付録B: 「(米国)周波数オークション」年表1 年月日    事項 1910年 6月24日:米議会が「船舶無線法(Wireless Ship Act)」を制定した(Public Law 262, 61st Congress, June 24, 1910)。これは連邦政府による最初の無線通信の規制法である。 1912年 8月13日:米議会が「無線法(Radio Act)」を制定し、無線通信(電報)の混信防止、船舶航行の安全確保を主内容とする規制を実施した(Public Law 264, 62nd Congress, August 13, 1912)。なお、周波数使用免許の発行などの規制業務は、商務労働省(当時)が担当した。 1920年代前半       :ラジオ放送(すべて民営)が急速に普及し、放送局数が急増した。1912年法ではラジオ放送用電波の規制権限の所在が不明確であり、議会による新法制定が遅延したため、放送局の開局が実質上野放し状態となり(radio chaos)、多数の混信・混乱を生じた。 1926年 12月 7日:クーリッジ大統領が議会による周波数規制のための新法制定の促進を要請した。しかし独立規制委員会の設立には消極的であった(H.R.Doc.483, 69th Congress, 2d Session, December 7, 1926)。 12月 8日:米議会が、Radio caosに乗ずる周波数使用の既得権が成立することを防止するため、「周波数使用免許の新規発行・更新にあたって、免許取得者が、当該周波数にかかる免許期間終了後の使用権・所有権を含むすべての権利を放棄することを免許発行・更新の条件とする。」旨の緊急措置を決定した(Public Resolution 47, 69th Congress, 2d Session, December 8, 1926)。 1927年 2月23日:米議会が「1927年無線法(Radio Act of 1927)」を成立させ、連邦無線委員会(FRC: Federal Radio Commission)を発足させた(Public Law 632, 69th Congress, February 23, 1927)。周波数の(私的)所有権(property right)でなく、その使用権のみを一定期間(当初は5年、ただし放送用は3年)免許方式で認めることを明示した。免許の発行・更新・譲渡のための手続方式を定め、現在まで続く周波数規制の骨格が成立した(ただし、初期免許発行方式は後に大きく変更される)。またFRCは、現在のFCCの原型となった。 1934年 6月19日:米議会が1927年無線法を改組・拡充し、電話事業の規制等を含めた「1934通信法(Communications Act of 1934)」を制定し、FRCを「連邦通信委員会(FCC: Federal Communications Commission)」に改組した(Public Law 416, 73d Congress, June 19, 1934)。無線関係の規定は、実質上1927年法の規定をおおむねそのまま取り入れ、本法の「第V編無線関係の規定(TitleV Provisions Relating to Radio)」とした。 1950年代       :FCCが比較聴聞方式(comparating hearings)により、テレビ放送用周波数使用免許を発行。 1959年 10月   :R. H. Coase教授が論文 "The Federal Communications Commission" をJournal of Law & Economics 誌に発表し、(1)一般に、市場メカニズムに基づく周波数の配分は経済効率上望ましいこと、(2)放送用周波数に関する規制は、これと別個に考えられるべきこと、(3)しかしこれらの考え方は、残念ながら多数派による誤解のために受け入れられない現状であることを述べた。本論文は、1980年代のFCCスタッフメンバーによる周波数オークション制度の推進方向に影響を与えた。ただし、周波数の経済的性質やオークションの可能性については、本論文の前後にも相当数の論文が発表されている。 1981年 8月13日:米議会が1981年包括財政調整法を成立させた。その結果、通信法309条に(i)項が加えられ、周波数割当のために「無差別抽選(random selection, lottery)」方式が導入されることになった(Public Law 97-35, Title XII, §1242(a), 95 Stat.736, Aug. 13, 1981)。同年以降、セルラー方式移動電話のための周波数使用免許が抽選によって多数発行された。抽選応募者はしばしば数十万のオーダーまでに上った。 1985年  5月   :FCC政策局所属のEvan Kwerel、Alex Felker博士が論文 "Using Auctions to Select FCC Licenses" を同局から発表し、周波数オークションについて制度的・経済的観点からの概観を与えた。本論文は、10年後のFCCによる周波数オークション制度のデザインのための出発点となった。なお、Kwerel博士はオークション制度の設立に到るまで中心的な役割をつとめ、その功績に対して1997年にFCCから表彰された。 11月21日:FCCのMark S. Fowler議長が下院エネルギー・商務委員会(Committee on Energy and Commerce)通信小委員会(Subcommittee and Finance)のT. E. Wirth委員長宛に書簡を送り、周波数オークション導入の必要を訴えた。 1986年 10月 1日:下院エネルギー・商務委員会通信小委員会で、周波数オークション導入に関する最初の公聴会が開かれた(Spectrum Auctions: FCC Proposals for the Airwaves, Hearing before the Subcommittee on Telecommuinications, Consumer Protection, and Finance of the Committee on Energy and Commerce, House of Representatives, 99th Congress, 2nd Session, October 1, 1986, U.S. Government Printing Office, Washington: 1987)。委員の大多数、ほとんどすべてのパネルはオークション導入に反対意見であった。 1987年  1月12日:無差別抽選による周波数割当に関し、FCCが「応募事業者」の資産内容の抽選前表示を、抽選後の表示に変更することを認めることを発表した。  1月19日:非都会地域(RSA)における周波数使用免許を、免許の目的であった事業のための施設を建設する以前に第三者に譲渡することを禁止する件に関し、BellSouth Mobility社は、本条項は移動通信事業者の自由を制限し、セルラー・サービスの急速な展開を遅らせるのでこれに反対する旨の意見をFCCに提出した。  2月25日:下院エネルギー・商務委員会John D. Dingell委員長は、1988年予算について同予算委員会委員長に送った書簡の中で、入札による周波数の割当に反対する意向を表明した。「入札方式は財務省の収入を増大させるかもしれないが、従来からの周波数割当の原則である最も効率的な使用者への割当という原則を満たさず、国民の利益にならない。」という理由からである。  8月31日:「全米電話協会事業者(NTCA)」は、FCCおよび行政当局が提案している「放送用以外の周波数の入札による割当」に反対する意向を表明した。