TRIZ研究ノート(翻訳) 
TRIZとトータル製品開発:
   2000年に向けた最新状況
     Deborah Hoerner,  James F. Kowalick
     (Renaissance Leadership Institute) 
    1999年11月23日 (一部改訂12月 8日)

  訳: 中川 徹 (大阪学院大学, 1999.11.28, 12.11)
    [著者の許可を得て, 翻訳し, 本ページに掲載 1999.12.15]

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まえがき    "TRIZ Home Page in Japan"  への和訳掲載にあたって (中川 99.12.15)

 この記事は,著者 D. HoernerとDr. J. Kowalick から, 11月23日に電子メールで配布されてきたものである。編者はその記述の簡明さと説得力のある内容に共感し, 早速その翻訳と本ホームページへの掲載の許可を依頼した。12月 8日になって掲載の許可とともに, 一部推敲された原稿が届いた。本稿はこの改訂稿を翻訳したものである。TRIZのエッセンスの捉え方, 実証的・体験的に学ぶべきこと, トータルな製品開発の中でのTRIZの位置づけなど, 示唆に富む明快な解説である。日本企業がTRIZに取り組むに際して非常に参考になるものと思う。

  原題:   TRIZ and Total Product Development:  New Millenium Status Report
                  Deborah Hoerner and James F. Kowalick
                            (Renaissance Leadership Institute)
      [注: 原文はD. Hoernerが単独の著者で, J. F. Kowalickとのインタビューの形式をとっている。しかし, 本ホームページでは, 実質的に両名の共著であると判断し, 両名を著者として掲げた。また, 本件は本来著者らが数百の顧客/将来顧客に送付したものであるが, 本ホームページでは宣伝的な要素を無くすために, 研修セミナの募集に係わる著者らのまえがきを削除し, 本編者によるまえがきを掲載することについて, 著者らの了解を得た。]

  翻訳・掲載を許可された著者に深く感謝する。著者らは, 質問・意見などを電子メールで受け付けるとのことである。
    Deborah Hoerner and James F. Kowalick,
        Renaissance Leadership Institute (RLI), California, USA
    E-mail:  <headguru@oro.net>

  また, 著者らは編者の要請に応じて, オリジナルな英文記事を本ホームページの英文ページに掲載することを快く許可された。同時に, 本件の論旨をより具体的に示すものとして, Dr. Kowalickが主宰する研修プログラムの代表的なものを, 本ホームページの英文ページに掲載している。これらの記事は日本の読者だけでなく, 世界の読者にとっても有益なものと思っている。
 
 
本ページの先頭 本文の先頭 技術的矛盾, 矛盾解消, 発明の原理 実地適用による学習 TRIZのトータル製品開発 研修プログラム 英文ページ



序文

  いまや, TRIZやその他の最先端の工学的設計・開発ツールを, 企業が直面している最も困難な技術的問題や設計課題に対して, 迅速にかつ非常に巧く適用することが可能になっている。戦略的な主導権をもって, 企業は, いますぐに, 次世代の市場を支配する革新的製品を, 短期間で, ずっと少ない資源で, 開発することができる。本報告は, TRIZの有効性と, トータル製品開発におけるその重要性をまとめたものである。
 

簡単な歴史

TRIZ (発明型問題解決の理論) は旧ソ連で開発されたが, そこでは, それをトータルな製品開発プロセスに適用して, 十分に「テストする」ことができなかった。旧ソ連には自由な企業が存在しなかったし, 「トータル製品開発 (Total Product Development) 」プロセスが本当に適用されたことがなかった。 (旧ソ連では)  (TRIZの「事例」データベースが示すように) 比較的ローテクの小規模なTRIZの産業応用があったが, 多くの場合に, ソ連でのTRIZは主として「学術的な」探究であった。

  鉄のカーテンの崩壊から現在までの期間では, 西側世界のTRIZの企業応用は, まだなお「幼児期 (infancy stage)」から脱していない。これらの理由から, TRIZの力の十分な検証は, 米国においてまだその出現を待たねばならない。数社の米国企業 (Dr. Kowalickの顧客) は, TRIZをトータル製品開発プロセスに統合的に組み込み,ずっと優れた製品を実現している。驚くべきことに, これらの「トータル製品開発」例は, 迅速に, そして有意に低い企業資源経費でもって, 達成された。

