1993年  1月 6日:FCCチーフ・エンジニア(技師長)Thomas P. Stanley博士は、記者会見において、1993年がPCSの展開のために最重要な年になるであろうと述べ、クリントン政権への移行にともなう若干の時間は必要だが、FCCはPCSの実現のために最大の努力を払うと予測することを述べた。Stanley博士は、PCSの実現のために最初に越えなければならないハードルは、2GHz帯のマイクロウェーブ既存事業者の移転に関する規則制定(「新技術」に関する技術案件ET92-9の「FCC規則制定第二次案」)であるとした。FCCは、現事業者の3GHz帯以上の周波数帯域への移転を提案している。他方、2GHz帯は、技術案件ET92-9によって「新技術」に割り当てるよう、そしてそのうち1850-1990MHz帯は一般案件GN90-314によってPCSに割り当てられるよう提案されている。さらに、Stanley博士は、現マイクロウェーブ事業者の移転のための技術面の規則制定案が技術案件ET92-9の「第三次規則制定案」で検討されていることを指摘した。Stanley博士は、上記両問題は解決可能であることを述べ、その証拠として、最近数カ月にわたる検討において、利害関係者が具体的なポイントをめぐって少しずつ同意点を見出していることを挙げた。 またStanley技師長は、上記両問題が解決した後に、新しいPCSサービスに関していくつかの点で解決されるべき点を指摘した。第一に、PCS免許資格の問題、すなわち地域電話事業者やセルラー事業者に同資格を認めるべきか否かの問題があると述べた。また、これに次いでStanley博士は、セルラー・サービスとの関連でのPCSの「定義」の問題を述べ、PCSは家屋内のコードレス電話から発展したもので、自動車電話から発展したセルラー・サービスとは共通点はあっても別個のサービスと考えるべきことを主張した。さらにStanley博士は、PCS免許の内容について、地域ごとに何個のPCS免許を認めるべきか、1免許あたりの帯域幅は何MHzにするかの問題が残っている旨を述べた。これらの問題は、一般案件GN90-314「PCS規則制定案」で検討中であり、FCCは地域あたり3免許、1免許あたり30MHzを提案しているが、これに固執するものではないことを述べた。  1月11日:セルラー電話協会Thomas E. Wheeler会長は、PCSに関して異例の記者会見をおこない、同協会の立場を明らかにした。とりわけ、同協会は、American Personal Communications社、MCI社などによって主張されている、下記(1)−(3)の意見に反対であることを述べた。(1)PCS1免許あたり20MHzの帯域では過少である、(2)1地域あたりPCS5免許をサポートすることは経済的に困難である、(3)セルラー事業者は、すでに十分な周波数を保有している、などである。とりわけ、同会長は、FCCに対し、セルラー事業者をPCS事業から除外しないように要望した。  1月12日:Alfred C. Sikes FCC委員長は、任期を終わるにあたり、17人の上下両院議員に手紙を送り、次年度の立法活動において、第1に周波数オークションを実現すること、第2に、FCCに公衆通信事業者から「規制タリフ」を徴収する権利を与えることを要望した。Sikes委員長は、この両点が、近い将来のテレコム産業の発展のために最も重要であることを強調している。  1月18日:ComSearch社は、FCC一般案件GN90-314について送ったコメントの中で、「PCSの成否は、マイクロウェーブ現事業者との周波数の共用にかかっており、そのためには、PCS免許あたり20MHzの帯域幅では不足する可能性がある。」ことを述べた。  2月 8日:新会期(第103議会)に入った上下両院において、周波数の移転・割当に関する新法案が提案された。上院においては、「1993年新通信技術法(S.335)」が、Daniel K. Inouye委員、Ted Stevens議員、John C. Danforth議員等によって提案された。同法案は、1994年から96年までの期間に、30MHz分の周波数の「実験オークション」を実施し、FCC委員長と商務省副長官(情報通信担当)が、1993年3月末までに大統領および議会宛に実験結果の報告書を送付する義務を課している。また、FCCは、オークションのための規則制定をおこなう義務を課されており、オークション収入は一般国庫収入とするべきことが定められている。さらに、同法案は、非都市地域のテレコム事業者保護のために、周波数使用免許を優先的に付与する制度を含む。また、オークション制度は、免許の更新、公共機関による使用、地上波放送等を含まず、主たる目標は新技術による移動通信におかれている。 他方、下院側では、まず下院エネルギー・商務委員会John Dingell委員長と通信小委員会Edward J. Markey委員長によって、周波数オークション条項を含まない周波数共用法案(H.R.707)が提案・可決された後に、Michale G. Oxley議員によって、周波数オークション条項を含む法案(H.R.857)が提案された。Oxley法案は、大要において上院で提案された法案と同一である。     同日:FCCが昨年10月8日に仮決定した「創始者優遇制度」の対象事業者の選定について、同選定に洩れた多数の事業者から、FCCの選定が恣意的であるなどの理由で、強い反対意見が寄せられた。本件は、一般案件GN90-314で審議されているものであり、反対意見を表明したのは、類似の技術・方式・端末・サービス内容を提案する複数の事業者で、一方が選定され、他方が選定に洩れているケースが多いことを指摘している。また、選定に洩れた多数の事業者が、裁判所へ提訴している。  2月17日:クリントン新大統領が「一般教書」の中で、「周波数の共用」と「周波数のオークション」に触れ、その実現が望ましいことを述べた。  2月24日:下院エネルギー商務委員会が、「1993年新通信技術法(H.R.707)」を可決し、同法案を本会議に送付した。同法案は、2GHz帯で200MHz分の周波数をPCSを主体とする民間使用に移管するものであり、Bush政権下ので前会期に下院本会議で可決された法案と基本的に同一である(ただし、H.R.707は、オークション条項を含まない)。通信小委員会Edward J. Markey委員長は、H.R.707は、「近い将来におけるテレコム産業と米国経済の成長のための基盤である。それは事業者による創造力・企画力を周波数の制約から開放し、将来の情報活動において米国を世界のトップに位置づける。」と述べた。また、下院エネルギー・商務委員会John Dingell委員長は、同委員会で、オークション条項を審議する見込みであることを述べた。  3月 1日:ボストン市所在のTelmarc Telecommunications社の調査報告書は、地域電話事業者のアクセス市場に競争を導入するために新しいPCSが効果的と考えられることを述べた。