TRIZ/USIT 論文
創造的な問題解決の方法論TRIZ/USIT:
研究・教育・普及活動のまとめ
中川徹 (大阪学院大学)、
2012年 1月 6日、
大阪学院大学『人文自然論叢』、2012年3月号掲載予定
スピーチ: 大阪学院大学情報学部にて、2012年3月17日
掲載:2012. 3.13  [英訳掲載: 2012. 3.23]  [スライド掲載: 2012. 3.31]

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編集ノート (中川 徹、2012年 3月12日)

本稿は、私の大阪学院大学における14年間 (1998年4月〜2012年3月) の活動を、特に、TRIZ/USITの研究・教育・普及活動の面を中心にして、まとめたものです。このたび、大学を定年(+1年)で退職するにあたりまして、大学の紀要の一つ『人文自然論叢』に寄稿いたしました。同編集委員会の許可を得て、ここに掲載させていただきます。お世話になりました多くの方々に心よりお礼を申し上げます。なお、大阪学院大学のご好意により、退職後もこの『TRIZホームページ』を継続できる見込みですので、健康を許される限り活動を続けて行きたいと考えております。

[追記 (中川 徹、2012年3月22日): 本稿を英訳し、英文ページ に掲載いたします。(2012. 3.23)]

[追記 (中川 徹、2012年3月26日):  3月17日に、大学のゼミ室にて情報学部の先生方に1時間話をさせていただきました。そのスライド一式(38枚) を、別ページにHTML および PDF で掲載いたします。簡単に全体を眺めていただけると思います。(掲載: 2012. 3.30)]

目  次

1. はじめに: 研究・教育・普及活動の経緯

2. 研究活動: TRIZの研究 (習得) と USITの研究 (独自の拡張)

     2.1 TRIZ (発明問題解決の理論) の研究 (習得、適用、翻訳、発表)
     2.2 USIT (統合的構造化発明思考法) の研究 (習得、適用、拡張、理論づけ、実践)
     2.3 「創造的問題解決の新しいパラダイム」の研究 (概念化、意義づけ)

3. 教育活動: 「創造的な問題解決の思考法」の教育 と 主体性の教育 

     3.1 「創造的な問題解決の方法論」の講義
     3.2 「創造的な問題解決の思考法」のゼミナール: 身近な問題解決の事例づくり
     3.3 身近な問題解決: 「裁縫で針より短くなった糸を結ぶ方法」 -- USITの一貫適用事例
     3.4 1年次ゼミナールIB: 『7つの習慣 ティーンズ』を学ぶ
     3.5 「中川 徹のミッション・ステートメント」 -- 先生がやってきた宿題
     3.6 「レポート (論文) の作り方・書き方」

4. 普及活動: 学会発表、講演、研修、ホームページ、協会、シンポジウムなど

     4.1 学会発表、講演、執筆、翻訳、国際会議報告など
     4.2 研修: USITの企業内研修、公募制研修
     4.3 『TRIZホームページ』による普及活動、公共的サイトによるグローバルネットワークのビジョン
     4.4 日本TRIZ協会 (NPO) の運営 と 日本TRIZシンポジウムの開催

おわりに

参考文献

 

論文PDF 版 (27頁、1.0 MB)     (英文 HTML ページ  PDF版 )

スピーチのスライド (38枚):  HTMLページ    PDF 版

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創造的な問題解決の方法論TRIZ/USIT
研究・教育・普及活動のまとめ

中川 徹 (大阪学院大学 情報学部)

2012年 1月 6日

大阪学院大学『人文自然論叢』、2012年3月号 掲載予定原稿

Creative Problem-Solving Methodologies TRIZ/USIT:
Overview of My 14 Years in Research, Education, and Promotion

Toru Nakagawa (Osaka Gakuin University)

概要:

創造的に問題を解決する力は、学生か社会人かに関わらず個人として大事なことですし、企業や組織としても、また社会や国全体としても重要なことです。私は1998年に本学に着任しましてからずっと、「創造的な問題解決の方法論」を主テーマとして、研究を行い、教育を行い、また社会的な普及活動を行なってきました。今春退職するにあたりまして、その活動内容をまとめて、ここに掲載させていただけるのは幸いなことです。

私の活動の中心は、TRIZ (発明問題解決の理論) と USIT (統合的構造化発明思考法) の研究でした。TRIZの国際会議に継続して出席・発表し、TRIZをやさしくしたUSIT法をさらに発展させて、創造的な問題解決の新しいパラダイムとして「6箱方式」を提唱してきました。教育の面では、(情報科学のいくつかの科目に加えて) この主題での講義を行い、3-4年生のゼミで身近な問題解決事例を学生とともに作ってきました。そして、これらの研究・教育の成果をベースにしてTRIZ/USITの普及活動を行なってきました。特に、公共的Web サイト『TRIZホームページ』を創設して13年間編集・運営してきましたし、日本TRIZ協会主催で日本TRIZシンポジウムを毎年開催してきました。創造的な問題解決の方法論がさらに発展・普及して、今後の技術革新の運動を担い、そのための人材を育てるものと、期待しています。

 

1. はじめに: 研究・教育・普及活動の経緯

私はもともと物理化学の出身です。分子構造の精密決定のために、分光学の実験とコンピュータによる解析の研究を17年間 (大学院と助手) しました。その後、コンピュータメーカの基礎研究部門に移り、ソフトウェア品質管理などの研究と社内活動を行い、研究支援や特許推進などの仕事を18年間しました。

本学に着任する前年の1997年5月末に、たまたま聞いたMITの若手研究者のセミナーで、「TRIZ (トリーズ)」という発明のための思考法のことを知り、感激しました。それは旧ソ連でゲンリッヒ・アルトシュラーという人が開発し、冷戦後に西側に伝えられてきたもので、膨大な特許の分析から得た科学技術の知識ベースを持ち、技術の壁を打ち破る技法 (思考法) を持っているというのです。1997年は米国から日本へとTRIZ導入が動き始めた時期でした。私はいろいろ調査・学習して、TRIZの重要さを認識し、社内導入を実践しました。

1998年、本学に着任したときには、このTRIZを以後の研究テーマにすることに決めていました。着任早々、この『人文自然論叢』に、「TRIZ(発明問題解決の理論)の意義と導入法」 [1] を執筆しました。TRIZを学んで1年、知識ベースとソフトウェアツールを中心としたTRIZの見方 (当時の日本での大方の理解) を書いています。

また、1998年11月1日にWebサイト『TRIZホームページ』 [2] を創設しました。当時、私は情報処理演習という通年の科目を担当し、学生たちにパソコンの使い方を教え、ホームページ作りを課題にしていましたので、自分でも実践したのです。また、その11月に (西側で) 初めてのTRIZの国際会議が米国で開かれるというので、急遽英文サイト『TRIZ Home Page in Japan』をも作り、ポスター紹介をさせて貰いました。この『TRIZホームページ』は、本学の学外向けWebサーバ上にあり、私が編集と運営の一切を担当して満13年になります。自分の執筆記事だけでなく、国内・海外の沢山の人たちの論文や記事を和英並行で掲載してきました。おかげでいまや、TRIZの分野では、日本を代表するサイトであり、国際的にも広く知られているユニークなサイトになっています。

1999年 3月に米国でアルトシュラー協会が主催して、TRIZCON99 という国際会議が開かれました。私はそれに参加するとともに、フォード自動車の Ed Sickafus の3日間トレーニングセミナーに参加して、USIT (統合的構造化発明思考法) を習得しました [3]。前年の国際会議で私はSickafus と知己になり、TRIZをずっとやさしくしたという彼のUSITの教科書を読んでいました。私がフォードを訪問したいとメールしたのに対して、彼はこの社外での公募制セミナーを企画してくれたのです。その後、私の研究は、TRIZを学習しつつ、USITを独自に発展させていくことになりました。

1999年8月に、私は、ロシアと白ロシア (ベラルーシ) に2週間の調査旅行をし、アルトシュラーの遺族をはじめ、約20人のTRIZ専門家の人たちにインタビューしました。ロシアの経済状態が最悪の時期でしたが、当時まだ謎めいていた旧ソ連でのTRIZの状況を実地に知りたいと思ったのです。この旅行記を英文で『TRIZホームページ』に掲載しました [4]。小学生への (TRIZをベースにした) 創造性教育など、いまでも参考になることがあります。

