情報通信のインフラ整備と競争メカニズム 鬼木 甫 大阪学院大学  情報通信革命の動因は、最近の急速な技術進歩である。大容量光ファイバの採用で、市外電話・国際電話料金が大幅に下がり、コンピュータ技術の応用で多機能電話機が普及し、また電波利用技術の発展で携帯電話が急増している。情報通信技術の進歩は、他方で、通信・放送事業者の仕事の方式・内容を大幅に変えた。十余年前の日本では、通信サービスは、(現在の)NTTとKDDによる独占供給であり、テレビ放送チャネル数は1桁に留まっていた。しかし、今日では、各市場で新規参入が進行し、ユーザは以前よりもはるかに広い範囲からサービスを選択できるようになりつつある。また、規制当局も、競争市場のパワーを活用して産業成長とユーザ便益の増大をはかる政策を採用するようになった。  通信・放送事業は、ネットワーク型のインフラストラクチュア(インフラ)に依存する。国民すべてが電話を利用できるためには、全国津々浦々にまで電話線を建設しなければならず、またテレビ・ラジオ放送を受信できるためには、全国各地にアンテナを建てて(あるいは衛星を打ち上げて)、放送電波を送らなければならない。このような情報通信インフラは、(道路、鉄道、空港、港湾などと同じく)従来は公的負担によって建設されるべきものと考えられ、またその運営も、NTT、KDD、NHKなど少数の事業者によって担われてきた。  インフラ建設は長期・大規模投資であり、営利企業の利潤ベースに乗らない面を持っている。建設後も新規参入が困難であることから、独占要因が生じやすい。これに加え、通信・放送ネットワークのインフラは、それ自体複雑な構造を持っており、競争要因と独占要因が錯綜して多くの問題を生じさせる*1。これらの結果、サービス生産の面で競争導入の契機が生じても、インフラ建設・運営の面から障害が出てくることが多い。  本稿では、通信と放送を含む情報通信産業のインフラについて考察し、インフラ建設・運営においてどの程度まで競争が可能であり、どの側面で規制が必要になるか、また競争促進のためにどのような政策をとるべきかを議論する。 通信・放送インフラの構造  情報通信産業のインフラについて考えるためには、まずその内容・構造を明らかにしなければならない。この理解が不十分では、表面的な議論はできても、立ち入った考察はできない。読者はしばらくの間辛抱して、図1を、とりわけその下半分の項目を読み、以下の説明を理解して頂きたい*2。  情報通信インフラの構造は、同じく情報を扱うコンピュータ(PC)との類似に着目すると理解しやすい。コンピュータ機能は、ハードウェアとソフトウェアによって実現される。ハードウェアは情報処理のための直接の手段であるが、それは、(プログラムなどの)ソフトウェアによって制御され、ユーザの注文に応じて(文書作成や計算などの)仕事をする。情報通信もこれと同じである。ただし、情報通信では、コンピュータと異なり、ハードウェア・ソフトウェアがいわば国全体(世界全体)にネットワークとして拡がっており、コンピュータよりも大規模・複雑な構成を持つ。コンピュータとの比較では、情報通信インフラはそのハードウェア部分に当たる。  図1に、通信・放送業務で使われるインフラ・設備やサービス機能が配列されている。左半分が通信関係、右半分が放送関係である。通信業務には、ユーザを最寄りの「加入者局」につなぐ「アクセス」機能と、離れた加入者局間を結合する「中継」機能とがある。さらにアクセスには、(通常の電話やインターネットのように)固定された場所のユーザを加入者局につなぐ「固定アクセス」と、(携帯電話のように)移動中のユーザを無線で基地局につなぐ「移動アクセス」とがある。次に、放送業務では、地上放送(通常のテレビやラジオ)に加え、ケーブルテレビと衛星放送が区別される。  図1の左側には、通信・放送サービスを実現するための諸機能が、上下「レベル」として区分されている。コンピュータでは、ハードウェアとソフトウェアの2層レベル、あるいはソフトウェアをOSとアプリケーションに分ける3層レベルが考えられるが、通信・放送では規模が大きいため、より細かなレベル区分になっている。図1の下半分がコンピュータ・ハードウェアに当たる「設備・インフラ」であり、上半分がソフトウェアに当たる「ネットワーク管理」とユーザへの「サービス供給」である。設備・インフラレベルでは、(下から順に)「共有資源・特権スペース」、「基盤設備」、「伝送媒体」、「伝送設備」、「加入者設備」の5種類が区別されている。  特定の業務について、図1を縦に(下から上に向かって)読むと、その業務の構成要因が分かる。たとえば、通信の場合には、事業者はまず地下や地上の共有スペースの使用権限を与えられ、そこにトンネルや電柱を建設して光ファイバや銅線などの通信回線を設置し、さらに回線を電話局の交換機やルータに接続し、また加入者の電話端末やパソコンに接続する。携帯電話の場合には、通信回線の代わりに電波が使われ、アンテナによって信号を送受する。放送の場合、通常の(地上)放送では、移動電話と同じく電波によって放送信号を視聴者のテレビ・ラジオまで届ける。ケーブルテレビの場合には、同軸ケーブルによって放送信号が送られる。衛星放送の場合には、まず衛星軌道上の特定スペースに衛星を打ち上げ、電波を衛星上のトランスポンダで中継して視聴者まで届けるのである。