同報告書によれば、加入者当たりのPCSによるアクセス・サービス創設費は100ドル程度で、セルラー電話の750ドル、通常の有線アクセスの1,500ドルに比べてはるかに低額であると述べている。  3月15日:PCSの新事業者数社が、「PCSアクション社」を創立し、PCSサービスの早期展開を推進することになった。PCSアクション社には、前年12月にFCCが(暫定)優遇措置を与えた3社が含まれている。また、PCSアクション社の主たる活動事項の一つは、新PCS事業用の周波数帯幅として、既存マイクロウェーブ事業者との混信を防ぐため、40MHz分を確保する点にある。  3月16日:NTIA Tomas J. Sugrul長官は、通信小委員会Edward J. Markey委員長の質問に対する返答を送り、「オークション方式」による周波数割当は、周波数使用の効率を高め、同時に「周波数という重要な公共資源」の私的使用の代価を国民に支払うことができることを強調した。また、小規模事業者、とりわけユーザの便益を高める新技術を保有する小規模事業者の保護のためには、オークション代金の分割納入を認めることで対応できると述べた。また、周波数をオークションによって「売却」するのではなく、「貸出(lease)」することの価値と、そのための適切な「lease期間」について、Sugrul長官は「現在、行政府は周波数の使用方式自体を変更することは考慮に入れていない。しかし将来におけるFCCの業務改革の一環として、周波数のlease方式を考えることはあり得る。」と述べた。  3月17日:上院商務委員会通信小委員会で「周波数共用・オークション法案(S.335)」について公聴会が開かれ、同法案への賛成意見が大多数を占めた。同法案「1993年新通信技術法(S.339)」について、上院通信小委員会Daniel K. Inouye委員長は、John McCain議員とともに、同法案に対する合意が急速に形成されつつある点を指摘した。また、クリントン新政権は、Ron Brown商務長官からの書簡を通じて同法案への強い賛意を表明し、PCSへの潜在的需要を考えれば、同法案が提案している30MHz程度の実験オークションではなく、150〜200MHz程度のオークションが必要であることを主張した。また、同書簡では、民間放送用の周波数もオークションの対象から外さないことを主張した。また、同書簡では、非都市地域においては周波数が十分に存在し、したがって、非都市地域の電話事業者を優遇すべき理由はないとしている。これに対し、FCCチーフ・エンジニアThomas P. Stanley博士は大要において賛成したが、放送事業者用の電波にオークションを適用することの是非は保留した。  3月30日:South Western Bell Mobile Systems社とPanasonic Communications & Systems社は、米国最初の商用PCSサービスとして、「フリーダム・リンク」を発表した。両社によれば、「フリーダム・リンク」は実験システムではなく、セルラー技術のPCS的サービスへの延長によって実現されるとのことである。さらに両社は、今回の新サービス「フリーダム・リンク」が現在割り当てられている25MHz分のセルラー用周波数帯内で実現可能であり、セルラー事業者に2GHz帯で新たに付加的なPCS用周波数の配分を求めるものではないことを強調した。  4月19日:South Western Bell Personal Communications社は、902-928MHzおよび1850-1990MHz帯のPCS実験において、PCS用電波が医療機械、ラジオ、電話等の諸サービスに妨害効果を与えていると報告した。  4月22日:下院通信小委員会が、NTIA Tomas J. Sugrul長官と、通信小委員会Edward J. Markey委員長の下で、「新通信技術法(H.R.707)」とは別に周波数オークションを検討するために開かれた。H.R.707は、200MHz分の政府用周波数を民間使用に移管する法案で、先月410対5で下院を通過しており、また周波数共用とオークションの両条項を含む上院法案(S.335)が提案されている。公聴会証人は、それぞれの立場によってオークションへの賛否を表明したが、全体としては賛成が多数を占めた。また、オークションについてこれを「新技術優先制度」と結合させて実施するべきとする案、周波数自体でなく周波数の「使用権(royalities)」のオークションが長期的により多額の収入を国民にもたらすことができるとする主張、オークションの実施は長大な規則制定を必要とし、PCSサービスの導入を遅らせるという主張など、多様な主張が開陳された。     同日:また、FCCチーフ・エンジニアThomas P. Stanley博士は、現行の無差別選択(くじ引き)方式によるセルラー免許の70%が、免許後において他者に譲渡されている事実を指摘し、そのための費用と時間がセルラー事業の効率を低下させていると述べた。  5月 6日:下院商務委員会通信小委員会は、Edward J. Markey小委員長のもとで、「1993年周波数使用免許制度改革法案」に同意し、本委員会に送付した。同法案は、本委員会で5月14日までに成立し、次年度予算を決める「財政調整法」に挿入される見込みである。 本法案に対し、非都市地域の小規模事業者の機会が奪われるのではないか、また地域通信に関する州規制委員会の権利が奪われるのではないかという反対意見に対し、Markey小委員長がこれらの問題点は法案内で考慮されることを示したため、小委員会として法案に賛成したものである。 Markey小委員長は、本法案の特色として、(1)FCCにオークション制度を早急に整備することを要求し、周波数の効率的使用とそれに相応する使用料を国家の収入とすることを保障するものであることを示した。(2)また、FCCにオークション代金の納入方法に関する細目を設定する権利を与えることにより、小規模事業者やマイノリティ事業者も参入の機会が保障されることを強調した。(3)また、本オークション法案は、周波数の「純粋」私的使用や、放送事業のように周波数使用から直接の収入がともなわない事業には適用しないことを述べた。(4)さらに、本法案は、FCCに周波数割当に関する権限を与えることにより、収入増大目的でオークションを乱用する圧力からFCCを守ることにもなること、過去の無差別選択(くじ引き)方式から生じたさまざまの害悪を防ぐことにもなることを述べた。  5月17日:CTIA(Cellular Telecommunications Industry Association)が発表したレポート「英国におけるPCN政策の失敗」に対し、CTIAの主要メンバーの一つであるUS West社は、同報告に同意していない旨をFCC委員に対し表明した。     同日:下院エネルギー・商務委員会は、「1993年周波数免許制度改革法案」を多数決で通過させた。同法案は下院本会議に送られ、「財政調整法」の一部として審議されることになる。 