その秘訣は, 「巧く働く製品開発ロードマップパッケージに, 最先端の設計・開発ツール群を効果的に組み込んだ」ことにある。明らかに,このパッケージの主要なツールの一つが, TRIZである。
 

TRIZのメリットと課題と実現法

TRIZは20世紀に作られた革命的な技術創造性アプローチであり, 新しい千年紀のための選択すべきアプローチである。これには,いくつかの理由がある。

1.  TRIZはうまく働く。

TRIZは, 最も困難な技術的・工学的問題 (「解決不可能な」問題や設計課題を含む) さえ解決するのに, うまく, 非常にうまく働く。専門技術者が, 典型的な工学問題にTRIZを適用して設計のブレークスルーを見つけ出す方法を, ただの数日間で学ぶことが可能になった。これを実現するには,TRIZツール群を「実証的に」教える方法を知り, 科学と技術の両方の深い専門知識を持つ熟練したインストラクタが必要である(英語を話すスキルが優れているべきことはいうまでもない)。

2.TRIZは構造化されたアプローチである。

TRIZは発明的で創造的な思考のための構造化されたアプローチである。世界の特許情報の深い解析から作られた観察に基づいている。チェスを上手になりたいと思う者ならだれでも,チェス名人たちのゲーム(その戦略と手筋)を学ばねばならない。同様に,TRIZを目指すものは,発明の「ゲーム」(その戦略,技術,およびツール)を学  ぶ必要がある。発明(すなわち「問題解決」)のプロセスを学ぶことは,世界の発明のコレクションを分析して,(a) どんな発明の原理が使われたかを, そして, (b) 発明過程の性質を, 見出すことを意味する。世界の偉大な発明家たちは, TRIZの戦略や原理を「意識的に」適用したことはなかったかもしれない。それでもなお, 「過去を顧みる」目によって, そのような戦略や原理が明瞭になる。

3.  TRIZは強力で利益になる予測能力を持つ。

TRIZを製品ファミリーに適用すると, 正確にかつかなり詳細な設計について, 次世 代製品の全体像を予測することができる。それらは普通なら数十年に渡って発見されないような製品である。TRIZ技術が基礎にしているのは, 技術システムが時代とともに進化するときの法則や技術的潮流である。この能力の一例として, Kowalick博士とその協力者Mueller 博士は, 製薬業のための予測アルゴリズムを開発した。このアルゴリ  ズムは, 次世代の, ブレークスルーの薬品分子の特性を迅速に正確に予測する。それは製薬業界が現在持っているもっと専用の予測ツールよりも, 優れている。

4.  TRIZには,もっと多くの強力なツールや技術がある。

TRIZのツール箱には, 大変困難な問題や設計課題に対して適用されてきた, 高度に有用なツール群や技術群であふれている。それらを列挙すると, 「理想最終解」概念, 矛盾解消, 物質- 場分析, 設計代替案アプローチ, 発明型問題解決のアルゴリズム, 発明演算子, 発明の原理, 発明効果, 機能コスト分析, 論理・因果フローダイアグラム,   その他多くの技術がある。TRIZツールの他に, もっと多くのツールをRLI は開発してきた。これらの中には,HTL ( 高水準思考法) とTriadsがある。HTL を習得した技術 齧蜑ニは, 問題解決を電光石火の速さで行い, 高水準の解決策を創り出すことができる BTriadsは, 技術機能や機能記述を考え・作業するための優れた方法である(S-フィー  ルド法より優れている) 。

1992年以来, James Kowalick博士は, TRIZの訓練およびその他の先端的ツール群の訓練を100 以上の企業顧客に対して行ってきた。高度に能率的な実証的訓練アプローチによって, 専門技術者たちは必要とするスキルを 3日間の実証的訓練セッションで (自分でやってみながら) 学ぶ。すなわち, TRIZとその他の最先端の創造性ツールを, 自分自身の最も困難な技術問題や設計課題に適用するのである。このような実践者向けの実証的アプローチのほかに,Kowalick博士はまた,  2日間のエグゼクティブ向け導入セッション (「ブレークスルー製品を創造する」) をカリフォルニア工科大学(カリフォルニア州パサデナ市)のエグゼクティブ・トレーニングセンタで教えている(カリフォルニア工科大学は,最近,USニュース&ワールドレポートにより,「アメリカのベストカレッジ」と認定された)。

