情報経済論(鬼木)各章概要・項目 II. 経済主体の行動と情報――不確実性とリスク克服の努力 B. 「経済システム」と情報――競争と協調の挧み合い 1. 経済システムと情報 a. 経済システム   多数の個人、家計、営利企業、公共機関やその他の非営利団体などの経済主体から構成   相互に協調あるいは競合・競争 b. 「情報活動」――「実物経済活動」と区別 (i) 情報の収集(たとえばショッピング)    情報の伝達・拡散(たとえば広告)    経済活動に伴って副次的に伝達される情報    (たとえば取引を重ねるうちに相手状況が分かる)    情報自体が独立して伝達される(たとえば営業報告書を発行) (ii) 情報活動は実物経済活動に影響を与える    実物経済活動の結果として生じる    社会経済システムの運行と表裏一体の関係 2. 市場メカニズムと計画経済(「社会主義論争(The Socialist Controversy)」) a. 資本主義(自由主義)経済と社会主義国の計画経済との優劣比較   価格機構の「需給調節機能」と、個別主体の「利益追求インセンティブ」を活用市場メカニズム型の経済が、すべての決定を中央政府当局にゆだねる計画経済よりもすぐれている b. 1920-30年代:第一次大戦後   社会主義のイデオロギー:「社会主義論争」   「情報活動のコスト」の観点からの考察     ランゲ(O. Lange)、ラーナー(A. P. Lerner)、ハイエク(F. Hayek)     計画当局が経済活動の現場(たとえば農家や工場)の情報を入手     計画当局は不十分な、また誤った情報しか入手できない     命令も不十分・不適切     必然的に需給のアンバランスなどの非効率が発生   市場経済では、情報は、現場の経営者やマネージャーが保有――「分権的市場機構」 c. 第二次大戦後の経過 (i) 旧ソ連の実体:    官僚機構が急速に肥大    1960年ごろから部分的に市場メカニズムを採用    1970年代に入っても「計画部門」の比重が大      計画経済の弱点が表面化――西側諸国との格差    1989:「ベルリンの壁の撤去」    東ヨーロッパ諸国の改革、ソ連の崩壊 (ii) 中国のなしくずし型改革    1960年代末の「文化大革命」前後――経済停滞    1970年代――「市場経済化」 d. 計画経済の非効率性の理由   ・ 情報コストが過大     一国の経済システム全体を巨大なコンピュータ・ネットワークであるかのように考える   ・ 労働インセンティブや企業利潤インセンティブが欠落   ・ 自発的な努力や創意工夫が抑制される   ・ 単純・画一的になり、多様性に基づく発展の可能性を摘み取る 3. 競争と規制(市場原理と計画原理のバランス:I)   「公共部門」   「民間部門」   「混合経済」 4. 企業規模と企業の境界(市場原理と計画原理のバランス:II)――本年度は省略 5. 不完全情報(情報の偏在・非対称性)から生ずる市場の失敗 a. 購入直後の中古車の故障   「レモン(車)の市場」 b. レンタカーの例   ・ 優良運転者(グループI)     運転が優良であることを認めてもらってその分の割引を得たい(低価格で借りたい)   ・ 乱暴運転者(グループII)     高価格を避けたい c. 貸し手が持っている「情報」 (i) ケースA    個々の借り手のグループI、IIへの所属が最初から分かっている(完全情報のケース)    市場は分離 (ii) ケースB    情報が不完全で貸し手であるレンタカー業者には借り手の所属が分からない   ・ ケースB1     グループI、IIのそれぞれの借り手について取引が成立する   ・ ケースB2     グループIの借り手について取引がなくなってしまう(「逆選択(adverse selection)」のケース)   ・ ケースC     何らかの手段でレンタカー業者に自分がグループIに属することを示す(「自己選択(self selection)」)    「シグナル」――シグナルは不完全     シグナリング費用 d. 例   ・ 中古車   ・ 健康保険や失業保険   ・ 損害保険   ・ ブランド名 e. 労働市場――わが国の新規学卒の市場の場合   「職探し」に何カ月間もの時間を投入   学歴シグナル――コストを顧みず学歴シグナルを追求   就職シーズンには大学の教室が「空洞化」   企業側――終身雇用制     学歴本位の採用 5. マクロ経済学と情報 a. 景気変動や長期不況の原因の一部は「情報の不足」にある   マクロ経済政策   ケインズ:1930年代の大不況時   米国では、1970年代までケインズ理論がマクロ経済政策の骨格に採用   財政支出の重視 b. ルーカスの「合理的期待形成理論」   「長期的完全情報」   個別経済主体による期待形成とその帰結   景気循環と長期不況の根本的な原因――情報の不足 c. 物価水準について『完全情報』がある場合   貨幣的要因に基づく景気変動や、長期不況を避けることができる d. 『実物的側面』についても完全情報と即時的調整の実現が望まれる   しかし実物面の経済は複雑   個別経済主体は、おおむね安定した取引を望んでいる   市場の不安定傾向――外国為替市場・デリバティブ市場のケース   市場参加者の情報が限られていることから生ずる不確実性     「付和雷同的」な行動になりがち   経済主体間の相互関連に関する情報伝達と調整が不十分・不完全   情報活動レベルの向上は、景気変動や長期不況などのマクロ経済問題、さらに一般の不均衡・不安定などの問題を緩和・解消する方向に働く C. 情報と「経済活動のゲーム」――本年度は省略