「電気通信事業における公的規制と競争政策のあり方
―――電気通信法制の新たな枠組みについて」(概要)
経済団体連合会
1999年10月21日
鬼木 甫(大阪学院大学・大阪大学)
(註)行政当局の任務・権限については、「郵政省設置法」が一般的・包括的に定めていた(3条4「電気通信に関する事務」に関する国の事業・行政事務を一体的に遂行。4条各項(所掌事務)、5条各項(権限))が、1999年7月に新法が制定され、「権限規定」が削除された(?)とのことである。しかし実際には権限規定の有無よりも、その粗密が重要である。
(註)「行政手続法」は、個別ケースにおける「不利益処分」の方法について定めているだけで、行政当局のための「手続」には触れていない。
B. 新しい法規定のあり方
ほとんど存在しない、整備ゼロの状態(米国との比較)。
(鬼木「情報通信産業における競争と規制――日米比較と規制情報の伝達」、『ジュリスト』、No.1099、1996年10月15日号、pp.18-28。
http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/jpn/publication/199610b.html;
「NTTの分割・再編成──持株会社・特殊会社方式をめぐって」 、『国際経済労働研究Int'lecowk』、No.892、1999年8月、pp.23-32。
http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/jpn/publication/199908a.htmlを参照。)
地上・地下スペース、水上・海底スペース、静止・移動衛星軌道など(「とう道」・衛星等の建造物とは別)
電波資源(場所、周波数ごと)
当初は電力産業の制度を継承(「事業法」3章)。NTTによるアクセス網独占の維持の一要素。アンバンドリングは行政「命令」により、あるいは「自発的に」(法的基盤なしで)ごく一部でのみ実現。市場メカニズムは未導入。
電波法により、公的管理下の資源として免許制度により割当。手数料・利用料制度は存在するが、実質上の経済価値よりもはるかに低額であり、無料使用と変わらない。また、免許の他者への有償・無償譲渡は、(譲渡の可否に関する規定自体が欠落しているため)実質上禁止された状態にある。そのため、新規参入はほとんど不可能であり、電波使用に関する「護送船団体制」が1950年代から継続している。
当初(今世紀はじめ)は、(現在の日本と同じく)公的管理下の免許制度。しかし、免許譲渡を認めていたので、実質上の「電波使用権市場」が少しづつ成立した。1993年から、新規免許についてオークションを採用し、1997年にこれを固定した(ただしDTV、安全目的分を除く)。PCS(日本のPHSに対応、IMT-2000を含む)、DBS(衛星放送、軌道と電波を一括)などでオークションを実施。現在では、オークションを「無線サービス分野における競争導入のための主要手段」と位置づけている。主要先進諸国が追随(例外は日本とフランス)。
新規参入の実現、資源の有効利用(すぐれた技術・サービスを実現して最も高価な代価を支払うことができる企業に使用を委ねる)、「贈与」から生ずる不公平の防止(銀座の国有地を営利企業に無料で使用させることと類似)、安定した市場価格の成立による不確実性の減少、将来における投機・バブルの防止。
(鬼木「米国の周波数オークション(1993年の「通信法」改正)」、『米国通信法研究会報告書』、通信機械工業会( → 刊行案内):米国通信法研究会、1999年2月、pp.127-272。
http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/jpn/publication/199902a.htmlを参照。)
「通信用スペース資源」は、その性質上、使用権保有者に独占力を与える。独占から生ずる問題を最小限にとどめるため、同資源サービスの供給を「上部サービス」や近接する他サービスの供給から分離することが望ましい(例:衛星放送における委託放送、受託放送の分離、電気通信におけるアクセスと近距離通信の分離)。
資源の実質価値が高いもの(都市部の電波、通信とう道用スペースと同設備、静止衛星軌道上スペースなど)について、まず会計分離とアンバンドリング供給を導入し、旧来の所有者でも、新規参入者と同一条件で資源・設備を使用するようにする。これを漸次全国に拡げる。
(鬼木『情報ハイウェイ建設のエコノミクス』鬼木甫著、日本評論社刊、1996年2月、xviii+356pp。
http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/jpn/publication/199602b.htmlの7章、8章;
「ネットワークとしての電気通信産業――広帯域通信(BISDN)時代における電気通信産業組織」、南部、伊藤、木全編『ネットワーク産業の展望(郵政研究所研究叢書)』第7章、日本評論社、1994年3月、pp.151-188。
http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/jpn/publication/199403b.html;
「電気通信産業の『上下分離』構造について――問答形式による解説」、『InfoCom Review』((株)情報通信総合研究所)、No.5、1996年2月、pp.2-25。
http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/jpn/publication/199602a.html;
「情報通信産業における競争政策・公的規制のフレームワーク」、『競争政策と情報通信産業――持株会社と独占禁止法上の市場の捉え方――』、社団法人生活経済政策研究所、1998年12月、pp.64-89。
http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/jpn/publication/199812a.htmlを参照。)
III. 広帯域アクセス網(Broadload Network)の建設について
近い将来における最重要の通信ネットワーク。インターネットの高度利用を通じて、国力、国民生活、産業、政治、文化など各方面の「進歩速度」を左右するものと予想される。すでに米国ではこの点についてリーダー間に合意が成立しており、官民あげてその実現を加速中。日本が立ち遅れれば、1950年代の電話ネットワーク(PSTN)と同種の事態になってしまう。
(鬼木『情報ハイウェイ建設のエコノミクス』鬼木甫著、日本評論社刊、1996年2月、xviii+356pp、
http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/jpn/publication/199602b.htmlの2章;
「情報通信のインフラ整備と競争メカニズム」、『経済セミナー』、No.504、1997年1月号、pp.22-31。
http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/jpn/publication/199701a.htmlを参照)。
複数手段による広帯域アクセス網サービスの競争が始まりつつある――光ファイバー、DSN、CATV用ケーブル、固定無線アクセスなど。これらのうちどの手段が技術的・経済的に勝利を収めるかは、現時点ではわからない。
長期的にすぐれた広帯域アクセス手段をなるべく早期に見出すことができるよう、異なる手段間でequal footingの競争ができる環境を用意することが望ましい。そのためには、前項II.Cの原則にしたがって市場メカニズムを導入し、長期的に安定した状態で実現される市場条件(コスト条件)をなるべく早期に実現する他はない。たとえば電波が当面無料であることから固定無線アクセスが有利になっても、長期的にそれが続くとは限らない。またとう道使用が表面上無料であることから光ファイバーが有利になっても、永続するとは限らない。同一の市場条件下の競争を実現し、技術的不確実性から生ずるリスクのみを民間事業者が受け入れる方策が望ましい(旧国鉄の地方路線投資の結果)。
IV. その他トピック
特殊会社方式、接続制度、放送と通信の融合(上記II. C. 2方策により対処するべき。サービスの機能的分離、同一機能サービスを一括して同一原則で規制し、異なる機能のサービスは区別して規制する。)
「HTML規格外(HTML specifications not observed)」