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研究活動

第二回シカゴ大学調査          期間:2015年5月11日〜5月15日



今回のシカゴ大学オリエント博物館での調査は最初から異例続きであった。

もともと、珪藻を使った粘土板研究は大英博物館(BM)の収蔵品で研究を始めてきた。2008年の金属顕微鏡による 珪藻の発見の後、2012年の粘土板からの試料採取と電子顕微鏡観察と進めてきた。しかし、BM粘土板からの試料で は、3種類の僅かな個体しか見つからず、2009年のエール大学では最終的に珪藻の出現を確定出来なかった。

数十mgの極微量のサンプルにごく僅かに含まれる珪藻の処理や観察には、技術的な困難があり、まずは、より多量 の試料を用いた技術開発が必要と考えられた。比較的大量に出土する経済文書の粘土板といえども、文化財として博 物館に登録されたものについて、より多い試料での破壊分析を行う事は容易ではなく、同時代の粘土板文書以外の粘 土製品の利用を検討してきた。

その中でより多くの試料採取が可能な粘土製品の対象として、日干し煉瓦と粘土製「ブッラ(封泥)」(ひもの結 び目や壺の口などを覆って封をした粘土塊)を考えており、今回、シカゴ大学オリエント博物館では博物館に収蔵さ れるブッラ・コレクションについて調査を行った。

ところが、調査の日程をフィックスし、採取のための許可申請をしたところ、訪問の直前に不許可の連絡が来た。 その理由としては、1.同館の収蔵品の多くは火を通していること、2.BM試料で成功していないこと、が挙げられ た。しかし、非破壊で顕微鏡観察することについては了解が得られたため、訪問することにした。

実際に収蔵されていたブッラを見てまた驚いた。粘土の塊として、大きな多数の欠片が入った物を想定していた が、ほとんどの収蔵品は印章が押された部分のみで、しかも小さく、どう考えても試料を採集するのは難しそうであ った。また、顕微鏡で観察しても、珪藻は見つからず、ほとんど全てが焼成されたもののようであった。

科学的な分析を考えると、行方が分からない、印章を押されていない部分のブッラの破片の調査を行いたいが、そ れは発掘に関係しないと難しいのかもしれない。

シカゴ大学は街の中心から10q以上離れたハイドパークに位置しており、治安がよくない場所らしく、キャンパス の至る所に昼夜を問わず警備員が配置されている。個人的には、シカゴ大学周辺の物価の高さに驚いた。これほど大 きな大学があるところだけにホテルも多いのかと思ったら、やや離れた場所に超高級ホテルがあるだけだという。そのため大学直営の施設であるQuadrangle Clubに宿泊した。大学の宿泊施設とはいえ、私が今まで泊まった中でもっとも高く、学内や大学周辺での食事も高くて、北欧の有名な都市よりもさらに高いのではないかという印象を受けた。 他に選択肢がないため仕方なかったが、今さらながら円安を恨めしく思ったことだった。
 (辻 彰洋)