周波数の入札は、通信法の基本方針である「国民の利益(public interest)」に反し、一部の富裕な入札者だけを利するという理由による。  9月21日:FCCは、「一般案件GN87-390」で、セルラー携帯電話用の技術方式を自由化し、補助サービスの提供を促進する方針を提案した。その中には、セルラー事業者に、固定地点間の補助サービスの提供を認める項目が入っている。FCCの方針は、「新しいセルラー技術の発展が、通信方式等への制約によって遅らせられることがないようにする。」点にあり、またこれによって、新世代のセルラー技術や、コンピュータ端末の電話ネットワークへのリモート接続等を可能にする点にある。  9月28日:電気通信業界および消費者分野の32団体は、上院商務委員会および同予算委員会に対し、FCCの提案になる周波数の入札割当に反対する手紙を送った。反対の理由として、「FCCは数百万ドルに上る周波数入札からの収入を得ることができるが、これは米国政府にとって1回かぎりの収入であり、財政赤字の解決策にはならない。他方、入札制度は、周波数の使用を支払い能力によって決めることになり、米国の通信政策の大幅変更を意味することになるからである。」としている。 10月19日:FCCは「一般案件GN87-390」による規則設定提案において、セルラー免許事業者に対し、技術要件を緩和する方針を提案した。ただし、電波妨害に関する規制は除かれている。 1988年  1月18日:上院商務委員会通信小委員会において、セルラー無線免許に関する本格的な公聴会が開かれることが決定した。とりわけ、非都市地域の周波数免許の抽選について意見が聴取される。  4月11日:FCCの公衆通信(common carrier)局移動通信部が、セルラー移動通信免許の利益目的の再販売を認める方針を発表した。本件は、「米国独立セルラー通信協会」に属する独立セルラー事業者からMcCaw通信会社への免許の再販売の許可をめぐって検討されていたものである。  4月27日:上院商務委員会通信小委員会において、周波数に関するヒアリングがおこなわれ、賛否さまざまの意見が提示された。上院商務委員会Earnest F. Holings委員長は、周波数の市場価値の2%程度の「免許料」を徴収することを提案した(法案S.1935)。これに対し、上院通信小委員会Daniel K. Inouye委員長は、政府が周波数の市場価値の少なくとも相当部分を徴収するべきことを主張した。また、NTIAのSikes長官は、行政側を代表して、年来の主張である周波数オークションを提案した。これに対し、Holings委員長は、議員の中でオークションに賛成する者はほとんどいないことを指摘し、また電気通信事業分野の代表者は、放送電波を除き通信用電波のみに入札あるいは免許費用を科することは、同分野のユーザの負担において放送事業をサポートするものであると考えているとして、オークションに反対した。 TR (5/2/88)  6月14日:Don Ritter下院議員は、周波数入札を5年間と限って実験的に実施する法案を提出した。これは行政側の上院への提案にならい、放送・公共安全・アマチュア無線の3分野以外の分野について、6MHz分の周波数を入札により提供し、約8億ドルの収入を見込むものである。Ritter議員はまた、「鉱山採掘権」について入札がおこなわれていることを指摘し、電波を無料で割り当てることは適切でない旨を付け加えた。これに対し、下院通信小委員会Edward J. Markey委員長は、電波は一般ユーザの利便のために割り当てられるべきものであり、大きな資本力を持つ事業者に割り当てられるべきではないとして反対した。しかし、同委員長は、他方で、抽選によって割り当てられた周波数が投機目的のために再販売される現状についても批判を加えた。 TR (6/20/88)  6月27日:McCaw社を含む移動通信事業者は、FCCに対し、周波数の使用権を利潤目的で売買することを認めるべきであるとする意見を提出した。 10月13日:FCCは同日の公開会合において、移動通信セルラー・サービスに関する技術要件等の規制を緩和する決定をおこなった(一般案件GN87-390)。この規制緩和は、移動通信分野の新しい世代の技術進歩を促進させる目的でおこなわれたが、これに対し、FCC委員の中で電波混信の可能性を生ずる等の理由で反対意見が残った。 TR (10/17/88) 1989年  1月23日:下院エネルギー・商務委員会で行われている「FCCによる周波数管理」の現状調査について、議会General Accounting Office(GAO)は、下院商務委員会John Dingell委員長に対し、FCCが未使用周波数の現状を把握していないと批判する報告書を提出した。GAOは同報告書の中で、FCCは通信法の規定に従い、公共の利益のために周波数を割り当てているが、しかしFCCは将来における周波数への需要に対する長期計画を立てておらず、短期的な場当たり的な計画しかおこなっていないと述べた。 TR (1/23/89)  3月20日:「公正な通信と免許交付実現のための連盟」は、計21のテレコム事業者、消費者、移動通信事業者等の連合体である。今回同連盟は議会に対し、FCCに周波数入札の権限を与えることに強く反対することを表明した。 TR (3/20/89)  3月27日:商務省Alfred C. Sikes副長官(情報通信担当)は下院予算支出委員会に対し、NTIAに与えられる予算の一部を増額して、周波数割当の現状を示す図(マップ)を作成するよう指示することが望ましいと述べた。 TR (3/27/89)  8月28日:NTIAは、周波数の使用・管理に関する根本的な調査を実施する予定であることを表明した。 11月 2日:下院商務委員会J. D. Dingell委員長と同通信小委員会Edward J. Markey委員長の共同提案になる「新通信技術法(H.R.2965)」について公聴会がおこなわれた。まずDingell委員長は、本法案の目的が、少なくとも200MHzの周波数を、現在の商務省NTIA管轄下の政府使用から、FCC管轄による民間使用に移管することにあり、これによって現在混雑状態にある民間周波数使用の状態を緩和し、周波数を利用する新しい技術の発展を促進することにあると述べた。現在の硬直した状態は電波関係の技術進歩を束縛しており、また周波数割当に関して公聴会が開かれるのは、1959年6月8-9日以来のことであると述べた。 これに対し、M. J. Rinaldo小委員(反対派代表)は、全体として同法案に賛成である旨を述べた。またM. G. Oxley小委員は、同法案が周波数入札制度を禁止する条項を含んでいるため、このままでは賛成しがたいが、法案の目的には賛成することを述べた。 政府側代表としてAlfred C. Sikes FCC委員長(前NTIA長官)は、法案の目的には賛成であるとした。しかし実際に政府が200MHz(千億ドルの市場価値を持つと考えられる)の周波数を見出すことができるか否か、現状では分からないので、直ちに賛成することはできないと述べた。この点について、同委員長はFCCが現在周波数の割当一覧表を作成中であることを付加した。他方、同委員長は法案が周波数入札制度を禁止していることに反対し、「他の国有財産で電波のように無料で割り当てられているものは存在しない」旨を強調した。Janice Obuchowski NTIA長官も、Sikes委員長と同様の意見を述べた。 TR (11/6/89) 11月13日:Millicom社はFCCに対し、1.7〜2.3GHz帯で新しい無線サービス"Personal Communications Network (PCN)"のために周波数が割り当てられるよう規則を作成することを申請した。