米国の周波数オークション (1993年の「通信法」改正) 鬼木 甫 I. まえがき  本章では、米国における「電波周波数のオークション」制度の成立経過と内容を説明する。  米国では、日本と同じく、政府(連邦政府)が周波数の管理に当たっている。「1934年通信法(通信法)」に基づき、民間事業者による周波数の使用には「免許(License)」が必要であり、FCCがその発行・変更・更新等の業務を担当する。米国では、周波数の「初期免許」発行に関し、1981年、1993年、1997年の3回にわたって「通信法」を改正し、その制度を大きく変更した。まず1981年の改革では、それまでの「比較聴聞」方式に代わり、「無差別選択(くじ引き)」方式によって初期免許を割り当てることを定めた。その後、1993年の改革で導入されたのが、「オークション」による初期免許の割当である。この改革では、オークションを移動通信、商用無線、直接衛星放送等に限定していたが、最近の1997年の改革では、地上放送のディジタル化にともなって返却される周波数を含め、放送用周波数についてもオークション方式が導入された。本章では、1993年改革による「オークション導入」の経過を説明し、かつ、PCS(Personal Communications Service)を中心として、周波数オークションの実施経過を説明する。  米国で1920年代に周波数管理体制が本格的に整備されたときには、議会は、周波数が「米国民全体の共有資産」であるとの考えの下に、周波数の使用免許を発行することを定め、周波数の私的「所有」を否定した(通信法301条)。したがってFCCは、周波数使用免許を、先着順に、実質上無料(手数料、名目的使用料を除く)で発行する建前をとり、政府による周波数オークションはおろか、政府が周波数を「売却」するという考えを持っていなかった。もとより、米国は私企業によ利潤追求を基本とする資本主義社会であり、周波数使用免許も利潤追求の手段となっていたが、周波数という「経済資源」は、資本主義の「市場メカニズム」の外に置かれていたのである。  周知のように、市場メカニズムは個別主体の利潤追求動機に基づいているため、その「浸透力」がきわめて強い。米国での周波数の場合には、市場メカニズムが、いわば「制度の裏口」から浸透したのである。具体的には、初期免許以外の「免許」について、当初から「免許更新」がおおむね「自動的」に認められており、また、商取引としての「免許譲渡」が、(新保有者が資格要件を満たすかぎり)認められていた。すなわち、周波数の再販売市場(secondary market)が成立し、その「売買」がおこなわれていた。  第二次大戦後に周波数の利用技術が進歩し、通信・放送他の分野で周波数の価値が上昇するとともに、周波数使用の「初期免許」について市場メカニズムを排除することの矛盾が増大した。具体的には、(実質上無料で割り当てられる)周波数に対して免許申請が殺到し、FCCの管理能力を超える事態になったのである。これに対して、議会は、1981年に「無差別選択」方式を導入し、さらにその欠点を補うため、1993・1997年に「オークション」方式による初期免許割当を導入した。  1993・1997年の改革の結果、米国においては、民間事業者による周波数の使用について、ほぼ全面的に市場メカニズムが取り入れられることになった。これに対し、日本では、初期免許は政府当局による実質上の「割当」に拠っており、また免許譲渡が実質上不可能であることから、周波数割当について市場メカニズムがほぼ完全に排除された形になっている。資本主義と社会主義の対立の小型版にも比することができる両国間の制度上の差異について、重大な関心が寄せられるのは当然であろう。  本章では、主として、米国における1993年の通信法改正にもとづく「周波数割当制度」の改革について、その背景、内容、結果を説明する。全体を前半(II節)と後半(III節)に分け、前半では、本世紀初頭における周波数管理制度の成立から、1993年の通信法改正に到るまでの経過を説明する。また後半では、1993年の改正の結果成立した「周波数オークション制度」の大要、とりわけPCS(Personal Communications Service、日本のPHSに対応するが同一ではない)のために割り当てられた周波数のオークション経過について説明する。1993年の改正にもとづいて実施された周波数オークションは、PCSにかぎらず、直接放送衛星(DBS)を含む多数のサービスに及んでいる。しかしながら、PCSは、オークションの規模(落札金額)、オークション実施にあたって生じた諸問題などの点で、最大の注目を集めたケースである。  また、本章では、単に「周波数オークション制度」の導入結果だけでなく、その成立経過についても説明する。他のほとんどすべての公的政策(public policies)と同じく、米国における周波数オークション制度の導入においては、利害関係を持つ多数の事業者や団体・個人が存在し、それぞれの立場から自己の利害を主張し、圧力が加えられた。とりわけ、「1934年通信法」が周波数に関する私的所有権の成立を明文をもって否定しており、かつ「放送内容に関する規制」がこれを補強してきた側面があったので、議会がオークションの導入に賛成するまでには、長い年月が必要であった。オークション制度が立法された後においても、具体的な実施方策決定の段階で、多数の利害対立が生じた。このような状態の中で、社会全体の利益に合致する政策方針を選択し、錯綜した個別利害を調整しながらこれを実現させていくことは、困難きわまる仕事である。本章では、周波数オークション制度の導入について、米国の議会、規制当局(FCC)、行政当局(大統領、NTIAなど)、裁判所、事業者、ユーザ・消費者などが、どのように行動したか、どのようなプロセスで全体の決定が行われたかについても説明することを試みた。  なお本章では、米国について述べることが主眼で、日米間の制度に関する詳しい比較はおこなわないが、米国の新旧の制度に関する利点・欠点と、日本の制度の方向について、末尾に著者の意見を述べておいた(IV節)。 II. 周波数オークション制度の成立(1993年通信法改正まで) A. 「周波数管理制度」の沿革と市場メカニズム(価格システム)導入の主張 1. 周波数管理制度の成立(*1)  米国連邦政府による電波周波数の管理は、1912年の「無線法(Radio Act)」成立とともにに始まった。米国では、20世紀に入り、無線通信技術が実用化するとともに、船舶航行目的を中心とする無線通信が急増した結果、多数の混信・混乱を生じ、航行の安全を脅かすまでになった。この事態を解決するため、1912年に議会は新たに「無線法」を成立させて、電波使用に規制を加え、無線局開設に商務省の免許を必要とすることを定めた。これが米国連邦政府による周波数管理のはじまりである。同法は、無線局免許の要件として、無線局所在地、使用周波数(波長)、使用時間等を定めていたが、無線局出力については明確に規定していなかった。  1920年代に入り、これまでの無線通信に加えてラジオ放送が実用化すると、放送局の数が急速に増加した(*2)。放送産業の出現は、周波数の使用に関して、従来の無線通信だけの時代には見られなかった問題を表面化させた。それは、放送局間の電波競合である。放送局開設については、個別無線通信局の開設と異なり、使用周波数や出力、放送地域・時間など、決定するべき事項が多数に及んだので、連邦政府による組織的な管理体制が成立するまで数年を要した。  すなわち、議会は、商務省の権限が放送用電波使用免許の発出を通じて強化されることに抵抗し、また多くの民間放送局が訴訟によって商務省による規制に対抗した。その結果、一時的に「放送混乱(Chaos in Broadcasting)」と呼ばれる無政府状態を招来し、放送局間の出力増大競争が生じた。そのため、安全目的を含む多くの通信に雑音・妨害が生じるなど、不便・危険が増大することになった。  このような状態の中で、議会は、周波数の使用に関する立法努力を続けた。まず1926年に、「周波数に関する私的所有権(とりわけ外国人による所有権)の成立を阻止し、電波資源が合衆国国民の固有の財産(inalienable possession)であることを確認する」決議をおこなった(*3)。一部の放送事業者が、自己の使用する周波数を将来にわたって無期限に保有することを望み、「周波数の私的所有権」の確保を主張していたからである。しかしながら、放送・通信事業者を除く一般の意見はこの要求に反対し、「電波周波数は、米国民全体の利益のために共用されるべきものであり、その私有を認めるべきでない。」とする意見が大勢を占めていた。  翌年に入って、議会はようやく「1927年無線法」を成立させ、「連邦無線委員会(FRC: Federal Radio Commission)」を設立して、放送を含む周波数の使用管理に当たらせることとした。同法の冒頭(現在の通信法301条(47USC301)に相当)には、上記1925年の議決を享けて、「無線通信用チャネル(周波数)の使用が合衆国のコントロールの下にあること、その使用免許を期間を限定して個人に与えることとするが、その所有権(ownership)を与えるものではない」旨が明記されている。つまり、周波数の私的所有権を明文をもって否定している。  同法により、FRCは、周波数を地域別・目的別等に区分し、それぞれについてユーザに免許を交付する権限を持つことになった。また同法にはすでに、電波の使用が「公共の利益・必要・便宜(PINC: Public Interest, Necessity, or Convenience)を目的とする」旨の語句が現れている(*4)。  1934年に到り、無線法は拡張・改正されて「1934年通信法」となり、FRCは「連邦通信委員会(FCC: Federal Communications Commission)」に改組された。その結果、FCCは、無線通信・放送だけでなく、(有線・無線の)電話・電報業務をも管理することになった。しかしながら、1934年法中の無線業務に関する規定は、1927年法をおおむねそのまま受け継いだ(*5)。 2. 周波数管理制度の内容  上記のように、米国における電波周波数資源は、合衆国国民の共有財産として、当初から連邦政府による公的管理下におかれ(*6)、少なくとも形式上は、この方針が第二次大戦後まで続いたのである。このように電波について政府管理原則が確立された理由としては、第一に、電波が主として公私の機関による自家使用(private use)、とりわけ安全目的に供され、商業目的使用(commercial use)はラジオ放送等一部のユーザに限られていたこと、第二に、両大戦において軍事・防衛目的の電波の重要性が高かったことによると考えられる(*7)。  他方、周波数を共有財産と規定しても、その使用に際して、技術的理由から私的側面が入ることは当然である。実際、電波使用のために、特定の周波数区分が排他的に割当てられる。これをおこなわず、電波使用を放置すれば、混信を生ずる。