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研究活動

10th ICAANEに参加して           期間:2016年4月25日〜4月29日



2016年4月25日から29日の5日間、伝統あるウィーンのオーストリア科学アカ デミー(写真1)で開催された第10回ICAANE会議に参加し、研究代表者の大阪 学院大学の渡辺千香子准教授、研究分担者の国立科学博物館の辻彰洋博士とと もに、“Ancient Near Eastern Environments: Shifts, Impacts & Adaptations”のセッションで“Biological investigation of clay tablets in the context of palaeo-environment”についての共同発表を行った。学会初日の 発表であったので、前日の24日には渡辺先生のウィーンのご自宅に招いていた だき、3人で顔をつきあわせて夜中まで発表原稿をpolish upして臨むことにな った。これまで行ってきた粘土板胎土に含まれる微化石と胎土の物質科学的記 載の報告を行ったが、目新しいところもあったらしく、聴衆の反応はまずまず であったと思う。ご主人まで煩わせて、深夜まで発表の練習を聴いていただい た甲斐があったというものである。

さて、今回のICAANE会議は六百余名の参加者を数えたものの、8つのセクシ ョンに分かれた口頭発表セッション、6つのテーマに分かれたポスターセッシ ョン、28のワークショップが、向かい合った2棟の建物の中で行われたので、 比較的こぢんまりとした雰囲気であった。顔見知り同士の参加者も多いが、少 しずつ専門分野が異なる、あるいは毛色の異なった分野からの参加もある、大 きすぎず小さすぎず、専門性の高い分野の濃密な情報交換には理想的な大きさ の会議であった。アジア諸国の中では日本人のプレゼンスが圧倒的であり、こ の点私が専門とする地球科学の学会(最近中国の貢献度が非常に大きくなっている)とはだいぶ雰囲気が違っていたの が印象的であった。

口頭発表やポスターのセッションでは、大きなくくりの中でさまざまな研究発表があり、概要をつかむのにとても良 かったと思う。一方、それぞれのワークショップではテーマを絞って、より専門的な議論が行われた。我々も27日に行 われたAncient Lagashに関するワークショップに参加し、ヨーロッパの研究者の研究の動向を取材することができた。 メソポタミアの河道や運河の変遷と都市文明の消長が注目されている1つのテー マになっていることを確認し、私の専門とする地球科学が果たすことができる 役割についても認識を新たにした。日本から参加した考古学者の諸先生とも面 識を得ることができ、私としては実りの多い学会であった。  ICAANEと平行して、渡辺先生の主催する科研費研究(イラク環境史)のプロ ジェクト・ミーティングが28日にショッテン教会のベネディクトゥスハウス( 写真2)において開催された。渡辺先生と旧知のウィーン大学のゲッパート・ゼ ルツ教授、大英博物館のセバスチャン・レイ博士、ストーニー・ブルック大学 のステファニー・ロスト博士、ロンドン 大学のマーク・アルタウィール博士らも 臨席した(写真3)。また、ダーラム大 学のジャーファー・ジョゼリ博士はスカ イプで研究発表を行い、議論に参加した。アクティブな中堅の研究者と大御所 の取り合わせが絶妙であって、活発な意見の交換が行われたのが、とても良か ったと思う。これまでの知見や他の研究グループの動向をまとめつつ、来年度 の研究ターゲットを絞り込む具体的な作業までできたことは大きな成果であっ た。小さな研究会は、得てして議論が停滞したり、議論の拡がりに欠いたり、 悪くすると険悪なことにもなりかねないものであるが、とても良い雰囲気の中 で、建設的な議論に終始したのは、招集 者の渡辺先生の人徳によるものだと思う。26日にはプロジェクト・ミーティング 参加者との会食も行ったが、事前にワンクッション置いたことも、研究会のスム ーズな進行に役だったと思う。

ICAANE会議とプロジェクト・ミーティングの旅費は研究代表者の渡辺千香子准 教授の二国間共同研究(OP)から出していただいた。発表をしたご褒美にウィー ン楽友協会(写真4)のピアノコンサートにお供させて頂いた。とても贅沢な空 間で、マルタ・アルゲリッチとダニエル・バレンボイムという現代最高峰の二人 のピアニストの共演を楽しむことができたのは、まったく一生の思い出に残るこ とであった(家族からは“猫に小判、豚に真珠”と評された)。とても充実した一 週間となったことにも感謝したい。  (安間 了)