創造的問題解決の技法

〜「書店で万引きを防止する方法」を例にして〜

2006/03/17

大阪学院大学情報学部情報学科

林 尚也

 

研究のねらい

創造的問題解決の技法TRIZ/USITを体得する。

身近な具体的な問題を取り上げて、問題解決を図る。

テーマ: 「小規模な書店において万引きを防止する問題」

私は百貨店内の小さな書店でバイトをしていた。

子供たちの万引きが多発していて大きな問題。

万引きの被害は売り上げの2%。店舗の利益を帳消しにする。

TRIZ/USITの技法を用いて、分析をする。

解決策を考える。

万引きの一般的な状況

万引きは、多くの店舗でその被害が拡大している。

犯人層は、未成年、小、中、高校生が中心。

万引きが犯罪という認識が低い

社会道徳に反することの自覚が薄い

小遣い稼ぎなどの動機で行なう

書店での万引き

店員の目をかすめて商品をバッグに入れる

その後、レジを通り抜ける。

悪質なもの

徒党を組む

見張り役を置き、壁役が死角を作る

店舗側の対策

店員が目を配る

ミラーなどで死角を少なくする

電子タグとゲート管理する

店員が、あやしいと判断できることは多々存在する

捕まえるにはリスクが伴う

実行の瞬間を目撃、支払わずに店を出ようとした

両方満たした場合のみ捕まえられる

バッグに入れただけ

支払うつもりだったと開き直られた時

店側が悪者にされる

捕まえたのに、万引きでなかった場合

店側の大きな過失になる

問題の限定

比較的オープンな百貨店

フロアの一部にある店舗を対象とする

小規模書店 (床面積 100〜200 m2 程度、店員2〜4名程度)

教育など、店舗以外において行なうべき対策は取り上げない

比較的低コストで実施可能である有効な解決策を考えたい

問題の分析

TRIZ/USITの技法での、問題の分析

関連するオブジェクトの機能的関係の考察

オブジェクトの性質の考察

空間的特性の考察

時間的特性の考察

以上を踏まえ問題の根底にある難しさを明確にする

それらから得たデータから解決に繋げる

犯行プロセスの考察

万引き犯の立場で犯行のプロセスを考える

「守るにはまず敵を知れ」という古来の知恵

@ 作戦 ‐‐‐ 仲間を作る、ノウハウ蓄積

A 来店 ‐‐‐ 店・時間帯を選ぶ、バッグ持参

B 時機を見る ‐‐‐ 店員多忙、客の目なし

C 見つからない態勢 ‐‐‐ 死角、壁役など

D 実行 ‐‐‐ すばやくバッグに入れる

E 現場を離れる ‐‐‐ 素知らぬ顔で

F レジを抜ける ‐‐‐ タイミングを見て

G 出口を抜ける ‐‐‐ さっさと

H 言い逃れ ‐‐‐ 「払おうとしていた」

I 開き直り ‐‐‐ 「自分は入れてない」

J 使う、売る ‐‐‐ 古書店に売る

関連するオブジェクトの考察

根幹となるオブジェクトは次の4つである。

A.商品(万引き対象物)

B.万引き犯(実行者)

C.店員(防御者)

D.店舗(陳列棚、レジ、など空間構成)

さらに以下のものがこれらに関連する

A関連:注文票、電子タグ、消音式ラベル

B関連:仲間(壁役、見張り役)、バッグ

C関連:レジ、フロア、警備係、防犯カメラ

D関連:陳列棚、陳列ケース、レジ、柱、ミラー

出入り口、管理ゲート、注意の張り紙

関連するオブジェクトの性質の考察

A.商品関連

コミックなど人気のあるもの

高価なものが対象になりやすい。

B.万引き犯関連

不審者の特徴的な行動

集団で移動しつつ、周囲を窺う行動を見せる

一人で来店、何も買わずに長時間うろうろ

商品を持ったまま、まったく違うコーナーへ行く

大型のカバンを持っている。

口の開いたままの百貨店の紙袋を持っている

C.店員関連

アルバイトの場合は万引き防止の意識が低い

警備係に任せよと指示されている

防犯カメラは店員の目の役割をし、記録する

D.店舗関連

客層、店の雰囲気など。

空間的特性の分析

万引きは、店員から見て死角で実行される

ゆえに、空間的特性の分析が重要

万引きが行なわれやすい場所

レジから見て死角になる場所

柱等でできる死角

奥の通路の棚の影

ミラーでも見えにくい場所

時間的特性の分析

万引きが多い時間帯

平日の午後4時〜6時

土日の午後

レジが混雑するとき

犯行プロセスを分析した結果

時間的特性の分析

重要な意味があると分かった

実行犯のプロセスを時間軸上に示す

問題の根本的な難しさ(矛盾)の解明

分析から分かった本問題の根本的な難しさ (矛盾) はつぎの点である

(1)万引き犯を捕まえるために

犯人の行動の「3つの瞬間」

「実行」、「レジを抜ける」、「店舗出口をでる」

このすべてを店員がすべて視認する

そして「店舗をでる」を現場で取り押さえる必要がある。

(2)上記の「3つの瞬間」に関して

すべて、その時機を犯人側が随意に選択できる

(3)「3つの瞬間」を実行する場所も犯人が選択できる。

(4)「3つの瞬間」を押さえない場合

店員は相手を「客」として遇する必要がある。

解決策の検討(従来の方法の再検討)

(1)「実行」の瞬間を目視しやすくする

店舗レイアウトの改良、ミラー、カメラの設置、店員が注意を払う

(2)「無払いでのレジのすり抜け」をリアルタイムに警報する

個別の商品に何かを取り付ける(電子タグによるゲート管理など)

(3)「出口での取り押さえ」を目指す。

監視カメラと警備員体制の強化など

(4)犯人側の小道具であるバッグなどを、使わせない

ロッカーやレジに預けさせるなど

(5)店員の声掛け運動など

サービスと防犯の両方を目指す

本研究で提案する解決策

本研究のようなオープンな環境の小規模書店において

(1)のカメラやミラーの増設では不十分

(5)の声掛け運動をすることは基本

(2)のタグ等の方法は、個別商品の価格が低いのでコスト高になる

(4)のカバン対策が、「B実行」そのものを困難にする

「瞬間」の目視を狙っていないことに、本研究では注目

ただし、ロッカーの設置には設置スペースとコストの問題

レジでの預かりには管理の問題が生じる

それらに代わる案を考察

本研究での新しい提案

「犯人などのバックを、そのまま持ち運ばせるが、使わせないようにする」ことである。

 

(a)案

バッグなどの手荷物を入れる「チャック・鍵つきバッグ」を用意する

このバッグを出入口のすべてに配置

客自身に自分のバッグを入れてもらう

南京錠などで封印し、レジにて解錠する

大中小のバッグを揃え、荷重に耐えるものにする。

 

(b)案

上記(a)で、バッグに必要なのは、カバンの口を塞ぐ機能

そのことに注目

「バッグの口を塞ぐシートで、開けると警報音を出すもの」を設置する

手は客のバッグの把手を使い、ベルトを回すだけにする。

 

おわりに

TRIZで学んだ分析方法で順序立てて考えると、問題点が自ずと浮かび上がってきた。

それに沿って問題の解決方法を考えていくことが面白いと思いました。