情報経済論(鬼木)各章概要・項目 II. 経済主体の行動と情報――不確実性とリスク克服の努力 A. 個別経済主体の行動と情報 1. 経済理論(ミクロ理論)の入門書での情報の取り扱い方 a. 家計   与えられた所得を多種類の財・サービスに支出   効用(満足度)の最大化 b. 企業   大企業があたかも個人企業であるかのように考える――内部構造の無視   利潤の最大化 c. 情報要因の無視   情報に関する問題は発生しない、あるいは「情報」は最初から不必要であるかのように考える   しかし現実の経済活動では、情報が重要 2. 個人の消費行動における情報活動 a. 情報要因   ・ 良い品物をなるべく安く買いたい   ・ どの程度自分の役に立つのか   ・ 価格水準   ・ 他に代替財があるか   ・ 故障やトラブル時の対応、アフターサービスの程度、返品が可能か b. 情報活動水準   情報入手について――「ある程度で妥協する」   ・ 全く無知のまま、何も知らず、何も調べないで財・サービスを購入     購入予定金額に不相応な金銭を支出し、あるいは時間を費やして情報を入手   ・ 極端な無知と行き過ぎた情報収集との中間の妥協点を求める   ・ 財・サービスの購入を通じる「学習」 3. 経済主体の「活動」の種別 a. 固有の経済活動   所得、労働、一般の財・サービスなどの「資源」を消費   ・ 家計:家計所得と家計メンバーの「時間」   ・ 生産企業:事業資金、資本設備・労働サービス・原料 b. 活動種別   ・ 「実物経済活動(substantive activities)」     その本来の目的(消費、生産など)   ・ 「情報活動(informational activities)」     情報の収集、加工・処理、通信・広告など B. 不確実性の経済学(economics of uncertainty) 1. 情報量と不確実性の程度 a. 既知と未知の両極端   ・ 「完全情報」の状態   ・ 情報がゼロの状態(何も知らない) b. 特定の情報は、「すべての可能性」の中から既知部分を特定する:   「既知部分(情報)」+「未知部分(不確実性)」=「すべての可能性」 2. 不確実性に直面した経済主体の行動 a. A氏の資産100万円の保有形態   ・ 現金("M")   ・ 有価証券("S"、たとえば株式) b. 将来の(あり得る)状態   ・ 株式値上がりの場合(U)に110万円(確率1/2)   ・ 値下がりの場合(D)に90万円(確率1/2) c. 資産を"M"あるいは"S"のどちらの形態で保有するか   プラス・マイナス10万円の資産額変動というリスクの評価   「安全指向」と「ギャンブル指向」 d. 株式"S"が、現在時点で100万円以下であるケース   "S"の現在価格が90万円   A氏が"S"を購入するか、あるいは"M"保有にとどまるかの境界線:98万円とする   A氏は2万円=100万円−98万円の報酬と引換えに、"S"がもたらすリスクを受け入れる   「リスクの代価(リスク・プレミアム)」 e. 「不確実性とリスクの経済学」   「ポートフォリオ(資産)選択の理論」   株式等の「プログラム取引」 3. 不確実性と情報 a. A氏が事象UとDについて「情報」を入手できる場合の例   x万円を支払って情報(I)を入手し、UとDのどちらかが起きるかを知る   情報を入手する、入手しないのいずれかを選択 b. 情報に対する需要価格   (i) Iを入手するために、A氏は何万円まで支払うことに同意するか     "S(98)&I(x)"     "S"が98万円で購入できる場合に、情報Iをx万円で入手したときの純利得     "S(98)&I(x*)"が、"S(98)"と同一レベルの満足を与えるxの水準をx*とする   (ii) 情報費用xがx*よりも低ければ、情報購入が有利     xがx*を超えれば、情報購入は不利     x万円を情報活動、(100−x)万円を実物活動に支出 c. 「経済取引対象としての情報」の性質   情報は通常の財・サービスと異なる   ・ 情報生産のコストは高い   ・ 複製コストは低い   ・ 他者との共有・共用が容易   ・ ある種の情報は、「経験」によって「自然に学習」される   ・ 情報の価値が過去の経験に応じて変化 d. 情報を特色づける「属性」――多数存在   ・ 内容   ・ 表現手段(メディア)   ・ 精度・信頼度   ・ 将来における有用性の限界   ・ 他者保有による有用性の限界 e. 「ショッピング(商品探し、職探し、サーチ行動)」の経済分析   (i) 行動タイプの種別   ・ 最初に出会ったケースに飛びつく   ・ 何十カ所も何百カ所も際限なく探し回る   ・ 通常は何カ所かの店や会社を試みた後に、どこかで「決心」してサーチを終わり、品物を購入   (ii) 特定個人(B氏)の行動   ・ 同じ財が何軒かの店で売られている   ・ 店によって財の販売価格が異なる   ・ 販売価格の確率分布が「確率密度曲線」で与えられている   ・ 販売価格の分布については最初から知っており、学習しない     海外旅行の場合   (iii) 行動原則――「最適ショッピング法」    B氏の1回のショッピングには費用x円がかかる    より安い価格で買うことができることから生じる利益と、そのために生ずるショッピング費用の増大とをバランスさせる方策    財の購入価格の最高限度(需要価格)を決める。    需要価格に等しいかそれよりも低い販売価格の店に出会えば、そこでショッピングを止めて財を購入    販売価格が需要価格を上回れば、別の店を選んで再度販売価格を調べる    第1回目のショッピングでも、それより後のショッピングでも状況は変わらない(特殊な場合)