D. 広帯域PCSオークション(2):Cブロック(指定優遇事業者のみ参加)  前節で説明した広帯域PCSのうち、AおよびBブロックのオークションは、当初計画どおり大きな事故もなく無事に進行した。両ブロックの落札金額は史上最高水準に達し、1993年の通信法改正によって導入された「周波数オークション制度」の成功例となった。  これに対し、指定優遇事業者のみを有資格参加者として実施された広帯域PCSのCブロックのオークションは、代表的な失敗ケースとなった。同オークションは、A、Bブロック・オークションから約1カ年後に実施されたが、実施までにこのように長期間を要したこと自体が、オークションのための規則制定においてさまざまな議論や問題が生じ、その調整に手間取ったことを示している。また、指定優遇事業者の資格に関する連邦最高裁判所の判決が、FCCの当初予想を裏切る方向で出され、FCCはCブロック・オークションのための制度全体を書き直さなければならない事態を生じた。  Cブロックのオークションは、1994年12月から翌年5月まで続いた。同オークション自体は無事に進行し、また(オークション実施まで相当の年月を経過したこともあって)PCS事業に対する参加者の期待も高まり、落札金額合計は、AブロックおよびBブロックのそれぞれを上回った。しかしながら、Cブロック・オークションにおいては、落札後に免許取得事業者の支払い不能が続出し、同ブロックの免許の有効性に障害を生ずる事態に陥った。また、免許取得事業者の支払不能による破産(bankruptcy)から、連邦破産裁判所(Federal Bankruptcy Court)の介入も生じた。Cブロック・オークションは、いわばFCCにとって最悪の結果であったということができる。  広帯域PCSのA、Bブロックのオークションの成功と、Cブロックのオークションの失敗をどのように評価するべきかについては次節に譲り、本節においては、同オークションの規則制定の経過、オークションの進行とその結果、およびオークション後に生じた支払不能等の問題点について、時間的経過を追いながら解説する。 1. 広帯域PCSのCブロック・オークションの規則制定経過 a. 1994年3月の基本方針設定から1995年6月の最高裁判決まで  すでに述べたように、1993年の通信法改正は、周波数オークション制度の導入という一般方針を定めたが、オークションによって周波数資源の使用が大規模事業者に集中することを防ぐため、指定優遇事業者(designated entities)と総称される小規模事業者(small business)、女性保有の事業者(women-owned business)、非都市地域電話事業者(rural telephone companies)、少数民族保有の事業者(minorities-owned business)(上記4カテゴリーは、SWRMと略記される。ただし、後に連邦最高裁判決によって女性と少数民族保有の事業者に対する優遇措置が中止されたため、Cブロック・オークション実施時には、designated entitiesの用語が使われるようになった)に対し、特別の優遇措置を考慮してオークション制度を構築するべきことを定めた。1994年6月の狭帯域PCSオークションにおいては、小規模事業者や女性保有の事業者が、入札金額の割引・分割払いをはじめとする優遇措置を受けている。  広帯域PCSオークションにおいては、まず、PCSサービス全体を複数個のブロックに分割した上でオークションを実施することが考慮された。FCCの一般案件GN90-314「新しいPCSサービスのための規則制定」において多数のコメントを検討した結果、指定優遇事業者に対して特別のブロックを割り当て、一般事業者と区別した上でオークションを実施することとした。狭帯域PCSのオークションのように、一般事業者と指定優遇事業者を同一オークションで競争させると、資金力その他の格差により、指定優遇事業者が不利な立場に立つと指定優遇事業者が主張し、また、これを議会・行政当局が支持したからである(*1)。  実際にはまず、上記一般案件GN90-314の「第二報告・命令(Second Report and Order)」(FCC 93-451)(September 23, 1993)において、広帯域PCS用の周波数計120MHzを、A−Gの7ブロックに分割することとした。これに対し、技術的な面(PCS建設当初におけるマイクロウェーブ事業者との周波数共用を含む)から反対コメントが多数寄せられた。FCCはこれらを考慮した結果、同案件の「メモランダム意見および命令(Memorandum Opinion and Order)」(FCC 94-144, June 9, 1994)において、広帯域PCSのブロック・プランを組み替え、A−Fの6ブロック構成とし、A、B、Cブロックを30MHz幅、D、E、Fブロック10MHz幅とした。また、これらのうち、CブロックとFブロックを指定優遇事業者ブロックとし、前述のように一般事業者と完全に分離した上でオークションを実施する方針を定めた。またSWRM事業者側から、一般事業者と同一地域で対等に競争するためには、一般事業者に与えられるA、Bブロックと同一サイズの周波数が指定優遇事業者にも与えられるべきであるとのコメントが多数寄せられ、その結果、Cブロックにも30MHzが分配されることになった。ただし、A、Bブロックでは大規模地域区分であるMTAが採用されたが、Cブロックについては、指定優遇事業者の資金力等が不足がちであることを考慮し、小規模地域区分であるBTAが採用された。同命令が採択された1994年6月は、最初のオークションである狭帯域PCS全国免許入札の直前であったが、この時点において指定優遇事業者のためのCブロック・オークションという形式が確立されたわけである。  指定優遇事業者のためのCブロックについても、オークションの一般規則は、A、Bブロックと共通である。前述のように、オークションのための一般規則は、FCC企画政策局案件PP-93-253「通信法309(j)条の設置――競争入札」の「第二報告・命令(SRO: Second Report and Order)(FCC 94-61, March 8, 1994)」において決定された。指定優遇事業者のためのオークションの一般規則の大要も、実質的には同SROにしたがうことになる。  また同SROは、指定優遇事業者についての特別な規則を提案している。これらのうち、少数民族・女性保有の事業者に適用される部分は、前述のように、両カテゴリーが指定優遇事業者から後に外されたため不要になった。また以下に述べるように、同案に対する多数のコメントを採り入れた結果、細部については後に多数の変更が加えられた。しかしながら、SRO提案は、上記以外については実際に採用された規則の骨格となったものである。その具体的内容は、指定優遇事業者のための特別な優遇条件と、付帯する諸制約である。  FCC企画政策局案件PP93-253のSROによる指定優遇事業者への特別ルールは、以下のとおりである。まず、第一に、前述のように、広帯域PCSブロックCおよびFを「起業家ブロック(entrepreneur block)」と名付け、小規模事業者のみがオークションに参加できるものとする。小規模事業者の定義としては、1993年および94年の年間売り上げがともに1億2,500万ドル以下であること、および事業者の総資産額が5億ドル以下であることの2条件を満たすこととする。また、周波数使用免許がなるべく多数の企業にゆきわたるように、1企業が同時に獲得できる起業家ブロックの免許数を、全体の免許数の10%までに制限する。実際には、さらに年当たり売上高および総資産額によって、また、所有者が少数民族あるいは女性であるかによって、オークションへの参加条件や落札額の支払方法、割引方法について細かな区別を設けている。それらの主なものを以下に述べる。 (i)支払額の割引(bidding credits):オークションで落札した指定優遇事業者の落札額から、企業の種類・規模に応じて支払金額を割り引く。割引額は年当たり売上高が4,000万ドル以下の小規模事業者は10%、少数民族あるいは女性所有の事業者は15%、そして上記2条件を同時に満たす事業者は25%とする。 (ii)支払金額(上記割引分および頭金(down payment)を除く)の分割納付(install payments):Cブロック参加者の一部に、頭金分を除く割引後支払額について分割支払を認める。基本分割支払と特別分割支払の2方式を設ける。基本分割支払方式は、免許交付後の最初の1年間に、分割納付から生ずる利子(米国10年国債の利率+2.5%)のみを支払い、元利返済分を、残る9年の期間に分割納入することができる。「基本分割支払方式」が適用されるのは、全米のBTAのうち、最も大きい50の地域で企業家ブロックを落札した事業者、およびそれ以外のBTAで企業家ブロックを落札した事業者のうち、少数民族あるいは女性が所有する企業、および1993年・94年の売上高がともに7,500万ドル以下の企業とする。また、これに加え、「特別分割支払方式」として、さらに具体的な条件を定め、上記よりも小規模の事業者に、免許交付後5年までの元金支払の猶予(すなわち利子支払のみが必要)による分割支払を認めている。 (iii)免税:さらに上記に加え、少数民族あるいは女性所有の小規模企業によるPCS事業への投資を奨励するため、各種の免税措置を考慮する。ただし、同目的のための主要な手段は支払額割引と分割支払であり、免税措置は両者の補助手段とする。PP93-253のSROの段階では、具体的な免税措置は出されず、その後の検討に任された。 (iv)一般事業者との提携制限:当然のことであるが、上記のように指定優遇事業者が起業家ブロック・オークションにおいて優遇される場合には、指定優遇事業者としての条件を満たさない一般の事業者、とりわけ大企業が、指定優遇事業者と提携し、あるいは、自己の傘下に入れることによって、一方においては優遇措置を活用しながら、他方において自社の豊富な資金を投入して有利な市場参入をはかろうと試みる。公平・公正な競争を保証するためには、この種の提携等に制限を加える必要がある。SROにおいては、一般事業との提携は、出資額について25%まで、議決権について5%までの場合に制限された。ただし、少数民族あるいは女性所有の企業については、少数民族あるいは女性企業家が資本および議決権の過半数を所有している限り、出資額について49.9%までの提携が認められた。  FCCが上記PP93-253のSROを採択したのは、1994年3月、すなわち議会が通信法にオークション条項を付加した1993年8月から数えて7カ月後である。同1994年末に、前述のようにAおよびBブロックのオークションが開始された。そして、Cブロックのオークションの開始には、さらにその1年後、すなわち指定優遇事業者に対する優遇措置の基本方針が示された時点から数えて約20カ月を要した。Cブロック・オークションの開始を遅らせたのは、(次項に述べる)最高裁判決によるオークション方式の大幅変更に加え、同オークションの実施方式の細目について加えられた多数のコメントや反論、またこれらに対するFCCの決定を不服として出された訴訟である。  Cブロックのオークションは、事業者の属性によってその参加資格を定め、また落札金額の支払割引や分割支払方式等について区別を設けている。当然のことながら、これらの条件に外れた企業は、条件の変更を求めて要求を出すことになる。多数の事業者から出されたこの種の要求・コメントが、単に個別企業の利益追求だけの結果であるか、あるいは、産業全体を通じての公平性他の妥当な理由から出されたものでであるかを判定することは困難である。FCCは、多数のコメントを採り入れながら、ある線から先は自己の下す判断によってオークション方式を設定しなければならない。オークションへの参加条件が単純で、また特段の優遇措置を設けないA・Bブロックに比べ、Cブロックのオークション規則は、上記の理由から、A・Bブロックにおけるよりもはるかに多数のコメントを招来し、Cブロック・オークション規則設定のためのFCCの手間は、A・Bブロックのそれに比較して、オークション前においても格段に大きなものとなってしまった。  また他方において、Cブロック・オークションの参加希望者は、オークションがなるべく早く実施されることを要求する。もとよりそれは、Cブロックのオークション落札者のサービス開始が、A・Bブロックに比較して大幅に遅れることを避ける、すなわち先発の利益を失わないためである。その結果、FCCは、早期のオークションという要求と、優遇措置に対する多数のコメント要求を考慮する必要との板挟みになった。実際、この間FCCは、Cブロック・オークションの実施予定期日の発表とその延期を繰り返し、また、指定優遇事業者に対する措置内容を数度にわたって変更した。Cブロックのオークションが実際に開始される以前に、相当数の指定優遇事業者(候補)から、FCCの設定した規則が納得できないとして、オークション差し止めの訴訟が出され、FCCはその対応にも追われることになった。Cブロック・オークションのための規則制定は、このように紆余曲折とも呼ぶべき経過を辿ったのである。  以下、これらの中間経過については大部分省略し、連邦最高裁判決による軌道の大幅修正と、最後に採用された規則内容についてのみ説明する。なお最高裁判決までに制定された(そして判決によって大幅に変更された)Cブロック・オークション規則案の大要は、FCC企画政策局案件PP93-253「第5メモランダム意見と命令(Fifth Memorandum Opinion and Order)」FCC94-285(November 10, 1994)でまとめられたものである。 b. 最高裁判決(1995年6月12月)の効果と以後の経過  1995年6月、FCCは、指定優遇事業者による多数のコメント要求や争訟への対応に追われながらCブロック・オークションの予定を同年8月29日に定めていた。ところが、オークション参加募集締切3日前の6月12日に、「Adarand Constructors社対Pena」のケース名で知られる人種差別・反差別禁止(affirmative actions)に関する訴訟に連邦最高裁判所が判決を下し、その内容が、FCCによるCブロック・オークションの制度の大幅変更を余儀なくさせることになった(*2)。  同ケースは、Adarand社が、1989年にコロラド州における連邦ハイウェイ建設のための契約において、同社が建設プロジェクトに対する入札において低価格を提示したにもかかわらず、連邦政府が「少数民族優遇」の名目で、それよりも高い価格を提示した他社と契約を結んだことが、米国憲法修正第5条(正当な手続きに依らない差別の禁止)に違反するとして、提訴していたものである。  本訴訟は、1960年代から人種差別・逆差別の禁止、少数民族優遇の問題をめぐって生じた多数のケースを受け継いでおり、それは第二次大戦時における日系米国人に対する財産没収や、米国本土内部への強制移住に関する違憲訴訟に始まると言われている。1960年代前後から強まった人種差別禁止(affirmative actions)の流れを受けて、連邦裁判所の判例は、黒人をはじめとする少数民族優遇の方向に傾いていた。しかしながら、その後、過度の優遇策が少数民族以外の合衆国市民に対する逆差別であるとする訴訟が相次ぎ、これに対する最高裁を含む連邦司法界の判決は、人種差別禁止の「揺り戻し」の動きを呈していた。逆差別を主張する根拠として使用されたのは、合衆国憲法修正第5条の一部、「・・・合衆国市民は、法律の定める正当な手続き(due process of law)を経ることなくして(生命・自由・)財産を奪われる(経済的に不利な処遇を受ける)ことはない・・・」であり、「連邦政府などの公的機関が、少数民族を優遇する目的で、法律・規則等によって一般的・包括的な優遇措置、すなわち少数民族以外の合衆国市民に対する差別措置を実施することは憲法に違反する。