なお、混信の不便は広く一般に理解され、FCCの役割はその防止にある、つまり一般道路上の交通混乱を防ぐ交通警察と類似の役割を持つものと説明され、これが「常識」として拡がり、固定観念となった(*8)。  さらにこれに加え、ラジオ・テレビで放送される番組内容が社会全体に強い影響を及ぼすようになると、政治・思想等の諸分野における番組内容の「不偏性・中立性」が要求されるようになった。放送事業は(出版事業と異なり)、周波数資源の有限性から新規参入に限界があるからである。その結果、放送のために必要不可欠な「電波」について中立性・公共性の確保が必要とされ、それがそのまま電波の公的管理の維持、すなわち「周波数の私的所有権」の排除、という考えを強化した(*9)。このような経過で、電波の公的管理原則が確立され、広く受け入れられたのである。  しかしながら、他方において、「1934年通信法(1927年無線法)」は、電波の公的管理原則を堀り崩すこととなる規定を含んでいた。それは、周波数使用免許の第三者への(有償)譲渡、すなわち実質上の免許の売買を認める規定である(現在の通信法310条(d)項)。譲渡にはFCC(FRC)の許可を条件として課し、譲渡を受ける者(免許の買手)が、免許の初期申請時に要求される資格要件と同一の要件を満たすことを求めている。しかしながら他方でFCCは、免許を譲渡される者が資格要件を満たすかぎり、他の有資格者と競争させることなく譲渡を容認するべきものと定められた。この規定は、当時の一般の商慣習をそのまま反映したものであったが、厳密に言えば、そして規定が実際に適用される際の事情から考えれば、同301条の「周波数の私的所有権の排除規定」と矛盾する規定であり、周波数資源への市場メカニズムの適用を導入する法規定上の要因となった。  さらにこれに加え、「1934年通信法」は、周波数使用免許の期限到来時の更新(renewal)を認めていた(現在の通信法307条(c) (d)項)。同規定自体は、免許更新を許可するか否かは委員会の判断に依るとしており、その判断条件について初期申請と更新申請との間に格差を設けていない。しかしながら、実際には、期限の到来した免許保有者の更新申請と、それと同程度の資格要件を満たす事業者が同免許に競争的に申請を提出した場合には、結局のところ前者の更新を認め、後者の申請を斥けることが多かった。とりわけ技術進歩にともなって放送など周波数を利用する事業への設備投資が増大すると、既投資分が無駄になることを避けるという経済合理性の点からもこの傾向が強くなった。また、免許期限到来前の、免許を含む事業全体の有償譲渡が上記のように認められていたことは、この傾向を一層助長した。免許資格の保有が事業継続の絶対条件であるため、「善意の」第三者が免許を含む事業全体(設備、人員、組織など)を有償で譲り受けた場合、その後の免許更新を斥けて同事業者に巨額の損失を与えることが、社会通念上容認され難いからである。  このようにして、大多数の場合、すなわち、放送番組の公共性・中立性の原則を冒すなどの特段の欠格理由が生じないかぎり、免許更新についてはこれをおおむね「自動的に」認めることが当然と考えられるようになった。すなわち、免許資格の範囲内で、かつ外的条件に変化が生じないかぎり、一旦許可された免許は「半永久的に」保有できるという期待を広く生じさせることになった(*10)。  しかしながら、第二次大戦前には、301条と310条(d)項間の矛盾は一般には理解されなかった。無線局・放送局の所有権や経営権が譲渡される際には、周波数免許は譲渡対象に付随する「権利・資格」であると考えられるにとどまった。また、当時における経済発展と周波数利用技術の発展に対応して、周波数資源の需要がその供給を大きく上回ることは生じなかった。経済理論の用語で言えば、周波数の需給が価格ゼロの点で均衡していたため、電波の公的管理と有償譲渡の容認が包含する矛盾が表面化しなかったのである。  ところが、第二次大戦後に到り、FM放送、テレビ放送に加え、移動通信が普及した結果、周波数の商業目的の使用が増大し、実際の経済活動を通じて周波数の使用権の価値が増大した。そのため、周波数の使用権、すなわち免許に対する超過需要が生じ、周波数の経済価値を反映する市場メカニズムの必要が増大して政府による公的管理原則の矛盾が増大していった。しかしながら、ひとたび成立した「電波は私有財産ではない」とする考え方が「常識」として強く残り、実際に「周波数オークション制度」が受け入れられるまでに長い期間を要したのである。  電波の政府管理という「常識」が、電波の商業目的利用の増大という情勢と、電波使用権の半永久的保有・有償譲渡の容認という既成事実に適合しなくなったことを主張し、一方で放送番組の中立性等のための規制を容認しながら、他方で周波数資源へ市場メカニズムを導入することが可能であるとする論議を起こしたのは、次節で述べるように、シカゴ大学のR. Coase教授であった。 3. 市場メカニズム導入の主張  1950年代末から60年代初頭にかけて、米国はカラーテレビ普及の時代に入り、放送事業者広告収入の増大とそれに伴う周波数の経済価値の上昇が予測されていた。この時期に、周波数の配分に市場原理を適用し、周波数の経済価値に見合う代価をその利用者から徴収するべきことを組織的に主張したのは、シカゴ大学のR. Coase教授である(論文Coase [1959]を参照)。もっとも、周波数使用の代価徴収という考え方自体は、より早い時点ですでに提唱されており(*11)、また、1958年に同主旨の法案が議会に提出されている(もとより成立はしなかったが)(*12)。しかしながら、Coase教授の同論文における主張はきわめて説得的であり、理論と現実の両面で諸問題を明確に説き明かしていたので、後の時点における「周波数オークション」論議のための最重要文献となった(*13)。  周波数の配分に市場原理を導入するべき理由として、Coase教授はまず周波数資源と土地資源が類似していることを指摘する。土地と同じく、周波数の供給量は自然条件によって制約されており、また両者とも通常は排他的に使用される。これら以外の他の理由も含めて考えると、生産手段としての周波数資源は土地資源と酷似した性質を持っている。周知のように、土地については私的所有権が設定され、法律・行政組織によって維持されている。その結果、土地の使用者はその代価・使用料を支払い、他者の所有権・使用権を尊重しつつ、これを利用している。同教授は、同様のシステムを周波数資源の配分に導入してはならない理由は基本的に存在しないことを主張した。周波数資源に所有権を導入し、市場メカニズムの原理を適用することの利点として、同教授は(今日では経済学分野の価格理論として周知となっている)以下の2項目を挙げる。  第一は、市場メカニズムがもたらす「分権化」の利益である。周波数をどのように使用するのが最も効率的かについての知識・情報は、その周波数を使用する当事者(たとえば企業経営者)が保有しており、これと同様の知識・情報をFCCのような公的管理機関が入手することは一般に困難・不可能である。周波数資源の配分を市場メカニズムに任せず、政府機関の管理下におくと、不十分な、あるいは誤った知識・情報に基づいて決定がなされる結果、周波数の使用効率が引き下げられてしまう(*14)。  市場メカニズムを適用し、周波数使用の代価を徴収することから得られる第二の利点は、富の配分の社会的公正である。Coase教授は、FCCが周波数を管理し、これを実質上無料で使用免許としてユーザに割り当てることは、巨大な経済価値を持つ資源の「贈与」になることを指摘する。同教授は、当時のラジオ・テレビ産業を念頭においていた。米国では、ラジオ・テレビの放送局が時おり転売されることがあり、周波数の使用権を含む一放送局の価値が数億ドルにも達することを指摘している。「連邦政府は、一方で鉱山の採掘権について採掘料を徴収しているのに対し、電波の使用については料金を徴収していない。これは大きな社会的不公正である。」と同教授は主張している。  以上を要するに、周波数資源の使用に市場メカニズムを導入するべきであるとする理由は、第一に「資源配分の効率性」、第二に「資源配分の公正・公平性」にある。前者は周波数が営利目的に使用されようと、非営利目的に使用(政府機関による使用、安全・軍事目的の使用など)されようと、均しく妥当する。他方、第二の理由は、周波数資源が(当時の放送事業のような)営利目的に使用されるときにのみ該当する。しかし実際には、この両要因が混同して論じられることがある。  Coase教授は、周波数配分への市場メカニズムの導入に関する議論を混乱させる要因として、「放送事業の特殊性という論点」を挙げている。周波数の供給量が制限されている結果、放送産業においては、自由な参入という競争条件が実現できない。その結果、放送によって供給される情報、すなわち放送番組については、いくつかの理由により、公的機関による規制あるいは援助が必要となる。この理由で、放送産業は、同様に情報伝達という業務にたずさわっている新聞・出版産業とは異なる要因を持っているのである。  同教授は、これらを理由とする「放送番組に関する規制」の必要に同意している。しかし、放送番組については、それ自体の性質と必要を勘案した政策措置がとられるべきであり、放送番組規制の問題と周波数資源の配分問題は別個の問題であることを主張する。実際、土地資源についても周波数資源と同じく供給の制約が存在する。しかしながら、放送局の使用する土地が公的管理のもとに無償供与されている事実はなく、またそのようにするべきである旨の主張もなされていない事実を指摘している。  上記のようなCoase教授の主張は、今日の常識からすれば当然に同意できることである。しかしながら1959年という時点においては、事業者側はもちろん、FCCの規制当局側にもほとんど理解されなかった。わずかに学界の一部に受け入れられたにすぎない。そしてFCCによる周波数資源の配分は、同教授の所説に代表される学界の主張の影響をほとんど受けることなく進められた。FCCが、市場メカニズムの採用、その一方式としての周波数オークションの導入を考慮しはじめるのは、放送・無線通信の技術がさらに進歩し、放送事業者だけでなく、他の多くの営利事業者が周波数資源を必要とするようになってその超過需要が生じ、FCCによる管理・配分が実際上困難に際会するようになった後のことである。 4. 比較聴聞方式、無差別選択方式による周波数割当  FCCによる周波数割当は、1981年の通信法改正に到るまで、「比較聴聞(comparative hearings)」と呼ばれる方式でおこなわれていた。FCCは、自己の管轄する周波数を用途別・地域別等に区分し、それぞれの区分について民間から免許申請を受け付ける。申請は、目的用途・資格等の条件を満たすかぎり許可される。単一の申請しか出されなければ問題はない。問題は、同一区分の周波数に対して2件以上の申請が出願された競合申請(超過需要)の場合である。FCC(FRC)発足当初においては、申請数が少なく、またその後においても技術進歩によって次々に新しい周波数資源が開発されたので、競合申請は少数に留まっていた。