大森の適用事例
「より快適な電車の乗り降りの方法」詳細
ゼミで学んだ「創造的問題解決の技法」を活かして、身近な問題の解決を図ることを卒業研究のテーマにした。
今回選んだテーマは、「電車での通学・通勤をもっと快適にしたい」という問題である。
満員電車で乗客たちは疲れとストレスを抱え、車内には殺伐とした雰囲気すら漂っている。
それを少しでも快適にする方法を提案したいと考えた。
問題の設定
乗客の種類 |
||
座っている乗客 |
立っている乗客 |
乗ろうとしている客 |
ゆったりと座りたい スムーズに降りたい |
スペースを確保したい できれば座りたい スムーズに降りたい |
できれば座りたい スムーズに乗りたい |
・最も快適なのは、「座っている乗客」である。
・乗客全員が座れるのが理想的である。
・座席数を増やすと乗車できる人数が限られる。
・乗客の「スムーズな乗り降り」が必要である。
問題の分析:現状の乗り降りの観察
@実地調査とビデオ撮影
乗客の乗り降りのようすを観察するため、実地調査を行った。
→JR大阪駅の環状線内回りホームで、電車5本の乗り降りをビデオで撮影
(2005年11月10日17:00〜18:30)
A動画像と静止画像からの分析
ビデオで撮った動画像を観察し、そこから1秒間隔で静止画像を取り出して細かく観察した。
→個別の人の位置・動き・意図を分析
現状の乗り降りの問題点
@電車がホームに到着
降りる乗客は、扉付近へ移動する。
→「降りない乗客」によって、移動が妨げられる。
A電車から乗客が降りる
→扉付近の「降りない乗客」が、降車の妨げになる。
→ホームで、乗ろうとしている客は待たされる。
Bホームから客が乗る
→乗ろうとしている客によって、降りる乗客の通路が狭くされる。
→やや遅れて乗客が降りる場合があり、乗車の妨げになる。
乗り降りの問題の原因
・乗車・降車という、逆方向の「流れ」が同じ扉において起こる。
・「降りない乗客」の存在が、「流れ」に対する障害となっている。
問題の考察:キーワードは「流れ」
スムーズな乗り降りを実現する上で、キーワードとなるのは「流れ」であると考えた。
→「流れ」とは乗客の移動の流れのことであり、入口から出口まで一定の「流れ」が存在すれば、スムーズな乗り降りが可能になると考えられる。
解決策:「乗車・降車専用扉」
・片側4扉のうち、2つを乗車専用に、残る2つを降車専用にする。
・駅のホームにも、乗車専用と降車専用の位置を明確にする。
・「降りない乗客」のために、「流れ」の影響を受けない「スペース」を設ける。
・車内の表示・アナウンスなどで、乗車・降車専用扉を明確にし、降りる乗客を降車専用扉に誘導する。
具体案:A
@ A B C
@ A B C
・乗車扉と降車扉を交互に配置している。
・@から乗った乗客は一方通行である。
・Bからの乗客は、AとCを選択できる。
・Bの乗り場の方に客が集中することが予想される。
・降りる際、Cと比較してAの方に2〜3倍の乗客が集中する。
・「降りない乗客」のための「スペース」が確保されていない。
具体案:B
@ A B C
@ A B C
・BからAへの移動が制限されている。
・Bからの乗客も一方通行となる。
・中央部を「スペース」として利用できる。
・@からとBからでは、「スペース」の位置が異なる。
・乗ってくる客が偏ることが予想される。
具体案:C
@ A B C
@ A B C
・乗車扉を内側に、降車扉を外側に配置している。
・乗車扉付近に「スペース」があり、乗ってきた乗客がすぐにそちらへ移動できる。
・中央部から、降車扉までが遠い。
具体案:D−1
@ A B C
@ A B C
・乗車扉を外側に、降車扉を内側に配置している。
・中央の「スペース」付近に降車扉がある。
・乗ってきた乗客は、中央の「スペース」まで移動するのが困難である。
具体案:D−2
@ A B C
@ A B C
・新たな「スペース」として、両端の空間を利用する。
・中央への移動が困難な場合、両端の空間へ移動する。
・端から中央への移動は、降車の「流れ」によってスムーズに行えると考えられる。
「乗車・降車専用扉」における乗客の分析表
乗客の種類 |
乗客の考え |
とるべき行動 |
降りる乗客 |
降りたい |
降車扉付近から降車 |
降りない乗客 |
まだ降りない |
「スペース」へ移動or留まる |
|
もうすぐ降りたい |
降車扉付近へ移動 |
乗ってきた乗客 |
まだ降りない |
「スペース」へ移動 |
|
もうすぐ降りたい |
降車扉付近へ移動 |
「乗車・降車専用扉」における乗客の「流れ」の検証(思考実験)
@電車がホームに到着
降りる乗客
降りない乗客
乗ってくる乗客
A電車の扉が開く
降りる乗客
降りない乗客――まだ降りない もうすぐ降りたい
乗ってくる乗客
B電車の扉が閉まる
降りる乗客
降りない乗客―― まだ降りない もうすぐ降りたい
乗ってくる乗客―― まだ降りない もうすぐ降りたい
身体障害者や優先座席の問題
車イスや身体障害者など、降車扉までの移動が困難な乗客
→乗車扉から優先的に降りてもよい。
優先座席に座るお年寄りの乗客
→優先座席付近の乗車扉から降りてもよい。
条件を限定する
時間帯を限定する
朝のラッシュ時 (初電〜午前9時)
夕方のラッシュ時 (午後5時〜午後9時)
場所を限定する
多数の乗客が乗り降りする駅 (JR大阪駅・三宮駅など)
その区間で限定する (JR尼崎駅〜大阪駅〜新大阪駅など)
折り返し駅 (阪急三宮駅など)
改良案@時間差開扉
降車扉と乗車扉の開扉に時間差をつける。
(1)降車扉を開き、客を降ろす。
(2)乗車扉を開き、客を乗せる。
→「降車」と「乗車」の間に、「移動」のための時間ができる。
改良案A扉の増設
車両の扉数を増やす。
→より速やかに乗り降りを行うことができる。
改良案B乗車・降車専用ホーム
駅に乗車・降車専用ホームを設ける。
車両の両側の扉を開き、乗車専用ホームから客を乗せ、
降車専用ホームへ降ろす。
→完全な一方通行の流れができる。
おわりに
「乗車・降車専用扉」によって、電車内に乗客の「流れ」を形成し、 「スムーズな乗り降り」を実現することを研究の目的とした。
この案が本当に効果を持つかどうか、またさまざまなトラブルや、付属する問題を解決するにはどうすればよいかなどを今後実験的に検証し、実現できるとよいと考える。
まだ未検証の段階であるが、電車の「乗り降りをスムーズ」にし、あらゆる乗客にとって「より快適な通学・通勤」の環境を提案することができた。
以上