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『情報ハイウェイ建設のエコノミクス』
第5章 アナログ電話網建設のシミュレーション分析(大村真一、鬼木甫、栗山規矩、中空麻奈)

本章の目的は、第4章で述べた理解のもとに、わが国電気通信インフラ建設のプロセスを数量的に「評価」することである。たとえば、もし低水準の公定価格や加入者債券制度が採用されなかったならば、電話インフラ建設はどのような経路を辿ったであろうか。実際に選択された建設スピードは最適であったか。もし、建設速度をさらに早めたとすれば、その結果はどうであったか、などの問題に数量的な答えを出すことである。これはシミュレーション分析によって可能であるが、そのためには、分析対象期間におけるわが国電気通信産業の構造を明らかにし、外的条件を変えた場合に同産業がどのように反応するかを知らなければならない。そのために本章では、わが国電気通信産業の「モデル」を作成し、同モデルの諸パラメタを実際のデータから決定(すなわち推定)する。

本章の前半では、電気通信産業の構造を反映する経済モデルを作成し、同モデルの係数値を、電電公社(以下公社)時代である1955〜1994年の時系列データによって推定する。すなわち、電気通信産業における主要な経済変数、たとえば電話加入数、加入料、使用料、公社収入と支出、資金調達と投資などの間に「構造方程式」で表される関係を想定し、その関係の強さを数量的に特定(同方程式の係数を推定)する。

本章の後半では、上記モデルを使用して、「シミュレーション分析」をおこなう。それは、「もしわが国の電気通信産業に与えられた条件が実際の条件と異なっていたとき、上記の諸変数はどのような値をとったであろうか?」という問に答えることである。この作業は、過去の経済活動に対して実際と異なる想定を加えることであり、もとよりその結果に現実性は無い。作業の目的は、過去において生じたかもしれない結果を明らかにすることにより、電気通信産業構造の理解に資することである(*1)(*2)

(*1)
「公社」によるインフラ建設の計量経済分析の文献は皆無に近い。松行(1988)は、公社経営の全般にわたる大規模計量モデルの推定をおこなっており、そこで採用されたモデルは本研究よりも広い範囲をカバーする。しかし、モデルのスペシフィケーションは本研究と異なっており、またインフラ建設は主要な分析対象となっていない。鬼木他(1989)は、他産業(電力、交通など)と比較するため電気通信インフラ「キャパシティ」の推計を試みている。また武内(1993)は、NTT中継網の回線容量を推計しており、インフラ建設分析のための一手法を提供している。なお、公社の統計資料等については、第4章の注8)を参照。
(*2)
シミュレーション分析は、通常は過去の事実に関してではなく、将来予測のためにおこなわれる。しかしながら、過去の事実に関するシミュレーションを排除するべき理由は見当らず、将来予測と同じく有用である。

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Hajime Oniki
ECON, OGU
05/05/98
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