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研究代表者ご挨拶

「イラクの塩害と砂漠化の環境史」プロジェクト

   研究代表者  渡辺千香子
 
 


東日本大震災では、東北地方沿岸部にある多くの農地が津波によって浸水し、現在にいたるまで塩害に悩まされています。1000年に一度ともいわれる大地震の規模は、観測データが残されている近過去の研究からは想定できないものだといわれています。しかし、古い史料や層位研究において、過去にこの地域で同程度の地震・津波の生じていたことが判明しています。もし福島の原子力発電所を作るにあたって、より長いスパンの過去の「歴史」を、近現代のデータと同等に扱っていたとしたならば、原発の惨事は防げたのではないかと思うことがあります。


人類の最初期の都市文明を育んだメソポタミアも、幾度となく大きな自然災害に見舞われました。ノアの箱舟の起源となった大洪水や気候変動による旱魃など、そのたびに多くの命が失われ、その惨状は楔形文字の記録によって伝えられます。現在、イラク南部は広大な砂漠と化し、その表面は塩の結晶におおわれて、あたかも雪が積もったかのようです。しかし古代の記録には、現在からは想像できないような多くの動植物が登場します。イラクの風景が現在の姿になるまでに、いったいどのような自然環境変化が生じたのか、人間の活動が環境を変えてきたプロセスについて明らかにする必要があります。


この研究は、自然と人間の相互作用の視点から、古代から現代に至るイラクの環境史の復元を目指します。過去にたどった環境変化の足跡を明らかにすることで、いま現在イラクに生じている環境問題の課題を、より長い時間の中で評価する試みです。本研究の成果が、将来の自然環境と文明社会の共存のためのケース・スタディとして活かされることを望んでいます。