同法案に対しては、各方面からの反対が残り、それぞれ修正案が提案されたが、一部は法案に取れ入れられ、一部は否決された。まず州による規制権限を侵害する恐れがあるという批判に対しては、同法案に「州住民の消費者権益が侵害される恐れのある場合には、州規制委員会が料金を規制できる。」旨の文言が法案に挿入された。また、マイノリティや女性が所有する企業について優遇措置を講ずるべきであるという要求に対しては、その旨の修正案が可決・挿入された。また、同委員会が先に可決した「周波数共用法案」の内容も、本法案に取り入れられている。 これらの結果に対し、オークション方策に反対するグループは、上院で審議中のS.335の成り行きに注目している。同法案は、非都市地域が都市地域と同じ条件でPCSや他の新通信技術にアクセスできる権利を保障する条項を含んでおり、この点で下院エネルギー・商務委員会案とは異なっている。  5月20日:下院予算委員会は、1,500ページにおよぶ「1993年総合財政調整法案」を本会議に報告した。同法案には、エネルギー・商務委員会による「周波数免許制度改善」条項、すなわち周波数オークション条項が含まれており、FCCに1998年9月末まで周波数オークションを実行する権限を与えるものである。この方策により、1998年9月末までに、計72億ドルの収入が得られるものと見込まれている。同条項は、FCCに対し、複数のオークション方式およびオークション代金納入方式を開発するべきことを命じ、また2GHz帯の200MHz分の周波数を政府使用から民間使用に移管するべきことを含んでいる。  5月24日:FCCは、一般案件GN90-314(PCS検討の件)の中で審議中の「免許外PCS」に関して、一般のコメントを求める通知を発表した。免許外PCSは、小出力・ビル内部の音声・データ・メッセージ通信を意味し、そのための使用者免許や局免許を必要としない。FCCは、2GHz帯のうち、1910-1930MHz帯を同目的に使用することを提案している。     同日:CTIA(Cellular Telecommunications Industry Association)Thomas E. Wheeler会長は、FCCに書簡を送り、US West社によるCTIA報告書に対する批判に反論した。  5月25日:上院商業・科学・交通委員会は、上院通信小委員会Daniel K. Inouye委員長提案のS.335を修正の上、成立させ、本会議に送付した。当初、Inouye法案においては、オークションは実験的に30MHz分についておこなうこととされていたが、本委員会においては、これを200MHzまで認めることになった。相当数の上院議員が、上記法案は非都市地域の利益や州内通信に関する州規制委員会の規制権限を奪い取るのではないかという危惧を持っており、これに対して、Inouye議員は、本会議の場において、さらにこれらの点に関して検討の必要があることを述べた。これらに対し、下院通信小委員会のSenior CouncilであるJerard J. Waldron氏は、PCSは州内各領域から成長するにしても、いずれは全国規模のサービスに至るものであり、過去における放送事業と同じように、州委員会よりもFCCによって規制されるのが望ましいと述べた。また、Inouye小委員長は、1934年通信法により、すべての移動通信事業者は公衆事業者であり、ユニバーサル・サービス実現の義務を負っていることを指摘した。  5月31日:FCC Ervin S. Duggan委員は、「FCCは、数週間以内に、900MHz帯において、狭帯域PCSサービスとそれに関連する『創始者優遇制度』の実施を検討し始める見込みである。」ことを述べた。狭帯域PCSは、当初技術案件ET92-100において検討されたが、現在では一般案件GN90-314の中で2GHz帯の広帯域PCSとの関連で検討されている。  6月17日:FCC Ervin S. Duggan委員は、下院通信小委員会における1994年度予算案の審議に関連して、「包括財政調整法」に含まれている周波数オークション条項は、周波数を民間に「販売」するというよりも、むしろ「周波数使用契約」として考えられるべきであるという見解を発表した。同氏は、周波数についてその使用料(royalty)、あるいは事業者売上の一定比率を徴収する方法があり、この方式がその時点における周波数の価値を反映した収入を国民が入手することができる点を強調した。  6月21日:上院通信小委員会で審議中のDaniel K. Inouye議員提案「1993年新通信技術法(S.335)」の内容が、一部修正され、1994年度予算のための「包括財政調整法」の一部に包含されることになった。上記修正は、Richard H. Brian議員提案によるもので、新しいPCS通信事業に対する州規制委員会の権限を、同事業が発足して、1地域3事業者が参入した後も、ある程度まで同委員会に残すものである。なお本修正後も、消費者団体やNARUCは、S.335に反対意見を表明している。  6月24日:FCCは、900MHz帯において、計3MHzの周波数(901-902, 930-931, 940-941MHz)を「狭帯域PCS」に割り当てることを決定した。また、FCCは、Mobile Telecommunications Technologies社(Mtel社)に、最終的な「創始者優遇」を同社の"Multi Carrier Modulation" Technologyに対して与えることを決定した。同技術は、同一周波数帯幅を使用する現存の技術に比べて、10倍の効率を持つmulticastを実現すると報告されており、Mtelによる全国ネット・サービスの基盤となっている。上記決定は、一般案件GN90-314、および技術案件ET92-100(PCS検討)における「第一報告・命令」として発出された。 下院予算配分委員会は、FCC予算を含むH.R.2519を承認し、FCCに対し、PCSの展開とPCS用周波数のオークションを実施するよう要請した。  6月28日:上院本会議は、周波数オークションを含む「包括財政調整法(S.1134)」を、Al Gore議長の投票を含む1票差で可決・成立させた。同法は、1998年までに周波数オークションから計72億ドルの収入を、また1994年には17億ドルの収入を見込んでおり、5年間にわたる計5千億ドルの財政赤字削減を計画している。また、FCCがオークションを管理するための費用として、毎年200万ドルの予算を計上している。同法は、上院予算委員会によって6月22日に了承され、本会議に送付されたものである。包括財政調整法案は、今後、両院協議会によって検討されることになる。  6月29日:PCS Action社は、FCCと事業者に対し、「非公式の、しかし組織された検討会」をPCS事業の細目について開始することを提案した。PCS Action社側では、たとえ非公式であっても、PCS事業の諸問題について質疑応答をおこない、意見を交換することが有用であることを強調している。  