提言:IT革命を実現させる電波政策を

「電波資源の配分にオークションによる競争を導入して利用効率を上げ、

創意工夫と新機軸を喚び起こそう」(仮題)

2001年1月●日

 

提案者

『学術振興会未来開拓推進事業「電子社会システム:電子社会と市場経済」プロジェクト(略称ITME)』内の『経済政策サブプロジェクト(略称:ITME-EPSP)』

 

共同代表

奥野(藤原) 正寛(東京大学大学院経済学研究科教授)

鬼木 甫(大阪学院大学教授, 大阪大学名誉教授)

 

研究会メンバー(五十音順)

池田 信夫(国際大学グローバル・コミュニケーション・センター教授)

今井 賢一(スタンフォード大学日本センター理事長, スタンフォード大学教授)

小檜山 賢二(慶應義塾大学政策・メディア研究科教授)

田中 辰雄(慶應義塾大学経済学部助教授)

林 紘一郎(慶應義塾大学メディアコミュニケーション研究所教授)

安延 申(スタンフォード大学日本センター研究部門所長)

事務局:中泉 拓也(東京大学大学院経済学研究科大学院研究生)

 

共同提案者(順不同)

氏名(所属、職名)


提言概要

1.(競争導入のためにオークション採用の検討開始を)

2.(電波再配置システムのための検討開始を)

3.(電波資源に関する情報公開を)

 

背景

電波は来たるべきIT社会の最重要資源の1つである。電波利用技術の進歩によって、現在われわれは、10年前には考えられなかったほどの利便を享受している。二十一世紀の生活とビジネスは、いわば電波に囲まれ、電波に支えられて営まれることになるだろう。電波資源を有効に活用できるか否かは、IT革命実現の1つの鍵であると言っても差し支えない。

政府の「IT戦略会議」は昨年末に、「超高速ネットワークインフラ整備及び競争政策」をはじめとする「IT基本戦略」を発表した[1]。その中でも光ファイバーによる「最後の1マイル」、すなわち超高速アクセス系の建設は、最後まで残る難問である。電波は、容量、建設費用、移動・ワイヤレス使用などの点で、光ファイバと補完的なアクセス手段である。電話線ISDNの数百倍の速度のアクセスが可能な高速無線インターネットは、ADSLやケーブルテレビによるアクセスと並んで、高速インターネット・アクセスとしてはさしあたり最短距離にあり、その実現は必要な周波数が利用できるか否かにかかっている。また、これは同時に、最後の1マイルにおける有効な市場競争を喚起し、結果として、IT基本戦略を実現していくうえでの有力なツールでもある。

 

電波利用の歴史と現状

電波の利用が始まってから約100年になるが、最近までの電波資源は、たとえば江戸時代以前の日本や、開拓時代の米国における土地資源と同じく、新しいフロンティアが次々に開拓され、供給が需要を上回る状態にあった。その時々の新技術によって、新たな電波資源の利用法がもたらされたのである。

電波管理の任にあたる政府当局は、混信や妨害が起きないように電波を「周波数帯域」に区分し、これをユーザに割り当てる(無線局免許を発行する)だけで済んでいた。電波のユーザである企業等は、割り当てられた周波数帯を使い、免許期限が来ればこれを更新するだけでよかった。電波資源の供給が需要を上回っていたので、電波は、たとえば大洋を航海する船舶にとっての洋上スペースのように「自由財」であり、電波資源の実質価格はゼロで、電波を無料で利用することに何の差し支えもなかった。

しかしながら、最近の顕著な技術進歩によって電波の利用が増大した結果、電波の自由財時代は急速に終わり、今や電波は稀少資源になりつつある。しかしながら電波利用の効率はまだ低く、利用拡大の余地も大きい。電波資源全体をかりに関東地方の土地スペースにたとえれば、利用に便利な都市部・平野部はすでに割当が終わっており、山岳・峡谷部でも悪条件を克服しながら利用が拡大中である。しかしながら、東京都区内や山手線の内側に当たる部分でも低利用の区画、つまり空き地や、古い平屋建がまばらに散在する区画が残っているという状態である。しかし電波の遊休部分でもすでに柵囲い(周波数の用途別分配)は済んでおり、その意味で、制度的には余分の電波はほとんど無い状態である。

 

電波資源の配分方式の改革が必要

電波資源に対する需要は将来において確実に増加するから、現状のまま推移すれば、「電波が利用できないために、新しい技術やサービスが開発されてもその便益を享受できない。」状態、そしてさらに、「電波が利用できる見込みがつかないから、新しい技術やサービスの開発意欲自体が失われてしまう。」状態に立ち至ってしまう。われわれは、電波資源の配分について、従来の方策を根本的に検討する必要に迫られている。

電波資源が国民共有の資産であること、国民全体の便益のために効率的に利用されるべきことについては、国民の大多数が合意できるであろう。本提言は、この合意の上に、電波資源の利用にかかる現在の問題点を明らかにし、その改革の方向について提案を行うものである。

 

現在の配分制度の問題点

これまで日本では、電波の割当は政府当局の裁量に拠っていた。最近になってごく部分的に「比較審査」が導入されたが、潜在的にはともかく、表面的に無線局免許申請に競合が生じることはほとんどなかった。また電波利用料が徴収されていたが、多くは電波資源の実質価値をはるかに下回っており、それが電波資源の配分に影響することはなかった。電波が有り余る状態では、この方式が電波資源の利用効率を阻害することはなかった。

しかしながら、電波が稀少化するにともない、全体から見て非効率な使用が増大の一途を辿っている。最大の問題は、電波資源の供給に余裕があった時代の制度がそのまま残っていることである。そのため、低効率の使用方式が、電波が稀少になっても使用効率を改良することなく依然として続いている。土地資源にたとえれば、「高層ビルの建ち並ぶビジネス・センターの中間に田畑が残っている。」「山間僻地にデパート、スーパー、ショッピングモールが建設されている。」状態が、電波資源について生じている。移動電話を典型例とする新技術・新サービスが出現したとき、電波資源の「空地」がすでに少なくなっていたため、新しい電波利用者は狭いスペースに「押し込め」られた。その結果、新サービス用の周波数帯では高効率の電波利用(高層建築にあたる)が実現されたが、周囲の周波数帯では、古い方式の電波利用(旧方式の木造家屋にあたる)が続いている。

このように、利用効率に大差のある電波資源が併存することは、経済学で言う「不均衡状態」にあたる。そこでは、低効率の電波を高効率の用途に転用する圧力が常に作用しており、適法に、あるいは不法にこれを実現して、私的利益をあげようとする動機を生じさせている。本来、この種の転用は、社会全体にとって電波資源の使用効率を改善するものである。しかしながら、無料で割り当てられた電波資源を他に流用して私利をはかることは公正・公平の面から認められないので、政府当局はこれを防止するための方策を講じ、監視を続ける必要があり、電波管理の行政コストを増大させる一因になっている。つまり現在の制度下では、使用効率の向上と公正・公平原則の維持が矛盾する側面がある。

一言で述べれば、上記のような状態は、旧来の電波割当方式が電波の使用者側に既得権を生じ、効率的な利用に必要な電波資源の割当と再配置がほとんど行われなかったことに起因する。電波の実質価格がゼロに近い間は、期限が来た無線局免許をそのまま更新することに問題はなかった。しかしながら更新を繰り返すうちに、申請内容の審査作業が空洞化し、電波が稀少化しはじめたときには、このような「実質的な自動更新」が電波の使用者の既得権になってしまった。今後、IT革命が進行し、電波の希少資源としての重要性が増せば増すほど、政府当局による旧来の割当方式をそのまま維持すれば、非効率な電波資源利用だけでなく、ビジネス創造や新技術・新製品の開発の面でも、致命的なマイナスの効果をもたらす恐れが大である。

