TRIZ論文
『ブレイクスルー思考法』 ユーザ・マニュアル
 Larry K. Ball (Honeywell, USA),
 TRIZ Journal, 2002年 3月号
 和訳: 中川 徹 (大阪学院大学), 
 2003年 3月  1日  
  [掲載:  2003. 3. 5. ]     許可を得て掲載。 無断転載禁止。
 著者のメッセージとプロフィル (L. Ball, 2003年 3月 4日) [掲載: 2003. 3. 5]
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編集ノート (中川  徹, 2003年 3月 1日)

このLarry Ball の原文はちょうど1年前にTRIZ Journal に掲載された。PDFファイルで 6MBになる本体の教材『ブレイクスルー思考法』 ("Breakthrough Thinking") と, その考え方と使い方を説明した「ユーザ・マニュアル」 (PDF で 1.8 MB) とからなる膨大な資料である。ここにとりあえず後者だけを和訳して掲載した。

小生はこの論文を見過ごしてしまっており, 昨年11月にETRIA 国際会議 ("TRIZ Future 2002") で自分の発表をしたときに, Ellen Domb からこの論文のことを教えてもらった。帰国後ダウンロードしてみて, その膨大さと緻密さに感激し, 読み始めたが, 初めは読んでも読んでも頭に入らなかった。TRIZの全体系を独自に整理し直して, 独自の言葉で, 独自の問題解決プロセスとして説明しているからである。著者はTRIZを学び研究して10年, その間にHoneywell 社でTRIZを教えながら何十回と書き替えたのが, この全教材であるという。

小生がこの教材の翻訳を願い出たのは 1月 2日のことであった。Larry Ball氏から快諾をいただき, オリジナルのPowerPointの全ファイルを入手した。そのファイルは, TRIZ Journalに公表後さらに (特に初めの方のステップを) 修正したものであるという。今回和訳したのは, この最新版ではなく, 2002年3月に公表された (教材本体とセットになっている) 版である。教材本体の和訳は随分先にしかできないので, 読者の皆さんには英文版を参照してもらう他ないと考えたからである。

和訳において, 訳注 (補足) を [ ] 内に示した。特に節の見出しにおいて, 問題解決のステップを明示するのに使っている。また, 節や見出しに, (著者の了解を得て) 階層的な番号を付けた。原論文は節の構造を見出しのスタイルと字下げとだけで表現していたが, 今回の階層的な番号付けにより問題解決のプロセスの構造が格段に明確になったと思う。(序論を0節とし, 逐次実施する 6段階の問題解決法を 1節〜6節とした。)

この論文から学ぶべきことは随分多い。

(1) TRIZの諸理論・諸解法を独自の観点から再整理して, 新しい体系を提示している。
(2) やさしい用語を用い, 一つ一つのステップ幅を小さくして, 確実に進んでいく問題解決プロセスを提示している。
(3) 問題解決のプロセスは (いくつかの枝分かれはあるが) 一連の直列な過程として進行する。
(4) 機能に注目して問題システムを図式化し, さらに解決策自身を可視化する。
(5) 機能の面だけでなく, 性質/属性の面の分析があり, それが解法に有効に寄与している。
(6) 解決プロセスの各段階の詳細ステップに対して, 多数の解法を図式化して例示している。
(7) 特に, 物理的矛盾に対する解決策の例示が, 多様で分かりやすい。
(8) 全体として, 非常に多数の創造的な解決策を確実に創り出すプロセスになっている。
(9) 米国Honeywell社において, 10年の研究と実践に裏打ちされた技法である。
この「ブレイクスルー思考法」という体系は, 本ホームページで発展させてきたUSIT法と, 非常に似ている点が多くあり, そしてまた, 違う点もいろいろある。今後さらに学べば学ぶほど, この論文の含蓄の深さを認識することになるのだろうと思う。

それにしても, 「ブレイクスルー思考法」という仕事が, 10年の研究と実践の後に初めて公表されたことは, 驚きである。米国の企業内でのTRIZの浸透の深さや広さは, いままでほとんど公表されていない。米国の企業内研究者の層の厚さを考えれば, あるいは驚くにあたらないのかもしれない。米国の多数の大企業/先進企業にTRIZが導入されて10年以上経とうとしている現在, さらに多くの学術的な発表がなされるように期待したい。

本稿の翻訳・掲載を許可いただいた著者および関係組織に改めて感謝する。

著者:          Larry K. Ball  (Honeywell社) :  Email:  larry.ball@honeywell.com
所属企業:   Honeywell International Inc.  (USA)     Web site:  http://www.honeywell.com/
原著掲載:   TRIZ Journal    (編集者:  Ellen Domb & Michel Slocom)


[補足の注意:   著者は (TRIZの物質-場分析にほぼ対応して) システムの核心部分を「機能」の面から捉え, 問題解決のプロセスを展開している。その用語は, 本稿 0.4節で規定している。オブジェクトBがオブジェクトAに作用しているとき, 本稿では「「ツール」(B)が「プロダクト」(A) に「変更」を起こす」という用語を用いる。本稿和訳で, ツールとプロダクトという言葉は(特に「 」をつけていないことが多いが) すべてこの意味に使っている。一方, 「変更」という言葉には必ず「 」を付けて示し, これが上記の意味の著者の一貫した用語であって, 単に「変える/修正する」という意味ではないことに注意されたい。]

[追記 (中川, 2003. 3. 5):  小生からの要請に対して, 著者から下記のメッセージをいただいた。ここに感謝して, 掲載する。TRIZを学び/実践しようとするわれわれに多くを教えてくれる。]


著者のメッセージとプロフィル (Larry Ball, 2003年 3月 4日)  (訳: 中川  徹)

中川  徹 様, Hugo Sanchez 様

私がいつも少々驚かされるのは, 私が書いたものが他の人たちが書いたTRIZと違っているといろんな人から言われることです。私自身では, TRIZを応用しただけのものだと思っています。自分の仕事をTRIZの本流から分離したり, 自分を権威づけたりしたいとは願っていません。

私の経歴をここに書きます。1980年にブリガム・ヤング大学を卒業し, 1981年に同大学で修士号を取りました。卒業してすぐ, エレクトロニクスの企業に入り, コンピュータの周辺機器の仕事をしました。1985年にHoneywell に入り, アナリスト/エンジニアとして仕事をしています。私の職務の大部分は, 当社で製造している水力関連の製品の研究開発と静的/動的解析です。私は会社の仕事でも活発な発明家ですから, 研究開発の過程でTRIZを使う機会が多くあります。1994年以来多数のコースで教えてきました。TRIZのトレーニングの需要は, DFSSの本流としてTRIZの導入が決まって以来, 急速に増大しました。

私が初めてTRIZに接したのは, 1991年のことで, [アルトシュラーの著書の英訳] "Creativity as an Exact Science" [『厳密科学としての創造性』, 邦訳なし] を読んだときです。それを読んで以来, TRIZを集中して勉強し, 使うようにしてきました。そのときすでに活発な発明家でしたが, さらに向上したいと思ったからです。学ぶにつれて, [TRIZに] 多くの学派があるのを知りました。私は "Creativity as an Exact Science" に掲載されているARIZをコピーし, それを使うことにしました。トレーニングに参加し, 新しい洞察を読んだり受けたりするたびに, それら [の洞察] をこのアルゴリズムの中に組み込みました。私が読んだすべての記事がこのアルゴリズムに吸収されていったのです。

1996年頃, 他の人たちにも使って貰おうと思って, 私はそのアルゴリズムを書き出し, 分厚いハンドブックのようなものを作りました。しかし, みんなが「あまりにもばかでかくて使えない」というので, 私のもくろみはつぶれてしまいました。そのとき私の学生の一人が, いわゆる「アンチョコ」を創ればよいと言ってくれたのです。それは, ハンドブックを短くしたもので, 多数の例を組み込んであり, 学生が記憶しやすいようにカラフルで視覚に訴える図を多く含んだものです。要するに, もっと短いアルゴリズムに戻り, もっと興味を引くようにして欲しいという要求でした。私はこの助言に従いました。それは非常に良いアイデアだと分かりました。なぜなら, 新しいアイデアをいままで以上に容易に吸収できたからです。また, 必要に応じて,  [アルゴリズムの] ステップを組み替えるのも容易になりました。(他の人たちの著述から影響を受けるたびに, この容易さが必要なことを経験しました。)

2002年 3月に私の最初の作品を『TRIZジャーナル』で発表しました。それ以来, 多くの来信があり, さまざまな改良の提案を貰いました。これらの提案で私は深く考えることになり, いくつもの有用な修正をしました。2002年 3月の記事の改訂版を近く発表するつもりです。

Larry Ball    2003年 3月 4日


 
本ページの先頭 0. はじめに 1. 高い目標を立てる 2. クリティカルな機能を特定する (原因と結果)  3. 「部分」を消去/置き替え 3.1 有用機能の場合 3.2 有害機能の場合 3.3 報知機能の場合
4. 極限にまで改良する 5. 矛盾を解決する 6.拡張し併合する 7. 考察と結論 参考文献     英文ページ (編集ノート, 著者メッセージ)  『ブレイクスルー思考法』本体 (英文) 




 
 

『ブレイクスルー思考法』 ユーザ・マニュアル

Larry Ball (Honeywell, USA)
Email:  larry.ball@honeywell.com
Tel. +01-480-592-5919

0. ブレイクスルー思考法

0.1 はじめに

この論文はTRIZジャーナルの今月号 (2002年3月号)に掲載しているもう一つの記事『ブレイクスルー思考法』 (本体) [0] について説明したものであり, そこでは, TRIZの諸ツールを一連の解決プロセスに並べて示した。本資料は, 読者個人が各自のTRIZ学習のために使うことができる。本資料をクラス教材その他に使用したいと思う人は著者に連絡されたい。 TRIZの論文と問題解決プロセスを公表し, TRIZコミュニティと連絡をとることを, 著者の所属企業は著者に許可した。ただそれは, 著者の出版物やコミュニューションを直接に/暗黙に読者に提供したことを意味しない。

『ブレイクスルー思考法』 (本体)[0]  をプリントアウトして, バインダーに入れることを読者に奨める。すぐに参照ページが見つかるように見出しもつけている。各見出しは, バインダーの表紙に示したトップレベルの6ステップに対応している。


バインダー

レベルの違う複数のクラスを用意して, 学生たちの能力や興味にマッチさせるのはよいことだ。解決プロセスの最上位のもの [最も高度なもの] をここに示す。

この作品は, 私の10年間に渡る, クラスでの学習, TRIZ専門家から受けた個人的指導, そして自分自身の研究, 教育, および適用の成果であり, 何十回と書き直したものである。その中心には「機能」の概念がある。
 

0.2  TRIZツール群の直列化

本論文を発表する一つの目的は, TRIZを新しいレベルの科学に導くのに役立つであろう一連の研究を紹介することである。現在のTRIZのツールセットは互いに大幅に重複している。この重複のために, 与えられた一つの問題に応用するのに, どのツールが最適であるかが分かりにくくなっている。これらのツール群の各ステップをばらばらにして, 関連したグループにまとめ直すと, いままで見えなかったパターンが現れる。この研究方法は, 下記の数列群で例示できる。

各数列はTRIZの各ツール, 例えば物質-場分析や40の発明原理など, を表している。同じ数が現れているのは, 各数列間に重複があることを示す。各数列は小から大へと並べられているが, 何のパターンも見出せない。われわれを導くパターンが分からなければ, 何が欠けているのかを見つけることは難しい。そこで数列群から数を抜き出して, 組み換え, 下記に示すように, 正の偶数群, 正の奇数群, 負の偶数群, および負の奇数群にまとめよう。

これらのグループの文脈によって, パターンが現れる。例えば, 負の偶数群に -4が欠けていること, 正の偶数群には +6が欠けていることが分かる。

『ブレイクスルー思考法』 (本体) に記述したものは, 標準的なツール群を組み換え直し, 解決手順を関連するステップで表現した結果である。注意したことは, 全ステップを一列に並べて, ある一つのステップを実行するためには, その前の諸ステップを実行しなければならない, あるいはそれらの結果を前提としなければならないようにした。例えば, 矛盾を解決するためには, ある種のキーとなる情報を知らなければならない。これらの情報は前の諸段階で作られるか, あるいは無意識下に前提される。その結果, 解決プロセスはいくつかの分岐点を自然に進み, 複数の解決策に分岐する。

いくつかのよく知られた有用なツールがまだこの中に含まれていないことが分かっている。読者のみなさんにその改良を提案してほしい。もし読者がもっと自分に適した順に諸ステップを組み直したいと思うなら, (本体のPDF版の) 元になるPowerPoint ファイルを請求されれば, 考慮するであろう。
 

0.3  解決プロセスの目標

解決プロセスの形式を作るにあたって, 下記の諸目標に従った。

(1) 調節可能性

解決プロセスは, 学ぶ者の能力と興味に応じて, さまざまのレベルで教えることがでぎるべきである。トップレベルの6ステップは必ず教えるが, サブステップは最初は省略するか単純化しておき, 学生がマスターしてくるにつれて加えていく。この教授法は, 音楽から数学まで, 多くの科目の教育に広く使われている。ポイントは, 学習プロセスの中で成功を体験させつつ, 学生の能力を徐々に増すことである。

(2) 機能への注目

多くの分野において, 「機能」が問題解決の言語になってきている。本稿の問題解決プロセスでは, ほとんどすべてのステップが機能概念に関連している。

(3) やさしい用語

多くの専門分野と同様に, TRIZの用語は学びにくいことが多い。解決プロセスの一つの目標は, 学生がすでによく知っている概念に適合した用語にすることである。例えば, 「ダイナミック性」は「調節可能にする」に改め, 「局所的性質」は「非均一にする」に改めた。それでも, かなりの数の新しい用語が不可避であった。その場合には, 初心者の学生たちを混乱させないように, 高レベルのクラスではじめて導入するように注意した。

(4) ステップ幅を小さく

多くの初歩の学生が, TRIZの文献に示されている一見「自明な」目標と解決策の組につまずいてしまう。これらの解決策の多くは, 示されてから初めて自明だと分かるもので, 直観的な大きな飛躍を内包している。一部の教師たちは, これらの大きな飛躍がTRIZの力を証明するものと思い, それらを学生たちに印象づけようと試みるだろう。しかし, 不幸なことに, 多くの学生たちは, そのような解決策が自分にはそれほど自明でないと感じ, 落胆してしまう。本稿の解決プロセスの一つの目標は, このステップ幅を小さくして, 少数の大きな飛躍によるのでなく, いくつかのもっと小さいステップによって, 解決策を導出できるようにすることである。

(5) 視覚化

「ステップ幅を小さく」というコンセプトと同時に, 解決策の実現のためには視覚化する必要があると考える。各ステップは, 最終的解決策を視覚化するように, 問題解決者を助けるべきである。古典的TRIZの諸ステップを展開 (詳細化) すると, エレガントさや簡潔さが犠牲になると感じる人がいるかもしれないが, 解決策をより簡単に視覚化できるようにすることが目標でなければならない。

(6) 解決策の完全さ

「解決策」という語は, さまざまの人で違ったものを意味する。本稿の解決プロセスにとっては, 一つのスケッチで, それを使ってハードウェアの設計を始められるようなものを, 解決策と言う。難しい矛盾や解決すべき問題が残っていてはならない。この意味からいうと, 問題を解決するのに使えるかもしれない物理的現象を指摘しただけでは, まだ解決策とは言えないだろう。なぜなら, その後, 実際的な解決策を明瞭にするまでに, 多くの難しい問題に遭遇することは避けられないからである。


0. 4  機能に関する用語:

TRIZの用語の増殖 (煩雑化) は望ましくなく, 新しい学生がさまざまの著者の間の用語を翻訳するのを困難にしていることが, 認識されている。ときには, 同じことをいうのに異なる用語が使われている。読者が『ブレイクスルー思考法』 (本体) を読むときの「翻訳」のために, 一貫した用語をここに作る。

一つの「システム」とは, いくつかのオブジェクトの一つの集合であり, 一つの機能を提供する。

本稿と『ブレイクスルー思考法』 (本体) では, 作用を受ける物理的な「要素」を「プロダクト」と呼ぶ。他の文献では, オブジェクトとか, 人工物とか呼ばれているだろう。「プロダクト」に作用するオブジェクトを「ツール」と呼ぶ。

ツールがプロダクトに対して行う作用 (行為) あるいは変化を「変更 (Modification)」と呼ぶ。いくつかの文献では, これは作用 (行為 (action)) と呼ばれている。普通, 一つの動詞である。「変更」という用語は多くの読者には初めてのことであろうが, この語を用いる理由は, 作用する動詞が変化あるいは維持を記述しなければならない, という要求を強調するためである。これは新しい学生にとってはときとして理解しにくい。著者は学生たちに, 最初は「長形式 (long form)」で「変更」を記述することを奨励している。長形式は「変化させる (Change)」または「維持する (Maintain)」の語で始まる。例えば, ツールの「液体」と, その液体に浸されたプロダクトの「温度計」との間に起こる作用を, つぎのように記述できる。この「変更」の「短形式 (short form)」の記述は「加熱する」または「冷却する」である。この「変更」の長形式の記述は, 「温度を変化させる」である。

「変更」という用語を使うことによって, ツールとプロダクトとは物理的「要素」でなければならないことを学生たちが理解しやすくなる。これによって, 例えば「ペンキが木 (材木) を保護する」といった, 「紛らわしい機能」について, 学生が正しく記述することをも助ける。「保護する」という語は動詞であるが, それは木に対する変化を記述していないから, 「変更」とは言えない。「保護する」という語を使うことに固執すると, 問題解決者はその後のステップで困難に遭遇するだろう。長形式は正しく記述するように学生に直接的に奨める。「ペンキが -- 湿気の位置を維持する」および「木が -- ペンキの位置を維持する」である。すると, 短形式は, 「ペンキが -- 湿気を -- 止める」および「木が -- ペンキを -- 保持する」と表現できる。長形式をしっかり確立すると, 学生はより簡潔な短形式での「変更」の記述に容易に戻ることができる。

プロダクトへの「変更」は「効果 (Effect)」によって起こされる。「効果」という用語は, TRIZ実践者たちが導入した便宜的造語であり, 物理的な現象をグループ化して認識することを可能にした。「効果」の一例は「毛細管作用」であろう。毛細管作用の「効果」は, いくつかの異なる分野が関与する複雑な原子レベルでの物理的相互作用によって生じる。しかしながら大抵の人々は, 液体が細管中を登るデモから, 毛細管作用の現象をすぐに思い起こすことができる。TRIZの文献はこのような「効果」の多数の表を含んでおり, 非常に有益である。

場 (Field)」は, TRIZの文献に記されている, もう一つの便宜的造語である。基本的な「場」, 例えば, 振動, 電磁放射, 重力, 機械的応力, 圧力などのさまざまなもの, を認識できるグループとして語ることをわれわれに可能にしてくれる。これらの「場」のうちのいくつか (臭いとか味とか) は, やや普通でないと見えるかもしれない。上記の「効果」は, 一つまたは複数のオブジェクトとそれに付随する「場」によって起こされる。

まとめると, 「ツール」が「効果」を起こし, それが「プロダクト」に「変更」を起こす。
 

0.5  解決プロセスのステップ:

以下 [1節〜6節] に述べるのは, 『ブレイクスルー思考法』 (本体) に記述している解決プロセスのステップを説明したものである。

 

1.  ステップ1:  高い目標を立てる

このステップでは, つぎのことを明確にすることが重要な成果である。

どんなシステムであるか?
上位システム内で何を変え, 何を変えないようにしているか?
われわれが克服したい主要な欠点は何か?
その変化の結果として, システムおよび上位システムに何が起こることをわれわれは望んでいるのか?
コストなど, システムの対価としてわれわれが最大限許容できるものは何か?
1.1 対象システムを選択または創造する

改良を必要とするシステムを同定することは, 解決すべき問題の焦点を絞り, システムの欠点をずっと明確にするのを助ける。もし対象システムが現在存在しないのなら, 代わりのシステムを推測あるいは創造することが許される。

1.2 顧客の要求とシステムの欠点を決定する

顧客を特定し, 顧客と共同して, システム要求と現在の欠点を決定する。

欠点が本当に存在していることを検証するのが大事である。信頼性の改良の分野ではこれは特に真実である。サービス工場のデータは誤解を生みやすい。例えば, 修理工場はある種の製品の故障を繰り返し見ているので, その製品に信頼性がないと結論するだろう。しかし, 長期間うまく動いているその製品のすべてのユニットを修理員は見ていず, それらが全体的な信頼性を非常に高くしているかもしれない。

1.3 現在の技術システムまたはプロセスをモデル化する:

システムまたはプロセスをモデル化するのに機能分析を使う。現在のプロセスをモデル化するのは, 何が欠点を起こしているかを決定する助けになるであろうが, ここのモデル化は原因-結果分析の主ツールではない。このステップは, このシステムが本当にどんなものか, また, プロダクトに変更を加えることの代償が何かを決定するのを助ける。(注意: プロセスダイアグラムには, 分解・結合に対して, 機能表現と類似の構造が導入されている。古典的な機能モデルは, このような自発的化学プロセスをうまく記述することができない。)


 

1.4 要素またはプロセスステップの価格を決める:

システムのプロダクトに必要な機能を与えるための代償を知っておくことは, われわれの目標に影響を与えるであろう。

1.5 高いバーを設定する:

[跳び越えるべき] バーを高く設定することが極めて大事である。システムの代償 (例えばコスト) に十分な制約を加えたときにはじめて, 目標が高くなる。(大きなコストがかかり, 複雑性が増えるようなシステムの改良なら, 誰だってできる。) TRIZを実践する者たちは, ますます困難な問題を攻略できる自信を得ていくので, ゴールを高く設定することを躊躇しない。高いゴールは, 解決への努力を奮い立たせることができる。グループで作業しているときは特にそうである。

 

2.  ステップ2: クリティカルな機能 を特定する  (原因と結果)

システムが問題すなわち欠点をもっているときには, 通常クリティカルな機能連鎖がある。そこでは, 機能群が互いに原因あるいは要求によってつながっている。これらの機能群が問題解決プロセスの初期に発見されれば, それによって「正しい問題」を解くことができる。どんな問題解決方法論でも, その初期ステップ群の一つは, 何らかの形の原因-結果分析を通じて, 最も重要な機能群を特定することでなければならない。

よくある間違いは, ひじ掛け椅子に座りながら (頭の中の考えるだけで) 原因-結果を帰属することである。宿題をやりなさい。インターネットで検索しなさい。その主題の本を読みなさい。その主題の専門家と話し, 彼らの言うことを慎重に検討しなさい。(専門家の間でさえ多くの間違った情報があるから。) 自分の手を汚して実験をし, 顕微鏡で観察しなさい。理論を作り, 定量化し, 検証しなさい。その操作の理論が自明だと思うときでさえ, そうするとよい。 操作の新しい理論が作り出されることもよく起こることである。このステップは通常最も時間が掛かる。しかし, もし適切な時間を掛けると, 膨大な利益を生み出す。
 

問題解決者には,つぎの5種の主要なことをするように奨める。

1) 理論を作る

2) 理論を定量化する

3) 理論を検証する

4) 制御変数を同定する

5) 原因関係の連鎖を作る


2.1 機能の連鎖

機能の連鎖は因果関係のリンクを作る。この方法は, 解決プロセスに示すように, 『Systematic Innovation』[4] に記述されている「問題の定式化 (Problrm Formulation)」と同様である。

この事例では, 庭用の通常の (硬い爪先でできている) レーキ [金属の熊手] がどうして (ばらばらの) ごみをうまく集められないのかを, 考えている。従属変数であるごみの「洩れ (率)」が高い。それは, 「庭用のレーキがごみを集める」という機能において生じ, いくつかの独立変数 (例えば, 爪の間隔, ごみの存在, 爪先の硬さなど) によって制御されている。従属変数である洩れ(率) に値 (例えば, 高い) を与えることができ, 独立変数である間隔 (広い), 存在 (存在する), 硬さ (高い) にも [( )内に示したような] 値を与えることができる。これらの (独立変数の) 値が, 従属変数である洩れの値を高くしている。また一方, これらの独立変数のそれぞれの値は, 他の有用な機能を果たすために要求されたものであったり, 自明な理由で設計に組み込まれたものである。例えば, 爪先が硬いという性質は, もう一つの機能, すなわち, 埋まったごみを取り出すために必要とされている。爪先の現在の形は重要でないかもしれない。

興味深い矛盾が明らかになる。われわれはつぎのことに気がついた。爪先の硬さは埋まっているごみをとりだすためには硬い必要があるが, 一方, 地面の凸凹に追従してばらばらのごみを集めるには軟らかくなければならない。爪先が硬くなければならない理由は, 土をならすなど, 他にもあろう。そこで, 爪先は硬く, かつ軟らかくなければならない。この矛盾をどうしたら解決できるかについて, 後で考察しよう。

著者は, これらのダイアグラムを作るのに, フローチャートを描くソフトウェアを使うように奨めている。その図がだんだん複雑になり, しばしば並べ替える必要が出てくるからである。

 

3.  ステップ3:  「部分」を消去または置き替える

クリティカルな機能群を決定すると, つぎの質問は「どのようにしてこれらの機能を改良できるか?」になる。クリティカルな機能の一つを改良するのは, 二つのステップに分解できる。その初めのステップ[すなわち, ステップ3] は, 「部分を消去または置き替える」であり, 機能の「部分」 たち (parts) が何であるかを決定することを扱う。要素たちを決定した後で初めて, われわれはつぎのステップ [すなわち, ステップ4] に進む。すなわち, 機能をを向上させ, 欠陥を除いて, 「極端にまで改良する」ステップである。まず最初に, 「部分を消去または置き替える」ことを考え, システム資源を最も理想的に使うことを考えよう。各「部分」 (プロダクト, 変更, 「効果」/ツール) を順番に考え, 「これを消去するか, あるいは, もっと理想的なもので置き替えることが望ましいか?」という質問をしていこう。

「部分を消去または置き替える」ステップに対するもう一つの名前は, 古典的TRIZでよく知られたツールである, 「究極の理想解 (Ideal Final Result)」であったかもしれない。「究極の理想解」はこのステップに含まれているが, その最もよく知られた形式で含まれているのではない。その理由は, 視覚化を助けるためにより小さな複数のステップに分割してあるからである。このステップに置いたのは, 物質-場分析の「発明標準解」のうちの, 機能部分の消去, 再定義, あるいは置き替えを扱っているものである。「究極の理想解」のコンセプトと組み合わすと, 解決プロセスのこの部分が非常に強力になる。これは, 要素の数を減らし, [残った] 要素により多くの機能を担わせることによって, システムの代償を大幅に減少させる好機になる。

解決への道筋は, われわれが考えている機能が, 「有用機能」か, 「有害機能」か, それとも「報知機能 (Informing Functions)」 (すなわち, 測定または検出の機能) かによって異なる。その理由は最初に焦点を当てるべきことが異なるからである。(バインダーの見出しは, これらの機能の型を区別していることに注意。) 「有用機能」に対しては, プロダクトの「変更」に初期の焦点を当てる。「有害機能」に対しては, ツールと「変更」とに初期の焦点を当てる。そして, 「報知機能」に対しては, ツールに初期の焦点を当てる。

3.1  ステップ3A: 有用機能 [についての「部分」の消去・置き替え]

上述のように, 「有用機能」に対する初期の焦点は, プロダクトの「変更 (modification)」 である。そのエッセンスは, 「われわれは, プロダクトに何が起こることを本当に望んでいるのか?」を問いかけることである。多くの問題解決者が, 無意識に前提している仮定に気がつかずに, このステップを跳び越してしまう。その結果, 最も強力な解決策のいくつかが無視される。最も望ましい成果 [が何か] を確立してはじめて, われわれはプロダクトへの「変更」をいかにして達成できるかを問題にすることができる。
 

3.1.1 理想のプロダクト [は何か?]

われわれが最初に自分に問いかけるべき質問は, 「どのプロダクトをわれわれは本当に「変更」したいのか?」 である。
 

(1) 伝達プロダクトでないもの[を扱う] (Non-Transmission Product)

ツールが現在作用しているのが「伝達要素 (transmission element)」 であるなら, 伝達要素を跳ばして, その伝達要素が作用しているプロダクトに直接に作用することを, われわれは考える。これは, 「伝達パスは短くなる」 および 「エネルギー変換の回数は減少する」という進化の法則に対応している。船の錨を例として考えてみよう。機能の言葉で言えば, 海底が錨を束縛する (あるいは保持する)。錨は鎖を束縛/保持し, そして, 鎖が船を保持する。錨および鎖が船への伝達パスであることを認識することにより, われわれは一つの決定をすることができる。われわれが束縛したいのは, 錨か? 鎖か? それとも直接に船であるか? これらの決定のそれぞれに, 異なる解決パスが始まる。

(2) プロダクトを存在しな[くする]

つぎに, われわれは, 「プロダクトが通常廃棄物とみなされるものか?」 と質問する。もしそうなら, それを消去できる方法をわれわれは考える。そのプロダクトが消去されてしまえば, ツールあるいは「変更」を行うシステムはもはや必要なくなる。これは問題を変えて, プロダクトの源あるいは経路を除く問題を扱うことである。例えば, もし, 落ち葉の源がなくなるか, あるいは, 落ち葉が芝生に届く経路がなくなれば, もはや落ち葉を集める必要がない。プロダクトの消去はしばしば, 「そのプロダクトが存在すべきであり, 同時に, 存在すべきでない」という直接的な矛盾に導く。

(3) プロダクトが「変更」を少ししか必要としない/全く必要としない [ようにする]

つぎに, われわれは, プロダクトが最初から「変更」を必要としないようにする方法を探す。プロダクトのまわりの何かがその「変更」を必要にさせていることがしばしばある。もしそのものを変えることができれば, その機能も要求されないかもしれない。例えば,魚の鱗は大抵消費する前に取り除かれる。もし鱗が稀で高価な食べ物とみなされるならば, それらを除去することは要求されない。いまや問題は, 鱗の模様や味を改良する問題になる。

(4) はじめから出来ている [ようにする]

そのつぎに, われわれは, もうすでに「変更」が組み込まれているので「変更」を必要としないようなプロダクトを考える。アルトシュラーが与えた例は, 金属の平板材料を加工して管を造るロール機において, 作られてくる管を, 高速で切断する問題である。ロール機が速くなればなるほど, 管の切断が困難になる。ここで, 質問をする: 「もし管がすでに切断されて出てくるとしたらどうだろう?」 そうすれば, 切断は必要ない。この方法はまた, しばしば一つの矛盾に導く。管は切断された状態で出てくる, しかし, 丸めるときには平板材料として入ってくるのだから, 管は切断された状態で出てきてはならない。(アルトシュラーの本では, 平板材料を予め部分的にだけ切断することにより, この矛盾は最終的に解決されている。最終的な切断は電磁石を急激に引っ張って起こす。)

(5) [その他の方法]

『ブレイクスルー思考法』のこの節で, その他に考えるべきことは, 「変更」を最小部分, 複数プロダクト, 少し違う複数プロダクト (Biased Products), および大きく違う複数プロダクトに対して及ぼすことである。
 

3.1.2  理想の「変更」 [は何か?]

この節では, われわれは「プロダクトに本当に施したい「変更」は何だろう?」と考える (これはまだプロダクトに「変更」が必要であると仮定している)。 有用な機能についての変更の要求を, 実質的に置き替え, あるいは再定義しようとしているのである。大雑把にいえば, 「もし, 指を鳴らせば願いがかなえられるのだとしたら, 自分はプロダクトにどんなことが起こってほしいのだろう?」と尋ねているのである。

(1) 主「変更」 [を明らかにする]

われわれの最初の課題は, 将来を見通して, 「プロダクトの窮極の終状態は何か?」と問うことである。例として, 「ファンが壊れ飛ぶ」状況を考えよう。高速回転しているファンの羽が軸から壊れ飛ぶ状況である。これは非常に有害な状況であり, ジェットやファンジェットエンジンで, 何かが飛んできてファンの羽にぶつかったときに, ときどき起こる。ふつう, 羽の周りに「収容リング (containment ring)」を設ける。羽が飛び散っても, 収容リングに当たり, エンジンの他の部分や乗客を保護する。さて, われわれは, 「壊れた羽に対して, われわれが本当に要求する「変更」とは何か?」と問う。われわれは壊れた羽の破片の飛ぶ向きを変えたいのだろうか? それとも本当には, それらのエネルギーを完全に吸収したいのだろうか?

このステップに時間をかけて, 「自分は本当に何が起こってほしいのか?」あるいは 「自分が指を鳴らせば, ... 何が起こればいいのか?」と問うことが大事である。

(2) 逆 [の「変更」を考える]

すべての「変更」は他の何かに相対的に行われる。例えば, 考えている機能は乗客を輸送することだとしよう。われわれは, 「何に関して?」と尋ねる。この場合には, 乗客は一つの店に対して (相対的に) 輸送されているとする。その逆とは, 店をその乗客に運んで来ることである。これは可能だろうか? 逆を考えることによって, より理想的なプロダクトや「変更」を発見するかもしれない。

(3) [その他の方法]

さらに追加のテストとして, 「その機能は過剰であるか?」を決めたり, 「その「変更」を施すのに必要な最小限の資源 (時間, 体積, およびエネルギー)」 について集中して考えたりするとよい。

3.1.3  理想の「ツール」/「効果」 [は何か?]

最後に, 「変更」を与えるには, ツールとそれに付随する「効果」および「場」が必要になる。ツールと「効果」とは一緒にして考える。なぜなら, われわれが考えたい資源は, すぐに手に入るもので, 特に, すでにそのシステムまたは上位システムの部分になっているオブジェクトがよく, そしてできるなら, すでにプロダクトと作用しているものがよいからである。

(1) セルフサービス [ひとりでに起こる「効果」を作る]

「セルフサービス」の定義: プロダクトをわずかに変化させることにより, プロダクトにすでに作用している既存の外部の「場」が, 必要な「変更」を与えることを可能にする。新しいツールや「場」がわざわざ導入されることはない。そうではなくて, 「場」はプロダクトのライフサイクルのどこかの時点で, 「変更」が実際に必要となる前に, 存在しているべきである。例として, 「ひとりでに切れるパイ」を考えよう。われわれは, 「パイを作っている間で, 食べられる前に, パイはどんな「場」を経験するか?」と問う。([『ブレイクスルー思考法』の] 10頁に「場」のリストがある。) パイのライフサイクルのうちで, パイが焼かれているときに, パイは熱の場を経験するだろうと気がつく。そこでわれわれは問う。「パイの皮にどんな「変更」をしたら, パイがこの熱の「場」を経験しているときに, パイの皮が分割されるだろうか?」

(2) 豊富な自然の「場」 [を利用する]

「セルフサービス」がプロダクトへのわずかの変化で豊富な自然の「場」を利用することを要求している場合に, その「豊富な自然の「場」」は, 上位システム中にすでに存在し, すでにプロダクトに作用しているかもしれない「場」に対して, わずかの変化を要求する。ここでもまた, 新しい「場」やツールを要求されることはない。『ブレイクスルー思考法』の10ページに「場」のリストがある。通常, これらの「場」の少数のものが環境中に存在し, 必要とされる「変更」 をほんのわずかな程度でもすでに提供しているであろう。もしそのような「場」が特定されれば, つぎの解決ステップでそれを増大できることがある。

[アルトシュラーの著書] 『Creativity as an Exact Science (厳密科学としての創造性)』[文献2] には, ラジオ波望遠鏡を雷から守るために使う避雷針の例が載せられている。問題は, 安全に電子を導くために金属の避雷針を建てると, その避雷針が宇宙からのラジオ波の信号を壊してしまうことである。この例が「窮極の理想解」の概念を例示するためにしばしば使われる。しかし, 不幸なことに, 多くの学生にとっては, これがあまりにも大きな概念的飛躍を必要とする。「豊富な自然の「場」」の利用は「窮極の理想解」へのより小さな一歩を提供する。

もしわれわれが [この問題について] いままでのステップを踏んできたとすると, 「「変更」を施されるべき理想的なプロダクトは雷の電子である」ことをわれわれはすでに認識していることであろう。そこで, 有用な「変更」は, [雷の] 電子群の軌跡を変える, すなわち, 導電することである。

そこでわれわれは, この「変更」を提供するツールを探そう。質問はこうである。「システムまたは上位システムの中に, 必要とされる「変更」を, 例え不十分であっても, すでに提供しているツールがあるか?」 答えは「はい, 空気がすでに電子を導いている, あまりよく制御されていないけれども。」このようにして, 新しい解決パスが創り出される。つぎのステップ [すなわち, ステップ4] でわれわれは, どのようにすればこの機能を改良して, 電子を導く軌跡をもっと制御できるかを, 見るだろう。

もしその「変更」をすでに提供しているツールがなかった場合には, われわれは, 豊富な自然の「場」を求めて, 周りの中から一つのツールを探すだろう。われわれは問うたはずだ。「どの豊富な自然の「場」が電子群の軌跡を変えられるか?」と。[『ブレイクスルー思考法』の] 10ページの「場」の一覧表をチェックして, 静電場または磁場が, 電子の軌跡を変化させる潜在的力を持っていることを知っただろう。「これらの「場」は豊富か?」 「 はい, 両方とも豊富だが, 自己生成し, よく制御されない」。言い換えると, 電子たち自身が, 電子の軌跡を変えて「変更」を提供するだろう。

この段階では, 電子の軌跡を変えるのに, 空気や電子をどのように使えるかについて, われわれは頭を掻いているかもしれない。われわれは解決策に向かって小さなステップたちを踏んでいるのだから, それも予期されていることである。解決策はこの時点では明らかでないかもしれない。しかし, 覚えておこう。つぎのステップの「極限にまで改良する」において, これらの機能をいかに改良してより完全な解決策に改良するかを, われわれは検討するだろう。

(3) 類比ツールたち [を使う]

その「変更」を施すための新しいツールを発見する, いくつかの手段を考える。これらは, 別の諸システムで, その「変更」がどのように既に提供されているのかを, 問題解決者に考えるように促す。4種のタイプの「類比ツール」を考える。すぐそばにある類比ツール, 類比ツール, メガトレンドの類比ツール, および自然の類比ツールである。類比ツールの概念を理解するためには, 「類比プロダクト」の概念をまず理解しなければならない。類比ツールは類比プロダクトを「変更」する。類比プロダクトは, 問題にしているプロダクトと同じ「変更」を必要とするものである。例えば, とげを除くことを考えよう。われわれは, 「とげと同じように, ずっと大きなオブジェクトに埋め込まれていて, 同じ「変更」 (すなわち除去) を必要とするものには, 他にどんなプロダクトがあるか?」と問いかける。釘や雑草などのプロダクトが思い浮かぶ。釘や雑草は, この (除去という) 「変更」の文脈では, われわれのとげと類比される。さて, これらの類比プロダクトに「変更」を提供するツールたちを考えよう。バールや金槌の先の (フォーク状の) 爪が大きな物体から釘を取り除く。フォーク状の掘る道具も同様に雑草を抜く。つぎに, われわれはツールまたはツールの一部を新しい状況に移行させる。最終的なツールは, とげを取り除く小さなフォーク状の爪 (mini-claw) である。

(4) 安価で豊富な物質, および隣接する要素たち[を使う]

安価で豊富な物質, および隣接する要素たちは, システムまたは上位システム中のオブジェクトを使って, その「変更」を提供する方法である。この方法をうまく使ったものは, 普通, 低レベルの「場」 (すなわち, 「場」の一覧表の上の方に書いてあるもの) を使っている。それらは, より豊富だが, 制御がより困難な「場」である。

(5) 「効果(Effect)」の一覧表 [を参照する]

「効果」の一覧表は, 「変更」を与えるための新しい「効果」を見つけるための優れた道具である。最初に, その「変更」を変換して, 一覧表中に与えられている諸「変更」とよくマッチする形にする。そして, 表中の示唆を探す。『ブレイクスルー思考法』には, この表が大きすぎるので掲載していない。最良の表は発明のためのソフトウェアの中に見出せる。

(6) 特許データベース [を検索する]

米国特許データベースはインターネットから使える。[特許の] データベース検索ツールがインターネットのサーチエンジンと同じ検索能力をもっていると期待してはいけない。効果的な検索技術を習得するには時間が掛かる。しかし, 特許データベースは「変更」を与える方法についての豊富な情報源であり, 今なお無料である。

(7) 現在のツール [を利用する]

他のものがすべて失敗したら, 現在のツールを使う。それは恥じるべきことではない。これもよくある解決パスである。

3.2  ステップ3B: 有害機能 [についての部分の消去・置き替え]

有害機能に対しては, 有用機能とは異なる焦点を当てる。機能の諸部分を除去し置き替えるには二つの方法がある。害を益に変えることと, 消去である。
 

3.2.1  害を益に変える

アメリカの諺に, 「天があなたにレモンを与えるなら, レモネードを作れ」というのがある。有害機能は有用機能と同様な構成要素を持っている。「ツール」があって, それが「プロダクト」に有害な「変更」を与える。害を益に変えるに当たって, ツールをその付随する「場」や「効果」と一緒にしたままで, 有害な「変更」を有用な「変更」に置き替える。

この新しい有用な「変更」の「プロダクト」は, 普通の場合, 当該有害機能の現在のプロダクトである。そのため, われわれはまず現プロダクトに対する有用機能として, 当該有害機能の逆機能 (anti-function) と有用な変種を考える。
 

(1) 逆機能 (anti-function) [を考える]

もし, 熱することが問題の有害な「変更」であるなら, その逆機能は冷やすことである。

(2) 有害機能の有用な変種 [を考える]

もし, ツールがプロダクトを磨耗させるなら, 「磨耗させる」という有害機能の有用な変種の一つは「形成する」である。

3.2.2  [特定した有用な「変更」を達成する]

有用な「変更」が特定できたなら, 以下の5種の方法のうちの一つを使って, その有用な「変更」を達成する。これら5種の中で, 「場」を逆転させることと, 調節可能にすることの二つが最も重要である。ほとんどすべての有害機能は, 「場」を逆転させるか, その有害機能を調節可能にすることによって有用機能にできる。
 

(1)  「場」または作用を逆転させる

逆機能を実現するもっとも簡単な方法は, 「場」または作用を逆転させることである。もし圧力がプロダクトを一つの方向に押しているなら, 圧力の「場」を逆転せよ。何かが押すのではなく引っ張るようにせよ。もし空気が汚れを入れているなら, 圧力の「場」を逆転して, 空気が汚れを押し出すようにせよ。

(2) 調節可能にする

有害な「変更」の有用な変種を実現する最も簡単な方法は, それを調節可能にすることであろう。上述のように, ほとんどすべての有害な「変更」は, それを調節可能にすることによって有用にすることができる。これには, 二つの構成要素間の相互作用の制御変数(たち) を特定し, それらの一つ以上を調節可能にする。

(3) 共働する

しばしば, 有害機能と同時に有用な「変更」が行われているものである。それらが平衡状態にないために, 有害機能が優越している。例えば, 磨耗とは, 実に, 物質を除去しかつ添加するプロセスである。除去される量が添加される量よりも多い。もしこの平衡状態の有用な成分を増加させることができれば, 有用機能を実現できる。

(4) 取り込む (Incorporate)

芸術家たちはこのテクニックをしばしば使って, その芸術作品の欠陥を隠している。その媒体が「消す」ことを許さない場合に特に有効である。一つのテクニックは, その欠陥を増幅して有用にすることである。例えば, プラスチックのパイプを刃で切断する。その過程で, パイプは一つの側で変形する。この欠陥はパイプの有用性を損なわないけれども, 見かけがよくない。この欠陥を増幅してパイプの端面全体に及ぼすと, 欠陥が改良されて, すてきな面取り [角を取ること] を作りだす。この面取りは, 組み立ての際にパイプをガイドするのに役立つだろう。

(5) 正確に実施する

有害な「変更」を有用にするための最後の方法は, それを正確に実行することである。多くの有害作用が有害になるのは, それがばらつくからだけである。するべきことは, そのタスクが有用であるようにするには, どこでいつそれを実行するべきかを特定することである。この方法は調節可能にすることのサブセットである。
 

3.2.3  消去する

有害機能を改良するための最も直接的なルートの一つが, ツールまたはプロダクトのどちらかを消去することである。[これをすると] 通常, 一つの矛盾が生じる。そのときには, つぎのステップ「極限にまで改良する」 [すなわち, ステップ4] を行わずに, 「対立を解消する」ステップ [すなわち, ステップ5]に直接進む。

 
(1) ツールを消去 [する]

これが最も普通に使われる有用な考え方である。ツールがプロダクトに害を与えているのだから, ツールがもはや存在しないと考えてみよ。この対立を解消するに際して, 一般的に二つのパスを辿る。矛盾を解決するか, あるいは, このツールが存在しない新しいシステムを考えるかである。このツールが実現していた有用機能はすべて, 何か他のもので実現しなければならない。

(2) プロダクトを消去 [する]

ときには, 有害な「変更」が及ぼされているプロダクトが, そもそもそのシステム中で不必要なもの, たとえば廃棄物, だということがある。プロダクトを除去する (すなわち, プロダクトの源かそのパスを除去する) ことを考えよ。

3.3  ステップ3C: 「報知機能」(Informing Functions) [についての部分の消去・置き替え]

報知機能は有用機能の一種であるが, この場合に最初に焦点をあてるべきものはツールであり, 検出を必要としているツールの変数である。

(1) 検出を必要とする理想の変数 [を決める]

検出が必要なのは, ツールのどの変数 (あるいは側面) であるか? 理想の「変更」の場合と同様に, この変数を理想的に決定するのに少し考える必要がある。はっきりさせるのに「長形式」が使える。

(2) 理想のツール [を考える]

[3.1.3節で述べた] 有用機能の場合に, われわれは理想のプロダクトを考えた。ここでは, 同じ処理過程を使って理想のツールを考える。例えば, 有用機能のときに, われわれは「変更」を必要としないプロダクトを考えた。ここでは, 検出や測定を必要としないツールを考える。このように, 有用機能についての場合とほぼ一対一の対応関係がある。

(3) 間接的変数 [を考える]

[検出・測定すべき] 変数を決めてから, その変数を間接的に検出または測定できる手段を考えることができる。

(4) 理想の「効果」 [を探す]

 「「効果 (Effect)」の一覧表」に検出と測定の特別なセクションがある。この表を探して, 必要な検出をするのに使える現象を決めるとよい。

(5) マーカーを利用 [する] 

特に考慮すべき一つの方法がマーカーの利用である。これには,プロダクトが検出できる物質のマーカーと「場」のマーカーの両方がある。

(6) 理想のプロダクト [を考える]

明示されていないが, ツールが作用を及ぼす対象としてのプロダクトが必要である。この時点で, より明確な有用機能を描くことができる。「報知機能」のより明確な図によって, つぎのステップ [すなわち, ステップ4] でこの機能を極限にまで改良する準備が整う。

4.  ステップ4:  極限にまで改良する

(この点を越えると, ツールと「変更」とプロダクトは保存されるものと仮定する。)

われわれが (いままでに) 機能要素を消去あるいは置換した場合には, 通常, 機能に関してなにか望ましくないことがある。例えば, 機能の実施にエネルギーや時間を使いすぎるなどである。

このステップでの焦点は, この一つの機能とその改良に集中することである。それを極限にまで改良し, 他の何かが悪化するかもしれないことは考慮しない。このような形の極端な思考によってこそ, 多数の有用な矛盾を形成できるのである。

われわれは, 有用で繰り返し使える形式の一つのダイアグラムを創り出そうとしている。その図には, 機能, 改良, 制御変数, および矛盾を含む。機能を極限にまで改良するには, つぎの3段階で実行する。
 

4.1  改良点 (従属変数) を特定 [する]

このステップでは, われわれが改良したい欠陥を持つ「従属変数」をまず決定することが要請される。ここの事例では, ばらばらの瓦礫を集めるためのレーキ [熊手のようなもの] の機能を考察している。われわれが使っているのは, 落ち葉用のレーキではなく, ガーデンレーキだから, その一掻きごとで, われわれが集めたいものを全部集めてくれるわけでない。レーキの爪をすり抜ける瓦礫の「漏れ」を改良したい。これをするにあたって, われわれは理想の結果をも考察する。この場合の「理想の結果」は, 永続する解決策を意味する。できることなら, 一掻きごとに, 瓦礫のすべてを集めたい。

4.2  制御変数 (独立変数) を特定する

つぎに, 改良を制御するのに使う独立変数たちを決定する。これを見つけるのにいくつかの方法がある。大部分の人々は直観的な推測から始める。もしわれわれが数式で表そうとするなら, 「漏れ」は何の関数になるだろうか? その式の変数の各々が, レーキの漏れを制御する変数の候補になるだろう。もしわれわれがモデルを開発する苦労にまで達したとすれば, これらのモデルの入力変数を使うことができる。定量的なデータがなくても, 経験や粗い実験から知っている諸変数をわれわれは考えることができる。機能ダイアグラムの上で, 漏れというのは, 与えられた諸方法によって特定したさまざまなものの機能として表現する。われわれは, 爪の間隔が狭ければ, 爪の間を通り抜ける瓦礫は少なくなるだろうと気がつく。また, 地面がより平らなら, それほどぴったりと [地面に] 追随する必要がなくなるであろう。

自分自身の知識を出し尽くした後に, われわれが見るのは, 『ブレイクスルー思考法』 のつぎの9ページに掲載している「制御変数の一覧表」である。個々の制御変数をより明確に特定するために, 各制御変数にはサブステップを示してある。

この一覧表の大部分が, 「発明標準解」から派生したものであることに注意したい。その理由は, 発明標準解の多くの部分が機能の制御を扱っているからである。機能要素の置換を扱っている発明標準解をわれわれはすでに使用し, 思考プロセスの前の方に移動させたので, 残っているのが, 機能を改良するのに使える制御変数たちである。実に, 機能を制御するための方法のほとんどすべてが発明標準解の中に見出せる。

発明標準解は, そのもともとの形式では, 矛盾をすでに除去した形の解決策を含んでいる。その顕著な例が, 内部, 外部, および環境からの付加物を付加する解決策である。これとは対照的に, 「制御変数の一覧表」では, 「特定の従属変数を改良するためには, ツールあるいはプロダクトの全体が必要な物質から作られていること」を仮定している。このことはさまざまな種類の問題を引き起こす。矛盾を除去することは遅らされており, その理由は, 発明標準解に含まれているよりも, 矛盾を解決するもっと多数の方法を創造することを意図したものである。

経験によれば, 「制御変数の一覧表」を使うと, 機能を制御するいくつかの予期しない方法を, 問題解決者が発見することができる。例えば, われわれが気付くのは, 瓦礫が不均等な形を持っているとすれば, より有利なように爪で配向すればより巧く集められること。瓦礫が少なければ, 漏れもそれだけ少ないこと。瓦礫の形やサイズがより好都合であれば, より巧く集められること。そして, もし瓦礫が軽ければ, 爪がその上を越えていく傾向がより小さくなること, である。

最後に, われわれは各変数を順番に考えて, つぎの質問をする。「この変数は何を基準にして測られるか?」  この「基準とする」変数を, いままでの諸変数に追加して, 変化させることを考えよ。これは「逆を行う」ことの一部である。もし地面が柔軟で容易に進入できる (すなわち, 柔らかい) ならば, 爪の柔軟性は必要ないであろう。もし爪が, 地面に合わせて瞬間的に不均等になるなら, 地面が平らである必要はないであろう。もし, 瓦礫に比べて爪が重ければ, 爪が瓦礫の上を越えていく傾向はより少なくなるだろう。

4.3  変数の値を極限にまでする

最後に, 機能の欠陥を改良するために, [制御] 変数の値を極限にまでもっていく。これをするときに, 何か他のものが悪化するかもしれないといったことは一切考慮しないでやる。このように焦点を絞ることは, 心理的な惰性を破るために必要なことである。

われわれが一つの制御変数を極限にまでもっていくと, 通常, 他の何かが悪化し, あるいは不可能であるように見える。そこで, この変数が新しい値を持つべきであり, そして同時にその値を持つべきでない, ことが分かる。極限の値が巧く働かないことの理由を気にしないで, 図にこの「逆の値 (anti-value)」 を入れ, このステップの自然な結果として, この矛盾を把握する。

まれには, 一つの変数をその極限にまでもっていっても, 他に何も困らないことがある。もしそのような場合には, 幸運だと思えばよい。

ときどき, そのような解決策がなぜうまく働かないのかが分からないことがある。しかし幸いにも, われわれの考えの欠陥を指摘する人たちはいつも周りにいる。「それはうまく働かないよ, なぜなら ...」 しばしば, 批判が矛盾を発見するよい方法である。

 

5.  ステップ5: 矛盾を解決する

5.1  [技術的矛盾と物理的矛盾の概念]

極限まで改良している間に, 多くの矛盾が生じるのが普通である。これらの矛盾の各々が解決のための新しい枝分かれやパスに対応する。クラシカルTRIZは3種類の矛盾を考える。管理的矛盾, 技術的矛盾, そして物理的矛盾である。

管理的矛盾は, 「問題があるが, 解決策が分からない」ことをいう。この形の矛盾はわれわれにほとんど何も知らしめないので, ここでは省略する。

技術的矛盾は, 「何かを改良すると, 他の何かが悪くなる」ことをいう。レーキの例では, 「爪は柔軟でかつ硬い必要がある」ということもあるいはできただろう。 機能ダイアグラムにはこの論理は与えられていない。実際に, 爪は [瓦礫を]  集めるためには柔軟である必要があり, 埋まっている瓦礫を地面から取り出すためには固い必要がある。結果として技術的矛盾は, 「集めることが改良されると, 取り出すことが悪化する」という形になる。(ここには, 爪の固さについての言及が含まれていない。)

物理的矛盾は, 「一つの制御変数の値が, ある一つの値か, 極端に異なる別の値かでなければならない」 というものである。この別の値を「逆の値 (anti-value)」とか「逆の性質 (anti-property)」とかと言い, 普通は逆の値やゼロ値である。レーキの例で, われわれはいくつかの物理的矛盾を作り出した。例えば, 爪は硬くかつ柔軟でなければならない。

本稿では, 技術的矛盾を明確に表現せず, 物理的矛盾の方を取り上げる。その理由はつぎのようである。

(a) 一つの制御変数を極限にまで持っていくときに, 悪化するものを少なくとも一つ知るだけで通常十分である。

(b) 技術的矛盾は物理的矛盾から生じるのであり, その逆ではない。言い換えると, (いくつかの教科書が言っているような) 「技術的矛盾の層を剥がしていくことによって, 物理的矛盾が発見される」ということはない。レーキの例において, われわれはまず爪の硬さという制御変数を極限にまで持っていき, それから, 何が悪化しただろうかと見回した, ことに注意されたい。(興味深いことに, 技術的矛盾を創り出すためのアルゴリズムのいくつかは, 知らない間に物理的矛盾をまず作り, それから技術的矛盾を演繹している。)

(c) 大抵のアルゴリズムが「正しい一つの」技術的矛盾を作り出そうと努力している。[ところが] 実際には, いくつかの物理的矛盾に対して, 複数の技術的矛盾を形成できる。言い換えると, 「一つのオブジェクトが熱くかつ同時に冷たくはあり得ない」ための理由は複数あり得る。物理的矛盾を容易に複数作り出せることをわれわれは示したのだから, その結果として生まれる多数の技術的矛盾 [を使うこと] は解決プロセスの複雑さを増大させる。

(d) 技術的矛盾を創り出すことは, 問題解決者が解決策を直接的に視覚化する能力を向上させるものでない。物理的矛盾を形成すると問題が一層困難になるように見えるけれども, 解決策を視覚化する能力が強化されているために, 問題解決者は解決策にずっと近づいているのである。もし一つのオブジェクトが柔軟でかつ同時に硬い必要があるなら, 「矛盾の一覧表」が解決策の視覚化した可能性にわれわれを直接に導いてくれる。例えば, 一つのオブジェクトが鋭くかつ鈍くあるためには, 一覧表が示唆するものを応用することによって, 視覚的なイメージを直接に創造することができる。

(e) 「矛盾の一覧表」が解決策の可能性を非常に豊富にもっているので, 「矛盾マトリックス」は不必要である。「桟橋を支持するための杭打ち」という良く知られた例によって, このことを明らかにできる。海底に杭を打つために, 杭打ち機が使われる。海底が高密度で岩のようなときには, 杭を打ち込むことが難しくなる。この問題を記述する関数をつぎに示す。改良は進入しやすくすることである。

この関数を極限にもっていく一つの方法は, 杭を鋭くすることである。不幸なことに, 杭の上に重い構造体を置くと, 鋭い杭は沈み続ける。物理的矛盾は, 杭が鋭くかつ鈍くなければならないことである。『ブレイクスルー思考法』の「矛盾の一覧表」をざっと見て, この問題に対する解決策がいくつ例として挙げてあるかに注意してほしい。[21例が図示されている。]
 
 

5.2  物理的矛盾を解決する

物理的矛盾を解決するための第一歩は, さまざまな方法をより高いレベルで考えることである。4種の考察を示したが, そのとき他の何かが悪化する。

 
(1) コストの罰を減少させる

ある改良をしなければならないが, コストがずっと悪くなるという矛盾がしばしば現われる。この場合には, 新しい高価なオブジェクトのどれでもが, 付加的な機能を引き受けねばならない。この好例は, 最近作られたソーラーパネルで, 屋根瓦としても使えるものである。新しく家を建てるときや, 既存の家で屋根瓦の張り替えが必要な場合には, これらの別々のシステムのコストの不利を共有でき, 組み合わせたもののコストを劇的に減少できる。

(2) 新しい不都合な機能を直す

「矛盾の一覧表」に解決策が見つからないなら, 悪化する機能を特定し, 解決プロセスを「機能要素を消去・置換する」段階[ステップ3] からもう一度始めるとよい。

(3) 新しい機能を導入 [する]

ときには, 悪化するものというのが, 制御変数を極限にまで持っていかなければならないことが分かっているのに, どのようにしたらそれができるかが分からないという場合である。このときには新しい機能の導入が必要である。機能は分かっているのだから, 有用機能に対する「機能の消去と置換」の段階 [3.1節] に戻る必要がある。そこでは理想の変更を考え, その新しい変更を実現するための理想のツールを考える。

(4) 矛盾の一覧表 [を使う]

矛盾の一覧表 (物理的矛盾) が矛盾を解決するための最も普通の方法である。この矛盾では, 制御変数が一つの値 (+) を持つと同時に, 反対の値 (-) を持たねばならない。矛盾の一覧表には, 解決策のステップと共に, プラスとマイナスを含んだダイアグラムと事例とが書いてある。例えば,

この図を使うには, +と−の代わりに,ある値とその反対の値を挿入する。例えば, 制御変数が柔軟でかつ硬い必要があるのなら, このダイアグラムを下図のように修正する。

矛盾を解決する方法は多数ある。通常, それらの複数の方法がうまくいく。一つ一つの方法に時間を掛けて考えるとよい。ステップを踏んでやってみて, うまくいく方法を考えよ。一覧表の解決法の少なくとも一つで矛盾が解決できないということは稀である。前述したように, さまざまの解決策生成法を例示するのに, 「杭打ちの問題」を多くの所で使っている。
 
 

5.3  [分離原理を拡張して利用する]

古典的TRIZでは, 物理的矛盾を解決する主要なツールは, 空間での分離, 時間での分離, そしてスケールでの分離 (部分と全体が反対の性質を持つ) であった。矛盾の一覧表の大部分は, これらの3種の分離原理と, 技術的矛盾を解決するのに使った40の発明原理とから導いた。また, いくつかのツールを発明標準解から作りだした。

[分離原理に] 以下の4つのカテゴリを追加した。
 

(1) 時間におけるスケールでの分離 [を利用する]

時間を掛けて要素を加えているうちに, 徐々に矛盾が解決していく。少なくとも二つの要素が必要である。

(2) 向きまたは面による分離 [を利用する]

ここでは一つのオブジェクトが同じ空間と時間を占め, 矛盾した両方の性質を示すことが認識される。例えば, 一枚のガラス平板は, ある方向に力を加えたときには硬いが, 別の方向からの力に対しては非常に柔軟である。ガラス板が全体として, 同じ時間と空間において, 柔軟であると同時に硬い。

(3) 測定基準の相対性 [を利用する]

この解決法でも, 一つのオブジェクトが同じ空間と時間において矛盾した性質の両方を持っている。ある液体に浮いている一つのオブジェクトは, 浮かせている液体の密度と比べて, 重いとか軽いとか言える。

(4) 場への依存性 [を利用する]

適用する場に依存して, 一つのオブジェクトが同時に矛盾した性質の両方を持つことができる。


 

6.  ステップ6:  拡張し併合する

解決プロセスにおいていままでの段階では, 一度に一つの機能に焦点を当ててきた。つぎにわれわれは, より多くの機能を含むように, あるいは複数要素を併合するように, 解決策を拡張することを考える。物質-場分析, 初期のARIZ, およびシステム進化の理論から, この諸方法を引き出した。
 

6.1  解決策を拡張する

この時点になると, 主要な欠点はすでに克服できた。いまやわれわれは, 他のプロダクトも含むように解決策を拡張する諸方法, あるいは同一のプロダクトにさまざまな機能を施せるようにツールたちを併合する諸方法を探そう。そのための最も重要な解法群をここに詳しく述べる。
 

(1) 解決策を組み合わせる

一番重要な考え方は, ここまでの最良の解決策たちのいくつかを組み合わせることである。一つ一つ解決策の相対的な力は分かっていないことが多い。それらをひとつずつテストする代わりに, 解決策を実験計画法 (DOE) のやり方で組み合わせることができる。それぞれの実験から, なんらかのメカニズムをわれわれはこの段階で学びとろうとする。

(2)  異なるツールを併合する, あるいは, 異なるツールを相互作用させる

同じプロダクトに作用している複数のツールたちを見よ。それらを併合できないだろうか? あるいは, 互いに相互作用させられないだろうか? ここに, ウォールアンカーとドリルの例を取り上げよう。絵を掛けるときに, 壁にドリルで穴をあけ, それからアンカーネジを入れる。ドリルもネジも壁に作用している。壁はまた, ネジに作用している。ドリルとネジを併合すれば, 操作をずっと速くし, ずっと簡単にできる。

(3) 反対のツールを併合する

反対の, あるいは逆の, 「変更」を特定する。反対の「変更」を実施するようなツールが存在するだろうか? ツールとその反対ツールとを組合せよ。もし, 反対ツールが存在しないのなら, それを創り出す可能性を考え, その上で「変更」の作用をするツールとの組合せを考えよ。その例は, 普通の金槌であり, 釘を打つことと, その反対に釘を抜くことの両方ができる。

6.2  解決策を併合する (consolidate)

この時点まででは, 大部分の解決策がまだ十分にコンパクトで能率的になっていない。似た機能を行う複数要素を併合すると, 要素の数が少なくなる。
 

(1) プロダクトとツールの複数要素たちを併合する

もしツールまたはプロダクトの一部分を複数の要素の間で共有できるなら, それらの要素を併合せよ。これが特に当てはまるのは, 解決策にツールやプロダクトの要素が複数ある場合である。例に上げたのは, ハンマーとピッケルを組み合わせたものである。2本の柄は大きくて扱いにくく, 非効率である。そこで, 柄を併合した。

(2) 要素をたたみ込む

二つの要素を互いに他にたたみ込むと, システムがよりコンパクトになる。ときには, 予期しなかったような効用が発現するだろう。

(3) スーパーシステムと合わせて併合する

最も重要な考察の一つはスーパーシステムと併合することである。スーパーシステムが, 重複して機能を果たす複数の要素をもっていることがしばしばある。[例えば] 大抵の冷蔵庫にとって, 家はスーパーシステムの一部である。家のどんな要素たちが冷蔵庫の中の要素と重複しているだろうか? 構造材と断熱材が重複している。冷蔵庫を家と併合すれば, 家の構造材や断熱材を活用できる。


 

7.  [考察:]  解決策の枝分かれ

[以上に説明した] 一連の直列化手法群における意思決定の各点は, 論理的で自然な順序に従っている。各ステップの出力はつぎのステップに進むために必要である。そのような出力は仮定されることもあるし, 積極的に創り出されることもある。例えば, 一人の問題解決者がいて, 他にはまだなにも考えてないが, 一つの明白な矛盾を解決することを開始したいと思っているとしよう。すると, その人がもうすでに仮定しているものがある。すなわち, ある一つのクリティカルな機能とその付属のもの (すなわち, プロダクト, 「変更」, 「効果」, およびツール) , そして (一つの極端な性質を持った) ある制御変数である。

つぎの図は, 意思決定の各点での問題解決パスの分岐の様子を, 有用機能に対する場合について示している。(有害機能や報知機能の場合には, 枝分かれの状況は少し異なる)。各ステップは複数の意思決定を許し, 各決定が新しい解決パスを形成する。

解決策の分岐のようす









上の図に示すように, 数十の実際的な解決策が可能であり, 事実, 実践において普通に起こる。これらの解決策は, その理想性およびビジネスと顧客のニーズの観点から評価されねばならない。
 

8.  結論

TRIZの一層の発展と成長のためには, 諸方法の分離と再グループ化が必要なことを, 読者の皆さんが認識されたことと思う。TRIZの諸方法を直列に並べたことにより, 枝分かれした解決パスが導かれることを示した。各ステップの出力を積極的に探しあるいは前提することが, つぎのステップに進むために必要である。

 

参考文献

[0]  "Breakthrough Thinking:  A Linear Sequencing of TRIZ Tools", Larry K. Ball, TRIZ Journal, Mar. 2002

[1]  The Innovation Algorithm, Genrich Altshuller, Technical Innovation Center, Inc. 1999。
      [邦訳 (ロシア語原書のより早い版に基づくもの):  『超発明術TRIZシリーズ1, 入門編「原理と概念に見る全体像」
    G.アルトシューラー著,  遠藤敬一・高田孝夫訳, 日経BP社, 97.11.28。]

[2]  Creativity as an Exact Science, G. Altshuller, Gordon and Breach, 1985.

[3]  40 Principles: TRIZ Keys to Technical Innovation, G. S. Altshuller, Translated by Lev Shulyak, Technical Innovation Center, 1997。
       [邦訳 (英訳に日本の事例を追加したもの) : 超発明術TRIZシリーズ3, 「図解 40の発明原理」
         G. Altshuller原著, L.Shulyak編著, 日経BP社訳, 日経BP社, 1999年1月, 160。]

[4]  Systematic Innovation, John Terninko, Alla Zusman, Boris Zlotin, St. Lucie Press, 1998

[5]  And Suddently the Inventor Appeared, G. Altshuller, Technical Innovation Center, 1994。
        [邦訳:  超発明術TRIZシリーズ2, 導入編「やさしい事例に見る活用法」』
     G. Altshuller 著, 三菱総研IMプロジェクト推進室訳, 日経BP社, 97.10.27刊, 177 頁。]

[6]  TRIZ: The Right Solution at the Right Time, Yuri Salamatov, 1999。
       [邦訳: 超"発明術TRIZシリーズ5: 思想編「創造的問題解決の極意」
        中川徹監訳, 三菱総合研究所知識創造研究チーム訳, 日経BP社刊, 2000年11月17日発行。313ページ]

[7]  The Science of Innovation, Victor R. Fey, Eugene I. Rivin, TRIZ Group, 1997。
        [邦訳:   『実際の設計選書, 「TRIZ入門」思考の法則性を使ったモノづくりの考え方』,第2部,
         畑村洋太郎, 実際の設計研究会編著, 日刊工業新聞社刊, 1997年12月。]

[8]  Invention Machine Software (DOS Version to 1998 Tech Optimizer
 
 
本ページの先頭 0. はじめに 1. 高い目標を立てる 2. クリティカルな機能を特定する (原因と結果)  3. 「部分」を消去/置き替え 3.1 有用機能の場合 3.2 有害機能の場合 3.3 報知機能の場合
4. 極限にまで改良する 5. 矛盾を解決する 6.拡張し併合する 7. 考察と結論 参考文献 英文ページ (編集ノート, 著者メッセージ)  『ブレイクスルー思考法』本体 (英文) 

 
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最終更新日 : 2003. 3. 5.   連絡先: 中川 徹  nakagawa@utc.osaka-gu.ac.jp