しかしながら、AMラジオ、白黒・カラーテレビへの周波数割当が終り、FMラジオ放送やUHFテレビ放送の時代に入ると、申請免許数が急速に増大し、FCCは多数の競合申請の解決という重荷を負うことになる。  競合申請に対して、当初FCCがとった方式が「比較聴聞(comparative hearings)」である。免許申請者が、事業目的・計画に加え、自己の事業環境・条件等を詳細に記した申請書をFCCに提出し、FCCはその内容を検討して「最もPINCに適うと考えられる申請者を選び出し、免許を与える」方式である。申請書という事業活動の「外見」によって複数申請者から選び出すので、この方式は「美人投票(beauty contest)」とも呼ばれた。  比較聴聞方式は、「周波数は米国民の共通資産である。」「周波数は、米国民のPINCの増大のために使用されなければならない。」とする通信法301条の基本方針を直接的に実現する方式である。しかしながら、実際上それは重大な欠点を持っていた。  比較聴聞方式の欠点は、複数免許申請者間の競合から生ずる。名目的な手数料のみを支払うことによって免許が与えられるので、免許を入手できるか否かによって経済的利益に大きな差が出る。それぞれの申請者は、免許を入手するため、あらゆる手段を尽くして競い合うことになる。FCCでは、この種の競合を公正・公平に処理するため、早い時期から申請・聴聞・不服申立等の「手続形式」が発達した(*15)。とりわけ1940年代末の「行政手続法(Administrative Procedural Act)」の本格的整備後に、通信法においても聴聞等のための詳細な手続きが整備された(*16)。しかしながら、これらの結果、当初の免許獲得競争に敗れた事業者は、FCCへの説明・不服申立に始まり、連邦最高裁判所への上訴に到るまで多くの法的手続きを使って免許を獲得することを試み、FCCおよび裁判所の業務量が急速に増大することになった。小規模FMラジオ局免許や初期のセルラー免許の場合、免許申請から許可までの期間が4年以上にわたるケースが多かったと言われている。  1970年代末に到って移動電話技術が発展し、多数のセルラー免許の発出が計画された際に、これらの経験から、従来のような比較聴聞方式は費用・手間・時間が大きく、極端な非効率を生むと予測され、免許申請審理のための改善策が検討された。その結果、1981年に、議会は通信法309条を改正し、同条に第(i)項を追加して、周波数使用免許の競合申請に対し、「無差別選択方式(くじ引き方式、lotteries)」を採用する道を開いた。  1980年代中葉に、無差別選択方式にしたがって多数のセルラー免許が発出された。旧来の比較聴聞方式では、当初の免許申請から免許の決定・許可を経て実際の事業開始に到るまで、平均5〜6年程度かかっていた。これに対し、無差別選択方式ではこれが2年程度にまで短縮された。  しかしながら、無差別選択方式では、免許申請資格が緩やかであったため、数千〜数万件の応募者が押し寄せる事態になった(*17)。そして、くじ引きの結果、実際の事業能力・意欲とは無関係の申請者が免許を入手し、これがセルラー事業を実行する事業者の手にわたるまで、依然として2年程度の期間を必要とすることになった。後に数千〜数万件の事業申請を代行する専門業者(application mills)の参入を招来し、上記欠点はさらに拡大された。また当然のことながら、無差別選択の結果、くじ引きに当たった申請者が多額の "windfall profits" を入手することになって極端に不公平な富の分配をもたらし、社会正義に反するとする批判も生じた。  これらの経過から、周波数免許発出方式の改良努力が続けられ、1993年に到って市場メカニズムの導入、オークション方式の採用が実現したのである。しかし米国では、前述のように、「電波の公共性を尊重」する考えが強く、「電波を私有財産として保有することを明文をもって否定」していた。そのため、政府による電波の売買を意味するオークション方式の導入には抵抗が多く、同方式が議会によって認められるまでに、1981年のくじ引き方式採用後、10年余の期間が必要であった。  しかしながら、上記のように、他方では「免許更新」が無線法制定当初から当然視され、また比較聴聞の時代以前から「免許譲渡」すなわち「周波数使用権の再販売」が適法行為として認められていた。FCCの立場からすれば、当初定めた目的に沿って周波数が使用され、また使用主体が必要な資格要件を満たしているかぎり、免許の更新はもとより、その譲渡・再販売を禁止できない。周波数使用権の「購入」を希望する事業者は、一方でFCCに対して周波数の「使用資格免許」を申請し、これが認められた後に、代価を支払って周波数使用権を購入し、事業を開始することになる。この場合でも、名目上は周波数の使用権は免許条件の制約下にあり、使用権が譲渡されても、それが「電波の所有権」を直接に認めたことにはならないとされていた。  そしてこれらの結果、周波数使用権が市場で「流通」し、周波数帯に「価格」がつけらることになった。実質的には、周波数資源の再販売に関する「市場メカニズム」が成立していたのである。前記のように、周波数資源に関する「私的所有権」の成立は1925年の議会決議によって否定されており、1934年通信法301条において、その所有権(property rights)を認めない旨の明示的規定がある。しかしながら、周波数免許がほぼ自動的に更新され、かつ同使用権の再販売が認められてきた結果、実質上の「所有権・使用権」が、「FCCの定めた使用目的内で、また外国人・外国籍企業による使用を排除するという条件の下で」すでに確立されていると考えることができる。1993年に加えられた通信法309条(i) (1)項および(j) (1)項において、無差別選択あるいは競争入札の利用を初期免許の発行時に限る(免許更新時には適用しない)ことを定めているが、この規定は、間接的ではあるが、周波数の「(使用資格・目的に関する制限付の)所有権・永久使用権」の存在を認めていることを意味する。ひとたびくじ引き・オークションによって入手した権利は、これを他に譲渡したり、あるいは免許が欠格にならないかぎり、免許更新時においても継続するものと予想されるからである(*18)。  以上を要するに、FCCによる周波数使用権の「当初割当」は比較聴聞あるいは無差別選択という(非市場)メカニズムに拠っていたが、それ以後の再使用については、市場メカニズムのルールにしたがって資源配分がおこなわれていたと言うことができる。したがって、1993年の通信法改正による周波数オークション制度の導入は、周波数資源配分の「初期市場」だけに関する変更であり、周波数使用にかかる長期的な経済効率よりも、周波数の当初配分における「公平・公正」にかかる制度変革であったと考えることができる(*19)。 B. 米議会等における検討経過:1987−1993年 1. FCCによる周波数オークション方策の推進  「周波数オークション制度」は、1993年に成立するが、FCC内でその推進力となったのは、FCC企画政策局(Office of Plans and Policy: OPP)に所属するエコノミスト達であった。1985年、すなわち無差別選択方式が議会で認められて2年後に、OPPのE. KwerelとA. Felkerの両博士は、論文 "Using Auctions to Select FCC Licensees" を発表し、周波数オークション制度を具体的に提案した。同論文は、まず、比較聴聞、無差別選択、競争入札(オークション)の3制度の特質を比較し、主として経済面の理由から、オークションが他の2制度に比較して優れていることを示した。また、同論文は、実際にオークション制度が実施される(auction implementation)際の諸問題、すなわち「オークション制度の設計」にまで言及し、複数のオークション制度の特質、周波数資源のように多数のチャネルが同時にオークションされる場合の問題点、オークションにおける入札ステップを進行させるための方策、保証金・頭金を含む周波数代価の納入手続きに関する問題等の具体的事項までを検討し、周波数オークション制度の設立に当たって解決されるべき問題の大要を描き出した。前述したR. Coase教授の論文が「市場メカニズムとオークションの有用性に関する理論的考察」を与えたのに対し、本論文は「オークションの具体的実施のための検討」結果を提示し、10年後のオークション実施のための指針となった。  本論文の発表以降、OPPはFCCにおけるオークション制度推進の中心となり、当時実施されていた無差別選択方式から生ずる問題点を指摘しながら、議会内外でオークション制度の支持者を拡げていった。議会が1993年にオークション制度を認める立法をおこなった後、R. Pepper OPP局長によってリードされるOPPのメンバー、とりわけE. Kwerel博士は、FCC外部のエコノミストとも協力して、実際にオークション制度を設立するための規則制定の任にあたった。これらの功績によって、同博士は、1997年にFCC委員長から表彰を受けている。 2. PCN(PCS)提案と公共用周波数の提供  1993年の通信法改正で実現した「周波数オークション制度」は、PCS移動電話、直接衛星放送をはじめとする多数のサービスのための周波数割当に適用されたが、中心的な役割を果たしたのは、PCS移動電話のための周波数オークションであった。以下、本節においては、主にPCSの周波数オークションについて説明する。  1980年代後半において、無差別選択方式によるセルラー電話用周波数の割当が進行していた時期に、次世代の移動電話サービス(後のPCS)の実現に向けて、議会およびFCCでいくつかの動きが生じた。まず、1989年ごろから、セルラーに続く移動通信方式として、複数のベンチャー事業者がPersonal Communications Network(PCN)を提案していた。PCNは、セルラー電話とコードレス電話の中間の形態であり、その特色は、ディジタル方式の採用、小規模通話領域(microcell)と小出力通信に基づく必要周波数帯の節約、そしてそれらの結果として「電話網への新しいアクセス手段」の提供にある。通信方式としては、FDMA、TDMA(GSMヨーロッパ方式を含む)、CDMAのディジタル3方式が提案されていた。FCCはこれらの提案を積極的に受入れ、一般案件GN90-314「PCS検討」(*20)他によって、新世代の移動通信方式の検討を進めた。  また、これと平行し、FCCは、民間企業による新しい通信方式の開発を促進するため、「創始者優遇方式」の検討を、FCC一般案件GN90-217他によって進めた。創始者優遇制度とは、他と比較して格段に優れた新技術を開発・提供した事業者に対し、周波数の無料優先割当などの優遇措置を実施するものである。FCCによる本措置は、少なくとも当初は成功を収め、同検討の進行中に、数十のベンチャー企業がPCN技術の実験のために次々と名乗りを上げ、FCCに対して実験免許を申請した。しかしながら実際には、本優遇措置は、当初計画の一部のみしか実施されなかった。