[EcInfCom]   New | Contents | Home | OGU Home


放送衛星4号(BS−4)後発機に係る制度整備について

電波監理審議会への意見表明

平成10年4月6日

鬼木 甫

大阪学院大学経済学部教授

大阪大学名誉教授

目次


I.まえがき

 A.本意見表明の趣旨

II.ディジタル放送が放送制度にもたらすインパクト

 A.放送サービスの質的・量的拡大の可能性

 B.「競争環境」の必要

 C.委託・受託放送業務の分離(インフラとコンテンツの分離、上下分離)

III.放送インフラ供給事業(受託放送事業)における規制と競争

 A.衛星軌道・周波数などの公的資源の価値

 B.衛星軌道上スペース・周波数資源などの営利目的事業への供用方式

 C.今回BS−4後発機に係る制度における問題点

 D.長期的に望ましい措置

IV.コンテンツ供給事業(委託放送事業)への競争導入

 A.望ましい委託放送事業制度

 B.今回BS−4後発機に係る制度における問題点

 C.委託放送事業者による周波数の使用法について

 D.コンテンツ供給に関する公的施策について

 E.「視聴料一律徴収」方式について

V.当面の提案

参照文献


 

放送衛星4号(BS−4)後発機に係る制度整備について


電波監理審議会への意見表明

平成10年4月6日

鬼木 甫

大阪学院大学経済学部教授

大阪大学名誉教授


I.まえがき


A.本意見表明の趣旨

 今回の放送衛星4号(BS−4)後発機に係る制度整備は、最近のディジタル放送技術に基づくものである。同放送技術は現在急速に進歩しつつあり、今後数年間において、放送サービス内容だけでなく、放送産業のあり方にも大きな変革をもたらすと予想される。現在は変革期の入口であるから、将来の可能性を正確に見通すことは困難である。しかしながら、放送制度の整備にあたっては、長期的な観点からディジタル放送技術の成果を最大限に活用し、視聴者に最大の便益をもたらすための配慮が必要である。以下においては、このような観点から望ましい「ディジタル放送制度」について意見を述べ(II、III、IV節)、また、その実現のために当面考慮されるべき政策を列挙する(V節)。

 なお、本意見表明者は、大学において情報通信分野の経済分析に従事しており、放送事業面における直接の利害関係は持っていない。しかし、放送の一視聴者としての利害は有している。本意見は、主として視聴者側の利害を念頭におき、専門分野の研究者としての立場から表明するものである。


II.ディジタル放送が放送制度にもたらすインパクト


A.放送サービスの質的・量的拡大の可能性

 ディジタル放送技術は、放送サービスを量的に増大させ、また質的にも高度化させる可能性をもたらしている。第一に、それは、放送に必要な周波数幅を従来と比較して数分の1に縮小し、新しい周波数帯の利用と相伴って、放送可能チャンネル数を従来の数倍〜数十倍に増大させた。第二に、同技術は、放送情報のディジタル化によって、同情報とその提供方式の自由な加工・制御を可能にし、放送サービスを従来とは比較にならないほど豊かにする可能性をもたらした。このような質的・量的の両側面における可能性の大幅拡大は、それだけでも従来の放送制度にインパクトを与えずにはおかない。

 さらに、これに加え、近い将来の放送事業は、関連・隣接する情報通信分野のディジタル化等からも影響を受ける。まず、放送媒体として、衛星放送・地上放送に加え、ケーブルテレビ、光ファイバーとATM通信、広帯域無線アクセス(LMDS)、(次世代)インターネットなどが競合することになる。また、放送情報すなわち「放送メディアによって一般に伝達される情報」についても、従来の狭い意味での放送番組だけでなく、ディジタル技術を駆使して作成・提供される多様なコンテンツ情報が、「放送あるいは放送に隣接するメディア」を求めて押し寄せることになる。


B.「競争環境」の必要

 上記のような大きな変革に際して、放送事業の発展と視聴者便益の増大のためにまず必要とされるのは、放送制度への「開かれた競争環境」の導入であろう。個別事業者の創意工夫と利益追求を通じて競争環境がもたらす利益については、現在では広く合意されている。

