つぎに, TRIZが整理している (あるいは, [TechOptimizer Pro] が整理している)
科
学技術の体系を見ておこう。その目的の一つは, [TechOptimizer Pro] がサポートして
いる分野/ していない分野を理解しておくことである。またもう一つの目的は,
自分の
技術理解の範囲を広げる努力をすることである。TRIZの整理のしかたを見ているだけで
も, 従来の「学問」としての科学技術とはずっと異なる, 実践的な問題解決のための技
術のとらえ方が分かる。
〔操作法: [Effectsモジュール] を開くと, [Function]だとかの機能画面になるが
, 取り敢えずそれを無視して, 原理を示すデータベースにアクセスしよう。ただ
し,単純にEffects データベースをクリックすると,
物理・化学・幾何に分類さ
れただけで, 中身はアルファベット順になった,
521個の原理のリスト ([List
of effects])が現れる。これでは分からないから,
一番上のメニューバーで,
[Database]メニューを開き,
[Effects Sorted by Groups]をクリックする。〕
[Groups of Effects] の画面では, 原理 (Effects)の説明が全部で109 個のグループ
に分かれている。グループそのものは, アルファベット順である。各グループには,
3
〜50程度の個別の原理が属する。ただ, グループ間で個別の原理の重複が多く,
必ずし
も関係が強くないものも入っている。例として, 図3.1
に示したのは, [Group of eff
ects] の画面で, [Phase transition of the
first kind]のグループを見ているところ
である。下部にグループの概要の記述がある。
図3.1 [Effectsモジュール] の [Groups of effects ウィンドウ] の画面例
上記の画面で一つのEffectを指定してダブルクリックする (あるいは,
[View]ボタン
を押す) と, 図3.2 に示すように, 各原理の説明が出てくる。この説明は,
図と説明 (
1 〜3 画面スクロール分) と参考文献などからなり, 分かりやすい。図3.2
の例は,
[heat pipe thermal superconductivity] の画面であり,
熱交換 (あるいは冷却など)
のためのヒートパイプの原理を示す。
図3.2 [Effectsモジュール] の [View effect]画面の例:
ヒートパイプによる超熱伝導
また, [Groups of Effects] の画面で, 一つのEffectを指定した上で,
[Examples]ボ
タンを押すと, その原理を使った技術事例のリストが得られ, また, それぞれの技術事
例を見ることができる。図3.3 は, 上記のヒートパイプを使った例
(実際には関連原理
[Effects of heat pipe condensor isothermicity]から引いた事例) で, [Device
for
Epitaxy]の画面である。ヒートパイプの低温部
(凝縮部) が一定温度になることを利用
して, エピタキシの装置において, シリコンウェハーの広い面積を一定温度に保つよう
にした事例である。このような具体的な例を見せられると, 全く違う用途のシステムで
あっても, ああ応用できそうだと感じることができる。
図3.3 [Effectsモジュール] の [View example]
画面の例:
エピタキシ装置 (ヒートパイプによる大面積均一冷却法)
ところで, 実際に, [TechOptimizer Pro] はどのような技術分野を扱い,
どのような
原理を収録しているのだろうか。これを判断するために, [Groups of Effects]
の全グ
ループ (109 個) を, 意味のある体系に分類することを試みた。表3.1 が
TechOptimizerが収録するGroups of Effectsの階層分類表 (筆者作成) である。
この分類の第一層はつぎのものよりなる。
A. Mathematics
(数学関連)
B. Mechanical
(力学関連)
C. Thermal
(熱学関連)
D. Optical and electromagnetic wave (光学及び電磁波関連)
E. Electrical
(電気関連)
F. Magnetic and Electromagnetic (磁気および電磁気関連)
G. Substances and Material
(物質と材料関連)
H. Interaction between substances and fields (物質と「場」の相互作用)
I. Chemical (化学関連)
J. Particles (粒子関連)
上記の分類をして, 分かったのはつぎのような点である。
・ 通常の物理学の分野を基本的にカバーしている。 (力学, 熱学,
光学, 電気, 磁
気, 電磁気, 粒子, 物質, 物質と「場」の相互作用)
・ 化学分野は基本的な部分だけをカバーしている。( 化学, 物質と材料)
・ 物理学の記述においても, 抽象的な理論でなく, 具体的な応用技術とその基礎と
いう観点で記述されている。
・ 前項に関連して, 多様な形態と特性を持つ物質・材料と, 「場」との相互作用
(
あるいは, 「場」の変換) などが大きなウエートを持つ。
・ 一つ一つの記述は簡潔である。その分野の専門家にとっては基礎的なことしか書
いていない。しかし, 他の分野の人, あるいは一般の技術者にとっては,
技術知識
をよく整理して理解することができる。 (科学理論は扱わない。)
なお, 上記の分類から, つぎのような分野を扱っていないことが分かる。
・ 情報処理のソフトウェア分野, サービスシステムの分野
・ 医学, 生物, 生体物質, 遺伝情報などの分野
これらはTRIZの発展過程を反映しているが, 将来的には拡張されていくであろう。
たとえば,情報処理のソフトウェア分野をTRIZの方法論で捉えなおすことは,大
事なことであると思う。
表3.1 Effectsデータベースの取り扱い分野
[Effectsモジュール] の [Groups of Effects] の中川による分類
注: *印のグループ名は中川が再分割/詳細化したもの
1998. 6. 2. Toru Nakagawa
A.
Mathematics
Geometric effects B. Mechanical
C. Thermal
D. Optical and
|
E.
Electrical
Electric Phenomena Electrostatic phenomena Electric current Electric current in a liquid Electric current in a solid Electric current in contacts and boundary surfaces * Properties and functions of semiconductor devices Electric Discharge in Gases Electrokinetic effects Electrostriction F. Magnetic and
G. Substances and
I. Interaction between
|
Thermal phenomena in a
superfluid liquid Thermostriction Themoelectric phenomena Thermomagnetic phenomena Magnetostriction Magnetothermal phenomena Magnetic phase transitions Magneto-Optical phenomena Nonlinear optical phenomena Physical effects Phenomena in crystals Phenomena in dielectrics Phenomena in dispersion media J. Chemical
K. Particles
|
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1. はじめに | 2.
技術トレンド
(Prediction 1) |
3.
科学技術体系
(Effects 1) |
4. 目標を実現する方法
(Effects 2) |
5. システム改良法
(Prediction) 2 |
6.
発明の原理
(Principles 1) |
7.
矛盾の解決
(Principles 2) |
8.
問題の記述
(TechOptimizer 1) |
9.
システムの機能分析
(TechOptimizer 2) |
10.
トリミングと機能移転
(TechOpt. 3 ) |
11.
レポート機能
(Reporting) |
12. おわりに |
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