この新しいPCNは、最近の音声・データ・映像情報伝達技術を使用し、マイクロ・セルとスマート・カード技術を活用して低出力の個人用小型携帯端末の使用を可能にするものである。それはディジタル・システムであるため、インテリジェント・ネットワークの構成が可能であり、現行の移動端末に対して、第2世代のパーソナル・コミュニケーション・サービスを供給することができる。また、同社は、Pacific Telesys International社、British Aerospace System社などとともに国際コンソーシアムを形成して、同PCNの免許を英国でも申請しており、数カ月以内に認可の見通しである。その場合は、1992年に英国でサービスを開始することを予定している旨を述べている。 11月   :同Millicom社を含む多数の事業者からの申請により、FCCは一般案件GEN89-554「新規PCSのための規則改訂」をスタートさせ、PCSの諸方式の規則制定に向けて検討を開始した(GEN89-554, 6 FCC Rcd 3990 (1991))。 1990年  4月11日:FCCは、同日の公開会合において、新たな「一般案件GN90-217」を提案し、「創始者優遇制度(pioneers' preference system)」を設立することを提案した。同制度は、「画期的な新技術で一般ユーザに対するサービスを大幅に改良した事業者」に対し、優先的に周波数割当と免許を与えることによって、新技術開発を促進させるためのものである。本方式によって創始者(pioneer)に免許が与えられ、無線通信設備が建設された後、6カ月間は同一地域において他者への免許を与えることを停止し、創始者が新技術から収益を上げることを容易にするものである。 TR (4/16/90)  5月 7日:下院通信小委員会の公聴会で、Dingell-Markey提案の法案H.R.2965に対する意見が開陳された。最低200MHzの周波数を政府使用から民間使用に移管する提案に対し、全体として政府側のユーザ(統合幕僚本部の通信部長、FBI無線システム部長など)は同法案に反対し、現状でも政府機関が使用できる電波は不足しており、またこれを民間使用に移管するためには10年の年月と200億ドルの費用がかかると述べた。これに対し、事業者側の代表は周波数の移管に賛成し、入札制度に関する意見の差によって、同移管が遅延しないことを望むと述べた。  6月 7日:下院通信小委員会は、「新通信技術法案(H.R.2965)」の修正案を可決した。同修正案は、(1)商務省副長官(情報通信担当)とFCC議長が年2回周波数計画作成のために会合し、同商務委員会に報告を提出すること、(2)原案に含まれていた周波数オークション禁止条項を削除することを定めている。ただし、後者の理由としては、同禁止条項はすでに現行法中に実質上含まれているからとしている。 TR(6/11/90)  6月25日:下院商務委員会は、「周波数移管法案(H.R.2965)」を可決し、本会議に送付した。ただし、原案の「入札禁止条項」は修正・削除され、政府側の意見が容れられた。その結果、法案が上院を通過した場合に、大統領によって拒否権を発動される可能性が低くなったと考えられている。  7月 9日:FCC提案になる「創始者優遇政策(一般案件GN90-217)」に対して賛否両様の意見が寄せられている。とりわけ、「創始者」の定義をめぐる困難が指摘されている。AT&Tは、これらの点を明確にすることはFCCによってこれまで提案された事項のうちで最も困難な仕事であるとコメントした。  8月 6日:下院が、「周波数の官民共用に関する法案(H.R.2965)」を可決した。同法のうち、「新通信技術法」は、2GHz帯で約200MHzの周波数を、公共目的から営利目的に移管する条項を含んでいる。この要求に対し、行政当事者は反対の意向を示していたが、商務委員会は「周波数オークションの禁止条項」削除によって妥協をはかったものである。同法は、約一年前に下院商務委員会John Dingell委員長と、通信小委員会Edward J. Markey委員長とが共同提案し、次第にその支持層を広げていったものである。 10月 1日:McCaw Cellular Communications社は、FCCに対し、新しいパーソナル通信サービス(PCS)の実験免許を申請した。PCSは、従来のセルラー方式移動電話と新世代のコードレス電話(CT-2)を統合し、新世代のパーソナル通信システムを目指すものである。同社の実験では、周波数分割方式としてFDMA、TDMA、CDMAの三方式のいずれをもテストすることになっている。 10月 8日:FCCが検討中の「PCS技術実用化の検討(FCC案件90-314)」に対し、関連業界から多数の意見が寄せられ、周波数配分規制・技術方式選択等の諸問題に対し、まだ一致点は見出されていない。BOCを主体とする主要事業者は、PCSはまだ単一の技術を採用する段階ではなく、「市場が技術を決定する」ことが望ましいとしている。なお、法案件は「創始者優遇政策案件」とも密接に関連している。 TR(10/8/90) 10月15日:FCC Sikes委員長は、1991年初頭にFCCが「未来のネットワーク」の主題で公聴会を開き、周波数配分を含む現時点の問題について広い範囲から意見を集める予定であることを表明した。 TR(10/15/90) 10月29日:アメリテック社がFCCに対し、PCSの実験免許を申請した。この頃からPCSの実験免許を申請する大小の事業者が急速に増大し、年末までに数十社に達した。 12月 6日:FCC Sikes委員長は、実務法律家協会と連邦通信法律家協会の共催によるコンファレンスにおいて、1991年にはFCCが「周波数イニシアチブ提案」をおこなうと演説した。 1991年  1月21日:FCCの「PCS検討案件」(FCC 90-314)における意見回答書で、多数の意見が寄せられた。そのうちで、通信インフラを保有する事業者や、ケーブルテレビ事業者がPCS事業に参入することに対する疑問が目立った。またTeLocator社はFCCに対し、930-931MHz帯の周波数を「新世代メッセージ・サービス(AMS)」に割り当てるための「規則作成」をおこなうよう申請した。AMSは、単なる呼出しだけでなく、PCS等と協力して従来よりもはるかに広汎なサービスを提供することができると主張している。  2月 4日:Apple Computer社はFCCに対し、1850-1990MHz帯で、「データPCS」のために40MHzの周波数を割り当てることを求める規則制定申請を提出した。「データPCS」は、移動端末によるネットワーク作業を大幅に進歩させるとして期待されている。また、同提案の中でApple社は、データPCS用の周波数は、直径50m程度の小規模領域内で使用され、特段の免許制度を要しないことを主張している。  2月18日:1991年初頭の「大統領経済白書」の中で、6ページがテレコム政策について割かれている。その中でブッシュ大統領は、周波数オークション制度を早期に確立するべきことを述べ、本件に対する大統領の基本的態度を明らかにした。オークションの目的は競争の導入にあり、電波の使用とその価値の決定を市場メカニズムに委ねることが、その使用効率を最も高めることができると主張している。また、オークションによって入手された電波は、自由に再販売できるようにするべきことをも主張している。  2月25日:下院通信小委員会Edward J. Markey委員長は、「周波数の共用」に関する立法のため、来る3月6日までに5回の公聴会を開くことを提案した。