選に漏れた企業がこれを不満として訴訟に出るケースが多かったこと、また議会から、FCCによる優遇企業選択方式に問題があるとして調査を受けたこと、周波数の無料割当が優遇に過ぎるとして、有料割当に変更されたことなどがその理由である。最終的には、1997年に議会によって同優遇措置は廃止された(97FCC309)。しかしながら、同措置は、初期の段階におけるPCNの技術開発を促進させる効果をもたらした。  FCCによるPCN(PCS)技術の検討が進行し、新世代の移動通信サービスがその実施可能性を高めつつあった期間、FCCと行政当局(商務省のNTIA)は、PCS用の新しい周波数帯を見出すことを提案した。それは、従来公共機関が安全目的等に使用していた2GHz帯において、約200MHz分の周波数帯を政府使用から民間使用に移管する提案である。この提案は議会において、「周波数共用(spectrum sharing)」と呼ばれた。ただし、同周波数帯が実際に空白状態にあったのではなく、マイクロウェーブ通信に使用されていた。したがって同周波数帯をPCS用に移管するためには、既存マイクロウェーブ・ユーザに対する何らかの措置(別の周波数帯への移動、あるいは妨害・干渉なしに同周波数帯をPCSと共用するための技術的措置)が必要であった。これらの措置は、いずれもコスト(PCS事業者によって負担されることになる)を要するため、同コストの推定方式や推定結果の確認、既存マイクロウェーブ・ユーザの移転時期等をめぐって対立が生じた。FCCは、これらの問題について、技術案件ET92-9等を設定し、各方面から意見を徴収しながら、少しずつ解決策を具体化していった。  以上を要するに、1980年代末から1990年代初頭にかけて、FCCは、PCS用を主とする「周波数オークション制度」の実現のために、3分野にわたって準備を進めた。それは、第1に多数のベンチャー企業を巻き込んだPCS技術方式の検討、第2に創始者優遇制度の検討、第3に商務省NTIAとの協力によるPCS用周波数帯の供給であった。 3. 議会審議の経過(全体概要)  「オークションによる周波数割当」制度は、もちろんFCCの権限だけで実現できるものではなく、議会による「1934年通信法」の改正を必要とする。実際に改正が実現したのは、クリントン政権に入った1993年夏であるが、議会の審議はその6年前の1987年、すなわちレーガン政権の終期から開始され、議論の大部分は1989年以降、ブッシュ政権の期間を通して続けられた(*21)。その間上下両院では、周波数の取り扱いをめぐって多数の法案が提出され、「オークション導入」だけでなく、新技術の開発促進、PCSの実現、「周波数の共用」など関連案件が検討された。上下両院の委員会・小委員会(*22)では、延べ百人を超える官民の専門家を招致して繰り返し公聴会を開き、意見の陳述を受けた。また、FCC、NTIAに加え、PCS事業者協会(PCS導入に賛成の立場)、セルラー電話事業者協会(同反対の立場)は、周波数問題に関するコンファレンスを開いてそれぞれの立場から意見を表明し、また当然のことながら、オークション導入の利害関係者は活発なロビー活動を展開した。  6年にわたる検討期間の当初は、両院委員長、小委員長をはじめ、大部分の議員がオークション導入に反対の、あるいは懐疑的な立場をとっていた。しかしながら論議が進むとともに、オークション提案は、議会内外で少しずつ支持を拡げ、1992年夏までに、オークション導入に向けての大勢が決まった。  上記検討期間は、大別して、前半(1987−90年:第101、102議会)と、後半(1991−93年:第103議会と104議会第1期)に分かれる。前半は、オークション制度の「説明・理解」と、「周波数共用」「創始者優遇制度」などの関連案件の策定・提案の期間であった。後半においては、オークション導入に伴う問題点、とりわけ、オークション制度を「試行」的に採用することの是非、小規模事業者等に対する参入機会の確保、既存マイクロウェーブ使用者との調整、オークション収入を最大化するように制度を作るべきか否か、同収入の取り扱い方等の問題が検討され、各分野の利害を代表する委員・議員によって法案に多くの修正が加えられた。最終的には、1993年夏に、上下両院協議会での妥協結果が、僅差で両院を通過した。  また「周波数オークション」は、連邦政府予算審議の一環として検討された。オークション制度は、従来(手数料・名目的使用料等を除き)無料で提供されていた周波数を競争入札にするのであるから、当然に政府収入の増大をもたらす。そのため、「オークション法案」は、(他の多数の法案と同じく)予算と一体化して審議される「予算関連法案(omnibus budget act)」に含めて取り扱われた。  当初、FCCによる周波数オークションの提案においては、政府収入の増大はいわば副産物であり、直接の目的は周波数資源の効率的配分、とりわけ配分時間の短縮と手間の節約にあった。しかしながら、1980年代初頭のレーガン政権発足当初から、1990年代中葉のクリントン政権(第1期)に到るまで、米国政府の重要課題の一つは連邦予算赤字の削減であった。周波数オークションは、連邦政府収入の増大をもたらすという理由で、大統領府予算局、財務省、議会の予算委員会等から歓迎されたのである。場合によっては、周波数オークションの第一目的が連邦政府収入の増大にあると考えられたこともあり、この要因はオークション制度の実現を推進する方向に作用した(ただし、後に述べるように、1996・1997年の予算審議プロセスにおいて、同じ要因が「周波数の叩き売り」と呼ばれるマイナスの結果をもたらしかねない立法を生むことにもなった)。 4. 議会審議の経過(前半:1987−90年)  当初1987年に周波数オークションが議会に提案され、上下両院の委員会(下院エネルギー・商務委員会、上院商務委員会)に付託された際には、関係議員の大部分が反対意見を表明した。John Dingell下院エネルギー・商務委員長は、周波数オークションは、連邦政府の収入を増大させるかもしれないが、周波数割当を支払い能力・資産能力によって決めることになり、周波数を必要とする事業者に割当をおこなうという従来方針の変更を意味することになるとして反対した。オークションによって負担増加となる通信事業者や、同じくオークションによる通信料上昇から負担が増大すると考えた消費者団体も、一様に反対意見を提出した。  1988年になっても、下院Edward J. Markey通信小委員長はオークションに対して強い抵抗感を示していた。わずかに下院Don Ritter議員が賛成意見を表明していた。他方上院においては、上院Earnest F. Holings商務委員長が反対意見、Daniel K. Inouye通信小委員長が消極的な賛成意見であった。  これらに対し、FCCおよび政府行政側の商務省・NTIAの担当官等は、議会において粘り強い説明・説得を繰り返し、上下両院の委員会委員から賛成意見を得るよう努力を重ねた。しかしながら、第101議会末の状態では、上下両院の本会議はもとより、委員会においても、オークション制度への賛成を得ることはまだ程遠い状態であった。  1989年に入って第102議会が開始されると、上下両院の委員会で、周波数問題を本格的に検討しようとする動きが生じはじめた。両委員会では、無差別選択による周波数割当の現状、周波数資源全体の利用の現状や、新世代移動通信に関する将来の方向等のテーマに関して公聴会を開き、FCC、NTIAおよび民間事業者から情報を収集することを試みた。とりわけ、下院エネルギー・商務委員会は、周波数資源全体の利用実態が不明確であることを批判し、商務省・NTIAに対して、周波数の使用・管理の現状に関する根本的な調査を実施し、その結果を議会に報告するよう勧告した(*23)。  1989年末に到ると、PCSに利用する目的で、政府保有(NTIA所管)の周波数200MHzをFCC管轄に移管する「周波数移管(共用)法案」が提出され、公聴会においてFCC、NTIA側の意見が述べられた。周波数移管の提案自体に対して、民間事業者はすべて賛成意見であり、一部の政府部門を除いて反対者は皆無に近く、議員の同意を得ることは容易であった。しかしながら、オークション提案との関係から、多数の議論が出て移管法案の審議も停滞した。  当初、移管提案自体はオークション提案と切り離して取り扱われたが、前者の説明の中で、FCCのA. C. Sikes委員長およびNTIAのJ. Obuchowski長官は、それぞれ移管対象となる周波数をオークション制度によって割り当てる必要を述べ、「周波数以外の国有財産で、民間に無料で割り当てられているものは存在しない」旨を指摘した。他方、1989年から翌90年にかけ、FCCにおいてPCS検討、創始者優遇制度の検討が進み、新世代の移動通信サービスの実現に向けての機運が少しずつ盛り上げられていった。  1990年6月に到り、下院商務委員会は、「周波数移管法案」、すなわち2GHz帯で200MHz程度の周波数をNTIA管轄からFCC管轄に移す法案を可決した。下院本会議も、同8月にこれを可決した。同法案には、元来、周波数オークション禁止条項が含まれていたが、委員会における検討のプロセスで、同条項は修正・削除された。しかしながら、これに対して上院委員会は賛成の意向を示さず、周波数オークションの実現は翌1991年以降の検討後半期に持ち越されることになった。 5. 議会審議の経過(後半:1991−93年)  オークション制度の骨組みは、1991−92年の第103議会で作られた。まず1991年初頭に、Bush大統領は、『大統領経済白書』の中で、周波数オークション制度の早期確立が望ましいことを述べ、この問題に関する態度を明らかにした。同白書は、オークションの意義が競争の促進にあり、電波の使用者とその価値の決定を市場メカニズムに委ねるとき、その使用効率が高められることを主張している。1959年におけるR. Coase教授の主張が、30年余を経て、ようやく大統領によって受け入れられたことになる。  1991年2月末になると、下院通信小委員会で、前議会において可決された「周波数の共用」法案が再提出され、その検討が始まった。E. J. Markey小委員長は、この時点では、周波数の共用とオークションは別個の問題であり、両者は切り離して検討されるべきと述べていた。これに対し、FCCのA. C. Sikes委員長、NTIAのObuchowski副長官は、同委員会においてオークションの必要を繰り返し主張し、オークションを伴わない周波数の共用には反対する旨を述べた。  1991年4月に入ると、上院商務委員会と同通信小委員会でも、周波数共用法案の検討が始まった。5月に同商務委員会は、周波数共用法案を可決し、本会議に送付した。オークションについては、通信小委員会のD. K. Inouye委員長が近く公聴会を開く旨を述べたが、7月に入ると、T. Stevens上院議員が、共用法案にオークション条項を入れる修正案を提出した。FCCでは、この時期に進行しつつあったセルラー電話用周波数のくじ引き割当において、1社で1万件を超える申請をおこなうapplication millsが絶えない事実を指摘し、オークションの必要を強く主張した。7月に入り、上院商務委員会は「周波数共用法案」を可決、本会議に送付した。他方、下院でも、同趣旨の法案が本会議で可決された。これらに対し、大統領府においては、オークション条項を伴わない共用法案が送られてきても、これに対し拒否権を発動する旨、明言した。これらの議論の結果、周波数共用とオークション提案は、同年の予算審議終了には間に合わず、翌年に向けて検討が続けられることになった。  1991年秋の10月に入ると、上下両院の通信小委員会で、「周波数オークション法案」に対する公聴会が相次いで開かれた。下院小委員会のE. J. Markey委員長は、元来オークションに積極的ではなく、10月上旬に開かれた同公聴会の議長をJ. Cooper議員と交代するほどであった。同公聴会では、周波数オークションを実施した場合、資金力を持つ大規模事業者が周波数を独占するのではないかという問題(deep pockets問題)、非都市地域への周波数をどのように確保するかの問題等が議論された。本公聴会では、共和党の有力議員Thomas J. Bliley議員がオークションに賛成する旨の意向を示し、オークションの実現に向けて強い影響を与えた。  10月下旬には、上院通信小委員会でオークション問題に関する公聴会が開かれ、下院と同様の議論が提示された。FCCのA. C. Sikes委員長は、オークション一般について賛成意見を提示したが、しかしながら、放送事業については慎重な態度を取り、ATV(DTV)用周波数については、(放送事業者がすでに放送用周波数を使用中であることから)オークションを適用するべきではないことを主張した。また、周波数を使用する放送、教育放送、小規模電話会社等の事業者側は、オークションに反対する意見を述べたが、長距離事業者であるAT&Tは、オークションを含むStevens法案を支持する意見を表明した。  1992年に入り、FCCは同年夏までにオークション法案を成立させることを図り、その対象として、2GHz帯220MHzの周波数を、PCSをはじめとする新通信技術用に配分するための検討を開始した。3月に入ると、改めて上下両院で、周波数共用法案とオークション法案が提案された。4月に入り、上院商務委員会E. F. Holings委員長は、共用予定の2GHz帯の周波数を安全目的のためにすでに使用している電力・鉄道等の事業者の保護が不十分であることを警告する旨の書簡を、Sikes委員長に送った。本問題に関するHolings委員長の行動は、FCC等によるオークション実現に対し、厳しい制約となった。  1992年6月に入り、上院通信小委員会で、周波数移管について公聴会が開かれた。また下院においては、通信小委員会のE. J. Markey委員長が、NTIAに対し、周波数使用の現状を説明するように求めた。  8月に入っても、連邦予算案作成について、2GHz帯マイクロウェーブ既存使用事業者の保護に関して、上院Holings委員長と下院商務委員会のJ. Dingell委員長の間に対立が残ったままであった。ところが、9月に入り、下院通信小委員会のE. J. Markey委員長が、周波数オークション法案の通過を事実上停止させる爆弾を投じた。Markey委員長は、NTIAに対し、その「周波数オークション研究計画」用の資金として、産業界から援助を求めていることを問題とし、これを「議会の同意を経由しない事実上の租税徴収」として、その違法性に対する責任を追求した。このことによって、1992年中の周波数共用・オークション法案の通過は、事実上困難となった。NTIAのG. F. Chapados副長官は、Markey委員長に書簡を送り、民間事業者からの資金協力を断念する旨を述べた。Markey委員長は、年来オークション提案に対して懐疑的であったが、本件が同委員長による同法案への「最後の抵抗」になった。  1993年の第104議会に入り、FCCは同年中に周波数共用・オークション法案を成立させ、PCSの展開を開始するため、具体的な検討を開始した。1月中旬に、FCCのSikes委員長は、Reed E. Hundt 委員長に交代した。2月に入ると、上院において周波数の共用とオークションを含む「1993年新通信技術法(S.335)」が提出された。同法案では、当初遠慮深く30MHz分だけの実験オークションが提案されていたが、後に修正されて、200MHzになった。同法案は、D. K. Inouye通信小委員長、Ted Stevens議員などの商務委員会の中心メンバーによって提案されたものである。また、同2月に、下院でも、John Dingellエネルギー・商務委員長と、E. J. Markey通信小委員長によってオークションを含まない「周波数共用法案(HR707)」が提案・可決され、同月末に本会議に送られた。その際にJ. Dingell委員長は、下院委員会でオークション条項を近く審議する見込みであることを述べた。  2月中旬には、Clinton新大統領が『一般教書』の中で、周波数の共用とオークションの両者が望ましいことを述べた。  3月中旬に上院通信小委員会で、周波数共用・オークション法案(S.335)について公聴会か開かれ、大部分の出席者が賛成意見を述べた。そしてInouye小委員長は、オークションに関する合意が急速に形成されつつある旨を述べた。  1993年5月初めに、下院通信小委員会と商務委員会は、「1993年周波数使用免許制度改革法案」を可決し、本会議に送付した。同法案は、FCCに対して、オークション制度の採用を義務づけ、そのための規則制定を要請するものである。ただし、周波数の(商用目的でない)私的使用や、放送事業のように直接の収入を伴わない場合には、オークションを実施しない。また、オークションの採用は、周波数の効率的使用にあり、政府収入増大の目的ではないことなどを含んでいる。同法案は、下院本会議で「財政調整法」の一部として審議されることになる。5月下旬に、下院予算委員会は、同法案を含む「1993年包括財政調整法案」を本会議に報告した。  上院商業・科学・交通委員会は、これに対し、Inouye委員長提案のS.335を共用周波数を200MHzまで認めた上で可決し、本会議に送付した。ただし、本法案では、非都市地域における周波数の割当についても考慮が払われており、この点で下院法案と異なっていた。6月下旬に、S.335は上院本会議で一部修正の上可決され、「包括財政調整法案」に包含されることになった。6月28日には、Al Gore上院議長の下で同調整法が1票差で可決・成立した。  上下両院の「包括財政調整法案(HR2264)」は、8月5日になって両院協議会で合意された。同法には、「周波数の共有」と「周波数オークションの採用」に関する1934年通信法改正条項が含まれている。同調整法(HR2264)は、200MHz分の周波数を政府使用から企業使用目的に移転すること、同周波数のオークションによる収入は国庫に入ること、オークションにおいては、FCCが小規模事業者、マイノリティ・女性所有の事業者にも周波数が配分されるよう配慮するべきことを定めている。HR2264に対し、下院は2票差、上院は1票差でこれを可決した。そして、8月6日にClinton大統領が同法案に署名して、HR2264は、1993年Public Law 103-66として成立することになった。この結果、通信法309条に(j)項が追加され、次節で述べるように、「周波数オークション制度」の骨子が形作られたのである。 C. 1993年通信法改正:「オークション制度の基本」  周波数オークション制度の基本は、1993年に通信法第309条「免許申請に関する措置:免許の様式および免許に付せられるべき条件」の第(j)項「競争入札の適用」に定められている。同項目は、1983年に加えられた第(i)項「無差別選択の適用」の内容を実質的に置き換えるものであり、従来無差別選択方式に拠っていた周波数割当のほとんどすべてに対し、競争入札方式を適用するものである。通信法309条(j)項の大要、およびこれに付随するNTIA法改正内容の大要は、以下の通りである。 1. FCCに与えられる権限  通信法309条(j)項により、FCCは、下記aおよびbの条件を満たす周波数の割当について、競争入札(オークション)方式を適用して免許を発行する権限が与えられる。 a. 初期免許(initial license)であること  本条件により、オークション制度が適用されるのは、初期免許、すなわち、FCCがある周波数帯を特定し、使用目的・条件等を定めて、その使用免許を最初に発行する際に限られることになった。したがって、本条項の発効日以前に免許が発行されている周波数の割当・変更・更新等については、オークション制度は適用されない。また、本条項により、オークションによって一度免許を獲得すれば、免許期限終了後に更新手続きをおこなう際にも、オークションは適用されないのである。これは、本オークション制度の根幹を決める原則であり、直接には下記の2項目の意味を持っている。  第一に、すでに保有している免許に対してオークションを適用しないことは、同免許保有者が使用している周波数を、今後そのまま続けて、市場価値に相当する料金を徴収することなく、いわば半永久的に使用を認めることを意味する(ただし、名目的な免許更新申請料や、名目的使用料は別である)。もとより、免許保有者が更新申請時に別に定められる資格を失えば、同一申請者による免許更新は認められず、したがって、免許に付随する周波数の使用権も消滅することになる。しかしながら、その場合には、免許保有者は、周波数「使用権」の資格を有する他者に転売することができる。したがって、実際には、FCCによる周波数の分配(allocations)が続くかぎり、その周波数に対する事実上の「所有権・永久使用権」が免許保有者に認められたことになる。もとより、これは、1993年以前において、そのような「周波数使用権」の売買が認められ、実際に市場においておこなわれていた事実を追認するものである。  第二に、上記と同様に、オークションによって免許を取得し、周波数使用権を入手した場合も、その資格が「半永久的に」続くことを意味する。すなわち、本条項による「オークション」は、経済的には周波数の「所有権」自体を対象としている。経済学の用語でいえば、それは「周波数資本ストック」のオークションであり、「同資本サービス」のオークションではない。当然のことながら、「周波数資本」の価値は、それを保有・使用することから得られる将来のすべての収益の現在価値の合計に等しい。将来の「すべての」収益の現在価値であるから、その金額はきわめて高額になる可能性があり、また、「将来の」収益を基盤とすることから、それは同時に大きな不確実性・リスクをともなう金額である。  なお、法律規定上は、将来において、もしFCCが周波数の使用目的・条件等を変更し、その分配(allocations)内容を変更する場合に、免許保有者の「永久使用権」がどのような影響を受けるかが問題になる。法律規定上は、FCCは周波数の分配を変更する権限を持っており、分配内容を一新して新たに免許を発行する場合には、免許更新にはならないから、(そしてまた301条によって周波数への私的所有権が否定されているから)免許保有者の「使用権」は消滅する、という解釈が成立し得る。しかしながら、他方において、オークションによって、事実上、半永久的な「使用権」に対する代価を支払ったのであるから、それに対する権利の保護は当然考慮されるべきであるとする主張も成立し得る。近い将来において、この点をめぐる紛議が生ずる可能性は小さいであろう。しかしながら、遠い将来までを含めれば、災害・戦争等の理由によって、一旦オークションによって割り当てた周波数を公的使用目的に「回収」する必要が生じるかもしれない。また、技術進歩のいかんによっては、周波数の「分配方式」が著しく時代遅れになり、免許保有者の利益に反する「再分配(re-allocations)」が強く望まれる事態が生ずるかもしれない。これらの場合について、現行通信法は考慮を払っていないので、もしそのような事態が生ずれば、将来同法を改正しないかぎり、司法判断によって決着をつける他はないであろう。 b. 申請免許が相互に排他的(mutually exclusive)であること  この規定は、免許申請者が一事業者である場合には、(資格条件が満たされるかぎり)免許はそのまま交付され、オークションは実施されないことを意味する。つまり、その場合の周波数の「永久使用権」の代価はゼロになる。経済学の見地から言えば、本条件はオークションによって徴収する金額が、「周波数資源の市場」における需要・供給の均衡価格であることを意味する。言い換えれば、周波数の独占的供給者(この場合はFCC)が政府収入を増大させることを目的とする価格を徴収することを否定している。すなわち、オークション制度は、競争市場における均衡状態を実現することを目的としていることになる。  もし、周波数割当の代価徴収の目的が、競争市場の均衡状態の実現ではなく、政府収入の最大化にあれば、相互に排他的な免許申請が存在せず、一事業者のみの免許申請に対しても、「使用料」を徴収するべきである。その場合に、徴収できる最大金額は、周波数に対する免許申請者の需要価格(申請者が支払う用意のある最高価格)である。本条件は、FCCが免許申請者の周波数に対する「需要価格」を収受することを禁止していると解することができる。 c. 免許保有者が、免許周波数を利用して加入者にサービスを営利目的で供給し、加入者がその対価を免許保有者に支払う場合であること。サービス供給は、免許保有者が免許周波数を利用して加入者が通信信号を受信できるようにすること、あるいは、加入者が受信信号を直接に送信することができるようにすること、のいずれかあるいは双方である。  本条件は、オークション制度を適用する免許の範囲を大幅に制限している。すなわち、本条件は、オークションの適用を、周波数を使用する有料通信(受信あるいは送信、あるいはその両者)サービスについて、その加入者から営利目的で通信サービスの対価を受け取る場合に限定している。その結果、まず、営利目的であると非営利目的であるとを問わず、自営のための周波数使用免許には適用されないことになる。とりわけ、警察・消防・鉄道・船舶・航空機・送配電などの業務の管理、安全維持等のために割り当てられている膨大な量の周波数については、本オークション制度は適用されない。たとえばタクシーの「dispatching業務」に無線通信が使用されるが、それがタクシー会社の自営の場合には、そのための周波数にオークションは適用されない。しかしながら、同一の(通信)業務が外部化される場合、すなわち、同一の業務が別の(通信)事業者によって供給される場合には、本条項によってオークションが適用されることになる。  実際には、その場合でもいくつかの異なったケースが考えられる。第一に、タクシー会社が通信事業者の移動電話サービスを(一般の加入者と同様に)使用する場合には、もちろんオークション適用範囲に入る。次に、タクシー会社が移動電話会社と「専用線型契約」を結んで利用する場合や、タクシー業務への使用に、大幅割引を受ける場合についても、本条項にしたがえばオークションの適用を受けることになるだろう。さらに、それよりも、より「自家用」に近いケースとして、たとえば電話事業者がタクシー会社と共同で「dispatching業務用子会社」を設立し、同業務をタクシー会社に販売する場合は、どうであろうか。この場合のタクシー会社は、「加入者」としての性質はほとんど持たなくなるが、しかし、本309条項を拡張解釈すれば、やはりオークションの適用があり得る。最後に上記子会社がタクシー会社に吸収合併された場合には、dispatching業務用周波数は、形式上もタクシー会社の自家使用となるため、オークションは適用されないであろう。通信法309条の規定は、「加入者から提供サービスに対する対価を受け取る(receiving compensation from subscribers in return for)」とのみ書かれており、周波数を提供する通信事業が不特定多数の顧客を加入者として認める事業(common carrier事業)であるか否かを特定していないので、上記のようなボーダーライン・ケースが生ずるのである。  実際には、周波数の割当は、(次節で説明するように)FCCによる割当周波数帯ごとの規則制定を通じて実施されるので、上記ボーダーライン・ケースの処理は、規則制定の中で決定されることになる。もとより原理的には、個々の事業者がFCCに対して「規則内容が通信法の規定に違反している」という理由で争うことは可能である。たとえば、直接衛星放送サービス(DBS)用の周波数については、視聴料をチャネルごと、あるいは番組ごとに視聴者から徴収する分については、本条の条件を満たすが、コマーシャル付の(無料)放送については、地上放送と同様に、本条の適用範囲には入らない。実際には、DBS用の周波数はすべて(衛星軌道の使用権利と併せて)オークションによって割り当てられている。  第二に、本条件は、(地上)放送事業に使用される周波数割当へのオークションの適用を排除している。米国の地上放送は、これまですべてコマーシャル方式による民営事業であり、放送サービスの受益者すなわち視聴者が放送事業者に対して視聴料を支払うケースはなかった。放送事業者は、コマーシャル収入によってそのコストをまかなっているわけである。もし本条件が米国以外の国で適用されることになれば、有料放送をどのように扱うかについて問題が生じたであろう。(衛星放送については、前記のように、すべてオークション方式によって周波数が割り当てられるように、FCCが規則を制定・実行している。)  本条件は、議会における周波数オークション制度導入への反対意見に対して、賛成側と政府当局(FCCを含む)が妥協した結果の産物である。周波数オークションに対する反対意見は、とくに既存放送事業者において強かった。またもとより周波数を「自家用」に使っている公益事業・ネットワーク事業においても、当然のことながら、反対意見が強かった。これらの反対意見との妥協をはかり、実質的にはPCSをはじめとする新規事業のみにオークション適用をかぎることによって、まず「実績・経験」を積み、その後にさらに放送事業を含む広い範囲にオークション導入を意図したものと考えられる。(後に述べるように、PCS、DBS用周波数のオークションはおおむね成功を収め、1997年夏に、議会は周波数使用免許に関する通信法規定を再度改訂し、放送用周波数を含む広い範囲の電波について、オークションの導入を決定した。)  このように議会が周波数使用に対するオークションを段階的に導入せざるを得なかったのは、「周波数の公共性」を重んじる従来からの制度に対する支持が強かったからであろう。周波数資源を社会全体の共用財産として取り扱い、これを私有財産的に事業者等に「譲渡」することには大きな抵抗があった。さらにこれに加えて、周波数をすでに割り当てられている既存事業者は、自己の経済的利害からも周波数へのオークション適用に反対した。それは、たとえば周波数の使用目的が変更され、その再分配がおこなわれる場合に、従来は無料で使用できた周波数に対して、多額の代価を支払わなければならないことを意味するからであった。 2. オークションの目的・基準  通信法309条(j)項は、FCCに周波数オークション実施の権限を上記の条件の下に与えている。実際にオークションを実施するためには、同条項の規定をより詳細に具体化し、実施手続きを定めた「規則」が必要になる。同条項はFCCに対して、オークション実施のための「規則制定(Rulemaking)」の義務を課している。このことによって、FCCはオークション実施の権限を与えられると同時に、その実施義務も負うことになった。具体的な規則設定のために同条項が定めている目的・基準は、下記の通りである。 a. オークション(競争入札)の用語から当然意味されることであるが、FCCがオークションによって周波数の経済価値を決定し、周波数免許の発行と引き換えに同経済価値に当たる金額を免許保有者から受け取り、これを国庫(財務省)に納入するべきことを定めている。しかしながら、FCCには、オークション実施のための諸費用を同収入から直接に支払うことが認められており、したがって国庫に納入されるべき金額は、オークション実施から生ずる「純収入」ということになる。本規定は、オークションからの粗収入と費用をそれぞれ別個に連邦予算の一部として計上し、議会の承認を得る必要がないことを意味し、FCCのオークション実施業務を大幅に簡素化すると考えられる。しかし、もとより、費用支出の正当化や、記録の保持・公開等に関して、連邦予算下の支出と同様の規則に服するべきことは当然である。 b. 次に通信法309条(j)項は、周波数オークションの実施から生じ得る不当な利益を排除するべきことを定めている。具体的には、オークションのプロセスにおいて生じ得るさまざまな不正行為を防止する手段を講じること、オークションの結果入手した周波数免許を他者に譲渡する場合の制限事項、情報開示等について定めており、その具体的内容は、規則によって設定されるべきであるとしている。  また、同条項は、周波数オークションのための規則制定において、オークション実施から得られる「連邦収入」の最大化を目的とするべきではないことを定めている。すなわち、オークションの実施にあたり、FCCは通信法303条の定める「公共の便宜・利益あるいは必要(public convenience, interest, or necessity)」にしたがって周波数オークションを実施するべきであり、その目的の中には連邦収入の増大は含まれていないことを明示している。  本規定は、具体的には、(前出の相互排他性の条件と同様に)FCCが周波数を独占的に供給することから生じる「独占利潤」を国庫にもたらすことを禁止していると解することができる。したがって、もしある周波数配分に対する免許申請が単一事業者だけで相互排他性が存在しない場合には、オークションは実施せずに、(そのかぎりでは無料で)免許を発行しなければならない。また、実際にオークションを実施した結果、入札価格が予想よりも低すぎるなどの理由で、あるいはそのような結果を防止する目的で、オークション制度を構築するように規則制定をしてはならないことを意味する(*24)。 3. オークション方式設定における特別の配慮  通信法309条(j)項は、オークションが目指す一般的な目的・基準に加え、若干の項目について特別の配慮を加えるべきことを定めている。その多くは、議会による審議のプロセスで、議会内外から寄せられた批判・注文等に応えて規定されたものである。実際には、これらの措置は、オークションによって実現されるべき「市場メカニズム」の機能に制限を加えることを意味し、後に述べるように、実際のオークションにおいていくつかの問題を生じた。 a. 応札者の立場による優遇措置  通信法309条(j)項は、周波数オークションの結果、大都市の大規模事業者が強大な経済力を発揮して、大部分の周波数を入手してしまい、経済力の弱い事業者が周波数の使用から排除されることのないようにオークション制度を構築するべきことを定めている。この点は、議会での審議プロセスの中で、オークション制度の採用に対してそれらの危惧から生ずる反対意見が出され、それを考慮して取り入れられたものである。具体的には、同条項は、オークションにおいて小規模企業(small business)、少数民族グループの所有になる企業(minorities)、非都市地域の電話会社(rural telephone companies)、および女性所有の企業(women)への免許発出を考慮するべきこと、すなわち上記の免許申請者を何らかの方式で優遇するべきことを定めている。(これらの4グループは、その頭文字をとってSWMRと呼ばれる。あるいは指定優遇事業者(designated entities)と呼ばれる。) b. 次に同条項は、技術進歩とそれによる新しいサービスの創出を促進するために、新技術の開発者に優先的に免許を与えることを認めている。しかしながら、この場合、新技術の開発者に対して、周波数を無料で与えることは禁止し、(本項目制定以前にFCCが規則制定を通じて保証した分を除き(*25))新技術の開発者に対しては、周波数の市場価値を実質的に15%まで減じた金額を対価として免許を与えることを認めている。本条項の審議中に、FCCは新技術の創出者に対する優遇措置を定める規則制定を進行させたが、実際にPCSに使用される周波数について高額の入札が予想され、新技術の開発者に対してそのような周波数の免許を実質無料で与えることに対し、多方面から異論が生じた。議会はこれを考慮し、上記「15%条項」を定めたものである。 4. オークション制度に関する規則制定に関する細目 a. FCCが、周波数を帯域別・地域別に区分してその分配(allocations)を定め、オークションにかけるべきことを定めている。 b. FCCが規則制定にあたり、複数の代替的なオークション方式を考案し、それらを比較検討するべきことを定めている。 c. 周波数オークションへの参加者に対して、その参加資格、免許申請資格を明示することを定めている。 d. オークションにおける入札金額については、入札保証金、落札頭金、そして落札金額のそれぞれについて複数の方法を検討した上で支払い方式を定めるべきこと、またその納入については、一時払い、保証付き分割払い、ロイヤリティー付支払いを含む複数の方式を検討すべきことを定めている。 e. FCCに対し、オークションの結果入札者が免許を与えられた後の事業開始に関する条件を設定するべきことを定め、その中には、事業開始期限、事業開始義務の不履行時のペナルティの明示を含ませている。また、オークションによって入手した周波数の死蔵防止の方法、利潤機会の薄い非都市地域での事業開始を促進するべき方法を決めることを定めている。 5. オークション制度の期限  通信法309条(j)項がFCCに与えるオークションの権限は、期限付きになっている。同条項は、まず、FCCが1997年7月末までにオークションの実施結果に関する報告書を議会に提出するべきことを命じている。同報告書は、オークションの内容とその結果を評価し、必要があれば望ましい法律改正について勧告をおこなうことを含んでいる。  さらに、同条項は、新たに何らかの措置がとられないかぎり、オークション実施に関するFCCの権限が1998年9月末に消滅することを定めている。  これらの規定は、いずれも、議会がオークション実施に関して(その賛成派においても)若干の危惧を抱いており、オークションが実際に円滑・有効に進行しない可能性を考慮していたことを示している。もしもオークションが問題を引き起し、たとえば、多数の訴訟を生じて実際の進行が阻害された場合、議会・FCCが何もしなければ、オークション実施の権限は1998年9月末に消滅し、その後は従来の無差別選択に戻ることになるわけである。  もとより、本条項は、FCCに対して、良好なオークション制度を構築し、1998年9月末以降においても、議会がオークション制度の継続に同意できるような結果を示すよう求めている。オークション制度は、比較聴聞・無差別選択方式から生ずる業務の困難を解決するために、FCCから提案されたものである。議会はこれに対し、従来から保持されてきた「国民共通財産としての周波数資源」の考え方と矛盾するにもかかわらず、FCCの困難を認め、オークション制度という「解決策」を導入した。これを実際に育て上げ、合理的かつ有効な周波数割当制度を構築することはFCCの義務である。オークション制度に期限を付したことによって、議会はFCCが良好なオークション制度を構築するインセンティブを与えたことになる(*26)。 6. 政府保有周波数の民間使用への移転(周波数の「共用」)  1993年夏の通信法改正に加え、これと同時に改正されたNTIA法第B編によって、NTIAおよびFCCは、従来政府使用となっていた周波数の一部を民間使用に移転するべきことを義務づけられた。具体的には、まずFCCは、NTIA等の報告によって供給される政府使用の周波数について、これを民間使用に振り向け、そのための免許等を発出する義務を負う。  これに対応し、NTIAは、同法改正後、18カ月以内に大統領と議会に報告書を提出し、政府使用の周波数の中から、民間使用に移管できる部分を指定する。具体的には、5GHz以下の周波数帯で、合計20MHz分、そしてそのうち、3GHz以下の周波数帯で、100MHz以上の分を指定しなければならない。また、そのうち、5GHz以下の50MHz(3GHz以下の25MHzを含む)分の周波数は、報告書作成後、ただちに民間使用に移管するものとする(NTIA法113条(47USC923)(a)および(e))。  また、FCCは、同法改正後18カ月以内に、上記報告後、ただちに民間に移管されるべき周波数の配分について規則制定を完成し、また、同報告書において、民間に移管される周波数の配分すべてについて、同報告の受領後1年以内に同周波数使用計画を大統領および議会に提出しなければならない旨を定めている。  これらの規定は、実際にPCSを主とする新通信サービスを実現させるための措置であって、1993年の通信法等の改正に向けて議会が審議をおこなっていた期間中に、「周波数共用法案」等の名称で提案されていたものである。この措置によって、通信法309条(j)項によって制度が作られた周波数オークションは、同法改正後18カ月以内に最初のオークションが実施されることになった(*27)。 (*1) 以下、本節の内容は主としてCoase [1959]による。 (*2) 1922年3月1日の時点で、米国全体で60放送局が存在したが、同年11月1日には、564放送局に増加したと言われる(同書、p.4、註6)。 (*3) これには海軍を主とする軍部からの要請が働いたとのことである。 (*4) 本語句(あるいはその変形、一部)は、通信法のいたるところで使用され、FCCによる広汎・強力な規制を正当化するための手段となった(たとえば、現行法の309条、214条等を参照)。 (*5) 現行の「1934年通信法(Communications Act of 1934)」の第3編(Title III)が、「無線関係規定(Provisions Relating to Radio)」に宛てられている。これは「1927年無線法(Radio Act of 1927)」を継承・発展させたものであり、また同1927年法は、当初の1912年法を継承していた(47USCA§51、§81、§301のHistorical Notes)。1912年法、1927年法の痕跡が、それぞれ、「合衆国法典47巻(United States Code, Title 47: 47USC)」の第3章、第4章として残っている。また、現行1934年法は、同巻の第5章として収載されている。47USCの章編成は下記のとおりである:第1章電報、第2章海底ケーブル、第3章無線通信(1912年通信法)(廃止)、第4章1927年無線法(廃止)、第5章有線・無線通信(1934年通信法)、第6章通信衛星システム(1962年通信衛星法)、第7章選挙用の通信(廃止)、第8章NTIA、第9章ディジタル通信等の傍受。(ついでながら、1934年法の第1条は47USCでは第151条になっており、前者の第2編以降で、1934年法と47USCの条文番号呼称が一致している。それは、47USCの第150条までの条文番号呼称が、47USCの第1〜4章に配置されていたからである。これらの呼称の対応関係から、法律制定・拡張・改廃のプロセスと、その結果の組織化(法典化、codification)の手法を知ることができる。ただし、条文番号呼称の対応がとられているのは、47USCの主要部分である同第5章だけであり、他の章については、当初から対応はとられていない。) (*6) FCC が民間による周波数の使用を管轄し、政府機関等による公的使用の管理は商務省の手に残った(今日では、商務省下のNTIAが担当している)。 (*7) 「1927年法」の成立に到るまでの期間、海軍は軍事的理由から、電波の公的管理が必要であることを強く主張し、同法成立を促進した。 (*8) ただし実際は、FCCと交通警察の役割には異なる点がある。一般道路が使用者によって一時的に占拠される(time-sharing use)のに対し、周波数は同一区分が単一事業者によって継続的に占拠・使用される。そして、この事実から、周波数の他事業者への譲渡(再販売)、実質上の「排他的使用権」の成立、オークションによる所有権・使用権の配分というように制度の変遷が生じたのである。(これに対し、一般道路の「私有財産化」への傾向は生じなかったことに注意されたい。)なお、周波数を、一般道路あるいは海洋のようにtime-sharing方式で使用するべきであるとする主張もある(後述III.A節を参照)。その場合には、一般道路使用と周波数使用との間にアナロジーが成立し、周波数管理当局の役割は、交通警察のそれと類似してくる。 (*9) 放送番組内容の中立性を確保するため、FCCは、周波数使用の「交通整理」に加え、その内容自体についても規制を加えた。FCCは、その法的根拠を前述のPINC条項に求めている。しかしながら、放送番組内容の規制は米国憲法修正第1条(言論の自由の保障)と抵触し、またPINC条項も抽象的規定にとどまっていたため、FCCと放送事業者の間に緊張を生じ、係争・訴訟が多かった。この問題は、「放送番組内容の中立性」と「(放送を含む一般的な)言論の自由」という2個の原理の矛盾、すなわち法規定自体の矛盾から生じているため、その根本的解決は不可能で、ケースごとに対応する他はない。そのため、両者間の対立は今日に到るまで続き、多数の紛争・論議を呼んでいる。 (*10) もとより実際には、免許更新について、とりわけ放送事業において、多数の訴訟ケースがあり、既存免許保有者の更新申請に対して、新規事業者あるいは第三者が法廷で争うことがしばしばであった。また、本文で指定した法律規定自体が持っている矛盾を反映して、免許更新に関する判例も不安定であるように見える。まず、(1)既存免許と経済的に競合する新免許(大部分のケースは、新放送局の参入)の申請に対し、既存免許保有者が新免許申請を許可しないようFCCに申立をする途が開かれていることを指摘したい(309条(d) (e)項)。(2)既存事業者に認められる上記申立の理由として、「同事業者の経済的損失から生ずる同事業者によるPINCの減少」を認めた判例がある(WLVA, Inc. vs FCC, 1972, 148U.S.App.DC262)。(3)また他方では、「免許更新申請」に対して第三者が異議を申し立てる途も開かれている(同上)が、この場合の申立理由としては、「自己が受ける個別の(経済的な、あるいは他の)損害だけでなく、「社会全体に与えるマイナスの影響(すなわちPINCの減少)」が示されなければならない」とする判決がある(Office of Communication of United Church of Christ v. FCC, 1966, 123U.S.App.DC328)。すなわち、免許更新申請の却下には、社会的見地からの強い理由づけが必要であるとされ、これが既存免許の更新をバックアップしている。(4)通信法301条の規定に沿う判例も多いようだが、その大部分は、「放送免許の発出自体は、周波数に対する何らの既得権益を与えるものではない(Ashbacker Radio Corp. vs. FCC, 1945, 326U.S.327)。」「本規定(307条)は、商業放送免許を、現に免許を保有していること自体(incumbency per se)に基づいて与えることを否定するものである(Central Florida Enterprise, Inc. vs. FCC, 1978, 194U.S.App.DC118, 441U.S.957)。」など、一般的叙述に留まっている。 (*11) Coase [1959]、p.15、註31。 (*12) 同書、pp.23-24。 (*13) R. Coase教授は、すでに戦前の早い時期に、経済組織論や外部性の理論で独創的な貢献をおこなっており、今日においても、同教授は、経済学の第一線の研究活動に強い影響を与えている。周波数配分の経済分析を取り扱った上記論文は、Coase教授の主要著作の中には入れられていないが、同論文は主要著作論文と同じく、深さと広さに加え、明確な叙述という同教授著作の特色を示している。 (*14) もとよりこの事実は、周波数だけでなく、一般の財・資源にあてはまる(今日の「ミクロ経済理論・価格理論」の中心部分である)。「市場原理の採用による経済の活性化」「社会主義計画経済体制に対する市場経済体制の優位」「官僚指導による経済運営の非効率」など、現在では広く受け入れられている認識も、同じ理由によって説明できるのである。 (*15) 鬼木[1996]参照。 (*16) 第二次大戦後、日本が連合軍の占領下に置かれた時期に、占領軍総司令部のスタッフは、日本にも電波使用に関する申請審理手続きと審理機関を設置することを試みた。その結果が、「電波監理委員会(1950-52年)」と、そこでの審理のための電波法規定である。同委員会は、日本の国情に合わないとして1952年に廃止された(林[1996]、鬼木他[1997]、pp.76-77(兼坂発言部分)を参照)が、電波法中の審理規定については、そのかなりの部分が現在の「電波法」に受け継がれている(同法第7章および7章の2、および「電波監理審議会がおこなう審理および意見の聴取に関する規則」等を参照)。その結果、電波法中の審理手続規定は、通信を取り扱う「電気通信事業法」の規定と比較して、現在でもはるかに詳細・豊富である。 (*17) FCCは、当初申請資格を調査し、「くじ引き」対象を限定していたが、応募者多数のため、途中で限定を打ち切った。そのため、申請者数はさらに増加した。 (*18) ただし、これは平時において状況が変わらない場合のことである。戦争・災害などの「非常時」が生じ、あるいは技術進歩による新しい可能性が開けた結果、オークションによって免許を与えた周波数を公共目的に使用する強い必要が生じたとき、これをどのように解決するかの問題が残っている。わが国で、土地「収用」の際に生ずる問題と似ている。 (*19) なお、日本の周波数配分制度は、法律規定上は「比較聴聞」に近い。しかしながら、実際に聴聞手続を通じて配分が争われるケースが少ないこと(競合する事業者間で「事前調整」がなされること、また米国において聴聞手続の大部分を占めたFMラジオ局免許数が、日本においては米国に比較して極端に少ないこと、などによる)、および、周波数使用権の再販売が実際上認められていないこと(電波法20条は免許人に相続があったとき、および法人合併の際の免許の承継を定めている。しかし、免許の「譲渡」については明文規定を欠いているので、免許譲渡の申請・認可あるいは却下のための行政行為自体が起こせないことになり、実質上は譲渡禁止と同様の効果を生じている。)、の2個の理由から、日本の制度は「日本型計画配分・管理方式(護送船団方式、社会主義に近似するシステム)」とでも呼ぶべきであり、米国におけるいずれの制度とも異なっていると考えるのが適切である。 (*20) FCCでは、各種の案件を検討するための手続・方式が「行政手続法」「通信法」とその下の「規則」によって詳細かつ明示的に定めれている。新サービスの認可のような具体的案件は、典型的には、FCCによる当初提案、一般からのコメント募集、コメント回答募集、FCCによる決定・命令のプロセスを経る。複雑・困難な案件の場合には、最終決定に到るまでこのプロセスが何度も繰り返され、時には、訴訟に発展することもある。FCCでは、それぞれの案件に「Docket番号」を付しており、たとえばGN90-314は、FCCによる「1990年の第314番目の一般案件」という意味である。「Docket番号」が付せられたそれぞれの案件に関する活動の全体は、Proceeding(審理手続)と呼ばれ、そのための具体的な手続規定にしたがって進められる。 (*21) オークション導入立法は1993年夏に議会を通過したが、その翌年の1994年から、議会と行政府は「通信法」の大規模改正に取り組み、結局1996年2月に周知の「1996年テレコム法」が成立した。議会は、オークション導入の検討に6年余の年月をかけたが、それよりもはるかに大規模な1996年法の改正は、2年半で終えることができた。さらに、放送のディジタル化を含むオークション制度拡張のための立法は、(「放送マスコミ」という議会にとっての「苦手」を対象としていたにもかかわらず)上記の1年半後、すなわち1997年夏に議会を通過した。これらの経過から、米国議会・行政府の担当者による「情報通信」の重要性・問題点等の認識が進み、同発展のための立法に要する期間が時間の経過とともに短縮されている傾向を見ることができる。 (*22) 上下両院において通信(放送を含む)問題を直接に担当する委員会・小委員会は、オークション問題の検討期間中、下記の構成をとっていた。上院:「商務委員会」とその下の「通信小委員会」、下院:「エネルギー・商務委員会」とその下の「通信小委員会」。なお、上院は人数が少ないので、小委員会のメンバーはすべて親委員会に入っているが、下院においては、親委員会・小委員会は、大部分別メンバーによって構成されている。また、オークションの検討期間中に、議会の多数派(majority)が民主・共和両党間で移動し、その結果、委員長・小委員長が交代したが、本問題に関するかぎり、多数派交代の影響はあまり大きくなかったように見える。それよりも、委員長・小委員長個人の意見・立場が、(短期的に)強い影響を与えた。 (*23) その後、議会は、FCC・NTIAに対し、予算を付した上で、周波数の現状の詳細を調査し、報告するよう求めた。その結果、周波数の使用状況に関する情報公開が実現した。現在では、NTIAとFCCが、周波数帯の分配(allocations、使用目的、地域等)および割当(assignments、個別無線局への免許内容)を公表し、分配については書籍形式で公刊している(インターネット上の公開を含む、U.S. Department of Commerce [1996])。周波数の分配・割当の公表・公刊は、電波を利用する新技術の開発、とりわけ小規模ベンチャーによる開発の推進に大きく貢献した(本註上記部分は、FCC担当係官の談話による)。なお日本では、電波法26条・同施行規則19-21条によって周波数表(同分配)が公衆の閲覧に供せられ、インターネット上でも公開されており、1997年からは公刊も実現しているとのことである(郵政省 [1997] WWW)。しかし周波数の個別局への「割当」については、電波法25条・同施行規則10条、10条の2により、一部の無線局についてのみ免許事項がわずかに「告示」方式によって公表されているが、他の大部分の局については公表のための措置は取られていない。 (*24) 実際に、多数回実施されたオークションの中には、予想よりもはるかに低い金額で入札されたケースもあった。このような結果に対しては、「周波数の叩き売り」という批判が生じている。これは周波数割当に関する立法政策全体の問題であるが、本条項の下でのFCCの業務に直接の影響を与えるものではない。 (*25) ただし、この点については、1994年に議会がさらに修正措置を加えて「有料」とした(III.A参照)。 (*26) オークションは、一部を除いて満足できる結果をもたらし、FCCはその旨の報告書を1997年夏に議会に提出した。議会は、1998年9月末の期限を待つことなく、前年の1997年夏に再度通信法を改正し、オークション制度を2003年までの期限付で維持することを定めた。 (*27) 最初のオークションは、狭帯域PCS全国免許について1994年7月に実施された。 ********** E-mail: oniki@iser.osaka-u.ac.jp Web: http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/ 「米国の周波数オークション(1993年の「通信法」改正)」、『米国通信法研究会報告書』、通信機械工業会:米国通信法研究会、1999年2月、pp.127-272。