編集ノート
(中川 徹, 2001年8月31日)
本件は標記のように, USIT法の開発者Ed Sickafus博士のWebサイトに掲載されたものを, 和訳・掲載するものである。 質問者の Matt Smith氏は, フォード社におけるSickafus博士のUSITセミナー受講者で, 後にUSIT専門チームに9ヶ月間所属したが, 最近別の会社に転職した。その新しい会社で, USITのトレーニングプログラムを組織的に行うための準備のやり方を質問している。Sickafus博士が, それに対して懇切に説明している。米国の企業文化において, マネジメントにしっかりしたプレゼンテーションをして, 「USITインストラクタ」 という職を自ら獲得するためのアドバイスをしている。すでに高いレベルの基盤と経験をもっている質問者に対する返答ではあるが, 日本でTRIZ/USITを学び, 社内で推進しようとしている読者の皆さんにも参考になることと思う。翻訳と掲載の許可を頂いた両氏に感謝する。Matthew B. Smith (Westinghouse EMD, USA) email: "Smith, Matthew B." <matthew.smith@wxemd.com>
Dr. Ed N. Sickafus (Ntelleck, USA) email: "Ed Sickafus" <ntelleck@ic.net>なお, Sickafus博士は, USITに関する日本の読者からの質問をも歓迎しているので, 質問されるとよい。本件に関連して, USITを学びつつある初心者から試行錯誤中の実践者までに対するUSITの学び方のアドバイスを, 中川からSickafus博士に質問しているところである。近くUSITQ&A03として掲載される予定である。
USIT
Q&A02 (Ed Sickafus, www.u-sit.net, Aug. 24, 2001)
USITプログラムを社内で始めるにはどうしたらよいでしょうか?
質問: Matt Smith
私の [移った] 新しい会社には, USITが非常に有用だろうと考えますので, USITをここで教え始めるための戦略を立てようとしています。ここは小さな部門で, 全体で約200人の技術者がいます。この種の方法に関して, 懐疑的よりはむしろ受け入れるだろう人たちが沢山います。USITのクラスを始めるにあたって, あなたの助言をいただきたいのです。フォードで教えたあなたの経験から, どんなことを推奨くださるのか。USITに関してマネジメントにアプローチするプロセスや, 教え始めるに際して, 私が何をするべきで, 何をするべきでないか, ご助言下さい。
[Matt Smith 紹介: 1997年に, フォード自動車社のAVTD (先進車両技術部門) 所属の技術者であったMattは, 社内SITクラスを受講した。SITに対する興味は急速に大きくなった。毎週のSITユーザズグループの常連の参加者となり, SITクラスで補佐をし, 自分の部門でユーザグループを始めた。彼の力量と熱心さを見て, 研究所SITチームが彼に参加するように招き, 彼は上司から9ヶ月間のSITチームへの出向を許された。彼はそこでUSITの技量を磨き, いくつかの社内の課題についてチームのチャンピオンとして活動した。彼はその後フォードを退社し, 現在, 旧ウェスティングハウス社のEMD (電子機械部門) で働いている。彼はそこで, 会社の同僚たちがUSITを知るのを助けたいと思い, 新しく全社的なUSITトレーニングプログラムを開始することを計画している。]
返答:
Ed Sickafus
マット君, 君と私の出発点の状況は違っているけれども, 私が直面しなければならなかったのと同じ課題のいくつかに, 君もやはり直面するだろう。そこで, この問題をつぎの 4セクションについて答えよう。マネジメントが知ること, マネジメントの受容, マットにその仕事の責任を与えること, そして, 君が準備すべきこと。1. マネジメントが知ること
君と私の立場は, この点で最も大きく違っている。2. マネジメントの受容違い: 私は, マネジャの一人として, 発明的な問題解決のいろいろの方法論を評価し, 広範な研修プログラムを作るための決定ができるようにする, という仕事を任された。私の上司はUSITのことを知らなかったけれども, そのような [発明的な問題解決の] 方法論がいろいろあることを知っており, また, 社内にそのような需要があることを知っていた。
類似点: 自分の調査を完了した後においては, マネジメントに対して, すでに存在する問題解決の諸方法論の能力について知らせ, それらの長所・短所を助言し, そして, 推奨する方法論を実施・定着させるための計画を示すことが, 必要であった。
進歩的な会社なら, マネジメントが知ることで,すでに, マネジメントの受容が始まっているといえる。そのような企業は, 新製品開発や一般的な問題解決 (特に, 緊急の問題処理) における技術革新の必要性を知っている。しかしながら, これらの, 一見したところさまざまに異なる問題分野の [技術革新の] 要求が, 一つの同一の汎用問題解決方法論を使ってアプローチできるということには, 気づいていないかもしれない。3. マットにその仕事の責任を与えること技術者たちは, 問題解決の自分たちのスキルを改善する必要があることを知らないかもしれない。構造化された問題解決の方法論が存在し, 自社内で利用可能にできるのだということを, 技術者たちが知る必要がある。そこで, 君は, 自分の身近なところに電子メールを出して, そのような方法論の力 [有効性] を説明し, 潜在的な興味があるかどうかを尋ねる調査をするとよい。君自身の証言が有用である。
マネジメントが知る必要があるのはつぎの諸点である。
私は, フォードのさまざまの部門のマネジメントに対して, 上記のメッセージを伝える多くのプレゼンテーションをした。社内トレーニングプログラムを開始してから後も, 私はマネジメントへのプレゼンテーションを続けて, 新しい顧客 [の技術部門] を見つけるようにした。社内の技術者たちが, 発明的な思考法のトレーニングを必要としていること (前述の社内調査の結果 [を見せるとよい] ),
発明的な思考法を教えることができること,
構造化した諸方法論が発明的な思考に有効であること,
それら [方法論] が [それ自身で] 解決策を与えはしないが, 速やかに有用な発見ができるように技術者たちを導くこと,
いくつかの方法論が存在すること,
最終的な有効性を測るには, 迅速さ, 複数の解決策コンセプト, 実現可能な解決策コンセプト, および発明的コンセプトを, 用いるべきこと。
(注意: ある特定の解決策が, その特定の方法論の有効性を証明するものだと, マネジメントに誤解させないようにすること。解決策というものは, [取り上げた] 問題に属するものであり, それを見つけた方法に属するものではない。(これは私の哲学である))[中川の補足: 一つの問題を, いろいろな方法論で解けば, 遅かれ早かれ, 同じような解決策が得られるだろう。試行錯誤でも, 無限回なら到達するかもしれない。方法論のポイントは, その速さと, 一定時間内での豊富さにある。]
社内教育は, 方法論を社内の特定のニーズに適合させることができる。
社内教育では, 社内情報の機密を守った上で, 現在の大事な社内課題をクラスで取り上げることができる。
社内教育は, 社内支援を可能にする (ユーザグループ [による支援] など) マネジメントはまた, この可能性をどのようにして有効利用できるかを, 知る必要がある。そこで, 君は, しっかりした, そして経済的な計画を作る必要がある。君が [実施者のひとりとして] やりたいのなら, 計画を自分で創らねばならない。まず, 試案を作り, 君のマネジメントに示してみて, 新しいアイデアを貰うようにすることを薦める。その [計画の] 内容としては, つぎのようなものを含んでいるとよい。
一年後に気がつくと, 私は, ドイツ, イギリス, およびオーストラリアにある, フォード (およびジャガー) の技術部門で, プレゼンテーションをし, いろいろなクラスを教えていた。社内インストラクタと教材の開発
マネジメントへの概要のプレゼンテーション
技術スタッフ (およびマネジメント) へのデモンストレーションのプレゼンテーション
構造化したブレーンストーミングのセッションで, 会社の一つの問題を取り上げ, USITインストラクタ (すなわち, 君) が指導するもの
シラバス [訓練コースの教育内容の記述]
社内プログラムで, トレーニングのセッション (3日間のクラス, 3ヶ月に1回, 各クラスは9人から12人の受講者 (クラス内のグループ演習で3グループに分けられるように)), および修了者に対するユーザグループセッション (毎週1.5時間) を備えたもの
クラスでは, 学術的な問題 [教科書問題] と, 会社の実世界の問題でよく定義されたもの ([定義の] ルールについては君が知っているとおり) を扱うこと。
成果に対するマネジメントのレビューと評価 (最初の評価は, 最初のクラスを開いてから12ヶ月後)
社内の他の部門に対する概要紹介のプレゼンテーションを並行して計画すること (方法論を後に提供するため)。 また, フォード研究所の当時の副社長が私のコースを履修し, USITに非常に感銘を受けた。その結果, 彼は私に, 世界中の自社の問題にUSIT方法論を適用するために, 専門家チームを作るように依頼した。君もそのチームにいたんだ。
上記の (2.) のようなプレゼンテーションをした後では, 明らかに私の競争者はフォード社内にいなかったし, 君の場合にもいるだろうとは思えない。あるいは, 別の見方をすれば, 「君はとりこになったんだ! 」4. 君のするべき準備
君はUSITインストラクターの職にタックルするための, 非常にすばらしいスタートをもうすでにしている。(フォードのUSITクラスを修了し, ユーザグループに参加し, クラスの助手をし, 君の部門でのユーザグループの組織者・リーダをし, さらにフォード研究所のSITチームのメンバにもなった。)さらに磨きをかけるには, USITの教科書事例の一つを選んで, それをきちんとしたスライドのプレゼンテーションに作ってみる (特に, 図表を全部作る) ことを薦める。何かを学ぶには,それを教えるのが一番良い方法だ。私はこれを, USITトレーナー訓練コースの一つの演習として課しており, 第二の演習はあるすでに知られている解決策について, リバースエンジニアリングをする [跡づけで解析する] ことである (私 [Ed Sickafus] のWebサイトにある例を参照のこと)。
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