Markey委員長は、昨年度の同法案が下院を通過したにもかかわらず、政府筋の反対のため上院で阻止されたことを残念に思うと述べ、他方で周波数オークションのアイデアが具体化しつつあることを強調した。ただし、周波数の共用とオークションの両問題は同一視するべきではなく、それぞれ別個に議会で検討されるべき旨をも付け加えた。なお、これまで開かれた公聴会で、Sikes FCC議長は、下院「新テレコム技術法案(H.R.531)」の証人として出席し、オークションを推進するべきことを主張した。また、Sikes委員長は、政府保有の周波数の中から200MHzを集めて民間事業者用に割り当てることを主張した。また、PCSについては、一カ月に5〜10件のスピードで実験免許申請が出されており、この分野における技術進歩の見込みが大きいことを指摘した。  3月 4日:NTIAが「周波数管理に関する調査書」を発表し、周波数の割り当てについて、民間のイニシアチブを従来よりも重視するべきことを主張した。同報告書は、『米国の周波数管理政策:未来へのアジェンダ』である。また、同報告書の中でNTIA Obuchowski副長官(情報通信担当)は、従来の周波数割り当て方式である「くじ引き(lottery system)」は、公共の福祉に適合しないと主張した。また市場原理は他の領域で十分に働いており、それが周波数割り当てについて成立しない理由は見当たらないと付け加えた。  3月18日:下院通信小委員会Edward J. Markey委員長と商務省Janice Obuchowski副長官(情報通信担当)は、周波数割り当て方式に関する論争を下院公聴会で開始した。Markey委員長は、行政側が前年度の同法案の上院での審議に反対したことを指摘したが、これに対しObuchowski副長官は、現在下院で審議中の「新テレコム技術法(H.R.531)」に対しては、それが周波数共用(200MHzの周波数を政府使用から民間使用へ移管する件)だけでなく、周波数オークション条項を含まないかぎり賛成しないと述べた。 TR(3/18/91)  4月15日:上院で、周波数関連法案の審議が開始された。まず、周波数共用法案が、上院商務委員会Earnest F. Holings委員長とAl Gore上院議員によって提案された。上院通信小委員会Daniel K. Inouye委員長は、政府保有周波数の「民間部門への移管(周波数共用)」に関するヒアリングを終わった後に「新テレコム技術法(S.218)」を検討し、本月末までに報告をまとめる予定であることを述べた。Inouye小委員長は、行政当局に対して周波数オークション実施を強いるために周波数共用法案を留保することは考えていないことを述べ、両問題は別個に検討されるべきことを主張した。Inouye小委員長は、S.218の審議・報告を終わった後に、オークション法案を審議する、あるいは両者を同時に審議することを考えていると述べた。これで、オークション案件は、下院のみ通過、上院不通過に終わった前議会よりも、早い時期に審議がスタートすることになる。なお、周波数オークション法案については、Ted Stevens上院議員が、若干の保留点を付した上で提案を準備していることが報告されている。 周波数共用法案のヒアリングでは、賛否双方の議論が寄せられた。かつて同法案に反対していた防衛省は、反対自体は取り下げたものの、オークション方式が、「公共の利益(public interest)」に合致しないと述べた。Sikes FCC委員長は、共用法案だけでなく、周波数オークションを強力に支持した。またNTIA Obuchowski長官は、前年度と同じく、オークションを伴わない「共用」には反対するとの意見を述べた。これに対し、民間のパネルの大多数は、オークションに反対する意見を述べた。これらの中には、AT&T・ベル研究所の無線設計部長Lawrence Gitten氏、モトローラ社副社長(規制問題担当)Veronica Haggart氏などが入っている。また、オークションに賛成する民間パネルとしては、アップル・コンピュータ社の技術担当副社長David S. Nagel氏が挙げられる。  4月15日:FCCは、新しいサービス・技術の創始者に対する「創始者優先規則(一般案件GN90-217)」を採択した。同規則は、新しい技術・サービスの創始者が、周波数免許を優先的に受けることができる道を開くものである。(注:本規則は実施中にさまざまの問題を生じ、結局1997年中に廃止された。) なお、IEEEのLAN委員会(IEEE802)は、先にアップル社がFCCに対し規則制定を求めた「データPCS」につき、FCCが40MHzの周波数を与えるよう速やかに決定することを求めた。これに対し、IBM社をはじめとする数社から賛成を主体とするコメントが寄せられた。  5月14日:上院商務委員会は、「周波数共用法案(S.218)」を可決し、本会議に報告することにした。また、その際、上院通信小委員会Daniel K. Inouye委員長は、行政当局が推進している周波数オークション提案に対し、3週間内に公聴会を開くことを述べた。なお、下院においても、S.218と同一内容の「周波数共用法案」が審議中である。  5月20日:American Personal Communications(APC)社は、FCCに対し、新しいパーソナル・コミュニケーション・サービス(第二世代のコードレス電話(CT-2)、Personal Communications Netwoks(PCN)を含む)のために、1950-1990MHz帯と37.0-39.5GHz帯を提供するための規則制定を開始するよう申請した。同社は、1850MHz帯は現用のマイクロウェーブ使用度が低く、他周波数帯への移動あるいはPCS事業者との共用が容易であることを指摘した。また、37.0GHz帯については、PCS事業者の中継用周波数帯として、先行する英国の使用方式に倣うことを示唆した。なおAPC社は、PCS免許の方式として簡便化された比較聴聞方式を主張している。  6月10日:下院通信小委員会Edward J. Markey委員長は、次年度予算審議の中で、商務省Janice Obuchowski副長官に対し、現行のlottery方式による周波数免許の発行についていくつかの問題点を投げかけた。たとえばFCCは、応募者数が多数に上ることを避けるため、応募期間を2日に限っているが、これは「秘密くじ引き」になるのではないかとの問いに対し、Obuchowski氏は、このような短期間の応募日数内でも、law firmによっては1社1万件程度の応募をするものがあり、事務上の困難が大きいことを指摘した。 TR(6/10/91)  7月 1日:AT&Tは、6GHz帯で、パーソナル・コミュニケーションズ・ネットワーク(PCN)サービスの実験免許を申請した。同社は、多数のPCS事業者は2GHz帯でPCNを開発中であり、同社の6GHz帯方式が成功すれば、周波数帯域の有効利用をもたらすことを主張している。 Strother Communications社は、FCCに対し、「創始者特権」措置(一般案件GN90-217)を再考慮するように申請した。とりわけ同社は、新技術に対して与えられる実験免許が、そのまま創始者優遇制度に基づく免許に移行しないように考慮されるべきことを主張した。  7月 1日:上院で審議中の「周波数共用法案(S.218)」に対し、Ted Stevens上院議員は、オークション条項を含む修正案を提出した。その結果、同法案に対するヒアリングは延期されることになった。また下院においては、商務委員会が同一内容の「共用法案(H.R.531)」について可決した結果、同法案が下院本会議で近く審議される見通しとなった。 