 従来の放送は、チャンネル数が制約されていたこと、放送技術の進歩が緩やかであったことなどから、「管理され、閉ざされた事業環境」に留まっていた。少数の放送事業者が、限定された範囲内で「その限りでは激烈に」競争していたが、外部からの新規事業者の参入は、長期間にわたり皆無に近かった。その結果、放送サービスの構成要因の一部について進歩が実現した(たとえばコマーシャルの「アピール力」)が、一部については停滞状況が続いた(たとえば番組種別の多様性の欠如)。

 ディジタル放送技術によって開かれた新しい可能性の下で、従来の放送制度の役割が終っていることは明らかであろう。ディジタル放送技術の可能性を実現するためには、少なくとも長期的に、「開かれた競争環境」が必要である。そのための要件は、外部からの新規参入の途を開き、新規事業者と既存事業者の双方に創意工夫と効率化、すなわち、視聴者が望む放送情報を供給するインセンティブを与えることである。そのためには、参入制限その他の制約を取り払うことが望ましい。

 しかしもちろん、放送事業を「完全に自由化」することはできない。第一に、放送事業は、「電波、衛星軌道、光ファイバー・同軸ケーブル用スペース」などの「公共資源」を必要とする。第二に、放送事業では、(競争導入の副産物として生ずる)地域格差を極力縮小し、放送をあまねく普及させること(ユニバーサル・サービス)が要請される。第三に、政治・文化・教育・青少年保護、あるいは集中排除などの理由から、放送情報の一部について、これを利潤動機からの供給だけに任せず、公的サポートあるいは規制の下に供給することが要請される。したがって、ディジタル放送技術の成果を最大限に発揮させるための競争導入と、上記諸理由による公的措置を両立させるための工夫が必要になる。言い換えれば、望ましい放送制度は、競争による自由の保障と、規制等による自由の制限を、それぞれの事項の特色に応じて適切に組み合わせることによって実現される。


C.委託・受託放送業務の分離(インフラとコンテンツの分離、上下分離)

 放送事業において競争と規制という相反する要求を適切に実現するための第一の措置は、放送事業の「上下分離」、すなわちインフラ・サービス供給事業とコンテンツ(放送情報)供給事業の分離である。基本的な理由は、この両者の間で、適切な競争と規制の態様がまったく異なっているからである。

 まず、放送インフラの供給については、公的規制が適用されるべき事項が多い。衛星軌道の使用、周波数の使用、インフラ供給における独占要因のコントロール、ユニバーサル・サービスの実現などがそれである。他方、コンテンツ供給の分野では、大部分競争原理が有効に働く。視聴者が望む優れたコンテンツは、競争環境にある個人・個別事業者の創意工夫から生まれるからである。公的サポート・規制が必要なコンテンツ供給は、全体の中のごく一部にすぎない。

 上記のような観点からすれば、CS放送、BS−4後発機による放送について採用された受託・委託放送事業の分離は、まことに適切な方策であった。今後において、この上下分離の方策を、地上波放送・ケーブルテレビや、光ファイバー・ATM、広帯域無線アクセスなど、放送・通信に共通する分野について推進することが望ましい。放送分野においては、従来から「ハード・ソフトの一体化原則」が採用されてきたので、その逆である「上下分離」の実現には、多くの困難が伴うであろう。ここで上下分離の実現方式としては、組織自体を分離する「構造分離」が最も望ましいが、当面の措置として「会計分離」も考えられる。構造分離が実現していない場合でも、会計分離と「サービス・アンバンドリング、内外無差別の原則」が機能していれば、原理的に上下分離の効果は達成される。実際には、会計経理面の上下分離でさえも、早急な導入は困難であろうから、年次計画等による逐次導入策が考慮されるべきであろう。

 もし、上下分離が会計的にも実現されず、従来のような「上下一体型」の放送事業が継続する場合には、以下に述べるような問題が生ずる。すでに述べたように、放送情報伝達のためのインフラとしては、衛星・地上波・ケーブルテレビ、光ファイバー・ATM、広帯域無線アクセスなどの手段と、それらの組み合わせを含め、多数の可能性がある。それらのうちのどのインフラ(とその組合せ)が長期的に最も適切な放送情報の伝達手段になるかは、現在のところ分からない。それは、技術進歩、コスト、需要など、多数の不確定要因に依存する。したがって、放送情報伝達に適する手段を実現させ、視聴者の便益を最大化するためには、市場における「インフラ間競争」に依る他はない。そして、そのようなインフラ間競争は、コンテンツ事業者に、目的とする情報伝達に最も適する手段を選ぶことを保障することから実現される。もし、インフラ事業とコンテンツ事業が同一事業者で一体化されていれば、そのような事業体内で供給されるコンテンツについて、同事業体のインフラが優先的に使用されることになり、インフラ間競争が阻害される。