優遇措置については、(憲法修正第5条の「正当な手続」として)それぞれの優遇措置ごとに具体的な評価・決定方式を導入して、優遇措置の実施・不実施を決めるべきである。」とする主張である。今回の最高裁判決が(反対意見付ではあったが)同主張を支持した結果、FCC規則によって一般的に(categoricalに)少数民族・女性所有の企業を優遇することが、(訴訟になった場合)違憲であるとの判決が下される可能性が高くなったわけである。  Cブロックのオークションが指定優遇事業者への諸措置をともなって検討されていた期間において、同ケースが最高裁で審理中であったことはもとよりよく知られており、その判決の如何によっては、優遇措置の見直しが必要になる可能性も充分に予測されていたとのことである。しかしながら、FCC内外の多数意見は、最高裁による同ケースの判決内容は、Cブロック・オークション規則の根幹を揺るがすまでには到らないであろうと予測していた。また他方、1993年の通信法改正内容は、少数民族や女性所有の企業を優遇するべきことを明記していたので、FCCとしては、その方向で規則制定を進める他はなかったものと考えられる。しかしながら、実際の最高裁判決は、多数の予測に反して、少数民族および女性所有の企業に対する一般的な優遇措置を違憲としたため、Cブロック・オークション制度の大幅修正が必要となった。  FCCは、上記最高裁判決を享けて、1995年6月23日に、企画政策局案件PP93-253および一般案件GN90-314において、「規則制定に関する追加通知(Further Notice of Proposed Rulemaking)」(FCC95-263)(June 23, 1995)を発出し、最高裁判決の線に沿う規則改訂案を示してコメントを求めた(*3)。FCCは翌7月に上記規則案に対するコメントを考慮して、同案件に対する「第6次報告・命令(Sixth Report and Order)」(FCC95-301)(July 18, 1995)によって改正規則案を提示した。同案は、大要において、実際にCブロック・オークションにおいて採用された。その概略は以下のとおりである。  FCCは、まず、Cブロック・オークションにおける優遇措置のうち、人種および性別にもとづく分をすべて廃止する方向を示した。人種にもとづく優遇措置すなわち少数民族所有の企業に対する優遇措置については、今回の最高裁判決が優遇措置自体を違憲としているわけではなく、優遇措置の実施に際してあらかじめ一定の基準を設け、これを一律に適用することを違憲としている点を指摘している。何らかの基準を満たす少数民族所有の企業をすべて優遇するのではなく、それぞれの企業について審査をおこない、その企業が真に優遇措置を必要としているか否かを明らかにした上で実施・不実施を決めるような制度にすれば、今回の判決には抵触しない。しかしながら、FCCによるこのような個別処置には手間と時間が必要となる。さらに、優遇措置に関する個別の決定について多数の反対意見が出され、その多くは争訟になることも予想される。したがってこれを実施すれば、Cブロックのオークションは、さらに大幅に遅れることになる。その結果、すでに事業開始を急いでいるA・Bブロックの免許保有者との格差が拡大し、優遇措置の目的自体が失われてしまうことになる。この点を考慮し、少数民族所有の事業者のみを優遇することをやめ、所有者の人種にかかわらず、小規模企業を優遇することにした。  次に、女性所有の企業の優遇については、今回の最高裁判決とは直接には関連しない(*4)。しかしながら、今回のCブロック・オークションの制度設定にあたっては、少数民族所有の企業と女性所有の企業をおおむね同一基準で扱ってきた。また、今回の最高裁判決が出される以前の時点で、少数民族所有の企業および女性所有の企業の判別基準に関する争訟(たとえばTelephone Electronics社のケース)において、裁判所は、少数民族所有および女性所有の企業を同一規準で扱っている。したがって、もし、女性所有の企業についてのみ優遇措置を残すとすれば、これに対して多数の反対意見が出され、そこから争訟の発生を避けることができない。その結果、やはりCブロック・オークションの実施期日が大幅延期になってしまう。  上記の理由で、FCCは少数民族所有および女性所有という区分をとりやめ、従来の規則でこれらの企業に与えられていた優遇措置を、すべての小規模企業に一律に適用することとした。その結果、同最高裁判決以前の段階で、少数民族あるいは女性所有の企業であるという理由で優遇措置を受けることができた小規模企業は、同判決後に改訂された基準のもとでも、少なくとも同一の優遇措置を受けることができるようになった。すなわち、優遇措置基準を緩める方向で規則を改正し、従来において優遇措置を受けていたが、改訂後には優遇措置を受けることができなくなるというケースをなくしたのである。もとよりその結果、従来は少数民族所有でも女性所有でもないために優遇措置を受けることができなかった小規模企業が、今回の規則改訂後においては、新たな、あるいはより有利な優遇措置を受けることができるようになった。  このように「優遇措置を受けるための基準を緩める方向で最高裁判決によるインパクトを実質上中和する」種類の規則改訂は、逆方向の規則改訂、すなわち「少数民族保有・女性保有という理由で従来は優遇措置を受けることができた企業が、規則改訂後には優遇措置を受けることができなくなる」種類の改訂よりも抵抗が少ない。もし、後者の種類の規則改訂をおこなったならば、最高裁判決以前において優遇措置を受けることができると前提して資金借り入れ等を準備し、オークション参加を予定していた企業が、一斉に裁判に訴えてFCCから「損害賠償」を得ようと試み、その結果、大きな混乱が生じたであろう。FCCがとった「優遇条件緩和」による規則改訂は、混乱を避けるための実際的な方策であったと言うことができる。  しかしながら、同最高裁判決の含意を論理的に考えれば、従来は合憲の可能性があった少数民族保有企業の優遇が「違憲」と判断され、それが今回のFCC規則改訂の出発点である。したがって、最高裁判決の趣旨に沿う規則改訂は、優遇措置の判定基準を厳しくする方向でなされなければならないとする議論も成り立つ。実際、同規則改訂によって、直接には影響を受けない企業(すなわち規則改訂前と同一程度の優遇措置しか受けられない企業)にとっては、自己以外に優遇措置を受ける企業が増大した分だけ、競争上不利になるわけである。したがって、そのような企業がFCCに対して、今回の規則改訂に反対意見を表明し、それが容れられなければ裁判に訴えることも予想される。  これらのことを要するに、すべて何らかの基準にもとづく「優遇措置」は、基準が複雑であればあるほど、またその基準が(今回の最高裁判決のような理由によって)変更される回数が多ければ多いほど、優遇措置を受けることができなかった企業にとって「不公平」な制度に見えることを意味する。この理由で、優遇措置を前提するCブロック(およびFブロック)のオークションは、最初から多数の潜在的問題を抱えていた。これに対し、A・Bブロックのオークションにおいては、すべての参加者が一様に取り扱われたため、見かけ上の「不公平」が少なかった。FCCに対して反対意見を表明する理由、裁判所に対して不公平・不公正を主張する根拠を見出す可能性も少なかったのである。本来、「絶対的な公平・公正」というものは証明できないのであるから、すべての参加者を平等に扱うA・Bブロックの制度と、優遇措置を導入したC・Fブロックの制度との間で、公正・公平の観点からする優劣は存在しないはずである。それにもかかわらず、FCCが多数の意見を集めてオークション制度を構築する過程においては、制度が単純であるA・Bブロックが、制度の複雑なC・Fブロックよりもトラブルを生じることが少なかったのである。  FCCが上記7月18日のメモランダム・命令を出したのと同時期に、Omipoint社は、ワシントン連邦控訴裁に、FCCが8月29日に予定しているCブロック・オークションの開始を差し止める(stay)命令を下すよう申請した。同社は、7月18日の規則改訂について、下記の2点を申請理由としている。第1に、すべての小規模事業者に49.9%までの外部出資を認めるのは、小規模企業を隠れ蓑にした大企業の進出を助長すること、第2に、FCCが同上規則変更について事前予告を省いたことが、規則変更に関する手続規定に違反することである。同控訴裁は申請を認め、その結果、FCCは直ちに8月29日のオークション開始予定を延期した。Hundt FCC委員長は、本件によってCブロック・オークションは半年程度は延期されるだろうとの談話を発表した。Omnipoint社では、「本申し立てによるオークション延期は望むところではないが、当社が他社と互角に競争するためには、49.9%までの外部投資を募る必要があり、そのための時間が必要であったので、同差し止め申請に踏み切った。」とのことであった。なお同社は、すでにニューヨーク地区で創始者優遇制度によるPCS免許を取得しており、真の狙いは、Cブロック・オークションの延期によって、ニューヨーク地区での自社の先行態勢を確立することにあるとする批判もある。  上記、Omnipoint社によるCブロック・オークションの延期については、Cブロックへの参加を予定している多数の事業者から、オークション延期によってすでに免許を取得している事業者との差が拡大するので望ましくないとの意見が出された。しかし他方では、Omnipoint社の立場に追随する企業も見られた。RadioFone社、Qtel社、NEWWAVE L.L.C.社は、FCCの新ルールが大企業のオークション参加を助長するものとしてこれを批判している。  1995年9月29日にいたり、ワシントンの連邦控訴裁は、Omnipoint社によるCブロック・オークションに関する上記審理をおこない、すでに出していた差し止め命令を撤回し、FCCにオークション開始を認める旨の判決を下した。FCCは、この判決を受けて、来たる同年12月中にオークションを開始する方向で準備を開始すると発表した。  他方、ルイジアナ州を拠点とするRadioFone社は、同一地域におけるセルラー電話とPCSのサービス供給制限について、シンシナティの連邦控訴裁にCブロック・オークションの差し止めの訴えを提出し、同控訴裁はこれを認めた。これに対し、FCCは、Cブロック・オークションが繰り返し延期されることを防止するため、同控訴裁の差し止め命令を即刻解除することを訴える意見書を連邦最高裁に提出し、同最高裁は、同年10月26日にシンシナティ連邦控訴裁の差し止め命令を否定する決定を下した。  さらに、1995年11月にいたり、シンシナティ連邦控訴裁は、FCCに対し、セルラー電話とPCSの双方の周波数を所有する「クロス所有(cross ownership)」の制限を再検討するよう勧告を出した。これに対し、FCCは、本問題によってCブロックのオークションがさらに遅延することを避けるため、「シンシナティ地域連邦控訴裁判所の判決を考慮し、クロス所有制限ルールに抵触するRadioFone社等のCブロック申請希望事業者に対し、「条件付き参加」を認めた上で、オークション自体は予定どおり、12月に開始することを決定した。すなわち、セルラー事業を所有しているために、同規則からオークションに参加できない事業者も、期日までに定められた参加申込書類(short form)を提出し、かつ、クロス所有禁止規則に関する適用猶予を請求すれば、オークション参加資格が与えられることとした。ただし、これらの事業者はオークションに参加できるが、今後実施される司法および行政面における規則検討の結果を受け入れることを要求され、かりにオークションで免許を落札しても、クロス所有の禁止ルールが覆らないかぎり、免許は交付されないことになる。そしてまた、FCCは、「これらの検討過程で、FCCは当初提案した規則がそのまま残るように尽力することを予定している。」との声明を発した。上記措置によって、Cブロックのオークションは、ようやく開始にこぎつけることができた。 2. Cブロック・オークションの実施経過と結果  広帯域Cブロックのオークションは、1995年12月18日にスタートした。当初同年4月の開催が予定されていたが、オークション参加規則をめぐって訴訟が相次ぎ、また、途中で最高裁判決のために規則の大幅修正が必要となったこともあって、開催が大幅に遅れたのである。Cブロック・オークションでは、全米で493のBTA(基本商業エリア)における、各30MHzの周波数帯が対象になっており、小規模企業などの優遇事業者だけが参加資格を持つ。  Cブロック・オークションの開始時において、事務的・技術的な面で若干のトラブルがあったことが記録されている。まず、当初オークション参加を申請した377事業者のうち、約3割にあたる109事業者が書類不備・記入ミス等の理由で申請を却下された。これらの一部は、書類不備を修復してオークションへの参加が認められたが、大多数はそのまま参加を見送り、結局参加資格を認められたのは254事業者であった。参加事業者がFCCに納付した証拠金(upfront payments)は,合計7億6,750万ドルに達した。他方、FCC側においても、コンピュータ検索用ソフトウェアの不備のため、申込企業の秘密情報が一時的に公開されるというハプニングが生じた。FCCは急遽ソフトウェアを修復し、また、FCCインターネット・サイトの改修措置をとって事態の収拾に努め、本トラブルは大きな問題には発展しなかったと伝えられている。  Cブロック・オークションに参加した企業は、もとより小企業の定義を満たす事業者であるが、それぞれ認められた範囲内で大企業の出資や後援を受けている。証拠金額の大きな順に並べれば、それらは、US Airwave社(MCI、現代自動車出資)、NextWave社(SONY, Qualcom出資)、Go Communications社(Northern Telecom, 日商岩井、三菱重工等出資)、DCR(Westinghouse等出資)、Personal Connect社(McCaw出資)、Omnipoint社(Northern Telecom出資)等である。これらの参加事業者が支払った証拠金は、金額の大きい順の上位15社で、各81百万ドルから8百万ドルに及ぶ。(証拠金の単価が1MHz・1サービス人口当たり0.015ドルであることから)それは1.8億人から1,800万人をカバーするサービス領域を示すものであり、野心的なオークション参加計画であることを示している。  当初、年末休暇に入るまでに合計4ラウンドが実施され、入札額合計は、12億ドルを上回るハイペースで進行した。この金額は、1年前のA・Bブロック・オークションが同一ラウンド時点で記録した6億7,800万ドルを大きく上回っている(A・B・Cブロックのそれぞれが、同一の周波数帯域幅30MHzを持つことに注意されたい)。このようにCブロック免許の価値が高く評価された理由としては、第一に、オークション開始まで1年余も待たされたので、一般の認知が進み、多数の事業者の関心を呼んだことが挙げられる。第二に、Cブロックのオークションは細分化されたBTA単位で実施されているため、広い地域をカバーするMTAに比べ、比較的低額の投資で重要地域にサービスを開始することができる。そのため、A・Bブロックを落札した大規模事業者が、さらに自己の地域での支配力を強化するために、同一地域の戦略拠点にあたるCブロックの周波数をも入手しようと狙っているためである。第三に、分割払が認められていることも挙げられる。  Cブロック・オークションは、翌1996年1月5日に再開された。前年におけるA・Bブロックのオークションでは、当初の入札がスローペースで進んだが、これに対し、Cブロックのオークションでは早いペースで進み、1月末の第17ラウンド終了時の最高入札額の合計は44.8億ドルに達した。この金額は、すでにA・B各ブロックの落札額(創始者優遇制度による免許交付分の調整後)を上回っており、Cブロック免許の人気が高かったことを示している。  