上院John Dingell委員長とEdward J. Markey小委員長は、FCC Sikes委員長に対し、120MHz帯の周波数免許付与時におけるくじ引きに伴う混乱・不正行為等を調査・報告するための予算を付与した。  7月 8日:上院商務委員会は、「周波数共用法案(S.218)」を可決し、本会議に報告書を提出した。その結果、上下両院本会議で、実質上同一内容の「共用法案」が審議される見通しとなった。同報告書中には、商務省Robert A. Mosbacher長官の提出になるオークション採用案についても述べられている。  7月15日:下院本会議は、(前年度と同じく)200MHz分の政府用周波数を民間用に移管する「周波数共用法案」を可決・成立させた。他方、大統領府は、「オークション条項を伴わない法案が送られても、拒否権を発動する」旨、明言している。これらの結果、上院における共用法案の取り扱い方が今後の問題となる。Ted Stevens上院議員は、(オークション条項を含まない)同法案が本会議に送付された場合、「オークション条項」を含む修正案を提出することを明言している。  7月22日:下院商務委員会John Dingell委員長と、同通信小委員会Edward J. Markey小委員長に対し、Alfred C. Sikes FCC委員長は、(くじ引き方式による)220MHz帯の陸上移動免許付与時の6万件の応募者のうち、約60%が「応募工場」から提出されたと推定される旨、述べた。またSikes委員長は、実際問題として、この種の応募工場からの公募と他の応募を区別することは不可能に近いと述べた。「くじ引き方式」のいくつかの問題点は、現在下院で審議中の「周波数オークション法案」との関連で注目されている。  7月29日:Millicom社等によるPCS実験免許の実験結果報告において、CDMA方式によるPCNは他マイクロウェーブとの混信も少なく、技術的に実現可能の見込みであるが、さらにデータを収集する必要があると述べられいてる。  8月 5日:US West社とその子会社が、「創業者優遇制度」の適用を申請した。また、McCaw社が新技術によるPCS実験免許を 942-952MHz帯で申請した。 これ以降、多数の新規事業会社が、複数の周波数帯において、PCSの実験免許を申請している。  9月16日:FCCチーフ・エンジニアThomas P. Stanley博士は、FCCがPCSに関する拡大公聴会を年内に開く予定であることを述べた。周波数オークション問題も議題に入っている。同氏は、これまで1年半かけて検討した「PCS問題(一般案件GN90-314)」については、FCCがとりまとめのイニシアチブを発揮するべきであると述べた。また創業者優遇制度に関しては、すでに33件の応募があり、その内15件がPCS関係であることを報告した。これらの点から、現在泥沼状況に陥っている周波数割当・オークション問題について議論を整理し、基本方向を定める必要があることを述べた。  9月16日:Arthur D. Little社のサーベイによれば、新しいPCSのマーケット規模は、年間300-400億ドル程度と予測されるとのことである。  9月23日:共和党上院院内総務Bob Dole議員は、「雇用拡大」目的のために周波数オークション法案を提出する予定であると述べた。 10月 7日:Bush大統領下の行政当局から提出された「共用周波数」のオークション提案に対し、上院および下院で公聴会が開かれることになった。同公聴会では、共和党から提出された「雇用法案」も取り上げられる予定である。 10月 9日:下院通信小委員会で「周波数オークション法案」の公聴会が開かれた。同公聴会での対立は、来るべき上院での審議での対立の前奏曲と言われている。 下院通信小委員会Edward J. Markey委員長は、オークション法案に積極的ではなく、途中で議長役をJim Cooper議員に交代した。Cooper議員は、賛否両陣営がオークション実施に向けて歩み寄りつつあり、残された問題は、資金力のある大規模事業者が周波数を独占してしまうのではないかという点(deep pockets問題と)、非都市地域の問題であろうとコメントした。 「周波数オークション法案(H.R.1407)」は、Dingell-Markey提案になる「周波数共用法案(H.R.531)」に、Don Ritter議員がオークション条項を付加して提案したものである。公聴会において、行政当局側はオークション推進派であるが、商務省Robert A. Mosbacher長官は、オークション条項を欠いた法案は大統領によって拒否されるであろうと証言した。また、共和党提案になるオークション収入を雇用保険に振りむける法案については、そのためにオークションを短期間内に終了させる必要があることから、本来連邦政府が入手できる収入よりも低い収入しか得られない結果をもたらすという理由で、民主党議員から批判された。Markey委員長は、全体としてオークションに反対であったが、他方、共和党Thomas J. Bliley議員は、オークションを希少な財の配分方式として歓迎するとの意向を示した。 議員外からの証言には賛否双方があり、Alfred C. Sikes FCC委員長は、合理的な周波数資源の配分方式としてオークションに賛成の意向を示し、deep pockets問題に関しては、H.R.1407の条項が、希望するすべての入札者に参加の機会を与える余地を認めていることを指摘した。 10月21日:上院通信小委員会において、「オークション方式」に関する公聴会が開かれ、賛否両側の対立が明らかになった。通信小委員会Daniel K. Inouye委員長は、まず「周波数共用」問題と「周波数オークション」問題を切り離して論ずることを明らかにし、同日の公聴会は後者に集中された。議論の対象となった法案は、Ted Stevens上院議員の提出になる「周波数共用法案(S.218)」の「ゆるやかな修正」であり、オークションを一部の周波数に限って導入し、公共事業体や非都市地域電話会社については、オークションによる免許取得の義務を課さないものである。 行政当局側から、商務省Robert A. Mosbacher長官は、全体としてStevens法案に賛成する意向を示したが、大統領によるオークションなしの法案の拒否の可能性を示し、また非都市地域の問題については、地域ごとに個別的に扱うことを主張した。Alfred C. Sikes FCC委員長は、オークション方式がくじ引きや比較聴聞よりも優れていることを述べ、FCCがこれを実施する際には、相当の柔軟性を与えられるべきであると主張した。また、放送事業者については、すでに放送事業者が周波数を使用中であることから、高精細度テレビジョンのためにオークションに参加する義務を課することには反対する意向を表明した。これらの点を除き、Sikes委員長は、現法案の早急な実施を可とする意見を述べた。 事業者側証人、とりわけ放送分野、教育放送分野、小規模電話会社からの代表は、オークション方式に反対の意見を述べた。これに対し、AT&TのPCS担当副社長Lewis M. Chakrin氏は、Stevens法案を支持する意見を表明した。 10月21日:PerTel社は、WestingHouse Communications Service社の子会社であるが、最近の実験結果をFCCに報告し、CDMA方式によるPCSサービスと既存のマイクロウェーブ事業は 1850-1990MHz帯において共存できることを主張した。これに基づき、同社は、FCCが既存マイクロウェーブ事業者が現在使用中の周波数を今後数年間にわたり使用し続けることを認めるべきであることを主張し、マイクロウェーブ用周波数移転の際には、PCS事業者がその費用を負担する用意があると述べた。 