 他方、放送情報の進歩のためには、「コンテンツ間競争」が必須である。しかしながら、放送事業が上下一体化されている場合には、コンテンツ間の「公正競争」が担保されず、視聴者の便益が損なわれることになる。ここで、(公的要因を含む)インフラ保有から生じる利潤相当分によるコンテンツ供給への内部補助がある場合には、視聴者が良質のコンテンツを享受しているように見えるかもしれない。しかし、それは視聴者による放送インフラへの高額支払の結果であり、視聴者の便益全体の増大にはなっていない。またそれは、上下一体化された事業体外からの良質コンテントの供給動機を阻害する。結局のところ、内部補助は、全体としての視聴者の便益を損ずるのである。このような上下一体化の不合理は、たとえば、道路事業者とバス・トラック事業者が一体化されている場合、書物の著者と出版社と書店が一体化されている場合などを想像すれば明らかであろう。


III.放送インフラ供給事業(受託放送事業)における規制と競争


A.衛星軌道・周波数などの公的資源の価値

 いうまでもなく、衛星軌道や周波数などは、土地と類似した「自然資源・スペース」である。その供給量には制約があるが、石油や鉱物などの自然資源と異なり、使用によって減少することはない。この種の「スペース」から生ずるサービスの質は、同「スペース」の規模・所在や、利用技術水準に依存する。またその経済価値は、同サービスに対する需要との関連で決まり、(丸の内や銀座の土地のように)高い価値を生ずることもあれば、ゼロに近い価値しか生じないこともある。土地に対する「地代」と同じく、衛星軌道上スペースや周波数帯に生ずる経済価値を、「(準)レント」と呼ぶ。

 もし、ある特定の衛星軌道上スペースや特定の周波数について(需要を超える十分な供給があるなどの理由で)レントがゼロに近ければ、放送事業における問題は生じない。問題が生ずるのは、それらの実質的な「レント」が高い場合である。

 衛星軌道上スペースや周波数について相当額の「レント」が存在するにもかかわらず、営利目的の事業体が軌道上スペースや周波数を実質上「無料」で使用し、そこから利益を上げている場合には、レント相当分の金額がその事業体に「贈与」されることになる。(丸の内や銀座の国有地をデパートや商店に無料で使用させる場合と同じである。)「レント」が高額の場合には、社会正義に反する結果を生ずる。


B.衛星軌道上スペース・周波数資源などの営利目的事業への供用方式

 上記のような社会正義に反する結果を避けるためには、2種類の方式が考えられる。第一は、「米国方式」で、「公的資源」を民間事業者に一挙に「売却」して私有化し、放送インフラ供給について公的規制を撤廃する方式である。米国では、1993年に通信法を改正し、直接放送衛星(DBS)や、PCS移動電話用の周波数資源についてこの方式を実施した。さらに1997年夏の通信法改正によって、放送用周波数(の一部)を含む広い範囲の周波数資源が「入札売却(オークション)」されることになっている。

 これに対し、第二の方式では、衛星軌道スペースや周波数の「所有権」は公有のままに留め、その「使用料(レント)」を事業者から徴収するのである。使用料の「適正水準」は、需給均衡水準、すなわち、その水準で公的資源の需要と供給が一致する水準である。その決定は、「リース・オークション」に依ることも可能であるし、また、公的機関等が周波数やチャンネル・サービスの需給状態を勘案しながら定めることも可能である。


C.今回BS−4後発機に係る制度における問題点

 今回提案されている制度においては、衛星軌道上スペースや使用周波数について、レントに相当する「使用料」を徴収するための措置が取られていない。(電波法103条および103条の2において、電波使用免許の手数料と電波利用料の徴収が定められているが、これらはいずれも事務処理実費に相当する管理費の徴収であって、周波数資源の稀少性から生ずるレントを含んでいない。また、衛星軌道上スペースについては、利用料は徴収されていない。)

 他方、今回提案されている放送法の一部改正案においては、「受託放送事業者が、委託放送事業者から徴収するトランスポンダの使用料を自由に定めることができるように改める(規制緩和)」とされている。この措置と上記との結果として、受託放送事業者は、上記レント相当分の金額をそのまま手中に収めることが可能になり、社会正義に反する事態が生ずるおそれがあると判断される。今回提案されている制度を実施する場合には、別に何らかの規定を設け、受託放送事業者から国庫等への超過利潤の還元が必要と考える。


D.長期的に望ましい措置

 長期的には、衛星軌道上スペース、電波周波数に加え、通信事業者が使用する通信回線設置スペース等の公的資源について、適正な「レント」を徴収するための措置が必要である。これは、公的資源の供給に「市場原理」を導入することを意味する。すなわち、受託放送事業について、公的資源を最も効率的に使用できる事業者に事業を担当させるのである。

 これらの公的資源の使用については、警察・消防のように、無料使用が必ずしも社会正義に反しない場合、また、需要と供給の関係如何によっては、営利目的事業についても、レントの実質金額がゼロに近い水準に落ちつく場合も併存するので、誤解や錯覚を生じ易い。しかし、「営利目的事業」については、公的資源の無料使用を認めることなく、レント相当分を徴収し国庫に納入させることが必要である。そのためには、電波法103条の2における電波利用料の項目として、「周波数の稀少性から生ずる経済価値(レント)」を加えることが考えられる。


IV.コンテンツ供給事業(委託放送事業)への競争導入


A.望ましい委託放送事業制度

 コンテンツ作成・供給事業は、市場メカニズム下の自由競争に適している。したがって、委託放送事業者については、自由な参入・退出に加え、それぞれが選択する放送メディアのチャンネル使用権の購入を認めることが望ましい。有料放送方式であっても、コマーシャル放送方式であっても、それぞれの委託放送事業者は、視聴者が求める放送番組を供給することによって、最大利益を上げることを目指すからである。もし、受託放送事業についても競争環境が成立していれば、両者間の契約は原則自由とするべきであろう。他方、受託放送事業が(独占力行使に対するセーフガードなどの)公的規制下にある場合には、「規制範囲内での自由」な契約が認められるべきであろう。


B.今回BS−4後発機に係る制度における問題点

 上記の観点からすれば、今回提案の制度で委託放送事業者について「チャンネルごとの免許方式」が採用され、市場原理が排除されている点が問題であると考える。チャンネル使用料(トランスポンダ使用料)は受託放送事業者によって設定されるので、委託放送事業者はこれを受け入れる他はない。

 他方、同一チャンネルについて複数の委託放送事業免許が申請された場合の選択規準は、「HDTV番組の供給意欲・能力等」にあるとされているようであるが、詳細は不明である。実際問題として、HDTVと通常のSDTVをどのように組み合わせて供給するべきかは、視聴者の選択を考えた上で委託放送事業者が決定するべき事項であり、規制当局があらかじめ特定の方針を免許条件として採用することは望ましくない。それは、たとえば、出版業で、「書物はグラビア印刷などの高級・大型版として刊行するべきである」という方針を適用することに類似する。HDTVなどのすぐれた放送方式を開発する意義はもちろん認められるが、その採否は、コストを勘案した上で視聴者がおこなうべきことである。

 実際、そのようにして採用した方針が、もし視聴者の好みの大勢に反していれば、さまざまな矛盾・困難を生ずることになる。たとえば、HDTVを他よりも長時間供給すると「約束」して免許を獲得した事業者が十分な利益を上げることができず、事業から退出してしまうかもしれない。免許規準として、HDTV番組の供給でなく、他の規準を選んでも同様である。つまり、視聴者が複数のチャンネルから選択する自由を持っている以上、委託放送事業者の「選択」も「市場原理」に依る他はない。視聴者によって最も好まれる事業者、すなわち最多額の収入を実現できる事業者、すなわち最多額のチャンネル使用料を支払うことができる事業者に、チャンネル使用権を与える他はないのである。

 委託放送事業について上記のような「市場原理」を実現するには、現在の「免許方式」を変更し、チャンネル使用について免許を与えるのではなく、「チャンネル使用資格」免許を与えるようにすればよい。すなわち、番組製作技術、経営能力等を審査し、一定水準の要求を満たすかぎり、チャンネル数にかかわらず「委託放送事業資格免許」を発行し、実際のチャンネル使用については市場での競争に任せるのである。今回、BS−4後発機の委託放送事業の当初免許への適用は困難であるかもしれないが、免許更新時等において上記措置が実現されることを望みたい。