電波の割当が政府当局の裁量に拠っているため、新しいビジネス方式や新しい技術を開発しても、必要な電波の割当を受けることができないリスクが伴う。その結果、開発に着手する動機自体が弱められてしまう。また、電波資源の割当の詳細に関する情報が非公開であるため、中小メーカー・ベンチャー型のメーカーは、どの電波資源について新製品の開発機会があるかについて判断がつかず、結局開発意欲自体が生じないことになってしまう。なおこれらは、電波という社会共有の資源を必須要件とするビジネスや製品の特殊事情から生じている。この制約が存在しない一般の製造業・サービス業と比較して、新機軸・新技術の創出環境が異なっていることに注意されたい。

さらに、旧来の割当方式については、以下のような批判も加えられている。第1に、国民共有の電波という資産を、適正な対価を徴収することなく私企業に使用させていること、つまり富の一方的移転を伴う不公正・不公平な配分であることが批判されている。また第2に、旧来の方式は既得権益を発生させるので、腐敗・癒着など不祥事の温床になりやすい欠点を持っている。

技術の急速な進歩と電波資源の稀少化の事実を現制度の欠点と併せて考えれば、電波資源配分制度の改革の必要は誰の眼にも明らかであろう。

 

諸外国の現状

米国をはじめとする先進諸国の過半では、競争導入を軸とする電波資源配分制度の改革が進行中である。米国では1993年の通信法改正以来、パーソナル移動電話(PCS)、直接衛星放送(DBS)、次世代移動電話(3G)等に必要な電波の割当がオークションによって実施され、あるいは進行中である。またヨーロッパ諸国では、2000年中に次世代移動電話のオークションが実施された。米国およびヨーロッパ諸国では、オークション価格の高騰をはじめとするいくつかの問題はあるものの、オークションが競争を促進してすぐれたサービスを低価格で供給し、またその前提条件である電波資源の割当に関する情報公開が新ビジネス・新技術の創出のためにプラスに働いたと判断している[2]。

日本は、これら諸外国の経験を参考にしつつ、「後発の利益」を生かしながら改革を進めるべき位置にある。

 

電波資源のオークションによる配分

政府による電波資源の直接割当について上記の諸欠点を是正し、電波資源の効率的使用と電波を使用するビジネスの成長を促進するためには、第1に電波資源の配分に「競争」を導入し、第2に電波資源のそれぞれの周波数帯の実質価値を明らかにしてその「再配置」を進め、第3に電波資源の利用状態についての情報を国民に公開する必要がある。

まず、「競争の導入」が電波の利用効率の増大と利用ビジネス成長のための必須要件であることに異論は少ないであろう。これまでの多数の経験から明らかなように、経済活動から競争を排除し、新規参入を認めないことは、停滞と硬直性を生じるからである。電波資源の配分についても競争を導入すること、つまり電波資源の特定部分(周波数帯)の使用を求める者に対して新旧を問わず平等の機会を与え、公正競争によって配分を決めることが必要である。

電波資源の競争的配分を直接に実現できるのは、現在使用されていない周波数帯の配分、すなわち初期無線局免許の発行に際してである。新しい周波数帯の望ましい配分は、オークションによる競争によってもたらされる。それは、オークションが電波資源を、「それに対して最高の価格を支払うことができる企業」、つまり「消費者・ユーザによって最も高く評価され、最大利益を実現できる企業」に配分することにある。オークションは競争的配分のための1つの手段であるが、初期免許のように供給量が固定され、かつ(政府によって)独占的に供給されている場合には、オークションは競争的配分を実現する唯一の手段である[3]。

