情報経済論(鬼木)各章概要・項目 III. 情報技術の進歩と情報産業の発展 B. 社会経済の発展と情報――「情報化」と「情報産業」をめぐる諸問題 1. 情報技術の発展と「情報化」の意義 a. 新卒大学生の就職活動の例――情報不足がもたらす損失    学生: 数週間から数カ月の「求職期間」    会社: 「求人期間」    需要と供給が効率的にマッチされていない    平均的な「サーチ期間」が長期化する    巨大な市場の中で、「自分の番」がいつ回ってくるか見当がつかない    長期間市場にとどまって、大部分は不毛に終わる「サーチ活動」を続けることを     余儀なくされる    原因: 労働市場の実情に関する情報不足 b. 情報技術の急速な発展――情報不足克服の可能性    「情報化」の考え方    情報技術の進歩は社会経済活動の進歩をもたらしてきた    今後において情報技術の進歩と普及をはかることにより、社会経済活動の一層の     進歩を実現し、情報不足から生ずる困難・非効率を解決できる可能性がある (i) 1960年代後半    「第一次情報化論」 (ii) 1970年代    環境問題や石油危機 (iii) 1980年代中葉以降    本格的な「情報化」の進行 c. 批判的立場    社会経済の進歩の結果として、「情報化」が実現した――「情報化」は結果であっ     て原因ではない    「情報化」をめぐる社会経済発展の諸要因間の因果関係の解明が必要    それを統計データ等から実証できるか否か    政府等の公共機関が「情報化」を促進する政策を採用する必要があるか否か d. 日本にとっての「情報化」の意義 (i) 日本経済の「稼ぎ手」としての情報産業の発展    第二次大戦後の日本経済    繊維・造船・鉄鋼・自動車・家電製品・生産機械などの製造業を中心    製造業の空洞化    情報産業は日本に適する      自然資源が少ない      高い教育水準と勤勉度    1960年代以降のわが国の「情報産業政策」 (ii) 「情報化」のより重要な意義    情報が社会経済活動の基本要因である    個人や組織の活動を従来よりも桁違いに改良・進歩させる 2.  情報化」はどのように実現されるか――大学新卒学生の「職探し」と企業側の   「人探し」の情報化の例    「情報手段」を適切に導入    職探し・人探しの情報活動のかなりの部分を合理的に省略    「インターネット」を使って、職探し・人探しを「情報化」することを考える    コストを節約 a. 職探し・人探しコスト (i) 学生の側    企業訪問と面接のための手間と時間 (ii) 企業側    面接して採用者を決定するための手間と時間    双方で無駄な手間と時間    最終的にそれぞれの要求がどの程度満たされるかが不明    それを見出すために面接を繰り返さなければならない b. インターネット利用の方法 (No.1)    データベース上で求職と求人の「マッチング」をはかる    コンピュータ上で部分的に実現する    成果はミクロ的にもマクロ的にも活用できる c. インターネット利用の方法 (No.2)    インターネット上で、求職のための企業訪問と、求人のための学生面接を「実行」    直接の企業訪問・面接に近い情報交換を実現      文字情報のみ      「画像・ビデオ・メール交換」      「双方向即時高性能ビデオ電話」 d. 「求職・求人活動の情報化事業」 (i) 「情報化」に対する需要    学生と企業    直接面談の代替手段としてインターネットを使用    代価: 「需要関数」の推定 (ii) 「情報化」サービスの供給    インターネット上で実際に同サービスを供給するための費用・投資の推定    「求職・求人の情報化」事業の実現の可否・採算を分析 (iii) 採算の検討と公的援助の必要 e. 分析のための前提条件    「情報化」を記述する基礎統計データ、「情報事業用データ」を作成      統計データの収集はまだ不十分    マハループ(F. Machlup)、ポラト(M. Porat)    経済企画庁、「郵政産業連関表」、『通信白書』 3. 「情報化」と「情報産業」に関する政策問題――情報産業政策 a. メインフレーム・コンピュータの生産    通産省が1950年代から「幼稚産業保護政策」    国産メーカー数社が生き残る b.  1970年代後半以降の半導体産業    メモリ用半導体生産が急成長――貿易摩擦 c. 1980年代中旬以降のパーソナル・コンピュータ(PC)    日本はこの分野で輸出力を持つには至らなかった 4. 「情報化」と「情報産業」に関する政策問題――情報通信関連の諸政策    「情報産業」固有の特色から必要となる a. 社会・経済の「情報環境」を整えるための公的施策 (i) 「知的財産権」の設定と運用 (ii) 情報機器・サービス方式の「標準」    (a) 特許権・著作権の保護の範囲と方法の設定の規定    (b) 公的に設定する「標準」と、市場で競争の中から成立する「事実上の標準      (de facto standard)」の関連と取り扱い方 (iii) 個人や個別企業の「プライバシー保護」の程度と方法 (iv) 政府機関や民間企業等の保有する情報の「公開」の程度と方法 (v) 放送やインターネット等の情報手段を利用して伝達される情報の内容や関連す     る経済活動について、児童保護、差別禁止などの観点から適法・不法の境界を     設定し、不法行為を制裁 b. 特別な技術的・経済的理由から、民間に拠った場合には目的達成が不可能であるた   めに必要となる政策 (i) 通信ネットワーク等のインフラ建設     収支均衡期間(投資の回収期間)が極端に長い (ii) 基礎的研究について、多額の資金を要し、成否のリスクが大きい (iii) ユニバーサル・サービスの実現 (iv) 産業活動に公的資産を使用     管理・供給やその代価の徴収を公共的に実施する     通信回線建設スペースの供給     通信事業者特権     電波資源の管理 (v) テレコム(電気通信)産業と放送産業     元来国家事業あるいは公的事業としてスタート     段階的に民営化     競争に適しない一部の業務について政府規制・介入の必要     電気通信ネットワークのユーザー・アクセス部分(ユーザーと最寄りの電話局       間の回線部分)――NTTの独占力が強い     ディジタル技術の採用     インフラ・サービスの両面で変革が進行中