ネットワーク層およびサービス層など上部レベルの説明は省略するが、それらはいずれも、ハードウェアである設備・インフラを使用して通信・放送業務を実現するために必要なソフトウェア的な仕事である。  「情報通信インフラ」の定義について、明確な合意は成立していない。通常は、図1の下3層、すなわち「共有資源・特権スペース」、「基盤設備」、「伝送媒体」を指す*3。  通信・放送事業は、常に社会の共有資源や「公益事業特権」の名で付与されているスペースを使用する。有線通信・ケーブルテレビの場合には、回線を設置するために、地下・海底あるいは電柱上のスペースを使用しなければならない。他方、移動通信や放送の場合には、(社会共有の空間を通る)電波を使用し、また衛星放送・衛星通信では、これに加えて衛星軌道上のスペースが必要である。通信・放送事業では、少なくとも共有資源・スペースの使用をめぐって公的規制が必要となることが明らかであろう*4。 通信・放送インフラの特色――「インフラ代替」 図1の上下レベル区分は情報通信技術の特色から生じているが、その経済的性質は単純である。例で説明しよう。図2は、マクロ経済学のテキストに出てくる消費財「パン」の生産段階と付加価値構造の説明である。パンは小麦粉から、小麦粉は小麦から作られる。パンの代価には原料小麦のコストに加え、小麦粉とパンそれぞれの生産段階での付加価値が含まれている。次に、図3は、「パン」と同じ考え方を、情報通信インフラにより近い性質を持つ住宅(あるいはオフィス)に適用したものである。賃貸住宅の家賃には、宅地・家屋・居住用設備の使用料に、管理・販売サービスのコストが加えられている。賃貸でなく「持ち家」の場合には、宅地・家屋・設備を一括して、あるいは別々に購入してもよいし、またその一部をレンタルしてもよい。(オフィスの場合も同じである。)一括購入した場合の毎月の出費(たとえばローン返済額)は、賃貸の場合の家賃とおおむね同額になるはずである*5。  情報通信機能の上下レベル区分の経済的性質も、パンや住宅・オフィスと同じである。インフラ部分を住宅に例えれば、共有資源・スペースは宅地、基盤設備は宅地の上に建てられる家屋、そして伝送媒体は家屋の内部設備にあたる。  電話や放送サービスの加入者は、電話端末、テレビなどを持ち、ネットワークを通して事業者の設備・インフラを使用し、情報通信サービスを受け取る。加入者の目から見れば、図1の上下レベル区分は、必ずしも明らかではない。しかしながら、加入者が支払う電話・放送料金(民放の場合はコマーシャル代として製品価格に含まれるので、間接支払になっている)には、各レベルで生じたコストが含まれている。サービス生産のためには、各レベルの要因が必須であり、その意味で各レベルの要因は補完関係にある。他方、各レベル内の要因は相互に代替関係にあり、最も安価で効率の高い要因を使うことが有利である。  パンや住宅・オフィスの場合には、図2・図3に示された各レベルで競争市場が成立し、消費者やユーザは、安くて良い生産物・サービスを購入することができる。それぞれのレベルで多数の供給主体が競争しているため、選択の自由が与えられているからである。賃貸マンションのように、居住者が住宅サービスを一括して購入する場合でも、マンションの所有・管理者は、土地・建物・設備を競争市場で手に入れ、安くて良いサービスを供給しようと努力している。その結果マンションの居住者は、それぞれのレベルでの競争の利益を手に入れることができるのである。  ところが情報通信の場合には、多くのレベルで競争市場が存在せず、「安くて良い」サービスを供給する動機が事業者に欠落している。そのまま放置すれば、ユーザは「高くて悪い」サービスしか与えられず、他に選択の余地もないという状況に陥ってしまう。本稿の議論は、何らかの工夫によって情報通信インフラ部分を「活性化」し、競争市場の圧力(あるいは類似の制度や動機付け)を導入して、ユーザが少しでも安くて良いサービスを手に入れるための方策を考えることである。図1のすべての要因について、パンや住宅・オフィスの生産と同じような競争環境を実現することは不可能にしても、そのうちの一部だけでも競争要因を導入できないだろうか、という問題である。  従来は、図1の上下区分よりも、「縦割り」型区分が重視されていた。まず通信と放送は別個の事業として区分され、通信事業では、市内・市外・国際電話、移動・衛星通信が事業分野として区別されていた。放送では、従来の地上放送に加え、衛星放送とケーブルテレビ(有線放送)が区別されていた。上下レベルの区分は、事業者内部の業務区分としては存在したが、事業者間の競争にかかわる形では重視されなかった。  しかしながら、技術進歩がもたらした新たな可能性は、従来の縦割り区分を突き崩している*6。「通信と放送の融合」「相互参入と垂直統合」などの最近の現象は、図1のレベル内で横方向の関連が強くなった結果、上下レベル区分の重要性が増加していることを示す。その理由は、技術進歩がもたらした「インフラ代替」「メディア代替」と呼ばれる現象にある。それは、技術進歩の結果、同一レベル内でより優れたインフラやメディアが新たに発生し、古いインフラ・メディアを代替することを指す。この場合、レベル内で変化が進行するが、その上下のレベルで変化が生じるとは限らない。つまり、「インフラ代替」「メディア代替」は、原則としてレベル内部で他レベルと独立に進行する現象である。