10月24日:FCCは一般案件GEN90-314「新しいPCS用規則の制定」において、「政策方針(Policy Statement)」を発出し、PCSとして、音声・データを含む多数・広汎な範囲のサービスを認めた。またPCS用に、1.8-2.2GHz帯の使用を提案した(GEN90-314, 6 FCC 6601 (1991))。 10月28日:ニューヨーク州公益委員会は、PCS方式による新事業を支持する旨の決定をおこなった。同州では、PCS事業者に対し、ユニバーサル・サービス義務、相互接続義務等を課した上で、自由参入を認めるべきであるとしている。 11月11日:Don Ritter下院議員は、オークション収入を通信インフラ建設資金に充てるべきであるとする修正案(H.R.3701)を提出した。 11月18日:Mobile Telecommunications Technology社(MTEL社)は、FCCに対し、930-931MHz帯で複数個の狭帯域PCSサービス免許を与える方式を採用するべきことを提案した。 12月 5日:FCCがPCSについて、拡大公聴会(en banc hearings)を開き、各方面から計20人の証言がなされた。National Association of Broadcasters(NAB)は、1.8-2.2GHz帯の周波数をPCS向けに使用させることは、放送事業の障害になるとして反対する意見を表明した。同周波数帯については、多数のPCS新規事業者から実験免許の申請が出ている。 公聴会は、PCSサービスの定義、PCS技術、PCSのための周波数資源、PCSに関する規制のあり方の4論点をめぐっておこなわれた。2年前の公聴会と比較して、実際のPCS実施方式について事業者間での歩み寄りが見られ、PCS技術が成熟方向に向かっているとの印象が得られた。しかしながら、PCSサービスの実施に向けて、なおいくつかの問題が残っていることも明らかになった。たとえば、現在のマイクロウェーブ免許保有者の移転費用の負担問題、PCS事業者をプライベート・キャリアとして、あるいはコモン・キャリアのいずれで扱うべきかの問題、PCSと加入者アクセス網との関係等である。 12月16日:PerTel社は、FCCに対し、1850-1990MHz帯で現存のマイクロウェーブ事業者と同等の資格でPCS免許が与られるべきであると提案した。また、現在検討されている2種の通信方式TDMAとCDMAについては、マイクロウェーブ信号との妨害が低いことから、CDMA方式が推奨されることを述べた。また、US West NewVector Group社は、英国においては、PCNが加入者アクセスサービスの代替手段として考えていると述べた。 1992年  1月16日:FCCが2GHz帯で計220MHz(1850-1990, 2110-2150, 2160-2200MHz帯)の周波数を、「新通信技術」用に配分するための検討を開始することを決定した(ET92-9, 7 FCC Rcd 1542 (1992))。これは約1年前にAlfred C. Sikes FCC委員長が発表した方針に沿うものである。FCCは新しい技術案件ET92-9で規則制定を提案し、2GHz帯の現ユーザを他周波数帯に移動させるための具体的方式を検討する旨、明らかにした。FCC技術局Fred Thomas局長は、本案件が過去10年間で最大の周波数配分であることを述べた。本配分は、新しいPCS移動通信用に使われることが予測されているが、FCC技術局では、今回の規則制定案の目的は現行マイクロウェーブ事業者に将来確実に移転が必要となる旨を明示することにあり、同周波数帯の新しい配分方式に関しては、将来別個の規則制定をもって定めることになるであろうとしている。また、Thomas局長は、今回の配分計画が1992年2月に予定されているWARCでの決定を先取りしており、また議会で審議中の「新通信技術法案」による政府保有の周波数のうち200MHzを民間用に提供する件とも整合的である旨を述べた。  1月20日:American Personal Communications(APC社)は、同社がワシントン〜ボルチモア地域で展開中の実験PCSシステムによれば、2GHz帯においてPCSを展開しても現行マイクロウェーブ事業者に影響を及ぼさずにすむ可能性が強いことを表明した。同社は、同システムが採用されれば、マイクロウェーブ事業者を一挙に移動させることなく、PCSの需要に応じる段階的移動が可能であり、マイクロウェーブ事業者の移転費用が節約できるであろうことを指摘した。  2月 3日:現在FCCに対し、17件の「創始者優遇措置要求」が提出されているが、これに対して寄せられたコメントの多数が、同要求の大部分は技術的に未熟で優先措置を受ける資格がないとしていることが明らかになった。  2月10日:Alexander Resources社は、「地域無線交換サービス、ワイヤレス・ローカル・エスチェンジ・サービス(WILES)」に関する世論調査をおこなった結果、下記の諸点を含む結論を得た。これらの多くは、従来受け取られていた事項とは異なるものである。(1)ビジネス・ユーザは、建物内無線システム、セルラーおよびWILESを、PCSよりも有用と考えている。(2)住宅用ユーザは、セルラーやPCSよりもWILESを有用と考えている。(3)住宅用ユーザは、緊急通信に外出先からの通信の3倍の重要性を当てている。  2月10日:ベル・アトランティック移動通信社とモトローラ社は、セルラーとPCSの共用に関する実験をピッツバーグ市で開始することを発表した。この実験は、単一の個人用端末に個人用番号を割り当て、家屋内では高性能コードレス電話、オフィス内ではPBX用内線電話、そして屋外ではセルラー電話として使用するものである。  2月13日:FCCは、一般案件GN90-217「創始者優遇制度」に関し、事業者による優遇措置の申込と規則制定を含む手続について、従来不明確であった点を説明した。同措置について、これまで多数の事業者から手続を明確化するよう要求が出されていたものである。  2月27日:首都ワシントンで開催された「非都市地域テレコム事業者コンファレンス」で、Ted Stevens上院議員は、「周波数オークション実施の勢いはもはや止め難いところまで来ている」と発言した。非都市地域テレコム事業者は、大規模事業者による市場力によって非都市地域の周波数が利用できなくなる可能性があることからオークションに反対している。 また上院通信小委員会では、Inouye小委員長が「周波数共用法案(S.218)」を改正してオークション条項を付け加える作業を進めているが、Stevens上院議員も、大筋においてはこれに同調していると伝えられている。また、非都市地域テレコム事業者の危惧に対し、FCCのエコノミストEvan Kwerel博士は、周波数帯域には全国的に十分の余裕があり、とりわけ非都市地域においては不足は生じないと予測されること、ただし、ロサンジェルス市のみは周波数が不足がちであることを述べ、オークションの結果、周波数価格が高騰することはないと予測されることを述べた。  3月 3日:Larry Pressler上院議員が、「周波数の効率的管理のための法案(S.2309)」を提出した。同法案は、FCCに対し、既存事業者と新事業者の関係の調整、新技術の優先的採用、周波数の公平な配分等のための権限を与えるものである。しかし、同法案は、FCCがオークションを実施することを強制してはいない。Pressler議員は、Inouye議員のS.218を当面の最重要法案として評価する旨を述べ、同議員提案のS.2309はこれを援助するためのものであると述べた。  