電波オークションは、旧来の政府裁量や比較審査による割当方式と比較して、下記のような利点をもたらす。

1. 電波資源の効率的な配分を実現する(国民全体が電波から得る便益を最大化する)。

2. 電波を使用する産業への新規参入の可能性を広げ、競争を促進して消費者の利益を高める。

3. 電波を使用する企業間で公平・公正競争を実現する。

4. 富(電波資源)の一方的・不公正な移転を防ぎ、既得権の形成に伴う腐敗等の可能性を低める。

5. オークションの実施は、実施対象である電波資源の使用に関する情報公開を伴うので、事業者側の不確実性・リスクを減らし、ビジネス創意・技術開発の動機を高める。

6. オークションの副産物として、落札金額の支払いによる政府収入が増加する。

なお電波資源をオークションによって配分する場合には、同資源の二次的な譲渡・売買(リセール)を認めるのが通例である。リセールを認めない場合には、当初の落札者が、(見込み違いなどの理由で)不必要になった電波をそのまま保有し続けなければならない。このような場合には、同落札者が他企業等に電波を譲渡して落札支払額の一部を回復し、譲渡を受けた企業がその電波を利用する途を開くことが、当事者にとっても、社会全体にとっても望ましい。さらに、電波資源に関する先物取引、オプション取引についても同様である。たとえば電波売却オプションにより、電波の当初落札者や二次的な購入者は、何らかの理由で入手した電波が不要になる事態に備えることができる。

 

電波オークションの問題点

もとより、電波資源のオークションによる配分については、政府の直接割当による配分と比較して短所・問題点も存在する。そのうち広く語られているのは、「オークションによって電波を使用する企業の費用が増大するので、これが消費者・ユーザの支払う価格に転嫁されるのではないか」と、「オークション時の不確実性や予測の誤り等からする落札価格の極端な高騰(Winner’s curse)」であろう。

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オークション落札費用が価格に転嫁されるか否か、(転嫁されるとして)その程度は、さまざまの条件に依存する。携帯電話事業者が周波数をオークションで入手する場合を例にとって考えると、携帯電話の市場に電波を無料で割り当てられた既存事業者が居るか否か、同市場でどの程度まで(価格切り下げによるユーザ獲得などの)競争が行われているか、携帯電話のユーザが価格変動に対してどの程度敏感に反応するのか(需要の弾力性)などに依存する。また、オークション落札価格がどの程度まで正確な将来予測に基づいて決められたのか、にも依存する。しかしながら、すでにオークションを実施している米国の例など見ると、オークション費用がそのまま価格に転嫁されるといったケースは観察されていない。また、落札価格がサービスの市場価格にすべてそのまま転嫁されると考える理論的な根拠もない。結局、転嫁の程度は、市場での競争条件などのさまざまな要因に左右されるという結論になる。(詳細は付属資料を参照されたい)[4]。

ただしもちろん、オークション落札金額はすべて政府収入の一部となり、政府の財政収入総額を一定とするならば、同金額の分だけ減税できることに注意されたい。つまり、オークション落札額の転嫁による消費者・ユーザの負担は、金額的には減税分として相殺されるのである。したがって、消費者・ユーザ相互間の負担の変動はあっても、全体としての純負担増はゼロであると結論できる。また、オークションによる落札金額を電波利用のための研究開発に振り向ければ、消費者・ユーザは新サービスの享受という形で長期的に便益を受けることができる。

次にWinner’s curseの問題については、昨年の英国・ドイツでの第3世代移動電話用電波オークションにおける高落札額が話題になった。高額の債務を負ったブリティッシュ・テレコム、ドイツ・テレコムの財務格付けが大幅に下げられたと報じられている。ただし英国・ドイツ以外のヨーロッパ諸国では、落札額ははるかに低かった。また1994年以降に実施された米国の広帯域PCSオークションでも、異なる周波数帯ブロックによって落札額に大差を生じ、落札額が高騰したブロック(Cブロック)では、多数の落札事業者が支払い不能・破産に陥るなどの事態を生じた。

しかしながらこれらは、オークション参加者の判断の誤りから生じたものであり、どちらかといえば例外的な事態である。英国・ドイツ以外のヨーロッパ諸国での落札価格は遙かに低くなっており、また米国で行われた多数のオークションでも、落札額が異常に高騰したのはそのごく一部にすぎない。

