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「書評『マルチメディア経済(三友仁志編著)』」、1998年4月。

 マルチメディアや情報通信は、最近広い関心を集めており、日常生活でも急速な変化をもたらしている。若者が携帯電話で話しながら歩くようになったのは2〜3年来のことだし、卒業年次の学生は分厚い「就職案内書」から離れ、インターネットで就職活動をしている。マルチメディアは、21世紀に向けて豊かな社会の夢を与えており、また現在の日本の閉塞状態からの出口は、情報通信産業の成長によって開かれるとする意見もある。

 しかし、多くの人にとって、マルチメディア・情報通信の世界は分かりにくい。新しい機器やサービスの解説書は数多く出ているが、表面的な解説か、実用向きの「ハウツー」もので、「この世界を少しでも本格的に知りたい」人の役にはたたない。他方、専門の書物や論文は一般の人には手が付かない。

 三友仁志教授編著の『マルチメディア経済』は、このギャップを埋める好著である。社会科学系の学生・院生諸君は、本書の中に経済分析の豊かな応用例を見出すだろう。講義に出てくる抽象的な需給曲線や効用関数がマルチメディア経済の世界でどのように使われるのか、競争市場の原理や独占の問題はネットワーク分野でどのような表れ方をするのか。本書は、多数のケースを提供している。

 企業・団体や行政機関に職を持つ人は、本書によって、マルチメディア・情報通信の現象の背後にどのような経済問題があるかを知り、将来の見通しへの手がかりを得ることができるだろう。今ではネットサーフィンによって、有用な資料を世界のどこからでも瞬時に無料で入手できる。たった5年前には、同じ資料を取り寄せるために高い代価を払い、また何日もかけて現地に行く必要があった。こんなことがなぜ可能なのか。この傾向が将来も続けば、われわれの仕事や生活はどう変わるのか、あるいは変わらないのか。どんな障害が控えているのか。本書はこれらの問題に近づくための手がかりを与えてくれる。

 本書は、この分野の中堅・新鋭のエキスパート11人による論文を、三友教授が3部にまとめたものである。第1部「情報通信ネットワークの経済理論と実際」では、通信市場の経済現象を解説する。情報化の現状や、インターネットの経済学の紹介も読むことができる。第2部「生活経済とマルチメディア」では、通信分野での公平の問題、テレワークの現状、マルチメディア社会実験の結果に加え、企業会計で問題となるソフトウェアの資産価値が解説される。最後の第3部「ボーダーレス・エコノミーとマルチメディア」では、国際分野に視野を広げ、国際通信、各国通信産業の規制緩和、アジア経済の成長と通信の問題が語られている。

 本書の各章はそれぞれ独立してまとまっており、興味に応じて章ごとに読むことができる。各章の著者は、年来その分野の研究に携わってきたエキスパートで、十分の余力をもって分かりやすい解説を提供している。水泳の達人がビギナーに泳ぎを教え、登山のエキスパートが初心者に手を貸しているかのような書きぶりである。もとより水泳は一日で覚えられず、登山には苦労が必要であり、本書も寝ころんで流し読みするものではない。しかし本書は、マルチメディア・情報通信の経済というテーマについて少しでも本格的に知りたい読者に、十分に応えてくれる。


「書評『マルチメディア経済(三友仁志編著)』」、1998年4月。


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Hajime Oniki
ECON, OGU
2/11/99
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