3月23日:McCaw Cellular Communications社とTele-Communications社は、オレゴン州でPCSの実験提供を開始した。これは小型ポケットサイズの端末で、セルラー電話とPCSを共用するためのもので、住宅内外においてテレコム網にアクセスする手段を提供すると伝えられている。  4月13日:上院商務委員会Earnest F. Holings委員長は、Alfred C. Sikes FCC委員長に書簡を送り、FCCが技術案件ET92-9で検討中の「2GHz帯の周波数を公的目的から私的利用に主要目的変更する件」について警告を発した。Holings委員長は、現在電力事業者や鉄道事業者が安全確保目的で、同周波数帯を使用しており、これら既存事業者の別周波数帯への移転については、FCCによって十分な考慮が払われるべきであると述べ、もしFCCがこれを無視する行動をとれば、上院商務委員会は新規立法をもって対抗する意向であることを述べた。  4月20日:議会予算事務局が、下院予算委員会に、報告書「周波数帯使用免許のオークション」を送った。同報告書は、もしオークションがセルラー等の民間移動通信サービス用の周波数について実施されれば、連邦政府に3年間で13〜57億ドルの収入をもたらすであろうと予測している。また、同報告書は、周波数オークションは政府に収入をもたらし、消費者に競争市場の利益をもたらし、周波数割当費用(たとえば数万件の抽選をおこなうためのコスト)を節約するなどの利益をもたらすことを述べ、また、大規模事業者が周波数使用を独占する可能性については、オークション制度を適切に工夫することにより避けることができることを主張している。 Rockwell International社およびPCN America社(Millicom社の子会社)は、W-CDMA技術を応用した最初のPCSシステムを発表し、これを米国の標準方式とするため、標準化設定団体に資料を送付したことを明らかにした。  5月 7日:American Personal Communications社は、1850-1990MHz帯でのPCS実験を完了したことを発表した。また同社は、同技術に基づくPCSサービス開始のための周波数割当手続を開始するべきであるという意見をFCCに表明した。  5月11日:Pacific Bell社は、1850-1990MHz帯を使用する狭帯域PCSシステムを提案した。 Bell Atlantic Personal Communications社は、FCCに、同社の新PCSサービスへの「創始者優遇制度」の適用を申請した。同社のシステムは、ポケットに入る小型端末を使用し、自宅内やオフィスではコードレス電話として、また、屋外では個人用移動電話として使えるものである。  6月 1日:上院Daniel K. Inouye議員およびTed Stevens議員は、両者が提案した「新通信技術法案(S.218)」への「周波数オークション」修正案に対する意見を求める旨、公表した。同案は、政府使用から民間使用に移転される30MHz分の周波数について、FCCにオークションを実施する権限を与えるものである。  6月 1日:Ameritec社が従来の電話網(PSTN)と新移動通信サービス(PCS)間のオープン・ネットワーク・インターフェース技術を開発したことを発表した。  6月 3日:上院商務委員会が異例の公聴会を開き、FCC提案になる2GHz帯の周波数の公的使用から民間使用への目的変更について、論議がおこなわれた。Alfred C. Sikes FCC委員長、上院商務委員会Earnest F. Holings委員長と2GHz帯周波数の現使用者との間の対立は、依然継続している。  6月 8日:下院通信小委員会Edward J. Markey委員長は、NTIA Thomas J. Sugrue長官代理に書簡を送り、NTIA所管の周波数帯の使用状況を説明するように求めた。またMarkey委員長は、他国がどのような状況にあるか、米国と同様の困難を経験しているかについて、興味を示した。  6月15日:Telocator社によれば、FCCのスタッフは、現在新PCSサービス開始のための規則案を作成中であり、その中でいくつかの問題に際会していると述べた。重要な問題の一つは、新PCS事業者を公衆通信事業者あるいは私的通信事業者のいずれとして規定すべきであるかの件である。これらの点をめぐって、FCCに対し、千ページを超えるコメントが寄せられた旨が報告された。その中で、PCSサービス開始予定の事業者と、マイクロウェーブ免許を現在保有している事業者との間で、一般案件GN92-9をめぐって依然対立が続いているとのことである。  6月15日:通信分野の調査会社であるComSearch社が調査結果を発表し、PCSの新事業を支持する旨を述べた。同調査報告によれば、現在2GHz帯の周波数を使用している事業者のほとんどすべては、技術的に3GHz以上の周波数帯に移転可能であり、また、2GHz帯でも、PCS事業者とマイクロウェーブ・システムとの間での周波数共用が可能であるとのことである。  6月22日:NTIAが「新周波数計画」案を発表し、一般からの意見を求めた。  6月29日:FCC Ervin S. Duggan委員は、米国移動通信協会の会合で、周波数オークションの「実験」を試みる時機が到来したとの意見を発表した。Duggan委員は、「現在使用している周波数割り当て方式には大きな欠点があり、他方オークション方式にもいくつかの欠点がある。オークションを試行してみることにより、複数システムの長短所を明らかにすることができる。」と述べた。また同委員は、「仮にオークション方式が長所を持っているとしても、これをすべての周波数割り当てに使用しなければならないことにはならない。たとえば放送免許についてオークション方式を採用するべきとは考えない。オークションは、FCCが使用できる複数の割り当て方式のひとつにすぎない。」とも述べた。  7月13日:Telocator社の調査結果によれば、将来2002年までに、54MHz程度の周波数で、全国計4, 000万加入者に移動電話サービスを供給できる見込みであると述べた。周波数の必要量は技術進歩によって変動し、この要因を考えて事業者数を決めるのは、FCCの役割の一つであるとも述べた。  7月16日:FCCが新しいPCSの概要について、一般案件GN90-314による規則制定を提案した。同規則案は、2GHz帯に一事業者当たり20〜40MHzの周波数を認める広帯域PCSサービスを提案するものである。しかし、同一地域内でセルラー事業との兼営を認めるか否か、既存地域事業者との関係、既存公衆通信網との接続条件など、未解決の問題を多数残している。また同提案は、同地域に3事業者程度の免許を与えることを示唆しており、地域区分には、Rand-McNally社による487のBTA、あるいは49のMTAを採用することを示している。また割り当て方式としては、くじ引きとオークションの双方の可能性を残している。 他方FCCは、上記とは別に、900MHz帯で「狭帯域PCS」を開始するため、技術・工学案件ET92-100による規則制定を提案した。同提案は、計2〜3MHzの帯域を2〜3社に割り当てることを考えており、「ポケットベル」をはじめとする多様な狭帯域アプリケーションを想定している。  7月27日:上院商務委員会Earnest F. Holings委員長は、1993年度FCC予算の審議に関連し、FCCが2GHz帯のマイクロウェーブ既存事業者、とりわけ電力・鉄道の安全確保目的の周波数使用を保護するよう要請した。  8月 3日:1993年度予算審議に関連し、上下両院協議会は、7月27日の上院予算割当委員会の決定におおむね添う形の案を作成・提案した。