さらにこれに加え、この種のWinner’s curseは、事業者側の負担に帰し、消費者・ユーザの負担にならない。通常オークションでは、競争促進のため、同一サービスについて複数の落札者が出るように設計される。したがって、Winner’s curseを転嫁しようとしても、その負担がない事業者が提供する低価格に対抗できないのである。

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次に電波オークションの短所、あるいはそのために支払うべき費用として、オークションの実施費用の発生を挙げなければならない。オークションを公正・円滑にかつ事故なく実施するためには、法制面・行政面で周到な準備が必要であり、そのために費用負担が発生する。しかしながら、この費用は、「オークションがもたらすのと同一程度に効率的な電波配分を政府の直接割当によって実現するための費用(社会主義的計画費用)」よりもはるかに低いので、オークションによる電波資源配分の効率化がもたらす利益と比較すれば、充分以上にお釣りが来る。

最後に、米国・ヨーロッパ型の電波オークションの重大な問題点を指摘しておきたい。それは、「電波の半ば無期限の使用を有償で認めることから生ずる硬直性」である。米国においても、ヨーロッパ諸国においても、オークションによって入手した電波使用権(免許)について、その期限終了後の更新については、更新時に再度オークションを実施することは明示されなかった[5]。そのため、当初のオークション時に、「オークションによって入手した免許は、オークションを経由しない更新が可能であり、これを繰り返すことによって半永久的な使用権が入手できる。」とする期待を生じさせ、このことが落札金額が高騰する原因の1つにもなった。

しかしながら、「電波の半永久的使用権が実質上成立すること」は、将来における電波資源の効率的利用について重大な障害をもたらす。電波資源は隣接する帯域間でプラスの外部性を持っている。そのため、将来新しい利用技術の出現に応じて一部の電波を「収用」し、再使用することが、国民全体にとって大きな便益をもたらす可能性が充分考えられるのである[6]。そのとき、電波の「半永久的使用権」が実質上成立していれば、土地資源について繰り返し経験したように、収用時の「ゴネ得」等のトラブルを防ぐことができない。米国・ヨーロッパ諸国においては、次世代移動電話等のための電波オークション制度の発足を急いだためもあって、この点に配慮する余裕が無かったものと推測される。

 

「電波資源の配分にオークションを採用し競争を導入するべきである(提言)」

上記のように、オークションには欠点もあるが、総合的に考えればそれはオークションがもたらす利点と比べてはるかに小さい。オークションによる競争の利益が国民全体に及び、長期的には巨大なプラス効果として結実するからである。オークションの結果、国民は一時的に少し高い携帯電話料金を支払うことになるかもしれないが、それは減税等によって相殺される。そしてオークションがもたらす競争による価格低下や、新技術・新ビジネスの実現によるサービスの高度化から大きな便益を手にすることができるのである。他方旧来の電波割当方式では、競争と新規参入のもたらす利益をほとんど活用できない。IT革命を早期に実現するため、われわれは政府が下記の方策を採用するべきことを提言する。

1. 将来における新たな無線局免許の発行においてオークション方式を採用するための検討を開始すること。

2. 同検討に衆知を集めるため、組織的な「パブリックコメント」用プラットフォームを設立すること。

3. 電波オークションのための法規定の改定・整備の原案を作成すること。

4. 電波オークション代金収入の取扱いと、オークション実施機構・実施予算について検討を開始すること。

なお、具体的なオークションの方式やそれに伴う制度・手続については多数の選択肢がある。米国・ヨーロッパで採用されたいわゆる「ストック・オークション」がベストであるとは限らない。実際、オークションによって配分される権利は、ストック・オークションにおけるような排他的・半永久的な使用権に限られるものではなく、たとえば一定の期限を設定した使用権を対象とするいわゆる「リース・オークション」や、複数の事業者が周波数帯を共有・共用する方式もありうる。今後、電波の利用法がパケット交換主体になると、伝送されるパケットの総量のみを制限する「オープン・アクセス」でよいとする意見、さらに免許そのものが不要だとする主張もある(これらの選択肢の簡単な説明については付属資料を参照)。こうしたオークションの制度設計については、別途提言を行う予定であり、「通信と放送」研究会で研究・検討にあたっている[7]。