7月 5日:「1993年包括財政調整法」に関する両院協議会は、下院側の議事進行の都合でまだ開かれていない状態にある。また、上院が成立させた同法の中に、Ted Stevens議員提案による提案、すなわち新規事業者・小規模事業者が既存事業者と同一フィールドでオークションに参加できることを保障する条項が付け加えられていることが明らかになった。具体的には、FCCに対し、上記目的を達成するために必要な規則制定・変更権限を与えるものである。同修正に対し、上院通信小委員会Daniel K. Inouye委員長は、Stevens修正条項が、新PCS事業者と既存セルラー事業者との間の利害対立の妥当な解決方策であると考える旨を表明した。  7月15日:FCCは、2GHz帯における220MHz分の周波数を「新技術による通信」のために配分することを決定し、これにともなって、2GHz帯の既存マイクロウェーブ事業者を3GHz帯以上の周波数帯に移転するための手続を決定し、命令を発出した。これにより、技術案件ET92-9による規則制定が完了することになる。同命令により、マイクロウェーブ事業者は、規則に沿って、2年以内に、自発的にあるいは非自発的に移転することになる。ただし、公共性の高い一部のサービス(警察無線、消防無線、緊急医療無線、特別緊急無線)に対しては規則適用が免除され、当分の間2GHz帯に残留することができる。  8月 2日:MCI Communications社は、約150社のPCS事業者と事業協定を結んでコンソーシアムを設立した。同コンソーシアムは、米国48州とアラスカにおいて、人口の約50%の地域をカバーしているとのことである。  8月 4日:US West社は、FCCに対して提出した文書で、「同社の英国における経験から、米国においてはセルラー事業者がその営業領域内において同時にPCS免許を獲得することを禁止するべきである。」と述べた。また、同報告の中で、US West社は、(1)PCS免許には、それぞれ少なくとも30MHzの周波数を割り当てるべきこと、(2)同一地域内のPCS免許数は、最大3事業者とすること、(3)PCS免許は、47個のMTAに基づいておこなうのが適当と考えられることなどを述べた。これに対して、セルラー事業者の団体であるCTIAは、従来から20MHz周波数幅による免許や、734のセルラー・サービス免許地域に基づくPCS免許などを主張していたものである。  8月 5日:「周波数の共用」と「周波数オークションの採用」に関する1934年通信法改正を含む「包括財政調整法(H.R.2264)」が両院協議会で合意された。下院は、協議会案に対し、賛成218対反対216の僅差でこれを成立させた。上院は、数日以内に同案に賛成するものと予測されている。(8月6日に成立。) H.R.2264によると、周波数オークションに関する新しい規定は、通信法309条の第j項として付加されることになる。H.R.2264は、200MHz分の周波数を政府使用から企業使用目的に移転することを定め、そのうち50MHz分は6カ月以内に移転するべきであるとしている。また、周波数オークションによる収入は、5年間で72億〜102億ドルに及ぶと予測されているが、これは国庫に入ることになる。他方、法案作成の最終段階に付加された条項によって、FCCから免許を受ける事業者は、FCCが業務の種類ごとに業務管理に必要とする費用を、新しい「手数料(fees)」の形で納入することになった。この料金収入は、年間9,500万ドルに達すると予測されており、たとえば公衆移動通信事業のための「料金」は、1,000加入者当たり60ドルに、また地域事業者、中継事業者の「料金」も、同率に定められている。オークション制度について、非都市地域が特別の取扱を受けることはないが、通信法改正条文中に、FCCが事業免許を多数種類の免許申請者とりわけ小規模事業者、マイノリティ、および女性所有の企業にも配分するべきことを定めている。 さらに、新しい移動通信事業者は、公衆通信事業者(common carriers)としての規制を受けることになっており、新PCS事業免許のために、FCCは6カ月以内に規則制定をおこなうべきことが定められている。他方、州規制委員会が直接に新PCS事業を規制することは認められないが、各州の事情に応じてFCCに料金その他の規制をおこなうよう申請を出すことはできる。  8月 6日:上院は、両院協議会が報告した「1993年包括財政調整法(H.R.2264)」を、51対50の僅差で成立させた。クリントン大統領はこの法案に署名した(Public Law 103-66)。  8月16日:上下両院協議会における予算配分法案(H.R.2519)に関し、両院間の意見に相違が生じ、両者の合意は9月まで繰り延べになることが予想されている。両院間の相違は、周波数共用やオークションの導入でなく、他のテレコム分野の問題に関して発生しているものである。     同日:新しいPCS事業の具体化をめぐって、PCS Action社とCTIA(Cellular Telecommunications Industry Association)が対立し、FCCに対してそれぞれの立場からロビーイングを続けている。CTIAは、PCSオークションの地域割りとして、セルラー電話と同じ734地区を主張するが、PCS Action社側では、Rand Mcnally社のBTA(Basic Trading Areas)を主張している。また、セルラー事業者側では、すでに25MHzの帯域を所有しているので、新しいPCS用帯域としては、20MHzで十分であるとしているが、PCS Action社側では、1事業あたり40MHzを配分することを主張している。  8月18日:AT&T社とMcCaw Cellular社が合併に向けて協議していることを発表した。両社の合併が成立すれば、アクセス市場における有線・無線サービスの境界が一部消滅することになり、新しい規制問題を生ずることになると考えられている。     同日:Advanced MobileCom Technologies社他は、FCCに対し、PCS事業に関する第二段階の検討を開始するべきであると申請した。これらの申請事業者は、昨年のFCCによる決定において「創始者優遇制度」の適用を受けることができなかったものである。  8月20日:通信小委員会Edward J. Markey委員長は、AT&T社長Robert E. Allen氏に書簡を送り、AT&T社とMcCaw Cellular社との合併に関して、詳細を報告するよう要請した。Markey議員は、とりわけ、AT&T製造部門がその製品をどの程度McCaw社に販売しているかについて関心を持っている。  8月30日:Bell South社他は、DC控訴裁判所に対し、FCCによる「創始者優遇制度」を、狭帯域PCSサービスについてMobile Telecommunications Technologies社(Mtel)に与えることを違法とする旨の訴えを提起した。  