電気通信産業の「上下分離」について――問答形式による解説 1996年1月 中京大学 鬼木 甫 I.垂直分離と上下分離 Q:しばらく。貴君はアメリカで「独占の復活(?)」を主張したそうだね。コロンビア大のNoam教授の研究所に行った人が、帰ってきて話していたよ。一体どうしたわけだね(?) A:いきなり驚かさないで下さい。それはもう一昨年(1994年)にTPRCで発表したものです。「上下分離の論文(鬼木1994)」の英訳(Oniki, 1995)を持って行ったんですが、その中の日本語の論文で言えば図4(本稿の図6と同じ)のIA層のことでしょう。ここに「規制下の独占」と書いているのは、それだけの理由があるんですが。しかし、上下分離の提案は「独占の導入」が眼目ではないのです。それよりも、「上下分離」の方がポイントなのです。 Q:そうかね。アメリカで「独占の導入」と言えば、日本で「暴力の容認」と言うのに近いらしいからね。皆びっくりしたんじゃないかな。用心しないとね。 A:確かにその点を考えないで、いきなりこの図をOHPで出したのは失敗でした。 Q:皆どんな反応だったのかね。袋叩きにあったのじゃないのか(?) A:いや、そうでもありません。聴衆はそんなに多くはなかったんですが、皆あっけにとられたような顔で聞いていました。それでもセッションが終わった後に2人ばかり若い人が質問に来て、いろいろ聞いた挙げ句に、"Interesting."と言って帰って行きましたから、まったくの拒否反応でもなかったんです。それからこれはNTTの林紘一郎さんに教えてもらったのですが、アメリカでも「上下分離」と似たような主張をしている論文があります(Downs, 1993)。もっともこの論文では、私の主張ほどはっきりした形にはなっていなくて、用心深く「新しい技術の導入が(ここでいう)上下分離の可能性をもたらしている」程度の言い方ですが。しかし、方向は明らかに私の主張と合っています。 Q:そうかね。そこのところがよく分からないが、後で詳しく説明してもらおう。その前に、「上下分離」に近い「垂直分離」とか「垂直統合(vertical integration)」が、このごろアメリカで盛んに言われているそうじゃないのか。例の通信法改正のポイントらしいんだが。垂直統合や分離と上下分離とは、同じなのかね(?) A:いや、同じではありません。ついでですから、(ご存じの方も多いでしょうが)垂直分割・統合の方から説明しましょう。アメリカでは図1のようになります。ご存じのように、1984年の(旧)AT&T分割で、図のAのところに線が引かれ、また地域サービスと機器製造の兼業も禁止されました。また、ケーブルテレビと電話の兼業も禁止されて、Bのところにも線引きがされていたわけです。他方、AT&Tは、機器製造を認められましたので、図のEの結合は許されていたわけです。なお、禁止されたのは(旧)ベル系の会社間だけです。  今回の通信法改正案では、地域・長距離・ケーブルテレビの各市場の競争を促進するため、図のAとBの線引きを外し、長距離と地域、ケーブルテレビと地域との間の相互参入を認めようとしています。アメリカでは、Aの線を取り払うことを「垂直統合(vertical integration)」と言っているようですね。 Q:その通りだ。それから、昨年9月には、AT&Tが自分から「垂直分割」を決めて、図のEを切り離したんじゃないかね(?) A:その通りです。AT&Tは、(図には入っていませんが)コンピュータ会社も切り離すことにしましたから、結局垂直3分割を自分で実行したわけです。ちょうどAT&Tが分割の発表をした翌日に、アメリカのFCC政策局長のDr. Pepperが大阪に来てセミナーをしましたが、そこでこのAT&Tの3分割を論評して、『AT&Tの3分割は自らが電話会社として自由に行動できるように、業務の合理的区分にしたがって決めたものだ。これからは、自分のところで使う機器でもAT&T系のウェスタン・エレクトリックだけでなく、エリクソン社からも購入するだろう。それはAT&Tが(図のDの線を超えて)移動電話で最大規模のマッコー社と合併することが決まっており、マッコーはエリクソン社から移動通信用の機器を購入していることからも説明できる。』と話していました。つまり、AT&Tの3分割は垂直分割、通信法改正案での長距離市場と地域市場の相互参入は垂直統合と言っているわけです。 Q:その通りだ。ところで、通信法改正はいろいろ難航しているようだね。 A:それはそうでしょう。アメリカでは、大都会では地域市場に競争が入っているんですが、量的に言えば、全国の地域市場はまだ大部分独占状態ですからね。一方で独占力を持っている地域電話会社(RHC)を、競争的に長距離市場に参入させるわけですから、無条件にはゆきません。参入の条件として、その会社の地域市場で、たとえば「(再販ベースでなく)回線設備ベースで相当程度」の競争が実現した場合に限って、長距離市場への参入を許すことになっていますが、問題はその「相当程度」の具体的内容です。どんな条件にすればよいかについて、客観的な決め手が無いわけです。どこに決まるにしても、政治的な綱引きの結果になります。またどう決まったにしても、実際に地域会社が長距離市場に参入するときに、司法省やFCCの認可(これをどうするかも、通信法改正で揉めています)をめぐって論議を起こしたり、またその次は裁判所に提訴したりして、紛議が続くことが予想されます。  地域市場に競争を導入しようという意図はよく分かりますが、この種の紛議で実際に競争が進展するのは大分先になってからだろうと思います。コロンビア大のNoam教授は、先日東京のシンポジウムで、『通信法改正の成否とは別に、地域市場では、技術的に競争が成立する大都市から着実に競争が広がるだろう。』と話していました。Noam教授は通信法改正による競争促進にはあまり期待をかけていないような口ぶりでした。 Q:そうだね。独占市場を抱いて力を蓄えている地域電話会社が、議会に向けて強力なロビーイングを展開していることは、察しがつくよ。アメリカの動きはダイナミックで、見ているだけでもおもしろいが、全体が分かりにくいね。 A:私もそう思います。私自身もあまり分かっていないんですが。「ロビーイング」といっても、以前に想像していたような悪い意味は、アメリカではあまり無いらしいですね。いろいろ聞いてみると、議員の本領というか本分は、関係方面のロビーイングの調整にあるらしいですね。つまり、有能な議員というのは、ロビーイングを受けて、そこから妥協点を見つけ出して一つの法案を作り上げることにあるという話です。自分が作った法案が選挙区でのPRの材料だそうですから。文字通り「立法府」が機能しているという感じですね。日本の議員さんとは大きな差があるようです。 Q:それは「民意だから」仕方がないね。ところで、日本の場合の垂直分離・統合は、アメリカと比べてどうなっているのか。ついでにまとめてくれないか(?) A:はい。アメリカとあまり違いはないんですが、図2を見て下さい。まず、機器製造は日本の場合、別会社になってますから、最初から図に入っていません。アメリカとの違いは、国際電話と市外電話の間に線引きがあることと、アメリカでは一体になっている地域電話サービスで、市内電話とユーザアクセスとの間に点線が引かれていることです。  アメリカの場合は、歴史的な経過から、地域電話サービスはRBOCが主体となって提供しており、また市内通話は大部分一定料金(flat rate)ですから、日本のように「ユーザアクセス部分」の考え方は、一部の州を除いて、強く出てきません。これに対して日本では、最初からNTTが全国一体になっており、市内通話も度数制になっていましたから、「基本料」の料金制度が出来て、これに対応する「ユーザアクセス・サービス」が早くから意識されてきたわけです。  先日、TTNetがNTTをこのCのラインで分離するべきことを主張し、またNTTの側ではCラインでの相互接続を認めることにしたので、この線の存在がはっきりしてきたわけです。私は実は、市内電話の独占(ボトルネック独占)の大部分はこのC線より下側にあると考えており、仮にNTTの分離を考えるなら、(1990年度の電通審答申で述べられた)Bのところでの線引きよりも、Cで線引きをする方が合理的ではないかと考えています。 Q:そうかね。Cでの線引きは、TTNetが主張しているようだが、それは自己の参入に都合がいいからで、Cで線を引くのは「あまりメリットが無い」ように合意された話を聞いたが(?) A:私も聞きました。しかし、専門家の大部分が、現在の独占要因はユーザアクセスの部分にあり、市内電話の部分は競争条件が出てきていると言っています。ただし、反対意見の人もあるようですが。早い話が、TTNetがCラインから上の市内電話に参入意欲を示しているのは、それ自体すでに市内電話部分に競争条件ができはじめたことを示すわけです。もし独占要因が残っているとすれば、単純な引算で、ユーザアクセス部分以外ではありません。 Q:なるほど。ユーザアクセス部分に競争が入りにくいのは、直観的にもよく分かる。ケーブルテレビがもっと発展して、ユーザアクセス分野で競争力をつければいいが、現在はまだだね。イギリスでは、米国系ケーブルテレビ会社によるユーザアクセス分野の競争が進んでいるそうだが(?) A:その通りですが、実質的な競争になっているのは、都市の一部だけで、国全体から見れば、ごく少ないと思います。しかし電話兼業のケーブルテレビが広がれば、これはもちろんアクセス部分の競争要因になります。 Q:そうか。そうすると貴君はNTTをBではなくCラインで分離することを主張しているわけか。 A:NTTの分離分割の話は、他の要因も入るので、簡単には答えにくいんですが。仮にNTTをどこかで分離・分割することが前提になっていたとして、その上でどこに線引きをするのが合理的かと問われれば、それはCのところだと答えますね。最大のメリットは、競争市場に適する業務と、規制を加えなければならない業務を、別会社に分けることができるからです。これは大きなメリットだと思うんですが。  規制と競争の矛盾というテレコム産業の困難のかなりの部分は、1つの会社が一方で競争に適する業務を持ち、他方で規制を受けなければならない業務を持っていることでしょう。アメリカの通信法改正で起きている地域会社の長距離事業参入の条件をめぐる争いも、つきつめて考えれば、この点から出ているわけです。ONAのような面倒な問題も出所は同じです。素直に考えれば分かりやすい話で、要するに水と油のように異なっている業務は、別々の会社が分担する方がよいというだけのことです。実は、「上下分離」の主張も、同じ考え方から出てくるのです。 Q:なるほど。その話は分かりやすい。 A:TTNetの要求については、これまで競争が困難といっていた業務に参入意欲を見せているのですから、なるべく参入しやすい条件を整えることが競争促進の方針にかなっているわけです。もちろん、NTTの分離でなく、相互接続でも参入は可能ですが、その場合は、気をつけなければならないことが他に沢山あります。また、強力な東京電力からの内部補助や外部補助(?)があっては困りますがね。そこはよく見ておく必要があるわけです。  それからもう一つ、仮にNTTをラインCで分離すると、ユーザにとって別の利益が出てきます。それは、これも仮の話ですが、もう一歩進めて、分離されたアクセス会社をさらに「分割」すると仮定すれば、どのような分割の仕方が考えられるかです。この場合は東日本・西日本のようにまとめて分割する必要はありません。全国のアクセス部分をX会社とY会社に分けて、東京で言えば千代田区と目黒区はX会社、中央区と世田谷区はY会社というように、両会社の営業領域を「鹿の子まだら/市松模様」型に組み合わせることができます。  そうすれば、アクセス業務でもかなり競争が進みます。一つは「ヤードスティック競争」が、ユーザの目の前のよく見えるところでおこなわれることです。もう一つは、両会社の境界線上での実際の参入を認めて、有能な会社が相手会社の営業領域に「進出」して競争を進めることができます。これを「バウンダリー競争」とでも呼んでおきましょうか。さらにもう一つ、この方式の場合には、分割しても「ユニバーサル・サービス」の実現に問題が出ません。それぞれの会社に全国でのサービス供給価格を一律にするという規制だけをかければよいわけですから。X会社とY会社は、それぞれ東京都内にも大阪市内にも北海道にも沖縄にも営業領域がありますから、一律価格にするかぎり、ユニバーサル・サービスは達成され、しかもXYの間で競争がおこなわれるという、ユーザにとって理想的な状態になります。 Q:しかし、それはひどい案だ。まるで兄弟喧嘩をさせるようなものではないか。血で血を洗う争いとはこのことだ。まず反対が強いんじゃないかね(?) A:それは私も考えています。ですから、この案は「仮にラインCで分離されて、しかもアクセス業務が分割される場合」の一つの考え方です。それでもいろいろな可能性を考えるのは役に立つんじゃないですか。 Q:よろしい。それでは今日の本論に戻ろう。貴君の図(図6、鬼木(1994)の図4)は「上下分離」だそうだが、このままではさっぱり分からない。「電気通信産業の上下分離」とは一体何を指しているのかね(?) A:一口に言えば、電気通信産業のサービス生産を「回線インフラ」、「ネットワーク」、「ユーザ・サービス生産」のように段階別に区分して、それぞれの部分(層・レイヤ)の特色を活かすように、競争と規制のフレームワークを作ることです。 Q:「サービス生産」とは、NTTの仕事のことか(?) インフラやネットワークといっても、分かりにくい。一般のユーザが分かるように説明して欲しい。 II.高速道路サービスの「上下分離」 A:確かに電話の場合は、ユーザは自宅や会社の電話機を使って電話をかけるだけで済んでいるので、それを支えるメカニズムがどのようになっているか分かりにくいと思います。もっと分かりやすい場合、実際に目で見て理解できる例をとって説明しましょう。例えば、電話と同じく、ネットワーク構造を持っている「高速道路」を考えてみましょう。  高速道路ネットワークは、もちろん「高速交通サービス」を生産しています。われわれは、高速道路から直接・間接の利便を受けているわけです。高速道路を使って自動車やバスで移動し、時間を節約できるのは直接の利便です。また高速道路を使って運ばれた鮮度の高い野菜や魚をスーパーで買うことができるのは、間接の利便です。もし高速道路がなかったら、われわれは移動のために長い時間を費やし、また鮮度の落ちた食料品を高い値段で買うことを余儀なくされるでしょう(図3)。  このような高速道路システムの「インフラ」は、高速道路という「建造物」です。わが国では、道路公団が高速道路を建設・保有し、これを一般に提供をしています。これが高速道路サービス生産の「下部構造」です。  次に、高速道路のサービスは、その上を車が走ることによって生まれます。つまり高速道路の価値は、道路というインフラの上を乗用車やトラックが高速かつスムーズに移動することから生まれるわけです。これが「高速道路のユーザ・サービス生産」に当たります。それは、高速道路というインフラの上を人間や物資を乗せた乗用車やトラックが動くことによって生ずる高速移動・高速輸送がもたらす価値です。このようなユーザ・サービスの生産は、高速道路サービス生産の「上部構造」と考えることができます。  高速道路については、インフラとユーザ・サービス生産の中間に「ネットワーク機能」という仕事を考えることができます。それは一口に言えば、建設された高速道路を有効に使い、車をスムーズかつ安全に走行させ、渋滞や事故の可能性を減らし、道路建設や維持・修理に必要な費用を道路のユーザから集めて、建設費用を回収するなどの仕事です。一口に言えば、高速道路の「管理」です。この仕事は、下部構造であるインフラと上部構造であるユーザ・サービス生産との中間に位置します(図4)。 Q:なるほど、高速道路について、上中下の3機能があることは分かった。しかし、それが電話の場合とどう関係するのか。高速道路の説明は、われわれの常識以上の何物でもないように思われるが、電話との関連がはっきりしない。 A:電話について説明する前に、高速道路についてもう少しつけ加えさせて下さい。御承知のように、高速道路のインフラ部分は、道路公団が運営しています。また中間のネットワーク機能の大部分は道路公団の担当で、一部の交通規制とか、安全維持は警察の仕事になっています。ここで気を付けて頂きたいのですが、日本全国の高速道路を道路公団がまとめて所有・管理していますので、高速道路の使用料金について、公団は大きな自由度を持っているわけです。20年前に建設された古い道路と最近建設された新しい道路を同じ通行料金にするべきか否か、混雑の激しい都会の道路と設備が良くてかつ空いている田舎の道路にどのような料金をつけるべきか、そもそも有料道路は何年かたって建設費を「回収」した後に無料にされるべきものか、などの問題が以前から議論されており、多数の関心をよんでいます。これは、道路公団が全国を独占しているからで、公団が地域別・路線別にできていたら、そうはゆきません。  次に、高速道路ユーザ・サービスの生産は、道路公団ではなく、ユーザが乗用車やトラックを走らせることによって生み出しています。ユーザの通行料は、インフラとしての高速道路を便利にかつ安全に使用するできることの代価です。道路の使用者が個人である場合には、通行料は直接に負担することになります。また、道路の使用者がバス会社やトラック会社の場合には、乗客や荷主から運賃の形で回収することになります。  このように考えると、高速道路サービスについては、現在のわが国は「2層構造」になっており、「インフラ」と「ネットワーク」は道路公団が担当し、「ユーザ・サービス生産」は個人、バス会社・トラック事業者などの担当になっています。 Q:高速道路サービスが2層構造で生産されていることはよく分かった。それでは、電気通信産業はどのようなことになるのか。察するに、電気通信事業法で第I種事業者と第II種事業者が区別されていることから、高速道路と同じように、2層構造になるのだろう。 A:おっしゃるとおりです。現在は、第I種事業者、第II種事業者の2層構造になっています。図5の太い線の区分だけを見て下さい。ユーザはI種事業者であるNTTから直接にサービスを受け取る(電話サービスを購入する)こともあり、またII種事業者を経由して、データ通信やインターネット・アクセスなどの高度サービスを購入することもあるわけです。  少し横道に逸れますが、アナログ電話の図の一番下に「とう道・管路」と書いてあります。これは電話回線を設置するための場所・スペースのことで、この他に架空線では電柱上のスペース、また無線通信では電波の使用権がこの場所に入ります。これは現在の事業法で「公益事業特権」として特定の事業者に付与されている通信用のスペースです。最近の議論でこの部分、つまり通信インフラのうち、回線を除いた「スペース部分」を切り離し、この部分だけのサービスをオープンにして、回線レベルで複数の事業者に競争を認めるという提案が出されています。この場合には、I種、II種の区分に加えて、「公益事業特権」部分と「回線」(以上の)部分というもう一つの「上下分離」が実現するわけです。 Q:それは知っている。例の「アンバンドリング」ではないのか(?) A:その通りです。上下分離は「アンバンドリング」の考え方をもっと押し進めたものということもできます。「アンバンドリング」では、先程議論した垂直方向の区分も、ここで説明している上下方向の区分も一緒にして考えています。しかし、垂直分離と上下分離は、ここで述べているように性質が違うのですから、別々に考えた方が分かりやすいということです。 Q:ここまでの話は分かった。というより「アンバンドリング」を知っていれば、それ以上の新しいことは無いのではないか(?) A:そうかも知れません。「上下分離」と言っているのは、結局は知っていることの整理に過ぎないとも言えます。 Q:図5の通信インフラを、とう道・管路と回線に分けることはよく分かる。その上のサービスとかネットワークとかいうのはどういうことか(?) A:ごもっともな質問です。ここで図5にサービスとかネットワークとか書いておきましたが、アナログ通信では、実はこの2つはまだはっきりと分かれていません。しかし、ディジタル通信では、つまり最近のISDNやBISDNでは、明確に分かれます。事業法の定める2層構造は、アナログ電話網時代に音声用のネットワークを使ったモデム経由のデータ通信を考えて作られた上下構造で、将来のディジタル通信時代にはもはや古くなってしまっていると言いたいのです。 III.高速道路サービスとアナログ電話サービスの上下分離 Q:それはあるいはそうかもしれない。具体的に第I種事業者、第II種事業者の区別がどのような点で古くなってしまっているのか、説明して欲しい。 A:分かりました。とは言っても、ディジタル通信は技術的な中身が複雑で、なかなか説明しにくいのです。それで高速道路の例をもう一度取り上げて比喩的に説明したいと思います(図5)。  先ほど高速道路を下からインフラ、ネットワーク、ユーザ・サービス生産の3層構造で捉えましたが、このうち最上層のユーザ・サービス生産をもう少し細かく見ることにします。議論の都合上、人間の移動は省略して物の移動だけについて考えてみましょう。先ほどは、ユーザ・サービスの生産を担当するトラック業者だけを考えましたが、ここではもう少し細かく、トラック業者と、トラック業者に依頼して物を輸送する「物流業者」を考えてみましょう。例えば、野菜や魚を販売するスーパーは、産地で仕入れた品物を物流業者に依頼してスーパーの各店舗まで高速輸送します。物流業者は、スーパーその他の顧客から集めた輸送の注文を、輸送経路や品物の種別ごとにまとめ、トラック業者に頼んで実際の輸送をおこなうものとします。トラック業者の方は、いくつかの物流業者から配送の注文を受け、全国各地に保有する多数のトラックを使用して高速道路を使い、荷物の輸送をおこなうわけです。高速道路の通行料は、まずトラック業者から道路公団に支払われ、物流業者に請求されます。物流業者はトラック業者に支払った費用に自己の利潤等を加えてスーパーに請求するという仕組みです。  実際の物の輸送は、このようにトラック業者、物流業者、スーパーなどの小売業という具合に明確に分かれていないかもしれません。たとえば、大規模スーパーは、物流業を兼ねて直接にトラック業者に注文しているかも知れませんし、また物流業とトラック業を1企業で兼営する場合も多いでしょう。トラック業者、物流業者、流通業の区別は、産業により、また製品によって異なっているのは当然です。ここでは、高速道路による物の輸送というサービスについて、最終的なユーザつまりこの場合はスーパーと、その需要を満たす物流業者、トラック業者という階層を考えて頂ければ充分です。  ところで、電気通信産業での第I種事業者と第II種事業者の区別は、高速道路の例で言えば、第I種事業が、道路公団が担当するインフラ提供とネットワーク業務に加え、トラック事業者の仕事まで含むのに対し、第II種事業者は物流業者に対応する程度の仕事しかおこなっていないのです。つまり、電気通信産業の現状は、道路公団が自らトラック事業部を保有して、道路の維持だけでなく、運送業務にも従事し、第II種事業者は物理的な輸送業務にはほとんどノータッチで、各種の物資輸送の注文を集めてこれをトラック業者に輸送依頼するだけの仕事しかしていないことになります。最終需要者であるスーパーが支払う食料品輸送費のうちのごく一部だけが物流業者の手にわたり、大部分はトラック業を兼営する「拡張道路公団」の手に入っているということです。 Q:なるほど、それはそのとおりかもしれない。確かに現在の第I種事業者の収入と第II種事業者の収入には大差がある。しかし、第I種・第II種事業の区別、つまり線引きはいわば定義の問題ではないのか。収入金額が第I種と第II種の間で大差があることがもし問題であれば、そういう理由で問題になるかもしれないが、それ以上の理由で、つまり収入差以外の理由で電気通信産業の第I種・第II種の区別がもはや古くなってしまっていると言うことができるのか(?) A:鋭いご質問です。ご質問の中に、電気通信産業の上下分離に関する最も大切な点が隠れています。その点を分かって頂くためには、電気通信産業の変化つまり技術進歩やシステム・サービスの変化を歴史的に見て頂く必要があります。  ご存知のように、かつての電話は音声だけを運ぶアナログ通信をおこなっていました。道路交通の例で言えば、それはちょうど自動車が未発達で、歩行者やせいぜい自転車交通だけの時代に当たります。  やがて自動車・トラックが発明され、高速移動・大量輸送の時代が始まります。しかし、当初は高速道路が無かったので、自動車・トラックは一般道路を走っていました。もとより一般道路は、国や地方自治体の管理の下にあり、自動車・トラックはそこを無料で走ることができたので、自動車・トラックの生産や使用は、私企業レベル・個人レベルでおこなわれ、道路の管理者がその上を走る乗物つまり自動車・トラックを生産したり、運営したりすることはありませんでした。  その後、高速道路が建設され、高性能の自動車・トラックが高速道路を走るようになってからも、一般道路時代の上下分離(階層分離)はそのまま続けられ、高速道路の建設運営に当たる道路公団がトラック事業を兼営することは考えられなかったのです。つまり、高速道路事業とトラック事業が分離している現在の体制は、自動車・トラックが一般道路を走ることから出発したという歴史的事情によるものです。もし、自動車・トラックが一般道路上で走ることを禁止されており、高速道路の建設後に初めて使用されたのであれば、おそらく道路公団は、自動車・バス・トラック業を事業の一部として営んでいたのではないかと思います。鉄道の場合には、線路サービスと列車サービスが同一事業体によって提供されています。 Q:なるほど。しかし、それも常識以外ではない。電気通信の場合には、高速道路のアナロジーがどのように当てはまるのか、説明して欲しい。 A:もう少しご辛抱願います。電気通信が電話事業だけの時代は、交通でいえば歩行者だけの時代に当たります。しかし、電気通信では一般道路のように、自然発生的にできた道路が次第に公共財として政府・地方自治体の管理下に置かれるという歴史がなく、当初から政府あるいは電電公社という公共企業体によって電話ネットワークが建設されました。鉄道も同じです。道路の例で言えば、政府が歩行者専用の特別道路を全国に作ったことになります。(東海道や国立公園の中だけでなく、そのような道路が全国の山河に張り巡らされていたらすばらしいことだと思いますが。)  アナログ通信による電話事業は、歩行者専用道路と同じく単純素朴な仕事で、電話網への加入者を直接電話回線でつなげば用が足りていたわけです。もちろん、電話交換や回線の建設・維持、補修などの仕事はありましたが、歩行者専用道路と同じく、この時代の電話サービスは、すべてインフラ部分の建設・運営の当事者、つまり電電公社の丸抱えになっていたわけです。単純な仕事であったため、上下分離や階層構造による分業が入る余地はありませんでした。  やがて道路交通での自動車・トラックの出現と同じく、電気通信にも大量通信の時代が訪れます。それは道路交通の場合には、自動車・トラックの発明によってもたらされましたが、電気通信の場合には、ディジタル通信技術と、ディジタル・データの大量伝送を可能にした通信回線の発明によって実現されました。道路交通の高速道路に当たるのは、同軸ケーブルや光ファイバーなどの通信回線です。道路交通の自動車・トラックに例えることができるのは、ディジタル通信の多重化技術、パケット・フレーム・セル技術などです。いずれも、音声やデータなど通信回線上で伝達される「荷物」をある単位でまとめ、高速道路に当たる大容量回線で能率よく運ぶための技術です。  電気通信では、(道路交通で自動車・トラックに当たる)ディジタル通信技術が現れ、高度化した後も、(鉄道と同じく)インフラの提供者である電気通信事業者がすべてのサービスを一体的に供給することになりました。ディジタル通信技術も現在まだ普及途中です。最初は音声通信の中継部分だけに採用され、ユーザへのアクセス部分つまり家庭の電話機と加入局との間は、まだアナログ通信になっています。もちろん将来は、電話端末から局までを含むすべての部分がディジタル化され、それだけでなく大量のデータや映像も伝送できる広帯域ディジタル通信が実現すると考えられています。しかし、アナログ電話の時代からディジタル広帯域通信への進歩は、少しずつ進んで来ましたので、産業内の仕事の分業は、当初のアナログ電話時代の体制がそのまま残っているわけです。つまり、先にも述べたように電気通信産業の現在の構造は、高速道路でいえば道路公団がトラック事業を兼営している状態に当たるわけです。 IV.「上下分離」はなぜ必要か Q:なるほど。新しい技術が導入された後でも、従来からの体制が変化しないで残っている点はよく分かった。では、次の疑問は、なぜそのままでは悪いのか(?) この時点で改めて、電気通信産業の上下分離を主張する理由は一体どこにあるのか。それを聞きたい。 A:それはほとんど自明のことです。直接に説明するよりも、再度、高速道路の例に戻って頂ければ納得されるでしょう。もし、道路公団が高速道路上のトラック業やバス業をすべて兼営していたとしたら、どのような結果が出てきたとお考えになりますか。高速道路上のバス交通やトラック輸送は、現在よりも繁栄したでしょうか。もちろんその逆です。独占事業者である道路公団が、バス・トラック業を兼営した場合には、独占体の非効率がそのまま出てきて、サービスは悪く、料金は高いことになったに違いありません。  これに対して、消費者の不満が高まり、規制緩和が実現して民営のバス業・トラック業が参入したとしても、最初は「道路公団運営」のバス・トラック業に比較して不利な競争を強いられることになったのではないかと考えられます。たとえば、道路公団のバス・トラックは、有利な条件で自社の高速道路を走ることができるのに対し、外部業者である民営のバス・トラック事業者は、高い通行料を払うことになったでしょう。仮に、道路公団内部でバス・トラック業の経理と高速道路インフラの経理が分離されたにしても、インフラ部分のコストが高めに見積もられ、道路公団内部でインフラ経理からバス・トラック業経理への内部補助がおこなわれたに違いありません。そのような状態を打破して、現在のシステムつまり高速道路を走るバス・トラックはすべて民営である場合と同じような状態を実現するためには、長い期間にわたる高速道路事業の規制緩和が必要になったに違いありません。  もちろん、これらの話は想像上の仮説ですが、電気通信分野の従来の経過をご存知の方には、スムーズに分かって頂ける仮説ではないかと思います。つまり、ここで申し上げているのは、現在の電気通信産業のあり方は、仮説として申し上げた道路交通体制、つまり道路公団がバス・トラック業を兼営している場合と似ているということです。 V.電力産業と家電産業のケース――端末用ソケットの意義 Q:なるほど。その点もよく分かった。ここまでは、道路の話ばかり出てきたように思うが、他の産業でも似たようなことがあるのだろうか。あるいは似たような仮説が考えられるのだろうか。 A:あります。たとえば、電力産業を考えてみましょう。われわれは電力つまり電気エネルギーを不可欠の消費財として毎日使っています。もちろん電力は電力会社から購入しますが、電力は電灯はじめたくさんの家電製品、オフィス製品を通じて使っているわけです。ここでは、「インフラ」部分が電力会社によって、また「ユーザ・サービス部門」が家電メーカーの製品によって供給されています。御承知のように、日本の電力料金は高水準にありますが、反面、家電産業では激烈な競争がおこなわれており、日本の家電製品は世界一で、自動車と並んで輸出シェアのトップを占めています。われわれ日本人は、食料の大部分を直接・間接に外国から輸入していますが、そのために必要な外貨を自動車産業と家電産業が稼いでくれているわけです。  ところで、もし日本経済で電力産業と家電産業が現在のように別の産業にならず、「電力家電産業」として一体となっていたならば、どのような結果が生まれていたでしょうか。つまり、電力会社がわれわれの家庭内の電化製品の供給やメンテナンスをすべて取り仕切っていた場合のことです。申すに及ばず、「道路公団のバス・トラック事業」と同じように、現在よりも品質が低く、価格の高い製品が供給されていたに違いありません。「電力家電会社」は、電気エネルギーとそこから生ずるサービスのすべてについて独占力を持っており、外部からの競争を心配しないでよいわけですから、品質改良や価格引き下げのインセンティブは働かず、これが何十年も続けば、大きな差を生むことになったのは間違いないでしょう。  幸い、電力・家電については、当初から電力供給と家電端末が別の事業体によって供給されてきました。電力供給は、地域独占事業として残っていますが、家電産業は理想的な競争産業になって発展し、われわれの生活を豊かにするだけでなく、日本の輸出の主要な部分を担う産業に成長してくれたのです。日本の「家電製品」のはじまりは、たしか1950年代の東芝の「電気釜(炊飯器)」だったと記憶します。 Q:電力業と家電業が一緒になる、たとえば東京電力と東芝や松下電器が同じ会社になるのは、なかなか考えにくいことだ。電力産業と家電産業は元来別のものではなかったのか。そんなものを一緒にして考えるのはあまりに常識はずれな議論のように思われるが。 A:現実とかけ離れていると言われれば、それに違いありません。戦前から100年近くの間、電力産業と家電産業は別だったのですから。しかし、産業構造と産業の効率性、とりわけ独占と競争の関係を考える上で、このような仮説的なことを議論してみるのも視点を広げるという意味では役に立つのではないでしょうか。 Q:そこまで言うのなら、次のように聞きたい。単刀直入に言って、では、何故、電力産業と家電産業は、電気通信産業と違って分離して発展したのか。電気エネルギーをめぐって近縁関係にあるのに、一体として発展しなかったのは何故なのか(?) A:それも技術進歩の歴史の上での「偶然」の所産ではなかったのでしょうか。これは私の想像ですが、電力産業と家電産業が今日のように分かれることになったのは、「電球」に原因があったと考えています。  御存知のように、電力エネルギーは当初照明用として使われました。そのための器具が電球です。現在広く普及している蛍光灯ではなく、電気抵抗で電極を白熱して光を得る「白熱電球」でした。電球の白熱体には、当初エジソンが日本の竹の繊維から作った炭素線を使って初めて電球を作った話が伝えられています。その後、炭素線はタングステン線に替わり、長い間電球として使われてきました。タングステン線電球は寿命が短く、頻繁に取り替える必要があったのです。電球が使われ始めた当初は、おそらく電球は電線に何らかの形で直結されていたものと思われます。しかし、電球が普及するにともなって、切れた電球の取り替えを容易にするため、現在のようなみぞ付きねじ込み型のソケットが発明されました。  私の想像では、電球がソケットによって取り外し可能になったことが、電球を供給する民営の電気製品会社を発展させる素地を作り、そこから現在の家電産業が生まれたものと考えます。ねじ込み型のソケットに次いで、二本脚のさし込みコンセントも発明され、電球だけでなく、一般の電気製品が容易に着脱できるようになりました。このことも、電気製品の製造が電力供給から切り離される条件を作り出したわけです。  もし、上記と異なり、例えば10年も20年も切れないで光り続ける電球が当初から発明されていたならば、ねじ込み型のソケットの必要はなく、電球の供給も電力利用の一端として電力会社によって担われていたかもしれません。また、もし100ボルトの電力が二本脚のさし込みコンセントという着脱を許さず、素人では操作できないようなソケットを必要としていたならば、同じく家電製品は独立せず、電力会社によって供給されていたかもしれません。ガス製品の状況が、ある程度それに近くなっています。ガスは電気と違ってガス漏れの危険があることから、素人でも扱えるソケットの開発が電気と比べて大幅に遅れたからです。このように電力産業と家電産業の分離、そして自由競争を基盤としたわが国家電産業の発展は、もとをたどればかなり偶然的な技術上の特色に端を発したと言えると思います。 Q:ソケットと言えば、電話の場合は端末を着脱する小型ソケット(モジュラージャック)が思い出される。電気通信産業でのソケットの意義は何かあったのだろうか(?) A:その通り、大きな影響がありました。電気通信産業では、電力照明のための電球に当たるものは、電話端末つまり古い時代の壁掛け電話機や、その後の卓上黒電話機です。幸か不幸か、電球と違って、電話端末は短期間で消耗することがなく、それこそ10年、20年の長期間にわたって使えるものでした。そのため、電話線のソケットの必要は、電球のねじ込み型ソケットほど必要でなく、電話用ソケットの発明は大幅に遅れました。(私は、はじめて電話端末を買って公社の「黒電話」を捨てることになったとき、どの程度丈夫かと思って床に投げ落としてみたことがあります。驚いたことに、1回や2回の衝撃ではこわれず、「こわすのが大変」な製品でした。)  現在われわれが使っているモジュラージャックは、1970年代に、米国の(旧)AT&Tによって使用され始めたと記憶します。当時わが国では、電話は旧式の壁に取り付けた型、あるいはせいぜい1メートルほどのコードを持つ卓上の黒電話でした。電話のコードは直接壁に取り付けられたコンセントに入っており、素人では電話機の取り外しは不可能でした。(許されてもいませんでした。)当時アメリカ映画で、電話機を部屋から部屋へ持ち歩くシーンがあり、やはり先進国はすばらしいものだと思った記憶があります。  このモジュラージャックが発明されたおかげで、電話機の取り外しが素人でもできるようになり、これに電話端末の製造販売の自由化が加わって、現在のように端末機能の進歩、価格の大幅な下落が実現しました。電話端末の自由化の直接の契機は、モジュラージャックの出現だったのではないでしょうか。ちなみに、当初モジュラージャックは、AT&Tが電話機の付け替えや取り外しを容易にするため、つまり加入者サービスの費用を節約するために導入されたのでしょうが、これが他方でウェスタン・エレクトリック((旧)AT&Tの子会社)による端末供給の独占体制を打破する一契機となったのは、皮肉なことです。 VI.「上下分離」一般について Q:話がだいぶ広がってしまったので、ここで「産業の上下分離(機能別編成)」についてまとめて頂こう。断っておくが、当方ではまだ電気通信産業を上下に分離することが望ましいとする意見に賛成しているわけではない。第一ここまでの話は、電気通信産業の内容にはあまり入らずに、高速道路とか電力・家電産業を使った比喩的な話に終わっているのだから。 A:かしこまりました。もちろん、ここまでの説明だけで電気通信産業の「上下分離」にご賛成頂けるとは思っていません。また、「上下分離」には長所だけでなく欠点もあります。ここでひとまずこれまでの問答をまとめてみましょう。ポイントは2つあります。  第1に、およそ「生産活動」には、複数の階層構造があるということです。これはたとえば食料品や衣料のような「財貨」については、生産に使われる原料やそこに投入される労働・中間生産物・最終生産物という形で、たやすく捉えることができます。とりたてて言うほどのこともない自明のことです。しかし、運輸・交通や「家電サービス(電力エネルギーの応用)」や「電気通信」などのサービスについては、上下階層構造は少し立ち入って考えることが必要です。  財貨の生産では、原料・中間生産物・最終生産物が時間的前後によって区別されます。まず、原料が入手され、次にそこから中間生産物がつくられ、さらにそれが最終生産物にまで加工されるわけです。サービス生産では、そのような時間的前後による区別はありません。たとえばわれわれが高速道路サービスを購入する、つまり自家用車を運転して高速道路を走るときには、下層構造である道路インフラ、中層構造である道路管理・制御サービス、そして上部構造である自動車のサービスを同時に受け取っています。このため、サービス生産の上下階層構造は分かりにくいのです。 Q:分かりにくいだけでなく、もともと上下に分けるのは無理なのではないか。 A:お言葉ですが、必ずしもそうとは限りません。生産プロセスでの時間的前後でなく、財貨やサービスの代価の内容を考えていただくと分かりやすいと思います。一般の財貨の場合、消費者は購入時に最終生産物たとえばパンの代価をパン屋さんに支払います。パン屋さんではそのうち一部を原料である小麦粉等の支払いに当て、残りはパンの製造・販売に必要なマージンとして自分の手元に残します。その中から賃金や設備・店舗の原価償却分を支払い、残りを利潤として手に入れるわけです。次に中間製品である小麦粉を生産する製粉会社は、小麦粉の代金を受け取り、その中から原料である小麦の代価を支払い、残りをマージンとします。パン屋さんの場合とまったく同じです。さらに製粉業者に小麦を供給する農家についても同じことが成り立ちます。以下、たとえば小麦生産のための肥料、肥料生産のための原料というように続くわけです。  経済学入門を学習された方はご存じと思いますが、財貨の販売価格から原料等の費用を差し引いた残りは、「付加価値」と呼ばれています。「製品価格」=「原料費」+「付加価値」です。付加価値の中から、労働賃金、資本費用、利子費用などが支払われ、残りが企業利潤になります。ところが、「原料費」は一つ前の段階でそこでの原料費と付加価値に分かれ、これが次々に続きますから、結局「製品価格」は各段階の付加価値の合計になります。  最終生産物・中間生産物・原料という形で生産活動が産業から産業に連鎖している事実は、「産業連関」と呼ばれています。産業間の相互連鎖関係に着目し、これを「産業連関表」という統計表にまとめあげたのは、アメリカで最初にノーベル経済学賞を受けたW. W. Leontief教授の業績です。  ところで、サービス生産についても、「付加価値や原料費」という点で考えると、代価や費用の支払い関係は、財貨生産の場合と同じであることが分かります。たとえば、高速道路サービスについては、まず高速道路ユーザがサービスの代価を道路公団に支払います。道路公団では、その中からサービス生産のための「原料費」、実際には道路運営のためのエネルギー費や外部業者への支払いを除き、残額から賃金や減価償却・利子費用を支払います。  道路公団の場合には、インフラ部分と道路管理・制御業務が一体となっているので、少し分かりにくい点があります。今もし仮に、インフラ部分と管理・制御業務が分離されているとしましょう。たとえば、首都高速道路が独立に運営され、「首都高速公団I(管理公団)」と「首都高速公団0(設備公団)」に分かれているものとします。その時、首都高速のユーザは、まず道路使用料を公団Iに支払います。公団Iでは収入から「道路インフラ使用料」を公団0に支払い、残りを公団Iの付加価値として賃金等に支払います。次に、公団0は、公団Iから「インフラ使用料」を受取り、そこから外部業者等への支払いを除いた付加価値を入手し、賃金・道路設備の減価償却、利子費用などの支払いに当てるわけです。  このように、財やサービスの代価が各段階の「付加価値」の合計で構成される点ではかわりありませんが、それが具体的にどのように分かれるかは、生産段階がどの程度統合・分離されているかによって決まります。現在そうであるように、「道路公団」がインフラの保有・提供と道路ネットワークの管理・制御を同時におこなっている場合と、インフラを提供する「公団0」と道路の管理・制御をおこなう「公団I」とに分かれている場合とでは、違いがあるわけです。ただし、付加価値の合計は、生産段階の分け方如何にかかわらず、常に一定です。これはマクロ経済学での国民総生産の計算のための基礎理論です。 Q:一応フォローはしているが、ずいぶんとややこしい話だ。仮想的に公団0、公団Iを分けたりしないで、もっと現実に即して端的にサービス生産の代価支払いや付加価値が分かる例はないのか。 A:あります。現実の例で分かりやすいのは、旅行のための交通・宿泊サービスの場合でしょう。われわれが旅行を計画するときには、まず旅行業者(トラベル・エージェント)に依頼します。トラベル・エージェントでは客の希望を聞き、飛行機・列車やホテルの予約をとって、その証拠であるチケット・クーポンを渡し、代価を受け取るわけです。つまりそこではチケット・クーポンという形で「旅行サービス」が顧客に販売され、旅行サービスの代価が顧客からトラベル・エージェントに支払われていることになります。トラベル・エージェントは、旅行サービス生産の上部階層です。  次にトラベル・エージェントは、受け取った代価から乗り物代やホテル代を航空会社・JRやホテルに支払います。われわれ顧客の目から見ると、JRのチケット代はトラベル・エージェントで購入してもJRの窓口で直接に購入しても変わりはありません。しかしもちろん実際には、JRからトラベル・エージェントへの卸価格が決められており、差額がトラベル・エージェントの「付加価値」になるわけです。  さて、次にトラベル・エージェントから乗り物代を受け取ったたとえば航空会社は、代価から航空機リース料、燃料代、空港・空路使用料などを支払います。これが「原料費」に当たります。残りの部分は、航空会社の付加価値として社員の給料に当てられるわけです。もし、航空会社が飛行機を自分で保有している場合には、リース料の代わりに保有機の減価償却と保有機の購入資金の利子費用を支払うことになります。  さらに航空機リース会社では、受け取ったリース料を「原料費部分」と付加価値に分け、また空港・空路使用料を受け取った当事者も同じです。ホテルについても、同様に考えることができます。  このように、「旅行サービス」の場合には、旅行サービスの小売りを担当するトラベル・エージェントと、実際に旅行サービスを生産する航空会社・ホテルと(場合によっては)そのための機材を提供する航空機リース会社が分かれているため、「旅行サービス生産の上下階層構造」が実際の代価の構成と相対応しているわけです。 Q:あい分かった。ついでに、家電と電力産業の場合も、説明してほしい。 A:はい。家電・電力の場合には、消費者が家電製品の代価と電気代とをそれぞれ別個に支払っています。家電製品はもちろん電力がなければ動きません。消費者は自己の保有する家電機器と電力とを組み合わせて「家電製品サービス」を自宅内で生産し、それを享受していると考えることができます。このように家電製品サービスはすべて自家生産されているので、話が少し面倒になります。  分かりやすくするため、自家生産されている家電サービスたとえば洗濯機の「洗濯サービス」を、外部から購入するものとしましょう。これはつまり衣類をクリーニングに出す場合です。この場合、消費者はクリーニング業者から「洗濯機と電力とを結合して提供される」クリーニング・サービスを購入し(つまり衣類をクリーニングしてもらい)、その代価をクリーニング料として支払います。クリーニング店では、受け取った代金から電力代やクリーニング機器のリース料を支払い、残りを付加価値として手元にとどめます。このように考えれば、洗濯機という家電製品についても「洗濯サービスの生産」という上部構造と、洗濯機器サービス、電力という下部構造を区別することができます。われわれが自分で洗濯しているのは、クリーニング店の業務とクリーニング機器リース業者の業務の双方を自宅内でおこなっていることになります。したがって自宅内でおこなっいるクリーニング業務に、計算上「原料費」や「付加価値」をつけることができるはずです。  なぜわれわれが洗濯機を保有することをやめて、すべてクリーニングに出すことをしないのか。あるいは洗濯機だけを外部からリースしないのか(ワンルームマンション等では洗濯機サービスが時間貸しされています)。もちろんコストと手間の計算になります。それぞれ与えられた条件の下で、洗濯サービスの生産の仕方を自家生産にするか、クリーニング店から購入するか、あるいは部分的に購入するか(ワンルームマンションの場合)を、合理的に選んでいるわけです。このような区別は、たとえば「クリーニング産業」が独立して存続するための根拠を問うていることにもなっています。  他の家電製品についても洗濯サービスの場合と同様に考えることができます。大部分の場合は、家電製品を自宅内に保有して別に購入した電力と結合し、それぞれのサービスを「自家生産」していますが、たとえば入院時にレビをリースする場合を考えれば、使用料と原料・付加価値を考えることができます。 Q:経済学というのは、常識的に分かりきったことをわざわざねじ曲げて複雑にし、分かりにくくして解説するものなのか。高速道路の通行料を道路公団に支払い、洗濯機など家電製品の代価は耐久消費財購入として家電メーカーに支払い、電力代金は電力会社に支払う。そのままの形で家計簿に入っており、素直に理解できないのか。 A:決まりきったことをわざわざ複雑にしていると言われれば、一言もありません。確かにその通りです。しかし、一見したことろでは複雑にしているようでも、実は物事の本質を抽出して分かりやすくしているつもりなのですが。いわばわれわれの目に直接見える、理解できる形を組み替えて、本質的な意味で「よりよく見える」ようにしているつもりです。でもその組み替えの作業自体がゴタゴタしているので、分かりにくいという点はやむを得ません。  「分かりやすいことを組み替える苦労」は、たとえば山登りの苦労と似ているかも知れません。なにもわざわざ汗水流して山登りの苦労をする「必要」はまったくないのでしょうが、しかし山の頂上を究めた満足感・征服感を求めて登山家は「汗を流す」わけです。この場合の「苦労の代価」は、電気通信産業の構造をより深く理解することにより、国民のすべて、事業者のすべてにより役に立つ電気通信産業構造が何であるかを明らかにできる点にあります。せっかくここまで付き合って下さったのですから、もう少しご辛抱をお願いしたいと思います。 VII.電気通信産業の「上下分離」(1) Q:電気通信産業の上下階層構造と代価の支払いは、どうなるのか。 A:望ましい「電気通信産業構造」については、次節で明らかにするつもりです。とりあえずここでは、電気通信産業の現状に基づいて、上下分離の可能性と料金・コストの分け方について述べておきます。  話を簡単にするために、無線関係のサービスや専用線サービスを除いて、通常の有線の電話について考えます。多くの家庭では、電話料金として、NTTに市内・市外通話料を支払っていると思います。また、市外通話のためにNCC(新規電話事業者)と契約している方は、NTTとは別に市外通話料を支払っておられるでしょう。さらに国外に電話をかける家庭では、KDDあるいは国際電話のNCCに通話料を支払っておられると思います。これらの支払区分は、最初に述べた「垂直分離」に対応します。ところで、市内・市外・国際通話のそれぞれについて、NTT・KDD・NCCは、インフラ部分もネットワークサービス部分もすべて一体として供給しており、ユーザも基本料・通話料などの内訳はありますが、電話代として一括して支払っているわけです。  アナログ電話つまり現在普及している電話の場合には、電気通信産業の上下分離はあまり意味を持たず、インフラサービスやネットワークサービスを区別せずに、一体化して供給する現在のスタイルが最も適していました。しかし、近い将来に普及が見込まれているディジタル通信や、広帯域通信の場合には、電気通信サービスという仕事が複雑化・分化するため、次節で述べるように上下分離を取り入れた電気通信産業を考えるのが、ユーザにとっても事業者にとっても有利になります。  また、ご存じのように、電話機(電話端末)は、かつてはNTTが現在の電話サービスと一体化して供給していました。しかし、先程述べたように、電話コードを手軽に着脱するための「モジュラージャック」が発明された後に、電話端末の交換が素人でも手軽にできるようになり、同時に電話機の中に様々の機能を実現するコンピュータ素子(LSI)を組み込む技術が発展したため、電話端末生産のビジネスが魅力的なものになってきました。その結果、米国に次いでわが国でも、電話端末の供給がNTTの独占から自由化され、一般の電器メーカーが電話機を販売するようになったわけです。ご承知のように、当初は十数万円の価格をつけていた電話端末が、現在では簡単なものでは1万円を切っており、さらにこれに加え、留守録、ファクシミリとの一体化など、さまざまな機能をつけた便利なものが出回っています。したがって、電話端末の自由化以前には、電話代と一括して支払われていた電話端末の使用料が、現在では大部分の家庭で電話料と別個に支払われるようになっているわけです。この区分も、「垂直分離」に対応しています。 Q:その通りだ。電話サービスが市内電話・市外電話・国際電話と区別され、これに電話端末も自由化されて、それ自体の市場が成立すれば、それでことは済むのではないか。 A:そうとも限りません。電気通信ネットワークは、これまで議論してきたように、インフラ・ネットワーク・サービスという上下方向の区別に加えて、ネットワークが垂直方向や水平的・地域的な広がりを持っていることから、市内・市外・国際電話などの区別もでてきます。ものが大きく、かつ複雑であるため、いろいろな方向に切りわけることができるわけです。アナログ電話の時代、とりわけ市外・国際電話など長距離通信のコストが急速に下落していた時代には、市内電話と市外・国際電話を分けることに意義がありました。現在の市場の分け方は、そのような歴史的経過を反映しているわけです。しかし、近い将来のディジタル通信・広帯域通信では、それ以外にもいくつかの新しい要素が加わってきます。そのような新しい要素を有効に取り入れる方法の1つが「上下分離」の考え方です。上下分離は、形式的には市内・市外・国際というネットワークの分離の仕方に重ねて考えることができます。  市内電話網を上中下に分離し、市外電話網を上中下に分離し、また国際電話網も上中下に分離することは、理論的には可能です。しかし、そのような極端な細分化が有用であるかどうかはまた別問題です。ここでの議論は、まず電気通信ネットワークを1つの大きな対象物として考え、これに対してどのような分離の可能性があるか、そのうちでどの種類の分離が最も有用であるかを考えようとするものです。 VIII.「産業構造」は何から生じたのか(?) Q:少し戻って、さきほどのまとめ(VI冒頭)のもう1つの点は何なのか? A:もう1つの点は、産業や企業・事業者の「境界」についてです。先程電気通信産業は、技術の発展の経過、産業の歴史的発展の経過から、インフラから電話端末・サービスまで含め、上下層を統合した形で産業構造が作られてきたと申しました。これは、高速道路でいえば、道路公団が運送事業、トラック事業、バス事業を兼営している場合にあたり、電力でいえば、電力会社が家電産業を「兼営」している場合にあたり、また航空産業でいえば、空港・空路・航空会社・旅行業者の業務が上下一体化されている場合にあたると申しました。 Q:事実としては、その通りだろう。しかし、一体そのどこが悪いのか。貴君は先程、「もし一般道路上の自動車交通というものが存在せず、高速道路の建設と自動車交通が同時にはじまったとすれば、道路公団が運輸・交通事業を兼営したであろう。」と言い、また「もし、タングステン電球が長持ちしたならばソケットの発明が遅れ、電力会社が家電事業を兼営したであろう。それはガス事業会社がガス器具をかなり最近まで供給していたケースにあたる。」と言った。  それはその通りかも知れないが、いずれも事実に反する仮定の下での話だ。実際には自動車が一般道路上で広く使われた後に、高速道路が需要に応じて建設されたのであり、また長持ちする電球は蛍光灯の発明まで実現されず、ソケットが早く発明されて、電気器具の製造は電力の供給から切り離され、それぞれ別個に発展した。このように、産業構造は技術的・社会的・経済的な条件に適合するように「合理的に」発展してきているのであり、歴史を変えることが不可能である以上、実際の産業構造と異なるケースを考えてみても、無意味ではないか。確かに産業の境界は「偶然的な事情」によって形成されてきたかも知れないが、偶然的な事情が歴史的事実である以上、現在の産業構造は合理的な存在、あるいは「自然な存在」ではないのか(?) A:過去の産業構造について別のケースを考えることは、確かに仮定の上での話であり、実際的な意味はありません。ここでは一種の「思考実験」として申し上げているだけです。これらはすべて将来の産業構造について考えるための手掛かりです。  一般に産業構造、産業間の境界は、歴史的事情を反映して形成されますが、それには長い時間がかかります。また一旦できた産業構造は強固な存在であり、少しばかり周辺の条件が変わったからといって、急に変わるものではありません。特定の産業構造が一旦できれば、産業内・産業間のすべての組織や活動のあり方が現存するその産業構造に沿ってつくられ、法律も制度も慣習も、組織も人間関係も、それにしたがってつくられるからです。つまり1つの産業構造には、単にそれだけでなく、膨大な人間の営みの様式、あり方が背景にあり、それらによって支えられているわけです。産業構造を変えるには、そのような膨大な背景を同時に変えなければなりません。それはなかなか大変なことで、よほどの事情がないかぎり、既存の構造を変革することは難しいのです。  ところが、このように強固な産業構造を規定してきた技術的、経済的、社会的条件が変わることがあります。もちろんすべての産業ですべての条件が変わるわけではありませんが、産業により、また時代により、産業構造を規定する条件が比較的短期間に大幅に変わることがあります。そのような場合、変化した条件の下で、既存の古い産業構造は、円滑に機能するとは限りません。多くの場合、いろいろな矛盾が出てきます。それは、たとえば法律・制度の陳腐化と、それにともなう「違法行為」、「既存の慣習・人間関係からはずれた行為」、「規制組織の枠外での活動」などとして現れます。このような矛盾がある程度まで達すると、既存の産業構造はそのままでは維持不可能となり、部分的に改良されて新しい条件に適合するか、あるいは全く新しい産業構造が古い構造にとって代わることになります。産業構造の変革が具体的にどのような形をとるかは、もちろん国、時代、背景によって異なるわけです。  電気通信産業では、ご承知のように技術進歩のスピードが早いので、既存の産業構造に対する矛盾は、技術進歩にともなう新しい可能性によってもたらされてきました。これまで電気通信産業で起きた産業構造の変革は、第一に、すでに述べた電話端末供給の「自由化」と、長距離通信市場の「自由化」です。これらはいずれも上下統合型・独占型の既存産業構造を、いわば「部分的に修正」したものです。  電話端末市場の自由化は、先に述べたように、モジュラージャックの発明に加え、LSIなどの発展にともなう端末価格の大幅な下落と端末機能の高度化が原因です。また長距離通信市場の自由化の背景は、同軸ケーブル、光ファイバーの導入による長距離通信コストの「何十分の一あるいは何百分の一というスケールの」下落にあります。技術進歩が既存産業構造に対して新規参入の圧力を生じ、それを反映する形で既存産業構造が部分的に修正されて現在に至っているわけです。  ここで是非ご記憶願いたいことは、このように技術条件を含む周辺の条件の変化が生じた場合に、変化の規模がある程度以上大きければ既存の産業構造が何らかの変化を余儀なくされるわけですが、産業構造の変化には時間がかかるというわけです。周辺条件の変化は少しずつ起きています。最初のうちは、変化の規模が小さいので、産業構造との間の「矛盾」はあまり感じられません。しかし、ある特定の方向への変化が継続すると、その効果が累積され、現存する産業構造の「不適合度」は次第に増大します。これがある程度の大きさに達した段階で、産業構造の変革がはじまるわけです。しかし、先程述べたように、既存の産業構造は、たくさんの要因によって支えられていますので、容易には変わりません。変革に逆らう要因には、新しい産業構造をつくるための手間・費用・時間が極端に大きいことから、既存の産業構造に依存するさまざまの利害関係まで、多くのものが含まれます。  さらに産業構造の変革とは言っても、既存のものを全面的に廃止して新しくつくりなおすのではなく、「部分的な修正」が多いのです。従来何もなかった場所に新製品や新サービスが供給される場合、つまり新たに産業が生まれる場合には、そこで与えられた条件に適合する合理的な産業構造ができやすいのです。パーソナル・コンピュータ市場が上下分離(ハードウェアとソフトウェア)されたのはその例です。しかし、すでに既存の産業構造がある場合、周辺条件の変革に応じて「手直し・部分的改革」がなされる場合には、複数の可能性が与えられることが多いのです。それは既存の産業構造においてすでに与えられている多くの要因のうち、どの要因をどのように変革させるかについて、複数の選択肢が生ずるからです。新しい産業が形成される場合の産業構造の決定に比べて、既存産業の産業構造の変革には、困難が生じがちであり、利害関係から対立が生まれやすく、それらをめぐって産業構造の変革に長い時間がかかります。 Q:抽象的な話で分かりにくい点があるが、一般論としてはその通りだろう。電気通信産業では、どんな話になるのか。わが国の電気通信産業構造の変革が「NTT組織の見直し」という形で10年の年月を要しているのも、貴殿の言う「部分的改革」にともなう遅れの例なのか。もしそうだとしても、それは止むを得ないことではないのか(?) A:「NTTの見直し」に長い年月がかかっていることの基本的な理由は、その通りだと思います。それの具体的な形は、「日本的要因」によって決められているのでしょうが。 IX.