必ずしもすべての企業がTRIZトレーニングを必要と考えるわけではない。企業によっては単に最終結果だけをほしいという場合がある。すなわち,「グローバルな市場を支配するような,次世代型ブレークスルー製品を迅速に開発すること」である。Kowalick博士はまた, 企業プロジェクトチームに協力して, かれらがこの目標を達成するように, エンジニアリングの設計・開発の 3段階を指導している。成果物はブレークスルー製品 (全く新しいものか, あるいは既存の製品をはるかに改良したもの) である。

本報告では, 以下にKowalick博士とのインタビューを記す。顧客企業やその技術専門家たちが, TRIZとその他の最先端のツールをいかにしてトータル製品開発プロセスに迅速にかつ成功裏に組み込むことができるか,そして, そのトータル製品開発をずっと「より安く, より速く, かつより良く」できるか, を論じている。
 

トータル製品開発の指導者( グルー) とのインタビュー

Deborah Hoerner (DH)  Kowalick博士, まずTRIZのことからお聞きします。TRIZのなにがそんなに優れているのですか?

技術的矛盾

James F. Kowalick 博士 (JFK)    現状では, 大部分の設計者や開発者は, 設計のトレードオフを行って問題を解決しています。その理由は, もっとも難しい設計問題には一つの共通の点があるからです。つまり, それらはすべて, 技術的矛盾を含んでいることです。

DH    技術的矛盾の一例をあげていただけますか?

JFK   たとえば, あなたがヒゲソリの会社で働いている設計者だとしましょう。あなたの仕事は, きちんとひげがそれるような使い捨てのヒゲソリシステムを考えて設計することです。一つの合理的なアプローチは, カミソリの刃の先をできるだけ鋭くすることです。あなたがこれを実行して, ついに, スーパーマーケットの棚に並んでいるどんなモデルよりも, はるかに性能良くひげを切ることができる, 使い捨てのカミソリを作ったとしましょう。しかし, そこには「ちょっとした問題」がありました。あなたのデザインは, 皮膚をも非常に良く切れることです!   これが矛盾です。あなたは「改良」 (  より鋭いカミソリの刃先) をして, 一つのこと (ひげを切ること) を達成しましたが, 他の別のことが前より悪くなった (鋭い刃先があなたの皮膚をも切ってしまう) のです  。

DH    それで, ... 設計者は刃を「あまり鋭くない」ようにして, 妥協するのですか?

JFK   そうです。設計者は, 「両方の世界のベストのもの」を得ることは不可能だと考えるように訓練されてきました。大抵の設計者は, なんらかのトレードオフがいつも必要であると信じています。かれらは, ジレンマを, ある一つのキー・パラメタが関わる矛盾であると考えています。

DH    その点をもっと説明してください。

JFK   カミソリの刃のケースでは, キー・パラメタは刃の「鋭さ」です。一面では, きちんとひげをそれるためには,刃は「非常に鋭い」ことが必要です。しかし, 他方では, 皮膚が決して切れないために, 刃は「非常に鈍い」ことが必要です。そこで, カミソリの刃の鋭さに関わるジレンマが起こっています。刃は, 非常に鋭くなければならず,また, 非常に鈍くなければなりません。どこか中間の鋭さを選択して「解決策」とすることが,設計者がもっとも普通に行うことです。これは, 実に, 鋭さの程度が関わるトレードオフなのです。
 
DH    あなたはヒゲソリの会社と仕事をしたのですか?

JFK   Dr. Gernot Muellerと私は, 2 年間, TRIZツールを使って, 使い捨てカミソリのヒゲソリシステムの分析をしました。いまや私たちは, そのようなシステムのコストを大幅に下げ, その性能をさらに良くできることを, 知りました。その研究の結果をもとに, ヒゲソリシステム産業に近く説明をする予定です。その成果は使い捨てのヒゲソリシステムの次世代のブレークスルーのデザインを含んでいます。

DH    すべての問題が矛盾を含んでいるのですか?

JFK   難しい問題や設計課題だけです。これらこそ解決するに値する高水準の問題です。もっと簡単な問題で, あまりチャレンジングでない問題は, たいていの技術者がすぐに速く解くことができます。ポイントは, TRIZが技術的対立をトレードオフも妥協もなしで解決することです。

DH    私が聞き間違えたのではないでしょうね。TRIZアプローチによれば, 設計者はトレードオフをしなくても解決策を見出せると, あなたは言うのですね。それが本当だとすると, 信じがたいようなことです。

JFK   本当です。TRIZのツールを適切に用いると, トレードオフのない設計解決策を得ることができます。そのような解決策は, 本当にブレークスルーをした設計であり, デザイナたちが「そのためなら死んでもよい」と思っているものです。

DH    どのようにしてTRIZはそんなことができるのですか?
 

発明の原理とその他の矛盾解決ツール群

JFK   最も難しい問題や設計課題は,一つあるいは複数の「矛盾解決」技術を使って解決されるのです。例えば, 大部分の本当に偉大な発明や設計解決策の背後には,40の発明の原理があります。適切な発明の原理が適用されると,存在していた矛盾が解決するのです。発明の原理の他にも, 同様にうまく使える, いくつかの他の矛盾解決ツールがあります。

DH   「発明の原理」の一例を挙げていただけますか?

JFK   そうですね, 例えば, 「局所的品質」原理と呼ばれるものがあり,一つの製品の異なる場所は, それぞれの場所が担っている機能を実現するよう局所的に最適化した設計をすべきだと言っています。この原理は, その製品が設計上目指していることに関して, 設計者が「その分野のエキスパート」であることを要求しています。

DH    それでは, ある技術的矛盾があって, その技術的矛盾に対する解決策が「局所的品質」原理であったとすると, そのことを設計者はどのようにして知るのですか?

JFK   各々の矛盾に対して適切な発明原理を示唆するように, TRIZアプローチは設計されています。この場合には局所品質原理を適用するように, 設計者に「プロンプト」が送られるのです。

DH    TRIZがある程度の人工知能を持っているように聞こえますね。

JFK   その通りです。その知能は世界の特許のコレクションから来たものです。その一方で, 設計者は, ある種の問題解決手順に従う方法を学ばなければなりません。

DH   TRIZがどうしてそれほど優れているのかが, 私にも分かりはじめてきました。あなたはさきほど, 「矛盾解決」ツール群のことを言われましたね。まだ他にもTRIZツール群や技術群があるのですか?

JFK   他に数件あります。問題や設計課題にはいろいろなタイプがありますから, その問題や課題の広いスペクトルに対して効果的に対応するツール群や技術群が必要になるのです。本当に, 「不可能な問題」は無いほどです。 

TRIZを実際の設計課題に適用することによる迅速な学習

DH    それは大層な言い方ですね。技術の専門家が, TRIZを本当に難しい問題や設計課題に適用する方法を学ぶには,どうすればよいのですか?

JFK   私は「やりながら学ぶ」こと, 実証的 (体験的) な訓練, を信じています。その意味は,私のTRIZ研修の参加者たちは,適切な問題や設計課題を考察して,予め選択しておくことうが要求されます。彼らはそれらを訓練に持ち込みます。セッション中に, それらの問題を (しばしばチームで) やってみます。そして, 訓練中に設計解決策を見出すのです。ときには,訓練からしばらくして, かれらは特許を申請します。

DH    「実証的訓練」というアイデアはどこから来たのですか? あなたはいつそれに出会われたのですか?

JFK   1980年代後半のことですが, 私は, 経営者のための一つの日本のコースに参加しました。それは「管理者養成学校」 (英訳すると「経営ひらめき学校」) という日本の会社が開いたものです。これは13日間のカンヅメのコースでした。日本では富士山の近くのいろいろな場所でいまでもまだ開かれているかもしれません。そのコースでは, 実  証的 (体験的) 研修という技術を使っていました。これが実証的訓練 (「することで学ぶ」) の非常に高度なものを私が経験した最初です。

DH    それで, 参加者が訓練セッションに持ち込む「適当な問題や設計課題」を選ばないといけないと言われたのは, どういう意味ですか? 「易しい」問題や「易しい」課題という意味ですか?

JFK   まったく違います。技術の専門家たちがTRIZ訓練セッションに持ち込む問題や設計課題は, もしそれらが解決されれば, その設計解決策がかれらの会社に大きな利益をもたらすだろうという観点から, 選択されるのです。
 

設計チームメンバにはなにが要求されるか?

DH   うま過ぎて信じがたいほどに聞こえます。セッションで設計課題の問題を解こうとする設計チームが成功するのに限界がありますか?

JFK   もちろん限界があります。いくつかを挙げてみましょう。第一に, もし, 問題が特定して定義されていなければ, すぐに解決策を得ることはできません。曖昧に指定された問題は, たとえ得られたとしても, 曖昧な結果に終わります。問題解決ツール群を適用できるためには, その前に問題がはっきりと (specificに) 定義されていなければなりません。第二に, 解決しようとする技術システムについて, 設計者あるいは設計チームが, その分野のある程度の専門知識をもっていなければなりません。第三に, 問題が「広がりすぎる (open ended) 」のはうまくいきません。「広がりすぎる」というのは,例えば, 「もっと良い車を作ろう」などという問題設定のことを言っています。もっと良い車を作ることはいつでも可能ですが, そのような問題設定はあまりにも一般的すぎるのです。設計チームは, そのような設定よりも, もっとよく定義された出発点を持たなければなりません。

DH    お聞きしていますと, 問題の記述, 問題の分析, 問題の定式化, 問題の定義などが, 解決段階に入るより以前に, すべて非常に重要であるということですね?

JFK  その通りです。それらの予備的ステップが大変大事です。幸いなことに, TRIZのアプローチの大きな部分が, そのような段階に向けられています。
 

得られるもの

DH    TRIZだけで数冊の本を書くことができそうですね。でももう少し先に話を進めましょう。TRIZアプローチを学習して得られる主要なものは, 新しい, 改良された, ブレークスルー設計であると, 私は理解しましたが, それでいいですか?

JFK   たしかに私たちはブレークスルー設計 (新しい設計と改良された設計の両方) を望んでいます。しかし, それ以上に, 得られる成果のもう一つの大きなものは, 設計者や技術専門家が考えるときの考え方そのものです。TRIZは, いくつかのものを変革します。問題を解決するのに考える考え方, 発明をするしかた, 新しいブレークスルー設計を創り出すしかた, などを変革します。

DH    もう少しその点を説明していただけませんか? TRIZを本当によく学習したあとでは, 技術者や科学者やその他の技術専門家たちは,どのように違った考え方をするのでしょうか? その他にもまた, 変わることがあるのでしょうか?

JFK   解決策を考えるのに, ブレーンストーミングに頼ろうとしなくなります。解決策を見つけるのに, そのような (大変非生産的な) 「試行錯誤」アプローチを使う必要がなくなるでしょう。かれらは, 「理想の設計解決策」にその視点を据えるでしょう。問題を (適切な解決策を持っている) 対立・矛盾の観点から見るようになるでしょう。もっと抽象的に考えることを学び, もっと「類推思考」を使うようになるでしょう。要するに, 少なくとも一桁以上, より創造的になることは必定です。その他の変化についていえば, かれらは, 問題を解決して, 設計課題に答えるのに, いままでよりずっと迅速になるでしょう。また, かれらの設計解決策の「レベル」は, いままでよりずっと高くなるでしょう。

TRIZのトータル製品開発

DH    非常にすばらしいことですね。それで, TRIZの次の段階はなにですか? 創造的思考は, 「トータル製品開発」プロセスの諸段階の中の一つでしたね?

JFK   TRIZを適用して得られるものの一つが, 概念設計 (concept design) です。 それは, まったく新しい次世代製品 (またはプロセス) かもしれませんし, 有意に改善された製品 (またはプロセス) かもしれません。当然のことで, 設計者は動く試作品を作り, その性能を検証することを望むでしょう。しかし, 全く新しいコンセプトが欠点なく働くことなど, 文字通り, ありえません。実験室の机上と実世界では, パフォーマンスに非常に大きい違いがあります。新しい概念設計は, 製造時に遭遇するさまざまの変動, ユーザの振る舞いの変動, 環境の変化による変動などのあらゆる試行条件のもとで, 実世界で動くようにしなければなりません。

DH   もちろんそうですね。製品を実験室のベンチから「フィールド」に持ってくることは, いつも大きな挑戦です。それをするのに, テスト, 修正, テスト,...を繰り返す通常の方法よりも良い方法がありますか?

JFK   答えはYES です。より良い方法は, ロバスト設計 (robust design,  頑健設計) と呼ばれており, 田口玄一博士によって開発されたものです。ロバスト設計は実験的な方法で, 新しい/ 改良された製品 (またはプロセス) の性能とコストの両方を, 迅速に, そして比較的低い資源消費で, 最適化します。TRIZによる「概念設計」段階の後に, 「ロバスト設計」段階が自然に来ます。

DH    ロバストな製品が有利な主要な点はなにですか?