なお、1月のオークションの進行中に、参加企業の一つであるPCS2000社による1億ドルの誤記が話題になった。同社は、第11ラウンドで、10倍以上の破格の入札金額を提示した。これについて同社は、「入札用のコンピュータ・プログラムへの入力を誤り、余分のゼロを一個加えてしまった。」として、FCCに対して入札取消にともなう罰金免除を申請した。(入札金額を故意につり上げる目的の「誤った入札」を防ぐために、FCCはルールを定め、入札の取消については、最終入札額との差額分を支払う義務を科している。したがって、PCS2000社の入力ミスは弁解の余地がない。本件については、後にFCCが実際に単なる入力ミスであったことを認め、ペナルティの大部分を免除するとの決定を下した。)  2月に入って、Cブロックのオークションは20ラウンドが実施され、同月末の第37ラウンド終了時点の最高入札額合計は75億ドルに達し、A・Bブロックの落札額の合計である77億ドルに迫る勢いを見せた(すなわち、A・B各ブロックの約2倍近くにまで上昇した)。A・Bブロックの落札額のサービスエリア人口1人あたりの免許価格(POP平均価格)が15.57ドルであるのに対し、2月末のCブロック入札額は、すでに29.42ドルになっている。  Cブロック免許価格の急上昇について、たとえ分割納入が認められているとしても、実際にこのような高額の免許代金が採算に合うか否かについて疑問が出されている。これらに対し、FCC のHundt委員長は、「FCCとしては、Cブロックの免許価格の上昇を歓迎する。しかし、もし、落札事業者が実際に約束どおりの金額を納入できなかった場合には、すでに定められているルールを適用し、交付免許は直ちにFCCに返還されることになる。」旨、警告を発した。  3月に入って、Cブロックのオークション価格は引き続き上昇を続けたが、1月および2月に比して上昇ペースはかなり鈍化した。3月22日の第58ラウンドから、FCCはオークション・ルールを第2段階(各入札者は、落札を希望するライセンスの人口合計の80%を上回る地域に入札し続けなければならない)に移行させて、オークションの収束を図っている。3月末の第68ラウンド終了時点の合計入札額は95億ドルに上り、POP平均で37.06ドルを記録している。  4月に入って、Cブロックのオークションは入札スピードが急速に低下したが、4月末の入札額合計は102億ドルに達した。そして、翌5月6日、同オークションは足掛け5カ月を経て、計184ラウンドをもって終了し、合計落札金額は102億ドルに上った。当初255事業者がオークションに参加したが、最終的に免許を落札したのは89事業者であった。  なお前述のように指定優遇事業者は、落札額の割引と分割払いの双方を認められることになっている。まず、落札額について10%を割り引き、その90%(Fブロックの場合には20%割引で80%)を納入すればよく、これに加えて、10年間の分割払いが認められた。10年間のうち最初の6年間は、分割払いから生ずる利子のみを支払い、残りの4年間で利子および元金を支払うことになる。これは、事業開始当初の収入額が少ないPCS事業(一般にはテレコム事業)の事情と合致し、指定優遇事業者にとって大きな利益をもたらす。逆にいえば、このような優遇措置があったために、Cブロック免許の落札額が(分割払いを認められていない)A・Bブロック免許の支払額の2倍近くに達したと言うこともできる。  また、Cブロックのオークションは、1996年5月に終了したが、その後FCCは、支払不能等の理由で返還されたCブロック免許の第1回再オークションを、同年7月16日に実施した(*5)。その結果、Cブロックで合計493免許が発行され、(割引額を除いた)純落札額は、第1回再オークションを含め計102億ドルに達した。また、1997年1月14日に終了したD・E・Fブロックのオークションにおいて、88事業者が491個のFブロック免許を獲得したが、落札額は、6億4,200万ドル余という低水準に留まった。 3. Cブロック・オークション終了後の諸問題――FCCの「混乱」と1998年の通信法改正 a. オークション後における支払不能の続出  Cブロックのオークションは、1996年5月6日に終了し、30MHzの同一帯域幅を持つA・Bブロックのそれぞれに比較して、2倍近くの落札額となった。ただし、高落札金額は、都市とその周辺の主要地域に入札した少数の事業者に集中している。これらについて、落札金額の割引や分割払いという優遇条件を考えても、事業開始と継続が危ぶまれる状況が発生した。前記のように、Cブロック免許の落札事業者は、免許交付直後においては、頭金と(分割払いから生ずる)初年度の利子支払義務だけを負っていた。しかしながら、Cブロック・オークションの落札額が異常に高く、事業に対する悲観的見通しが広がったことから、Cブロック免許取得者への融資約束の取消が続した。自己資本をほとんど持たないでオークションに参加した小規模事業者は、そのため、頭金や初年度の利子支払においてさえも困難に際会することになった。  まず1996年5月に、Cブロックの落札事業者であるBD PCS社が、落札額の5%に当る頭金の免除申請をFCCに提出した。同社は、韓国のSamsung Electronics社や、Dacom社などの出資を受けているとしていたが、これに加え、US West社による出資約束の有無をめぐるトラブルがあったと伝えられている。FCCは同社の申請を却下した。以後、頭金や利子支払の免除を申請するCブロックの落札事業者が次々に出てくることになる。  1996年6月になって、FCCは、同時点までに頭金未納入などの理由によってFCCに返却された失格免許の再オークションを同年7月に実施することを発表したが、これに対し、一部のCブロック落札事業者から、再オークションの一時停止の申請が出された。しかしながら、同申請は、ワシントン地区控訴裁判所によって却下され、前述のように、再オークションは予定通り実施されて、7月16日に終了した。この段階でFCCのルールにしたがって、(当初は落札したが支払不能等の理由で)Cブロック免許を返却した事業者は、FCCが後の時点で他のCブロック事業者に対し、支払猶予等の措置をとったことに対し、不公平であるとして、同措置への不服申請をおこなうことになる。  1996年7月ごろから、Cブロックの落札事業者から、頭金・初年度利子支払の困難を理由として、支払期限の延長や支払免除あるいは割引等の申請が次々に出され、それらをめぐって「Cブロック分割支払方式の再検討(Restructuring of C Block Install Payments)」が公然と議論されるようになった。これに対し、FCCは、当初決定された規則どおりの実施、すなわち規則を守って必要金額を支払い、支払不能の場合には免許を返還することを強調していた。しかしながら、一時的な支払停止を求める申請が次々に出される状況を見て、FCCは、1994年9月24日に、Nextwave Personal Communications社、Pocket Communications社、PCS 2000 LP社、GWI PCS社、Meretel Communications社の5社に対し、「上記5社のCブロック・オークション参加資格を検討しているという理由で」頭金の納入期限猶予の措置をとった。後になってFCCは、「自ら制定した規則を曲げ、FCCとその制定した規則の権威を失わせた」と批判されることになるが、1994年9月の決定は、「FCCによる最初の『規則の事後的変更』であった。上記措置に対し、Cブロック・オークションの落札事業者であるCalorina PCS社は、上記5社に対する支払猶予が公平原則に反するとして、Cブロックの落札事業者すべてに対し同様の措置を適用する申請をおこなった。以後しばらく、FCCは、Cブロック落札事業者から出される支払猶予申請と、FCCの措置に対して(不公正である等の理由によって)不満を示す意見表明等への対応において、混乱状況を示すことになる。なお、1996年夏から同年末に至るまで、広帯域PCSの各10MHz帯のオークションD・E・Fブロックが実施された。Cブロックのオークション後の経過を反映して、上記3ブロックのオークション入札額は、Cブロックよりもはるかに低い水準で推移した。  翌年1997年2月末にいたり、FCCは、新たに無線通信局案件WT97-82「FCC規則第1部の修正――競争入札手続(Amendment of Part I of the Commission's Rules--Competitive Bidding Proceeding)」を開始し、まず「命令およびメモランダム意見と命令および規則制定提案(Order, Memorandum Opinion and Order, and Notice of Proposed Rulemaking)」(FCC97-60)(February 28, 1997)を発出して、従来はFCC規則第24部でPCSを対象として検討されてきたオークション規則全体を見直し、PCSだけでなく、周波数全般に適用されるべき「オークション規則」を、FCC規則第1部「手続・手順に関する規則(Practice and Procedure)」の中で設定することを表明した。またFCCは同文書の中で、一般的な周波数オークションに関する規則提案の特殊ケースとして、今回のCブロック・オークションの支払条件の見直しを提案し、コメントを求めている。同提案の中で、FCCはオークション一般のための規則として、分割支払に代えて大幅割引を考慮すること、オークション途中で入札金額が証拠金に比して高水準になった場合に、証拠金の増額を求めること等について、コメントを求めている。また、Cブロック・オークション後の事態への対応策として、支払遅延に対するペナルティ課金の是非、支払不能の場合の手続きの変更、「支払猶予期間(grace period)」に関する規則の変更等について、コメントを求めている。本提案において、FCCは、FCC規則第1部の修正という一般的な形式をとりながら、Cブロック免許受領者における支払不能事態の救済策を探り始めたのである(*6)。  1997年3月31日に、FCCはCブロック免許受領者多数の要求を容れ、同受領者すべてについて、分割払いの支払期限を当分の間延長する措置をとった(Fブロック免許保有者についても、4月28日に同様の処置をとった。)。この措置によって、FCCは、Cブロックにおける「困難」を、行政行為としても認めたわけである。  その後、6月2日にFCCは、「分割払いに関する公示(Installment Public Notice)」を発して、CブロックおよびFブロックにおけるPCS事業への融資条件に関するコメントを募集し、また、6月30日には、「公開討論会(FCC Public Forum)」を開催した。同公示に対しては、200近いコメントが寄せられ、また、フォーラムにおいても多種多様な意見が出された。FCC文書によれば、Cブロックの状況に関する意見は2種類に大別される。第一は、Cブロックの免許保有者が小規模事業であり、かつ、厳しい融資条件に直面していることを理由として、各種の「優遇措置(金額の減免、支払期限の延長など)」が必要であるとする。第二は、これに対し、当初の規則を変更して(曲げて)上記のような優遇措置を講ずることは、FCCとその規則の権威を損じ、今後のオークションにおいても同種の優遇措置を期待して入札をおこなう傾向を生ずる等の理由で望ましくない。たとえ破産に陥る事業者が続出しても、当初規則の厳格な実施が必要であるとする。  当時Hundt委員長をはじめとするFCC委員(定員5名)の1名は欠員であり、また、委員のうち1名を除くすべての委員の任期終了が同1997年秋に迫っていた。また、Cブロック免許取得者に対する優遇措置について、「手厚い」優遇措置を主張するHundt委員長と、これに反対して規則の厳密な実施を主張する他の委員との間に意見の相違が生じ、FCCはこの時期、困難な状況にあった。 b. 1997年9月の「特別救済」策  FCCは、1997年9月25日に、無線通信局案件WT97-82において、「第二報告・命令と規則改正案(Second Report and Order and Further Notice of Proposed Rulemaking)」(FCC97-342)(September 25, 1997)(SRO-FNPRM)を決定し、Cブロック免許保有者の代金支払問題について、特別の(extraordinary)「救済・処理方策」を提案した。本文書の発行直後においては、FCCが採用した同方策は実施不可能であり、さらに多くの混乱をもたらすなどの批判が多数寄せられた。本稿の執筆時点(1998年12月)において、同案件は、依然進行中である。しかしながら、同時点までの経過、とりわけ1998年秋の通信法改正の結果から考えれば、(後述のように)SRO-FNPRMによる解決策が早い時期に実現するものと予測される。本文書の作成は、FCC内で無線局スタッフを中心とし、これに法務部、企画政策部スタッフが加わって作られた対策委員会(Task Force)によったが、その採択についてFCC内で採決が分かれ、Hundt委員長は一部について反対投票をした。また、FCC外においては、上下両院の商務委員会メンバーによって賛否が分かれ、また、当然のことながら、Cブロック免許保有者・オークション参加者の間でも賛否が分かれた。  本FCC提案について、T. J. Bliley、E. J. Markey、W. J. Tauzin、John Dingell下院議員は、Hundt委員長の意見を支持して同提案に反対し、Cブロック免許保有者のうち、免許代金支払が困難な事業者については、「分割払い金額の『現在価値額(NPV: Net Present Value)』による一括売却計画(Full-Price Buyout Option)」を主張した。Cブロック免許の分割払いは、10年の支払期間のうち最後の4年に集中しているので、NPVの金額は、そのために使用される「割引利子率」の高低によって大きく影響され、当初の名目入札額の15%から40%の間で変動する。「一括売却」案の推進側は、NPVが名目入札額に対して大幅割引になるのは、当初オークション金額の分割払いを認めたことの当然の結果であり、また、それだからこそ、Cブロックの入札金額が(即時払いを要求された)A・Bブロックの入札金額の2倍近くになったとして、同案を主張した。これに対し、Hundt委員長を除くFCCメンバー全員は、同案はオークション後における「実質上の支払金額割引」であるとして反対し、もし同案を認めれば、Cブロックの免許保有事業者で、すでに分割払いを開始している者、Cブロック・オークションの途中で入札を諦めた事業者との間で大きな不公平が起きると反論した。同反論は、支払困難に陥っているCブロック免許保有者以外のオークション参加企業一般から支持され、また、議会においては、E. F. Holings上院議員、John McCain上院議員が支持した。  経済理論や金融分野の専門家の立場からすれば、上記の意見の対立については、もとより前者すなわちNPVの採用に軍配を上げるべきである。NPVの計算においてどのような割引利子率を採用するかの問題は残るにしても、NPVの採用自体には何ら問題はないはずである。しかしながら、それは「不当な事後的割引」という外見を与え、また、Cブロック・オークション代金の支払困難という問題自体が、「あとは野となれ山となれ式のいい加減な入札行動」から生じたとする受け取り方が広がっていたため、FCC委員の多数および一般の支持を得られなかったものと考えられる。  SRO-FNPRMにおけるFCC提案の大要は、下記のとおりである。まず、Cブロック免許保有者(現在そのすべてが支払猶予を受けている)に対し、下記(i)〜(iv)の一項目を選ぶことを認める。 (i)従来方式の継続(Continuation):当初認められた方式にしたがって分割払いをおこなう。ただし、支払再開時期を1998年3月31日(60日間の支払猶予期間が自動的に認められるので、実質的には5月31日)とする。 (ii)免許の分割(Disaggregation):全周波数帯3MHzを分割し、その半分すなわち15MHzをFCCに返還して当初の落札金額の半分の免除を受ける。ただし、有利な営業区域だけをピックアップして不利な分についてのみ返還することを防ぐために、いくつかの制限(たとえば同一MTA内については、すべてのBTAについて返還するか返還しないか、いずれか一方だけの選択を許す。たとえば、中心都市地域の分だけを手元に残し、周辺の非都市地域の分を返還することは認めない)を設ける。また、上記分割オプションを選択した企業は、ある一定期間(たとえば2年間)、返還地域における免許の取得や再オークションへの参加を禁止される。 (iii)義務免除(Amnesty):入手した免許すべてを一括して返還し、FCCに対する支払義務の免除を受ける。ただし、頭金については免除されない。すでに支払った分割払い分は返還される。また後に、返還分の免許を入手すること、再オークションに参加することは自由である。なお、本オプションは、事業者が入手したすべての免許を一括して返還するか否かを選択することを要求しており、下記例外を除いて分割を認めていない。その例外とは、事業者が5年以内の建設義務を、本文書発行日である1997年9月25日までにすでに達成している場合である。 (iv)一括支払(Prepayment):1998年1月15日を期限として、自己の落札した任意の免許を、落札名目額(落札割引適用前)を支払って購入することができる(現在価値計算も適用されない)。その代金の一部として、すでに支払った頭金の70%を充当することができる。この場合、同一MTA内で複数のBTA免許を保有している場合には、それらのすべてについて一括購入を選択しなければならない。一括購入しない免許はFCCに返還される。返還免許の再オークションに参加することはできない。(上記頭金の30%は実質的にペナルティとしてFCCに納入されることになるが、Hundt委員長は、この率が過大であるとしてこれに反対した。他のFCC委員は、頭金は入札額の10%であるから、実質上のペナルティは入札額の3%になり、これはオークション終了後辞退のペナルティ3%とバランスがとれていると主張している。)  上記(i)〜(iv)のオプションについて、Cブロック免許保有者は、定められた期日までにどの項目を選ぶかについてFCCに書面で通知し、必要な場合(入手免許を返還する場合を除くすべての場合)定められた期日に支払を開始することになる。選択項目の届け出期日および支払開始期日について、SRO-FNPRMは、1998年1月15日と同3月31日と定めていた。しかしながら、1997年秋に委員長を含めてFCC委員の大部分が交代し、また、この期間多数の事業者から上記期限の延長申請や、FCCによる上記措置の差し止め訴訟が出され、結局、FCCはそれぞれの期限設定を改めて命令が出されるまで延期する措置をとった。この間、(次節で述べるように)破産状態に到るCブロック免許保有企業も出現し、1998年夏まで、Cブロック問題は解決の途を見出せないまま時間が経過する事態となった。  1998年7月27日に到り、FCCはCブロック免許保有者の代価支払問題について、前述のSRO-FNPRMの実施を進める措置をとった。すなわち、FCCは無線通信局案件WT97-82において「公示(Public Notice)」(DA98-741)(April 17, 1998)と「第4報告・命令(Fourth Report and Order)」(FCC98-176)(July 27, 1998)(FRO)を発行し、上述の期限を具体的に定めて、Cブロック問題の解決に向かう一歩を踏み出した。ただし、懸案となっていた破産Cブロック免許保有事業者については、これを同措置と切り離し、破産状態にない一般のCブロック免許保有者のみを対象とすることとした(*7)。  FCCはFROにおいて、まずSRO-FNPRMで示された4項目に関する選択期限を1998年6月8日に定め、支払開始期限を1998年7月31日に定めた。また、同命令の発行までのコメントや申請等を考慮して、選択対象となる4項目の一部を緩和し、Cブロック免許保有事業者にとって有利な方向に変更した。またFCCは、本FROにおいて、SRO-FNPRMに定めた4項目に関するCブロック免許保有事業者による選択届け出の実施状況を確認し、同選択の結果FCCに返還された免許の再オークションを1999年3月23日に実施することとしている。FCCによれば、同再オークションにおいては、推定264免許がオークションの対象になるとのことである。オークションの規則については、実質的に初回Cブロック・オークションの規則が踏襲される。しかしながら形式的には、初回のオークションがFCC規則第24部(PCS Service)に拠ったのに対し、その大部分が新たに制定されつつあるFCC規則第1部(一般的な手続き方式)に拠るものとされている。(すなわち、規則第1部のオークション方式は、広帯域Cブロック免許の再オークションだけでなく、他の目的のオークションにも適用されるべきものである。)なお、今回SRO-FNPRMにしたがって初回Cブロック・オークションにおいて落札した免許(の一部)を返還した事業者は、前払金(upfront payments)の支払額計算方式において、他の再オークション参加企業と比較して若干不利な取り扱い(前払金計算比率が高くなる)を受ける。  本FROによるCブロック免許の再オークションの決定は、本問題がFCCの企図する方向に進みはじめたかのような印象を与えるが、しかしながら実際には、Cブロック全体の免許の過半(サービス人口による計算)が破産(大規模)事業者の手中にあり、1998年夏の時点でそれがどのような処置を受けるか、まだ分かっていなかった。このため、同FROに対するマスコミの反応、上下両院の関係委員会委員の意見も好意的ではなかった。しかしながら他方、大多数の小規模事業者(しかし、それらが保有する免許を合計してもCブロック全体のサービス人口の半分に及ばない)は、FCCの命令にしたがって、FROの設定した期日までにSRO-FNPRMの4項目の一つを選択している。そのうち少数の事業者は支払義務免除申請等を出しているが、FCCは特別の事情ある場合を除き、免除や期限延期を認めていない(たとえば、FCCの「命令」(FCC98-290)(October 29, 1998))。全体として、Cブロックは、破産事業者を除き「正常化」への復帰傾向を強めながら本稿執筆時点(1998年12月)にいたっている。(また次節で述べるように、1998年秋の通信法改正によって、破産事業者についても、同時点では「正常化」の見通しがつくようになった。) c. Cブロック事業者の破産と1998年の通信法改正  広帯域PCSのCブロック免許代金支払の問題を混乱させ、1995年末にスタートした同オークションが、丸3年を経た1998年12月まで決着していないという結果を招いた主要な理由の一つが、Cブロック・オークションの落札者すなわち同免許保有者の「破産」(あるいは、「破産」から生ずる結果を予想してとられた行動)である。1993年に改正された「通信法」のオークション条項(309(j)条)と「破産法」との間には、重大なギャップ(矛盾)が存在していた。そのため、Cブロック免許保有企業の一部(企業数では数社であるが、サービス人口当たりではCブロック全体の過半数を占める)が、意図的あるいは非意図的にこの矛盾に乗ずる結果となり、FCCはCブロック問題に対処するためのパワーを大幅に減殺された。  1998年秋の1999年度連邦予算関係法(Omnibus Budget Act of 1998)の中で、通信法「309(j)条」改正案が難産の末に成立し、上記ギャップがようやく埋められることになった。その結果FCCは、今後においてCブロック問題に対処するために必要なパワーを入手できたので、同問題は1999年初頭から解決に向かうものと予想される。本節においては、破産法との関連で、Cブロック免許代金支払について生じた問題について概観する。  まず、米国連邦法制における「破産」の処理について簡略に述べる。周知のように、企業の「破産」とは、企業が負債の支払義務を履行できない事態が生じた場合、該当企業自らの、あるいは他者の宣言によって、「破産」という特別の状態が発生したことを公的に認め、破産法の定める特別の手続にしたがってその処理をおこなうことを意味する(*8)。  企業破産が発生すれば、通常はその企業の保有する全資産をもってしても(全資産を売却・処分しても)負債を支払うことができない。したがって、破産の処理において重要な事項は、破産企業の所有する資産をどのように評価し、処分し、その結果を債権者間で分配するかである。債権者間の公平を保つため、破産時においては、該当企業の資産の処分は一時凍結される(破産時における「破産企業あるいはその資産の保護(protection)」と呼ばれる)。もとよりそれは、一部の債権者が、「抜け駆け」によって破産企業の資産を、他の債権者の犠牲において自己のものとすることを防ぐための規定である。資産の評価・処理、債権者への分配の仕事は、米国では「連邦破産裁判所(Federal Bankruptcy Court)」の判決にしたがっておこなわれる。破産裁判官(Bankruptcy Court Judge)は、破産処理の手続きを合理的に、かつ敏速に進める専門家である。  周波数免許を落札し、代金の分割払いが認められた事業者に対しては、頭金の支払後FCCから免許が交付される。交付された免許はその企業の資産となり、他方その企業は、FCC(米国政府)に対して免許代金という負債を分割払いの形式で負うことになる。このような企業が「破産」状態に立ち至った場合には、その企業の保有する免許は、他の資産と同様に企業資産の一構成要因として処理される。FCCは、他の債権者と同格の立場で、破産処理規定にしたがってその企業の資産処分金額から分配を受ける資格を持つことになる。つまり免許「資産」はその企業の負債の返済に当てられる資産の一つにすぎず、FCCが破産企業に対して持つ権利は、資産としての免許の価値によって左右される。通常の常識からすれば、FCCは債権者の中でも特別の地位を持ち、同企業の保有する免許という資産に対して特別の「請求権」を持つべきであると考えられるが、連邦破産法の厳しい規定は、FCCが債権者として特別の地位を持つことに制限を加えているのである(*9)。  もとより、国民の利益を代表するFCCとしては、このような事態を容認できない。もともとオークションでは、入札企業が入札対象物を入手するために代価を付けるのであるから、その代価が支払われることは最初から当然のこととして前提されている。自分で支払うことができない金額を自分から提示するのは自己矛盾であるという前提がある。しかしながら、オークションと分割払いという2つの制度の結合から上記のような事態が発生し、FCCは対策に3年間苦慮することになったわけである。  1993年の通信法改正時に、あらかじめこの可能性を予想し、改正内容に適切な条項を設けておけば、もとよりこの問題は生じなかったであろう。しかしながら、通信法の改正が議会で検討されていた時期には、オークションにともなう他の問題に関心が集中しており、オークション代金に分割払いにを認めた場合に生ずる「破産法」規定とのギャップは取り上げられなかった。通信法改正後、FCCがオークション実施規則を制定している期間において、当事者の誰かがこのギャップに気づいたのであろう。しかしながら、破産法に法律条文として明示されている手続きを否定する内容をFCC規則として制定することは不可能である。もし制定しても、訴訟になれば、当然FCC規則は否定されてしまう。あるいは、FCCの主たる関心は、オークションが順調に機能するか否かというシステム面・経済面にあり、破産法とのギャップから生ずる法律問題面には全く向けられなかったのかもしれない。実際、Cブロック・オークション規則制定プロセスの中で分割支払という具体的な優遇策が提示されたのは、A・Bブロック・オークション実施の前後のことであった。  Cブロックのオークションが予想を上回る高入札額で進行した1996年初頭において、FCCは、過大金額の入札が支払不能を招来する可能性を認めた。Hundt FCC委員長は、1996年2月に、(破産法とのギャップには触れることなく)分割支払の約束を果たさない(すなわち支払不能(default)状態になった)事業者は、FCCオークション規則にしたがって、交付された免許をFCCに返還しなければならない旨を強調した。  上記の10カ月後、Cブロック・オークションの落札者について支払困難が生じ、FCCが支払期限の一時的あるいは無期限猶予を考慮していた1996年12月中旬に、FCCのWilliam Kennard首席法務官(現在のFCC委員長)は、免許条件の細目についてFCCの見解を発表した。その中で同氏は、免許保有者が頭金や免許代金の支払不能状態になったとき、免許保有事業者への出資者が、事業者に代わって支払うことは認められるとしている。しかし、そのことによって免許自体が自動的に出資者に移転するものではない旨を述べた。また、これに加え、免許保有者が破産し、破産法の規定にしたがって免許が破産管財人の管理下におかれ、その結果として最終的に免許が第三者に移転された場合にその免許が有効になるためには、譲渡を受けた事業者がCブロック・オークションの参加資格を満たしていなければならない旨を明らかにした。この時点でFCCは、Cブロック免許保有者が破産する可能性を公式に認め、対応策を明らかにしたわけである。  翌1997年4月7日に、Pocket Communications社はボルチモア市において破産を申告し、「破産法」下の債務者保護条項に訴えて、同社がFCCに対して負っている落札金額の支払期限延期を求めた。同社は、Cブロック落札事業者の中では金額的にトップから2番目にあり、FCCへの負債に加え、通信機器メーカーにも負債を負っているとのことであった。  FCCは、1997年9月に議会に提出した報告書(次節で説明する。FCC(1997))の中で、以下のように述べている。Cブロック免許保有者の破産から問題が生ずる基本的理由は、「周波数免許」という公的資産がオークションによる「販売」の対象となった結果、あたかも通常の私有財産と同一であるかのような性格を持つに至り、「連邦破産法」の条項が一般の私有財産と同一水準で適用されることにある。FCCは、同報告書の中で、「周波数免許に関する連邦破産法の条項に不備がある。周波数免許に対しては、破産法の保護条項の適用に制約を設け、FCCが破産状態になった免許保有者に対し、免許をFCCに返還させることができるように法律を改正するべきである。」との意見を述べている。  1997年夏に、議会が1998年度の予算を審議していた期間、FCCおよび「大統領府予算局(OMB)」は、複数回にわたって上記趣旨の法案を議会に提出した。しかしながら議会の側では、「FCCの都合による破産法改正」に強い難色を示した。破産法関係の法案は上下両院の司法委員会(Judiciary Committees)で審議されるが、委員長をはじめとする大部分の委員は、「FCCの主張にしたがって破産法の対象となる財産の保護原則に例外条項を求めると、破産法の中での一貫性が失われるので、望ましくない。周波数免許に関する問題は、破産法の側に改正を押しつけるのではなく、FCCが適切な処置をとることによって解決するべきである。たとえば、将来のオークションにおいては、分割払いを認めず、すべて一時払いのオークション(cash auction)で実施すればよい。」との意見であった。両院の商務委員会・通信小委員会の委員長もこれに同調した。その結果、破産法の改正によるCブロック問題の解決は、1997年夏の時点では望み薄の状態になった。マスコミ筋の予想は、「Cブロックの現状は泥沼状態であり、将来どれだけ訴訟が出てくるか予想もつかない。解決の道筋はまったく見えていない。」であった。  