電気通信産業の「上下分離」(2)――ディジタル化の流れ Q:ところで、なぜ貴君は、この段階で「上下分離」を主張するのか。それは既存の産業構造の全面的な見直しか、あるいは部分的な手直しなのか。そもそも上下分離を必要とする「条件の変化」とは一体何なのか。全体の概略を説明してほしい。 A:はい。ここで提案している「上下分離」は、時間をかけてみれば電気通信産業構造の「全面的な改革」になると思います。しかし電気通信ネットワークは、巨大な存在ですから、これを短時間の間に「全面的に変革」することは不可能です。したがって、ここでの「上下分離」の提案は、「上下分離の方向への漸次的・段階的変革の積み重ね」の提案というのが適当です。つまり、短期間で見れば、「部分的・漸進的変革」、長期をとって見れば、「全面的変革」になると思います。  もう1つのご質問、すなわち「電気通信産業の上下分離」の提案のもとになっている条件の変化とは何かについてですが、一口に言えば、「アナログ通信からディジタル通信への進歩」です。この「ディジタル通信への進歩」がなぜ「上下分離」につながるかという点については、次節で時間をかけてご説明します。ここでは、電気通信ネットワークという巨大なシステムが、当初はアナログ技術によって建設されましたが、ディジタル技術に基く「ネットワークの部分的変革」が進行中であることを強調しておきたいと思います。  もとよりディジタル技術は、アナログ技術よりもはるかに利点が大きいので、将来すべての電気通信サービスが100%ディジタル技術によって供給されることは疑いありません。しかし、電気通信ネットワークのディジタル技術への変革には、長い年月を要します。現在のところ、日本の長距離通信はすべてディジタル化されていますが、市内電話・近距離通信にはまだアナログ技術が残っています。これらがすべてディジタル技術に置き換えられ、かつ「マルチメディアの可能性を十分に発揮できる広帯域ディジタルシステム」に変わるまでは、まだ何年か時間がかかります。  「上下分離」は、一言で言えば、「広帯域ディジタル通信」がわが国に十分に普及してその威力を発揮するときに、最も適した方策ということで提案しているのです。つまりそれは現在すぐに実現されるべき産業構造ではなく、将来の有利な産業構造として、少しずつその方向に向かってゆくべきであるという、「将来方向・将来目標」の提案ということです。 Q:そうなのか。貴君の言う「上下分離」は、何年か後の将来のためのシステムであり、またそれは電気通信の「ディジタル化」を前提にしての話ということだね。 A:そうです。 Q:それならば、直ちに2つの疑問が出てくる。まず、電気通信ネットワークの「ディジタル化」が現在進行中であることには同意するが、それが将来かなりの期間にわたって電気通信を支配する原理になると確信をもって言うことができるのか。もし、それがまちがっていて、現在の「ディジタル化」が途中まで進行した後、さらに「ディジタル化」を凌駕する次の技術が出てきて、そちらの方が重要になったらどうするのか。「上下分離」は、そのときでもやはり成立するのか?  もう1つの疑問は、仮に「ディジタル化」が今後20年、30年間の電気通信を支配する原理になるという予想が正しいにしても、「ディジタル化」が完成した後にはじめて威力を発揮する「上下分離」については、現在のような過渡期に考えるのはあまり意味がなく、将来になってからその実現を期すればよいのではないか? A:そのご質問はもっともです。まず第1点。「ディジタル化」は、現在から将来にかけて電気通信産業でどの程度支配的「原理」になるかについて。内容に関する詳しい議論は他に譲りますが、「ディジタル化」は将来相当長期間にわたって電気通信(だけでなく、実は情報処理分野全般にわたって)支配的原理になるとする強い理由があります。それは、ディジタル化が情報の処理加工を可能にし、「マルチメディア」と言われるように、多様な情報通信の応用の可能性を開くからです。アプリケーション・ソフトウェアの存在自体が、「ディジタル化」に根拠をおいています。  もともと、情報通信システムがハードウェア(インフラ等)部分とソフトウェア・コンテンツに分かれるのも、「ディジタル技術」が基盤になっています。(アナログ通信技術では、ハードウェアとコンテンツだけがあり、ソフトウェアはありません。)情報処理においてハードウェアとソフトウェア・コンテンツが分かれることが、電気通信産業の上下分離の提案の基礎になっています。さきほど申したように、コンピュータ産業(PC産業)では、すでに上下分離がハードウェア・OS・アプリケーションの3層構造の形で成立し、産業成長の要因になっています。  別の言い方をすれば、コンピュータ技術の原理が「ディジタル化」であるかぎり、電気通信の基本も「ディジタル技術」であろう、ということです。現在、コンピュータの原理が「ディジタル化」から他の何かに移るだろうと考える専門家はいないでしょう。  次に第2の点。将来において普及し、普遍化すると考える技術に最も適した産業構造を、なぜ現在時点で提案するかという問題です。これは先程申しましたように、産業の基盤になる技術の変化と産業構造の適応に、時間の遅れがあることが理由です。手短に言えば、将来において「ディジタル技術」による通信が普及し、その状態に応ずる産業構造として「上下分離」型が最も適しているとすれば、現在時点からそのような上下分離型の産業構造を「準備」しておくことが望ましいのです。現在時点でそのような準備をせず、「ディジタル技術」の特色をあまり考えずに、結果的にアナログ技術に即応する産業構造を温存しつづけると、将来ディジタル技術が普及した時点で、はじめてその技術への適応作業を開始することになり、さらに何年かの遅れを生ずることになります。つまり、現在時点での「上下分離」の提案は、将来を見越した「先取り作戦」です。もちろん、将来「ディジタル技術」が普及するという予測が誤りであれば、そのような先取り作戦は大きな損失を招きますが、前項で述べたように、そのような事態はまず生じないと考えられるので、なるべく早い時点にわが国の電気通信産業を「上下分離型」に近づけるのが望ましいのです。 X.広帯域ディジタル通信と「上下分離」 Q:それでは図6を説明して欲しい。 A:分かりました。図6の元になっているのは、ITU-Tで標準化作業がおこなわれている広帯域ディジタル通信網(BISDN)用の仕事の切り分けです。それは、図6の「対応レイヤ」の欄に書かれているように、下から、物理レイヤ、ATMレイヤ、AAL(ATM Application Layer)、上位レイヤの4層に分かれています。  物理レイヤは、道路で言えは道路設備つまりインフラに当たるところです。  下から2番目のATMレイヤは、ディジタル通信の中心機能です。広帯域ディジタル通信では音声もデータも映像も含め、すべての情報を「セル」と呼ばれる小さな共通単位に分解して運びます。生物の体が、筋肉でも皮膚でも内蔵でも、すべて基本単位である細胞(セル)からできていることと似ています。テレビ番組のような映像は、それこそ何百万というセルで表わされますが、この大量のセルを一瞬のうちに、たとえば東京から大阪まで運ぶわけです。現代のコンピュータは恐ろしく高機能にできていて、莫大な量のセルを時間の遅れなしに伝送したり、交換機でルートを切りわけて目的地に運ぶことができます。ATMレイヤは、全国あるいは全世界規模でこのように「セル」を伝送する役目を果たすわけです。  次に、その上にあるAALでは、音声やコンピュータ・データや映像などの具体的な情報をセルに切り分けたり、また、セルの形で受け取った情報を再構成して元の音声、データ、映像に再生する仕事をします。  その上の上位レイヤでは、AALの仕事を受けて、たとえば音声であれば2人のユーザをつないで両者間に電話通信サービスを供給したり、あるいは「ビデオ電話」や「テレビ会議」であれば、映像と音声双方を2カ所あるいは2カ所以上の場所でつないで、注文の通りにユーザに届ける仕事をします。  実は、上位レイヤ1と上位レイヤ2の区別は、ITU-Tの標準でつけられている区別ではなく、ここで私が説明の都合上区別を入れただけのものです。上位レイヤ2は、同じ情報サービスでも、内容つまりコンテンツにかかわる仕事をします。ビデオ・オン・ディマンドの番組を流したり、放送番組を作ったり、リモート・バンキングやリモート・メディカル・サービスを供給する仕事です。 Q:なるほど。細かいところは別にして、だいたい分かったような気がする。上下分離とはつまり、そのような情報処理の仕事の分担をそのまま事業区分に持ってこようというのか(?) A:はい、その通りです。図4の左側の「レベル」の欄に書いてある、下から0、IA、IB、IIの4層が、ここで考えている事業区分に当たります。つまり、0レベルは物理レイヤと同じであり、IAはATMレイヤと同じです。IBのところはAALと上位レイヤ1をまとめています。これは、技術的にはAALと上位レイヤ1が区別されていますが、実際の事業としては、必ずしも分ける必要はなく、まとめておく方が都合がよいと考えたからです。  ここで強調したいのは、、IAとIBの間の線で、ここを別々の事業として分けるのが、この案の眼目になっています。それから、IBとIIを分けるのは自然でしょう。現在のI種事業者とII種事業者の区別に対応しているからです。 Q:なぜIAとIBを分けるのがそれほど大切なのか(?) それから、図5の最下層にあったとう道や管路は、広帯域通信の図ではどうなったのか(?) A:第2の質問から先にお答えしますと、広帯域通信の場合にも、もちろんとう道や管路はあります。したがって、0レベルを上下に2分して、図5と同じようにとう道・管路を「アンバンドル」してもよいのです。この点では、アナログ通信もディジタル通信も変わりません。  大事な点は、IAとIBを分けなければならないという点です。それは、この両者の仕事の性質がきわめて違っているからです。IAは先程申したように、「セル」の形の情報を、2点間でなるべく能率よく流す仕事を受持ちます。そのためには、伝送路に切れ目がなく、端から端までつながっている、つまりシームレスな伝送路になっていることが望ましいのです。つまり、IAは仕事の性質上、単一の事業者で面倒を見るのに適しており、「独占」が自然な事業形態になります。  これに対して、IBのレベルの仕事には競争市場が適しています。