1990年代の末は、日本では製造業の大企業を中心に、TRIZのソフトツールと技法への関心が急激に高まりました。ユーザ研究会が作られ、100人ほどの技術者たちが毎月1度集まって、講演を聞き、グループ作業をしたりしていました。私もそのメンバの一人として参加していました。このような基盤の上に、TRIZ教科書の共同和訳をしたり、USITのトレーニングセミナーを開催したりができたのです。

当時のTRIZの情報源は、米国で Ellen Domb が編集していた『The TRIZ Journal』というWebサイトでした。毎月 5〜6編の論文や事例研究を掲載していました。2001年に、ヨーロッパで ETRIA (欧州TRIZ協会)が設立され、その11月に国際会議を開催しました。私は毎年、春は米国、秋は欧州のTRIZ国際会議に出席・発表するようにしてきました。

ただ、TRIZの普及は簡単ではありません。「すばらしい方法です」と話しても、「本当かな? そんなうまいやり方があるわけないよ」といった猜疑心が広がっています。知識ベースのソフトツールは高価ですから使える環境にいる人は限られていますし、「考える方法」というのは文章では伝えきれず、やはりかなりの時間を使った演習が必要となります。ブームが去ると、本当の良さを悟り、「考える方法」を身につけた/つけようとする人だけが残ることになります。日本では2002〜04年頃がそのような時代でした。私は『TRIZホームページ』を普及の核としてその時代を乗り越えてきました。

日本では、いろいろなTRIZ推進者やユーザが共同して活動して行こうという動きができ、2005年初めに日本TRIZ協議会を発足させ (2007年末に NPO法人日本TRIZ協会に発展)、2005年9月に日本TRIZシンポジウムを開催しました。全国から一般公募で研究発表を募集し、初回は参加者104人 (うち海外4人) でした。第2回から、「基本的に国内向け、しかし一部 (できるだけ多く) 国際的」という目標を掲げて、毎年開催しています。私は、初回からずっとプログラム委員長兼海外対応担当をしてきました。活発で有意義なTRIZの学会として、(米・欧・ロシアの会議に並んで) 国際的に評価されてきています。

私にとって、TRIZの研究と教育とは互いに支え合う関係にありました。情報学部ができたとき (2000年) に、「科学情報方法論」という科目を作りました。名前の趣旨は、「科学技術において、情報 (科学技術の情報および自分が扱っている問題の情報) をどのように扱うとよいのか、その方法を論じよう」ということです。私は、「創造的問題解決の諸方法」を主題として、自分の研究に基づきTRIZ/USITおよびその周りのいろいろな考え方を講義しました。3〜4年生のゼミでも、「創造的な問題解決の思考法」が主題で、身近な問題を取り上げて、それを創造的に解決する演習をし、それを卒業研究の課題にしました。身近な問題での解決事例というのは、学生にも技術者にも分かりやすく、特にその考えるプロセスの説明が教育・普及に役立ちました。私の教育実践の全貌を、2007年に『人文自然論叢』で報告しました [5]

以上のような経過をバックにして、その中身を以下に説明いたします。

 

2. 研究活動: TRIZの研究 (習得) と USITの研究 (独自の拡張)

2.1 TRIZ (発明問題解決の理論) の研究 (習得、適用、翻訳、発表)

日本における私たちのTRIZ研究は、旧ソ連で行なわれた膨大な蓄積を理解することから始めました。その材料は、アルトシュラーの著作やその多数の共同研究者・直弟子たちの論文・講演・ソフトツールなどで、英語での資料でした。

初期に有益だったのは、TechOptimizer というソフトツールで、ロシアから米国に移住した直弟子たちが作ったものです。私は1997年秋〜翌春に3ヶ月かけて、その知識ベースを習得し、「TRIZ法ソフトウェアツールの仕組みと使い方・学び方」 [6] という独自のマニュアル兼解説を作りました。この頃の私のTRIZ理解は、つぎの図1に表現されており [1]、この図をデザイン化して私の『TRIZホームページ』のシンボルマーク (図1の右上のもの) を自分で作りました。

図1. 知識ベースを中心にしたTRIZの問題解決の概念図 [1] と 『TRIZホームページ』のシンボルマーク (右上)

ロシアにおけるTRIZ (特に、アルトシュラーが主導した1985年までを「古典的」TRIZと呼びます) の考え方を理解するのに有益だったのが、Yuri Salamatov 著 (ロシア語)、Valeri Souchkov英訳のTRIZ教科書でした。これを十数名のグループで和訳し、私自身が監訳して、『創造的問題解決の極意』 [7] として出版しました。この本を通じて、技術発展についてのTRIZの思想と、問題解決のための考え方を学びました。この段階で、一般に膨大で難解と言われることが多いTRIZについて、そのエッセンスをスライド一枚で表現しました。最初に米国のTRIZCON2001で示し、後に文章化して ETRIA主催の国際会議TFC 2001 で発表しました [8]。英文と和文を併記すると図2のようです。

図2. TRIZのエッセンス − 50語による表現 (英文と和文)

やがて、西側の研究者が、西側文化をベースにし、TRIZをきちんと消化して発表するようになりました。その最も優れたものが、Darrell Mann (英国)の教科書でした。2002年7月の原著出版ですが、私はそれを読んですぐに和訳出版を決心しました。三菱総研主宰の知識創造研究会の有志17人で和訳し、私が監訳して、『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』 [9] として2004年6月に刊行しました。この本は、いまなお、世界でも日本でも、標準的で包括的な (現代化) TRIZ教科書と認められています。

Mannの教科書での問題解決のプロセスをフローチャートで表現すると、図3のようになります。図中のキーワードは、教科書の各章で扱っている方法で、22章あります。Mannは各方法を分かりやすく説明しているのですが、TRIZ自身の「複線的」な技法の体系を維持しています (なお、アルトシュラー自身は、これらの多数の方法を開発し、それらをもっと複雑に段階的に組み合わせて、「ARIZ (発明問題解決のアルゴリズム)」と呼びました)。私は、「やはりもっともっとすっきりした全体プロセスが必要だ」と、強く思いました。

図3. Mann のTRIZ教科書における問題解決プロセスの全体像

Mann が非常に大きな研究プロジェクトを実施して、上記の教科書を書いたのだと2003年になって発表されました。彼らは、1985年以降に許諾された米国特許を全件分析して、アルトシュラーの研究の基礎データを完全に現代化したのでした。教科書の多数の事例 (例えば、TRIZの40の発明原理の適用事例リスト) は、この特許分析の結果によるものでした。

さらに、Mann らは、アルトシュラーの「矛盾マトリックス」を現代化しました。これは、技術的な問題を、「システムのある側面を改良しようとすると、別の側面が悪化する」という矛盾 (アルトシュラーはこれを「技術的矛盾」と呼びました) として捉えるものです。アルトシュラーは39の側面 (パラメータ) を考え、39×39の枡目ごとに、特許のアイデアとして最も頻繁に使用された発明原理のトップ4個を書き出しました (このために、アルトシュラーは約14万件の特許 (実際には旧ソ連の「著者証明」という文書) を分析したといいます)。Mannらは、2002年までの米国特許を分析し、48×48のマトリックス (Matrix 2003) を作りあげ、本とソフトツールの両方で発表しました。私はこの本を和訳し、『新版矛盾マトリックス (Matrix 2003)』 [10] として刊行しました (さらに、Mann の 『新版 矛盾マトリックス (Matrix 2010)』の和訳もでき上がったところです)。矛盾マトリックスの使い方を下図に示しておきます。

図4. TRIZの矛盾マトリックスの使い方 (概念図)

西側のいろいろなTRIZ研究が発表されてくる中で、私が注目したのは、Larry Ball (米国) の教材でした。多数の事例で、イラストをふんだんに使い、独自のまとめ方をしたものです。高原利生さんと共にこの教材を和訳し、『階層的TRIZアルゴリズム』 [11] として、『TRIZホームページ』に連載し、その後CD-Rで刊行しました。この教材の一つの特長は、アルトシュラーのいう「物理的矛盾」 (すなわち、技術システムの一つの側面に対して、正・逆の対立する要求がある矛盾) を解決する考え方を、多数の事例とイラストで分かりやすく示したことでした。

さらに 2006年5月に、Umakant Mishra (インド) の著作 『IT のためのTRIZ原理』 の英文原稿の一部を読み、すばらしいと思いました。アルトシュラーがTRIZを開発したときには、機械、電気・電子、化学などが対象分野でしたから、1990年代の日本へのTRIZ導入当初 「IT やソフト分野にはTRIZは使えないのでないか」と疑う人が多かったのです。その後の多くの人の研究で、IT/ソフト分野にも使えることが段々はっきりしてきていました。Mishraの本は、(Mannの特許分析と連携して) IT/ソフト分野の多数の特許を分析して、それぞれのアイデアのエッセンスに応じて、TRIZの40の発明原理で整理したものです。いろいろな経過を経て、私は5 人のグループで和訳し、『ITとソフトウェアにおける問題解決アイデア集』 [12] としていまちょうど刊行にこぎつけたところです。ソフトウェア分野に携わってきました私にとっては、TRIZを知ってから15年来の懸案への一つの回答になりました。

これらの他にも、米国と欧州での国際会議や日本TRIZシンポジウムでの多数の発表から、いろいろな研究上の刺激をうけましたが、省略します。

2.2 USIT (統合的構造化発明思考法) の研究 (習得、適用、拡張、理論づけ、実践)

USITの歴史は、1980年代初めに、アルトシュラーの弟子たちの一部がイスラエルに移住し、TRIZの簡易化の必要を認識して、解決策生成法を 4種だけに絞りこんで、SIT 法 (体系的発明思考法) を作ったことに始まります。1993年に Ed Sickafus (米国) がこれを知り、TRIZをも研究した上で、独自に問題解決の一貫プロセスを作り、USITを作りました。彼はフォード社内で実践・普及させ、1997年にUSIT教科書を自費出版しました。プロセスが単線的で、基礎概念が一貫しており、私はこのUSITに注目しました。

私のUSIT研究は、まず習得・導入から始まりました。Sickafus の教科書を読み、1999年3月にSickafus の3日間USITトレーニングセミナーに参加しました。このセミナーは、参加者10人、それぞれに問題を持ち込んで、講義とグループ演習 (2〜3人ずつ) を組み合わせたものでした。このセミナーの私の報告 (USITの説明、セミナーのやり方の説明、問題解決事例 2例) [3] が、日本でのUSIT導入の最初です。

私は、Sickafusに励まされ、1999年7月に企業内で実地問題の解決を図るUSIT 3日間トレーニングセミナーを始めました。また、同様に公募制でのトレーニングセミナーを開始し、いろいろな企業の技術者たちにUSITを教えるとともに、実地問題解決のグループ演習を通じてUSIT の技法を磨いていきました。また、公募制セミナーの利点を生かし、その問題解決の事例を具体的に公表していきました。

これらの活動により、伝統的TRIZよりもずっと分かりやすく適用しやすいUSIT (の問題解決プロセス) を軸にして、TRIZを普及させていくのがよいとの確信を得るようになりました。そして、当時 (特に米国で) 提唱されていたTRIZ導入の「革新的戦略」 に対して、私は「漸進的戦略」を提唱し (図5)、それが日本でのTRIZ導入の一つのガイドラインになりました [13]

図5. TRIZの導入戦略の対比: 「革新的」戦略と 中川の「漸進的戦略」

USITの学習・適用における当初からの大きな課題は、(問題システムの分析段階はしっかりしているけれども) 解決策の生成段階では5つの解法のSickafusによる説明が直感的であまり体系的でないことでした。このため、習得しにくいという意見が多く、TRIZの多数の方法 (例えば、40の発明原理) に比べてよく整備されていないことは歴然でした。2002年初めに古謝秀明が、TRIZの40の発明原理をUSITの5解法に関連づける作業を開始し、私が加わり共同研究をしました。私は、つぎの図6のように、TRIZの全解法をUSITの5解法に分類しなおし、さらにUSITの5解法を階層的に細分類して合計32のサブ解法に整理しました [14]。(なお、ここで、「オブジェクト」とはシステムの構成要素 (例えば、部品)のこと、「属性」とはオブジェクトが持つ性質のカテゴリのこと (例えば、温度は属性、25℃は属性の値) です。

図 6. TRIZのすべての解決策生成法をばらして、USITオペレータに再編成する

USITの解法は、「何をどうする」という形式ですので、「USIT(サブ)オペレータ」と呼んでいます。その例として、よく使われる「オブジェクトを分割する」サブオペレータ (1c) を図7に示します。図7の左下に書いているのは、このサブオペレータを導出したTRIZの発明原理 (この場合は4つ) です。

図7. USITオペレータの例: (1c) 「オブジェクトを分割する」サブオペレータ

図8に例示したのは、「(釘と紐からなる通常の) 額縁掛けを、額縁が傾かない/傾きにくいように改良せよ」という問題での、さまざまな解決策の案です。種々のUSITオペレータを「釘」に作用させて、解決策を導出しています。一つのUSITオペレータ (例えば、図7の「オブジェクトの分割」のオペレータ) を適用するには、(a) 対象を一つ選び (例えば、「釘」というオブジェクトを選び)、(b) 指針に従ってその対象にそのオペレータを作用させ (例えば、釘を長さの真中で二分して、一方をつるつる、他方をざらざらにして、もう一度くっつける)、そして、(c) その有効な使い方を考える (例えば、つるつるの所で紐を調節してから、ざらざらの所に紐を押し込んで保持する案)、というやり方をします。このように非常に具体的な指針ですから、どんどん適用すると、どんどんアイデアが出るのです[15]

図8. USITオペレータの適用例: 額縁掛けの問題で種々のオペレータを作用させた

さらに、USITの一般化法を模式的に図9に示します。図の左下に示すような、一般化と具体化を常に意識して使う連想的な発想法は、これだけでも非常に強力な (通常のブレーンストーミングよりはるかに優れた) アイデア生成術です。また、(図の右下のように) 解決策を階層的に体系化することは、解決策の網羅性を高め、アイデアの抜けをなくし、よりよいアイデアを探すのに有効です。

図9. USITの「解決策一般化法」オペレータの指針

この額縁掛けの問題の本質は、「額縁を水平になるように調整している時には釘と紐は (つるつるで) 「滑らかに動く」必要があり、それでいて、調節を終わって手を離した後では、釘の所で紐が「滑ってはいけない/固定されている」必要がある」ということだと分かりました。これはTRIZでいう「物理的矛盾」の一つの例です。このように理解すると、問題を本質的に解決しているアイデアと、そうでないアイデアを区別できるようになります。

さて、USITの全体プロセス (具体例は後の3.3節を参照下さい) は、いつもフローチャートで表現されてきました。Sickafus のセミナーでの表現 [12] を改良して、2004年にはUSITのフローチャートを図10のように表現していました[15]

図10. USITによる問題解決の全体プロセス (フローチャート表現)

創造的問題解決の方法に対する理解が、私自身で大きく発展したのは、このUSITのプロセスを、「フローチャート」でなく、「データフローダイアグラム」で表現しなおしたときでした。これについては節を分けて説明します。

2.3 「創造的問題解決の新しいパラダイム」の研究 (概念化、意義づけ)

 情報を処理するプロセスを表現するには、「フローチャート」が最もよく使われますが、「データフローダイアグラム」も基本的なものです (図11)。フローチャートが「処理方法 (実際にはその名称)」を記述することを主眼とするのに対して、データフローダイアグラムでは、最初(の入力)、中間、最後(の出力)の各段階で獲得・利用すべき情報を明示することを主眼にします。いわば、前者は「How」の連鎖で表現し、後者は「What」の連鎖で表現しているのです (例えば、要求仕様書、概念設計書、詳細設計書などで記述すべき項目を述べるのが、Whatの指示であり、その記述を変換していく方法を述べるのが How の指示です)。情報科学において、「両者のうちでデータフローの方がより根本的で、安定である」ことがよく知られています。同じWhatの連鎖に対して、Howの連鎖はいろいろに変えることができるからです。