他方、事業区分が縦割りの場合に、異なる事業区分間で「インフラ代替」「メディア代替」が生ずれば、それは同事業区分を崩す要因になる。主な例を挙げよう。 (a)通信分野の(有線)中継の伝送媒体は、古くは銅線・同軸ケーブルであったが、最近10年間にすべて光ファイバによって代替された。ところが光ファイバの敷設には、銅線・同軸ケーブルと同一のトンネルや管路が使われており、基盤設備に変化はない。ただし、光ファイバ通信はディジタル化・多重化を前提するので、伝送設備レベルの交換機には変化が生じた。 (b)通信分野のアクセスが、最近になって固定方式から移動方式に急速に変化している(コードレス電話、PHS、セルラー電話の急増)。この傾向は将来も続き、おそらく数年以内に、電話端末のかなりの部分が、かつて黒電話の多くが新しい電話端末で代替されたように、個人単位の移動端末に変わると予想される。 (c)衛星軌道上にスペースが得られれば、衛星放送は、全国一律の放送を従来の地上放送よりも桁違いに低い費用で実現できる。ユーザは、アンテナとチューナを取替えるだけでよい。 (d)基盤設備レベルの通信衛星と放送衛星は、元来はその名が示すように、事業者間通信用と、一般視聴者対象の放送用に分かれていた。しかしながら技術進歩の結果、小出力の通信衛星電波を個人用小型アンテナでも受信できるようになり、ディジタル放送技術も進歩して、通信衛星が多チャネル放送に使われはじめている。 (e)最近爆発的に成長しているインターネットは、企業組織内に構築されたLAN(構内通信網)が、ルータ経由で電話網のための中継伝送設備(光ファイバ)で結合されて実現したものである。ただし、この場合は、「代替」ではなく、従来は存在しなかったサービスが新たに生じたケースである。 (f)「インターネット電話」(インターネットを使う電話サービスで、音質や安定性に欠けるが、費用は極度に低い)が出現し、現在の電話サービスの一部を代替するかもしれないと言われている。これはサービス・情報伝送レベル内での代替であり、他レベルの活動には直接には影響しない。 (g)ケーブルテレビ用の同軸ケーブルを、電話アクセス、あるいは(インターネットなど)コンピュータ通信アクセスのために使う動きが生じている。これは伝送媒体レベルの「インフラ代替」であり、通信分野の(固定)アクセスと、放送分野のケーブルテレビの境界を崩す動きである。 (h)有線通信用の基盤設備として、都市の既設下水道を使う提案があり、また伝送媒体として、電力会社の既設光ファイバの一部を転用する可能性が考えられている。これらはいずれも(固定)アクセス分野の競争を促進すると期待されている。  上記の例から、「インフラ代替」「メディア代替」が情報通信の成長・発展の中核になっていること、またそれを考えるために類似する要因、つまり同一レベルに属する要因をまとめて捉える「上下レベル区分」が便利かつ合理的であることが明らかであろう。 情報通信インフラで競争が困難である理由――政策の長期目標  前節で説明したような構造を持つ情報通信インフラについて、「情報通信産業の成長・発展によるユーザ便益の増大」のために、どのような政策が取られるべきであろうか。本節では、まず「政策の長期目標」を明らかにすることを試みよう。  最近の多くの議論から明らかなように、産業成長・発展の動因は、市場メカニズムの確立と自由な参入・競争にある。「インフラ代替」も、新規参入から生ずる。競争を伴わない「インフラ代替」もあり得るが、利潤動機に訴える市場メカニズムのパワーには敵わない。それは、資本主義が社会主義よりも経済効率の面ですぐれている理由であり、最近の米国が情報通信分野で急速に伸びている理由でもある。  しかし情報通信インフラについては、技術的・経済的理由、歴史的な経緯から、市場メカニズムが成立せず、競争原理が作用していない場合が多い。「パン」のような消費財はもとより、「住宅」「オフィス」のような(私的)資本財と比較しても、市場メカニズムの導入・成立が困難である。現在(1996年)時点で、図1のインフラ・レベルの諸要因のうち、市場メカニズムが成立しているものはごく少ない。その内容を具体的に見よう。 (a)最下層レベルの共有資源・スペースについて、歴史的な経緯から市場原理が未だ成立していない。共有資源・スペースは、実質上「無料」で使用されている*7。それらの大部分は、公共資産(政府資産)であり、情報通信事業者も、かつては政府機関や公共企業体であった。そのため、資源・スペースの「使用料」という市場取引原理が適用されないまま今日に到ったのである*8。さらに、電波資源や衛星軌道上スペースは、技術進歩に伴って新たに生じた「経済価値を有する対象」であるため、これを「共有資産」として認識し、市場原理を導入して「価格」を付けるという考え方が未だ熟していないことも理由の一つである。 (b)トンネル・管路・電柱などの基盤設備は、それらが一旦建設された後は、他への転用が不可能である。また、耐用年数(投資回収期間)が長く、通信衛星でも10年近く、トンネル・管路などは数十年の長期にわたる(サンクコストが大きい)。また、固定アクセス用の基盤設備については規模に関する利益が大きく、同一あるいは近接スペース上に競合する別の設備を設置することはほとんど無意味である。したがって、設置場所や近接地域において独占状態が成立しやすい。伝送媒体についても、基盤設備と同様にサンクコストが大であること、固定アクセス用媒体について規模に関する利益が大きいことから、競争環境が成立しないことが多い。ただし、長距離・国際通信や移動アクセスの場合には、規模の利益に限界があり、基盤設備・伝送媒体についてかなりの程度まで競争条件が成立している*9。 (c)歴史的な経緯と事業者の利益のために、インフラ要因がレベルごとに分離されず、「上下統合」して供給される場合が多い。たとえば通常は、基盤設備「とう道」とその「設置スペース」が伝送媒体である光ファイバと一体化して供給され、「とう道」だけの、あるいは「設置スペース」だけの供給はなされない。この場合には、効率的な伝送媒体が新たに利用可能になっても、実際には設置スペースが得られないためインフラ代替は実現しない。 競争導入の意義と条件――「供給価格」の明示 上記のように現在ほとんど競争が存在しないインフラに「強いて」競争導入を図ることが望ましいのはなぜであろうか。それは、前節で述べたように、成長・発展の内容が、各レベルでの新しいインフラ・設備・サービスの参入・代替であることによる。  新しいインフラ要因の参入は、それが既存インフラ要因よりも高機能・低価格であるか否か、既存要因との競争に打ち勝ってそれを代替できるか否かに依存する。新インフラの参入・代替が円滑に進むためには、第1に、「参入の自由」が保証されていなければならない。  第2に、既存インフラの供給価格が明示され、かつ供給価格がそのコストと一致していなければならない。既存インフラの供給価格が明示されない場合は、羅針盤のない航海と同じで、新規インフラが利潤につながるか否かは不明確にとどまり、その開発も進まない。既存インフラのサービスが市場で取引されている場合は、その供給価格は明らかになる。また競争が存在すれば、価格はコストに一致する水準に決まる。  市場メカニズムが存在しない場合でも、それに代わる何らかのメカニズム(たとえば事業者に課される「アンバンドル義務」)によって、供給価格の「設定」は可能である。しかしこの場合の供給価格も、コストに一致していなければならない。インフラ要因がコストよりも高い価格で供給されれば、本来効率的でないインフラの参入を誘致してしまう。また、コストより低い価格で供給されれば、より優れたインフラ参入の機会が生じても、見かけ上の採算が悪いために参入が実現しない。これに加え、供給価格がコストと一致しない場合には、そこに生ずるプラス・マイナスの超過利潤が他レベルのインフラ・サービスの供給に影響を与え(「上下レベル間の内部補助」)、他レベルでの供給価格とコストの不一致、すなわち非効率を生み出す可能性がある。  上記のように、インフラに関する政策の基本目標は、各レベルのインフラ要因について、可能なかぎり市場メカニズムを導入して供給価格を明示し、それが不可能な場合には市場メカニズムに近い何らか他のメカニズムを導入して、供給価格を近似的に明らかにする措置を講ずることである。 構造的あるいは会計的上下分離 上記のことをまとめれば、競争の利益を実現するため長期的に望ましい方策は、インフラ各要因について供給価格を明示し、各レベルで新規参入の機会を開くことである。そのためには、各要因が市場で実際に取引されること、すなわち各要因が別個の経済主体によって供給されることが最も望ましい。すなわち、事業者に上下層間のサービスを統合・供給することを許さず、「上下分離」の構造的措置をとり、「スペース供給主体」、「基盤設備事業者」、「媒体事業者」などを区別することである*10。もとより構造的上下分離については、本稿の視点だけでなく、他にも考慮を要する問題があり(たとえば、ここでは構造的上下分離の「インターフェース・コスト」、あるいは「垂直統合の利益」を考えていない)、本稿が図1に示されたすべてのレベルに対応する構造的上下分離の即時実施を主張しているのではない。  「上下レベルの不分離・統合」から生ずる新規参入阻害の可能性は、最近になって広く認識され、「アンバンドリング」(上下レベル要因の分離提供)が事業者に義務づけられることが多くなった。ただし、現在各国の規制当局が検討中の「アンバンドリング」では、インフラの上下レベル間の分離よりも、図1のサービス・ネットワーク・レベル間の分離や、縦割り業務間(たとえばアクセスと中継)の分離が強調されている*11。  「上下統合」による新規参入の阻害を軽減する一つの方策は、事業者に対して、図1の各レベルごとの「会計分離」、すなわち各レベルのインフラ・設備要因費用の明記・公表を義務づけることである。この方策により、実際にインフラ・設備要因が分離供給されていなくとも、仮にそれらが分離供給された場合に成立する供給価格について近似的な情報が公表されるので、新規開発・参入を促進することができる。 共有資源・スペース供給の「市場化」 インフラ要因への市場メカニズムの導入について次に問題になるのは、最下層の共有資源・スペースである。有線通信用のスペースについても問題はあるが、現時点で重要なのは、資源・スペース自体が拡大しつつある無線通信と放送、すなわち電波資源および衛星軌道上スペースである。現在のわが国では、前述のように、電波資源は実質上無料で使用されている。衛星軌道上スペースについても供給価格は設定されていない(供給価格ゼロになっている)。  共有資源・スペースのように、供給量に限界がある公的資産の供給価格は、通常オークション(入札)によって決定される。またオークション以外の方式で共有資源・スペースを配分したときでも、その(使用権の)再販売によって供給価格を見出すことができる。しかし後者の場合には、当初の配分方式が問題になる*12。  共有資源・スペースを実質上無料で供給することから生ずる欠点は、第1に、それが新規参入の自由と両立しないことである。供給価格が低水準にあるため、新規参入圧力は増すが、資源供給量が限られているため、何らかの方式によって資源を割り当てなければならない(政治的圧力、規制当局の利害から、結果的に既存事業者が優遇されることも多い)。その際に、すぐれた技術進歩を実現し、新規参入意欲を持つ(潜在的)事業者が割当を受けることができるとは限らない。したがって、新しい技術が酬われる保証が無く、その開発意欲が鈍ることになる。オークションの場合には、長期的に最も優れた技術・サービスを提供できる事業者が、最も高い供給価格を提示することにより、共通資源・スペースを入手して参入を実現し、自らの利益とユーザの便益を同時に増進することができる。また、これを期待して、新しい技術の開発が進む。つまり、競争と成長・発展の条件が満たされるのである。  第2の欠点は、共有資源・スペースの価格をゼロに近い水準に設定すると、参入を認められた事業者に対して(オークション時に支払うはずであっただけの)「超過利潤」を与えることである。その結果、同事業者による「上下レベル間の内部補助」が生じ、他レベルでのインフラ・サービスの供給価格を歪め、競争促進、新規要因による代替が阻害される*13。 インフラ建設加速は「債務保証」で 次に、インフラ建設面について、必要な政策措置を考える。一般に新しいインフラとそれに伴う新しいサービスについては、技術進歩の結果が競争市場で事業の成長・拡大に容易に結実する場合と、新しい技術は用意されても、その実現が阻害される(あるいは実現に極端な長期間を要する)場合がある。前者の例は、最近の移動通信や、衛星放送である。移動通信は、既存の全国電話網のうち、アクセス部分の代替手段として機能する。移動通信の通話相手の95%以上が固定アクセスによる加入者であることに示されているように、それはすでに建設された電話網の規模の利益を享受しながら成長することができる。(従来型のアナログ方式)衛星放送もこれと同じである。視聴者がすでに所有しているテレビを使用し、番組の伝送手段を地上の電波から衛星経由の電波に切り換えることによって、受信が可能になるからである。  これらに対し、システム全体を一新してサービスを開始する場合には、加入者増大に時間がかかり、インフラ建設が進まないことが多い。ハイビジョン放送や高速・広帯域通信(光ファイバ敷設)がその例である。この場合には、既存の設備やネットワークが利用できないために、規模の経済・ユーザ外部性の面で建設初期に不利な条件が続く。インフラ・サービスの高価格と加入者不足が悪循環になり、成長速度は低く、また初期の赤字・損失のリスクが事業者のインフラ建設意欲を鈍らせる。このような場合、すなわち新たなサービス・ネットワークの建設がユーザに利益をもたらすにもかかわらず、インフラ建設の投資回収期間が長く、事業リスクが大きいために建設速度が低下する場合には、成長を加速する政策が望まれる。  この目的のための政策手段としては、光ファイバ敷設について、一般会計財源(すなわち税金からの出費)による「建設資金利子補給のための補助金」が選ばれているが、この方策は望ましくない。理由は、(a)現在は低金利時代であるため、利子補給は事業促進効果が少ない(事業促進にはリスクの軽減が必要である)、(b)必要投資規模と比較して補助金額が小さい、(c)補助金が事業者への実質上の「贈与」となるために、さまざまな制約がある、(d)事業プロジェクトは長期的視点から進行させるべきものであるのに、補助金は短期的視点からのプロジェクト・人材を吸引しやすい、などである。高速・広帯域ネットワークの建設のような大規模・長期プロジェクトで、短期的には赤字であっても長期的には十分な黒字が見込める場合には、事業者債務に対する政府保証の付与が望ましい方策である*14。 当面の政策措置  以上、情報通信インフラの管理・建設について、長期的な視点から、問題点と必要な政策を述べた。まとめに代えて、短期的(たとえば現在から数年の期間)に必要と考えられる措置を列挙しておこう。 (a)事業者設備・インフラの「アンバンドリング」による競争促進のために、図1のレベルごとのコストを明らかにする「上下分離会計」の導入が望まれる。とりわけ、新規投資によって建設される設備・インフラや、新たに提供されるサービス(たとえばNTTのOCN)については、厳密な上下分離会計を作成し、既存設備については、その「更新部分、新規設備による置換部分」について作成する。他方、既存設備については、資料不足等による限界があると考えられるので、便宜的手法を設けて資産価値や償却分を推定することが考えられる。ある決められた年限までに上下分離会計を一挙に整備する方策ではなく、年次進行にともなって信頼できる「上下分離会計」が着実に整備されることが望ましい*15。 (b)共通資源・スペース、とりわけ電波資源と衛星軌道上スペースの供給価格については、「新規に供給される資源・スペース」についてオークションを実施することが望まれる。他方、すでに長期間にわたって実質上無料で供給されている資源・スペース(現行の移動電話や放送用電波)については、現制度を前提とした事業・雇用とそれに基づく個人の生活があり、これらを一挙に変革することは摩擦・犠牲が大きすぎると考えられる。しかしながら、新たに開拓された電波資源や、新たに使用開始される衛星軌道上スペースについては、オークションによる市場価格の設定を避ける理由は見当たらない。新規資源・スペースについて従来の方式を続けることは、「既得権益」を新たに作り出し、競争阻害要因を新たに付加して、わが国将来の情報通信産業の成長・発展をわざわざ低下させることを意味する。(現在の日本経済に、さらに閉塞・停滞要因を付け加えることでもある。)長期的な競争促進とユーザ便益の向上のために、新規資源・スペースについてオークション制度の導入が必要であることを強調したい。 図1 情報通信インフラと関連サービスの機能分類(現在時点の技術・システム) ┌──────────┬─────────────────────────────────────────────────────────────────────┐ │ 業務区分│    通    信             放    送 │ │ ├─────────────────────────────────────────────────────────────────────┤ │レベル区分 │中継(無線)  中継(有線)  アクセス(固定)     アクセス(移動)   ケーブルテレビ     地上      衛星 │ ├────┬─────┼─────────────────────────────────────────────────────────────────────┤ │ │情報生産・│                    │ │ │供給 │             (ユーザ情報の伝達)           番組作成・供給・(委託)放送 │ │サービス├─────┼─────────────────────────────────────────────────────────────────────┤ │ │ │   │ │ │情報伝送 │  電話サービス(2者間接続)、専用サービス、会議サービス(多者間接続)            (受託)放送・配信・中継 │ │ │ │         インターネットサービス(電子メール、WWW)   │ ├────┼─────┼─────────────────────────────────────────────────────────────────────┤ │ │ │ │ │ネット │ネットワー│           共通線信号網       加入者番号管理               チャネル管理 │ │ワーク │ク管理・運│           音声信号伝送         ローミング管理         │ │ │用 │            パケット・フレーム・セル伝送        │ ├────┼─────┼─────────────────────────────────────────────────────────────────────┤ │ │ │ │ │ │加入者設備│           電話端末・パソコン(PC)         移動端末               テレビ・ラジオ │ │ ├─────┼─────────────────────────────────────────────────────────────────────┤ │ │ │         │ │ │伝送設備 │     中継交換機、ルータ     加入者交換機       無線基地局装置         放送設備 │ │ │ │アンテナ 多重化装置         ルータ       アンテナ        ヘッドエンド       アンテナ   トランスポンダ│ │ ├─────┼─────────────────────────────────────────────────────────────────────┤ │設備・ │ │ │ │インフラ│伝送媒体 │電波       光ファイバ     銅線         電波         同軸ケーブル       電波 │ │ │ │               同軸ケーブル・光ファイバ      光ファイバ │ │ ├─────┼─────────────────────────────────────────────────────────────────────┤ │ │ │     │ │ │基盤設備 │通信衛星     管路(地下・海底) 電柱(架空スペース)         管路・電柱            (放送・通信)衛星│ │ │ │         トンネル(共同溝・とう道)                          │ │ ├─────┼─────────────────────────────────────────────────────────────────────┤ │ │     │              │ │ │共有資源・│衛星軌道上スペース         衛星軌道上スペース│ │ │特権スペース│(電波)     地下・海底スペース 地上・地下スペース   (電波)        地上・地下スペース      (電波)     │ └────┴─────┴─────────────────────────────────────────────────────────────────────┘ 図2 消費財「パン」の生産段階 ┌──────┬───────┐ │生産段階区分│  財 │ ├──────┼───────┤ │最終財 │パン │ ├──────┼───────┤ │中間製品 │小麦粉 │ ├──────┼───────┤ │原料 │小麦 │ └──────┴───────┘ 図3 住宅とオフィスの賃貸サービス供給 ┌─────────┬─────────┬─────────┐ │サービス生産レベル│ 住宅   │   オフィス │ ├─────────┼─────────┼─────────┤ │管理・販売 │住宅サービス │オフィス・サービス│ ├─────────┼─────────┼─────────┤ │設備 │居住用設備 │オフィス設備 │ ├─────────┼─────────┼─────────┤ │建物 │家屋 │オフィス・ビル │ ├─────────┼─────────┼─────────┤ │土地 │宅地 │オフィス用地 │ └─────────┴─────────┴─────────┘ Notes: *1 最近の「NTTの在り方」議論において、市内電話(ユーザ・アクセス)サービスの「ボトルネック独占」が問題になったが、これもユーザと加入局を結ぶアクセス回線・設備というインフラの性質から生じている事項である。 *2 通信・放送やコンピュータ分野では、事業者に対してユーザが不満を述べることがある。しかし、情報通信サービスがどのような設備や仕組から生産されているかを理解しないままに発せられる注文・不満は的外れになりがちで、同分野の専門家から相手にされないことも多い。また、事業者の側では、このようなユーザの「誤解」を(意図的にではなくとも)「利用」して、自己の利益を図ることもある。ユーザが自己の利益を守り、また効果的な競争環境を実現して産業を発展させるためには、ユーザ側でも情報通信サービス生産の内容を理解しておく必要がある。 *3 わが国の「電気通信事業法」では、図1の下3層の設備・インフラを所有する事業者を「第一種事業者」と呼び、所有しない事業者を「第二種事業者」と呼んで区別している。放送では、同一事業者がすべての設備を保有し、サービスを供給することが多いため、上記のような区別は作られていない。ただし、(通信)衛星を使用する放送については、放送番組の作成・供給という図1の最上層の放送業務のみにたずさわる「委託放送事業者」と、設備を保有し、他者から番組の供給を受けてこれを放送する「受託放送事業者」が区別されている。 *4 なお、通信に必要なスペースとして通常は公有地(公有水面、公海などを含む)が使われるが、一部私有地が必要となることもある。この場合、通信事業者は、その私有地の所有者に必要最低限のスペースを有償で提供することを請求でき、同所有者はこれを拒否できない。通信事業者に与えられるこの権利は、「公益事業特権」と呼ばれる(「電気通信事業法」3章)。 *5 ただし、現在の「マイホーム優遇政策」の下では、若い人達がワンルーム・マンションに高額のレンタルを支払っている。 *6 ただし、そうだからと言って、将来において通信・放送分野のすべての業務が渾然一体となり、競争・規制のフレームワークが消滅してしまうわけではない。「規制当局の仕事は技術進歩と競争進展に伴って減少し、長期的にはすべての事業が民営化・自由化され、規制当局の業務は消滅する。」という主張がなされることがあるが、それは少なくとも現在のトレンドではない。1996年2月の米国通信法改正の主要目的の1つは「FCC(連邦通信委員会)規制の緩和」、具体的には「縦割り業務区分の廃止」であったが、そのために「新通信法」の条文数は増加し、新たなFCC規則が作られ、FCCの仕事も大幅に増大した。このように、「規制緩和と競争進展」は、規制当局の仕事を減らすのではなく、逆に新たな仕事を生じさせているのである。 *7 名目的な「登録料」「利用料」は設定されている。 *8 公共資産(国有財産)という理由から、あるいは公共資産のサービスの受渡しが公共機関の間でおこなわれるという理由から、それに「代価」を付すべきではない(つまり代価ゼロを付すべきである)ことにはならない。現在のような市場経済環境においては、株式会社などの営利団体と同様に、公共目的の団体についても、市場原理に基づく資産管理を徹底し(貸借対照表・財産目録・損益計算書などを作成し)、組織の経理基盤を明らかにすることが望ましい。(ちなみに、国立大学に勤務する研究者の悩みの一つは、国立大学が研究用設備・資産に関して近代的な管理システムを備えていないことから生じている。たとえば設備の「減価償却」という考え方が欠落している(この点の指摘は竹内啓明治学院大学教授による)ため、一旦購入した研究用設備の償却ができず、また設備維持費に別途予算を用意しなければならない。