情報そのものは、IAのレベルで送ってくれますから、IBでは、ユーザに便利な情報の送り方を工夫し、サービスを改良するという競争の利点が実現できるわけです。IBは「マルチメディア事業者」ということになります。IAは、それを下支えするための仕事です。 Q:だいたい分かった。それでは、なぜ、現在のアナログ時代にはIAとIBの区別がはっきりしなかったのか(?) A:それは、通信の仕事がアナログ方式で、つまり音声は音声のまま、映像は映像のまま送られていたからです。ディジタル時代になって、音声や映像情報をディジタル単位である「セル」に直され、その形で送られますから、IAとIBの区別が出てきたわけです。 Q:なるほど、そんなものか。その話は受け入れるが、そうだとして、ではディジタル通信になったからIAとIBをなぜはっきり分けなければならないのか。アナログ時代に一緒になっていたものなら、無理に分けないでもよいのではないか。分けることで余分なコストがかかるのではないか(?) A:それは大変ポイントを得たご質問です。一言で申せば、以下のようなことになります。ディジタル時代になって、IAレベルがおこなう「セル」形式での情報転送と、IBレベルがおこなうユーザ向けのサービスが仕事として分けられた結果、通信事業に含まれる競争的要素と非競争的要素を分けることが可能になったからです。通信事業には、もともと競争要素と非競争要素の両方が含まれています。全国をあるいは全世界を一つにまとめて、なるべく能率よく情報を送ろうというのが、非競争的要素です。これに対してユーザが最も好むサービスを、なるべく低価格で供給するのが、競争要素です。通信事業の困難は、この相反する性質を持つ2要素が同時に存在するからです。  アナログ時代には、この2要素を分けることができず、一体として扱わざるを得なかったのです。しかし、ディジタル技術が発展すると、図6に示したように、競争要素と非競争要素を分けることが可能になりました。そうであれば、その可能性を追求して、両者を分ける方が合理的ではないか、ユーザの利益はもちろん、事業者の利益にも叶うのではないかというのが私の提案です。 Q:なるほど。だいたいの話は分かった。では、独占要素の強いレベルIAには、もう競争が入る可能性は未来永劫ないのか、どうしても通信事業にはIAのような仕事が残ってしまうのか(?) A:そこは私にも分かりません。次の次の時代のことですから。しかし乱暴に予測すれば、その次の時代の技術では、もう一つ進んだ可能性が出てきて、IAのレベルでも競争が入るようになるのではないでしょうか。少なくともそうなることを希望したいですね。 Q:なるほど。ずいぶん長くなってしまったから、今日はこの話はこれで終わることにしよう。もし、InfoCom REVIEWがこの問題を気に入ってくれて、「続編」の注文でも出てきたら、広帯域ディジタル時代の産業構造について、もっと詳しい問答をしてみよう。 A:どうもありがとうございました。 ┌──────────────────┐ │ 長距離電話サービス(LATA間・国際)├─┐ ├───────A───┬──D───┤ │ ┌───────┤ │ │ │ │ │地域電話サービス┌──┘ │ │ │ケーブルテレビ│ (LATA内) │ 移動電話サービス│ │ │ サービス B C │ │ │ │ │ │ │ └───┬───┴────────┴────┬────┘ │ └────────F────────┘ │ ┌───────────┐ E │ │ │ │ 機器製造 ├────────┘ └───────────┘ 図1 米国電気通信産業の垂直分離/統合 ┌──────┬────────────────────┐ │ │ │ │ 国際電話 │ 市外電話 │ │ [KDD, NCC]│ [NTT, NCC] │ ├──A───┴────B───────────┬───┤ │ │ │ │ 市内電話 │ │ │ [NTT] ┌─────┘ │ ┌────┤ │ │ │ ├────────C────────┤ │ │ケーブル│ │ 移動体通信 │ │ テレビ│ ユーザ・アクセス(基本料)[NTT] │ │ │ │ │ │ └────┴─────────────────┴─────────┘ 図2 日本の電気通信産業の垂直分離/統合 ┌────────────────────────────────┐ │ 消費者ユーザ │ └┬─────────┬──────┬──────────┬───┘ │ │ │ │ │ │ │(生鮮食料品 │消費財 │ │ │ など消費財) │代価) │ │ │ │ │ │ ┌┴──────────┴───┐ │(高速道路サービス│ │ 企業ユーザ │ │ ――直接便益) │ └┬──────────┬───┘ │ │ │ │ │ │ │ │   │         │(高速道路 │(高速道路サービス │(高速道路   │         │ 使用料) │ ――間接便益) │ 使用料) │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ │ ┌┴─────────┴──────┴──────────┴───┐ │ 道路公団 │ └────────────────────────────────┘ 図3 高速道路の「直接便益」と「間接便益」 ┌─────────────────────────────┐ │ 消費者・企業ユーザ │ └┬─────────┬────────┬─────────┘ │ │ │ │(輸送サービス) │ (輸送料・  │(車両費・維持費―― │ │  運賃など) │ 輸送手段自己保有の場合) │ │ │ ┌┴─────────┴────────┴─────────┐ │ 自動車・トラックの輸送サービス │ └────┬───────────┬────────────┘ │ │ │ (高速道路 │ (高速道路       │   サービス) │ 使用料) │ │ ┌────┴───────────┴────────────┐ │ 高速道路ネットワーク・サービス(管理・制御) │ └────┬───────────┬────────────┘ │ │ 道 │ (インフラ・   │ (インフラ建設費、 路       │   サービス) │ 維持費、利子率など) 公 │ │ 団 ┌────┴───────────┴────────────┐ │ 高速道路インフラ(道路、その他構築物) │ └─────────────────────────────┘ 図4 高速道路サービス生産の3段階(上下階層) ┌──────────┐ ┌───────────┐ │ スーパー、ユーザ │ │ 加入者(ユーザ) │ ├────┬───┐ │ ├─────┐ │ │物流業者│ │ │ │II種事業者│ │ ├────┘ │ │ ├─────┴─────┤ │トラック輸送業者│ │ │ サービス │ ├────────┴─┤ ├───────────┤ │ ネットワーク │ │I種事業者 │ │ (道路管理) │ │ ネットワーク │ NTT 道路├──────────┤ ├───────────┤ 公団│ │ │       (回線)│ │ 道路インフラ │ ├── 通信インフラ──┤ │ │ │   (とう道、管路)│ └──────────┘ └───────────┘ 高速道路   アナログ電話 図5 高速道路サービスとアナログ電話サービスの上下分離 図6 電気通信産業組織 ――上下分離、BISDN/FTTHのみ、長期目標 ┌──┬─────────────────────┬──────┬──────┐ │レベル│ 事  業 │ 対応レイヤ│ 市場組織 │ ├──┼─────────────────────┼──────┼──────┤ │ │(拡張)情報サービス事業:放送・ビデオ番組│ │ │ │ U│供給、教育・医療サービス、商業・バンキン │上位レイヤ2│競争 │ │ │グ、情報環境(仮想)提供・伝送など │ │ │ ├──┼─────────────────────┼──────┼──────┤ │ │電気通信サービス事業:ユーザ・アクセス(電│ │ │ │ │話、テレビ電話、専用コネクション、VPN、イ│上位レイヤ1│ │ │IB│ンターネットを含む) 、テレビ会議、電子メ├──────┤競争 │ │ │ール・掲示板、映像伝送、CATV、LAN・WANなど│AAL │ │ ├──┼─────────────────────┼──────┼──────┤ │IA│ATMネットワーク事業:セル伝送・管理 │ATMレイヤ │公営あるいは│ │ │ │ │規制下の独占│ ├──┼─────────────────────┼──────┼──────┤ │ │通信設備サービス提供事業:物理的回線サービ│ │競争、ユーザ│ │ O│ス(2点間情報伝送)、交換機サービスなど │ 物理レイヤ│引込線のみは│ │ │ │ │規制下の独占│ │ │ │ │ │ └──┴─────────────────────┴──────┴──────┘ 参考文献 (1)鬼木甫「ネットワークとしての電気通信産業――広帯域通信(BISDN)時代における電気通信産業組織」、南部鶴彦・伊藤成康・木全紀元(編著)『ネットワーク産業の展望』第7章、日本評論社、1994年、pp.151-188。 (2)Downs, S. J., "Public ATM Networks and the Policy Opportunities." Paper presented at the Telecommunications Policy Research Conference, October 3, 1993. (3)Solomon, J. and D. Walker, "Separating Infrastructure and Service Provision: The broadband imperative," Telecommunications Policy, Vol.19, No.2 (March 1995), pp.83-89. 「電気通信産業の『上下分離』構造について――問答形式による解説」、『InfoCom Review』((株)情報通信総合研究所)、No.5、1996年2月、pp.2-25。