JFK   技術者や設計者は, 概念から設計仕様や製造にすぐに跳んで行こうとするのが通常です。これは, 製品の品質の欠如をはじめとして, 多くの点で高価につく誤りです。他方, ロバストな製品は, そのパフォーマンスが (1)いつも目標に達しており, (2) いかなる種類の変動 (製造時の変動, 環境による変動, そして使用時の変動) に対しても左右されにくいのです。

DH   なにか魔法のように聞こえますね。しかし, 私はロバストな製品を実際に体験したことがありますし, 製品間にはロバストさに違いがあることを知っています。いくつかの車は, 操縦システムの信頼性が低いから, 私は運転したくないと思っています。いくつかの車をテスト運転したときに, それに気がつきました。コンピュータの間でも, ロバストさの違いは明瞭です。だから, ロバストさの違いはすべてのタイプの製品で存在するだろうと思っています。

JFK   その通りです。そして, ロバストな製品が市場で勝ち残るのです。それらは開発費用がより安く, 製造者にも顧客にも問題になることがより少ないのです。それらこそ本当の勝利者です。

DH    どうしてもっと多くの会社がロバストな製品を生産しないのですか?

JFK   彼らはなにが可能なのかを本当に知らないからです。また, かれらの専門スタッフたちが, 製品開発の全過程で, 同じ古いツール群とアプローチ群を使うことにあまりにも慣れてしまって, 従来の設計習慣から逃げ出せなくなっているのです。ご承知のように, 古い習慣を変えることは大変難しいことです。新しい習慣がより優れている場合でもそうです。

DH    よく分かります。そうすると, あなたはいままでに, 工学設計について二つの重要な段階を話されましたね。「概念設計」と「ロバスト設計」です。以前あなたは工学設計の第三の段階は「トレランス設計」であると言われましたね。その段階ではどうするのですか?

JFK   「ロバスト設計」段階が出来上がった後では,設計者たちは, なにが製品のクリティカルなパラメタであるかを知り, それらのパラメタの目標値を知っています。かれらはまた, これらのパラメタのうちのどれがより重要 (クリティカル) で, とれがそれほどでないかの, センスを獲得しているでしょう。パラメタのクリティカルな程度はその許容幅 (トレランス) を示します。目標値からの差異の許容される程度のことです。

「トレランス設計」では, これらのクリティカルなパラメタ群についてトレードオフの決定をします。もし, トレランスが厳しすぎると, コストは跳ね上がります。もし, トレランスが緩すぎると, 品質が落ち, 会社も顧客も品質劣化を経験すことになります。そこで, 「妥協点の」トレランスが選択され, 全体のコストが最小化されるのです。

DH    「トレランス設計」というのは, トレランスに関してよい工学的判断をすると言うのと同じことですか?

JFK   いえ, 違います。ただ幸いにも, 設計者がトレランス決定をするのを助ける良い設計ツール群があります。そのようなツールの世界レベルのものの一つが, 「損失関数Loss Function)」と呼ばれています。「損失関数」を用いて, 「会社とその顧客が経験するだろう損失の全体」に基づいて, トレランスが選択・決定されます。この損失ベースのプロシジャは, 製造コスト (検査やSPC などのコストを含む) と, 製品が工場  出てから後の, 製品性能の乏しさから来る品質損失との両方を, 考慮したものです。

DH    このトレランス設計プロシジャは, 現在普通に使われているものとは違っているようですね。ふつうは, 技術者は, 経験に依ったり, 工学ハンドブックから苦労して得た情報に依ったり, 性能の観点からの「動きそうだ」というセンスに依ったりして, トレランスを選択していますから。

JFK   トレランス設計は違います。クリティカルなパラメタの最適のトレランスを同定するときの「帳尻 (bottom line,  最終判断基準) 」はコスト -- コストだけなのです。設計者がそのような決定をできるのは, 損失関数から得られる情報に依るのです。

DH    設計の三つの段階が完了すると, その次はなにですか?

JFK   新しいあるいは改良された製品が生産され, 予期していたような顧客が購入します。もし, 設計者がTRIZとロバスト設計とトレランス設計をいままで議論しましたようにうまく使ったとしますと, その新/ 改良製品は価格競争力が強く, 競合製品よりも優れた性能を示します。つまり, 世界市場の真の勝者になるのです。

DH    Kowalick博士, ありがとうございました。


企業内研修プログラム:  企業内設計生成& 問題解決 セッション (3日間)

                                                                 英文ページ参照


               
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最終更新日 : 1999.12.15    連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp