TRIZフォーラム: 学会参加報告 (27) 
韓国 4th Global TRIZ Conference (GTC 2013)
(ソウル、韓国、2013年 7月 9-10日) 参加報告

中川 徹 (大阪学院大学)、2013年 8月 1日

掲載:  2013. 8. 4; 8.28; 11.18

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  編集ノート (中川 徹、2013年 8月 1日)

私は、表記の学会に特別招待講演者の一人として招待され、7月 8日(月)〜11日(木) に出張しました。出張の前後が多忙だったため、Abstracts やProceedings に十分目を通せていませんが、ここに簡単に報告しておきます。参加者230人余の充実した学会でした。日本からの参加は、中川と高橋誠氏(創造開発研究所)の二人の特別招待講演者だけでした。
本ページの英訳はしていません。

[追記(中川、2013. 8.28): 中川の特別招待講演のスライドを、和文と英文で掲載しました。]

[追記(中川、2013.11.18): 高橋誠氏の特別招待講演のスライド(英文)を、(簡単な見出し付けをして)和文ページと英文ページ掲載しました。]

 


  韓国 4th Global TRIZ Conference (GTC 2013) 参加報告

(1) 会議の概要

名称:        4th Global TRIZ Conference in Korea 2013
主催:        KATA (Korea Academic TRIZ Association)
協賛:        Korean Intellectual Property Office, POSCO, Samsung, Samsung Display, Korean Standards Assoication, Korea TRIZ Association, 他

期日:       2013年 7月 9日(火)〜 10日(水); (注 : 7月11日(木) チュートリアル)
会場:       韓国 ソウル SETEC (Seoul Trade Exhibition & Convention) 
Webサイト:   http://www.KoreaTRIZCON.kr/

(2) プログラム概要:

7/ 9(火):       開会式、基調講演(Simon Litvin)、特別招待講演(中川 徹)、研究発表(Practical, Scientific, Educationa Sessions)、バンケット

7/10(水):    基調講演(Karen Gadd)、特別招待講演(高橋 誠)、研究発表(Special, Practical, Scientific, Educational Sessions)、閉会式

7/11(木):   チュートリアル (Simon Litvin, Karen Gadd)

(3) 招待者、参加者など

Dr. Simon Litvin (GEN3 Partners, USA) 基調講演 ”Major Directions of Modern TRIZ Development"、およびチュートリアル
Ms. Karen Gadd (Oxford Creativity, UK) 基調講演: "How TRIZ Capability fills in the holes/gaps of other toolkits"、およびチュートリアル
中川 徹 (大阪学院大学、日本) 特別招待講演: "For Establishing a General Methodology of Creative Problem-Solving / Task-Achieving"
高橋誠 (創造開発研究所、日本) 特別招待講演: "Creative Company and Methods"

参加者:  230人余、国外 9か国 (主催者発表)。国外は:米国、英国、ロシヤ、フランス、ドイツ、ベルギー、スイス、サウディアラビヤ、中国、日本(2人)。
      サムソン、POSCOなどの企業からの参加者が多数。また、韓国企業に雇用されているロシア人TRIZ専門家も多数(約10人)参加しており、レベルは高い。

GTC2013 参加者 (第1日の昼食前) (GTC2013 サイトより借用)

(4) 運営

第4回となり、KATA による運営が、しっかりしてきている。KATA会長 Sehyun Kim氏、Conference Chair: Prof. Jaeho Park、事務局: Jeongho Shin氏。いろいろとよく配慮された運営であった。

2月に計画の発表と発表募集があり、4月にアブストラクト締切、5月末発表原稿(スライド)の締切りであった。アブストラクトでの査読が行われたものと思われ、それぞれに質の高い発表であった。

今回から「公用言語は英語」。スライドは全件英語であった。発表は、主会場では基本的に英語、一部韓国語で、そのすべてが英語と韓国語の同時通訳が行われていた。副会場では大部分が韓国語の発表であったと思われる(同時通訳なし)。

 

(5) 内容の要点

Simon Litvin と Karen Gadd の基調講演、および中川の講演は、TRIZの大きな方向付けをそれぞれに述べたものである。Litvinは、(企業におけるTRIZの適用において)「本当に目指すべきゴールを見つけ、 ビジネスとしてインパクトがある解決策/技術を提案する」ことを目標とし、そのための方法を論じている。Gadd は、TRIZは100ほどのGolden Rulesを持っており、その本質は、「理想性を向上し、リソースを活用し、矛盾を解決すること」であり、それを直接に、やさしく伝えるのが良いという。中川は、TRIZの技法の個々の違いを越えて、また他の諸技法とも統合して、「創造的な問題解決」のための一般的な方法を樹立していくことを提案している。

高橋誠氏は、1960年代以来ずっと日本の創造性運動に関わってきたリーダである。学生時代に「日本独創性協会」の委員長になり、1974年に(株)創造開発研究所を設立して以来、多数の企業や自治体を指導してきている。欧米やアジアの創造性研究者とも共同研究を進めていて、韓国訪問はもう20回目くらいだろうという。日本創造学会の理事長・会長をも務め、現在は日本教育大学院大学の教授でもある。著書・編著は『新編 創造力事典』(日科技連、2002年)他、約70編があるという。同氏は、今回の特別招待講演で、日本(および自分)の創造性運動の経緯と考え方について、いろいろな事例を交えて話した。北海道旭川市の旭山動物園の事例の分析では、「(普通の) 動物たちの持つ習性を、身近に自然に見ることができる」というコンセプトづくりが成功のカギだったという。その他にも、企業のCI、イベントの企画、ネーミング、など多彩。私自身をはじめ、日本のTRIZの推進者やユーザが、日本の創造性の技法、実践、教育のさまざまな人や動きともっとつながるようにするとよいと感じた。

今回の学会では、企業からの適用事例発表によいものが多かった (主にPractical Session)。組織委員会が企業からの実地問題での適用事例の発表を強く要請し、サムソンやPOSCOがそれに応じて実現したとのことである。いくつかの例を挙げる。(題名でなく、テーマを示す)

・KunWoo Baek他 (サムソン電子):TV、スマホなどのための、新しいUX (user experience) を設計するための、TRIZ適用法。 (今回の発表賞受賞)

・YoonPyo Lee 他 (KIST): ステンレスの細線の製造工程において、ステンレスの熱い板がねじれるのを防ぐ方法

・J.W. Jung他 (LS Mtron): 射出成型機の取り付け部において、ねじを半締めするプロセスの高速化

・Seok-Beom Hong 他 (POSCO): CFT (内部にコンクリートを詰めた鋼管、建築用構造材を意図)で、外側の耐熱材なしで、建築基準(火災時に3時間耐えること)を満たすようにする方法

・Dong-Seok Oh (SK Hynix): 半導体の積層チップのワイヤボンディングにおいて、ワイヤの接着不良を減らす方法

・Sang-Woo Choi (POSCO): 冷間圧延中の鋼板において、内部の欠陥を検出する方法の改良

TRIZの方法論に関する発表も多い(主にScientific Session)。2000年ごろから韓国の大企業がロシア人の TRIZ専門家たちを多数雇用してきたので、彼らが内部コンサルタントとしてまた教育指導者として働き、いまや多数の韓国人のTRIZ実践者(技術者、社内外のコンサルタント、大学研究者・教育者など)が育っていることを、実感した。

・HyunSoo Ahn他 (Samsung Corning Precision Materials): いろいろな実地プロジェクトで、技術者たちが陥りやすい事柄と、それらを改良する視点・方法の教訓。 (今回の発表賞受賞)

・JaeHo Park (Yeungnam Univ.) :  創造性プロジェクトにおけるTRIZ チームのリーダシップのあり方。個人の力よりも、チームの力が大事。

・Simon Fuhlhaber (Time to Innovate、フランス) 他: 企業における輻輳した多分野にまたがる問題を解決する方法:IDM-TRIZとそのソフトウエアの適用例-飛行機パイロットのための安全対策。 (今回の発表賞受賞)

・Naum B. Feygenson 他 (Samsung SDI):多変数システムを分析するための先進機能分析。リチウムイオン電池の爆発プロセスの考察例。

・D. Kucharavy (INSA Strasburg、フランス): 戦略的な技術予測のための矛盾とS-カーブ分析の併用法。

・HongYul Yoon (TRIZ Center): 問題が起こる過程を考察するための「Occasion Axis」という考え方。時間経過の詳細な考察。 (今回の発表賞受賞)

Hyo June Kim (Ulsan Univ.): TRIZ を適用する典型的なやり方を、初心(レベル1)から上級(レベル5)まで整理。(古典的)TRIZを使ってどのように考えるのかを示そうとしたという。

TRIZの教育、TRIZをベースにした教育に関しても、多数の発表があった。(主にEducation Session)

・Pascal Sire (Innoppie.com、フランス): フランスの高校の先生たちに、できるだけスムーズにTRIZを教えるための試み。「タイタニック号の沈没」の問題を使い、みんなが助かる方法を2時間で考えさせる。理想性とリソースとその活用法。

・Y.W. Song 他(Korea Polytechnic Univ.): 大学におけるTRIZ教育の報告。韓国とロシア(Prof. V. Berdonosov)とで、教員と学生参加のOn-line TRIZ Conferenceを開催したという。

・M.S. Ryu他 (POSCO Research Institute): POSCOグループ各社の従業員を対象とした、「POSCO TRIZ College」のTRIZ教育プログラムの紹介。

・JeongHo Shin 他 (eTRIZ): 40の発明原理の図記号化とカード化。その実践例。

・KyeongWon Lee (Korea Polytechnic Univ.) 他: 小中学生(10-15歳)に対するTRIZ教育の試み。良い教材を作成することの必要性を強調。

・Hyung-Gik Kim (JIUM Management Consulting) 他: 小学校でのTRIZ 教育の試行。良い教材を作る必要を強調。

・Hong Sug Oh他(POSCO):学校でのいじめ問題を解決するための試み。多数の生徒に創造的な課題でグループ作業をさせ、チームでの共感を体験させる。

以上は一般発表39編(うち4編は欠席)のうちの約半分である。発表の概要(2ページ程度)とスライド(最大16枚)が公表されているが、ダブルトラックであったために、それぞれの詳細を理解するには困難がある。それでも、全体として、充実した内容の発表が多かった。韓国が、大企業を中心にしてTRIZを積極的に導入・適用し、その効果が随分と広がってきていることを感じた。

(6) その他

私は、韓国訪問は初めてであった。羽田空港からギンポー空港に飛んだので、空の旅はスムーズであった。ただ、ソウルの地下鉄の乗り換えにてこずり、地下鉄駅からホテルまでの1キロのタクシーが交通渋滞で往生したため、初日の夕方はさんざんであった(自分の準備不足が遠因)。-- 帰国の際は、サムソンのMr. C.W. Kohが地下鉄の乗り換え駅まで同行してくださった。

会場とホテルはソウルの江南地区にあり、広い道路に近代的なビルが立ち並んでいる地区であった。会場は400人程度収容の、同時通訳ブースも備えた国際会議場であり、いろいろな行事に活発に利用されているようであった。

会場では、韓国の人にも海外の人にも旧知の多くの人たちに会うことができ、また、多数の韓国の人たちと新しく会った。韓国に長期に在住しているロシア人TRIZ専門家で初めて出会った人などもあり、感慨深い。随分多くの人たち(サウディアラビヤの人も)が『TRIZホームページ』を読んでいてくれたのは嬉しいことである。

学会のリーダの人たち、スタッフの人たち、そして参加者のすべての人たちに改めて感謝したい。活発で、充実した、楽しい会でありました。

GTC2013 閉会式で (左より、Prof. Park、Ms. Gadd、Dr. Litvin、中川。背景写真右 高橋氏) (GTC2013サイトより借用)

 

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最終更新日 : 2013.11.18    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp