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『情報ハイウェイ建設のエコノミクス』
第10章 政策提言のまとめ
  1. 広帯域通信網インフラ建設について
  2. 広帯域通信時代の産業組織について
  3. マルチメディア産業発展のために

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本章では、参照の便宜のため、本文中で述べた政策提言のうち、現在時点で実施が望まれるものをまとめておこう。


  1. 広帯域通信網インフラ建設について

    1. NTT(とKDD)には、過去数十年間にわたる技術と人材の集積があり、これを十分に活用できる事業体制を作るべきである。しかし同時に、国内・海外の競争事業者が提供する技術・人材も活用できるオープンな体制を作ることが望ましい(第2章V.B.3)。

    2. インフラ建設は、建設初期の赤字期間が長いので、株式を上場する営利企業の経営原則下では遂行しにくい。建設を担当する事業体として、NTT内に「特別会計」を設ける、あるいはNTTの子会社・関連会社を設立するなど、組織形成上の工夫が必要である(同上)。

    3. 高齢化社会直前の現在、潤沢に供給されている民間資金を活用できるよう、「短期資金の長期化」のための措置をとることが必要である。たとえば、建設を担当する事業体が発行する社債に公的保証を付けることが考えられる(第2章V.B.2)。

    4. 広帯域通信のためのアクセス網(光ファイバーあるいはこれに代わる広帯域回線)の建設について、ケーブルテレビ用の同軸ケーブル網と広帯域網との「二重投資」を避けるための措置が必要である。そのため、ケーブルテレビ網加入者あるい事業者が、光ファイバーを経済的に使用できる体制を用意することが望ましい。(ただし、ケーブルテレビ網をユーザ末端まですべて光化する必要はない。広帯域で双方向通信ができればよい。しかし、末端まで光化できれば、それに越したことはない。)なお、この措置は緊急を要する(第2章V.B.4)。

    5. 広帯域通信網用の事業者・ユーザ機器について、ネットワーク立ち上がり時の負担を軽減し、普及を加速するための措置をとることが望ましい(同上)。

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  2. 広帯域通信時代の産業組織について

    1. 一般にテレコム産業組織を考察するには、まず同業務を上下・垂直方向に区別し、それぞれの業務が競争環境に適するか、あるいは規制を伴う非競争環境(独占、寡占など)に適するかを明らかにすることが望ましい。その上で、非競争・規制業務の範囲が最小化されるような産業構造を選ぶことが望ましい。事業体の分離・分割や統合、事業部制の設置・改廃などの具体的な措置は、上記原則を定めた後に、その範囲内で、他の要因を考慮して決められるべきである(第7、8章)。

    2. 広帯域通信時代の産業組織に上下分離の可能性を残すために、同網建設の当初から、BISDN標準における「ATMレイヤ」と「AAL」業務が、ハードウェア上、ソフトウェア上、事業体組織上で一体化されることのないよう(すなわち、後になって分離の必要が生じたときに、過大な分離コストのために実質上分離が不可能になることを避けるよう)、現在時点で規制を加えておくべきである(第7章V)。

    3. なお、広帯域通信関係ではないが、現在時点で適切と考えられる上下・垂直分離は、(i)とう道・管路・(電柱上の)架線スペース・電波の使用に関する業務と、それ以外の業務の分離(公益事業特権と自然独占から発生)、(ii)ユーザアクセス業務(基本料部分)と他の業務との分離(代替通信路を経済的に供給できないことから生ずる事実上の独占、事業者によるユーザへのアクセスに他手段が使用できないことから生ずる「ボトルネック独占」から発生)である。1995年度現在問題になっているNTTの「組織見直し」についても、上記要因を考慮した措置が望ましい(第8章I、VII)。

    4. 広帯域通信時代になっても、当分の間は、上記と同一理由による非競争要因が残存するので、この事実を想定・予想した産業組織を考えることが望ましい(第7、8章)。

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  3. マルチメディア産業発展のために

    1. マルチメディア産業における機器・システム・ネットワークについては、それが(PCと同様に)部品やサブ・システムの「ゆるやかな結合」として形成されるかぎり、PC産業と同様の競争力決定要因が働くと予想される。日本企業の特色である「縦割り型の業務組織」は、この種の製品・サービスの生産に適しない。マルチメディア産業の発展のためには、企業組織を生産物の特色に応じて分社化し、あるいは事業部制を採用し、外部調達、外部販売を認めるオープンな事業運営が必要である(第9章VI、VII)。

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Hajime Oniki
ECON, OGU
05/13/98
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