 

電波資源の「再配置」

上記オークションの提案は、周波数使用の初期免許についてのもの、つまり新たなフロンティアの開発によって利用可能になった周波数帯、あるいは何らかの理由で「空き地」状態になった周波数帯についてのものである。しかしながら、前述のように現在の日本の電波資源については、高度利用と低効率利用が混在している。関東平野において、高層建築と木造平屋と空き地が混在している状態にあたる。そして電波資源全体のフロンティアは盡きかけており、その優良部分にはすでにフロンティアは無い。今後におけるIT社会の展開に伴って生ずる電波需要の増大をまかなうためには、空き地や平屋部分の高度利用化を図る他に途はない。これが「電波資源の再配置」の問題である。将来における技術進歩の方向と内容に依存することであるが、われわれ日本国民にとって、この問題が上記の初期免許のための周波数配分よりも重要な意味を持つ可能性が大きい。

しかしながら電波資源の「再配置」は、解決が極度に困難な問題である。それぞれの周波数帯について無線局免許が発行され、これに基づいたそれぞれの活動が、経営体、設備投資、雇用、ノウハウ・熟練を伴って、毎日営まれているからである。電波資源の再配置は、多くの場合、他周波数帯への移転をともなう。土地資源の例で言えば、建築物・家屋の移転・移築である。そのためには「再配置費用」がかかり、これを無理に強行すれば、当事者にも国民全体にも大きな損失を生ずる。しかしながら、現状を放置して電波資源の効率化を図らなければ、長期的にIT革命の足を引っ張ることになる。

この問題について、本提言は、「再配置費用を最小限に抑えつつこれを逐次実現するための制度設計・システム設計の必要」を指摘する。緊急に必要な個別ケースの「再配置」については別途考えることとして、ここでは再配置を長期的に進めるための方策が必要であることを強調したい。「通信と放送」研究会では、すでに本問題の検討を開始し、「電波資源再配置システムの設計」を試みている[8]。またこれとは別に、政府当局他の団体が、「同システム設計コンペ」を実施することも考えられよう。

以下においては、「電波資源の再配置のための制度・システム」について若干のポイントを論じておきたい。まず第1に、再配置費用を抑えるために、再配置は、土地の場合の建築物と同じく、そのために設置されている設備・機器の更新のタイミングを考慮に入れて設計されなければならない。

第2に、「再配置には時間がかかる」点を指摘したい。既に設置された機器の更新はもとより、再配置先における投資計画、サービス設計などについて合理的な決定を下し、準備を進めるためには、前もって充分な時間をとっておかなければならない。したがって、再配置のための制度・システムは、将来時点までカバーすることが必要である。

第3に、再配置を合理的に進めるためには、使用中のそれぞれの周波数帯の「評価(たとえば何らかの定義による使用効率による)」が必要である。国民全体にとって最も有利な再配置は、高評価の周波数帯よりも、低評価の周波数帯の再配置を先行させることである。現在のように、法定の電波使用料を徴収するだけでは、それぞれの周波数帯の評価はできない。したがって、「再配置のための制度・システム」は、何らかの方式による周波数帯の評価を含むものでなければならない。

第4に、これが最も重要な点であろうが、電波資源の再配置は、すでに周波数を使用している事業者の利害に直接関わることである。これまで「無料」に近い代価で電波を使用していた状態が失われることには、強い抵抗があるだろう。その上「移転費用」までかかるのは、二重の負担である。この点をどのように捌くことができるかが、「再配置のための制度・システム」の成否を決める要因である。ここでは、第1に、歴史的経過と経済事情の変化から生じた電波の実質無料使用という既得権の継続については、国民全体の便益を重視する立場から再検討の必要があること、第2に、上記の結果でもあるが、(土地の場合の賃貸料にあたる)「電波使用料」について、これを前記の「評価」水準まで段階的に近づけることが望ましいこと、また第3に、「移転費用」については、電波資源の利用の効率化から得られる利益の中からこれを支払うことができるはずである(そうでなければ再配置は効率化とならない)ことを指摘したい。これらを円滑に実現できる「再配置制度・システム」を長期的な視点から設計し、実現に移すことが望ましい。