C.委託放送事業者による周波数の使用法について

 今回BS−4後発機に係る制度においては、各トランスポンダの周波数がテレビ・音声・データ用途に区分されている。いうまでもなく、ディジタル放送においては、テレビ番組も音声も、データと同様に「ディジタル・データ」であり、三者の間に本質的な差は存在しない。したがって、チャンネルの周波数帯域を分割し、使用目的に制限を設けることは不必要と考える。HDTV、SDTV、音声放送、データ放送の規格さえ設定しておけば、委託放送事業者はそれらの規格から適切に選択し、視聴者が好むコンテンツを放送することができる。すなわち、「完全帯域免許」方式の採用が望まれる。

 また、たとえば比較的近い将来において、さらなる技術進歩が実現し、現在よりも少ない周波数幅で、かつ現在方式を包含する形でのテレビ放送が可能になる(すなわち、周波数の一部に余剰を生じ、これを他目的に活用できる)かもしれない。この場合、ユーザ側では、チャンネル幅を節約した放送を受信できるアダプタを取り付けることになる。このような技術進歩は望ましいものであり、その実現動機を与えるためにも、周波数使用目的を限定しないことが適切であると考える。


D.コンテンツ供給に関する公的施策について

 すでに述べたように、一部の放送番組については、何らかの手段による公的サポートが必要であり、また、場合によっては制限も必要であろう。公的サポートのための費用をどのように調達するか、そのための事業者負担・視聴者負担をどのように設定するかは、今後において検討されるべき問題である。

 公的サポート・規制の実現には、ディジタル放送の特質である制御・付加サービスの可能性を活用することが有用である。たとえば、有料放送事業者に対して、一定時間スクランブルを外し、あるいはコマーシャル放送事業者に対して、一定時間コマーシャルを付することなく特定種類(たとえば教養目的)の番組を放送する義務を課すれば、それはそのまま、委託放送事業者の負担による「あまねく国民に視聴機会が与えられた番組」になる。


E.「視聴料一律徴収」方式について

 現在NHKが地上波およびアナログ衛星放送について採用している「視聴料一律徴収方式」は、BS−4後発機段階から廃止し、スクランブル方式による有料放送に移行するべきものと考える。現在の方式は、ディジタル技術が利用できなかったアナログ放送時代に、放送事業を維持するための唯一の方法(租税からの負担を除く)として採用された方式である。

 この方式については、現在すでに矛盾が表面化しつつある。実際、「NHKの放送を見ていないのに視聴料を徴収される。」「NHKの放送を見ているのに視聴料を支払っていない。」という2種類の不満が存在し、かつ増大の傾向にある。また、これらの不満等から一律視聴料の徴収コストが年々増大しているはずであり、将来長期にわたって続けられるとは考えられない。スクランブル有料放送方式を採用すれば、上記の不満は両者とも完全に解消する。

 公共的理由から国民にあまねく供給するべき番組については、前項で述べたように、別途サポート方式を考えるべきである。たとえば、有料放送について複数の「スクランブル度(レベル)」を設定し、番組の性質に応じて、無料、安価、中間、高価のような複数の視聴料を設定する方法などが考えられるであろう。


V.当面の提案

 以下、本文において述べた意見のうち、政策提案にかかる分を列挙する。

a.上下一体型放送事業者の「会計分離」(II-C)

b.電波利用料の目的として「周波数資源のレント」を追加(電波法103条の2)(III-B)

c.衛星軌道上スペース使用料について上記と同一の措置(III-B)

d.受託放送事業者が入手する「公的資源レント相当分と独占供給から生ずる超過利潤分」の徴収、国庫への移転(III-C)

e.委託放送業務免許を「委託放送業務資格免許」にする(IV-B)

f.委託放送事業免許を「完全帯域免許」にする(IV-C)

g.コンテンツ供給に関する公的措置(IV-D)

h.視聴料一律徴収方式の廃止(IV-E)


参照文献

鬼木甫『情報ハイウェイ建設のエコノミクス』、日本評論社、1996年2月、xviii+356pp.。

鬼木甫「情報通信のインフラ整備と競争メカニズム」、『経済セミナー』、No.504、1997年1月号、pp.22-31。





「放送衛星4号(BS−4)後発機に係る制度整備について」、『電波監理審議会への意見表明』、郵政省電波監理審議会、1998年4月、11pp.。


Top of Page | New | Contents | Home | OGU Home

Hajime Oniki
ECON, OGU
2/11/99
HTML規格外