図11. フローチャート表現 と データフロー表現 の対比

従来から、問題解決の思考法をデータフローダイアグラムで書いたものは、抽象的思考を薦める「4箱方式」としてよく知られています (図12)。自分の問題を具体的なレベルだけでごりごり考えるのではなく、問題を抽象化して、よく知られている一般化した (抽象化した)「モデル」で考え、そのモデルでの解決策を参考にして、自分の問題に対する解決策として具体化するとよいというのです。これは、理学でも工学でも基本とされている方式であり、この「モデル」は、理論、雛形、事例、知識ベースなどとしてあらゆる分野、あらゆるところで蓄積されてきています。TRIZの基本方式も同じで、図1がそれを端的に表しています。TRIZの特長は分野を越えて適用できるいくつかのモデル (たとえば、図4の矛盾マトリックス) を作り上げたことです。

図12. 従来の創造的な問題解決のための「4箱方式」 (科学技術とTRIZの基本的方式)

先に図3に示しましたように、TRIZの全体プロセスが複線の構造を持つことは、複数のモデルを持つこと、一つずつのモデルでは不十分なことを意味します。実際に、「抽象化する」と言っても、「既存のモデルにあてはめる」(例えば、矛盾マトリックスのパラメータのどれか二つを選ぶ) ことが多く、それは限定した側面だけでの考察 (分析) です。その結果、「モデルが与える一般化した解決策」は多くの場合に「ヒント」にしか過ぎず、それが何を意味するかを理解すること (すなわち、新しいアイデアを得ること) は自明でなく、具体化への道程は遠いのです。TRIZだけでなく従来の技法の大部分が、この「4箱方式」を類比思考 (「ヒント」をベースにした思考) のレベルで扱ってきています。そして、「モデルの一般化した問題」や「モデルの一般化した解決策」がどのような内容を持つべきかは、モデルに依存しますので、これらの言葉以上の普遍的な説明はありません。

私は2004年にUSITの全体プロセスを初めてデータフローダイアグラムで表現し [15]、それを考察した結果、下記のような「6箱方式」を得て(図13)、それが「創造的な問題解決の新しいパラダイム」であることを認識しました [16]

図13. 「USITの6箱方式」=「創造的な問題解決の新しいパラダイム」

実はこのうちの上半分 (すなわち、第2箱から第5箱への過程) が、USIT (やTRIZ) の思考の世界です。他方、下半分は現実の世界です。すなわち、第1箱から第2箱へはどんな問題を扱うかを決める USITの予備的段階 (問題定義段階) であり、第5箱から第6箱へは解決策を実現するためのUSIT終了後の段階 (実際に細部まで設計・制作し、商品などとして成功させるまでの段階) です。これら下半分の段階は共に、技術的・ビジネス的・社会的な現実の判断基準で考えるべき部分です。 ですから、下半分ではUSIT (やTRIZ) 以外の技法、例えば、品質機能展開(QFD)、CAD/CAE/CAMやタグチメソッド (品質工学) など、が中心となるべき領域です。

新しい「6箱方式」の本質は、第3箱と第4箱の内容にあります。第3箱は、「(問題がある) 現在のシステムの理解と (その問題をまったく持たない) 理想のシステムの理解」です。現在のシステムを理解するには、「オブジェクト−属性−機能」の概念と、空間と時間の概念を使い、システムの働きのメカニズムと問題 (困難) を生じさせている性質を明らかにします (そのためには、機能-属性分析や、空間・時間の分析をします)。また、理想のシステムを理解するには、その望ましい振る舞いを考え、望ましい性質を考察します。第2箱から第3箱に達するには、(各問題の専門知識だけでなく) (USITの) 技法の大きな助けが必要です。

そして、第4箱は「新しいシステムのためのアイデア」です。これは「ヒント」の段階ではなく、「現在のシステムの何をどう変えればよい」という意味のアイデアです。それは、新しいシステムを作り上げるための中核になるアイデアですが、それが本当に実現できるのか、どれだけ有効であるのかはまだ分かっていない段階です。そのようなアイデアは、一見小さな断片です (歴史上のさまざまな大発明でも、中核のアイデアはそのように小さなものです)。  

では、第4箱のアイデアをどのようにして得るのか? 理論的な立場での説明は、(第3箱の) 現在のシステムの諸要素に (図8に例示したように) USITオペレータをさまざまに (網羅的に) 作用させることです。ただし、本質は「網羅性」にあるのではありません (コンピュータを使えば、何百というアイデアを機械的に出力することは可能でしょう)。本質は、「このアイデアを使えばきっと新しい良いものができる」という選択眼にあります。他方、実践的な立場でいうと、第3箱を導く分析の過程で、問題の本質が明らかになり、何をどう改良すべきかというアイデアを「自然に」思いつくようになります (われわれ人間の脳がそのように働きます)。もちろん、さまざまな技術を知っていて、USITオペレータ (あるいは TRIZの40の発明原理など) に習熟していれば、この思いつきはずっと容易になるでしょう。

第5箱の「解決策のコンセプト」は、「このようにすればきちんと動き、問題が解決されるはずだ」という案です。そのような解決策の構築は、もはや技法 (USITなど) 主導ではなく、その技術分野の素養が必要です (素人がなかなかよい発明を作れないのは、アイデア (第4箱) が出ても、解決策 (第5箱、さらには第6箱) にまでできないからです)。ただそれでも、現在のシステムと理想のシステムをきちんと考察した結果 (第3箱) が、この解決策の構築を助けます。また、他分野の技術を導入するとよいことも多いので、(TRIZの) 知識ベースなどがここで役に立ちます。

図13の「USITの6箱方式」の理解のしかたはいろいろありますが、一つの大事な理解が図14に示すものです。図の左半分は、問題の分析 (理解) であり、本当の意味の「抽象化」です (モデルへのあてはめ/写像ではありません)。図の右半分は、中核となるアイデアをもとにして、具体的な解決策を構築・実現する「具体化」の過程です。そして、この橋渡しをしているのが、(理論的には) USITオペレータによる変換ですが、実際には、分析を深める中で解決のためのアイデアを「自然に」思いつくことです。

図14. 創造的問題解決の新しいパラダイムの一つの理解

この「6箱方式」の意義は、分析の過程 (図14の左半分) で、標準的な概念を基礎にして、多様な問題に対しても共通の標準的な方法を使いますから、習得がやさしく、汎用的な方法であることです。既存のモデルにあてはめる (写像する) 方法ではなく、ヒントをベースにしてその具体化を考える方法ではないことが、新しいことです。また、部分的、断片的な技法でなく、一貫した全体プロセスを提供しています。これらのことから、この「(USITの) 6箱方式」を、私は「創造的な問題解決の新しいパラダイム」であると、主張しています [16]

 

3. 教育活動: 「創造的な問題解決の思考法」の教育 と 主体性の教育 

3.1 「創造的な問題解決の方法論」の講義

前述のように、私の教育実践をまとめて、本学の『人文自然論叢』に2007年3月に掲載しました [5]。私がしました講義の中心的な科目は、「科学情報方法論」 (2年次後期配当) でした。初年度 (2001年度) の講義ノート (全13回、各回90分) を『TRIZホームページ』に掲載しました。その後、毎年少しずつ改良してきています。2010年度の講義 (全14回) は、つぎのような構成です [17]

図15. 「科学情報方法論」の各回講義テーマ (主題: 「創造的な問題解決の諸方法」)

上記の各回のタイトルからお分かりのように、TRIZ/USITを中心にして、もっと広く「創造的な問題解決の諸方法」をテーマとして講義しています。できるだけ身近な事例を取り入れて話すようにしています。この講義を2010年度に全回、ビデオに収録してもらいました。これを公開あるいは学内公開するつもりでいたのですが、小さな階段教室での講義のありのままのもので、一部に学生が写っていたりして、プライバシの観点から、お蔵入りいたしました。講義の全教材 (学生に渡している毎回8〜12頁のプリント) をPDFにし、許可を得て『TRIZホームページ』に公表しました (2012年1月) [17]

3.2 「創造的な問題解決の思考法」のゼミナール: 身近な問題解決の事例づくり

3年次のゼミナールと4年次のゼミナール (卒業研究) とは、継続して (同じ教員が) 教えます。実践報告 [5] に書きましたように、2年次の上記講義を履修済みであることを要求しているのですが、実際には未履修でゼミに入ってくる学生があり、3-4年次でのゼミの習得の程度はまちまちでした。身近な問題解決の事例を学び、共同演習をし、卒業研究では一人一人のテーマで問題解決事例を作るように、努めてきました。つぎのような事例ができています。

また、学生たちの問題解決事例を集めて、学生たち自身でホームページを作って公開しました [18]。その意図を図16に示します。私自身多くの記事を『TRIZホームページ』に掲載して、TRIZの普及を図ろうとしてきたわけですが、学生たちはその内容がとっつきにくく、分かりにくいといいます。もっと、学生たちの興味を引く内容を、やさしい言葉で書こうとして、学生たちが公開のホームページを作ったのです。

図16. 『学生による学生のためのTRIZホームページ』の作成の意図 [16]

3.3 身近な問題解決: 「裁縫で針より短くなった糸を結ぶ方法」 -- USITの一貫適用事例

ここで、上記の卒業研究の中から一つの例を選び、USIT (2.2節参照) を適用した全プロセスを例示しておきます。この例は、下田翼君の卒業研究をベースにして、私がまとめ直し、InterLab誌でのTRIZ連載 [19] を初めとして、さまざまな講演や解説の中で使ってきたものです。なお、初めのころは、学生の卒業研究の内容に手を入れて話すことに、私は(ありのままに話していないという) 一種の後ろめたさを感じていました。しかし、後になって、「学生の卒業研究を (提出後に) 積極的に手を入れてきちんと仕上げて発表することは、指導者の責任だ」と思うようになりました。(学部) 学生の成果はそのままでは不完全なものでしかありませんが、足りない所を補い、表現を推敲することによって、一つのきちんとした研究事例になります。それは、沢山の学生たち、さらに社会人の人たちにも理解されるものになるのです。

この事例は、「裁縫で針より短くなった糸を結ぶ方法」を考え出す問題です。私が最近の講演で使った4枚のスライドの形で示します (図17)。スペースがありませんので、この事例自身を丁寧に説明することはしません。ともかく、これがUSITを素直に適用した一部始終であり、問題定義、問題の分析(1)(2)、解決策の生成という段階を踏みます。

図17. USIT法の適用事例: 「裁縫で針より短くなった糸を結ぶ方法」 (USIT法の一部始終)

3.4 1年次ゼミナールIB: 『7つの習慣 ティーンズ』を学ぶ

もう一つの教育実践としてここに記述しておきたいと思いますのは、1年次後期のゼミナールIBです。このゼミナールは当初、情報学部として「読み、書き、発表する訓練」という統一目標でしたが、2008年から全学で「読み、書き、考え、発表する訓練」という統一目標になりました。その教材や内容は教員の判断に任されています。私は、2008年から教材を変更して、ショーン・コヴィー著『7つの習慣 ティーンズ』 [20] を採用しました。この本でいう「習慣」とは、考え方、行動のしかたとして身についているもののことで、つぎの「7つの習慣」を身につけることを薦めています。

第1の習慣: 主体的に行動する
第2の習慣: 目的を持って始める
第3の習慣: 一番大切なことを優先する
第4の習慣: Win-Winの考え方
第5の習慣: まず相手を理解してから、次に自分が理解される
第6の習慣: 協力から生れる相乗効果
第7の習慣: 自分を磨こう

このゼミナールの実践報告一式 (ゼミナールの趣旨とやり方、本の紹介、学生のレポート、レポートへのコメント、など) を『TRIZホームページ』で公表しています [21]。この本の部分部分を順番に音読させては、感想を聞き、みんなで議論します。学期中に3回 (または4回) のレポートを出させます。課題は、「このゼミナールで学んだこと、考えたこと」とし、「感じた、思った」という感想文ではないことと指示しています。そのレポートについて、文章の書き方を個別に推敲し、また書いている内容についてもコメント・指導します (「感想」は指導の対象になりませんが、「学んだこと、考えたこと」なら指導・議論の対象にできます)。このレポートを文集の形でクラス全員 (10〜16名) に渡し、コメント集もみんなに渡します。学生たちにとって、クラスのみんなが書いたものを読むことは、興味があり非常に有益ですから、自分のものをみんなが読むことも承知します。また、先生のコメントも、いろいろな学生に書いているものを読むとよく分かるようになります。

音読させる中で、「「。」のところできちんと止まって読みなさい」といった指導もします。学生のレポートの文章は第1回は舌足らずでめためたのことがありますが、添削を重ねて、第3回になると随分よくなってきます。

この教材は、「主体的に行動する」ことをまず第一に掲げています。自分の行動に責任を持つようにせよ、物事に感情的に反応するのでなく、「一時停止ボタン」を押してどうするとよいのかを考えて行動せよとこの本は書いています。この学習の最後の方で私は、「主体的に行動するとは、「出発進行ボタン」を押すことでないのか」と学生に問います。アグレッシブであるように育ってきているアメリカの若者と、いつも周りを気にして受け身で順応しようとする (あるいは逃避する) 日本の若者とで、強調するべきことが違うからです。この「主体的に行動する」という態度/精神は、「創造的に考える」ための本当の基盤であると思っています。この本が薦めている「7つの習慣」は、学生たちにとっても、社会人にとっても、そして私自身にとっても、非常に大事な根幹に関わることです。

3.5 「中川 徹のミッション・ステートメント」 -- 先生がやってきた宿題

上記のゼミナールIB の教材では、「第2の習慣: 目的を持ってはじめる」において、自分の「ミッション・ステートメント」を書くことを薦めています。自分のありたい姿、モットーを、どんな形式でもよいから、きちんと書いてみなさいというのです。私は、スチーブン・コヴィーの『7つの習慣』を読んで感激してからも、一年半これが書けませんでした。ゼミナールの2年目になって、学生たちにレポートを書かせているのだから、やはり先生である自分もきちんと書かなければいけないと思いました。そこで、2009年12月に書いたのが、つぎのような自分のミッション・ステートメントでした [22]

図18. 「中川 徹の ミッション・ステートメント」

私は「「中川 徹のミッション・ステートメント」とその心」という文を書いて、学生たちのレポートへのコメント集と同時に、学生たちに渡しました。また、私の『TRIZホームページ』にも掲載しました [22]。そこに書いていますように、これは「ありたい姿」であり、「自分がそうできている」ということではありません。特に、この第1項と第2項との葛藤が自分の中で常にあります。

3.6 「レポート (論文) の作り方・書き方」

  なお、3.1節の講義 (図15) の中の 「(7) レポート (論文) の作り方・書き方」について、特に補足しておきます。この講義は、番外編で、欧州での国際会議出張による休講に対する、補講の形で行なっています。この90分の講義資料を『TRIZホームページ』に2002年2月に掲載しました。

その8年後に、この資料をインターネットで読まれた方から思いもかけずメールをいただきました。そしてこのテーマで、認定看護管理者研修の一部として50人の方に丸2日間の研修を行なうようになりました。その際に資料を整備し、後日に『大阪学院大学通信』と『TRIZホームページ』とに掲載しました [23]。これは三部構成で、第一部では、トップダウンに、レポートの目的を明確にする、中身を作る、執筆の準備、レポートの形式、本文などの構成法などを説明しています。第二部では文章の書き方についてボトムアップで、語句のレベル、一つの文のレベル、文の繋がり、段落、節と章、全体のレベルへと、ガイドラインになることを具体的に説明しました。第三部は、これら全体の要点をA4一枚にまとめたもの (図19) で、企業などで推奨される形式のものです。自分なりの文章修行のまとめでもあります。

図19. 「レポートの作り方・書き方」 A4 一枚のまとめ [23]

 

4. 普及活動: 学会発表、講演、研修、ホームページ、協会、シンポジウムなど

TRIZ/USITのような新しい技法や考え方は、社会的に広く認知され、使われるようになることが、最も望ましいことです。ですから、いままで述べた研究や教育の活動とともに、当初から普及活動が重要な要素でありました。普及させるとよい対象は、TRIZ/USITの性格から考えると、まず第一に企業 (技術者層およびマネジャ層)、第二に学界および大学 (指導者層そして学生)、第三に社会一般 (知識層)、そして第四に中等・初等教育 (指導者層そして子どもたち) と考えられます。また、日本国内だけに閉じこもらずに、世界と交流しながら進むことが、有益で有効です。まだまだ前途遼遠ですが、いままでの活動をまとめておきます。

4.1 学会発表、講演、執筆、翻訳、国際会議報告など

まず第一の形態は、自分の習得・研究の成果を、学会などで論文発表することです。国内では、(初期に) 三菱総研 知識創造研究会/IMユーザシンポジウム、2005年以降 日本TRIZシンポジウムが(TRIZについての)中心的な発表の場であり、これらに毎年発表しました。また、日本創造学会でも論文発表をしました。海外での発表にも力を入れ、米国のTRIZCON では 2000年〜2009年の間に合計8回発表、欧州のETRIA TFC では 2001年〜2011年まで連続11回発表しています。

学会やセミナーなどで、講演させて貰えるときには、積極的に話してきました。近年の例では、「横幹連合」第2回技術シンポジウム、日本機械学会 第16回設計工学・システム部門講演会、日経ものづくり『革新のための7つの手法』発行記念セミナー(2006年)、北九州市立大学 技術経営(MOT)セミナー、第38回 VE関西大会、(財) ソフトピアジャパン 新製品開発手法セミナー、宮城県産業技術総合センター TRIZ/USITセミナー (2007年)、次世代大学教育研究会 (2008年)、日本創造学会 第5回創造性研究会 (2010年)、日本機械学会 設計工学・システム部門講習会、京都府中小企業技術センター スキルアップ研修、奈良先端科学技術大学院大学 FD研修会 (2011年) などがあります。この他に、特別なものでは、イランでのPSST (Problem Solving Strategy & Techniques) 国際会議に基調講演を招待され、出席はできませんでしたので、比較的短いビデオ講演を送りました (2006年と2011年) (注: 第2回は2011年12月から2012年2月に延期されましたので、実際に出席して基調講演をしました)。

適切な解説記事を執筆するのも大事なことです。雑誌ヘの連載記事としては、3件を執筆しました。「なるほどtheメソッド: 新しいTRIZ」 (『日経ものづくり』、4回、2005年) [24]、 「技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ」 (全22回) (『InterLab』、2006年〜2007年) [25]、「USIT入門: 創造的な問題解決のやさしい方法」(全5回) (『機械設計』、2007年) [26]。これらは、雑誌発行のすぐ後で『TRIZホームページ』に再掲載しています。

海外の優れた教科書・教材を翻訳して出版したことは、2.1節に書いたとおりで、文献 [6891011] を参照下さい。また、Ed Sickafus のUSIT eBook も和訳(共訳) して『TRIZホームページ』に掲載しました [27]

普及活動の目的で私が尽力してきたことの一つに、TRIZ関連の国際会議の参加報告があります。1998年に米国でのTRIZ国際会議に参加して以来、日本のTRIZ関係者に海外の状況を報告する目的で国際会議の参加報告を書き、『TRIZホームページ』に掲載してきました。2001年春のTRIZCONの報告 (和文) に対して、海外のTRIZ専門家から英訳の要請があり、それ以後奮起して英文で詳細な報告を書き、和文では概要だけにすることにしました。この「Personal Report」のシリーズは、米国TRIZCON 8回、欧州 ETRIA TFC 7回、日本TRIZシンポジウム 6回、その他国際会議/セミナー 2回で合計23回書いています。これは私個人の文責で、自分が理解した範囲で、自分の評価を入れて各論文を紹介しているもので、当たり障りのない「公式報告」ではありません。いろいろな論文の内容をきちんと理解しレビューするように努力しました結果、(国内・海外の) 多数の発表者あるいは一般の読者 (すなわちTRIZ専門家) から高く評価していただいています。ただ、段々と負担が大きくなり、最近では欧米の国際会議の報告はやめて、日本のTRIZシンポジウムの発表の全件を英文で海外に紹介することに力を入れています [28]

また、TRIZジャーナルや国際会議 (TRIZCON や ETRIA TFC) の発表から精選した海外の論文を、いろいろな人の協力を得て和訳し、『TRIZホームページ』に掲載してきています。

このように見てくると、やはり私自身の著作がないことが少々気になります。TRIZの教科書はすでによいものがありますから、USITのしっかりした教科書を私が近いうちに書く必要があると、改めて考えています。

4.2 研修: USITの企業内研修、公募制研修

   私は1999年3月にUSITを習得し、同年の7月には企業に招かれて最初のUSIT 3日間トレーニングセミナーを行いました。TRIZ/USITの説明をすると同時に、USITを用いて企業の実地問題の解決を試みるものでした。その後 2008年まで、製造業の企業8社で合計22回の3日間または2日間USITトレーニングを行いました。企業から期間短縮の要請があり、2003年に3日間から2日間にし、以後は2日間で続けています。8社のうち4社では3回以上のトレーニングセミナーを行い、企業内の推進者が自立して推進できる体制を作っています。私は企業現場での開発・製造などの経験を持ちませんので、研修だけを行い、コンサルティングをしませんでした。

普及のためにさらに有効であったのは、公募制でのUSIT研修です。初期 (2000年〜2003年) には三菱総合研究所が主催して、半日/1日セミナーで多数の人に講演し、ついで15〜25人の人に3日間トレーニングを行なうというパターンで、5回の3日間トレーニングをしています。後には、2005〜2008年にアイデア社の主催で6回、MPUFの主催で2回の2日間USITトレーニングを行いました。この2日間トレーニングのやり方は文献 [29] で詳しく紹介しています。そのプログラムは、図20のようです。

図20. USITの2日間トレーニングセミナーのプログラム

公募制の良い点は、多様な企業から参加した、意識の高い技術者/推進者と一緒にUSITの実地適用を試みることができ、その人たちが企業内での推進者に育っていくことです。その際に、問題の持ち込みが企業の機密に関わる可能性があり、参加者が所属企業からいろいろと規制を受けることがありました。このため、「セミナーの成果は問題提案者に帰属させる、参加者は2年間の守秘義務を負う、2年後は公表可能とする」という骨子の誓約書に参加者全員がサインして行うようにしました。

公募制トレーニングで講師の私自身が提案した課題は、セミナー直後からその内容や成果を具体的に公表できました。その中には、つぎの二つがあります。「忘れものを予防・防止するシステムの考案」[30]、「二人の子供を安全に乗せられる自転車」[31]。後者では (セミナー後の仕上げにより) 下記のような案を導きました (ただし、まだ採用してくれる企業がありません)。

図21. USITの適用例: 「二人の子どもを安全に乗せられる自転車」の解決策

なお、1日間の簡略化したトレーニングセミナーを2回ほど試みたことがありますが、やはりテーマの深まり方や技法の習得の度合いが不十分になり、あまり適当でないと思うに至りました。半日あるいは1日の場合には、講演と事例を中心にして、質疑に時間を取るのがよいだろうと考えています。

いままでのUSIT研修/トレーニングの対象者は、企業技術者が中心で、大学の研究者はごく僅かでした。今後、機会を得て、大学や公的研究所の指導者の人たち、大学院生の人たち、また学校の先生たちへの研修/トレーニングができるとよいと思っています。もちろん、一般社会人のクラスや学校生徒 (小学校高学年〜高校) のクラス/クラブなどを試みることも将来の大事な方向と考えています。

4.3 『TRIZホームページ』による普及活動、公共的サイトによるグローバルネットワークのビジョン

私のTRIZ/USIT普及活動の中心は、なんといっても『TRIZホームページ』 [2] の編集と運用です。大阪学院大学の公開Webサイト内に個人ホームページとして1998年11月に創設し、満13年間アクティブに編集・運用しています。ボランティアとして個人の責任で編集・運用していますが、「私的なサイト」ではなく、TRIZに関する紹介、情報提供、交流のために、非営利で公共的な目的をもち、(私自身の執筆記事だけでなく) 国内・海外の多数の人たちの論文や寄稿を掲載する「公共サイト」です。

  TRIZ/USITの普及にとって有益と考える広範囲の情報を、私自身の判断で選択して掲載してきました。TRIZ/USITの紹介、論文、適用/推進事例報告、解説、学会ニュース、書籍案内、リンク集、寄稿、質問と回答など、さまざまな内容です。各記事 (ページ) には、編集ノートという形でその記事の作成/取得の背景や趣旨を記述しています。また、記事を掲載するたびに、書誌情報と簡単な紹介を書き、トップページに案内 (4ヶ月だけ表示) するとともに、「新着情報」のページに蓄積してきました。さらに、「総合目次」を作り、13年間のすべての記事をカテゴリ別に分類して一覧にし、ワンクリックでその記事のページを開くことができます。できるだけ多くの記事を和文と英文で並行して掲載するように努力しており、各記事の中で和文ページと英文ページを相互に切り換えできます。その他、各ページで参照している関連ページにはいつもリンクを張っています。