9月 6日:Bank of America副頭取Donald W. Bush氏から、MCI Telecommunications社に送られた手紙によれば、同銀行は、PCSネットワークの全国規模への展開には、50〜100億ドルの資本費がかかると推定しており、そのための資金の供給方式としては、全国規模のPCS事業者のコンソーシアム形式が最も効率的であろうと考えている。  9月14日:NTIA Larry Irving長官は、FCCに書簡を送り、(1)新しいPCSサービスのために100〜120MHz分の周波数帯を割り当てること、(2)同周波数帯をまず3個の30MHz帯に分け、残りを10〜15MHz帯に分割して割り当てることが望ましいと述べた。また、同氏は、(3)全国を183個の経済区域に分割し、区域ごとに事業者免許を出すことが望ましいとした。また、現存セルラー事業者によるPCS免許の取得について、Irving氏は、セルラー事業者には30MHz幅の周波数の使用は認めるべきではないが、15〜20MHz程度のものは考慮できるとの意見を表明した。  9月23日:FCCは、一般案件GN90-314(PCS検討)において、広帯域PCSのために2GHz帯において計160MHzの周波数(1850-1970, 2130-2150, 2180-2200MHz)を配分することを、同第二次報告・命令によって決定した。また、免許外PCSのために、40MHz(1890-1930MHz)を配分した。これらの周波数は、30MHzのAおよびBチャンネル、20MHzのCチャンネル、10MHzのD、E、F、Gチャンネルと定義され、A、BチャンネルはMTA単位、C〜GチャンネルはBTA単位で免許が交付される。免許期間は10年間であり、現セルラー・サービスと類似の条件の下に更新可能である。免許事業者は、5年以内に地域内の3分の1の人口に、7年以内に3分の2の人口に、そして10年以内に90%の人口にサービスを供給することを義務づけられる。また、現セルラー事業者については、自己のサービス地域外については参入を認めることとし、事業者シェアの20%以上を保有する場合に同制限が該当することとした。ただし、セルラー事業者は、10MHzサイズのチャンネルについては、自己サービス地域において免許申請可能であるとした。また、地域電話事業者は、セルラー事業をおこなっていなければ、他事業者と同一条件で申請を認めることとした。 中小企業、非都市地域の電話会社、およびマイノリティ・女性所有の企業に対しては、20MHzのCブロック、および10MHzのDブロックをそのために提供することとし、改めて必要な規則制定をおこなうこととなった。 さらに、PCS事業者は同一地域において40MHzまで周波数を使用することができ、また、地域については無制限であるとした。 なお、FCCの、Barrett委員は反対意見を表明し、全国2,000個にも及ぶPCS事業者免許の交付には、実施費用のみが高くなり、実際的な効率が低下する可能性が大きいとの意見を述べた。     同日:FCCは、1993年包括財政調整法による通信法332条3(n)項の修正にしたがって、PCSを含む移動通信サービス全般に関する規制方式の検討を案件PR93-252として開始することを決定した。     同日:FCCは、さらに新規の企画・政策案件PP93-253によって、オークション方式による免許交付のための規則制定を開始した。なお、オークション方式は、放送用電波には適用しないこととしているが、直接放送衛星(Direct Broadcast Satellite)については、一般からのコメントを求めることにした。FCCは今回の通信法改正によって、PCS免許交付を270日以内に開始しなければならないが、そのため、口頭あるいは密封による入札に加え、電子的手段による入札も考慮している。とりわけ、30MHz帯のPCS免許については、49のMTAについて同時入札をおこなう必要があり、そのために密封入札か電子入札かを用いる必要があるとして、コメントを求めている。また、不正入札を防止するため、入札希望者は事前に入札証拠金(Upfront Payment)をFCCに預託するべきであること、また入札終了後は、数日以内にオークション代金の20%以上を納入するべきであるとしている。 10月 4日:Northern Telecom社が、「PCS 1900」システムを発表した。PCS 1900は、2GHz帯のPCSサービス用ハードウェアおよびソフトウェアで構成され、全国規模のローミング秘話装置、パーソナル番号、発信者番号表示等のサービスを備えている。 10月11日:FCC James H. Quello委員長代理は、オランダ、アムステルダム市の講演で、「FCCは、今回の新PCSサービスになるべく多くの自由度を与え、市場によってサービス供給の内容が決まるように規則を提案した。」と述べた。Quello委員長代理は、「たとえば、PCSについては、電波送出媒体を特定していないので、地上波によっても、あるいは低高度衛星(LEO)によっても実現できる。また、同一地域で40MHzまでの周波数帯を自由に使うことができ、またこれを全国規模でも地域規模でも利用できる。」     同日:Cox Enterprises社およびOmnipoint Communications社は、先にFCCから「創始者優遇措置」の適用を受けているが、今回のPCS制度の具体化にともない、両社に与えられる周波数チャンネルが、10〜20MHzではなく、30MHz帯であるべきであるとする主張をFCCに表明した。両社はこれまで、30MHz以上の周波数帯を前提して実験を進めたことを指摘している。 10月18日:FCCは、今回改正された通信法332条3(n)項規定に関する規則制定のために、一般案件GN93-252によって規則制定方針を発表し、コメントを求めた。同方針の眼目は、サービスの定義や新規定の効力が及ぶサービスの範囲等である。また、これらの規則は、PCSおよびPCS以外のサービスにも及ぶものである。さらに、移動通信を私的サービスと商業サービスに2分するよう新法律が求めているが、その具体的な境界線も問題となっている。     同日:FCCは、企画・政策案件PP93-253による「周波数オークション」方式の検討のために、細部に関するコメントを求めた。とりわけ、オークションの実施方式に関し、英国型、密封入札、オランダ型、Vickrey型などの類型を示し、それらの長短についてコメントを求めている。 10月21日:FCCは、新技術案件ET93-266を開始し、「創始者優遇制度」の再検討について規則制定を提案した。とりわけ、今回の創始者優遇制度は、PCSを含む新サービスのための周波数オークションと関連して適用される。なお、今回の再検討は、すでに最終的に優遇措置を受けている事業者には及ばず、仮優遇措置を受けている事業者は影響を受けることがある。FCCは、本提案の当初において、そもそも周波数オークションとの関連で「創始者優遇措置」を存続させるべきであるか否かを問題とし、さらに具体的なポイントについてコメントを求めている。 11月22日:下院エネルギー・商務委員会John Dingell委員長は、FCC James H. Quello委員長代理に書簡を送り、「今回の通信法改正による『周波数オークション』の導入は、本来技術的その他の理由で解決不可能な複数事業者からの免許申請の解決のために使用されるべきであり、もし技術的その他の理由で米国国民の利益増進のための免許交付対象の決定ができる場合は、あえてオークション方式を導入するべきではない。」との意見を表明し、その典型的なケースとして、「非静止衛星サービス(MSS, Mobile Satellite Service, Big LEO)」のケースを挙げた。 12月 6日:大手ケーブルテレビ5社は、新たにベンチャー企業を設立してPCS事業に参入することに同意した。     同日:FCCがRand-McNally社のMTAおよびBTAをPCS免許単位に使用することについて、同社が知的財産権による保護を請求した件に関し、FCCは同社の定義を採用することを中止するべきであるという意見が寄せられた。 12月 8日:Rand-McNally社は、FCCに対し、同社のMTAおよびBTAの一覧表の使用を基本的に無償で認める旨を通知した。ただし、同一覧表が有償で外部に販売される場合は、同社の許可が必要であると述べた。 12月13日:FCCによる広帯域PCSサービスの規制制定等に50件の意見が寄せられ、FCCは当初提案を修正するべきであるという意見が大部分であった。主要な意見としては、セルラー事業者によるPCS事業参入の件、PCS免許条件が周波数帯幅や地域の広狭に関し一様でないこと、2GHz帯の下部周波数帯と上部周波数帯の統合から生ずる技術的問題について、PCS基地とりわけ非都市地域からの出力制限について、PCSとマイクロウェーブ通信との間の混線防止策についてなどである。上記コメントは、一般案件GN90-314に関して寄せられたものである。また、今回の規則案の提案時のFCC委員数は3名であり、2対1の投票で当初案が決められたものである。 12月23日:FCCは、PCSに関する「創始者優遇制度」を、American Personal Communications社、Omnipoint Communications社、Cox Enterprises社に与えることを最終的に決定した。上記3社は、それぞれ国内MTAの1地域において、30MHz PCS用ブロックAの免許をオークションなしで受けることができる。これらは、一般案件GN90-314の中で実施されたものである。 FCCは、上記一般案件に加え、技術案件ET92-28(1GHz上部の非静止衛星サービス)と、公衆通信案件CC 92-297(28GHz LMDS)につき、現在の「創始者優遇制度」を継続することを宣言し、同措置の規則制定に関する技術案件ET93-266を閉じることを表明した。 1994年  1月10日:英国の国際テレコム事業者Cable and Wireless社(CWI)は、FCCに対し、1993年夏の通信法改正の結果おこなわれるPCS免許オークションに参加する希望を示し、通信法310条(b)(4)による外国企業に対する制約条件を免除することを求めた。CWIは、英国において、米国テレコム事業者に対する類似の制約が存在しないことを挙げ、また同制約は、元来、防衛上の必要から生じたもので、米英間には最初からその必要がないことを強調している。  1月24日:American Personal Communications社は、FCCに対し、ワシントン・ボルチモア地域のMTAにおいてPCSシステムを建設する申請を提出した。これは、同社がFCCから与えられた「創始者優遇」に基づくものであり、1年間に1億ドルを投資して、1995年第4四半期の開業時に人口の80%をカバーする計画を立てている。なお、同MTAの人口は、約800万人である。  1月28日:Telocator社が、Personal Communications Industry Association(PCIA)と名称を変更し、「1994年PCS市場需要予測」を発表した。同報告書は、PCSは従来から存在する通信サービスを置き換えるものではなく、それらの補完的役割を果たすであろうとしている。そしてPCSユーザが1988年までに855万人、2003年までに3,111万人に増加するであろうとしている。これらは、同報告書が同じく予測しているセルラー加入者数の約半数である。  2月 1日:新しく就任したReed E. Hundt FCC委員長は、PCSに関する政策・規則立案にあたるため、FCC内部に実行委員会(Task Force)を設置すると発表した。1993年9月の広帯域PCSに関する規則制定案に対し、60件を越える見直し要請が寄せられており、また、FCCの委員もすべて入れ代わったため、広帯域PCSオークションの方針が根本的に練り直されるものと予測される。そのため、広帯域PCSのオークションの開始は、翌年以降になる可能性が強いという予測が出ている。  2月 3日:FCCは900MHz帯の狭帯域PCSに関する規則の最終案を決定した。周波数は、当初の提案通り、901-902, 930-931, 940-941MHzが割り当てられた。サービス・エリアの種類としては、全国、MTA、BTAに加え、MTA数個を合わせた地域(Region)が設けられた。チャンネルは、各サービス・エリアについて、50KHzを基本とする数種類が設けられた。また、免許数の上限としては、事業者が同一区分内で3個を越える免許を取得することはできないとした。また、免許を受けた事業者は、5年以内にサービス・エリア人口の37.5%、10年以内に75%をカバーしなければならない。この条項によって、抽選による割当時のように投機的目的で応募する可能性は除かれる。     同日:FCCは、1993年包括予算調整法の規定に基づき、PCSを含む移動通信サービス全般に対する規制を体系化するための枠組みを定めた。今回の内容は、(1)用語・概念の定義、(2)既存移動サービスの再分類と体系化、(3)コマーシャル・サービス(CMRS)に対する規制緩和、である。  3月 8日:FCCは、周波数全般に適用される免許オークションのための一般的ルールを決定した。これは通信法309条第(j)項の内容を具体的に定めた規則で、適用第1号がPCSのための周波数オークションになる。今回の規則は、一般的なルールであり、広帯域PCSをはじめとするPCS周波数の実際のオークションのためには、さらに詳細な規則制定が必要となる。今回の規則制定案の主な項目は以下の通りである。(1)オークションの対象。(2)オークション方式とりわけ同時複数ラウンド方式の採用。(3)オークションの進行方式・罰則。(4)オークション参加者の支払い義務:供託金、頭金、落札額の支払い方式。(5)SWMR事業者(中小企業、女性・マイノリティ経営の企業、非都市地域の電話会社)に対する特例優遇措置、とりわけ優遇措置の悪用を防止する手段。(6)投機的な免許転売の防止策。     同日:FCCは、広帯域PCS導入にともなう2GHz帯のマイクロウェーブ事業者の移転に関し、これまで例外とされていた警察・消防・救急医療などの公共機関による緊急無線についても、必要な場合は、強制的な移転措置をおこなうことがあるとした。公共機関のマイクロウェーブ事業者は、大都市で問題が起こるのではないかとして反対している。  4月11日:FCCのPCS検討委員会は、広帯域PCSのための規則制定をめぐる諸問題を検討するため、通信・金融界の代表を含む専門家を招き、コンファレンスを開いた。問題となった主な点は、第1に規則制定に十分な時間をかけるか、あるいは早期のオークション開始を目指すかの選択、第2に、広帯域PCSのためのA〜Gブロックの設定は妥当か否か、であった。     同日:エコノミストGeorge Gilder氏が、周波数オークションは無用かつ有害であるとした論文をForbes誌に発表した。同氏の意見の中心は、周波数はそもそも免許方式によって特定の事業者が独占的に使用するべきものではなく、多数の小型基地局が、必要に応じて、相互に妨害を避けながら適切な周波数を選び、自動的に調整して通信をおこなう方式、たとえば「船舶が交通ルールに基づいて洋上を自由かつ安全に航海するように」周波数を共有することを主張する点にある。この手法とCDMA方式の組合せによって、周波数資源は最も有効に活用できるのであり、FCCが実現しようとしているオークションによる免許交付は、広大な周波数資源を数千個の独占領域に切り刻み、非効率的な使用法を強制するものであるとしている。  4月20日:FCCは、狭帯域PCS免許のオークションのための規則を決定した。主な内容は、(1)オークション方式として、「同時複数ラウンド(MSR, Multiple Simultanerous Round)方式」を採用した。(2)競売手順は、創始者優遇制度の適用を受けるMtelが取得する分を除く全国免許から、順次MTA、BTAのオークションに進む。(3)参加者の支払い義務としては、オークション参加者すべてが支払う供託金、落札者の支払う頭金(落札額の20%、ただし中小企業は10%)に加え、落札額を免許交付日から5日以内に納付(中小企業は分割納付あり)しなければならない。また、SWMR事業者への特例措置として、落札金額の分割納付と割引が定められた。  5月 3日:下院エネルギー・商務委員会監督調査小委員長John Dingell議員は、FCCが「創始者優遇措置」を与えた4事業者の選定手続に問題があるとして、正式な調査に乗り出した。同議員は、FCCのWilliam Kenard首席弁護士宛に、選定内容の詳細に関する質問状を送付した。  5月23日:FCCは、狭帯域PCS全国免許のオークションを、7月25日〜27日の3日間、ワシントンにおいて実施すると発表した。  6月 3日:FCCのWilliam Kenard首席弁護士は、下院エネルギー商務委員会監督調査小委員長John Dingell議員に、「創始者優遇措置」の適用に関する説明書を送付した。Kenard氏は、選定作業で不正行為がおこなわれたことを否定している。  6月 9日:FCCは、広帯域PCS免許のオークション実施規則の一部改正を決定した。改正の内容として、(1)周波数割当方式について、原案に寄せられたコメントを考慮し、ブロックA〜Gを組み替えた。とりわけ、同一事業者が離れた周波数帯にわたって交信することから生ずる不便を除去した。(2)セルラー事業者によるPCS免許取得の条件を緩和した。(3)免許取得者による敷設義務の内容を緩和した。     同日:FCCは、商用移動無線サービス(CMRS)をめぐる「公平な相互接続アクセス義務に関する規則制定」に、本格的に着手した。CMRSは、セルラー、PCSをはじめとする収益目的の、かつ、相互接続を前提するサービスを供給する事業である。基本的に、現在Bell系地域電話会社・セルラー会社に義務づけられている「公平な接続サービスの提供」を、一般のCMRS事業者にも適用する方針を定めた。  6月22日:PCIAがワシントン市で「PCSサミット」を開催した。議論の対象となった主な点は、下記の通りである。(1)PCS事業者が負う相互接続義務、PCSサービスの再販売の可否、PCSとLECとの接続条件の決定方式など。(2)PCSに関するFCC規制と州規制委員会との関係。(3)その他、周波数帯域の設定など、技術的問題。  6月29日:FCCは広帯域PCS免許のオークション規則を発表し、SWMR企業の優遇策を示した。具体的には、(1)SWMR事業者を対象として、ブロックCとブロックFを指定し、これを「起業家用ブロック(Entrepreneurial blocks)」と呼んだ。(2)SWMR企業の資格を緩和した。(3)オークション方式は、全体として狭帯域PCSに採用した方式と同一である。ただし、SWMR事業者と大手の大企業との提携に制限が加えられている。  6月30日:John Dingell下院議員は、「創始者優遇措置」を受ける事業者の免許の有料化や、同制度の廃止などを盛り込んだ法案(H.R.4700)を提出し、かつFCCが同企業に免許を無償で与えようとしている点を批判した。  7月13日:FCCは、狭帯域PCSについて「創始者優遇措置」の適用を受けるMtelの子会社に対し、全国免許を交付することを決定した。また、免許交付にあたり、FCCは、同オークションで決定する最低落札価格の90%あるいは最低落札価格から300万ドルを差し引いた金額のうち、少ない方の金額の納付を条件として明示した。(ただし、実際の支払いは、創始者優遇措置に関するFCCあるいは裁判所での最終判断が決まるまで延期される。)     同日:FCCは、従来の方式を変更し、「創始者優遇措置」の適用を受ける事業者に対しても、免許取得にあたって相当額の支払いを要求するとの方針を発表した。この発表は、狭帯域免許オークション実施直前の決定である。  7月25日:US West社と、Pacific Telesis電話会社の子会社であるAirtouch Communications社は、PCS事業について提携計画を発表した。     同日:ワシントン市のホテルで、7月25日〜29日の4日間、狭帯域PCSの全国免許のオークションが実施された。全国免許10個に対して27事業者が67件のオークションを申し込んだが、手続不備等もあり、実際に参加を認められた応募は29件であった。各事業者の入札担当者は、入札各ラウンドごとにホテル会場に設けられた端末に各免許に対する入札額を入力し、ラウンドごとに各ライセンスの最高入札額と入札者が公表された。落札は大部分メッセージング業の大手事業者に集まり、入札額は、事前の予想を上回った。最終的な落札総額は6億ドルを越えた。  8月 1日:FCCは事務局組織を変更し、新たに「無線局」と「国際局」を設置した。PCSオークションは、新しい「無線局」が所管することになる。  8月 9日:FCCは、広帯域PCSの「創始者優遇措置」を受けた事業者に対しても、交付免許の有料化を決定した。     