さらに使い古して不要になった設備を、貴重なスペースを使って長い間保管し続けなければならない(設備廃棄処分の事務手続きが面倒なため、事務官は同手続きを先延ばしにする)。) *9 基盤設備・伝送媒体に独占が生じやすい理由として、サンクコストが強調されることが多い。高額のサンクコストの存在は、サンクコストが小さい場合に比べて確かに新規参入の可能性を減少させる。しかし、長距離・移動通信の例に見られるように、サンクコストの存在自体が競争市場を不可能にするわけではない。住宅・オフィスの場合でも、土地造成費、住宅・オフィス建設費などは、長期・多額の投資であり、サンクコストを形成する。それにもかかわらず、宅地・オフィス用土地・住宅・オフィスビル等については、競争市場が成立し、市場価格が付けられている。  住宅・オフィスの場合は、土地についても、建物についても、需要・供給の双方で多数の取引主体が競争して市場を形成する。そのためサンクコストは大きいが、途中転売によってコストを回復することができる。これに対し、情報通信産業では、(規模の利益のため)同一・近接場所に複数の設備を建設することは得策でない。ネットワークは全国・全世界にまたがるが、特定の場所をとれば、そこでの供給主体は限られており、新規建設の場合以外は競争相手が現れにくい。これらの理由で、情報通信インフラのうち、場所の制約が大きいものについては競争市場が成立しにくいのである。 なお、現在の移動アクセスでは、規模の利益が限られており、同一場所に複数のインフラ(この場合は電波)が存在しても損失は小さく、複数事業者による競争が実現している。しかし、アクセス手段としての移動通信の普及が進み、「パーソナル・アクセス(電話番号が個人ごとにつけられ、個人はその居場所に応じて電話連絡を受ける)」の時代になると、「(電波用)セル(移動通信端末電波の到達範囲)」のサイズが小さくなり、有線通信への依存度が再び増大するので、競争市場成立の可能性はかえって減少すると予想される。この点は、移動通信の普及に伴って、競争環境維持のための政策が別に必要になることを意味する。 *10 「上下分離」の意義、とりわけ将来の高速・広帯域通信時代の上下分離について、鬼木甫『情報ハイウェイ建設のエコノミクス』(日本評論社、1996年)7、8章を参照。 *11 米国では、1996年2月の「通信法」改正時に、インフラ・設備のアンバンドリング提供が、(独占要因を保有する)既存地域会社に義務づけられた。またわが国でも(1996年11月現在)、電気通信審議会部会がアンバンドリングを含む規則案を策定中である。 *12 米国においては、電波資源の配分は、従来から「競合申請・割当」方式に依っていたが、1980年代半ばからセルラー電話について「無差別選択(くじ引き、lottery)」方式が採用された。ただし、そのときでも、供給価格は電波資源の「再販売」を通じて成立した。1993年になって、「オークション」が産業発展・ユーザ便益の増大のための最良の方策であるとの意見が強くなり、1998年までの「実験措置」として、移動電話(PCS)用の電波や、衛星軌道上スペースの供給価格がオークションによって決められるようになった。これまでのところ「電波オークション」は成功であったとの評価が多数を占めているので、1998年以降も同方式が続けて採用されるものと予測される。 *13 移動電話用の電波資源の配分にオークションを導入することには、携帯電話使用料を引き上げるのでユーザの便益を損じる、「幼稚産業」としての携帯電話事業の成長を阻害する、などの反論があり得る。電波が無料で利用できる場合に比べて、ユーザの支払い額は、確かに(電波利用額の一部に当たる分だけ)上昇するだろう。しかし、それがユーザ需要を大幅に抑えるのであれば、電波のオークション価格は、オークション参加者が合理的行動をとるかぎり低い水準に決まるだろう。ユーザの見地からすれば、電波利用額の一部を負担しても、オークションから得られる長期的な高効率の利益の方が大きい。  また、「幼稚産業」保護の議論には理由があるが、その場合には、あらかじめ幼稚産業の定義を明確にして、産業が成長した後に保護を外す措置を決めておくことが必要である。この措置を欠いた「保護」が長期的に産業を弱体化させることを、われわれはすでに幾度も見ている(農業、金融、製薬、国内航空運輸など)。実際には、わが国の移動電話の年間売上は1996年に4兆円(有線電話網売上の6割)に達しており、もはや幼稚産業ではない。  電波資源の無料提供の不合理性は、たとえば大都市繁華街の公有地を営利企業に無料で貸与することと比べて考えれば明らかであろう。衛星軌道上スペースについても同様である。 *14 これらの点の詳細について、鬼木(前掲書)pp.62-71、10章を参照。なお、電話網建設時の経済環境は現在よりもはるかに厳しく(たとえば高利子率)、かつ本文で述べたのと同じ問題も存在したが、それは(当時の事業者であった)「電電公社」の発行する「加入者債券」に政府保証を付与することによって解決された。これらの点について、同書4章を参照。 *15 なお、ここで述べる「上下分離会計」は、現在電気通信審議会部会で検討されている「接続会計」と一部オーバーラップし、両者は補完関係にあると考えられる。 「情報通信のインフラ整備と競争メカニズム」、『経済セミナー』、No.504、1997年1月号、pp.22-31。