議会が破産法改正案を通す可能性がほとんどないことが明らかになった1997年8月において、前述のようにFCCは、Cブロック免許保有者に4項目の選択肢を与え、その1項目を選ぶことによって必要な「救済」を図る方策を実施することにした。すなわち破産事業者の問題は棚上げして破産裁判所の判決に任せ、それ以外の事業者に対する処置を急いだわけである。しかしながら、この時点においては、Pocket Communications社に続いて破産申請に踏み切る事業者が多数出てくる事態も予想され、問題解決の糸口は見えていないという受け取り方がなされていた。  1997年11月3日に至り、Cブロック免許保有者であるGeneral Wireless社は、ダラス市において破産を申告した。これはCブロック免許保有者としては2番目の破産のケースであり、同社はFCCに対し計9億5,000万ドルの負債を負っている。  1998年に入り、FCCが一般のCブロック免許保有者の救済策の実施に踏み切りつつあった時期に、FCCはまた、破産状態にあるPocket Communications社の再建策と、それにともなう同社保有の免許の処置に関して提案をおこなった。主たる内容は、新たに事業会社を設立してPocket Communications社の免許を受け入れさせ、新会社に対しては、FCCに対する負債を当初の条件よりもゆるやかな条件で分割納入させるものである。この提案に対し、下院商務委員会Thomas J. Bliley委員長、John Dingell同委員会野党リーダー、同通信貿易消費者保護小委員会W. J. Tauzin委員長は、それぞれ反対意見を表明し、FCCが一般のCブロック債務者に対しては不十分な援助しか与えないのに、Pocket Communications社に過大な援助を与えようとしていることは望ましくないと述べた。  1998年5月4日に、ダラス市の破産裁判所において、General Wireless社(GWI)の破産に関する判決が出された。同判決によれば、GWI社が保有するCブロック免許の「価値」は、1.66億ドルであると評価された。同社は、Cブロック・オークションにおいて、計10.6億ドル(ただし、10年分割払い)の入札をしており、支払分1.06億ドルを除いて、現時点で9.54億ドル(10年分割払い)の負債をFCCに対して負っている。すなわち、本判決は、9.54億ドル(10年分割払い)であった同社債務の価値を、一挙に0.6億(=1.66−1.06億)ドルに引き下げたものである。Cブロック免許の価値がこのように大幅に減少する形で再評価されたことに対して、同判決はいくつかの理由を挙げている。客観的な指標としては、Cブロック後に実施されたFブロックの入札データを使用したとのことである。FCCのKennard委員長は、同判決に強い不満の意を表明し、「本判決は、米国の納税者から多額の金額を1事業者に贈与するもので、とうてい承服できない。」とし、控訴する意向を示した。他方、GWI社は同判決を受け入れ、免許条項にしたがって、Cブロック・サービス供給設備の建設を進めると声明している。  本判決に対して一般のマスコミは、これがFCCにとって大きな打撃となるであろうと報じた。1997年9月に発表され、98年夏から実施が予定されているCブロック免許保有者に対する救済策は、一時進行し始めたように見えるが、本判決によってその将来が不明になったとする意見が多い。一般の免許保有者も、GWI社の破産に関する判決結果を見て、一旦は破産を宣言してCブロック免許の再評価を受け、「新しく出直す」ことが得策と考えるであろうからである。直接に破産の途を選ぶ事業者もあるだろうし、ダラス破産裁判所の判決を理由として、FCCに免許代金の「再評価」を要求する事業者も出てくるであろう。実際に判決の翌週には、相当数のCブロック免許保有者がダラス破産裁判所の判決の線に沿った免許代金の減額を要求したとのことである。また、小規模事業者を含むCブロック免許保有者の一部が「Cブロック同盟(C block Alliance)」を形成し、FCCに対して1998年6月8日に設定されているFRO 4項目の選択期限を延期するよう要求した。  しかしながらFCCは、1998年8月に至って、FRO 4項目の選択をCブロック免許保有事業者に命じ、破産事業者についてはその保有免許の処置を保留したまま、Cブロック問題の解決策を強行する方向を示した。他方FCCのKennard委員長は、本問題の基本原因が破産法規定の不備にあるとして、議会に対し規定整備を強く求める旨の声明を発表した。  1998年6月から、議会は1999年度予算の審議に入り、同予算のために提出されている諸法案とともに「破産法改正」案も検討した。前年度においては、「破産法の統一性(integrity)」を損ずるという理由で、同提案は強い反対にあった。しかしながら1998年度においては、同法案の審議過程に関するくわしい情報は外部に出されなかった。実質上の審議が裏面でおこなわれていたものと推測される。当然のことながら、FCCは強力なロビーイングを上下両商務委員長、通信小委員長におこなったであろう。  下院通信小委員長W. J. Tauzin議員は、9月末にFCC幹部に対しておこなった予算関係ヒアリングの席上で、Cブロック問題の処置に関するFCCの方策を強く批判した。Tauzin議員は、同ヒアリングの席上で「Cブロックは『規制における悪夢(regulatory nightmare)』になってしまった。FCCは、規則を事後的に書き直し、FCCに対する内外の信頼を失わせた。このような状態では、議会はFCCにCブロック問題を任せることはできず、自ら手を下して処置しなければならないかもしれない。」と述べた。また、同ヒアリングに提示された資料によれば、1998年9月15日現在、Cブロック・サービス対象地域の人口の61.4%(1.55億人)をカバーする事業者が破産状態にあり、同15.06%(3,800万人)についてCブロック周波数の半分15MHzがFCCに返還されて休眠状態にあり、13.31%(3,300万人)についてはCブロック全周波数30MHzが返還されて休眠状態にあり、8.35%(2,100万人)分の免許だけが正常に発行・運用されていると報告された。  1999年度予算の議会審議は、審議期限の1998年9月末を過ぎても合意決定に達せず、同年10月に審議を持ち越した。同年11月2日には、FCCが推進中のCブロック免許返還分の再オークション予定を1999年3月23日以降に延期するべきであるとする申請が、Cブロック免許保有事業者から出された。申請の理由は、一部のCブロック事業者が連邦破産裁判所の審議下にあり、それらの判決によって、Cブロック免許の価値が大幅に変動するので、オークションは判決が出揃うまで延期するべきであるとするものである。  連邦議会における1999年度予算の審議は、審議期限の9月末を過ぎて3週間も新年度にずれ込んだが、結局、1998年10月19日に両院協議会の合意が成立し、「1999年度統合予算・緊急補正予算授権議案(Omnibus Consolidated and Emergency Supplemental Appropriations Act for Fiscal Year 1999)」(H.R.4328)が議会に報告され、可決の上で大統領に送付された。問題の「連邦破産法改正」案については、関係者の予測に反して、同予算案関係の法律の中に入ることになった。その経過についてTelecommunications Reports誌(1998年10月26日)が伝えるところによれば、保護下にある破産企業の周波数免許に対する「第一順位優先権」をFCCに与える旨の法律改正が盛り込まれた。上院予算委員会Ted Stevens委員長(前議会までは上院商務委員会・通信小委員会の有力メンバーであった)は、「3,000ページに及ぶ予算案・関連法律案を充分吟味できた議員はいない。(誰もくわしいことを知らない。)」旨のコメントを発表したとのことである。また、同議員補佐が伝えるところによると、「『破産法の修正法』は、連邦政府印刷局(US Government Printing Office)が公式議会記録を印刷する際の「印刷エラー」の結果、同記録中に残って成立してしまった。」とのことである。  同修正法は、連邦議会公式記録(Congressional Record--House)1998年10月19日付に収載されている。実際の改正法は、破産法でなく通信法309(j)(8)条に(D)項を追加しており、その部分には、「309条(j)(8)(D)債権保護(protection of interests)」の表題が付けられている。追加改正内容は、「破産法・合衆国法典第11編(Title 11, United States Code)の規定による破産事業者の資産保護は、同破産法の規定にかかわらず、本通信法の定めるかぎりにおいて、かつ本通信法の定める内容を打ち消す破産法等の条項が及ばないかぎりにおいて、FCCの発行する周波数免許に適用されない。」ことを定めている。その結果、「FCCは、破産事業者の保有する周波数免許について、完全な第一順位の権利を有することになる。」と規定しており、「本規定は、法律改正時点で係争中のすべての案件(控訴中であると否とを問わない)に適用され、また、同時点以降に生ずるすべての案件に適用される。」としている。(上記H.R.4328に関する議会記録のうち、第A部統合予算案(Division A--Omnibus Consolidated Appropriations)、「財務省および他政府関係の授権予算法、1999年(Treasury and General Government Appropriations Act, 1999)」第6編別置条項(Title 6--Offsets)、第129条(Section 129)を参照。)上記改正法はその形式から見て、大統領府提出の予算原案ではなく、議会の審議中に議員が付加した寄せ集め条項の部分に入っている。通信法の改正条項である同129条は、その中でも別置条項(Offsets)というタイトル下にあり、本来は、両院協議会で合意するH.R.4328から除去されるはずであったとする外見を持っていないでもない。いずれにしても同129条は、時間不足の中で大量の予算案と関係法律案を審議した両院の予算委員会と両院協議会における「混乱」の中で立法されたものであった。改正法の持つ異例の形式が、FCCやCブロック事業者(あるいはその代理)から強烈な、しかも反対方向のロビーイングを受けていた議員の意図的な工作であったか、あるいは伝えられるように「連邦政府印刷局のプリントエラー」であったかは、明らかではない。本稿筆者は、おそらくその前者であったものと推測する。  いずれにしても、通信法309(j)(8)条への本(D)項の追加は、FCCに強力な権限を与える。現在および将来のすべてのケースにおいて、FCCは、破産事業者の所有する周波数免許について疑問の余地のない第一順位の優先権を確保できるのである。したがって、高価格で落札した免許を、「破産」という手段に訴えて実質上それよりも低い価格で「入手」できる機会は消滅したことになる。この結果、Cブロック免許保有事業者は、大要において、FCCがFROで提示した方策にしたがって4項目の中から選択をおこない、必要な免許代価を支払うことになると予測される。本稿の執筆時点(1998年12月)までに、同法律改正がもたらす具体的な動きはまだ現れていない。しかしながら、FCCは、問題の発生原因を100%除去することに成功したので、Cブロック問題は、今後において急速に収束に向かうものと予測される。仮に1999年春ごろまでにCブロック周波数の大部分が再オークションによって配分されることになれば、結局当初のCブロック・オークションが終結した1996年春から満3年を経て、ようやくCブロック周波数を使用してサービス開始に向かう態勢が整うことになる。 E. 周波数オークションの全体結果と関連事項(1994-1998)  以上で、1993年の通信法改正に基づく周波数オークションのうち、狭帯域PCSおよび広帯域PCSのA、B、Cブロックに関する分について説明した。もとより周波数オークションは、PCS関係だけでなく、直接衛星放送(DVS)、ビデオ・サービスを含む他の目的のためにも実施されている。また1993年以降も周波数オークションに関して法律制定が続いており、1997年には、周波数オークションに関する通信法の大幅改正が再度実施された。これらはいずれも興味深いトピックスであるが、本稿では詳しい説明を省き、その概略のみを解説する。 1. オークションの全体結果 a. オークション(17回)の概要と将来計画  1993年の通信法改正およびその後の部分的な立法したがって、FCCは1998年3月末までに、計17回(実質上は16回)の周波数オークションを実施した。その概要が表1にまとめられている。  上記17回のオークションは、PCSをはじめとするいくつかのサービス供給を目的として実施された。オークションに供された周波数帯域幅の合計は、2434MHz(ただし、1300MHzは第17回オークションLMDS用の分)に上り、また、落札金額の合計は2,362億ドル(当初名目落札額の合計であり、分割払い分も含む)である。FCCによれば、1997年8月末までに、落札額のうち、キャッシュベースで120億ドル余が連邦政府に納入されたとのことである。これは1997年度米国連邦政府収入額1.579兆ドルの0.76%にあたり、また同年の米国GDPの0.15%にあたる。  上記17回の周波数オークションは、目的とするサービスの性質により、以下の5種類に分けることができる。それらは、移動電話用、直接放送衛星用、双方向データ・サービス用、広帯域映像サービス用、自由使用である。 (i) 移動電話用周波数オークション  このカテゴリーに入るのは、オークションNos.4、5と10、7、11、12、16である。その主要な部分は、広帯域PCSの6ブロック計120MHzであるが、これに加え、従来のセルラー事業の補完分(オークションNos.12、16)や、ディスパッチ業務(タクシー・トラック業務無線等)から移動電話への参入分(オークションNo.7)も含まれている。サービス人口・MHzあたりの周波数価格は、0.04-1.33ドル/人・MHzの範囲に及んでいるが、その中で広帯域Cブロックの1.33ドルが最高である(ただし、前述のように、この金額は10年間分割払いを含んでおり、また、同ブロックの入札額は過大であったと考えられている)。サービス地域人口1人1MHzあたりキャッシュベースで20-50セントというのが、移動電話サービス用周波数の市場価値であろう。 (ii) 直接放送衛星用周波数オークション  衛星放送は、全国一律に同一周波数を使用するサービスであり、同期間においてFCCは、直接放送衛星(DBS: Direct Broadcast Satellite)用(Nos.8、9)と、ディジタル音声サービス用(No.15)の3回のオークションをおこなった。DBSは、テレビ番組等のビデオサービスを供給し、ディジタル音声放送は、文字通り音楽等の音声サービスである。DBSでは、計500MHzまでの周波数帯域幅を事業者が多数のチャネルに分割して使用する。ディジタル音声放送サービスの帯域幅は計25MHzであり、1チャネルあたり125kHzである。DBSの周波数の価値は、0.06-0.62セント/人・MHzであり、音声放送用のそれは2.74セント/人・MHzである。当然のことであるが、放送用電波の価値は、(全国一律使用かつ一方向であるため)移動電話のそれよりはるかに低い。 (iii) 双方向データサービス用周波数オークション  このカテゴリーの主要サービスは狭帯域PCSであり、全国をサービス領域とするオークションNo.1と、地域別サービスであるオークションNo.3が実施された(ただし、前述のように、地域別サービスも結局全国各地域の同一周波数帯の大部分の免許を同一事業者が落札したので、全国サービスと同一の結果を生んだ)。狭帯域PCSサービスは、大部分双方向であるが、一方向サービスもある。