TRIZフォーラム: IT & TRIZ 著書紹介
紹介: Umakant Mishra 著
『IT技術のためのTRIZ発明原理』(ドラフト版) について
中川 徹(大阪学院大学)
2007年 8月17日
掲載:2007. 8.17.   更新: 2007. 8.22; 11.22。追記: 2007.12.19   
[英文ページ: 掲載 2007. 8.17, 追加 2007. 9.13]

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編集ノート (中川徹、2007年 8月17日)

本件は、インドの Umakant Mishra の著作『IT技術のためのTRIZの発明原理』("TRIZ Principles for Information Technology") について紹介します。この著作は現在、米国のTRIZ関係出版社、Technical Innovation Centerから、ドラフト版として、読者のフィードバックを得ることを目的に出版されています。

私がこの著作の原稿 (序章と最初の3章) を初めて読みましたのは、実は昨年5月です。すばらしい著作であると思い、昨年9-10月、そして今年の4-6月に何回も著者とメールをやりとりして、その英語版の出版準備をサボートし、また日本語版の翻訳・出版の可能性を検討してきました。この著作の全体を見たのは、今年のTRIZCON2007で、上記の暫定版として出ていたのが初めてです。改めてすばらしいと思い、TICが持ち込んだ10冊の内 6冊 (残部全部) をスーツケースに入れて持ち帰りました。この著作の紹介は、私のTRIZCON2007の学会参加報告 (「Personal Report」) に記述し、本『TRIZホームページ』に掲載しています。

本ページは、次のような 3部で構成しています。

(1) 本書の概要紹介。中川 徹: 「Personal Reort of TRIZCON2007」(2007. 7. 3掲載) (英文) の関連箇所の和訳。

(2) 本書の構成と内容の要点の例示。

(3) 本書の位置づけと今後の日本語版の翻訳・出版の計画について (ご協力の依頼)

[追記 (2007.12.19、中川 徹):  著者と正式の翻訳契約を締結し、翻訳を開始しました。本書のより詳しい紹介、翻訳したものの一部、翻訳と出版の準備状況などを、別ページで逐次ご案内することにいたしました。「Mishra 「IT & TRIZ」翻訳プロジェクト のご案内」のページを参照下さい。]

 

本ページの先頭 本書の概要紹介 本書の構成と内容の例示 和訳と出版の計画 翻訳プロジェクトのページ 著者MishraのWebサイト 英文ページ

 


(1) 本著作の概要紹介 (中川 徹、2007年 8月17日)

中川 徹: 「Personal Report of TRIZCON2007」 (2007. 7. 3、『TRIZホームページ』掲載 (英文)) 中の関連部分を和訳して示す。

Technical Innovation Center (TIC) や GOAL/QPC などが彼らの出版物を展示販売していた。それらの本の中で、特につぎの本のドラフト版について、特別に言及しておきたい。

"TRIZ Principles for Information Technologies" (『IT技術のためのTRIZ発明原理』)、
Umakant Mishra 著 (インド) 、Technical Innovation Center, ドラフト版、2007年4月、355頁。

この著者 Umakant Mishra は、2000-2004年の間、ベルギーのCREAX社がインドに作った研究所のDirectorであった。この期間は、1985-2003年に許諾された米国特許の全件をTRIZの観点から詳細に分析するという、大規模な研究プロジェクトが実施されたときである。著者は、IT (情報通信技術) 分野 (その一部はハードウェア関連だが、大部分はソフトウェア関連分野) における、技術革新あるいは改良のさまざまなアイデアを1000項目、それぞれ1〜3行の詳しさで記述している。またそれに加えて、100件の特許と100件の技術事例とを、より詳細に (各項目 10〜20行で) 記述している。著者はこれらの項目をすべてTRIZの40の発明原理に関連づけて見ており、全項目を40の発明原理の観点から分類し、その順に並べている。そこで本書の本体部分は、40の章から構成され、各章では、発明原理、およびそのサブ原理、サブサブ原理というように階層的に説明が行われ、実際のIT関連のアイデアが列記されている。

*** [中川の所感]:  私はちょうど1年前にこの本の最初の3章を読む機会があったが、このTRIZCON2007 で初めてその全体を目にした。IT/ソフトウェア分野にマッチするように、TRIZの発明原理を説明、適応、拡張、変更している著者のやり方は、非常にすばらしいと思う。この本を読めば、あなたがIT分野でよく知っているさまざまな技術革新や改良が、TRIZの発明原理でうまく説明できることを、分かるだろう。

日本でわれわれは、本書を日本語に翻訳し、出版したい (適当な出版社から出版してもらう) という計画をもっている。私は著者とメールをやりとりしてきて、本書を (著者のもともとの意図である) (小さな) TRIZ市場にではなく、ずっと大きなIT分野向けに出版することを薦めてきた。

この10年間、IT/ソフトウェア分野の人たちが、「TRIZはIT/ソフトウェア分野には適用できないよ」というのをしばしば聞いてきた。だが、この本を知った後では、それらのIT/ソフトウェア分野の人たちはおそらく、「TRIZはIT/ソフトウェア分野にとって、ちっとも新しくない。われわれはこれらすべての技術革新/改良を、TRIZなしでやってきたんだ」ということだろう。しかし、本書を真剣に読み、本当に革新的な考えをもつIT/ソフトウェア関連の人々は、TRIZの発明原理によって彼ら自身の考え方が非常に大きなパワーを獲得するであろう。

そこで、本書の著者に対して、私は本書の題名を変えて、例えば、『IT/ソフトウェア技術の革新的アイデア集  TRIZの発明原理による分類』 ("Innovative Ideas in IT/Software Technologies Classified with TRIZ Inventive Principles") などにするとよい、と提案してきたのである。

[追記 (中川、2007. 9.13):  著者 Umakant Mishra のWebサイトは興味深い。http://umakant.trizsite.com  ]

(2)  本書の構成と内容の要点の例示   (中川 徹: 2007年 8月14日)

本書の特徴や意義については、前項のTRIZCON2007 での紹介できちんと記述した。そこで、ここでは、本書の構成やその中身の書き方について、その要点を例示することによって、読者に理解していただこうと思う。

(1) 本書の全体構成

(2) 本体部 各章の構成

章番号=発明原理番号   発明原理の名称
原理の説明      発明原理の意味の記述、類似/反対の発明原理との対比 など  (半頁)
効用:              発明原理を適用することによってどのような利点が生まれるのか  (〜10行)
適用状況:       どんな場面、状況で適用することが多いか  (1/3〜半頁)

サブ原理        サブ原理の表題   (以下、サブ原理ごとに、階層的に記述している) (1〜4サブ原理/原理)
キーワード:     このサブ原理を適用した代表的な技術のキーワード とその説明 (2〜3行) (10〜20キーワード)
個別適用事例:     上記のキーワードで代表される関連事例を記述 (各1〜3行) (5〜10事例/キーワード)
特許事例:         このキーワードで代表される技術の特許事例。問題提起とその特許による解決の概要 (10〜20行)
技術事例:         このキーワードで代表される技術事例のやや詳しい説明。(10〜20行)

(3) 記述内容の要点の例示:

第10章    先取り作用
記述:       先取り作用は、本来のしごとをする前に、必要な準備をすることを薦める。必要になる前に、準備行為を部分的/完全に行う、必要となる前に使うだろうものを揃えておく、など。
効用:       製品開発時間を短縮する、製造を容易にする、効率を上げる、時間ロスを少なくする、有害な副作用をなくす、など。
適用状況:       準備をするのに長時間要する場合、しごとを予め完全には準備できないとき可能な部分だけをしておく、準備だけをすべてしておく、プロジェクト管理における計画、分析、設計,プロトタイプ作りなど、また、予め準備しておくことでユーザの時間を節約する。

10. 1 サブ原理:   有益な行為を、それが必要となる前に、(完全にあるいは部分的に) 実行する。

キーワード:   データをプレローディングする
説明:       ページをより速く表示するために使う。表示の要求がある前に、ページの内容をダウンロードしておく。データベース、Webサイト、アニメなどで好んで使われる。
事例1:      カスケーディング・スタイルシート (CSS) において、表示のプロパティを、"display: none" と指定しておくことにより、ブラウザに表示せずにキャッシュにロードするよう指示することができる。
事例2:      画像をロールオーバするのに用いる。画像の全部をダウンロードしておき、ロールオーバするときに待たされないようする。
事例3:     先進的なDBMSでは、ユーザがページごとにデータを見ている間に後続のページをダウンロードしておき、表示やレスポンスを速やかにする。
・・・
事例6:     ビデオオンデマンドでは、プレローディングを積極的に使う。
特許事例: 適応型データベースキャッシング (2002年 マイクロソフト社、米国特許 6493718)
データベースから、後続のquery を予測して追加データをキャッシュに読み込む際のアルゴリズムとして、複数の確率モデルを使い、コスト/ベネフィットの判断基準を用いる。(記述 10行)

キーワード:    プリプロセッシング (データの事前処理)
キーワード:    ディスクのプレフォーマット
キーワード:     ディスクスペースの事前チェック
キーワード:    プリペイド・サービス

10.2 サブ原理:   オブジェクトを事前に配置しておき、最も好都合な時と所でそれらが作用できるようにする。

キーワード:    計画と予算化
キーワード:   要求分析
キーワード:    設計とモデル化
キーワード:    プロトタイピング
キーワード:    文書化
キーワード:    プレコンディショニング (ウォーミングアップ)
キーワード:   規則を予め決定しておく
キーワード:   変数の事前定義
キーワード:   データの事前整理
キーワード:   プレプロセッシング (前処理)
キーワード:   準備行動
技術のヒント (Tips):  しばしばemailを出す人へのメールを簡単に作る方法
技術事例:   JavaScript で グラフィックスをプレローディングする
技術事例:   OLAP (On Line Analystical Processing) においてデータを事前に集め、計算しておく

(4) 発明原理を IT/ソフトウェア向けに、説明/適応/拡張/変更していることの例示。

サブ原理レベルでの表現。特に○印に注目。

発明原理 7:   入れ子
7.1   一つのオブジェクトまたはシステムをもう一つのものの内部に置く
7.2   一つのオブジェクトまたはシステムが、もう一つのものの中の適当な穴を通り抜けられるようにする
7.3   入れ子の多重度を増す、あるいは、スタック式やカスケード式の配置を使う  ○

発明原理 26:  コピー
26.1   簡単で廉価なコピーを使い、入手し難い、高価な、複雑な、危険な、あるいは消える可能性があるようなオブジェクトやシステムの代りにする。
26.2   一つのオブジェクトまたは行為を、光学的なコピーまたは赤外線や紫外線を使ったコピーで置き換える。
26.3   オブジェクト、システム、または機能の、バーチャルなコピーあるいはシミュレーションを使う  ○

発明原理28:  メカニズムの代替
28.1   機械的な手段を置き換えて、感覚的 (光学的、音響的、味覚的、触覚的、あるいは嗅覚的) 手段、またはその他 (磁気的、電磁気的、熱、など) の手段を使う。
28.2   内部のメカニズム、構造、フォーマット、あるいはコードを変える。 ○

発明原理31:  穴  (<-- 多孔質物質)   ○
31.1   一つのオブジェクトに穴があるようにする、あるいは、穴のある要素を加える
31.2   もし一つのオブジェクトにすでに穴があるなら、その穴に何か有用なものを加える

発明原理36:  変換と移行  (<-- 相変化)  ○
36.1   古く両立しないデータ、ファイル、フォーマット、または技術を、新しく互換性があるデータ、ファイル、フォーマット、または技術に変換する。 ○
36.2   古く両立しないデータ、フォーマット、または技術から、互換性のあるデータ、フォーマット、または技術に移行する。 ○

発明原理37:   膨張 (<-- 熱膨張)  ○
37.1   オブジェクトまたは構成要素の膨張 (または収縮) を使って、有益な効果を実現する。  ○

発明原理38:   品質を強化/改良する   (<-- より強い酸化剤)  ○
38.1   一つのオブジェクトまたはシステムを、更新されたあるいはより高度なオブジェクトまたはシステムに置き換える。 ○
38.2   特徴や機能を追加して、オブジェクトやシステムを改良する。  ○

発明原理39:   沈静 (不活性雰囲気)  (<-- 不活性雰囲気)  ○
39.1   通常の環境を不活性なもので置き換える
39.2   中性の部分または不活性な構成要素を、オブジェクトまたはシステムに追加する。

発明原理40: 複合 (<-- 複合材料)  ○
40.1   均一な材料の代りに、複合した (複数の) 材料を使う。


(3) 本書の日本語版の翻訳と出版の計画について (ご協力の依頼)

以下に、本著作を日本語に翻訳し、出版する (あるいは出版してもらう) ための計画について、現状を説明し、読者の皆さまのご協力をいただきたいと思います。

(1) 本書の位置づけ

本書の特徴と意義は、すでに TRIZCON2007のPersonal Report で述べたとおりです。いままで、「ITやソフトウェアの分野にTRIZは使えない」と考えられ、実際に適用した事例がほとんど発表されないことが続き、最近になってだんだん「ITやソフトウェアの分野にも、TRIZが使える」と考える人たちが出てきて、少しずつ事例が発表されるようになってきた。その中で、本書は、「IT/ソフトウェア関係の多種多様な (そしてあらゆる) 技術が、実際にTRIZの発明原理で説明できる」ことを示している。その広範な (それでいて簡潔な) 記述は、「IT/ソフトウェア分野にTRIZが使える」ことを非常に明確に示したものである。

なお、IT/ソフトウェア分野でのTRIZの活用に関しては、Darrell Mann がもうすでに 3年ほど前から、 『TRIZ for Software Enineers』 という本の原稿を (ほぼ/完全に(?)) 仕上げていて、出版を計画しているが、また発行されていない。この本は、Darrell Mann の著書 (和訳) 『TRIZ 実践と効用 (1) 体系的技術革新』 とほぼ同様の構成になっているものと想定され、TRIZをきちんと説明しつつ、IT/ソフトウェア分野に適用する方法を、少数の事例を丁寧に説明する形で、記述しているものと思われる。この意味で、Darrell Mannのものが「理論的/実践的な教科書」、一方Umakant Mishra のものは、「体系的な分類を持った事例集」という位置づけであり、互いに補い合うものであると考えている。

もう一つの側面として、IT/ソフトウェア分野プロパーで見た場合の、本書 (Mishra の本) の位置づけを考えておきたい。それは、IT/ソフトウェア分野の技術、特にその中の中心的なアイデアを、整理して、分類し、体系づけたことにある。従来、IT あるいは ソフトウェアや情報科学の分野で、それぞれの専門分野、特定技術領域で使われてきたいろいろな技術やアイデアが、もっと横断的に共通性をもつことを明確に示している。また、「些細な実際的な改良」と考えられて来た多数のアイデアが、もっと広い普遍性を持つのだと分かることも、本書の特徴である。これらの意味で、本書は IT/ソフトウェア分野に貴重な一石を投ずるものであると思う。

(2) 英語版の出版の準備状況について

昨年4月に著者は、本著作を大手の科学技術出版社から出版しようとして、残念ながら実現しなかった。出版社には、TRIZという考えがまだ馴染めなくて、販売部数の目処が立てられなかったからだと思われる。現在は、米国のTechnical Innovation Center が出版を検討中であり、本年4月にドラフト版を出して読者からのフィードバックを待っている。その状況はまだよく分からない。私のTRIZCONのPersonal Reportでの紹介に関連して私にメールを書いて来た人はいない。恐らく、中川が最も積極的なバックアップ者であろう。

(3) 日本語版の翻訳と出版の準備について

既述のように、私は著者とメールで連絡を取り、日本語訳を申し出、また日本語で出版したい (正確にはどこかの出版社に出版して貰えるようにしたい) と伝えている。また、(本体部分はそのままで、題名と序文を修正して) TRIZ分野でなく、IT分野向けにしたいと伝えている。これらに対して、著者は基本的なOKを出しているが、出版社が決まらないと、契約できないとの考えである。私は、SKI 堀田政利さんの協力を得て、IT分野で本書の出版を引き受けて貰える所を探しているが、まだ、目処が立たない。日本のIT分野ではTRIZはほとんど知られていないし、和訳がまだできていないからである。
[追記 (中川、2007.11.22): 著者との契約が成立し、SKIが独占翻訳権を得ました。]

(4) 日本語版の和訳チームへのボランティア参加の要請について

上記のようにやや不安定な段階ですが、本書の重要性を考え、有志による翻訳プロジェクトをまず立ち上げたいと思います。読者の皆さんで、特にIT/ソフトウェア分野に造詣があり、翻訳の経験をお持ちの方のご協力をお願いいたします。英語のドラフト版をベースにして、分担翻訳を進めたいと考えています。ご協力いただけます方は、中川まで電子メールでご連絡ください。
[追記 (中川、2007.11.22): SKIで中川が監訳者となり、翻訳プロジェクトを立ち上げました。ご協力いただける方がありましたら、中川までご連絡ください。]

なお、第3回TRIZシンポジウムの際に、英文ドラフト版 (20冊) を展示・即売 (価格訂正: 税込み 6300円 (2007. 8.22)) いたします。ぜひ手にとってご覧下さい。
[追記 (中川、2007. 9.11): 本件、TRIZシンポジウムの際に完売いたしましたが、またすでに入荷しています。SKI (堀田政利氏) にご注文下さい。info@triz-jp.com 。]

[追記 (2007.12.19、中川 徹):  著者と正式の翻訳契約を締結し、翻訳を開始しました。本書のより詳しい紹介、翻訳したものの一部、翻訳と出版の準備状況などを、別ページで逐次ご案内することにいたしました。「Mishra 「IT & TRIZ」翻訳プロジェクト のご案内」のページを参照下さい。]

 

 

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最終更新日 : 2007.12.19.     連絡先: 中川 徹  nakagawa@ogu.ac.jp