自体を先延ばしにして、「電波資源の失われた十年」にならないことを望むものである。本件に関する権限と責任を持つ政府当局が、勇気と英知をもって事に当たられるよう要望する。



[1] たとえば米FCCのリポート

[2] 電波オークションは、電波資源の供給独占から生ずる問題(独占的高価格など)を解決する。しかしそれは、電波の使用企業がその生産物・サービス市場において独占力を発揮する(たとえば電波資源の供給量の大部分を入手することにより)ことを解決しない。この問題の解決には、別途措置(たとえばオークションで落札できる電波資源のシェアに制限を加える、など)が必要である。

[3] 米国において、すでに第3世代移動電話用の電波「収用」の必要が、生じていると報告されている。