使用目的としては、従来型のページング(ポケットベル呼び出し)から、電子メール等を含む双方向データ通信に広く使用することができる。周波数価格は諸サービス中最高で、3.1-3.46ドル/人・MHzに上る。周波数幅は狭いが、同一周波数を全国規模で使用することが可能であり、この性質は(放送を除く)他のどのサービスにも認められていないので、狭帯域PCS周波数の価値が高くなったのであろう。  なお、上記に加え、双方向ビデオデータ・サービス(IVDS)と呼ばれる目的のために、MSAごとに計1MHz(0.5MHzを2チャネル)の周波数が割り当てられ、狭帯域PCS全国サービスと同時に、従来型の発声方式(oral outcry)でオークションが実施された(オークションNo.2)。ビデオサービス用0.5MHzという周波数帯域幅に対し、その価格は、0.85ドル/人・MHzであった。双方向ビデオデータ・サービス用周波数のオークションは、サービス地域をより細分化した上でもう一度計画されていた(オークションNo.13)が、1997年1月29日になって、延期が発表された。 (iv) 固定広帯域無線サービス用周波数オークション  このカテゴリーのサービスは、無線ケーブルテレビ(MDS)(オークションNo.4)と、ワイヤレス・ローカルループ(LMDS)用(オークションNo.17)の2回行われた。いずれも固定広帯域無線サービスであるが、無線ケーブルTVが一方向であるのに対し、LMDSは双方向である。また、MDSには6MHz 13チャネルの計78MHzが割り当てられ、LMDSには150MHzから1,150MHzにいたるまでの大小のチャネル計1,300MHzという巨大な周波数幅が割り当てられた。MDSについては、6.7セント/人・MHzというオークション価格であったが、LMDSのオークション価格は、予想よりもはるかに低く、0.18セント/人・MHzであった。ワイヤレス・ローカルループ・サービスは、もし成功すれば現在の固定電話アクセスを代替し、個別ユーザに双方向広帯域サービスを供給することができる。しかしながら、現在は技術開発が進行中であり、そのため将来の見通しが立たないことから、極端に低い周波数価格となった(もし周波数資源を土地にたとえるならば、LMDS用周波数はまだ広大な未開地であり、将来ここに大都市ができるかもしれないが、その見通しがたたず、今のところ二束三文で売買されている状態にあたる)。LMDS周波数用のオークション結果は、上記の理由で「失望オークション」と呼ばれている。 (v) 自由使用周波数オークション  これは、「無線通信サービス(WCS)」と呼ばれる用途を定めないサービスであり、5-10MHzのチャネルから構成される計30MHzが割り当てられている。使用目的が制約されないことから、そのオークションは高価格を期待されていたが、実際の結果は、0.18セント/人・MHzという低価格に終わった。LMDSと同じく、WCSについても具体的なサービス・イメージがまだ成立せず、「未開の原野」状態であることが理由であろう。また、WCSやLMDSのオークションが、広帯域PCSのCブロック・オークションが問題を生じ、FCCのオークション制度自体に疑念が広がっていた時期に実施されたことも低価格に終った理由であろう。  次に表2は、FCCが今後2002年までに予定している周波数オークションである。米国議会は、1997年夏に通信法の309(j)条を改正し、(後述のように)1993年改正に基づく周波数オークションが大要においては成功であったことを認め、それまでオークションの対象となっていなかった放送関係の周波数も含めて、FCCの周波数オークション実施権限を2002年まで延長した。表2のオークション予定は、1997年の通信法改正時に、FCCに対して義務づけられたものである。表2の最初の4項目の周波数は、これまで政府機関によって使用されていた周波数を民間使用に転換し、オークションにかけるものである。また、(後述のように)ディジタル放送の発足にともなって、同放送用周波数が従来のアナログ放送事業者に(基本的に無償で)交付されるが、表2の最後の2項目は、その見返りとして、放送事業者から返還される予定の周波数のオークション計画である。その第一項目(表2の第5項目)は計78MHzで、現在のテレビのチャネル2からチャネル59に使われている周波数を使用する。また、その第二項目(表2の第6項目)は、現在のテレビのチャネル60から69までの分36MHzであり、これはより早い時期のオークションが予定されている。  これらのオークション予定は、1997年夏の予算案審議時に、1997年から5年間の連邦財政の収支均衡を実現させる手段として、ある意味では「無理に」計画されたという経緯がある。周波数の「叩き売り(dumping)」との批判も聞かれる。表1の結果からも見られるように、1995-96年ごろに比べ、通信事業者の「オークション熱」は冷却の方向にあり、最近における周波数オークション結果は、いずれも予定よりもはるかに低い入札額に終わっている。  連邦政府の財政収入確保の立場からしても、技術やサービスの見込みが立たない早すぎる時期に周波数をオークションにかけて、低い入札額しか実現できない結果をもたらすよりも、数年間待ち、事業の可能性が固まったところでオークションにかければ、はるかに高額の収入を期待できる。早期のオークションが、新技術・サービスの開発を促進するか否かも不明である。また、早期のオークションは、所得分配の不公平をもたらす可能性が大きい。これらの点を考えると、表2のオークション予定はあくまで「予定」であり、実際にこのとおりにオークションが実施されるか否かは疑問であると考えるべきかもしれない。もちろんオークションの実施自体は通信法によって決まっているので、表2の予定オークションを中止・延期するためには、通信法の再改正などの立法措置が必要であり、FCCの一存でできるわけではない。これらのことに関しては、将来の展開に俟ちたい。 b. 移動電話と広帯域PCSサービス (i) 移動電話事業の概況  本節では主としてFCC(1998)にしたがって、米国における移動電話事業の概況と、(その一部である)広帯域PCS展開の現状を説明する。  米国では現在のところ、移動電話(携帯電話)事業は、1993年の通信法改正時に設定された「商用移動無線サービス(CMRS: Commercial Mobile Radio Services)」と呼ばれる事業種別に属している。FCCの担当部局は、「無線通信局(WT: Wireless Telecommunications Bureau)」である。  CMRS内では、3種類の事業サービスが区別されている。移動電話(mobile telephony)、無線呼び出し・メッセージ伝送(paging/messaging、日本のポケットベルにあたる)、車両等運行管理(dispatch、タクシー・トラック等の車両運行管理)である。ただし、自営無線(private radio)による車両運行管理はこのカテゴリーには入らない。商用サービスとして、他社の車両運行管理等のための無線サービスを提供する事業のことである。ここでは、これらのうちの主な種別、すなわち移動電話について述べる。  移動電話の主力は、今日でも、1980年代中葉から展開してきた「セルラー電話」である。セルラー事業では、典型的には全国各地域でそれぞれ20MHzを保有する2事業者(計40MHz)がサービスを提供している。米国では、日本に比べ、セルラー電話が比較的早い時期から成長したが、成長速度自体は日本よりも低かった。セルラー電話は当初ビジネス用に普及したが、1990年代に入って次第に個人加入が増大し、1997年末において、約1億人の加入者を持つに至っている(*10)。最近の加入者に対して、セルラー事業者はディジタル方式の移動電話を提供しており、ディジタル化率は上昇している。しかしながら、1997年末時点でディジタル化率は20%程度であり、日本のそれよりも低い。上記のように、米国の移動電話とりわけセルラー事業は、10年以上の年月をかけて(日本に比べるとはるかに)ゆるやかに成長しており、事業界全体の変動も日本ほど激しくないことに注意されたい。  上記のセルラー電話に加え、新しい移動電話のサービス形態として登場したのが広帯域PCSと「ディジタルSMR」と呼ばれるサービスである。SMRは、Special Mobile Radioと呼ばれるサービスであり、元来車両等の運行管理用の無線通信サービスを供給する事業であった。SMRはアナログ通信技術を使用していたが、1事業者が複数の顧客企業の運行管理用通信サービスを供給する関係上、ある程度の交換機能を備えていた。SMR分野の代表的事業者は、Nextel Communications社である。同社は最近において、本来のSMRサービスから自己保有の周波数の一部を使用してディジタル移動通信に進出する意欲を見せ、実際にディジタル電話サービスを提供するようになった。  上記の結果、移動電話サービスとしては、セルラー電話(アナログおよびディジタル)、PCS(ディジタル)、SMR系電話(ディジタル)の3方式が並立している。セルラー電話は、前述のように全国各地域で20MHzを保有する2事業者が存在するので、計40MHzの周波数帯域を持つ。通常の場合、セルラー電話の事業者のうち、1社はBell系の移動電話会社であり、他の1社がそれ以外の移動電話会社である。PCSは、A・B・C・D・E・Fの6ブロックで、計120MHzの周波数帯域が米国各地に割り当てられている。SMR系電話事業については、(本来のSMR事業用を含め)計10MHzが同じく全国各地で割り当てられている。これらを合計すると、移動電話用として、基本的に全国各地で計170MHzの周波数が現在使用可能となっているわけである。  上記周波数のうち、セルラー電話用40MHzは、中規模以上の都市地域においてはすでに使い尽くされており、セルラー事業者は、アナログ方式からディジタル方式に転換することによって周波数の使用効率を高め、より多くの加入者を収容することに努めている。SMR系ディジタル電話についても、周波数の不足がちである大都市において10MHzに近い周波数が移動電話のために使用されているものと推定される。これに対し、新しく周波数を割り当てれたPCSは、当然大都市地域から展開を図ることになる。しかしながら、全くのゼロからスタートする新しい事業であるため、アンテナや通信設備の建設に時間と資金を要し、その展開スピードは、(日本の携帯電話やPHSに比べ)ゆるやかである。  移動電話全体の全国展開状況を地域別に概観しよう。まず、大都市地域(ニューヨーク、シカゴ、ロサンゼルスをはじめとする人口百万単位の大都市地域)においては、全部で5あるいは6事業者が移動電話サービスを提供している。すなわち、これらの地域においては、旧来のセルラー2事業者とSMRのNextel社に加え、新しいPCS事業者として、2社あるいは3社が、(自己の周波数を活用して)すでにサービス提供を開始している。(すなわち、ユーザから申込みがあれば、PCS移動電話を提供できる状態にある)。これに対し、非都市地域においては、2事業者によるサービス提供が典型的である。  移動電話全体として見ると、1997年末における加入者総数は約5,500万人であり、これは人口の約20%にあたる。また、1997年の移動電話事業の収入は約270億ドルであり、これは全テレコム事業収入の18%を占める。10年前の1987年末おいて、移動電話の加入者は平均毎月97ドルを支払っていたが、1997年12月においては、半分以下の43ドルである。移動電話サービス価格が大幅に低下したこと、移動電話の使用者がビジネスだけでなく、一般家庭に拡大したことが理由である。移動電話の「価格指数」を算出することは困難であるが、1994年から97年までの3年間に、約25%の価格下落が観察されたとする報告がある(FCC(1998)、p.20)。また、あるPCS事業者によれば、固定電話と移動電話の1分あたりの通話料の比率は、PCSオークション前は13対1であったが、同オークション後には、これが5対1まで縮小したとのことである。  次に、携帯電話の、サービス地域人口と保有周波数(必ずしも実際にサービスを提供していることを意味しない)を概観する。今回のPCSオークションが実施される以前は、旧Bell系の移動電話事業者がセルラー事業の大手であった。それらはAT&T、SBC Communications、Bell South、Bell Atlantic、Air Touch Communications等であり、これにGTE、Mobil Netが加わっていた。PCSオークションによって大量の周波数が配分された後は、序列が一変した。セルラー・PCS・SMR系全体を合計すると、AT&TとSprint PCSが二大事業者になっている。両事業者とも、全国をほぼカバーする人口2億4千万人のサービス地域(footprint)を持ち、各地域で30MHz程度の周波数を保有している。これに次ぐのがSMR系のNextel Communications社であり、上記2事業者と同じく2億3千万人をカバーするが、保有周波数が10MHzであるため、サービス容量としては、上記2事業者の3分の1程度である。次に上記3事業者に次いで、新たにNextwave Telecom社とOmnipoint 2社が、それぞれ1億6千万と9千万人のサービス地域に各30MHzの周波数を保有している。移動電話事業のサービス容量の点から見ると、今回のPCSオークションにおける周波数配分が従来の序列を大きく変えたことが分かる。AT&T以外の旧Bell系移動通信事業者としては、ようやく6位にSBC Communications、7位にWestern Wirelessが入り、それにGTE、Mobil Netが続いている状態である。サービス地域人口および保有周波数で順位づけると、従来のセルラー事業でトップ10に入っていた事業者が、PCSオークション後は、上位25位に分散して入る状態である。また、非Bell系のセルラー事業者を含むセルラー事業のトップ25社が、PCSオークション後の序列では、上位50番目までに分散して入っている。50位に位置する事業者(Texas Utilities)のサービス人口は、約400万人である。 (ii) PCS展開状況  上記のように、移動電話サービスの可能性という点でPCSオークションは大きな影響を与えたが、実際のサービス展開、すなわち加入者の獲得という点では、PCSの比重はまだ小さい。FCCの「移動通信レポート」(FCC(1998))は、「セルラー電話のディジタル化を含め、移動電話の展開は長期的事業であり、PCS事業もまだ始まったばかりである。この理由で、1997年の段階で単年度営業黒字を出している事業者は皆無である。」としている。また、これに加え、セルラー電話が持っている強力な既存地盤も考慮しなけばならない。セルラー電話の加入者は、1994年末で2千万人強であったが、1997年末にはこれが倍以上となり、4,600万人弱の加入者を獲得している。これに対し、PCSは、94年末にゼロから発足し、95年末に3万人、96年末に31万人、そして97年末に235万加入まで成長した。しかしながらこれは、1994年から1997年までにセルラー電話が獲得した2,500万加入増の10%に満たない。PCS事業者は、セルラーよりも低価格をセットし、かつディジタル方式による高性能をもってアピールしたが、セルラー事業者の側でも、PCSの参入が顕著な大都市地域において早期にディジタル化を進め、価格・性能の両面において十分の競争力を持って対抗している(*11)。  FCCの「移動通信報告」(1998)は、PCS用周波数オークションの成功を強調しているが、PCS事業の将来性については慎重な表現をとっている。セルラーおよびPCSについて、FCCは、従来のトレンドを延長した予測をおこなっている。そのうちの中位予測によれば、1998年末に、セルラーおよびPCS加入者は、それぞれ人口の22.16%と2.36%に達し、2002年にはこれが28.03%と10.60%になるとしている。すなわち、1998年段階ではPCSの比重がセルラーの約10分の1であるが、2002年にいたると約38%になると予測している。  上記予測が実現するか否かは注目に値するが、セルラー事業者がすでに保有している先発の利益と規模の利益を、新しいPCS事業者が打ち破るのはなかなか難しいことであろう。しかしながら、PCS事業に配分されている周波数幅は、セルラー事業の3倍に達している。長期的に見れば、そしてまた音声電話以外のサービスの可能性を考慮に入れれば、PCSが競争できる余地は十分に残されている。この場合、AT&Tをはじめとする大規模事業者の資金力、また、他事業との兼営から来る「範囲の利益」を考えれば、大規模事業者にとっては、10年後の競争の可能性を見て周波数を保有し続ける意味があるであろう。しかしながら、サービス人口数百万人止まりの小規模事業者にとっては、とりわけC・Fブロック・オークションで参入した指定優遇事業者にとっては、(たとえ周波数代価の分割払いが認められてはいても)10年という長期のタイムスパンをもって事業を維持することは、かなり困難ではないだろうか。ネットワーク事業は規模の経済性が大きく、小規模事業者が大規模事業者に対抗するのは本来的に困難である。1993年の米国通信法の改正は、この原理に「挑戦」したのであって、大規模事業者だけでなく、小規模事業者にも通信ネットワークでの事業機会を与えようと試みたわけである。その結果、小規模事業者へもPCS周波数が配分されたが、これが同改正の意図どおりに結実するか、あるいは小規模事業者が(FCC規則の範囲内で)自己の保有する周波数を大規模事業者に譲渡し、PCS分野の集約が進行するか否かは、将来注目されるべき事項であろう(*12)。 2. 1993年通信法改正の評価(FCC)と同年以降の通信法改正(オークション関係のみ)  1993年の通信法改正は、改正時すなわち同年夏から5年間の年限を切って、FCCに周波数オークションの権限を与えた。すなわち、同年の改正は5年の時限法であった。これはもとより議会が、新たに実施される周波数オークションの成否について、1993年当時は十分の確信を持っていなかったことを示している。議会は、また、FCCに対し、同年限が切れる1年前、すなわち1997年9月までに、「オークション実施の成果」について報告することを義務づけた。議会は、同報告を参考にしつつ、1998年夏までに5年の年限を延長するか否かを検討することを予想していたと解することができる。  ところが1997年になって、議会は、FCCからの形式的な報告を待たず、同年夏の連邦政府予算案審議時に通信法309(j)条を大幅改正して、FCCの周波数オークション権限を2007年までさらに10年間延長し、また、放送用周波数の配分について基本方針を定めた。オークション権限のさらなる延長は、議会が1993年の通信法改正に基づく周波数オークションが全体として成功であったと評価したことを示している。またこれに加え、議会は周波数オークションから生ずる連邦政府収入を、(均衡予算実現のために)重視していた。  本節では、まず、FCCによる議会への報告(1997年9月)の主要内容を述べ、次いで1993年夏以降の通信法改正内容のうち、オークション関係部分を概観する。 a. FCCによる議会への報告(1997年)  「周波数オークションに関するFCCの議会への報告(The FCC Report to Congress on Spectrum Auctions)」(FCC(1997))は、1997年9月30日付で議会に送られた。前述したように、議会は、FCCから同報告書を受け取る以前に、すでに周波数オークション制度の続行方針を含む通信法改正に同意していた。したがってこのFCC報告は、どちらかといえば形式的なものである。それはまず、周波数オークション制度の実施経過・結果を整理し、それが成功であったことを述べ、同制度の継続実施に必要と考えられる付加的な立法措置を進言している。もとより、周波数オークションの実施主体であったFCCによる実施報告であるから、その成功を強調し、失敗について消極的に述べていることは当然である。この点を勘考した上で、本報告書は周波数オークションに関する穏健かつ客観的な総括を与えており、FCCの周波数オークションに関するテキストブック的な性格を持っていると言うことができよう。  同報告書において、FCCは、まず新たに採用された周波数オークション制度が、周波数免許の評価・配分・統合方式を大幅に変更し、その結果、新しい事業者の参入を誘引し、革新的な無線通信技術の進歩を促進したと述べている。また、周波数オークションが実施された4年間において、FCCは計4,300個の免許をオークション落札者に交付し、無線通信および衛星放送の分野で、9種類の異なるサービス提供の途を開いたとしている。周波数オークションの落札金額合計は230億ドルに達し、そのうち120億ドルが報告書作成時までに連邦政府に納入された。また、免許数の53%が小規模事業者に発行されたが、都市地域の大型免許は大規模事業者が取得したことを認めている。  周波数オークション方式が、従来からの比較聴聞・無差別選択よりも優れている証拠として、FCCは下記のデータを引用している。すなわち、免許発行に要する平均時間が、比較聴聞方式では720日、無差別選択方式では412日であったのに対し、周波数オークション方式ではこれが233日に短縮された(広帯域PCSのみに限れば276日)ことを指摘している。また、同報告は、周波数オークション制度が成功した一つの証拠として、免許発行後の再販売(resales)の数が、従来の無差別選択方式による免許発行後に比較してはるかに少なかったこと(たとえば広帯域PCSのA・Bブロック・オークション後に再販売された免許数は全体の6.5%)を指摘している。さらに同報告は、周波数オークションの方式として、「同時多数回オークション(Simultaneous Multiple-Round Auction)」が成功したことを強調し、理論的に優れていると考えられる「組み合わせ入札(Combinatorial Bidding)」について、さらに検討・実験を進める予定であることを述べている(1997年の通信法改正によって、その実施がFCCに義務づけられた)。  次に、同FCC報告は、実施された周波数オークションのうち、広帯域PCSのCブロック・オークションの結果生じた支払不能事態の続出、一部事業者の破産について述べている。同報告は、このような事態が生じた理由として、(Cブロック・オークション参加事業者による過大な入札に加え)破産法による破産事業者の保護規定と、FCCが周波数免許落札事業者に対して持つ権利の間にギャップ(矛盾)が残っていることを指摘し、何らかの付加的な立法によって、「頭金・免許証代金の未納をともなって破産状態に立ち至った事業者が、FCCに対し、破産法規定を理由として(FCC規則に定める)免許の返還を拒否する」結果を生じないよう措置することを求めている。また同時に、FCCが免許代金の分割払いを認めた場合、分割払いの方式(Installment Payment Portfolio)について、FCCが連邦政府の他の機関が実施している方法と同様の方法で、柔軟に調整・変更できるための付加的立法を求めている。さらに、同FCC報告は、上記以外の若干の点、とりわけ手続き面について、周波数オークション規則の設定手続きの簡素化等を求めている。  上記のうち、破産法との関連については、前述のように1997年夏の連邦予算審議時には議会の反対が強く、FCCの要求は容れられなかった。翌1998年の連邦予算審議時において、ようやく通信法のさらなる改正が成立し、FCCは、破産法の規定にかかわらず、支払不能・破産状態の免許保有事業者から免許代金未納等を理由として免許を取り戻すことが可能になった(*13)。 b. 1996年・1997年通信法改正(オークション関係のみ)  1993年の通信法改正によって、連邦議会は、周波数の割り当てにオークション方式を導入した。周知のように、その後議会は通信法の大幅改正に取りかかり、2年余の審議を経て、1996年2月に「1996年テレコム法を」成立させた。その後、情報通信分野における議会の関心は、1998年までの時限立法となっていた周波数オークションの件に加え、放送分野における高精細度テレビジョン(HDTV)・ディジタルテレビジョン(DTV)導入の問題に向けられることになった。  まず、1996年の改正で、通信法「第3編無線に関する規定(Title 3--Provisions Relating to Radio)」の「第1章総則(Part 1--General Provisions)」の末尾に、新しく336条「放送用周波数の柔軟性(Section 336--Broadcast Spectrum Flexibility)」を加え、新しいサービスHDTV・DTVのための免許について基本方針を決定した。まず、HDTV・DTV免許の適格者を従来のアナログテレビジョン放送免許保有者に限定し、少なくとも当初は、新規参入を一切シャットアウトすることとした。また、HDTV・DTVのために既存放送事業者が新たな周波数使用免許を取得した後に、旧来のアナログテレビジョン用周波数をFCCに返納するべきことを定めた。  さらにこれらの措置は、既存放送事業者が、HDTV・DTVサービス供給において、アナログテレビジョンと同様に、視聴者に無料番組を提供し、そのための費用をスポンサーからの広告代金のみによってまかなうことを前提としている(「無料テレビ(free television)」の原則)。したがって、もし放送事業者がHDTV・DTVサービスに付随するサービスについて視聴者から料金を徴収した場合には、FCCが放送事業者から、新サービスの周波数が通信法309(j)条のオークション規定にしたがって供給された場合に支払われたであろう価格と同額の「使用料(fees)」を徴収するべきことを定めている(*14)。  1993年の通信法改正によるオークション条項は、オークションの実施条件の一つとして、周波数の割り当てを受ける事業者が、周波数を利用して供給するサービスの対価を加入者から徴収することを指定しており、広告収入のみに依存する放送事業はこれに該当しない。もし放送事業者が、たとえばスクランブル方式を採用して視聴者から代金を徴収し、あるいは番組自体は無料供給としても、それに関連するデータ放送をおこなって代金を徴収する場合には、オークションによる周波数割り当てに服する他の事業者(DBS事業者を含む)と同じく、オークションによって成立したであろう料金と同一水準の「使用料」を支払うべきことを定めているわけである。すなわち、本条項は、通信法309(j)条との整合性を保持するためのものである。  もとより、この考え方は、広告収入にのみ依存する「無料テレビ」と、視聴料を徴収する「有料テレビ」を峻別する「原則」に基づいている。「無料テレビ」は「営利事業」ではなく、いわば視聴者に対する「社会奉仕」であり、番組スポンサーはそのような社会奉仕をサポートするために放送事業者に「寄付」し、その代償の一部として放送時間に広告コマーシャルを入れている、とする考え方である。つまり、営利事業でなく社会奉仕であるから、新しいサービス(DTV)の提供についても、周波数の無料割当が許される、とする考え方である。しかしながら、「商業テレビ(commercial television)」の用語が広く使われていることからも明らかなように、この考え方は、1950年代のテレビ出現当初はともかく、現時点においてはフィクションにすぎないと言うべきであろう。  放送事業者に割り当てられる周波数に、オークション制度を適用するべきか否かは、1993年の通信法改正時から論議され続けてきた。当然のことながら、放送事業者は、HDTV・DTV用を含む放送用周波数割り当てへのオークションの導入には反対である。他方、議会、FCC、商務省においては、オークションの導入に賛否両論があり、これが1996年の通信法改正時まで続いた。上記無料テレビ・社会奉仕の「原則」は、放送事業者によるオークション反対を受け入れるに際して表面的な理由づけを与え、放送事業者と他の周波数ユーザの間の不公平な扱いという批判を避けるための手段であったと思われる(*15)。  なお連邦議会は、1996年夏の連邦予算関係法案の中で、1997年9月までに計30MHzの周波数のオークションを実施するべきことを定め(Public Law 104-208, 110STAT3009-399, September 30, 1996; Section 3001)、FCCに対して、オークションの実施をいわば「強制」した。これが、表1のオークションNo.14 WCS Serviceである。本立法によって、議会はオークション実施による連邦政府収入増大を意図したものと考えられるが、その結果は、落札金額合計1,400万ドルにとどまり、同じ30MHz幅を持つ広帯域PCSのA・Bブロック・オークションの収入の275分の1の収入に終わった。連邦政府収入目的のオークションとしては典型的な失敗ケースであり、連邦議会側で周波数利用技術の現状や同「市場」に関する専門知識が不足していたことが原因であろうと考えられる。当然のことながら、本オークションが「失敗」であったことについて、1997年9月のFCCの議会への報告書は、オークション結果のデータのみを示し、特段の記載を与えていない(*16)。  次に1年後の1997年8月に、連邦議会は、1998年度連邦予算関係の法律、すなわち「1997年均衡予算法(Balanced Budget Act of 1997)」(PL105-33)の第3002条−3008条(Sections 3002-3008)(111STAT258-270)によって、通信法のオークション条項およびNTIA法を改正した。主な内容は、FCCの周波数オークション権限をさらに10年間延長し、放送事業とりわけDTV関係の周波数割り当てについて方針を定め、かつFCCに対し、将来相当量の周波数オークション実施を義務づけたことである。その概要は、以下のとおりである。 (i) 無差別選択による周波数割り当ての停止(改正通信法309条(i)(1)(5)項)  通信法309条の第(i)項を改正し、1993年改正以降も形式的には残っていた「無差別選択(random selection)による周波数の割り当て」を、1997年7月1日以降、原則として廃止した。 (ii) 周波数割り当てにおけるオークション方式の適用範囲の拡大(原則としてオークション方式を適用)(改正通信法309条(j)(1)(2)項)  1993年の通信法改正では、オークション方式による周波数割り当てを、割り当てを受ける通信事業者が周波数を使って通信サービスを供給し、かつその代価を加入者から受け取る場合に限っていた。すなわち、通信法の形式上は、オークション方式は「例外事項」であった。今回1997年の改正によって、オークション方式は周波数割り当てにおける「原則」となり、とくに定める例外ケースを除いて、周波数割り当てにはすべてオークションが使用されることとなった。オークション方式が適用されない例外は、第一に、公共機関あるいは非営利団体によって周波数が生命・健康・財産の保護のために使用される場合、第二に、既存の地上アナログ放送事業者に対しDTVサービスのための初期免許を交付する場合、第三に、非営利ベースの公共・教育テレビあるいはラジオ放送局の免許の場合である。  上記改正によって、従来から論議が続けられてきたディジタルテレビ用の周波数は、既存の地上アナログ放送事業者が保有する周波数と引き換えに、無償で交付されることとなった。ただし、本改正では、DTV用に交付される周波数の大きさについては規定されていない(*17)。  DTVおよびHDTVについては、周波数の割り当てだけでなく、放送方式に関する標準設定や、地上アナログ放送事業者以外の新規参入を認めるか否かについて、長い間議論がおこなわれてきた。今回、本改正により、地上波のDTVは、従来の地上波アナログ放送を実質上そのまま受け継ぐことになり、オークションによるDTV用周波数の割り当てという議会の一部からの主張は容れられないで終わった。議会がこのような決定を下した理由としては、第一に、オークションに反対する放送事業者のロビーイングが成功したこと、第二に、英国が地上波放送のディジタル化を米国に先駆けて進行させていたので、米国としては、ディジタル放送に関する英国との格差が拡大しないように、可及的すみやかにDTVのスタートを実現する必要があると考えたこと、の2点であろうと推測される(*18)。 (iii) FCCのオークション実施権限の期限延長(改正通信法309条(j)(11)項)  FCCによるオークション実施権限につき、1993年の改正で設定されていた「1998年9月30日の期限を、2007年9月30日まで延長」した。なお、前述のように、今回1997年の改正によってオークション方式が周波数割り当ての原則となり、無差別選択は廃止されたので、もし2007年に議会が何らの立法措置をとらなければ、周波数割り当ては、形式的には当初の比較聴聞方式に戻ることになる。ただし、もとよりそのような事態は予想されておらず、2007年の期限に至る以前に、再度立法措置がなされるものと考えられる。 (iv) 地上アナログテレビ放送の停止(改正通信法309条(j)(14)項)  地上アナログテレビジョン放送免許の存続期限を、DTVの普及が遅れている例外ケースを除いて、2006年12月31日と定めた。この改正によって、米国では従来の地上アナログテレビ放送は、半ば強制的にディジタル放送に移行することになる。  この改正は、放送という特殊な事業においてではあるが、放送のアナログ方式からディジタル方式への移行を市場原理にまかせず、法律によって強制的に実施することを意味する。通常の技術進歩の場合は、新しい技術がコストやサービス内容の点で旧来の技術を凌駕し、市場原理に任せておけば自然に新しい技術への遷移が実現するのであり、今回のDTV採用のように立法によってこれを一律に実施するのは、例外的なケースである。(たとえば、移動電話のディジタル化は事業者に任せられている。)  この方策を正当化する理由としては、まず放送方式の標準化の必要が考えられる。次に、DTVがサービス内容や費用の点で従来のアナログ方式よりもはるかに優れているが、DTVへの移行のために必要な投資資金の回収に長期間を要するため、もしこれを市場原理に任せれば、移行が完成するまで長い年月を要することになり、その結果、米国民がDTVの長所を享受できる機会が失われることにあると考えられる。この場合、DTVへの移行投資には、長期的な収益は見込めるにしても、短・中期的には赤字となるので、この点をどのように処置するべきかが最大の問題となる。米国においては、現在までのところ、DTVへの移行に必要な投資は放送事業者の自助努力に任せ、公的資金による援助は(長期的にも収益性が見込めない非都市地域を除き)ごく限られた範囲のみでおこなわれているようである。 (v) 既存地上アナログ放送事業者から返還された周波数の割り当て(改正通信法309条(j)(14)(C), (D)項)  上記決定によって、地上アナログ・テレビ放送の期限到来前あるいは到来時にFCCに返納された周波数については、これを放送用と限定せず、新たな周波数資源として、オークション方式により割り当てることとした。なお、同周波数がDTV用に割り当てられる場合には、独占禁止・集中排除の観点から既存アナログテレビ放送事業者に課せられている(したがってそれらの既存事業者がDTVに移行しても受け継がれる)規制を、上記周波数割り当ての参加者に対しても存続させることとした。 (vi) オークションに関するその他の改正  周波数オークションの実施について、下記を含む若干の改正を加えた。それらは、FCCに対して「組み合わせオークション(Combinatorial Bidding)」の研究・実験を義務づけること、必要な場合、オークション実施時に「最低入札価格(Minimum Bid)」を設定すること、従来FCCに与えられていた創始者優遇措置の実施権限を廃止すること、などを含んでいる。  上記のうち、第二の点、すなわち最低入札価格の設定は、議会が周波数オークションによる連邦政府の収入増加を重視し、(WCSオークションの場合のように)極端な低価格で周波数が割り当てられることを防止する意図を持っていると考えられる。この点は、周波数オークション制度の基幹にかかわる問題であり、オークションが「周波数資源の最適配分」のために実施されるか、あるいは「連邦政府収入の増大」を目的とするかについて、疑念を生じさせるものである。しかしながら、通信法309(j)(7)(A)(B)で定められた「連邦財政収入の最大化を目的としてはならない」という条項は依然生きているので、これと併せ考えれば、最低入札価格の設定は、「技術的な準備不足や需要の未発現などのために、周波数の価値が極端に低い場合は、FCCはそのような周波数の割り当てを延期するべきである。」という実質上の指示を出しているものと解釈することもできる。他方しかしながら、この解釈は、同時に改正されたNTIA法によるFCCに対する付加的な大量のオークション実施義務の付与とは両立しない。1997年の通信法改正の意図に矛盾が見られると言わざるを得ない。 (vii) 追加オークションの実施(改正NTIA法923-925条)  上記のような1997年通信法改正に加え、議会は同時にNTIA法を改正して、FCCに対して2002年までに、さらに大量の周波数をオークションによって割り当てすることを義務づけた。  本改正の具体的内容は、表2に示されているとおりである。2002年までにFCCは、計234MHzの周波数(アナログ放送事業者からの返還分114MHzを含む)をオークションによって割り当てるべきことを定めている。  この改正は唐突の感を免れないが、その背景には、最近における米国経済の好調の結果、連邦政府予算の収支均衡・黒字が実現し、議会および大統領府の双方が、この点を数字的に国民にアピールすることを強く望んでいたという事情がある。米国連邦政府予算は年度ごとに作成されるが、その際に来たる5年間の財政収支見込みを付することになっている。1997年夏におこなわれた1998年度予算作成時において、2003年度までの連邦政府収支均衡予測を達成するために、2002年までの連邦収入増加が必要であり、周波数オークションからの収入がその一部として使われたものと推測される。さらに議会は、名目上の収支均衡を達成するために、通信事業のための「ユニバーサルサービス基金」を操作し、連邦政府収入を名目上増大させる措置さえも実施した(1997年均衡予算法第3006条)。これに対しては、上下両院予算委員長が強く反対意向を表明している。 (*1) 一般事業者と指定優遇事業者を別ブロックに分けてオークションをおこなうこの方式に対し、下院エネルギー商業委員会のJ. D. Dingell委員長は、「同案のようにブロックを区別し、ブロックによって異なる規則を設けてオークションを実施することは、多数の抜け道を生じ、規則違反すれすれの入札行為を誘発し、その結果訴訟問題を発生させる可能性を高めるので、望ましくない。」として反対した。今日から見れば、同委員長の先見は当たっていたと言うべきであろう。「抜け道」の多くは、1年余にわたるCブロック・オークション規則の検討過程で塞がれたが、「破産という手段による支払拒否」という思いも寄らぬ抜け道が残ってしまったことになる。 (*2) U.S. Supreme Court(1996)。 (*3) 最高裁判決の僅か10日後に同案が提出されたことは、FCCが同ケースを考慮に入れて代替案をあらかじめ準備していたことを推測させる。 (*4) しかしてがら連邦最高裁は、翌1996年に、「United States対Virginia」のケースにおいて、性別にもとづく州(state)の公的政策について、Adarand社のケースと同種の判決を下した(FCC企画政策局案件PP-253の「第十次報告・命令(Tenth Report and Order)」11 FCC RCD 19974(1996))。すなわち、FCCが1995年に女性所有企業の優遇措置を廃止したことは、実質的にこの判決を「先取り」していたことになった。(もとより、1995年の時点で、FCCスタッフは本ケースについてよく知っていたはずである。) (*5) 第2回目のCブロック再オークションは、1999年3月に予定されている。 (*6) その後案件WT97-82の検討は、「規則第1部の修正(Part1 Proceeding)」と「Cブロック支払規則見直し(C block Proceeding)」とに実体上二分されて進行した。一般的事項と特別な措置に関する検討を、ことさらに同一案件に入れ込んだ本処置は、当時のFCC担当部局の混乱を示しているように思われる。 (*7) 本稿の筆者の推測であるが、FCCが1997年9月のSRO-FNPRM以降、委員の交代はあったにしても、1年近くの間Cブロック問題について足踏み状態でいたのは、一つにはCブロック免許保有企業が次々に破産を宣言し、長期にわたる多数の破産裁判が発生することを恐れたからであろう。1998年夏にPocket Communications社他の破産裁判に判決が出され(次節で説明)た結果、破産状態に入ることから生ずる結果について見当がつくようになり、かつ、実際にも大多数のCブロック免許保有事業者が破産状態に入る傾向は生じなかったので、同年8月末にいたって本命令を発したものであろう。 (*8) この基本的な点については、日本でも同じである。しかし米国における「破産(bankruptcy)」は、日本におけるほど支払約束違反にともなう「道義的」責任や、有形無形の制裁を伴うものではないようである。企業活動全般の中で、不幸ではあっても時折は避け得ない破産という事態を合理的に処理するための制度と考えられているようである。あるいはこれが、米国におけるベンチャー企業の隆盛の一要因になっているのかもしれない。 (*9) もとよりFCCが、免許保有者との契約で、「周波数使用免許」に、免許代金債権にかかる優先抵当権を設定しておけば問題は生じない。しかしながら、(前述のように)通信法301条は、周波数という「資産(property)」の所有権を免許保有者に与えるものではないことを明記しており、そのため抵当権の設定ができなかった(あるいは設定できないと考えた)ものと推測する。 (*10) 人口あたりの加入者数では、同年末の日本と同程度であろうと考えられる。ただし、日本の携帯電話は、1994年の端末売り切り制度の発足以降急速に成長し、携帯電話のディジタル化もまた急速に普及した。 (*11) 米国におけるセルラー電話とPCSとの上記のような展開経過は、日本においてはより急速・尖鋭な形で現れた。日本では携帯電話の価格切り下げ競争が激しく、また、旧来のアナログ携帯電話のディジタル化も急速である。1998年に入ると、携帯電話事業者とりわけNTT DoCoMoの加入者獲得力が急増し、(NTTパーソナルを含む)PHS各社の営業が困難に陥っている。日本と米国を比較すると、日本において生じた1994-98年の3年半における急激な変化と比較し、米国においては類似の変化がより遅いスピードで生じたと言うことができる。 (*12) 1996年以降に生じたテレコム主要事業者の合併・連携の動きの中には、PCSオークションで割当てられた周波数使用権の移動を伴うものが生じている。(たとえば、1998年末に司法省が認めたAT&TとTCIの合併については、TCIが株式を保有するSprint PCSが持つ周波数免許の処分が条件になっている。また同時期にBell Atlanticが計画しているAirtouchとの提携あるいは合併においては、前者が以前から進行させているGTEとの合併について、GTE保有の周波数の処分が必要になるであろうと言われている。) (*13) 通信法が定める周波数オークション条項と、破産法との間の上記問題点、すなわち1993年における通信法改正の「不備」について、もとより同FCC報告は積極的な叙述を与えていない。1993年に議会を通過した周波数オークション制度の導入は、1989年ごろから議会で検討されたが、上記破産法との関係について議論された記録は見当たらないようである。おそらく、この点に関しては、議会の側もFCCの側も、考慮を払っていなかったのであろう。実際には、周波数オークション制度の立法は、主としてFCCの側から議会に働きかけて成立したのであるから、この点に関する実質上の責任は、FCCの側にあったと言うべきであろう。周波数オークション立法は、主としてFCCのエコノミストを中心に進められ、また、オークション実施に関する規則制定の重点も、主として経済面に置かれた。FCCのローヤーは通信法の専門家が大部分で、破産法にも通じている専門家はほとんどいなかったのではないかと推測される。 (*14) そのための料金計算方式について、FCCは、マスメディア局案件MM97-247の「規則制定提案(NPRM)」(12 FCC RCD 22821(1997))と、同「報告・命令(Report and Order)」(FCC98-303)(Nov. 19, 1998)によって、同付随サービス(ancillary or supplementary services)から生ずる粗収入の5%とすることを定めた。 (*15) なお、翌1997年の通信法改正において、旧来のアナログテレビジョン用の周波数にはオークションによる割当を適用するべきことが定められた。本文で述べた観点からすれば、この規定は、上記336条と形式的にも整合性を欠いている。また後述のように、336条の「周波数使用料」項目は、運用上の問題点を孕んでおり、将来において放送産業発展の足枷になる可能性がある。その場合には、同条項の再検討が必要となり、無料テレビ「原則」の再検討を迫られることになる。これらのことは、336条の内容が、実質的には309(j)条と整合していないことを示している。 (*16) しかしながら、この結果について、FCC内で「議会の無知」から生ずる不適切な立法に対する批判がしばしば語られていたとのことである。 (*17) FCCは、マスメディア局案件MM87-268「新方式テレビシステムと既存テレビ放送への影響(Advanced Television Systems and Their Impact upon the Existing Television Broadcast Service)」の「第5報告・命令(Fifth Report and Order)」(FCC97-116)(April3, 1997)において、DTV事業者には、(アナログ放送と同一サイズの)6MHz分を割り当てることとした。これに対し、放送事業者・機器メーカーはおおむね賛成したが、他方、「技術進歩を考えたとき、従来のアナログテレビ放送に数倍する資源を既存放送事業者に無償供与することになる。」とする反対意見もあった。 (*18) 米国における上記のような考え方と決定は、1998年秋に日本においても概ね同様の形でこれを踏襲した。ただし、日本においては、「地上ディジタル放送懇談会」が結論を出しているにとどまり、法律改正にまではいたっていない。同懇談会の報告のうち、DTVのスタート時に新規参入を排除する、アナログ放送用周波数と同一サイズの6MHzを無料供与する点が米国と同一である。ただし、日本では、付帯データ放送等にかかる周波数使用料金徴収については定められていない――すなわち、放送事業者がユーザから料金を受け取る場合でも、無料放送と同一の扱いになっている。 ********** E-mail: oniki@iser.osaka-u.ac.jp Web: http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/ 「米国の周波数オークション(1993年の「通信法」改正)」、『米国通信法研究会報告書』、通信機械工業会:米国通信法研究会、1999年2月、pp.127-272。