 

「電波資源を競争的に活用するために、『無線局免許内容を保有するデータベース』を一般に公開するべきであり、政府当局はそのための検討を開始するべきである(提言)」

現在の政府当局による電波資源の管理では、その使用状態の概略のみが公表されているだけで[9]、詳細(どの電波資源を、誰が、何の目的に、どの程度使っているか)については非公開になっている。電波資源は国民の共有資産であるから、それに関する情報は、原則として(いくつかの公共的な理由で非公開が望ましいものを除いて)公開されるべきである。また、すでに述べたように、この情報が非公開になっていることが、電波を使うビジネス・技術についての創意工夫を阻害している。インターネットが普及した時代においては、国民の誰もが手軽にアクセス・ダウンロードできる形で公開するのが常識であろう。現在のように、政府当局による「情報秘匿」とも取られかねない状態は論外であり、早急に対処されるよう要望したい。

 

結語

 電波資源の効率的な利用は、IT革命の成否を長期的に決定する要因であるが、それを短期的に決定する要因ではない。今すぐにオークション導入や再配置の検討に踏み切らなくとも、急激な問題は生じない。したがって、「オークションの導入はまだその時期ではない。」として先延ばしにする動機は強い。しかしながら、90年代後半の金融問題について経験したように、長期的・構造的な問題への取り組みの先延ばしは、国力を弱め、将来世代の経済基盤を弱体化する。本提言は「オークション・再配置の検討と情報公開」を主張している。検討自体を先延ばしにして、「電波資源の失われた十年」にならないことを望むものである。本件に関する権限と責任を持つ政府当局が、勇気と英知をもって事に当たられるよう要望する。



[1] IT戦略会議『IT基本戦略』2000年11月27日(http://www.kantei.go.jp/jp/it/goudoukaigi/dai6/6siryou2.html)。そこでは、「無線アクセス網からのデータがインターネット網(IPv6)に効率よく接続された最先端の高速無線インターネット環境を実現し、シームレスな移動体通信サービスを実現する。(以下略)(II(2)の4)」および「無線周波数帯の資源については、先端情報ネットワーク環境の発展に資するよう、定期的な割当ての見直しを含め、迅速で公平な割当てを可能にする。そのためにオークション方式なども考慮に入れた公正、透明な割当てを検討し、実施する。(II(3)の1の(ウ))」と記されている。

[2] たとえば下記米FCCのリポートを参照。FCC, Report to Congress on Spectrum Auctions, October 9, 1997 (WT Docket No. 97-150).  FCC, Fifth Annual Report And Analysis of Competitive Market Conditions with Respect to Commercial Mobile Services, August 18, 2000.

[3] 電波オークションは、電波資源の供給独占から生ずる問題(独占的高価格など)を解決する。しかしそれは、電波の使用企業がその生産物・サービス市場において独占力を発揮する(たとえば電波資源の供給量の大部分を入手することにより)ことを解決しない。この問題の解決には、別途措置(たとえばオークションで落札できる電波資源のシェアに制限を加える、など)が必要である。

[4] 『・・・』を参照(http://www.)

[5] 米国では、FCCに与えられたオークション実施権限を初期免許に限る旨が規定されたので、更新時のオークションは法律によって排除されている。

[6] 米国において、すでに第3世代移動電話用の電波「収用」の必要が生じていると報告されている。

[7] その成果は、今後一両年にわたり、同会のWebページ(http://www.)上で逐一発表する予定である。

[8] http://www.

[9] 郵政省(現総務省)電気通信局編『周波数の割当原則』1999(http://www.)