これらの措置に対し、PCSを推進している事業者は大きな不満を持っていると伝えられている。また、大統領もこの方向での予算案に対し、拒否権を発動すると述べている。  8月 5日:FCCは、同日の公開会議において、技術案件ET92-9の規則制定案を一部改定し、2GHz帯にPCS等の新技術によるサービスを実現するために、同周波数帯の既存事業者を3GHz以上の周波数帯に移動させるための計画を示した。そのため、4GHz帯、6GHz帯及び11GHz帯に計2GHzの新設チャンネルを用意するとのことである。 上院商務委員会Earnest F. Holings委員長による2GHz帯既存事業者の保護要求に対し、下院商務委員会John Dingell委員長は強い反対意向を表明した。1993年度予算案に関連するHolings委員長の修正案に対し、Dingell議員は、両院協議会で上院だけでなく下院の意向も強く反映されるべきであると述べた。  8月17日:NTIAは、現在2GHz帯周波数を使用中の3万の事業者のうち約2%程度(600事業者)は、技術的な理由で同周波数帯から他周波数帯への移動が困難であろうと考えられる旨を述べた。  8月17日:FCCが、先般提案した一般案件GN90-314によるPCSの検討と、技術案件ET92-100に関して、詳しいテキストを発表した。  9月 1日:下院通信小委員会Edward J. Markey委員長は、NTIAが8月28日に公示した「周波数オークション研究計画」に対し、同計画が産業界からの資金援助を求めている点が、議会による政府予算の決定権を保障した憲法の規定に反するものとして、強い反対を表明した。本件が生じたために、現時点で上院通信小委員会を通過し、Ted Stevens上院議員による「オークション修正条項」に関する合意成立を待って、本会議上程が待機状態になっている「オークション共用法案(S.218)」の早期通過は見込み薄になった。Markey委員長は、本件に関し、商務省Barbara H. Franklin長官に、NTIA計画の「公式取消」を求めている。  9月14日:商務省Gregory F. Chapados副長官(情報通信担当)は、同長官を代理して、通信小委員会Edward J. Markey委員長に手紙を送り、「NTIAの資金計画は、周波数を使用する事業者のためのオークション制度をNTIAが情報を公開しつつ実施するものであり、この目的で事業者から資金協力を受けることは議会による予算配分権を侵害しないと考える。」旨の説明をした。しかしながら、これに対し、Markey委員長は満足せず、さらに詳細な説明を商務省に対して求めている。同委員長の趣旨は、「NTIAが所属する商務省は、その業務のための資金を民間事業者に求める法的権限を有していない。」とする点にある。  9月17日:商務省Gregory F. Chapados副長官が、通信小委員会Edward J. Markey委員長に書簡を送り、NTIAによる民間事業者からの資金協力に基づくオークション制度の研究を断念する旨を述べた。同副長官は、「商務省はNTIAの今回の計画が法律の枠内にあることを確信しているが、本件に関し、紛議を重ねることは誰のためにもならないので、上記の措置をとる。」旨説明した。 10月 1日:上下両院は、FCCおよびNTIA予算を含む予算配分法案(H.R.5678)を成立させ、同法案は大統領に送付された。なお、当日は新年度予算がスタートする日であり、また上院商務委員会Earnest F. Holings委員長による2GHz帯の既存事業者保護条項は、FCCが同事業者を保護する措置をとる意向を表明したことから、予算配分法案からは削除された。 10月 8日:FCCは同日の委員会において、PCSサービスに関する「創始者優遇措置」をAmerican Personal Communications社、Cox Enterprises社、およびOmnipoint Communications社に与えることを決定した。これら3社以外の53社による優遇措置の要請は却下された。この却下措置は、FCCが一般案件GN90-314によるPCSの検討において、本年当初に却下した36件に続くものである。申請を却下されたPCS事業者の不満は大きく、法廷係争の可能性が指摘されている。なお、本件は、FCCの一般案件GN90-217(創始者優遇措置)にしたがって行われたものである。 10月12日:議会がNTIA組織に関する法案を成立させた。NTIAは、これまでCarter大統領以来、「大統領命令」によって運営されてきたが、今回、同組織に法的基盤が与えれられたことになる。また、同法は、NTIAの任務の一つとして、政府関係機関による周波数の使用管理を付している。 11月 2日:Bush大統領が、NTIA組織を法制化する法律(H.R.6180)に署名し、同法が成立した。大統領は、署名後に、情報通信分野の重要性に鑑みて本法案に署名したが、本法は、NTIAに半独立性を与え、商務省長官の権限を縮小するなど、翌年度以降再考慮されるべき内容を含んでいるとのコメントを発表した。 FCCが、2GHz帯の民間使用提案にともなう既存マイクロウェーブ事業者の移転措置に関するコメントおよびコメント回答の期限を、それぞれ翌年1月13日および2月12日に定めた。 11月 5日:セルラー・テレコム産業協会Thomas E. Wheeler会長は、記者会見の席上、2GHz帯においてPCSサービスに配分される周波数を、90MHzから100MHzに増大させるべきことを主張した。PCSサービスについては、FCCの一般案件GN92-333、GN90-314、および技術案件ET92-100によってPCS事業開始のための規則制定が進行中である。 11月 9日:Telocator社は、FCCが提案中の「(室内等用で微弱電波を使用する)免許外PCSサービス」に、1910-1930MHz帯の周波数を配分する方策を支持した。 11月16日:司法省は、FCCにおいて検討中の新規PCSサービスと既存セルラー・サービスに関して意見を表明し、同一地域内で単一事業者が両事業を兼営することは競争を阻害する恐れがあると考える旨を述べた。また、同省は、ローカル電話事業者(LEC)は、その子会社がセルラー免許を持っていない場合には、PCS免許を獲得できるものと考える旨を述べた。ただし、LECによる同網への接続サービスは、いずれにしても提供される必要があるとした。 11月16日:MCI社が、国内においてPCS事業目的の3コンソーシアムを設立する計画を発表した。 12月 3日:ワシントン市で開かれたPracticing Law Institute-Federal Communications Bar Association主催コンファレンスで、周波数配分問題に関し、「本会期の議会で『周波数共用』を目指したDingell法案は下院を通過したが、上院で『オークション条項』の修正案が提出され、審議が停滞してしまった。下院側で上院の賛成を得られる範囲でオークション提案を見直す動きが始まるかもしれない。」との報告がなされた。 1本「年表」作成のために下記の資料を使用した。主たる資料として、Telecommunications Report(1987年〜1998年)各号の記事、ワシントン・コア『米国PCS関連情報目次モニター:1994年2月−1996年3月』。これをFCC検討案件文書(付録B参照)等によって補った。 Hajime Oniki 09/14/00 - 24 - oniki@alum.mit.edu www.osaka-gu.ac.jp/php/oniki/ D:\AaE0-Adm\AA-Web\oniki\download1\200008bb.rtf