初心者のための入り口として、「TRIZ紹介」のページがあり、主要な紹介/解説記事を (現在の時点で選んで) リンクしています。 学会などで発表された論文を掲載するのが大事な役割です。米国、欧州、日本などのTRIZ関連学会で発表された論文を精選して、(学会と著者の許可を得て) 原文および和訳や英訳を掲載しています。TRIZ/USITの方法の論文も、それらを実地に適用した事例も多数 (適用事例の論文は約100編) 蓄積されています。本稿で紹介した私の研究・教育・普及活動はすべて、この『TRIZホームページ』に掲載しています。4.1節で紹介した、TRIZの国際会議の「Personal Report」が特記できるものです。

日本および世界のTRIZ関連サイトへのリンク集も充実させています。数年ごとに随分のエネルギをかけてリンク集を作りました。現在掲載している「世界TRIZリンク」は、2008年3月〜5月のサーベイ結果をまとめたもので、120サイトを収録しています。私自身が実際にリンクを辿り、主要なページを読んで (見て)、情報を評価し、個別にかなり詳しい説明をつけています。言語の壁がありますから、この作業は随分大変ですし、英語でないサイトはあまりよく紹介できていません。それでも、各サイトの重要性を自分なりに評価し、適切と思う説明をつけているのは、編集者が責任を負っている「公共サイト」だからできていることです。

『TRIZホームページ』の更新は不定期ですが、2〜4週間ごとに、1〜5編程度の記事を掲載しています。ホームページの更新のたびに、(「新着情報」の部分をアレンジして) メールで更新案内を出しています。案内先は現在、国内約730名、海外約400名です。これらの結果、『TRIZホームページ』のトップページへのビジット数は、2005年11月から2011年10月末までの6年間で、和文 15.7万件、英文 2.6万件です。

私は、『TRIZホームページ』の活動実績を踏まえて、TRIZについての「公共Webサイトのグローバルなネットワーク」を作ろうと、世界のTRIZリーダたちに呼びかけています [32]。ここで言っている「公共Webサイト」とは、非営利で、公共の目的のために、さまざまな人の寄稿を得て、編集して掲載されるサイトを意味しています。そのサイトの性格は、個人の趣味の「私的サイト」、企業などの営利目的の「私的サイト」、学会や公的組織などの「公式サイト」などとは区別されます。もちろん、個人、企業、学会、公的組織などのサイトが、その一部分として非営利で公共目的の情報を掲載していることがありますから、そのような部分とは共通するものです。ここで、責任を持った編集が行なわれていることが、内容の質を維持する/高めるために必要なことであり、著者や記述年月日、掲載年月日などの明記も必要なことと、私は考えます。また、「グローバルなネットワーク」であるためには、どうしても言語の壁を越える必要があります。私は実際的な解決策として、デファクトの共通言語として英語を採用し、各国のサイトが自国語と英語とのページを作ることを提唱しています。そして、(自国の人々が世界を見るために) 英語から自国語への翻訳をし、また (世界の人々に自国の活動や研究成果を知ってもらうために) 自国語から英語への翻訳をすることを提唱しています。

図22は、この提唱のビジョンを模式的に示したものです。世界各国に、いろいろな考えで編集されたこのような「公共Webサイト」ができれば、それは (特別な認証・権威づけの組織がなくても) 自律的に成長して、グローバルなネットワークに育つであろうと考えます。それがグローバルなTRIZコミュニティを生み育て、TRIZという方法論が世界の中で健全に普及していくであろうと、考えています。またこれは、(TRIZに限らず) どんな分野やテーマについても適用できるビジョンです。

図22. 公共的Webサイトによるグローバルネットワークのビジョン

4.4 日本TRIZ協会 (NPO) の運営 と 日本TRIZシンポジウムの開催

日本TRIZ協会は、日本におけるTRIZの普及・推進を図るためのセンターとして、ボランティアの提唱で設立されたもので、2007年12月に東京都からNPO法人として正式に承認されました。その前身は、2004年のTRIZ懇話会、2005年の日本TRIZ協議会 (任意団体) でした。それまで、(米国でのTRIZベンダー間の競合関係を反映して) 一部に競合・対立関係にあった日本のTRIZ推進活動を、大同団結して進めて行くことを目的としていました。企業ユーザと大学人とが取り持って、ベンダー/コンサルタント企業の間に協力関係を作っていきました。その後順調に進み、個人のボランティア参加による正会員は約120名です。運営委員約20名 (うち、幹事 (理事) 9名) で運営しています (私は、2004年以来の設立メンバで、幹事をしています)。

現在のTRIZ協会の主要活動は、毎年9月の日本TRIZシンポジウムの開催です。協会には企業の協賛がごく僅かしか得られていず、学界 (学術界) の認知もまだまだですし、公的な研究プロジェクトなどにも参加できていません。それでも、TRIZの分野では、世界各国の中で最も安定していて、国内のTRIZ関係者が一致協力して活発に活動している組織として、評価されています。

私は、2005年の第1回からずっと、日本TRIZシンポジウムのプログラム委員長を引き受けて、活動してきています (第7回TRIZシンポジウム2011の公式報告参照 [33])。このシンポジウムの目標は、まず、全国のTRIZ関係者 (推進者もユーザも初心者も) が集まり、その活動や成果を発表し、討論・交流して、TRIZの理解と普及を促進することです。また、海外からの発表・参加を得ることが、国内のTRIZ推進に有益であると認識し、このシンポジウムを海外にもオープンなものとしました。ただ、それは当然、言語の壁を克服しなければ国内参加者にも海外参加者にも有益なものになりませんから、いろいろな課題の解決を必要とするものでした。私たちが選んだTRIZシンポジウムの基本的性格は、「基本的に国内向け(全国的)、かつ、部分的に (できるだけ多く) 国際的」というものです。

公用言語は、日本語+英語としました。発表募集や参加募集など、すべてを日本語と英語で広報し、国内と海外から発表と参加を募りました。発表では、和文スライドと英文スライドとを並行投影することを原則とし、一部に日本語スライドだけの発表を許容しました。セッション中の質疑応答だけ、和英双方向の逐次通訳をしました。これらの判断は、同時通訳は人材がなく資金不足で不可能であり、逐次通訳は時間の無駄になるから採用せず、「事前翻訳」を採用したのです。論文集も、国内参加者向けと海外参加者向け (英語版) を作りました。国内発表者にはできるだけ自己/自社でのスライド英訳を要請しましたが、困難な場合にはプログラム委員会が (数人のボランティアの協力を得て) 英訳または英訳推敲の支援をしました。海外発表者のスライドは、TRIZ協会の運営委員に分担して貰って和訳しました。これらの作業は随分大変ですが、この7年で定着し、国内発表者の大部分が自分で英訳スライドを提出してくれるようになりました。

9月初旬の開催に対する準備としては、2月に計画公表と発表募集、5月中旬発表申込み (拡張概要1頁提出) 締切、6月初旬プログラム公表と参加者募集、7月下旬最終原稿 (発表スライド必須、論文随意) 締切、8月下旬 参加申込み締切、というスケジュールを確立しました。発表申込みに際して審査をしますし、最終原稿の提出時には不備を指摘したり、一部の内容の指導をしたりしますが、学会的な査読を行いません。その理由は、発表申込みや原稿提出の時期をできるだけ遅くして、発表者に最新の内容を話してもらい、かつ、詳細な発表プログラムを早くに公表して、それを見て多くの人が参加できるようにしたいからです。発表内容について、主催者側が責任を持つことは、(例え査読をしても) できるものではありません。発表者の責任で、正しいと思うこと、ベストと思うことを、積極的に発表して貰うのがよい。評価は、参加者各人が行えばよいと考えています。多くの積極的な発表があることが、シンポジウムを有意義にする要点であると考えます。

このような準備の結果、日本TRIZシンポジウムは、毎年3日間で、発表数 40件前後 (うち海外10件前後)、参加者数 100〜200名 (うち海外 4〜46名) (経済状況などで大きく変化している) といった実績を持っています。ユーザ企業からの実践的な発表がいろいろあり、活発で友好的な雰囲気が、国内・海外の参加者から評価されています。このTRIZシンポジウムを、充実した内容で、活発なものにすることが、TRIZの普及のためには非常に大事なことです。それをこの7年間地道にやってきて、今後もさらに発展させようとしています。

なお、日本TRIZ協会では、シンポジウムのProceedingsとは別に、査読を伴った論文誌 (電子版) を発行することの検討を始めたところです。TRIZが学術界で認知されるように、今後の活動を進めたいと考えています。

 

おわりに

以上に、1998年4月からいままで、大阪学院大学に在任中の14年間を振り返って、私の研究・教育・普及活動のまとめをいたしました。「創造的問題解決の方法論 TRIZ/USIT」を中心テーマとして、いろいろな活動ができたことを、ありがたく、嬉しく思います。今春に大学を退職しますが、その後も、健康を許されて、これらの活動を少しずつでも続けていきたいと願っております。お世話になりました多くの人々、特に、情報学部の先生方、クラスの学生諸君、支援いただいた大学のスタッフ、日本TRIZ協会の関係者、TRIZの世界のリーダたち、そして家庭で支えてくれた妻雅子に、感謝いたします。

 

参考文献

[注: 著者名を省略しているのは、中川 徹の単著。HP は『TRIZホームページ』[2] の略記。下記の大部分の文献は和文と英文が並行してありますが、和文のタイトルだけを記載しました。(E) は英文を示します。]

[1] 「TRIZ (発明問題解決の理論)の意義と導入法」、大阪学院大学 『人文自然論叢』 (1998年 9月); 三菱総研知識創造研究会ホームページ (1998年5月); HP (1998年11月); HP (1999年2月)(E)

[2] 『TRIZホームページ』 (『TRIZ Home Page in Japan』)、編集: 中川 徹、創設: 1998年11月。
URL: http://www.osaka-gu.ac.jp/php/nakagawa/TRIZ/ ; (E)

[3] 「USIT法研修セミナー 参加報告」、HP (1999年3月);  HP (1999年3月)   。

[4] 「TRIZの母国を訪ねて (1999年8月、ロシア&白ロシア訪問記)」、HP (1999年8月) (E) ; HP (1999年9月)

[5] 「「創造的な問題解決の思考法」の教育実践」、大阪学院大学 『人文自然論叢』 (2007年3月); HP (2007年1月);  TRIZCON2007 (E); HP (2007年5月) (E)

[6] 「TRIZ法ソフトウェアツールの仕組みと使い方・学び方 (TechOptimizer Pro V2.51 (Invention Machine 社))」、三菱総研知識創造研究会ホームページ (1998年7月); HP (1998年11月); HP (1999年2月) (E)

[7] 『超 "発明術TRIZシリーズ5: 思想編「創造的問題解決の極意」 』、Yuri Salamatov著、中川徹監訳, 三菱総合研究所知識創造研究チーム訳, 日経BP社刊, 2000年11月。同出版案内: HP (2000年11月); HP (2000年11月)(E)

[8] 「TRIZのエッセンス−50語による表現」、HP (2001年5月); HP (2001年5月)(E); ETRIA TFC 2001 (2001年11月); HP (2001年8月) ; HP (2001年11月)(E)

[9] 『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』、Darrell Mann 著、中川徹監訳、知識創造研究グループ訳、創造開発イニシアチブ刊 (2004年 6月); 同出版案内: HP (2004年6月); HP (2004年6月)(E)

[10] 『TRIZ 実践と効用 (2) 新版矛盾マトリックス (Matrix 2003)』、Darrell Mann ら著、中川徹訳、創造開発イニシアチブ刊 (2005年 4月)。同出版案内: HP (2005年4月); HP (2005年4月) (E)

[11] 『階層化TRIZアルゴリズム』、Larry Ball著、高原利生・中川徹 訳、創造開発イニシアチブ刊 (2007年 9月); HP 連載 (2006年2月〜2007年7月)

[12] 『ITとソフトウェアにおける問題解決アイデア集−TRIZの発明原理で分類整理』、Umakant Mishra 著、中川徹 監訳、創造開発イニシアチブ刊、CD-R版 (2012年 1月)。同出版案内: HP (2011年8月); HP (2011年8月) (E)

[13] 「日本におけるTRIZ適用のアプローチ」、TRIZCON2000 (2000年4月); HP (2000年 5月) (E) ; 和訳 HP (2001年1月)

[14] 「TRIZの解決策生成諸技法を整理してUSITの 5解法に単純化する」、中川徹・古謝秀明・三原祐治、和文HP (2002年 9月); ETRIA TFC 2002 (2002年11月)

[15] 「TRIZにおける解決策生成のためのUSIT オペレータ: 問題解決のより明確な道案内」、ETRIA TFC 2004 (2004年11月) ; HP (2004年11月) (E) ; HP (2004年10月)

[16] 「創造的問題解決の新しいパラダイム−類比思考に頼らないUSITの6箱方式−」、日本創造学会第27回研究大会、2005年10月29-30日; HP (2005年11月); HP (2006年4月)

[17] 「講義ノート: 創造的な問題解決の方法論 (全14回): 大阪学院大学情報学部 「科学情報方法論」 2010年度後期授業資料」、HP (2012年1月); HP (2012年1月)(E)

[18] 「『学生による学生のための TRIZホームページ』 〜身近な問題解決で学ぶTRIZ/USITの理解〜」、肥田真幸、大森瑞生、下田翼、林尚也、中川 徹、日本TRIZシンポジウム2006 発表、(2006年9月); HP (2006年3月)

[19] 「連載: 技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ: 第5回 TRIZ/USITのやさしい適用事例(1) 裁縫で短くなった糸を止める方法」、InterLab 2006年5月号; HP (2006年5月)

[20] 『7つの習慣 ティーンズ』、ショーン・コヴィー著、キングベア出版。

[21] 「教育実践報告: 1年次ゼミナールでショーン・コヴィー著『7つの習慣 ティーンズ』を学ぶ」、(その1) HP (2010年1月); HP (2010年1月) (E) ; (その2) HP (2010年3月); (その3) HP (2011年3月); (その4) HP (2012年3月)

[22] 「「中川 徹のミッション・ステートメント」 と その心」、HP (2010年1月); HP (2010年1月)

[23] 「レポートの作り方・書き方−内容の準備、構成、そして文章の心得−」、『大阪学院大学通信』 第41巻第7号 1-27頁 (2010年9月); HP (2010年10月)

[24] 「なるほどtheメソッド: 新しいTRIZ (第3〜6回)」 、『日経ものづくり』、(2005年5月号〜8月号); HP (2005年7月〜10月)

[25] 「技術革新のための創造的問題解決技法!! TRIZ」 (全22回)、『InterLab』、2006年1月号〜2007年10・11月合併号; HP (2006年1月〜2007年11月)

[26] 「USIT入門: 創造的な問題解決のやさしい方法」(全5回)、 『機械設計』、2007年 8月号〜12月号; HP (2007年7月〜12月)

[27] 「USIT の概要 (統合的構造化発明思考法)」、Ed Sickafus 著、川面恵司・越水重臣・中川徹 訳、HP (2004年10月)

[28] (最近のものは)「第6回 日本TRIZシンポジウム 2010 の紹介」 (詳細英文、概要和文)、HP (2010年10月〜2011年4月)

[29] 「USIT 2日間実践トレーニングセミナーのやり方 (やさしいTRIZの普及のために)」、HP (2005年 7月)

[30] 「忘れものを予防・防止するシステムの考案」、HP (2006年 2月); TRIZCON2006 (2006年4月); HP (2006年6月) (E)

[31] 「二人の子供を安全に乗せられる自転車」、須藤哲也・坂田寛・長谷川圭一・日野桂・加藤明・中川徹、 第4回TRIZシンポジウム、2008年9月; HP (2009年1月); TRIZCON2009、2009年3月; HP (2009年5月) (E)

[32] 「TRIZについての「公共Webサイトのグローバルなネットワーク」を作ろう: グローバルなTRIZコミュニティを構築するための提案(3)」、HP (2010年11月); HP (2010年11月)(E)

[33] 「第7回日本TRIZシンポジウム 2011 開催後の記事・資料の一式」、日本TRIZ協会のページ、HP (2011年9月); (2011年 9月)(E)

 

 

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最終更新日 : 2012. 3.30    連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp