TRIZフォーラム: 読者の声 | |
初めての国際会議で英語で発表して |
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インタビューア: 中川 徹 (大阪学院大学) | |
掲載: 2011. 12. 5 |
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編集ノート (中川 徹、2011年12月 2日)
別ページに報告しました、アイルランドでのETRIA主催のTRIZ国際会議 (2011年11月2-4日) で発表された、佐藤彩乃さんに、その感想をお聞きしました。これは、発表直後の中川と佐藤さんとの会話、帰国後の佐藤さんの「簡単な報告」 (11月11日)、そして中川がさらにお願いして佐藤さんに書いていただいた「感想文」(11月23日) を、編集したものです。インタビュの形式ながらところどころ堅い表現なのは、メールでのやりとりによる「感想文」の面が残ってしまっているからです。
初々しく、緊張した中でも堂々と発表された、修士2年の佐藤彩乃さんの心意気を、感じとっていただけますと幸いです。
初めての国際会議で英語で発表して (ETRIA TFC 2011、アイルランド)
佐藤 彩乃 (芝浦工業大学 修士2年) -- 中川 徹 (大阪学院大学)
中川: おめでとう!! 堂々とした、いい発表だったですよ!!
佐藤: ありがとうございます。ほっとしました。
中川: 発表前は、随分緊張していた様子だったけど。
佐藤: 緊張しましたね。話し始めると落ち着きましたけど。いままで国際会議なんて出たことが無かったですから。
「行く、行く」と 自分から手を挙げた
中川: それでも、このETRIA国際会議に、「出席・発表したい」と佐藤さんが自分から手を挙げたと、長谷川先生から聞いたけど。
佐藤: ええ、海外に行けるなら、ぜひ行きたいと思ったんです。先生が旅費を補助して下さるというので。国際会議という貴重な経験をしてみたかったんです。そんなことは学生時代にしかできないことだと思ったんです。社会人になると研究職につかない限り経験することがないと思いましたから。それで、「行く、行く」と手を挙げたんです。
英語の習得
中川: 佐藤さんの英語はすごく滑らかでびっくりしたよ。どのようにして習得したの?海外で生活したの?
佐藤: いいえ。私はもともとは英語が大嫌いでした。英語が必要なら日本から一生出ないと家族に宣言していたくらいです。ところが、高校2年生の時にアメリカに行ったのがきっかけで、英語に興味を持ちました。。
中川: それは、家族と? それとも高校から?
佐藤: 通っていた英語塾で夏休みに語学学校に行く制度があって、塾長と親との間で行く話が勝手に進んでいました。そもそも、英語塾に通わなくちゃいけないくらい英語の出来が悪かったわけです。
アメリカでは半月寮で生活して授業を受けました。最初は嫌々だったんですけど、他国の人と英語でコミュニケーションがとれないことに悔しさを感じてきて。英語の必要性を強く感じました。中川: 半月だけで英語がそんなに上手になったの?
佐藤: いいえ、この半月は英語に興味を持つきっかけにすぎません。その後は英会話をやったり、1カ月 ホームステイを経験したり、いろいろ自分で勉強しました。最近は、スカイプで外国人と話したりと自分なりに英語に触れるようにしています。
中川: すごいね。
佐藤: いまはあまり抵抗なく英語にふれています。今回の学会発表も、海外でどれだけ自分ができるのか度胸試しをしたかったのです。応募の時点ではそれまで学会に参加したこともなく、学会の雰囲気すら知らなかったのですが、不安よりもワクワクした気持ちの方が強かったです。
発表内容、ETRIAの査読
中川: それで、今回の発表は佐藤さんの修士論文の研究なんでしょう。
佐藤: ええ、そうです。「ユーザの感動を設計に活かす」というテーマです。
中川: 内容を簡単に言うとどういうこと?
佐藤: 製品開発において、ニーズを理解するということはとても重要なことです。しかし、本当のニーズとは一体何なのか?という問いに答えることは難しいと思います。そこで、成功している企業の製品やサービスに着目してみると、共通する点があることに気付きました。それは、その製品やサービスを通して顧客が感動しているということ、その感動はクチコミによって次の人へと伝わっていくということです。そこで、感動したモノにまつわるエピソードから顧客の感動要素を集め、その要素をコンセプト設計の際のアイディアに組み込むことはできないかと考えました。
中川: 発表を聞いて、非常に面白かったですよ。この研究の発表は今回が初めてなの?
佐藤: ETRIAの2週間前に日本機械学会の設計工学・システム部門講演会で発表しました。それをベースにしてETRIA国際会議に投稿したのです。ただ、その後のETRIAの査読が大変でした。
中川: ETRIA TFC は、総計40人位の査読委員を依頼していて、正式学会のように、2名 (以上) の査読委員に (著者名を伏せた) ブラインドレビューをしてもらい、編集長の Tom Vaneker さん (オランダ) が著者とのやりとりをする方式を取っています。
佐藤: 査読でのやりとりですが、最初は英語が分かりにくいからネイティブチェックを受けなさいという話から始まり、その後は、内容のわかりにくい部分の書き直し、TRIZとの関わりをもっと強調することが主な指摘でした。
中川: そうですか。そういえば、中川自身の「草取りの方法とツール」という発表に対しても、Vaneker さんから、「TRIZとの関連を明記せよ」との指摘がきました。2頁以内に収めるのが大変で、結局1行だけ(隙間に)詰め込んでOKになりましたが。
佐藤: 私たちの論文も Short Paper ですから、最終原稿は2頁以内という制限だったのです。この制限のために内容を相当省略しなければならなくて、図を張るスペースもなかったのでなかなか内容を伝えられず、査読の回数が増えました。途中でテンプレートが変わって、書ける量も大幅に減りましたし。さすがに5回目の書きなおしを求められた時には心が折れそうになりました。最後は2枚バージョンと4枚バージョンを添付したところ、最終的にバネカーさんの修正により5枚で処理されました。最初は2枚と言われていたので、ちょっとがっくりな結果になりましたが・・・。でも、査読でなかなか読み手に伝えられなかった分、発表ではよりわかりやすく伝えようというモチベーションに繋がりました。・
中川: それで、TRIZとの関係という意味ではどのように言ったのですか?
佐藤: 私の研究では、ワールドカフェやTRIZといった手法を用いて、顧客の「感動」を考慮したアイディア出しを支援するシステムを提案しています。
「感動」という言葉
中川: 「感動」を、そのまま日本語を使って「Kando」と言っていましたね。
佐藤: 「感動」という感情は、日本人にとって貴重な感覚の一つだと思います。そして、この研究のキーワードです。しかし、この「感動」という言葉を査読でなかなかうまくつかんでもらえませんでした。
「感動」という日本人には当たり前の言葉/感覚でも、外国人にとっては曖昧な言葉ですからね。feelingでもimpressionでもない。しっくりこなくて説明が難しかったですね。中川: そうですね。”WOW!”というのはいかにも軽いし、”be moved”が近いかもしれないけど。それで、結局どう説明したのですか?
佐藤: パワーポイント1枚目で、感動している人の写真を出したのもイメージをつかんでもらうための狙いでした。
スライドでは、” Kando is caused by more impressive surprised pleasure compared to past experience.” と説明しました。どちらかというと感動が起きるきっかけを説明したという形になりましたが。中川: こういった日本語の概念を伝えるのは、本当に難しいですね。それでも、佐藤さんの発表の後、随分活発な質問・討論があって、よかったですね。
佐藤: 発表に対して、エレン・ドウムさんから、「カンサイ」とはどういう関係にあるのかと質問されたときには、面食らいました。
中川: そうでしたね。あれは、「感性工学」の「Kansei」だったのですが、Ellen Dombさんが、「カンサイ」「関西」というからほんのしばらく混乱しましたね。
佐藤: 「Kansei (感性)」 と 「Kando (感動)」は別の言葉で、「Kando is a kind of Kansei. 」と説明しましたが、それ以上は自分の英語能力では説明しきれなかったです。
それに、感性と感動の受け取り方というのは日本人でも統一されていない、その個人の感覚による部分だと思ったので。発表後に
中川: 発表と討論が終わってからも、何人もの人が佐藤さんのところに行って話し掛けていましたよね。
佐藤: ええ。「感動」について、海外の方から何人も声をかけてもらって、とても嬉しかったです。日本人特有の感性が伝わるのかという不安もありましたが、少しは聞いてくれた人の関心を得ることができたかと感じています。
中川: どういう場面で、自分のプレゼンテーションが相手に伝わったと感じましたか?
佐藤: 遊びなしのプレゼンをしたため、発表中は聴衆のリアクションは特にありませんでした。質問をもらったとき、発表のあとに声をかけてもらったときに初めて、相手に伝わったんだなと感じました。
中川: 佐藤さんの発表は、原稿を持たずに (原稿を覚えるのではなくて) 直接に自分の言葉で話していたから、すごく立派ですよ。聴衆も、本当に引き込まれて聞いていたと思いましたよ。
佐藤: 後で海外の何人ものの人たちから、素直に、「面白い内容だった」というコメントをもらえたことが一番うれしかったです。
中川: 本当に立派な発表だったですよ。
ETRIA 国際会議の印象、学んだこと
中川: ところで、海外の人たちのプレゼンテーションを見たり、聞いたりして、どんなことが参考になりましたか?
佐藤: 研究の着目点が日本にはないものが多かったので、そういった視点の違いがおもしろいと思いました。それで、今後の自分の研究に生かせたらと思い、他の人たちの発表を聞いていました。
中川: このETRIAの学会で、どんなことが印象的ですか?
佐藤: TRIZの汎用性の広さについてです。TRIZはマイナーな手法だと思っていた私にとって、日本では見たことのなかったさまざまな分野での研究発表があり、TRIZの新たな一面を感じるとてもよい機会となりました。
中川: そうですね。設計工学への正面から取り組み、ソフトの開発、生物学とTRIZ、教育への応用、など日本にはまだまだない面があります。
佐藤: サムスンやLGの方の発表はもちろんのこと、韓国の方々のアグレッシブさがとても印象的でした。同じアジアの人間が積極的に活動しているのを見て、自分ももっと頑張りたいと思います。
中川: そのとおりですね。韓国の人たちは、このETRIAの国際会議にはこの数年6人〜10人程度で参加し、その発表もどんどん立派なものになっています。アグレッシブさ、向上心、自信などを感じます。
若い人たち、仲間たちに
中川: 佐藤さんのように若い人が国際会議で発表したというのは、日本のTRIZにとって、非常に有意義な、嬉しいことです。
佐藤: 修士の学生という立場ながら国際会議で発表をして、聞いて、いろいろな国の人と交流するという経験ができて大変嬉しく思っています。たった数日間の出来事でしたが、私自身、TRIZに一層興味を持ちました。今後国内の学生間でもTRIZの研究が盛んになると面白くなるのではと思います。
中川: 今回の学会での感想を通じて、同年代の人たちに何かメッセージをいただけますか?
佐藤: 英語が喋れて当たり前といわれる今ですが、海外に興味をもたない若者が多いと言われているのも事実です。しかし、世界に出てみると知らないことがたくさんあって、私はその度になんだか損してきた気分になります。世界に出てみなければわからないこと、感じることのできないことがたくさんあります。私はこの数日間で、沢山の刺激を受け、多くのことを吸収することができました。今後下の世代の人たちにも、国際会議に行く機会があればどんどん挑戦して、たくさんのことを経験してもらいたいと思っています。
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最終更新日 : 2011.12.19 連絡先: 中川 徹 nakagawa@ogu.ac.jp