同日:FCCは、PCS、セルラー等を含むCMRS事業者が単独で同一サービス地域において専有できる周波数の合計を、45MHzに制限するとの方針を発表した。  8月12日:FCCは、本年3月に発表した「免許オークションに関する一般規則」に対するコメントに基づき、同ルールの一部を改正した。また、広帯域PCSのオークション規則についても、一部を改正し、SWMR事業者と資金提供者との提携条件を緩和して、前者によるオークションへの参加を容易にした。  8月17日:FCCは、狭帯域PCSの地域(region)免許のオークションを、10月26日から開始することを決定した。  8月29日:FCCは、全米の4都市(シカゴ、デンバー、サンフランシスコ、ワシントンD.C.)で、今年末に予定している広帯域PCS免許オークションの進め方やルールに関する説明会を開催した。同オークションは、史上最大規模になることが予想されている。FCCは不正行為を防止しながら、円滑かつ迅速にオークションを実施するための努力を払っていると言明している。     同日:MCIは、本年2月末以降進めてきたNextel社との大型提携計画を白紙に戻すことを決定した。  9月 9日:FCCは、広帯域PCSのMTA免許(A、Bブロック)のうち、創始者優遇措置を受ける事業者に交付されることになっている3個を除く99個の免許のオークションを、本年12月5日から開始すると発表した。広帯域オークションは、多数の要素が複雑に絡み合い、その規模も大きいので、1ランド1日というスピードで実施される(狭帯域オークションは、1ラウンド1時間のスピード)。また、SMWR事業者用専用のブロック(C、Fブロック)免許のオークションは、上記AおよびBブロック免許オークションの終了後、なるべく早い機会に実施すると発表した。  9月22日:FCCは、10月26日から開始が予定されている狭帯域PCS免許のうち、SMWR事業者向けオークションの特別ルールを改訂した。今回の改正によって、SMWR事業者の範囲が拡げられ、また、落札後のオークション金額の納入条件も緩和された。  9月27日:FCC・議会・裁判所で争われている「創始者優遇制度」について、議会から「創始者優遇措置を受ける事業者から、オークション金額の85%にあたる免許取得代を徴収する」案が出された。 10月26日:第二回目の狭帯域PCS免許のオークションが開始された。5地域各6種類、計30個の地域免許をめぐるオークションが、ワシントンD.C.において実施された。前回の全国免許のPCS免許オークションと同じく、積極的な入札が見られた。 11月 8日:狭帯域PCS地域免許のオークションが実施され、開始から10日目の11月8日、105ラウンドで終了した。落札額は、5地域6ブロック計30個の免許の合計で、48,800万ドルに及んだ。とりわけ、Pagemart社、Mobile Media社、Advanced Wireless Messaging社の大手と、SMWR事業者であるPCS Development社の4社は、同一周波数を5地域すべてで落札し、事実上、全国免許を獲得したのと同じ成果を上げた。その落札額は、前回の全国免許の落札額よりも20%程度割高になっている。また、合計10の優遇ブロックでは、すべてSMWR事業者が落札し、優遇措置が有効であったことを示した。オークション方式としては、今回初めて電話による「リモート入札」が利用され、その有効性が確認されたと報告された。 11月10日:FCCは、広帯域PCSのSMWR事業者用ブロック(BTAのブロックCおよびF)のオークション・ルールについて、一部を見直した。その結果、オークション参加事業者への外部からの投資条件が緩和され、また、落札額の分割納付条件も緩和された。他方、落札SMWR事業者は、免許の取得後、3年間は転売を禁止され、また、取得後5年間は他のSMWR事業者以外への転売を禁止されることになった。 11月29日:「創始者優遇措置」について、下院は、「GATTウルグアイ・ラウンド協定批准法案」を可決し、同法案に添付されていた条項「創始者優遇措置を受けた事業者から免許落札価格の85%にあたる金額を徴収する(FCCの決めた90%の徴収率を引き下げる)」をも成立させた。上院においても、本条項の会期内成立の可能性が高いと予測されている。 12月 1日:GATT法案が連邦議会で可決され、同法案に付帯された「創始者優遇条項」も成立し、同問題に一応の決着がつくことになった。同条項は、「創始者優遇制度」を適用された事業者から免許料金を徴収する権限を与え、かつFCCが料金の計算・徴収方法を定めるための規定を設けている。同条項により、無料免許交付から生ずる不公平への批判と、FCCがオークション以外の方法によって免許取得事業者から料金を徴収することは違法であるとする反批判から生ずる閉塞状況を打開することができた。 12月 5日:ワシントン市Postal Square Buildingで、今回のオークションで最大の注目を集めている広帯域PCSのMTA免許99個のオークションが、30の入札事業者を集めてスタートした。これは、全米51ヶ所のMTAで、30MHzの周波数ブロック(A、Bブロックの2種類を含む。ただし、創始者優遇措置の対象となっている3地域については、Bブロックのみ。)についておこなわれるものである。 議会およびクリントン政権は、計100億ドルを越える落札額合計を期待している。しかし、スタートから2週間たった第1〜20ラウンドにおいては、各入札事業者の動きは慎重で、クリスマス休暇前の終了時点での入札合計額は、約16億ドルに留まっている。 FCCは、入札額の上昇が緩慢にすぎ、入札終了まで極端な長期間を要すると判断した場合、3段階の進行促進ルールを用意しており、必要に応じて同ルールを適用することになっている。したがって、1月の再開後に、競争が本格化するものと予測されている。 [60/50-51] 12月23日:FCCは、広帯域PCSのSMWR事業者用ブロックのうち、30MHzのCブロックと、10MHzのFブロックのオークションをそれぞれ別個に実施することを決め、まずCブロックのオークションを1995年4月に開始する予定であると発表した。とりわけ、Cブロックは、他のD、E、Fブロックが各10MHz幅であるのに対し、30MHzの幅を持っているため、他ブロックと共用する価値が高く、SMWR事業者との提携を求める大手企業が続出している。FCCは、C、Fブロックへの大手事業者へのなだれ込みを防ぎ、本来のSMWR事業者が両ブロックを使うようにするための規則づくりに苦心している。 9902aab2.rtf - 1 - ********** E-mail: oniki@iser.osaka-u.ac.jp Web: http://www.crcast.osaka-u.ac.jp/oniki/ 「米国の周波数オークション(1993年の「通信法」改正)」、『米国通信法研究会報告書』、通信機械工業会:米国通信法研究 会、1999年2月、pp.127-272。